「天然だったんだな…」
パーシヴァルが意外そうにそんなことを口する。
それは雨に濡れたボルスをみてちょっと感じたこと。
ボルスがぽかんと頭の上に疑問符を乗っけたような顔をしてこちらを見返してはじめて自分の言った言葉に主語がなかったことに気付いてあわててパーシヴァルは言葉
を付け足す。
「あ、髪のこと…髪の毛。性格のことじゃないぞ」
「……一言よけいだ…」
ボルスはぶすっとしながらも、言われてはじめて自分の髪がウエーブを失くしてぺったりと張り付いているのに気付いたように、うっとおしげに後ろに掻き上げる。
「天然だと意外か?」
「そういうわけじゃないがな…ちょっとイメージが…」
「イメージ?なにか?俺が毎晩くるくると髪を巻いている図のほうがしっくりくるか?」
指先でくるりと髪を巻く真似をしてみせるボルスにパーシヴァルは吹き出した。
「そういうんじゃないけどな」
召使いが毎朝寝ぼけたボルスの髪を一生懸命巻いている図というのは想像が出来る。
といったらボルスはきっと怒り出すだろうからパーシヴァルはそれは想像の中で笑うだけにした。
そんなことはないことは、もう長いつきあい分かっていることなのだが、それでもそのおぼちゃまのイメージは綺麗にウエーブされた髪にもよるところがあるようではある。
「きれいだな…」
額に張り付く金の流れは、普段見るふわふわした光のイメージとは違い
艶やかな絹糸かのようで、パーシヴァルは誘惑に逆らわずそれを指に絡める。
「…べつに…」
「あ、顔のことじゃないぞ、髪のことだからな」
「……」
またもよけいな一言。わざとだろうか?
ボルスは憮然と首をひねる。
たしかにボルスは顔についてはかわいいだの綺麗だのと言われるたびに相手をどつき倒してきたが…。
「…お前の方こそ不気味じゃないか」
今度はボルスから…。
手をのばして、ぱさっとパーシヴァルの前髪に触れる。
「?」
「雨に濡れてもちっとも崩れない…」
少しパーシヴァルを上目づかいで、かわいくボルスは笑ってみせると
「あ、髪型のことだぞ?性格のことじゃないからな?」
この言葉に流石にパーシヴァルは見事に固まった。
…先ほどの意趣返しには違いないだろうが…。
しかしこの言葉の意味するところは…
「つまりおまえ普段から俺の性格を不気味だと思っていたわけか…」
つまり、パーシヴァルはボルスのことを天然だとか普段思っていたのか…。
「今は髪の毛の話だろう?」
しかしボルスはさらりとそういって、してやったりという風情で笑い返した。
〜終
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