○● 読書感想記 ●○
2009年 【5】

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20
 
『暴力風紀委員のオキテ!』 渡邊裕多郎 著

 腕に憶えある自称“正義の味方”が、自分勝手に「悪」認定した相手をバッタバッタと打ち倒していく活劇モノ……とでも言えばいいのかしら。
 わたしからすれば主人公の“正義の味方”なんて言い分は全く同意できないものでしたし、「悪」を破る方法論にしても不快なものでした。

 なんちうか、主人公が目指すところの正義とやらが陳腐過ぎに思えるのです。
 「タバコを吸いたければ二十歳を過ぎてからにしろ。高校生の分際で喫煙しているオマエらは『悪』だ」というあたり、もうどう言って良いやら。
 つまり彼自身の理念とか思想とかそういう部分は無くて、社会法規を遵守することが正義……なんですよね?

 正しいことをしている自分に言いがかりを付けてくる輩はすべからく『悪』。
 クズを逮捕して市民の生活を守った警察は『正義』。

 うーん……。


 そうして『悪』認定した相手を倒すやりかたも「最後に勝つのが正義」理論でなんでもありのやりかたで。
 金的、不意打ち、目つぶし、なんでもOK。
 「始め」の声が掛からないとスタートできないスポーツは軟弱モノ。
 でも「さすがに女の髪を引っ張り回すのはできない」そうで。
 お優しいことですね。


 唯一、賞賛できるとしたら過去に遭った事件を教訓に鍛練を積んで「守れる強さ」を得たことでしょうか。
 でも、そうして得た強さを“正義の味方”だと吹聴してひけらかすようにしている態度が安っぽく見えるのかなー。
 「守る」ことがいつのまにか「討ち滅ぼす」ことに転化しているんですよねー。

 わたしはその態度や行為や思想を暗愚だと感じて、いつかそれが正されることを期待して読み進めていったのですけれど、それは叶わず。
 小さなドローはあったにせよ主人公は連戦連勝、ひたすらに己の正義を邁進していくのです。
 さしたる困難も無くラスボスをも討ち滅ぼし、今作の世界では主人公に敵う存在が居なくなりまさに彼が「法」となったのです。

 うーはー……。


 ヒロイン格の女の子がふたり登場していても、どちらも「女の子」という以上のポジションは与えられなくてこれといって活躍も見られずというのも安っぽいっちうか。
 「駒」というレベルにとどまって、生きているキャラクターには感じられなかったデス。

 展開もキャラクターも、わたしには信じられない作品でした。

19
 
『世界がぼくを笑っても』 笹生陽子 著

 周囲にはほどほどの関心しか寄せず協調性に富むとは言い難い中学生のクラスが、ひとりの風変わりな新任教師の登場によって引っかき回されるお話。

 定番ですとその教師を中心にクラスがまとまりを見せて、なにかひとつの物事に対して向かっていく……というようなものがあると思うのですがー。
 こと今作においては、そういう達成感のようなものは極めて薄い、かな?

 加えて、多感な年頃の中学生が事件をきっかけに成長を見せるようなお話でもありませんしー。
 風変わりな教師の相手をしているウチに、子どもである中学生側が大人にならなければいけないという強制的な部分はカンジましたけれど、それって成長とは違いますしねぇ……。
 必要であったから、そういう立場をとらなければならなかっただけで、能力的、精神的には彼らは子どものままなのですよね。
 今回の件でなにかを得たという証を立ててはいられてないっちう。


 ただの日常を切り取った……とまで言うほどには平凡ではないにしても、かといってドラマティックであったかと言えば、うーん……となってしまうのですよねぇ。



 んでも、そうした作品であったとしても、読後感はそこまで悪くはなかったのです。
 中学生の中学生然とした雰囲気と世界の中できちんと物語がまとめられていたので。

 これから大きな物語が始まるような予感は抱けなかったとしても、中学生のある一部分のリアルを丁寧に描いた作品でありました。
 

18
 
『あまうさ 〜ツキニウサギ〜』 黒田百年 著

 「日本神話」+「SF」というモチーフで、神様と人間(ほか生きとし生けるもの)が共存している背景……まではわかったのですけれど。

 この時代、人類が銀河の片隅でひっそりと暮らしていたのは過去のもので、いまや宇宙を駆けめぐる宇宙市民の一員となっている次第。
 地球外の知的生命体に遭遇している事実はもちろんのこと、しゃべるネコだって登場してスペースワイドにコスモポリタニズムが展開されているわけですがー。
 そうして多種多様な知的生命体が存在しているなかで「神様」という存在について『「日本神話」に立脚する存在』という以上の説明がなされていないのが不思議で……。


 そもそも「日本神話」という部分についても、物語の枠外から眺めている読み手のわたしには理解できるところであって作中での位置付けが証明されているワケではないハズだと思うのですがー。

 冒頭で語られる、旅立つ戦艦を見送る神様と退役軍人の図、は興味深く思えたのですけれど、それ以後もどこまでも雰囲気優先で進められてしまうことには疑問を抱いてしまったかなー。



 そのほか、宇宙にはクジラなる未知の存在がいて奔放に泳ぐ彼らが宇宙を航行する人類に障害を及ぼしている……とか、面白そうなガジェットを組み込んではいるのですけれど、んー……いろいろと足りていない気が。

 これが1巻ということなので次巻以降にゆだねられている部分が多分にあるとはわかっていても、少なくとも今作だけでまとめられる、まとめる必要がある部分についてきちんとされているような印象は受けなかったのです。
 


17
 
『さよならの次にくる 新学期編』 似鳥鶏 著

 いいね、いいね〜。
 ひとときも落ち着くことのない、賑やか続きの学園探偵ライフ!(笑)

 前作「卒業式編」で表された謎めいた部分が、展開が進むにつれて意味と重みが浮かび上がってくるという。
 「爽快なフィナーレまで一気呵成に突き進む」とのコピーに偽り無しですわ〜♪


 個々の小話におけるトリックは極めてベーシックなものばかりだと思うのです。
 だもので一見すると易しいミステリかと思ってしまうトコロなのですけれど、やぱし本質を知るには「卒業式編」と併せないとダメですよね〜。

 続けてみると前作と今作で「起承転結」がきっちり成されている感が。
 全体のくくりでみた「謎」は前作でしっかりと提示が済んでいて、それでいながら今作では新キャラ登場して伊神さんも居ないという急変事態からのスタートで、まさに「転」。
 さらに全てが明らかになって物語が集束していく後半は、「結」としての形が見事に表されているっちう。

 前後編として著しているのではなく「卒業式編」と「新学期編」。
 前後編となっていると後編が明らかになるまで作品としての体が成されない印象を受けるのですけれど、今作においてはそれぞれが独立して作品として独り立ちしているのですよね〜。
 しかし併せてみたときはより大きな物語が形作られていることに気付くわけで……。
 アイディア賞的なトコロもあるでしょうけれど、この構成力は評価されるべきだわ。



 新キャラの希ちゃんの登場によって柳瀬先輩の立場にも緊張感が(笑)。
 攻めているようでいて確かなところまでは踏み込まない先輩の態度は、ミノが言うところの「ウチの部長もグズグズしてるから……」というセリフに集約されるものでしょうねぇ……。

 まぁでもしかし。
 柳瀬先輩って部分的にはきちんと乙女しているオンナノコですしねぇ。
 そこまでストレートには表現できたりしないですか(^_^;)。
 それにまだなにか隠している部分もあるように感じられるので、読み手が受ける気持ちがそのまま当てはまるのかも微妙なトコロかもですしー。

 葉山くんの鈍感さも少し異常なくらいでコメディ過ぎるところがあるのですが。
 でも、そういう彼でなければ柳瀬先輩の気持ちもある程度まで表面化しないといけなかったでしょう。

 物語から要請される部分があるにしても、キャラ造形がきわめて理にかなっているのだなぁ……と思わされます。



 卒業しても伊神さんは気軽に登場してきてますし、シリーズとしてはまず安泰でしょう(笑)。
 希ちゃんが代わってその役を担うかもですしー。
 あとは葉山くんがオトコを上げる展開が――(^_^;)。
 今後が楽しみなシリーズです。
 

16
 
『胡蝶の失くし物 僕僕先生』 仁木英之 著

 シリーズ第3巻となったのですけれどもー。
 んー……。
 僕僕先生と王弁の関係に新しい展開が無くて物足りなかったというのが正直なトコロ。
 物語は薄妃と新キャラの暗殺者 劉欣に大きく割かれているので展開だけでなくふたりの絡みも少なかったような……。

 薄妃と劉欣、それぞれのお話を通じては、人間の業とか徳のようなものを説いている感があって、前作までより「語る」部分を強く感じてしまったかも。
 人より話にウェイトがかかっているっちうかー。


 そんな流れでカンジたのは、物語をまとめにはいっているのかな?……ってことでした。
 薄妃の件は今作でひと段落したハズですし、劉欣の存在は王弁の今後へひとつの指針となっている……ような。
 僕僕先生との身分差を超えるにはどうしたらよいのか、の部分で。
 超えられないかもしれないし、超えられるかもしれないといった可能性を感じさせるトコロであるのですよねー。

 もっとも作品としては超えられようが超えられまいが、ふたりが共にあり続けることが大事であってどちらにでも転がっていけるのでしょうけれど(^_^;)。


 とはいえ劉欣のほかにも旅に帯同する新キャラは登場していますし、物語は続いていくような気配もあります。
 はてさて?
 

15
『ジュリエットと紅茶を -ようこそ呪殺屋本舗へ-』 神埜明美 著

 理由や動機が存在していても、それが物語に追随していくか……っていうのは別の話ですよねぇ、と。
 あー、違うか。
 「呪術を使えば簡単だけどそれは人殺しのワザだから使いたくない」ってのが理由となってますけれど、なぜその考えに至ったのかまでを含めた背景がわからないのですよー。
 これは「人殺しのワザを使うのは倫理に反する」という一般常識を当て込んだ上での展開ではないかなーと。

 もちろんわたしは人殺しを肯定するわけではありません。
 んでも、その反対に肯定する人もいるでしょうし、みなが人殺しのワザを否定するかと言えば絶対とは言い切れないっちうか。
 それって人それぞれだよなぁ……と。

 世の中には、他の誰かを殺してでも叶えたいことというのが「もしかしたら」あるのかもしれませんし。

 だもので「人殺しのワザ」を否定するだけの背景が主人公の鏡花には欲しかったと思うのです。
 てか、それがキャラクター性ってもんじゃ……。


 相棒の康祐の行動原理はお金ですし、このふたりがどうしてここまでつながっているのかわからなかったデス……。



 「コンゲームものをやりたくて作りました」とあとがきにあるのですけれどー。
 そういう言い方をすると先行する物語にキャラクターを当て込んだ感がますます強まって……。

 どちらにしてもキャラクターが「小道具」のようにいいように扱われていた感はいなめないかなぁ……。
 

14
『フリーター、家を買う。』 有川浩 著

 家族に緊急事態が発生して初めて自分がうぬぼれていたことに気付いたフリーターが、そこから家族のために一念発起して立派な社会人を目指すお話。

 社会の既定路線からいちど外れてしまった人間が再起を図るには、日本社会はいかに難しいのかという……話だけじゃないわなぁ(^_^;)。
 もちろん社会のシステムがそうであるという面は否定できませんけれど、しかし問題の根底は増長し肥大した自尊心と周囲の気配を察しない鈍感さという個人に帰結していると思うので。
 それはもう愚鈍って「悪」なんじゃないかって言っていいくらいかも。


 だけれども、そうした愚かな部分が満載である主人公だったからこそ、底辺からの這い上がりが物語になるワケで。
 わたし自身も「自尊心と愚鈍さ」を併せ持つ人間なだけにグサグサときたわー。
 それでも主人公である誠次は這い上がっていったのですよねぇ……。

 これは……自分との差を考えてしまうと、ちょっとツライお話だったかなぁ(T▽T)。
 当初は親近感を覚える方向で気恥ずかしい主人公なのですけれど、その後の展開では自分には追いつけない速さで成長していく姿を見せつけられる気まずさで見ていられないカンジっちうかー、ちうかーっ!!!

 生まれが違うヒーローなら憧れの対象になり得るのですけれど。
 こうまでスタート位置に差が無いと、憧れを通り越しちゃって眩しくて見ていられませんよ……(TДT)。


 まぁ、有川センセはべつにお説教じみた目的で今作を上梓されたワケではないでしょうけれど。
 でもフィクションとして生き方の可能性をひとつ示されてしまうと、どうにも我が身を振り返らざるを得ないのですよねー。
 いや、もう、こんなことを言っている時点で立ち止まっちゃっている感が全開なのですけれど!

 わかってるんよ? わかってるんよ!!!(><)



 そんな次第で彼の生き方に考えるところが大きかったので、中盤以降の正社員へクラスチェンジした話や仕事で活躍していく話は、なんとなーくオマケ感を覚えてしまったのでした。
 そこで仕掛けられた展開の妙とか、飛躍するための着想などは有川センセらしい視点のモノで楽しいとは感じてましたけど!


 嫌味な言い方をすれば「フリーター状態では家を変えていない」のですからタイトルに偽りあとも言えるワケで(これは重箱のスミだとわかってますけどー)。


 ダメだった自分を脱してからの、いわゆる成功譚ってさぁ……なんか、こう、遠い人に感じてしまって(苦笑)。
 「へー、そうなんですか。すごいですねー」って考えてしまったところが無かったとは言わないですよ! ええ!
 ……どんだけ卑屈なんだ自分(T▽T)。



 そして有川センセといえばベタ甘ラブですが(笑)。
 ラブ分もねぇ……。
 有川センセにしては濃度低いですし、そういう点からもちょっと……なカンジだったかも。
 日経新聞の書評で「恋愛要素も面白い」みたいな書き方をされていて、有川センセはそっちが主題だろ!とか思ったのですけれど今作においてはスパイス程度の味付けしかされていなかったワケですしー。
 いつもの通りを期待していたら、少し物足りなかったっちう(^_^;)。


 良い作品ですし面白いと思いましたけれど、好きになるには難しい作品でした。
 読み手個人が置かれている環境に感想が左右されそうな作品だと思います(^_^;)。
 


13
 
『ピクシー・ワークス』 南井大介 著

 うっはー! 気持ちイー!!!(≧▽≦)
 なんですか、この突き抜け感は!

 およそ高校生とは思えない技術と知識をもったオンナノコたちが忘れられていた遺物と出会い、再びあるべき場所へとそれを送り返すために奮闘するお話。

 その遺物っていうのが先の戦争に生み出された無人戦闘機!
 てことは戦闘機があるべき場所ってのは当然、大空!
 遵法精神なんて知ったことかとばかりに、オンナノコたちはマッドサイエンティストさながら自分たちにできることの全てを行使して戦闘機を空へと還すのです!


 サイエンティストっていうより工学系かな?
 だから正しくはマッドエンジニアリングなんでしょうけれど、しかし「オンナノコ×エンジニアリング」の魅力ったらないわ!
 描かれることが少ない組み合わせのせいか、もうそれだけで個性的。

 しか〜も!
 そうした表面的設定のみならず、性格や気質などの内面的設定も各人個性的!
 快活で大胆な思考ながら気配りに長ける芹香、おっとりしたお嬢様風ながら譲れないことには異常に頑固でわがままになる奈緒子、何事にも真理を求める厳格さがありながらそれ故に裏表が無いためどうにも憎めない千鶴。
 マッドエンジニアリングの才能を持つのは彼女たち3人なのですけれど、さらに彼女たちのあいだに放り込まれて右往左往しながらも自分にできることを果たす真面目な由衣が加わることで、物語が賑やかに駆け抜けていくのですよ〜。


 あ、忘れちゃいけません。
 遺されて死を待つだけだった戦闘機「ヴァルトローテ」の存在を。
 この物語は世界の可能性を信じるオンナノコたちと希望を持ち続けた人工知能との交流のお話でもあるのです!
 ヒトではない知性との交流譚!
 もう、大好物がいっぱいすぎるわ!(≧▽≦)


 いろいろと事情が重なってヴァルトローテを空へと還すミッションが夏休みの期間内に収まったのもGOODですねぇ。
 「ひと夏の物語」としての側面もノスタルジィをあおってきますし〜。

 ミッションの行方、そして期間。
 どちらの要素でもカウントダウンが進んでいって、物語を加速させていってるのですよね〜。
 これは引き込まれる〜(^-^)。



 ただし作品としての完成度が高いとは簡単には言えないと思うのです。
 上記のオンナノコたちを冒頭部分で紹介していくくだりはどうにも複雑な気がしますし、同様の描写や表現を繰り返し用いているところもあります。
 なんていうか、語彙が多いかたでは無いのかな〜って印象が。

 で、も!
 そんな瑕疵に感じるところを補ってあまりある展開構成の妙ですよ!
 語彙なんてものはあとから増やせば良いだけですし、重複する表現も注意して修正していけば良いのです(だから編集さんがんばってと言いたいのですが……現在のポジションでは無理かなぁ)。

 例えるなら。
 冷蔵庫の中に食材がたくさん入っているからって美味しい料理ができるとは限らないわけで。
 冷蔵庫の中に入っている食材だけで美味しい料理を作ることこそ、料理人の腕の見せ所ってもんでしょう!



 こういった工学系、あるいはミリタリ系の作品って、たま〜に登場してきますよね電撃文庫は。
 でも主立った賞はとってきていないので、審査員には受けが悪いんでしょうねぇ……。
 学園異能だか現代風ファンタジーが跋扈するなかで、やはりかなり異色で個性的だとは思うんですけれどもー。
 もう存在だけで価値があるっちうか。

 んでもこうして拾われてくる、たまに刊行されるってことは、「売りたい」って考えている人が編集サイドでいらっしゃるんでしょうね〜。
 がんばって〜♪(笑)


 まぁ、それでも今作に限って言うなら、受賞できなかったというのもわからないではないなぁ……という部分はあります。
 先述した語彙の部分ではなく、構成の部分で。

 結局、この物語はオンナノコたちの持てる才能でどんどんと突き進んでいって、ピンチたるピンチに遭わないままに完結してしまうのですよ。
 それは若い世代へ向けたライトノベルの方向性としては合わないのではないかと。
 法を横目に己の才覚だけで世界を切り開く……なんて、ピカレスクロマン過ぎるのではないかと(笑)。

 加えて、唯一と思えるクライマックスでの窮地においては、イヤーボーンとは言わないまでもデウスエクスマキナの登場?で回避してしまうのですから、少なからず強引との印象を受けました。


 んでも成長譚ではなく交流譚、しかも痛快娯楽小説だと思えば作品としての形は十分に整えられていると思います。
 オンナノコたちのかしましい様子や、人工知能との意思疎通、エンジニア方面への深い造詣、さらには息詰まる空戦のダイナミズムたるや!(><)

 バンビあたりでアニメ化してくれないかしらかしら。
 ほら、「雪風」つながりで(笑)。

 目立つほどではないのですけれど、既存作品のパロディやらオマージュやらを所々に持ってきています。
 こーゆーの嫌いな人も居るかもですけれど、今作では直接的に記すことはしていませんし、「戦前の文化」というニュアンスで用いているので時代の隔たりを示唆することにもひと役かっているかと。
 わたしは良いスパイスだと思いましたよ、うん。



 イラスト、バーニア600センセも良い仕事してます!
 若干ディフォルメかかったスタイルですけど、バランスは取られてますしむしろ身体美の魅力を強調している方向かな?
 人物のみならず小物アイテムから大物の戦闘機まで描ける技術の高さをうかがえますし、このかたであったからこそ今作もここまでの輝きを持ったのだと思います。

 こう、オンナノコが集まった作品ですと「誰が好き?」話に花咲くとは思うのですがー。
 今作を考えると……く、苦しい。
 みんな魅力的なんだもん!(ワーイ)

 ……あ、あえて平均的バディの千鶴と言ってみる(^_^;)。



 これまでの状況を鑑みるに、落選組からの浮上は大変難しいと言わざるを得ないでしょう。
 でも、このまま埋もれさすには惜しいと叫びたく!
 いちおう続編の展開も可能な結び方をしていますけれど、いや、もう『ピクシー・ワークス』でなくても良いです!
 南井センセの次の作品を拝めるのでしたら、ホントに!(≧△≦)

 お願いしますよ、電撃編集部のかたがた……マジで(T▽T)。
 


12
 
『クイックセーブ&ロード』 鮎川歩 著

 なんていうのかな……。
 すごく素直な気持ちで書かれたんじゃないかなって気がします。
 ひとつの作品を作り上げるために全力を傾けている一心さというか。

 シンプルなんですよね、お話自体。
 男の子が勇気を振り絞って、傷ついた女の子を救い出す物語。
 しかもベースガジェットがタイムループものって、そりゃもう手垢が付くほどに使い込まれたガジェットじゃないですか!
 それでいながら退屈することなく読み進められていったのは、おそらく描くことへの強い想いがここにつまっていたからじゃないかなぁ……と思うのです。
 次どうするかとか考えて無くて、今作だけを至高の作品とするべく。


 実は読み始めてすぐに「ああ……(苦笑)」とか思ってしまったのですよー。
 なにしろタイムループものでしょう?
 さらには「人生でゲームのようにSAVEとLOADができたら」なんて設定、もう新鮮味なんてどこにも見あたらないじゃないですか。
 そんな倦怠感は先へと進むごとに振り払われていって、なにかに引かれるように気持ちも加速していったのです。


 幼馴染みに起こった悲劇を食い止めるために時間を繰り返す主人公。
 やり直しができる人生で、これまではなんでも思うように生きてきて、それゆえに退屈も感じていた主人公。
 そんな彼が、なんということか彼女の悲劇を救うことができないという事実にぶちあたって。
 何度も何度も時間をさかのぼり、様々な方法を手段を試してみるのに上手くいかず、募る焦燥感。
 全能の神を気取ってみても、所詮は女の子ひとりすら救えないちっぽけな存在だと気付かされる絶望。

 しかし!
 しかしですよ!
 諦めない! 諦めないのですよ、彼は!!!

 絶望の縁どころか絶望そのものに覆い尽くされそうになっても諦めはしなかった。
 不可能でないなら、それがどんなに小さな希望であろうと意味はある、価値はある。
 そう決断して実行する彼はオトコノコだわ〜。


 そしてこの大逆転劇を演じるための手段というのがキモですよね〜。
 いかに使い古されたガジェットといっても、「ココだけは!」という部分さえしっかりと組み入れれば、それはベタではなく王道の物語へ進化するという。
 まさに鮎川センセのオリジナリティの力、見せてもらいました。

 さらにはこのキモがきちんと某かとトレードオフを果たしている点も見事。
 それが少なくない悲しさと切なさを呼び起こすのですけれど、それでいながら彼は選び取るのですよね〜。
 人生を退屈していた彼が、その意味を知る瞬間ですよ。
 ハッキリとは表現されていなくても、この選択ひとつで彼の成長を読み取ることができると思うのです。


 正直に言えばキャラの扱いについては不満な部分もあるのです。
 でもそれは嗜好の違いだとわかりますし、なにより主人公の行動に間違ったところは無いので納得できるのです。
 なんて綺麗な物語の形なんだろうって思ってしまいましたよ!(≧△≦)



 読み終えてからあらためて表紙を見れば、なんて示唆的なんだろうかって気付かされます。
 構図とか絵柄とか、昨今のライトノベル業界の方向性からすると目を引かないデザインだと思うのですけれど、作品との親和性はハンパ無いです。
 まさに「この物語に、このイラストあり」と納得ですもん。

 白背景にキャラひとりをポンと置いただけのレーベルが多い中で、このデザインは一石を投じてるんじゃないかと。

 おまけにカラー口絵も挿絵も、それぞれが作中の展開と強い結びつきをもって描かれているように思うー。
 単に見栄えが良いシーンとして描かれているんじゃなくて、その絵があって更に物語が深まっていくカンジで。



 やー、ちょっと、これは次作を楽しみにしてしまうわー。
 ガガガ、おそるべし(笑)。
 

11
 
『ミスマルカ興国物語X』 林トモアキ 著

 うーん……。
 正直、ワクワク感とかドキドキ感が湧いてこなかったかなぁ……。

 これだけキャラがたくさん同時に登場している中で語尾口調だけで存在感を示すというのは不足過ぎるし、「護衛」とか「シスター」とか立場を表す語句で飾ってもしかし実はそれが表しているのは決して職分を示す立場ではないという。
 有り体に言えば「『護衛』と呼ぶのだから『護衛』」「『シスター』と呼ぶのだから『シスター』」って程度に思えてきたという。


 キャラが多く登場しているというのは視点もそれぞれに持っているということにもつながってきて。

 例えば林センセの『おりがみ』や『マスラヲ』でもそうした幾つもの視点で表すというのは行われてきたのですけれど、それにしたって視点から見える先の世界で対立項があって物語がそれぞれに描かれていたように思うのです。
 それぞれの視点にひとつひとつの小さな物語があって、それを多層化していくことでより大きな物語となっていくっちうか。
 それが今回は、単に同軸での事象の違いでしか無いような。

 また、視点の切り替わりの頻度が上がっていくのはシリーズ終盤に入る頃入った頃に顕著であって、それはクライマックスでオールスター勢揃いというような盛り上がりを見せることにもつながっていたと思うのです。
 んでも、いまはまだ『ミスマルカ』はそうした展開に入ってはいませんし、むしろこれからというトコロ。
 この時点でのこの描き方というのは……どうにも物語上で必要な情報が整理されていないような印象を受けます。


 マヒロ王子の死望主義は自虐を通りこして自棄すらカンジさせますし、厭戦主義も口八丁で丸め込める策も今回は不発だった印象(物語上は成功していても、作品としてはどうなの?という点で)。
 パワーインフレなんて、それこそいまさらですしねぇ、もはや……。


 物語の軸として「アイテム探しのロードムービー」が避けられないのだとしても。
 なにか整理する時期にあるのではないかと思うのです。



 ところで。
 今回、コンピューターっちうか半導体についての言及が目立ったように思うのですが。
 リビルドできたコンピューターからウィル子が甦って云々……って伏線じゃぁないですよねぇ?(^_^;)

 あと伊織の名を引く彼が気になります(笑)。
 誰の子なんだろう……。
 

10
『君が僕を どうして空は青いの?』 中里十 著

 ほほぅ……。
 「恵まれさん」という存在に祭り上げられた人に対して施しを行うと、それは死後の世界での裁きにおいて善行としてカウントされるという信仰があると。
 そんな「恵まれさん」に祭り上げられた女の子と、彼女の立場に興味を持った女の子の交流譚ってトコロかしら???

 民間信仰で童が神の遣いとして重用されることはままあって、そうした「この世にありながら異界の存在」に現世の平凡な童が友誼を結ぶってのも、なるほどなるほど〜……って興味深いお話でした。


 もちろん「恵まれさん」と祭り上げられた少女に異能的な力が備わっているワケではないのですが、それは問題ではなくて存在するコト自体が神秘であり秘儀であり力なのですよね。
 で、疑り深い現世の童は、そこにカラクリがあると疑いかかって欺くように親しくなっていくのですけれど、しかしやがては自分もそちらへと取り込まれていくという。

 民俗学的にとても面白い背景を用意されていると感じました。
 今作を「不思議ちゃん系」とかでくくってしまうのはもったいないです。
 こう、きちんと分析していけば、比較文化論の末端に位置づけられるんじゃないのかしらかしら?(それは言い過ぎかなぁ(笑))


 で、そういう小難しいんだか超越しちゃっているんだか判別つきかねる部分はしかし実はベースの要素でしかなく、主題は女の子が女の子に興味を持ったというお話なんですよねー!(身も蓋もない)
 これを百合とか言うのは簡単なのですけれどー。
 んでも中里センセの恋愛観って、こういうスピリチュアルな部分だけが存在しているんじゃないかって思ったりするわ。

 そんなこと言ってても今作では肌を重ねちゃったりしてるんですけど!
 いや、それでもさぁ!(笑)



 「どうして空は青いの?」 とは子どもが大人に向かって尋ねる問いです。
 光の拡散だとか理論を唱えたところで、それは「知識」の披露でしかなく、質問者が求める答えではありえないというところがキモですね。
 「森の中に音は存在するのか」という命題と同様に、この問いも「空は『青い』のか?」と言えるワケで。

 生まれつき視力を持たない人にとって、はたして「空は『青い』」のでしょうか?
 わたしが思う「青」とアナタが思う「青」は同じなのでしょうか?
 うーん……。
 認知感とか実証とか定義論とか、このあたりの問いかけも意義深いっちう。



 異界を疑い、異界に取り込まれそうになった子どものお話。
 「恵まれさん」は彼方へ旅立ち、わたしは此方に踏みとどまったから、この物語を語ることができた。
 そういうお話なのかなー。

 この様子では次巻は難しそうとしか言えませんが(笑)、この二つの世界の結びつきがどうなっているのか読んでみたい気がします。
 

9
 
『翡翠の封印』 夏目翠 著

 うー、あーっ!
 惜しい!!!(≧△≦)

 政略結婚で出会ったふたりが、初対面での行き違いで気まずい間柄になってしまったものの、お互いに聡明であることから間違いを正して仲良くなれたらいいな……って思い続けて行動するお話。

 そもそも政略結婚であると理解しているふたりですから、個人の感情の前に国家間の利益というものが立つと覚悟しているところがわたしには好感。
 まぁ現実には年相応のふたりが引き合わされることも、互いに好印象を抱く容貌であることも少ないとは思うのですが、それでは物語が興醒めしてしまうのでご都合主義とは言ーわーなーいーのっ!

 そういう奇跡的に好条件がそろったふたりが、通常なら出会うコトすら無かったハズのところを「政略結婚」という神の手でもって引き合ったのですから、それを運命と言わずしてなにを言うのかってカンジ(笑)。


 で、もちろん結婚してハイ倖せに過ごしました――ではドラマになりませんから、大過なく済んだハズの結婚式の直後から行き違いが起こって、お互いに嫌ってはいないのに許すこともままならないというモヤモヤした事態が展開されて、ああドラマだなぁ……と。

 その行き違いにしたってお互いのことを知る「読者」目線だと、とてもとても理解できてしまうだけに、ふたりの不器用さがイライラハラハラするのですよね〜。
 このあたりの見せ方は巧みだったと思います。

 さらにはそうした初対面時での失点を取り返そうと奮闘するふたりの姿がまた微笑ましくて。
 克己できる人はホント素晴らしいです。
 しかもそれが誰かを思い遣ることに対して向かう気持ちであればなおのこと。
 「読者」という外野からすれば、もう、応援したくならざるをえないワケで!


 そんなふたりのあいだをつなぐサブキャラクターたちもなかなかに魅力的。
 メイドのミリィとか将軍のダラスさんとか、イイ味出してますよね〜。
 「メイド」とか「将軍」とか設定上の立場があるだけでなく、彼ら彼女らにもしっかりとした意志があることが描かれている次第。
 キャラが立つって、こういうことなんだな〜って。

 まぁ、宰相のコーグさんとかはそのあたりでちょーっと割を食っちゃった感がありますけど(^_^;)。
 あれだけキャラ紹介ページで意味ありげに描かれていたのにねぇ……。



 で、そんなキャラクターが織りなす日常劇は大変に興味深かったのですけれど。
 後半になって描かれるアクションとか派手な荒っぽいシーンとかでのやりとりがどうもチープっていうか……。
 あまり躍動的とかそういう方面で魅せる筆致ではないと思うので、事件解決における展開描写は厳しいなぁ……という印象。
 これが「惜しい!」って指摘する部分です。

 事件解決の手段にしても思いのほかあっけなくというカンジで、キャラクターたちがなにかをしたから結果を呼び込めた……という能動的なものでも無かったような。
 せっかくそこまではキャラクターの意志が表現されていたのに、最後の最後で「規定内で物語を締める」という書き手の都合が浮かんでしまったカンジ。
 うーん……残念だなぁ。


 夏目センセにはこういう手段で解決されるような物語は似合わないのだと思うのです。
 どういう手段が似合うのか、まだセンセ御自身でもわかってらっしゃらないのではないかなー……という印象。
 もし、そういうセンセが得意とされる分野を見つけられたときは……と考えると、楽しみになれるかたであります。

 新シリーズも始まられているようですし、期待していきたいです。
 

8
 
『スタンドバイミー、スタンドバイユー。』 ごぉ 著

 んー……。
 なにかボタンを掛け違えているというか、歯車がかみ合っていない感覚が。

 自殺した幼馴染みが幽霊となって憑いている主人公。
 わたしなどはそれだけで物語が始まると考えてしまうのですけれど、今作のスタートはそこではないのですよね。
 「幼馴染みの幽霊に憑かれている」というのは日常扱い過ぎて始まりにもなっていないという。
 この感覚にはどうにも合わないものを覚えてしまうわ……。


 で、物語のスタートというのはどこからなのかといえば、「退魔師を名乗る北欧系美少女が同じクラスに転入してきてから」なのですよねー。
 で、その少女に憑依された幽霊を祓ってやると言われて動きだすワケですけれど。
 その前提として「幼馴染みに憑かれている」って必要だったのか疑問が。

 たしかに憑かれているのが幼馴染みである以上、祓ってやると言われてハイそうですかと簡単に納得できるハズもないので物語は転がっていくのだとは思うのですがー。
 そういう事実を負わなくても、ただの普通の人が同じことを言われても、その不気味さから同じように簡単には承諾しないと思うのですよー。


 そうして少女が転入してくるまで物語が動きださないために、序盤のもったり感っていったらもう……。
 「少女の幽霊と一緒に過ごす」ってだけでドキドキするドラマがあるハズなのに、そういう展開がまったくなくて当たり前の日常を過ごすだけなんだもんなー。
 これはちょっと、読み手に与えられた情報から導き出す期待とは異なると言わざるを得ないっちうか。


 物語の転換となる部分でも、この幽霊の幼馴染みはあくまで部外者なのですよね。
 ああ、いくつかあるトリガーにはなっているのかもしれませんけれど、少年と少女、どちらも過去に囚われているなかで因縁を断ち切って成長する物語において発揮する存在感は希薄に思います。

 幽霊だから成長する余地がないと言われればそれまでですけれど、何かを得て立場を変えるということは物語上において明示できるハズです。
 しかし彼女の立場は最後まで少年と少女を成長させるための「手段」「道具」でしかなかったのですよね……。



 うーん……。
 物語に奥深さを出すというのは、仕掛けを多くし複雑にするってことではないと思うんだけどなぁ……。
 


7
 
『煙突の上にハイヒール』 小川一水 著

 ぜっつみょーっ!(≧▽≦)
 小粋なテクノロジーに人情味を合わせて物語らせたら、小川センセは当代随一ですなぁ。
 荒唐無稽なSFではなく、きちんと現実に立脚した技術。
 それは「今日」を描いたものではないフィクションなのですけれど、「明日」には本当になるかもしれないリアリティを感じさせるのですよねー。
 この、「ちょっとした未来」をのぞく感覚がとても興味深いのだと思うのです。


 あー……。
 じつは「興味深い」ではなく「面白い」と述べたかったところなのですがー。
 今作ではそう単純に言い切れない部分を感じます。

 私見ですけど小川センセは「技術が今日の困難を救い、明日を作る」みたいな希望に向かったお話を作られることが多かったように思うのです。
 でも今作では「楽しいことも悲しいことも全部が現実にはあって、そのなかで技術と人はどう共に歩んでいくか」というあたりに迫られているのではないかと感じました。

 なかでも未知のウィルスが広まった世界を描いた「白鳥熱の朝に」は、昨今のインフルエンザの流行という現実相まって、けっしてフィクションだと受け取れない重みがあります。

 自分が、あるいは自分の知人が、その流行の発生源となってしまったら。
 慎重ではなかったかもしれないけれど瑕疵だと責められるまでのことはしておらず、ただ日常を生きていただけで責められる立場になってしまったら。

「笑うな三柿野芳緒! 泣け、死ぬまで泣いてろ! おまえ一生泣いてろよ!」

 責任の全てをその事実を持つ人に背負わせるのは酷というものです。
 しかし誰かに責任を負わせなければ、あるいは誰かを「悪」としなければ、突然倖せを無くした人にとってはやりきれないのでは……という気持ちもわからないではないのです。
 人間は、常に正しくあるように強くはできていないのですから。


 倖せを「奪われた」と表現することがあるのも、そういう理由なのかもしれません。
 自分たちには罪も落ち度もないのに(責められる立場ではないのに)という主張。
 そして「奪った」という能動的な対象がいるという主張。
 生きていればそれだけで倖せになれるはずなのに、そうならなかったことへの不満はどうしてもはけ口を求めてしまうのでしょう。


 ただこの話、絶対的に凹むような鬱話ではないのです。
 希望かどうかは人それぞれかも知れませんけれど、やはり小川センセは人間の善性を信じられているのではないかなーと思うのです。
 この世界には良いことも悪いこともあって、だからこそ人間にも善性が与えられていることを信じる。
 そんな思いがこの作品には込められているのではないかなぁ……。
 そう感じたのです。
 


6
 
『東京箱庭鉄道』 原宏一 著

 牛丼屋で出会った老人から依頼されたのは、東京に新しい鉄道を敷設するプロジェクト。
 予算は400億、期間は3年。
 十分とは言えない背景でも、夢のある計画に元広告マンが動きだす物語。


 はい、ダウト。
 そういう言い方が適切でないのなら、この作品は複雑怪奇に個々人の思惑が絡んだ現代においては夢は所詮夢でしかないということを示すものだと言い換えます。

 途中まで……途中までは本当に夢に向いて、希望を描いていたのですよ。
 それがなぁ……。

 限られた予算、厳しいスケジュール。
 頼りになるのは仲間たちの創意工夫!
 無謀だと思われる計画でも、各人エネルギッシュに挑んでいく様には少なからず興奮をおぼえました。
 でも、ね。


 途中から怪しいとは感じていたのですよねー。
 このペースで行って、どうやって残りページ数でまとめるのか……って。
 そして果たして転換点に届いたところで、なるほど納得。
 こういう答えに導くなら、中盤までのペースはきちんと計画されていたものだわ。

 そういった次第なので、物語構成自体には才があると思いました。

 んでも。
 「ダメ」の理由をもっともらしく語るような作品を、わたしは好んでいないということです。
 


5
 
『少年少女飛行倶楽部』 加納朋子 著

 生徒はみんなクラブへ入部しなければいけないという学校の規則。
 憧れの先輩が居るからという理由で友人に引っ張り込まれた先は、部員ひとりで正式にクラブとして認可されていない“飛行クラブ”。
 ヒトもカネもモノも無いクラブで、空を飛ぶために少年少女が冒険する物語。


 タイトルを聞いたとき、すぐに思ったのは「ファンタジーなのかな?」ってことでした。
 いや、普通に考えたら「空を飛ぶ」なんて簡単なことじゃないでしょう?
 もちろん機械工学とか学んでガチで物造りに励めば無理じゃないかもしれないですけれど、読み始めてすぐに主人公が入学したての中学一年生とわかって、そのセンもハイ消えた!って。

 となれば、いつか魔法的展開が……と構えていたのですが……。
 えーっと、はい、ゴメンナサイ。
 わたしが短慮で浅はかでした。
 中学生が本気でガチで「空を飛ぶ」ことに真っ直ぐに向かっていくお話でした。
 すごいわ……(´Д`)。


 いかにして空を飛ぶことを可能としたのか、それは伏せます。
 もちろんそれは魔法でもファンタジー的展開でもなく、ちょっとした偶然だけれど。
 でもそれだって中学生の彼女たちには叶えることが簡単ではなくて、時間をかけて少しずつ前へ歩んでいったからこそ叶えられたことなんですよね。

 「自分のちからで空を飛ぶ」
 その思いをバカだ無謀だと罵ることは簡単ですけれど、それが叶うときは必ず諦めない意志があるハズなんです。
 それでもさらにいくつかの偶然を呼び込む必要があるのだけれど、諦めない意志があればそれは偶然じゃなくて奇跡って呼ぶのだと思う。

 偶然ではなく、奇跡が起こること、起こすことを、物語って言うのだと思う〜。


 さらには中学生というポジションがまた物語に絶妙な意味を与えてます。
 たとえば空を飛ぶためにはやはり先立つモノ、お金が必要になるわけです。
 仮に高校生という身分であればアルバイトという手段が浮かび上がるのですが、中学生という身ではそれすら取れません。
 学校の規則が、とか、家の了解を得られない、とか、そういうレベルの話ではなくて、もう社会的に基本、無理。
 じゃあどうする……ってあたりで一捻りした展開があって、それがドラマになり物語に広がっていくのですよね〜。

 中学生だからいろいろな制約を受けてしまう。
 だからといって自由なほうへと逃げないで、物語的に解決を求めていく。
 う〜ん……こういう発想は唸ってしまいます。
 加納センセ、スゴイ……。


 お金のこと以外でもいろいろと制約を受けるワケですよね。
 中学生だから。
 子どもだから。
 でも、そんな理由で空を飛びたいって気持ちを諦められるハズもなく。

「ほんとは嗤う資格なんてないんだ」強い口調で先輩は続ける。「一生、地面に貼り付いたままの連中になんて。地球の重力から自由になりたいと思わない連中になんて」
 怒ったような、じゃない。確かに、斎藤先輩は怒っていた。
 (中略)
 その気持ちに、ウソはないんだろう。それはよくわかった。もとよりその点を疑っていたわけでもない。だけど……。
「なら、いつまで地面に貼り付いているつもりですか?」
 強い口調で言ってやった。先輩はびっくりしたようにこちらを見やる。
「ぼんやり空を見上げたり、本を読んだりしているだけじゃ、いつまで経っても空なんて飛べませんよ。今すぐに動きださなきゃ。飛行機だって、離陸のためには勢いつけて走り出すでしょう?」

 うひゃー!
 こんな単純な煽りかたが堪らないです!
 理由や理屈、言い訳を考えていてもなにもならない。
 どれだけ難しいことだとしても、動きださなければその先は見えてこない。
 それを若さゆえの蛮勇って言うかもしれませんけれど、臆病から得られるモノは無いのです。


 あとはもう、ひとつずつ問題をクリアしていくだけ。
 ヒトも、カネも、モノも。
 どれも一筋縄じゃいかなくて、中では中学生の少年少女らしい軋轢も生じさせたけれど。
 そして時にはやっぱり大人の力を借りなければいけなかったけれど。
 それでも問題を解決できたのは、前を向く気持ちがあったから。

 あー、もうっ、この子たちってば!!!(≧▽≦)


 最後まで波乱を見せて、ドキドキした気持ちを完全に昇華させて閉幕。
 夢を叶えていくエンターテインメントとして、脱帽です。
 ブラヴォー!


 ラスト。
 飛行クラブの今後について、少しだけ寂しい思い、残念な気持ちをおぼえましたけれど。
 しかし実は未来は明らかにされていないのですよね。
 もしかしたら……という可能性を勝手に夢みて、これはこれでアリだと納得(^_^;)。
 次のこと、明日のこと、未来のことを考えて、不安と心配をおぼえてしまうのは大人の悪いトコロです。
 いつだって、今を精一杯に生きる。
 子どもの頃は誰もがそうしていながら忘れてしまったことを思い出させてくれる物語でした。
 



4
 
『魔法少女を忘れない』 しなな泰之 著

 んーと。
 5年くらいラノベを読んでいる人にとっては既読感を覚えるのではないかと思うのですが、そんな昔の(5年は昔だ!)作品を例えに持ち出されても困ると思います。
 なので、現代でのスタンダートとしては今作になるのではないかとー。

 ちうか。
 タイムリミットが迫っている少女が恋に恋い焦がれ、別れを知っても無駄とは思わず彼女のために必死になるオトコノコ。
 ……という物語タイプは、ある周期で業界に巡っているんじゃないかって気がします。
 読み手が忘れそうになってくると浮かんでくるような。


 まぁ、なんといっても「オンナノコのために動き出すオトコノコ」と「オトコノコを無条件で信じ切れるオンナノコ」はラノベと切っても切り離せないトコロですし。
 そこへ「無自覚の恋心」やら「逃れられない別れ」などを盛り込めば、ああ、物語になっていきますかー。

 もちろん設定だけを用意しても作品にはなりませんから、それを描ききったしななセンセの力量は確かなものだと思います。
 むしろ設定では使い古された感すらあるのですから、それを飽きさせずに読み切らせる筆致の魅力については言うまでもないトコロだと。


 魔法少女がいかにして魔法少女たりえるのか、とか、彼女たちはどのような扱われかたをしてきたのか、とか、そういう細やかな部分の設定を披露するようなことがなかったのは好感。
 もしかしたら設定をきちんと用意されてあったのかもしれませんけれど、そこは今作での本質ではないですしー。

 設定って、ある側面からすると「言い訳」になると思うのです。
 しかしその「言い訳」をせずに「魔法少女」がいると言い切って物語を描く大胆さを、わたしは評価したいと思います。
 そして必要なのは「別れを運命付けられた女の子」であって「人知を越えた存在」ではないと選択する割り切り方も。



 もちろん、全部を好ましいと思ったわけではないのですよねー。
 特にラストの決着のさせかたは、「逃げた!」とすら思いました。
 でもその手法についても絶対に否かと言われればそうでもなく、現代風なラストであると同時に、優しい余韻を残す結び方でもあると感じられたのですよ。
 だから、これは、これで(^_^;)。


 現代風って言えば、主人公のオトコノコの気風?も今様かなー、とか思ったー。
 万事そつなくこなして波風立てず、感情の起伏が穏やかでおおよそのことを受け入れるも、しかしその実、他人への関心が薄い……。
 巻き込まれ型というか受動的な物語展開では昨今目立つようになったと感じています。

 このタイプ、周囲が騒げば自然と物語が走っていくのですよね。
 「自分は変わらずに、ドラマのほうから姿を見せて欲しい」って待つタイプの人間が増えてきた現代の特徴の一端をカバーしている……と言ったら大げさかなぁ(笑)。

 でも、ま、そういう主人公だから、覚悟を決めて走り出したときの重みは増しますし、そんなオトコノコに支えられるオンナノコは倖せになれるものだとも。



 悲しくなる一歩手前。
 世界にある優しさを信じられなくなったとき、読んでみるといい作品でした。
 絶望に染まっているからといって倖せが存在しない証明にはならないし、世界から優しさを無くしてはいけないのです。
 

3
 
『儚い羊たちの祝宴』 米澤穂信 著

 ぎゃ――っっっっっ!!!
 み、ミステリだわ!!!!!(><)
 こわい、こわい……。


 んーと、「殺人を繰り返した女性が、なぜ人を殺し続けたのか」という命題に対して「殺人事件が起きれば若くてたくましい刑事とまた会えるから」って答えがなされるエピソード、ありませんでしたっけ?
 前提条件としてもう少し詳しい状況があったとは思うのですが、ちょっと覚えてないので申し訳ないのですが。

 えっと、つまり。
 「人殺しをしたからといって、必ずしも当該人物同士で事件は完結しない」
 ――ってことで。
 そうなるとむしろ、「そんなことで人殺しをしてしまえるんですか?」って常識外の思想を突きつけられる恐怖があると思うのですよ。


 そのほかにも舞台裏を七分がた見せておいて、ラストへむけて残り三分をジワジワと提示していくやり方が――っ!!!
 暗いトンネルの中でヒタヒタと足音が背後からせまってくるような恐怖!
 そこまでしておきながら、しかしやはりラストのインパクトたるや、ミステリの落ちとして稲妻が走るような衝撃ですよ。

 うはぁ……これは、後を引くわ……。



 ところで。
 米澤センセって、過去の名作などからヒント?を持ってくることが多いですね。
 名作や名画の知識があることを前提に仕掛けを作っているっちうか。

 んー……前提ってほどでもない、ですか?
 状況自体は知識の有無如何によらずともきちんと描写されていますし。
 しかしただ物語における添え物の知識とだけ導入しているわけではないので、こういうこともオマージュの一類なんでしょうかねぇ???
 


2
 
『さよならの次にくる 卒業式編』 似鳥鶏 著

 やったぜ、柳瀬先輩!(≧▽≦)

 前作での不満をしいて挙げるとすれば、葉山くんへの柳瀬先輩の心情でした。
 それが!
 今作ではさらに近しいところまで接近……してますよねぇ??(^_^;)
 それでもまだハッキリしていないというのが、にんともかんとも。

 まぁ、この件、柳瀬先輩だけを非難するのもアレですか。
 葉山くんの気持ちも定まってないワケですし。
 もっとも葉山くんに言わせればニワトリタマゴなのかもしれませんけれど、そこはオトコノコのほうが先にですねぇ(笑)。

 しかし態度を表明しないというのは、その気持ちに裏があるというのではないかとの疑念を抱かせるあたりがモヤモヤするんですよねー、柳瀬先輩。
 もしかしたら誰かの身代わりにしているのではないかと……。
 裏があってもいいですけど(あったほうが魅力的ですし!)、それが逆を行くような流れでなければ別に……(^_^;)。


 で、本編。
 そんな柳瀬先輩がいるというのに、葉山くんたら小学生の頃の初恋の人の汚名を濯ごうと動き出すという……。
 ええええ〜????

 初恋の君、それもいまもって想いが完全には切れていない異性に対して良いところを見せようとするのは仕方ないかぁ……。
 良いところを見せたいだけでなく、容疑者を信じて間違った容疑を正そうという清廉な精神があると感じられるのですし、まぁ、葉山くんらしいかぁ(^_^;)。


 推理の過程については容疑者絞り込んで「一見、あり得ないと思えても残されたものが真実」ってことで、オーソドックスかな?
 そこをクライマックスでは葉山くんの思い込みを利用してミスリードかまして一緒に読者まで落とし込む手法は、勢いを利用したとはいえお見事。
 むしろ物語のために利用された感のある葉山くんが哀れにすら(笑)。
 良いトコ、伊神先輩に全部持って行かれちゃうんだもんなぁ……。


 その伊神さん、今巻で卒業式を迎えて旅立っていきました。
 えええ――っ!?
 まだ続刊が予定されているのに、このシリーズ、どうなっちゃうんですか!?
 はからずも今巻で証明されてしまったように、葉山くんだけでは真相を明らかにするには役者不足。
 ちうか、伊神さんのその能力があっても、あの人は望んで真相に迫るようなことをしないので、やはり葉山くんとペアになってこそ真相が明らかにされるのだと。

 うーん……。
 この世界、どうなっちゃうのかなー。
 次の「新学期編」、刮目です(><)。
 


1

『僕と『彼女』の首なし死体』 白石かおる 著

 これは良いミステリ!(≧▽≦)

 読んでいけば今作がどこから着想を得て描かれたものなのかうかがい知ることができるのですけれど、しかしその「知識」という着想をきちんと自分の「物語」に転化させているところが素晴らしいです!
 そう、アイディアとストーリーは別物なのです!!


 そうした構想段階からの慎重さに加えて、序盤、冒頭から物語へと引き込ませるストーリーテリングが見事。
 展開ももちろんなのですけれど、なにより書き出し、一行目で持っていったカンジ。
 これほど力強い一行目って、ひさしく覚えていないわ〜。


 んで、本編。
 女性の死体から首を切り落とし、渋谷駅ハチ公の足下へそえた青年が主人公。
 発見された生首で世間が騒ぐなか、彼は首を切り落とした女性の身体とそのあとも共に暮らし、まるで早く自分を見つけて欲しいかのようにふるまい続ける。
 彼の真意や如何に?

 ――というお話なのですが。
 この青年が「白石かおる」というあたりからして、人を喰ってるな〜って(笑)。
 先述した大胆な犯行といい、そのあとの態度といい、つかみどころないことこの上なし。
 さらには事件が表面化するまでに彼を取り巻く社会ではいろいろな事態が起こり、その対応っぷりも悠然としているっちうか泰然としているっちうか、およそ人が考える「恐さ」というものに対して不感症なのではないかって疑ってしまうくらいに堂々としているのですよねー。

 トラブルに対して率先と取り掛かっていくからといって、勇気があるというのとは違うのですよね。
 そんな大層な使命感に燃えているわけではないのです。
 ただ目の前に立ちはだかるトラブルが気に入らないというだけで。

 そしてトラブルを解決したからといって鼻にかけるでもなし、ただ解決できて良かった、日常が戻って良かったって感じるくらいで。


 優しい人……。
 うん、優しい人、なんだと思います。
 ……んー、違うかな。
 ほかの人が「面倒くさい」とか「難しい」といって諦めてしまうこと我慢してしまうことを簡単には諦めきれない欲張りなだけなのかも(^_^;)。
 そうした気概が、あの犯行につながっていると思うのです。


 「なぜ犯人は罪を犯したのか」
 フワイダニットが明らかにされるクライマックスは、そんな彼の気持ちが十二分に詰まっていて狂おしくなります。
 さらにはそこから始まるラストまでの勢いたるや、エンターテインメントとしても面目躍如ですよ!
 止まるところを知りません!(≧△≦)


 そんな白石くんに不器用な接し方しかできない秘書室長の冴草さんもカワイー!
 白石くんのただ者ではない無軌道っぷりにハラハラしつつ、しかし先輩として導こうとしても一般論では丸め込まれない彼を苦々しく思ったりして、いつしか目を離せなくなっているという。


 推理ミステリとしての意外性、常識を越えての破天荒っぷりから感じる爽快感、そして微妙な距離感を見せるラブコメ。
 んもー、幕の内すぎます!(≧▽≦)

 白石センセはラノベ出身ということですけれど、最近は作品を出されていなかったのですよねー。
 んー、これは昔の作品も見てみたくなりました。
 

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