言葉の代わり
 

「疲れた・・・」
 本拠地にあてがわれた部屋に戻るなり、倒れ込むように俺はソファに身を沈める。 戦力強化のために経験の浅い者を強い者と組ませて戦わせようと提案されたのが先日。 それ以来、たびたび戦闘に召集されては誰かを庇いつつ戦う事になった。
 強いと認められるのは悪い気はしない、だがこう何度もお呼びが掛かってはさすがに身体が悲鳴を上げる。 自分以外を護りつつ戦うというのは結構難しいものなのだ。

 そういう訳で、やっと部屋に辿り付いた時には指一本を動かすのもおっくうであった。 しかし鎧を着たままソファで眠るわけにもいかない。 しょうがないと疲れた体をどうにか動かし、鎧を留めるベルトを一つ一つ外していく。
 かしゃん、かしゃん・・・重い音を立てて床に鎧のパーツが転がる。 普段なら錆びないようにすぐ手入れをするのだが、眠気の限界はもうそこまで来ていた。 目が覚めたら手入れをするからと無理に自分を納得させ、疲労した身体にのしかかっていた鎧という名の重りを総て外した。
 

 ぐったりとソファに寝転がると、今度は自分の纏うセーターがどうも気になった。 散々身体を動かしているので汗が染みこんでいるだろうし、何より着たまま寝るとひじょうに暑そうでもある。
 わざわざ戸棚まで着替えを取りに行くのも面倒で、どうしようかと思案しているとすぐ側の椅子にかけてあったシャツが目に入った。 深い緑色をしたそれはパーシヴァルの物であろう。 シャツ1枚で文句を言う奴でもないと考え、自分より幾分大きめなそれに袖を通した。
 ・・・細いようで意外とがっしりとした体をしているんだよな、あいつは。 持ち主を思い出しながら羽織ったシャツを指でつまむ。 思わずしがみついた身体はとても熱くて・・・って、俺は何を考えているんだ!
 あまり思い出したくない場面が頭を過ぎり、頬が紅潮していくのを感じる。 勢いよく頭を左右に振ってそれらをムリヤリに頭の隅に押しやった。

 よし、今度こそ寝る。 気を取り直してもう一度横になろうとした矢先、今度は側に置いていた愛剣の事を思い出した。 これも手入れをしないと切れ味が悪くなる・・・だが、もうそんな気力は残ってなどいない。
 理性と本能が壮絶な戦いを始めたそんな時、いつの間にか部屋に戻って来たパーシヴァルが後ろから声をかける。
「眉間にシワを寄せながら剣を見つめて、何をしてるんだ?」
 興味深そうにソファの後ろからパーシヴァルが俺を覗き込むと、ふわりとそこから石鹸の香りが漂ってきた。 風呂にでも行っていたのか、鎧を外した姿はとてもリラックスしているように感じる。
 なんとなく恨めしく思いつつ、俺はパーシヴァルに愚痴をこぼした。
「剣の手入れをしなければならないんだが・・・もう疲れて指が動かない」
 剣を軽く上げてみせながら、俺は大きく息を吐いた。 そんな俺に奴は軽く笑い、「お疲れ」と肩をぽんぽんと叩く。
 

 いい加減眠いので、さっさと手入れして寝よう・・・そう考え必要な道具を取ろうと立ち上がりかけると、それを押し留めてパーシヴァルが意外な事を言った。
「俺がやっておいてやるよ」
「・・・何を企んでいる」
「ひどいな。 俺だって疲れきっているお前に手を出しはしないさ」
 苦笑を浮かべるパーシヴァルの手が、いい子いい子というように俺の頭を撫でる。
「もう眠りたいんだろう? ならば、せめてベッドで眠らないと疲れは取れないぞ」
 ほらっと言って、パーシヴァルが手をこちらに差し出す。 意味が分からずそれを見つめていると、再び奴が苦笑した。
「剣」
 どうやら本当に手入れをしてくれるらしい。 視線をパーシヴァルの顔を転じると、優しげな微笑みが返って来た。

 代わりに剣の手入れをしてくれるのは大変ありがたくはあったが、何やら妙にくすぐったい。 それに生来の意地っ張りな気質が、パーシヴァルに借りを作るのもどうかと問い掛ける。
 しばし悩んで・・・俺は1つの考えが浮かぶと、すぐにそれを実行に移すべくふいをついて奴の顔に自分の顔を近づけた。
「ボルス?」
 名を呼ぶパーシヴァルを無視して、軽く触れるだけのキスを唇に落とす。 すぐさま顔を離して瞼を上げると、めったに見られない、目を丸くして驚いている様子のパーシヴァルがそこにいた。 俺は何か言われる前に奴に剣を押し付けると、立ち上がりさっさとベッドに向かう。
 そうしてシーツの中に潜り込んで、パーシヴァルに顔を見られないようにしてから言った。
「手数料。 ・・・これで貸し借りはなしだからな」
 素直に礼を言うのは悔しかったので、代わりに奴が喜びそうな事をしただけだ。 気恥ずかしさにやや後悔している俺の背中に、くっくと楽しそうに笑う声がかかる。
「了解、代金分はしっかりと働かせて貰いますよ」

 『だからゆっくりとおやすみ』
 小さいけれど、確かに俺の耳に届くぐらいの声で、そう言葉は続いた。
 ・・・言われなくてもそうするさ。 気付かれないように俺も小さく笑い、そのままゆっくりと眠りに身を委ねた。
 

 

                                                        

静 風華様のサイト『夢幻草子』でいきなりキリ番踏み抜いて頂いてしまいました。
『甘めボルスにびっくりさせられるパーシヴァル』でした(ボルススキーらしいリクだよな(爆))。
控えめにリク出した次の日このSSを頂いてしまいました。は…早い。
かわいいです。甘いです。ぶかい上着姿のボルスが萌です。
そんでパーシィちゃん優しいです。嬉しいです〜\(≧▽≦)/

キス一つでびっくりするパーシィちゃんの普段の苦労が忍ばれる
感じもします(笑)。がんばれパーシィちゃん(笑)

このSSは風華様のサイトではゲームクリアのご褒美になっていますので
ぜひそちらでゲームにチャレンジしてボルスを脱がして下さい(笑)
風華様、可愛らしい二人をどうもありがとうございました〜\(≧▽≦)/

(2002.11.13 ほむら)

                                                       

 1000HITを踏まれた ほむら様のリクエスト、「パーボルで甘くてボルスにびっくりさせれられるパーシィちゃん」でございます♪
記念に作ったブロック崩しと繋げてみましたが・・・・・・甘い? ほんのり塩味コンソメ風味のような?(謎)
 返品苦情OKですので、気に入らなければ石投げてやって下さいませ(^_^;)