○● 読書感想記 ●○
2009年 【6】

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20
『午前零時のサンドリヨン』 相沢沙呼 著

 学校では目立たない存在の女の子にはマジシャンとして活躍する別の姿が。
 その姿に見惚れた男の子。しかし一目惚れは外見のみから発展した感情で、決して恋などではないかもしれないと気持ちを疑いつつ、その気持ちが本当に恋なのか確かめていく物語。
 あとミステリー(おい)。


 無口な女の子マジシャンが探偵役で、マジックのタネにからめて推理を披露していく次第。
 主人公の男の子とはと言えば、その聞き手。
 別に男の子の情報収集活動でなにか事態が大きく展開を見せるワケでも無し、実際的には女の子は初期状況を聞いただけで事件のあらましをイメージできてしまっているのですよねー。


 まぁ、しかし。
 この男の子の実体がわたしには好ましいものではなかったので、この恋、応援する気にはならなかったなー。

 先述のように男の子が推理において活躍するということはなくて、ただただ女の子に期待しているだけ……というのもありますが。
 それ以外に、女の子が某かの理由を持った上で技術や推理を披露することを惜しんだ場面で彼は「けちくさいこといわないでさ」と言うんですよ?
 惚れた女の子相手に「けちくさい」って──っっっっ!!!!!
 しかも2度も!(`Д´)


 あのね、これは主人公のスタンスだけに限らないと思うのですよ。
 1度であれば文学的修辞を考慮して記したのかもしれないと疑いますが、2度も語句を用いるということは相沢センセのなかで「けちくさい」という言葉が常用化されているのではないかという部分を疑うのです。

 わたしは……「けちくさい」という言葉を使うことに対して、心理的ハードルがあります。

 このあたりは極めて個人的な信条の違いで、しかもわたしのほうが偏屈なのかもしれません。
 でも、それも含めて作品全体から乱暴で卑しい雰囲気を受け取ってしまってもいるのです。
 それは選評において笠井潔センセが述べられていることに要約されているような気がします。

 作者は登場人物それぞれや、さらに主人公にもあれこれと「悩ませる」のだが、作者自身は妙に余裕ありげで、さほど悩んでいるようには感じられない。この程度に設定しておけば、悩んでいることになるだろう、悩んでいる人物として読者に通用するはずだろうという判断の常識性が気になる。「不完全な世界」をめぐるヨブ風の問いもケーキのトッピング程度にしか扱われていないし、イジメや進路の迷いなどのアイデンティティ問題も「いま」風の素材に過ぎない。(中略)この時代を生きることへの作者の態度に疑問がある。米澤穂信の「古典部」や「小市民」シリーズに含まれる「苦さ」のようなものが、この作品には欠けている。

 最後の一文があったから同意したのではなくてよ?(^_^;)
 なんちうか、甘く見られているのかな、読者を……というカンジ。
 日常の謎にしても学園恋愛ミステリにしても。
 



19
『花が咲く頃いた君と』 豊島ミホ 著

 うああああああ!!!!!
 行き場のない想いがどんどん膨らんでどうにもならなくなる寸前なカンジ。
 あるいはどこまでも膨らんでいくことへの恐さ、かな。
 終わりが見えないよ、この想いには……(T▽T)。


 豊島センセお得意の連作短編集。
 今作では4編収録なので、それぞれが若干長めな傾向?

 タイトルに掛けてどれも「花」が差し込まれている……のかな?
 「サマバケ96」はちょっと印象薄かったですけれど、ほかの三編では物語のキーとして取り上げられているような。


 特に「僕と桜と五つの春」が秀逸。
 癒しを求めて訪れていた桜の木と、その桜に似た空気を持つ少女。
 彼女に告白してみたものの拒否されただけでなくそれをネタに彼女を含むグループにパシリとして使われてしまう毎日。
 しかしそれでも彼女のことを嫌いになれず、パシらされてもそれとは心の違うところで好きという気持ちは残され、持ち続けられて膨らんでいったという。

 あー、もうねもうね。
 そのどうにもならない気持ち、消せない、無くならない想いっていうのがね!!!(><)
 叶うことを否定されても、在り続けるっていう!


 彼の想いはストーカーとは似ているようで違うよなぁ。
 叶わない想いが相手に向かうのではなく、ただただ自分のなかで眠り続ける、生き続けるだけなので。
 叶わない願いを抱くことは悪いことじゃないんだと。
 想いっていうものはゼロサムではないんだなぁ……。



 恋が成就することに目的がある物語ではないのです。
 恋の価値、恋そのものの美しさを描いた恋物語なのです。
 

18
『太陽で台風2』 はむばね 著

 ん? んんんん──???
 これは、ちょっと……かもだわ(-_-;)。

 内容云々はまずスッ飛ばして、オチだけを取り上げるなら……セルフオマージュかなぁ。
 『魔王さんちの勇者さま』のラストと同じなんですもん……。
 もちろん今作だけを読まれた人には関係無いことなので、それが批判されるに値するものではないとはわかっているのですがー。
 うーん……。
 わたし個人としては軽くかわされたかなーってトコロ。


 本編の流れについても前作を引きずっているものだと感じるのですよねー。
 タイミング良く邪魔が入ったりしてラブコメ的演出で盛り上げてはいるものの、前作ラストからの進展が見られないっちうか感じられないっちうか。
 少なくとも主人公である陸のほうに覚悟なり気持ちの定まりようが見られれば進展と受け取れたのですけれど、そういう部分がなくてゆらゆらと……。

 うーん……。
 2巻目で描くにしてはサービス足りてないカンジかなぁ……。
 華さんがカワイイのは大前提として、言動にもっと弾けップリがほしかった気が。
 たしかに一線を越えようとする積極性はありましたけれど……。
 わたしが欲張り過ぎなのかなぁ……(>_<)。


 でもって後半で大きく物語が動く部分についてですけどもー。
 物語のイベントとしてはありうるモノだとしても、陸の言動に由来する起因関係が希薄なカンジで、クライマックスでの高揚感に欠けていたかなー。
 場当たり的……って言うのは過ぎていますけれど、突発的に発生して偶発的に収束した感ではありました。

 イベントではあってもドラマではなかった……という感じ。


 総じて見て、物足りないというよりは残念な気持ちになった第2巻でした……。
 


17
『植物図鑑』 有川浩 著

 ベタ甘ラブの有川センセ、本領発揮!(笑)
 さしずめ今作のジャンルは「リアル落ち物系女の子バージョン」。
 でもってキャッチは「男の子の前に美少女が落ちてくるなら女の子の前にもイケメンが落ちてきて何が悪い!」でしょうか(笑)。
 この「何が悪い!」と開き直ったときの有川センセは強いですね、ホント(´Д`)。


 と言う次第で、植え込みに落ちていた男の子を拾ったら、その男の子に胃袋をわしづかみにされた女の子のお話(えー?)。
 いや、でも、見てくれがどうとか出会いがどうとかよりも、絶対に食事に関するエピソードのほうが華やいでいたって!(≧△≦)
 それも料理モノとは違って、タイトル通りに山野草を摘んでそれを料っていただきますをする流れが秀逸。

 休日に散歩をしながら見つけた野草を楽しそうに摘む姿がね〜v

 でもって見てくれはあまりよろしくない野草を食したときの意外さに驚いたりとか、野草として高名であるところに憧れを持っていたのにいざ食してみると大して美味しくないことに凹んだりとか、挑戦と結果がテンポ良く流れていくのですよね〜。

 初出が携帯小説サイトで、そこでのテーマが「女の子と旅と冒険」だったそうで。
 なるほど〜。
 たしかにこのテンポの良さはクエストをこなしていくRPGみたいでした(^-^)。



 そして忘れてはならないのがLOVE方面ですよねー、ですよねー(≧▽≦)。
 出会いの非日常性はあっても、なるべくしてそういう関係になったなー、と。
 気配り抜群のオトコノコと感受性豊かなオンナノコのあいだで育まれる愛情っていいものですわ〜。

 ……20代半ばも過ぎた男女をオトコノコ・オンナノコ言うのもどうかとは思いますがー(´Д`)。


 当初はルームシェアしているだけの間柄であっても、それが意識し合う仲へと変化するには時間がかからなくて。
 でも、ルームシェアしているだけの友人という「契約」があるから、そこからなかなか先へと進めないもどかしさが、物語のキーになっているなぁ……と。
 やぱし制約があってもこそ盛り上がるものです!(笑)


 しかしそんな制約のある気持ちについて、ゆっくりと解きほぐすように進めていく有川センセの筆致が、もうねもうねっ!(≧▽≦)
 このペース配分がたまらない〜〜〜!!!



 ちょっとした専門性に絡めた恋愛スタイル。
 有川センセの魅力って、そーゆーところなのかなぁ……と思います。
 

16
『政宗様のお気に召すまま 〜花嫁御寮は求婚中〜』 ながと帰葉 著

 伊達政宗公とその妻、愛姫の馴れ初めをライトノベル風にアレンジして……という作品。
 ありゃりゃ、ながとセンセ、歴史物へ回帰されてしまわれてしまいましたかー。


 デビュー作で武田信玄公を描かれてましたし、日本史に興味がお有りなのかなー……と。
 だもので『アルワンド』に比べると筆が走っているカンジは受けるのですが、それにしてもキャラ配置を含めて構造や展開が一般的すぎるような気がします。

 ホントは好いているのにお家事情で結婚を認めるわけにはいかなくて、それでいてやんわりと姫を傷つけずに済まそうとしている政宗公。
 一方のお姫様ははじめから政宗様LOVE!で、どうしても政宗公と一緒になりたくてあれこれ奔走するっちう……。

 うーん……。
 これは王道というトコロを過ぎてベタと呼ぶのではないかなー。

 問題の根源が政宗公の血筋にあって、ご母堂が彼を認めないというのもなぁ……。
 誰が裏で手を引いているのか意外性が無いっちう……。


 政宗公のイメージを崩したくないというのもわからないでも無いのですが、そのキャラクター性にも今作らしいオリジナルな部分を感じ取れなくて、そもそも史実におんぶだっこしちゃっている感を受けるのですよね。
 政宗公のキャラクターや知名度に頼ってしまっているっちうか。


 その手法を安易と取るか間口を広く取るっちう戦略性と見るかは意見の分かれるところかもですが。
 


15
 
『リリイの籠』 豊島ミホ 著

 東北の女学校を舞台に、女の子の気持ちをつづった7つの掌編。
 作品のスタイルは豊島センセらしいのですが、今作は目線をオンナノコに絞ったことで独特の空気が漂っています。
 なんちうのかなー……。
 生々しくもあるし、純度の高い甘さでもあるし、傷つきやすさ壊れやすさでもあるし……。


 しかし今作って、興味や関心や好奇心で親しくなってみても、最後には望むことの無かった別れが描かれているのですよね。
 それは幼年期の終わりを示すのか、それとも少女時代の儚さを示すのか。
 どちらにしても失って気付く大切なモノを感じさせられるのです。


 「銀杏泥棒は金色」では、銀杏の枝を折った少女に興味を持ち親しくなって、やがては絵画のモデルになってもらってその気持ちを表現していくも、その気持ちが一方通行……っちうか、モデルの少女に向かっておらずただ自分と向き合っていただけだと指摘されてしまうのですよね。
 自己満足っちうか。

 加菜は私が描いたスケッチの、右の膝小僧を指して言った。
「あたしはここにホクロがある」
 そんな細かいこと、と反射的に逆らおうとしたら、次の一言でとどめをさされた。
「そんくらい執着してよ」

 んもー!
 豊島センセの言葉遣いはクリティカルすぎる!(≧△≦)

 自分では全力の想いをもって生きているつもりでも、じつはどこか手を抜いてしまっているという。
 それを他人から、それも自分が認めた存在から指摘される苦々しさ。
 イタタタタタタタ……。
 ハートをえぐられたわ……(TДT)。


 とりあえず資格でも取っておくか……という気持ちで教育実習にやってきた学生さんのお話もそんなカンジかなー。
 いいかげんな気持ちだから、生徒にもナメられるし自分の覚悟も定まらないっちう。
 目の前のことに向き合う、自分の気持ちに正直になる。
 簡単なことなのですけれど、それを行うには生意気な自尊心が邪魔して難しいという……。
 照れとかね。



 自分の気持ちをいいかげんに扱ったことで犯す、ひとつの間違い。
 その間違いが次の瞬間にどう作用するのか、永遠の別離なのか新しい一歩なのか。
 そうした最後の余韻に考えさせられます。
 


14
『伯爵と妖精 白い翼を継ぐ絆』 谷瑞恵 著

 結婚したというのに今回もまた自分はエドガーに相応しくはないのではないかとリディアは悩み、一方のエドガーはリディアに寄せる信頼という名の怠慢で彼女を不安にさせて。
 もー、このふたりって……。
 さして進展も見られない物語に付き合っていけるのは、もはや訓練された読者だけと言えましょう(´Д`)。


 すれ違いや思い違いでケンカをしても、肌を合わせて仲直り……って、どこのハーレクインロマンスですか、これは!(笑)
 物語は進まなくても、ふたりのそうした離れたり近づいたりする様をニヤニヤ楽しむシリーズになってまいりました。


 今回のお話、リディアの自信の無さをついて無実の罪をなすりつけられるという部分がありましたけれど、そーゆーお話って以前もありませんでしたっけ?
 リディアが花嫁修業をしている頃のお話で……。
 むぅ……。
 長期シリーズなので記憶も曖昧になってしまった(苦笑)。



 しかしそれでも物語の軸というものが全く無いワケでもないのですよね。
 今回はシルヴァンフォード公爵家という過去と向き合うエドガーに、青騎士伯爵の妖精界の領地へ向かうための足がかりを探すというものですか。
 特に後者はプリンスと対決するに際して大きな力となりそうですし、少しずつシリーズクライマックスに向かっている感があります。

 うん、まぁ、手がかり足がかりな段階なので、これでまだどうなるっていう明確な何かがあるワケでは無いのですけれども、ねー(^_^;)。

 そういう次第でエドガーが「現代に生きる青騎士伯爵」として力強くなっていくのに対して、リディアのほうは予言者の許嫁の立場をどうかわしていくのか道筋が見えてこないトコロがもどかしいったら。
 どちらを向いて成長していくのかわからないっちうか……。

 こればっかりはリディアの気の持ちようでもどうにもならなくて、なにかこう、ブレイクスルー的な存在が浮き上がってこないと難しいかなぁ。
 物語の根幹にも大きく関わってくるところですしねー。
 その部分がエドガーの成長とのセットになってくることも考えられますし、ここまでシリーズに付き合ってきた身としては、ここで手を切るワケにはいかないぜー……ってカンジ(笑)。


 でも、あれか。
 ふたりが授かった子どもがプリンスの生まれ変わり……とかいうオチになったら、ちょっとどうしよう(^_^;)。
 


15
 
『クイックセーブ&ロード2』 鮎川歩 著

 自分の死でもって時間を「セーブ」した位置までさかのぼれる少年が、恩にきている部活の先輩のためにひと肌脱ぐお話。
 いや、ひと肌脱ぐってモンじゃなくて、先輩の実家に予言を与えたという「自分と同じ時間をさかのぼれる能力者」と繰り広げる知能戦なのですよねー。

 主人公の能力はもう読み手に明らかになっている中で、続編ではどう展開していくのか、同じギミックは使えないことをどう克服していくのか興味があったのですが――。
 うむ、こうきたか!ってカンジ。
 能力があることを前提として、先達と後進の裏のかきあい探り合いが緊迫感あって。


 主人公の特殊能力も、自動発揮される仕様ではないあたりも良いカンジ。
 能力の行使には主人公の挫折と後悔が必要なんですよねー。
 「これではダメだったんだ……」といった。
 そこでセーブ時間まで戻ってやり直すという描き方は読み手の側にも再推理を促すようで面白い感覚を味わってます。

 しかもその能力を「便利に使うことを良しとしない」矜持で縛っているあたりも◎。
 能力に頼り切るのではなく、とにかく自分の身体で真相に迫ることを第一としているという。


 やり直すことができるなら、その覚悟だってしれたもの……と思われるカモですけれど、読んでいてわたしはそうは感じなかったかなー。
 先述したようにバッドエンドを迎えてしまったときの喪失感を丁寧に描いているので。
 悔しさや無念さが、ね……。


 とにかく、そうした超常的な能力を巧みに物語へフィードバックして、見事な新感覚の推理ミステリを構築していると思うのですよ〜。



 そして青春小説としても嬉しくなってしまうったら!

 前巻では幼馴染みを救うために必死になった主人公。
 もちろんその幼馴染みとの関係も少しずつ前向きに変化しているみたいなのですが、今回はなんといっても渦中の先輩がががが!!!!

「向こうが牽制ならこちらは先制です。どうぞ、受け取って下さい」

 まさか、ここで、宣戦布告ですか!
 参戦ですか!(≧▽≦)

 しかしオンナノコたちのそんな覚悟も、鈍感さと自分のことに手一杯な状況の主人公の前には功を成さず(笑)。
 ダメだコイツ、早くなんとかしないと……。



 乗り越えなければならない相手、気にしてくれる異性、自分が持つ能力の意味。
 舞台がそろってきた感があります。
 次巻が楽しみ〜!
 


14
『ため息の数だけ…』 久石ケイ 著

 歳の差オフィスラブな恋愛小説かと思っていたらエロ小説だった――!!!
 なにを言っているかわからねーと思うが(ry

 32歳の優秀な営業主任の女性が23歳の年下の部下に求愛されてメロメロになってしまうお話。
 いや、メロメロっていうかヌレヌレっていうか(笑)。
 もう、とにかくセックスしまくりだった……。
 こんなお話だとは思いも寄らなかったデスヨ。


 ひと回り違う歳の差を思い悩み、彼からの求愛を素直には受け止められなかったトコロ、彼はその愛を身体で教え込ませていくという。
 まぁ、ベースには事故で両親を失って天涯孤独になったという女性の社会的立場の難しさとか、かつての恋愛で失敗していることから臆病になっていることとかがあって、そこからあらためて倖せの階段をのぼっていくハッピーストーリーなのですがー。
 いや、それでもエロ小説では?とか思ってしまうー(笑)。

 「絶倫」ってキャラ付け、はじめて理解した気が。
 ここまであっちに強い男性って、本家?のエロ小説でも見ないような……。

 もっともあちらはシチュエーションを入れ替え入れ替えしてエロシーンを多く描く必要があるため、1シーンごとの回数は多くはなりにくいってこともあるかもですが。


 まぁ、とにかくヤリまくりな次第。
 営業先で、会社で、自宅で、実家で、車の中で、結婚式の控え室で。
 うーわー……(≧△≦)。
 年上ということもあって恋愛に引っ込み思案な女性が自信を失いかけるとセックスで愛情を伝える男性……ってパターンなので、もう、とにかく!(笑)

 うーん……。
 極端ではありますけれど「自分に自信を与えてくれる相手」ってことで王子さま願望の作品なのかなぁ……。
 自分で自分自身の価値をそこまで高くはつけられないけれど、世界のどこかに自分を絶対的に求めてくれる相手がいますよー……ってメッセージで。
 認められたい、認めて欲しいって願望は、いつの世も存在するものですし。


 WEBサイトで公開されていた作品ということで、メディアによって求められるものの違いっていうのもあるのかなー。
 シチュエーションにズバッと切り込んでいって勢いつけて衝撃的展開に持っていくというか。
 携帯小説などでも同様かと思いますけれど。
 とにかくセンセーショナルな要素を連続していかないと読者の関心を引き留められないマーケティング?みたいなみたいなー。



 余談。
 わたしこれ、電車の中で読んでいたのですけれど、わかる人から見れば
 「あの人、電車の中でエロ小説を堂々と読んでる〜w」
 ……って状況だったんでしょうか。
 は、恥ずかしいわ……!(≧△≦)
 

12
『剣の花嫁 山妖奇伝』 夏目翠 著

 因習に縛られた山村。
 家族が犯した罪を背負わされて孤独に生きてきた女の子が悲劇的な運命にある一族の男性と出会い、やがて愛するようになるお話。

 瘴気によって外界とのつながりが限られている山麓。
 8年に一度、贄が差し出される村。
 退治できぬ化物におびえながら暮らす日々。
 序盤でむやみに世界背景を説明してこないで、展開させる舞台を絞っているカンジは悪くないなぁ……と。
 どこまでが物語の世界なのかハッキリと感じられて。


 わたしが思うところの夏目センセって、それほど設定には凝らずキャラクターの心情面の揺れ動きを描いて魅せる御仁なのかな……ってところなのですよー。
 今回も「やたらと考えすぎてしまうタイプ(オンナノコ)」と「すでに無条件で相手を受け入れるタイプ(オトコノコ)」という組み合わせは定番ですし。
 あまり凝ってるカンジはしないよーな。
 オトコノコのことを信じられなくてあれこれ考えているだけで物語は動いていくっちう(笑)。


 もっとも、その安定感?はクライマックスでの意外性に欠けるきらいがある気もしないでもないのですけれど……。
 キャラ配置で物語の行く先がある程度見えてしまっているという……(^_^;)。

 今作でも真犯人が誰であるかは定番どころのキャラでしたし、クライマックスでの緊迫感はアクションの行方にかかるというのは荷が勝ちすぎているかなぁ……というトコロ。
 そこで悲劇を描ける御仁であったりすると、別のトコロから突き抜けた感想を抱くのですが(とはいえそれが好評価になるかどうかは難しいトコかも(^_^;))。


 いろいろあったけれどハッピーエンド。
 大きすぎない倖せで満足している姿に嬉しくなる終わり方。
 全ての困難が取り払われたわけではないけれど希望をカンジさせる結びに、ホッと安心できる作品、御仁です。
 


11
『初恋素描帖』 豊島ミホ 著

 中学2年生、総勢35名のクラスで描かれる「好き」という感情の行方。
 通じ合う気持ち、これから始まる気持ちがあるなかで、届けられる予感も結ばれる期待も無く行き場を与えられない気持ちが教室には充満しているという。
 あー、もう!
 こうした感情の切り取りかた、まさに豊島センセの真骨頂ですわ〜!!!(><)


 気持ちの届け方、昇華の仕方を心得ていない幼さやつたなさが愛おしいデス。
 なんちうか、こう、風船の中で気持ちがどんどん膨らんでいくカンジ。
 破裂するまで外の世界に開放されることがないという。

 あまりにも真剣すぎて余裕がないのもまたカワイイっちうか(^_^;)。
 世界は「2年2組」の教室で閉じられているワケではないって教えてあげたいのですけれど、少年少女たちにはその世界が全てでもあるのですよね……。
 だからこそ真剣になるという。
 歳を経て、外の世界を知った大人は「次がある」と考えてしまって、ひとつの恋に真剣にならなくなるのかなー……。

 14歳の身空で語る感じるトコロの「真剣な恋」といってもやはり「14歳」のそれでしかないのですが、だからといってここで描かれている恋が一生物にならないとも限らず。
 次があると思いもつかず、ただ今の時間を生きることに必死になる強い感情。
 このパワーこそが若さなのかなー……(^_^;)。


 掌編が集められた作品ですとどのお話が良かったかとか考えるのが常なのですが。
 んもー、眩しすぎるよキミタチ!(><)
 選んだりなんかできませーん!!!
 どの気持ちも切なくて切なくて、少しだけ甘酸っぱくて。

 あんまり嬉しくなかった。いつかそうしたいと考えていたはずなのに、達成感よりずっと、苦しさのほうが胸を満たした。やわくて熱い、やらしい唇、でもくっつけ合ったってなにが変わるわけじゃない。俺たちはいっこといっこのままで、同じ願い事を抱くことすらできない。

 せつねぇ……(TДT)。
 なんてこと考えてるの、中学生……。
 でも、そこまで考えられるのは羨ましくもあります。
 初恋って……うんうん、こういう気持ちだったんですよねぇ(≧_≦)。

 愛おしさと寂しさと、嬉しさと不安と。
 たくさんのドキドキにあふれている作品でした。
 


10
『14f症候群』 壁井ユカコ 著

 14歳のオンナノコたちの身に突如降りかかった転変。
 性逆転、大人化、人格入れ替わり、動物への変態、憑き物。
 昨日と変わらないハズだった毎日が、ひとつの転変とともに自身の世界をひとつ決定する方向へと動きだして。


 んー……なんちうのかなぁ。
 きっかけがあって物語が動きだすってのは当たり前のハナシなんですけれど。
 変化していくことが物語だと思いますし。
 んでもその変化の行く先がヒネてるっちうか悪意にあふれてるっちうか。
 悪意に満ちてるってワケではないにしても、どこか露悪的な気もするのですよー。


 世界ってこんなにも脆かったのかな?って感じます。
 変わることは仕方ない。
 でも、流れるままではなく変わらないものもあるような。

 たったひとつのことで日常が非日常になって、その先にある非日常の積み重なった世界は頼りにならないくらいに小さなモノ。
 寄る辺を失って、少女たちはどうやって生きていくのかなー……って考えたとき、人間なのだからひとりで生きていくしかないのだなぁ、って思ったり。


 少女たちの物語のなかには暗さを感じさせずに結ばれた物語もありますけれど。
 そんないっときの倖せだけでこのあと生きていく時間の全てが照らされているようには感じられなかったのですよー。


 気持ち悪さと恐さの同居した作品。
 しかし少女時代の終焉は突然訪れて、彼女たちの世界はいつだって儚い。
 そういうことなのかもしれません。
 


9
『カウントダウンノベル』 豊島ミホ 著

 ある週のウィークリー音楽チャートの順位を下敷きに、各順位のアーティストにそれぞれスポットをあてて日常を切り取った10の掌編。
 初登場1位を宿命付けられている歌姫、その歌姫と取って代わろうとする新人、音楽性に苦悩するベテラン、限界を感じて引退を考えるアイドル……etc。
 たった1週のチャート結果ながら、それに思い描く感情は各人でドラマを持っているという。

 んもー!
 豊島センセはこういう短編連作が上手いな! ホントに!(≧▽≦)
 「日常を切り取った」と先程は述べましたけれど、その切り口がスパッと鋭利な断面を見せているようには感じられないのですよね。
 そうして単純化すればもっと綺麗でもっと明確な物語になるかもしれないのですけれど(往々にして世の中に上梓されている作品群はその道を選んでいるように思います)、しかし豊島センセは世界はそこまで単純ではないと考えておられるような。

 かといって、どうにもならない複雑怪奇な世界を描いてるかといえばそうでもなくー。
 世界は両手の広がる範囲で収まるものではなくて、そのもう少し先までつながっている……というような空間感覚、ちうか。
 もっと遠く、もっと広い世界で、ひとりの人間が思うところではどうにもならない部分は広がっているけれど、でも近しいところでは自分の気持ちの有り様ひとつで動かせる部分はあるものだよ、と。


 「(キャラクターなどの要素が)有機的につながっている」とは簡単ではない関係性を表す目的で用いられる言葉ですけれど、わたしにはこれまでのところそのつながりを二次元的にしか受け取れないトコロが少なくなかったのですよね。
 既存の作品において。
 でも豊島センセの作品って、もっと立体的に、三次元的に人や物のつながりを描いている気がしてくるのですよー(^-^)



 本編はどれも趣が異なっていて味わい深いのですが。
 あえて選ぶとすれば5位にランクインした(笑)アイドルグループ「シュガフル」のメンバーのお話が好きかな〜と。
 芸能界を一生の仕事とは思うことの出来ないメンバーにどう接すればよいのか悩む主人公。
 そんな主人公でも学校へ行けば芸能人扱いされてあまり親しい友人もいないのだけれど、そんな中でひとり、なにも気負わずに接してくれる普通の友人ちゃんがいるのですがー。
 彼女との気安い雰囲気がまた良いのですよ〜。

 友人ちゃんは話しのメインに位置するワケではないのですけれど、こういうポジションのキャラもしっかりと描くあたりが豊島センセの魅力のひとつかもですわ〜。


 倖田來未さんを彷彿されるキャラを描いた第2位の相葉ミリ嬢のお話も面白かったですけど。
 芸能人しながら恋人とラブしている度胸を買うね!(笑)



 芸能(界)モノって最近ひとつの潮流がオタのあいだであるような気がしますけれど、そうした流れにおいて必読の1冊かもです(^_^)。
 

8
 
『神去なあなあ日常』 三浦しをん 著

 高校卒業と同時に選択の余地無しで林業の現場に放り込まれたオトコノコのお話。
 文明から遠く離れた田舎暮らしに当初は辟易しながらも、なにごとにも大らかな村民と触れ合い、都会では見られない自然のダイナミズムを目の当たりにする中で見事に順応していくオトコノコ。
 都会では生きる目的を見つけられずにくすぶっていた彼が田舎暮らしを経て「大人へと成長する標」を見つけるまでの物語。


 林業という昨今話題の後継者難な職業現場を舞台にするあたり、三浦センセらしい嗅覚というか視点というか、面白いものを感じ取る作家としてのセンスを感じます。

 林業のみならず生活上不便が多い田舎暮らしって、こと現代の物語を書き下ろすにあたっては一筋縄ではいかない部分が多々あると思うのですよ。
 都会モノへ向けての共感性とか、反対に田舎暮らしへの好奇とか。
 そういうったものをどちらか一方に偏ることなく、ことさら堅苦しい雰囲気を醸成せずに語っていくのは見事なバランス感覚ではないかとー。


 なんといってもキャラ配置が絶妙ですよね〜。
 主人公の勇気は10代の少年?として年相応に反発しつつも、ただ逃げることは負けだと受け止める負けん気とかー。
 アタマで理解するより先に大事なモノ大切なモノを感じ取れる積極性とかー。
 その行動力とか気概や性格がまったくもって主人公(笑)。
 そんな単純な勇気が主人公だったからこそ、この作品は物語になっているのだなぁ……と思ってしまうくらい。

 その兄貴分の与喜は無茶と無理を通しながらも細かな気遣いは忘れてませんし、言葉より行動で道を示す頼りになるガキ大将(笑)。
 ほかにも仕事の先輩たるおじいさんたちが脇を固めて、勇気の成長を厳しく温かく導いていくという。

 うーん……。
 こりゃファンタジーのビルドゥングスロマンですかいの?(^_^;)


 とくにキャラクターというものが用意されていなくても村中みんな顔見知りな田舎村独特の交流があって、それがまた都会にはもう見つからない絆として描かれているんですよね〜。
 たしかに鬱陶しい部分もあるのでしょうけれど、そうした関係をうらやましくも思えるのです。



 一点、惜しむらくは、そんな村で出会った年上のワケあり女性とのロマンスがかなり省略されてしまっているところなのですがー。
 今作においてロマンスはちょっと的はずれな方向性でもあるでしょうし致し方ないトコロでしょうか。
 オトコノコにとって恋心は起爆剤である――その意味づけは十分に描かれていますし(笑)。


 林業という仕事についての描写以外にも、村の祭りや四季と共に姿を移ろう山の情景とかまでもしっかりと書き込まれていて。
 ステキなスローライフ読本ですわ〜。
 

7
 
『追想五断章』 米澤穂信 著

 ラスト、どちらにでも受け止められるよう決定的なコトを描かずに「結末やアナタの考えるように」とする形式のリドルストーリーが連なった作品。
 そういう技巧的なことは、んー……という次第でいまひとつ意義を見いだせなかったのですけれど、でも根本的にそういう雰囲気っていうんでしょうか、このような描き方って米澤センセって普段の作品からあるような気がします。
 ほかのセンセと比べて、ラストに事実の重みだけを乗せて心象や結論じみたことを述べないっちうか。

 というようにカンジたので「リドルストーリー」という形式そのものを前面に打ち出した今作にはどうにも収まり悪い気がしてました。
 普段、無意識で行っていることをあらためて意識的に行う居心地の悪さと言いましょうかー。


 とまれ、偶然的に引き受けた書籍の捜索を続けるウチに、やがて隠されていた隠していた過去の事実と向き合っていく流れは大きく引き込まれる強さがあってさすがだなぁ……と。
 こういった構成についてはもうベテランの域ですよね〜。

 で、どのエピソードからも、そして最後に打ち明けられた真実からも、甘く許されるような希望とか優しさとか見えてこないあたりが厳格な雰囲気を受けたりして。
 主人公が高校生である<古典部>や<小市民>シリーズでは抑えられているそれが、主人公の年齢が高くなるにつれてタガが外れていくような……。

 もとがライトノベルレーベル出身ということで、なにか意識してしまっているトコロがあるのかしらん。
 

6
『今夜も宇宙の片隅で』 笹生陽子 著

 不思議な縁で結ばれた中学生三人組が、夢を追ったり夢に破れたりした大人たちと交流したり同世代の友人たちとネットで上辺だけの付き合いなどをしつつ、この世界がもう少しだけ良くなっていったらいいなと願うお話。


 うーん……。
 簡単なようでいてどういう物語なのかをまとめるのが難しいカンジ。

 でも「大人は良かれ悪しかれ自分の生き方を子どもに示す」役割で、「大人の姿を見て子どもは成長する」ことを描いているのはいかにも笹生センセらしいなぁ……と。

 明確にどこがどう成長したというのも難しいのですよね。
 でもラスト、自分の気持ちをネットに綴った主人公の言葉は、それまで生きてきた世界と比べて視野が広がっている印象を受けるのです。
 モノの見方が広がる。
 それをひとつの成長と言うのではないかなー。


 2chのような掲示板書き込み風文章や学校の裏サイトとか、情報社会とローティーンの関わりをまたもや作中で取り上げるあたり、なにか笹生センセの信条みたいなものがあるのかしらん。
 たしかに無視できないツールだとは思うのですけれど、作中でのウェイトが軽くない気が。


 何かを成すのでも世界の窮屈さに葛藤するような激しさも無いのですけれど。
 10代前半の頃、ゆっくりと変化していく子どもの姿が微笑ましく思える作品でした。
 


5
 
『夏が僕を抱く』 豊島ミホ 著

 幼かった恋が終わって、少しだけ大人になれた新しい恋の始まる予感。

 うはー!
 これはステキでした〜!(≧▽≦)

 6編の掌編が収められているのですけれど、そのどれもが失恋的な情景で進められていくのですよね。
 想い続けていっても叶うことがない、関係を続けてもその先に倖せが見えない。
 そんなシチュエーション。

 もちろん、それとわかったからといって想いを止められるものではなくて、愛情を求めていくのは人間として普遍的行為なのだと。

 ひとつの恋が終わるとき、それはなにかが掛け違えていたのだなぁ……とカンジさせられます。


 掛け違いや間違い、それに気が付いて恋が終わるとき鈍い痛みのようなものをカンジるのですけれども。
 その痛みが幼かった自分を少し大人へと成長させるクスリになっているなぁ……と。
 幼い恋は純粋で作られているけれど、純粋でいることだけが恋の条件では無いのですよね。
 疼痛に耐えながら、想いを精錬していく作業。
 倖せとか、愛とか、そういうものはその作業の先にあるものなのですねぇ……。



 いまだモラトリアムを彷徨う二十代の恋を描いた表題作「夏が僕を抱く」も良かったですけれど、わたしとしては浪人してしまった幼馴染みを意識してしまう「遠回りもまだ途中」も好きかなー。
 この中で語られる――

「あたしもっともっと傷ついて岬に会いたい」

 ――というセリフが今作を象徴している気がして。


 ん?
 いま気付きましたけれど、どの掌編も「幼馴染み」といった関係であるのかも?
 その関係がずっと続いていたというものではなくて数年ぶりに再会したというケースがあるにしても、「幼い頃の相手を知っている」というトコロがポイントかも。
 んー……。
 これはオタには大好物のシチュエーション、ですか?(^_^;)



 どのお話も要約すると恋が終わることを描いているので、いつものわたしなら「投げっぱなし」と揶揄するかもな結び方なのですがー。
 いいや、違うねこれは!(笑)
 ラスト、きちんと新しい恋への予感をカンジさせられますもん。

 終わりがあって、次へと歩き出せる。
 そんな余韻がステキな作品なのです。
 


4
『純潔ブルースプリング』 十文字青

 愛に飢えていた高校生が、本当の愛を探すお話。
 ……だよね?
 ちょっと物語の軸がどこにあるのか見えにくくて(^_^;)。


 高校生の身空で「本当の愛」なんてわかるのかいな?とも感じないワケではないのですけれども、彼ら彼女らは高校生という年代においての本気で探している、求めていると感じます。
 だいいち、歳をとって大人という立場になったからといって「本当の愛」がなんであるのかわかるとも限りませんし。
 そこはもう、探している、求めているという行為を実践しているだけ、彼らのほうが真摯であるなぁ……と。


 短編とも呼びにくい掌編を幾つも積み重ねていって物語るスタイルは珍しいカンジ?
 サクッと終わるエピソードが連続していくので適度な流れ勢いを生んでいるな〜……とは思うのですが。
 反面、それぞれのエピソードについてもうひと味っちうか深み?が足りない印象も。

 うーん……これは一長一短なのかなぁ。
 んでも、つまるところは視点を切り替えて語りつつ大きな流れへと集約されていくスタイルであると思うので、もう少しまとめられたのではないかなぁ……とカンジます。


 それでいて終盤では思いっきり急いてしまっているのですから、いよいよもったいないというか……。
 事件、事態を解決するために設定を付加するのは、あまり良い気持ちはしなかったデス。
 その設定で勝たせるなら、もう少し事前に情報を出しておいてほしいー。


 途中までの青春的な流れは悪くはなかっただけに、物語を収束させるために用いた手法が残念でなりません。
 まぁでも、改稿したとはいえこれが投稿作っていうのですから、ここからの成長を楽しみになれるセンセ……なのかな?
 ちょいと既作品について興味が湧いてきました。
 

3
『贖罪』 湊かなえ 著

 十数年前、静かな田舎町で起こった少女殺人事件。
 事件の関わった者たちが「あのとき他に何が出来たか」「どうすれば良かったのか」と懐古の念に囚われ、現代までその想いを引きずってしまう悲劇。
 忘れようとしても忘れさせてくれない呪いのような想いが向けられ、それがまた次の悲劇を生む連鎖となってしまうという……。


 当事者の独白で過去の出来事が明らかにされていくというスタイルは『告白』でもお馴染みの湊センセらしい構成でした。
 ただ、そのぶん内容をどうしても『告白』と比較してしまうのですよねー。
 んー……正直、明らかにされていく展開、真実などが凝りすぎているカンジがして。


 個々のエピソードとしてはそれぞれが興味深い内容を披露されていっているのデスヨ。
 でも、エピソードをつなぐ大筋の中での要素がわかりにくいような……。
 凝っているようでいて、しかしそのせいで迂遠すぎるっちうか。


 今作は、事件当時その場に居合わせながら愛娘を救えなかった同級生たちを「人殺しと同じだ」となじる母親と、その言葉を呪いのように受け止めてしまいその後の人生を「贖う」ために生きることになってしまった同級生たちの悲劇なのですよね。
 誰が悪かったというものでもないのだけれど、かといって全て善かったワケでもなく。
 もちろん確かな「悪」は犯人であることは間違いないのですけれども。

 善でもなく悪でもなく、ただ世の中ってうまくいかないものだなぁ……というやるせなさを感じるのもセンセの作品の特徴ですか。


 特徴といえば「大衆の無作為の悪意」みたいなものもありますね。
 集団心理の凶暴性というか、無責任であるがゆえに放たれる善意を装った攻撃性というか。

 生徒を助けるための行動について激しい非難にさらされた教諭の──

──あなたたちの子どもなど、助けなければ良かった。

 ──という声はあまりにも痛烈です。


 行動を起こせば必ず結果が発生します。
 結果があれば、大衆は各々が好き勝手に自分の気持ちをぶつけることができてしまいます。
 それが、いまの世の中でいうところの「自由」というもの、らしい、ですから。
 批難を望まないのであれば(望む人なんているのでしょうか?)、行動しなければいいのです。
 行動しなければ結果も生み出されませんから。


 世界に漂う停滞感というものは、そんな「自由」な空気が生み出したものなのかも。
 


2
 
『葉桜が来た夏5 オラトリオ』 夏海公司 著


 ありがとう。
 読み始めてすぐにそんな気持ちが浮かびました。

 この本は、きっと、恐らく──いや絶対に大きな売上を残すような「商品」ではありません。
 説明も、解説も、そして前巻からの引きを取り繕うような散文もなにもなく、冒頭から始まるクライマックステンション。
 これはもうこの作品は「ここまで付き合ってくれた読者のみをターゲット」にしているものだと感じられたのです。
 それは読者への贈り物といって良いくらいです。

 もちろん作品を完結させることは著者にとっても利あるところです。
 なので一から十まで読者へ贈るものではないとは思いますけれど、それならばそれで「著者と読者のみが共有できる世界」がここに存在していると言えると思うのです。

 最初に言いましたように、この作品の売上は決して芳しいものではないでしょう。
 でも、それを見越してなお刊行まで辿り着けた編集サイドの尽力と判断、そしてきちんとした形で完結させてくれた夏海センセに感謝したいです。


 そんな気持ちにさせられてしまったので、水無瀬一佐率いる反アポストリの先鋒<水車小屋>の暗躍が結果を見せ始め、アポストリ側が次々に追いつめられていく状況から展開していく冒頭でもう興奮ですよ!
 そうした現状を眺めなにが最も自陣営の利となりうるのか、自分の利となるのか見定めようとする者たち。
 踊る会議と、猛進していくタカ派の一団。
 腰の重い日和見を動かすために、そしてタカ派の動きを牽制するために、学たちの一進一退の攻防が緊迫感あってもーっ!
 
 ひとつの問題をやりこめたと思って興奮していると、すぐにそれを打ち消す厳しい現実が待っていて落ち着くヒマも無いったら!(><)
 今巻はもうずっとそんな上げ下げテンションでした。


 それでも諦めずに次々と問題を乗り越えていく学の姿には素直に感動できましたなぁ。
 このシリーズって、なんの力も持たない高校生が、自らの身一つで諸問題を乗り越えていくところがスゴイと思うのです。
 それも火事場の馬鹿力といったものですらなくて、知恵と勇気と優しさの執念で乗り越えていくのですよね〜。
 設定段階で構築しているのではなく、文脈の中で、あるいは物語の中で答えを明らかにしているっちう。

 軍事モノはライトノベルでは大成しないと感じていますけれど、理詰めできちんと物語を構築できる人が少ないせいでもあるのかなー……と思ったりします。


 そんな次第で善戦しながらも追いつめられていく学たち親アポストリ派および親人類派ですが。
 終盤へ向けての大逆転劇を生む伏線があちこちに見えていて。
 これがまた熱いったらないですわー!

 これまで学と関わってきた人が学を通じてひとつの流れになって反撃の狼煙を上げて。
 才能っていうのは物理的にどうこうできるもの「だけ」ではないのだなぁ……と。
 それだけを才能と言ってしまっては、学が勝つ理由なんてなくなります。
 学が活動してきた全ての結果が、ここにひとつに集約されていくのです。
 個性という面だけの「キャラクター」ではなく、南方学という「人間」が今作では描かれていったのだなぁ……と感じます。


 で!
 そんな緊迫した状況が途切れなく続いている状況であるにもかかわらず、しっかりと絆を結ぶ学と葉桜のラブっぷりも、もうねもうね!!!(≧▽≦)
 「あのシーン」では、もう、どこのハリウッド映画かと思いましたよ!(笑)

 しかぁ〜も!
 灯籠参事官がここにきて急展開!
 いや、学に固執していたようなトコロを鑑みるに、それもまぁわからないでもないですか……。
 ここらあたりのこと、どうなのかなぁ……。
 どうなっちゃうのかなぁ……。
 外伝求む!(笑)


 主人公は走り出し、ヒロインは主人公を信じ、そして彼の名のもとへと集うオールスターキャスト。
 まさにクライマックス。まさに大団円。
 ここまでの勢いが止んで、ホッと余韻にひたれるラストでした。


 そしてエピローグ。
 今回の事件は終息しましたけれど、また再び同じようなことが起きないとも限らないワケで。
 それは人間とアポストリの共棲関係が変わらない限り変わらないばかりか、生物の種として背負った業が運命付けているのかも。

 それでも学と葉桜は手を取り続けていくでしょうし、そうした姿は違う場所でも見られるかもしれない。
 一年前の夏に出会ったふたりが、また夏を迎える頃にこうして世界の行方を変えるような存在になれた。
 出会いが、世界を変えたのです。

 なんて見事なボーイ・ミーツ・ガール。
 ステキな物語をありがとうございました。
 夏海センセの今後のご活躍を期待しております。
 


1

『ステップ』 重松清 著

 若くして妻に先立たれた男性が遺されたひとり娘を男手ひとつで育てていくなかで、娘の成長に時間の流れを感じつつ、時間とともに変わっていくものと変わらないものを感じていくお話。

 うああああああぁぁぁぁ……!!!
 なんていうのかなー、「間違えなかった『汐 篇』」って言うのかなー(人生)。
 パパさんの健一さんの努力とか、愛娘の美紀ちゃんの健気っぷりとか、もうねもうね(TДT)。


 この世界はお役所が言うところの「標準世帯」に属さない家族には生きにくい世界であると思うのです。
 そうした世界で生きていくには、いろいろと障害があったり理不尽なことがあるのですよ。
 残念なことに非「標準世帯」の家族が感じる想いについて「標準世帯」の人は気付きにくいのですよねー。
 もちろん非「標準世帯」の側が、それを気付かせないように振る舞っている部分も小さく無いのですけれど……。

 でもね、そうした気付かない想いは絶対にあるし、抱えているものなのですよ。
 誤解されると困るのですけれど、それを無理にわかってくれというものではないのです。
 「標準世帯」とされる家族にも実際には様々な形があるように、そうした1形態として受け止めて欲しいということなのですよ。


 たぶん、こういうことを言うのは今作の主旨から外れてしまうのかもですが、それでも言いたくなってしまった次第。
 父子家庭や母子家庭の方々はいろいろな困難が襲うでしょうから、困ったときは「困っている」と言って良いと思うのです。
 自尊心が許せる範囲で。
 ゆずれないものは必ずあると思いますし。

 母の日のためにお母さんの肖像を書きましょうと授業する小学校教諭。
 うん、まぁ、それ自体は教育の一環ですし決して配慮に欠けているとは言いませんけれど、亡くなってしまった人だからといって「死んだお母さんはもう家には居ない」と言ってしまうのは配慮に欠けると思うのです。
 それは自分が「標準世帯」で生きてきた、気付かぬうちに潜む驕りではないかと。

 そーだよ、ウチのママ、しんじゃったんだよ、でもいるんだもん、ずっとウチにいるんだもん、あんたたちのママってしんだらいなくなっちゃうの? そんなのだめだよ……。

 幼いながらもそれを言える美紀ちゃんの感性に涙(T▽T)。
 で、そうした感性を大事にしていくパパさんの健一さんも立派デス。

「美紀はこれから、思い出すたびにつらくなって、悲しくなって、寂しくなると思います」
「……忘れるさ、すぐに」
「忘れません」
 強く言った。義父は、わかったわかった、と苦笑交じりに目をつぶる。
「でも、つらい思い出に触れるたびに……美紀は、優しくなってくれると思います。いまよりももっと優しくなって、生きることに一所懸命になって、そういうふうに一所懸命に生きているひとたちのことも、ちゃんと尊敬して、愛して、愛されて、……そんなおとなになってくれると思うんです」

 ああああ……(T▽T)。
 
 二歳児保育から始まって小学校を卒業するまでの10年間。
 確かな歩みでもって生活していく父娘の姿を情緒豊かに描いています。

 もしかしたらこれを欺瞞って指摘する人もいるかと思うんです。
 夜泣きをあやす苦労とか、急病で仕事を休まなければいけなくなるようなこととか、辛いことはほとんど描かれていないという理由で。
 うん、それはそうかも。
 現実的な部分から、視線をそらしている感はあるかもです。

 んでも、ですね。
 わたしは健一さんと美紀ちゃんなら、そうした描かれなかった部分の辛さも乗り越えていったのではないかと思えるのです。
 なにもふたりがとても優れていたから……という理由ではなく、当然、周囲の理解と協力があったから乗り越えられたのだと思います。

 優しい祖父母の存在、教訓を授けられた人との出会い、信じている信じられる人の想い。
 そういった縁が、ふたりを育んでくれたのだと。
 そういう物語だと。

 そうした出会いや存在を、これまた「運が良かっただけ」と評するかもしれません。
 そうですよ。
 ふたりは運が良かったんですよ。
 でもね、そうやって与えられた幸運は周囲の人たちが生み出すことの出来た幸運なんです。
 わたしにも、あなたにも、誰しもその幸運を生み出して与えることができるんです。
 誰かにとっての幸運を作り出すこと、それが優しさというものではないでしょうか。


 世界はもっと優しくなれる、そう考えた作品です。
 

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