○● 読書感想記 ●○
2009年 【7】

※ 書影画像のリンク先は【bk1】です ※

TALK TOPへ

 


3
『たましくる イタコ千歳のあやかし事件帖』 堀川アサコ 著

 姉が無理心中をして、残された姪を父方の実家へ預けるために青森へと旅立つ主人公。
 けして望まれているわけではない姪の境遇に感じるところが無いわけでも無いけれど、自分の身の振り方すら定まらないままでは決断も出来なくて。
 そうこうしているうちに思いがけず起こった事件に巻き込まれ、そこから姉の無理心中の真相や青森の旧家にまつわる怪事件へと深く関わっていく、本格寄りの推理ミステリ。


 やー、予想外でした。
 表紙から受けたイメージとは反対に、かなり本格推理ミステリで。
 むしろこの表紙デザインは失敗していると言わざるを得ないほど!

 もっとも、この表紙であったからこそわたしは手にしたわけで、一概に切り捨てるのも無体か……。
 でも、キャラクター主体のラノベスタイルミステリだと思われたら、著者にも読者にも不幸な気がするんですけど……もにょもにょ。


 とはいえキャラ立ちしていないという言い方も間違いなのですよね。
 東京から青森へやって来た主人公は、もと遊郭に身を置いていて男性観・恋愛観に偏狭なものをもっているにも関わらず、しかし男性からのアプローチがここにきて耐えないカンジで。
 当人の望まない意志とは真逆に周囲が動いているギャップが興味深いのです。
 簡単に言えば男子ってバカねーってことですか(笑)。

 そしてそんな主人公を助手役に探偵役をつとめあげるのが盲目のイタコ、19歳。
 しかも結婚歴あり(死別)。
 あらためてみると濃い……(^_^;)。


 しかしイタコだからって降霊して事件の裏側を覗いて万事解決!って流れになっていないところも好感。
 あくまでイタコという特性は彼女のキャラの内に抑えられていて、それ自体が特殊能力として事件解決のキーになっているわけではないという。

 解決へと導くのは、彼女の聡明さ。
 視覚が不自由なために、推理する情報が整理されているカンジ。
 惑わされないっちうか。
 そうした部分についても、推理に説得力がついていっているような。


 終盤へ向けて積み重ねられる事実の数々によって明かされる真相も興味深かったです。
 構造っちうか構成の妙?
 用意された事実のエキセントリックさがいささか気になるところではありましたけれど、そういう奇天烈さも「本格」寄りの香りを放っているのかなー……って。
 語弊あるかもですが(^_^;)。


 雰囲気や筆致など、好みの作品でした。
 次は安易に「萌え」へ媚びない作品が上梓されることを願ってます。
 

2
『魔王さんちの勇者さま2』 はむばね 著

 前作で感動的な再会を果たした勇者と魔王の娘、その周辺の方々のその後を追いながら新たな問題が立ちはだかったの巻。
 新たな……っちうか、世界根源の問題が表面化したっちうか。

 そういった「新しく見えた部分」が、どうにも「続巻に由来するもの」に感じられてしまうのは致し方のないトコロでしょうか……。


 しかし!
 8年経って再会した姫さまが、澄人へ抱く気持ちを持て余す様はかーわーいーいー。
 なんちうか、こういう「恋する乙女心」を描くはむばねセンセのパワーはまじぱねぇ。
 それも一元的ではないところがゴイス。
 恋したらこういう行動とっちゃうよなー、ああでもこういう行動とるコもいるよなー……ってカンジで。
 イメージの幅がホント広いなーって。

 表紙からカラー口絵の流れとか、サフラの気持ちを思うと顔が緩んでしまうわ〜(^-^)。


 んでも。
 本編ではあまりこういうシーンはなかったのは残念かなぁ。
 サフラが恋心に戸惑いすぎてしまっていましたし、澄人は澄人で朴念仁すぎるしー。

 そして後半になると、はむばねセンセらしい「物語」の進行に注力する流れがありましかたら、もはやそれどころではなくなってしまったという……。
 その「物語」の部分は、なるほどなっとく、みたいなカンジで悪くはなかったのですけれど、んー……。
 その「物語」にキャラクターの言動がうまく融け込めてないような違和感をおぼえます。
 キャラクターそのものの作り方、有り様などは物語にマッチングしていると思うのですがー。


 とまれ、まだ前巻。
 ふたりの仲を引き裂く世界に、どう立ち向かっていくのか、伏して待ちましょう!

 ……は?
 澄人の幼なじみでサフラのライバル?
 いやー、彼女はさぁ……(^_^;)。
 


1
『外科医 須磨久善』 海堂尊 著

 すごい……。
 2度読んでみても、この人がリアルだと思えないくらいにドラマティック。

 日本に初めてバチスタ手術をもたらした外科医の「医師としての成長」を追ったノンフィクション。
 なぜ医師を目指すことになったのか、から始まり、医師としてなにを最良として目指しているのか、困難にあたったときの判断基準やいまあ追い求めていることなど、「外科医 須磨久義」のひととなりが収められた作品。


 海堂センセは言わずとしれた『チーム・バチスタの栄光』の著者であり、作品でバチスタ手術を施術する医師のモデルが須磨先生だったそうな。
 そんな海堂センセの視点から見た須磨先生の姿という形式なのですがー。
 実のトコロ、おふたりのあいだに面識と呼べるものはそれほどなかったそうで。

 それゆえか今作での描き方も、知人という間からでの親しさや馴れ合いが感じられず、海堂センセ視点での主観や第三者としての客観に拠った描き方がされているように感じられてそれがまた須磨先生の姿を浮かび上がらせることに説得力を持っているように思います。
 中立性というか。


 いや、それにしても向かうところ向かうところで困難にぶちあたり、簡単ではない選択を選んでいく姿は、もうリアルとは思えないくらい。
 これが事実は小説よりも奇なりというヤツですか!?
 クリエイターはこのリアルを越えていかなければならないのですか!!(><)
 そんな幻想、ぶちこわして(ry


 でもなぁ……。
 時代時代において何かを成し遂げる、名を残すというのは、そういう選択をし続けたからなんですよねぇ。
 安定と安全を求めていたら進歩は無いか、あっても遅いかですし。
 それでは時間の流れに埋もれてしまうワケで。

 もちろん海堂センセも安定と安全を求める生き方を否定しているワケではないのですよね。
 そういう生き方もあると是としているのですし。

 ただ。

 その道を選択するとき、個人にどういう信条があるのかどうかを問うているだけで。

 須磨先生は「医師として助けられない人がいることに不満を持ち、あるいは救うことができるかもしれないのに躊躇うことを是としない」信条があったから動いたというだけなんですよね。
 だからその選択がブレない。

 そもそも「困難だから」という理由は選択において考慮されないのですよね。
 損得勘定ではない、効率でもない、医師の道、患者のためを思う気持ちが選ばせているだけで。



 で、そうした須磨先生個人だけではドラマにならなくて。
 先生の周囲を固める人物たちの個性もまた強烈!

 このままの成績では現役で医学部合格が不可能と思われた高校三年の夏。
 家庭の事情により必ず現役で合格しなければならない先生が取った選択とは!

 須磨は高校に出向いて教師たちに尋ねた。
「僕はこれから医学部を受けるつもりですけれど、もしも先生方の授業を全部受けて、試験で百点をとったら医学部へ行けますか」
 教師たちは「絶対に無理だ」と答える。すかさず須磨は「それなら先生の授業を聴かずに自分で勉強したいので、明日から学校へ来なくてもいいですか」と尋ねた。
 驚いたことに教師たちは、あっさり須磨の申し出をOKしてしまう。

 須磨先生も先生ですけど、教師も教師!(><)

 もちろんこの選択がベストだとはわたしも思いません。
 教師のかたがたにも学校の規律を保ち、卒業していく生徒に一定の成績を社会へ保証する責任がありますし。
 それでもこの選択を許すなにかが須磨先生にはあって、その運命?宿命?を教師のかたがたも感じ取ったのではないかと思うのです。
 もし結果が芳しいモノではなくても、選んだ意味を残せる人間だと保証されたのではないかと。


 次いで海外での評価を確固たるモノにしていた頃、バチスタ手術を目にして衝撃を受け、栄光を捨てても日本に帰国しようと決意したとき!

 須磨は隣に座っていた妻に向かって「帰るよ」とひとこと告げた。妻はローマを気に入っていたので、思わず「ええ?」と声を上げた。だがすぐその後で、
「もう決めたんでしょ。それじゃあ帰りましょう」
 と答えた。

 奥さ――んっっっ!!!(≧▽≦)
 格好良すぎる――っっっ!!!!

 これもべつに「旦那の言うことに妻は従うべき」というものではないのです。
 須磨先生は常に「選択するときは自分ひとりで決めるべき」という信条を持っていて、その生き方を奥さんも肯定しているという姿が美しいのです。

 須磨先生はもちろんヒーローだけれど、奥さんも間違いなくヒロインだわ!


 選択において他人に相談するということは、自分では気付かなかった見落としを検証するだけにするべきなのだそうで。
 誰かに背中を押してもらうためではなくて。
 そうでなければ選択に責任が持てなくなりますし、失敗したときに必ず後悔をするのだそうで。


 そしていよいよ日本で初のバチスタ手術を行うときが!
 規制の壁、未知の術式への不安、患者への責任、保守派の冷笑。
 さまざまな困難がそこにはあっても須磨先生は乗り越えていくワケで!
 ひとりでは難しいことでも、それまでの先生の生き方が培った絆がそれを支えてくれてくることに涙!(T▽T)

 スタッフの気持ちを要約すれば、こうだった。
「難しい話はようわからんけど、最終的には先生を信頼するかしないかの話だ。我々は須磨先生を信じる。だから先生がやったほうがいいと思うんだったらやればいい」

 ぎゃーっ!(≧△≦)
 熱い、熱すぎるよーっ!!!!

 ここは今作でもホント、クライマックスで、さすがの須磨先生も絶望の縁に立たされるのですが。
 そこからの反転、大逆転劇がエキサイティングで!
 こんな気持ちのV字回復こそが、クライマックスの描き方だなぁ……と感心しきり(リアルですけど!!)。



 もー、ホントにこれがリアルだっていうんですから脱帽です。
 真実を追い求める人の姿は、きっと、すべからくドラマなんですねぇ……。

 こういうリアルがあるとクリエイターには高いハードルになってしまいますが。
 最後に、そうしたクリエイターの人へも持っていて欲しい志を示された須磨先生のお言葉を幾つか抜き出しておきます。
 もちろん、クリエイター以外の全ての人へ持っていて欲しい志です。

「人が自分をどう思っているとか、ひそひそ話の中身みたいな小さな問題よりもはるかに、自分が自分の行為をどう思うかの方が大切です。たどりついたゴールが、本当に最初に目指していたゴールかどうか。そうした問いに対する回答がイエスなら、あとは、まあそこそこ、どうでもいいのではないでしょうか」

 この言葉を受け止めて生きていきたいです。
 

戻る