Can't Tell me why
 
 
訳もなく悲しいとか
訳もなく涙が出るとか
よく聴くフレーズで
ばかばかしいと思うようなことでも
自分でもそんな気持ちになることは、今までに何度か

後で思い返すと必ずそれには理由があったように思う。
とりあえずおまえに会いたいというそんな些細な理由でも。

理由無き衝動の根元。
時間的発動の条件

でも理由が分かるなんていつも後のことで、とりあえずどうしようもなく
こみ上げる感情とも焦燥とも呼べないものの措置に困るそのときの救いは
何故か決まって彼だった。
 

…なんでかな?会いに行かなきゃって…
 

不思議なことに彼は私のそんな気配をどこか本能的に察知して
理由もなく私のそばに寄ってくる。
理由無き私の哀惜のために。
 

…カミューのところに行かなきゃいけないきがしたんだ…

押しつけでなく、子犬が主を見つけてとりあえず駆けつけるように。
そういって子供のように、本当に中身は子供としか呼べないけどそんな風に決まって彼は笑う。
私の抱えている自分でも判然としない焦燥など何一つ理解しないで笑う。
こんな苦しいもの、切ないのも、本当は理解なんかしないで欲しいと願う自分の感情のまま
彼は何も気づかずに。
 

たぶんそれは一つの救い。
 

理由無き行動の目的。
時間的制約の効果
 

見えるべきものが見えない夜に、
胸にためるため息すら見つけられない夜に。
理由なんてない方がいいと思えばきっとどこを探しても無い。

むしろそれは一つの願い。

見えないまま、空っぽの瞳で泣かないで…。 
 
 
 

あんまりきれいな月だったので、バルコニーに出てみたら、庭にたたずむ彼を見つけた。
空が銀の光を投げかける夜にしては明るい夜にくっきりとマイクロトフは
私の部屋の真下でぼんやりと空を仰いで
そして泣いていた。

「涙が出るんだ」
あわててそばに走ってきた自分にそうマイクロトフは言った。
「何でだかわからないんだ」
そうも言った。
「止まらないんだ」
そういってまた涙をこぼす。
「何かあった?」
「何も」
たぶん何も
理由はあるかもしれないけれども胸の奥、星のように瞬くそれは
明るい月の照り返しの中では何一つ見えず。
見えないことがなおのこと切なく。
「何も」
そういって彼はもう一度頭を振る。
 

「だからカミューに会いに行かなくちゃと思ったんだ」
「なんで?」
だからでくくられるようなものではない、不思議な言葉。
「何で泣くのか分からないで混乱しているんだ」
カミューはいつも俺が混乱して訳が分からなくなっているとき
ちゃんと分かっていてくれるじゃないか。
説明してくれたりするんじゃないか。
俺より俺のことが分かっているようなきがするから。
だから…
そんな風にいわれて、ああそうかと思うと同時にちょっと困る。
確かに私はおまえよりおまえが分かるときはあるけれど、
それはおまえがわかりやすいときで、こんなおまえは初めてだから
私にも何がなんだか分からない。
 

「悲しいの?」
「悲しくないと思う」
「苦しい?」
ゆっくりっと頭が左右に振られる。

でも苦しいよね、たぶん。
痛そうで、つらそうで。
何もなさそうで。ひどく空虚。
自分にも覚えのある理由の分からない
まるで降り積もって忘れられた記憶からひょんなことで現れる過去の遺骸のようなもの。
痛まないで。
そんなこと理解しないで忘れて。
おまえだけはそんな何も表情のない顔で、空っぽの瞳で泣かないで…。 
 

これは一つの切望。
 

両手を頬に当ててゆっくり顔をこちらに向かせると
今夜の月よりもなお澄んだ瞳が目の前で何度も瞬きする。

「いやな夢でも見た?」
「いや」
「何か難しいことでも考えて眠れなくなってたとか?」
「さっき起きたんだ。そうしたら窓からやたら明るい月が見えて」
「月がきれいだから?」
「たぶん」
あんまりきれいな月だったので
理由もなくもの悲しいなんて
あまりにも考えられなくて私も本格的に困ってしまう。
「困ったな」
思わずそう正直に口にすると
「困る?」
「困るよわからないもの」
「カミューにも分からないことがあるんだな」
マイクロトフはそういって涙目に少しだけ笑う。

「カミューにも分からないんだな」
「わるかったね。分かっているだろうけど、私だって何でも分かる訳じゃないよ?」
「うん、カミューが分からなければそれでいい」
「分からないでいいの?」

「ただ俺一人だと本当に訳分からないから」
私も訳が分からないよ?

「でもカミューが分からないと言うなら分からないままでいいんだ、きっと」
答えを探しに来たんでしょう?それなのに呪文のように不思議な答え。

何も理解しないおまえが私の救いであるように
その逆は可能か否か

そんな都合の良い考え。
それでもそれは涙を止める力にはなれずに。
 
 

「ごめんね」
力になって上げられなくって。
明るいのに何も見えないそんな夜で。
いっそ何も見えないほど暗ければ、分からないことも気にしないでいられるのに。
おまえがそういう泣き方をするなんて夢にも思わなかったんだよ。

ぽつんとある一つの絶望のように。

「ごめんね」
意味のない謝罪の言葉にやっぱりマイクロトフは首を横に振る。
「俺はきっとカミューに会いに来ただけなんだ」
「そう」
繰り返される言葉。
不謹慎にも胸を震わせる言葉。

「だだ、会いに行かなくちゃ、カミューに会わなきゃいけないと思ったんだ」
子供のような言いぐさを繰り返す彼をなだめるように肩に腕を回して、あ、なんか泣きそうだと思った。
鼻の奥がつんとする泣くとき特有の痛みを感じながら
彼がこのために本当は来たのならいいのにと思う。
それをごまかすように、背中に腕を回して頭を胸に引き寄せる。
 

「こうしていると少しは落ち着く?」
心臓の音も聞こえるように自分の顔が見られないように抱きしめて。
「ああ、うん、落ち着く」
 

抗わないのをいいことにそのままぐっと抱きしめると、また子猫のような鳴き声で、かみゅーと小さく呼ぶので自分は目から水がこぼれないようにするのにほんの少しだけ苦労した。

「だから会いにいかなくっちゃって…;」
自分が泣きそうなときに何度も聞いた呪文の言葉。
泣いているのは彼なのに、自分のような不思議な錯覚。
ああ、本当は今彼がここに来たのはこれが理由ならいいのに。
 
 
 

自分が泣きそうだからだといいのにな。

時間軸にあいもしないことを埒もなく考える。
 

理由無き君の行動…
そういえばおまえは何で私の所に来るの?

原因無き涙の理由
理由無き行動の目的

いつも後から考える理由はこじつけみたいなものだったっけ。
 

本当の答えなんてどこにもないね。
 

それでも

本当に彼がそのためにここに来たのならいいのに。
本当は彼が泣くようなことなど何一つなければいいのに。
ただ泣きそうな私のためだけにここに来たのならいいのに。
私のために、私だけのために、今ここに。
 

だって今訳もなく泣きそう…

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

寒い?


 
 


『ふかふかHOUSE』のさらまんだー様から頂きました。
いえいつ頂いたかなんて…もごもご。
確か一周年…(とりあえず埋めておきたい事実)

うふふ〜きれいでしょ〜。しっとりとした夜の二人。
マイクロトフを抱きしめるカミュー様が綺麗でかっこいいですわ〜。
そして夜の雰囲気が…綺麗です。
本当にありがとうございました〜vvv

文つけですがえらく難産でした。マイクロトフが泣いてくれなかったので。

おかげでえらい不明文。もうしわけありません>さらまんだー様
 
 

(2002.8.23 リオりー)