○● 読書感想記 ●○ 2009年 【5】 ※ 書影画像のリンク先は【bk1】です ※
「笑うな三柿野芳緒! 泣け、死ぬまで泣いてろ! おまえ一生泣いてろよ!」
責任の全てをその事実を持つ人に背負わせるのは酷というものです。 しかし誰かに責任を負わせなければ、あるいは誰かを「悪」としなければ、突然倖せを無くした人にとってはやりきれないのでは……という気持ちもわからないではないのです。 人間は、常に正しくあるように強くはできていないのですから。 倖せを「奪われた」と表現することがあるのも、そういう理由なのかもしれません。 自分たちには罪も落ち度もないのに(責められる立場ではないのに)という主張。 そして「奪った」という能動的な対象がいるという主張。 生きていればそれだけで倖せになれるはずなのに、そうならなかったことへの不満はどうしてもはけ口を求めてしまうのでしょう。 ただこの話、絶対的に凹むような鬱話ではないのです。 希望かどうかは人それぞれかも知れませんけれど、やはり小川センセは人間の善性を信じられているのではないかなーと思うのです。 この世界には良いことも悪いこともあって、だからこそ人間にも善性が与えられていることを信じる。 そんな思いがこの作品には込められているのではないかなぁ……。 そう感じたのです。
「ほんとは嗤う資格なんてないんだ」強い口調で先輩は続ける。「一生、地面に貼り付いたままの連中になんて。地球の重力から自由になりたいと思わない連中になんて」 怒ったような、じゃない。確かに、斎藤先輩は怒っていた。 (中略) その気持ちに、ウソはないんだろう。それはよくわかった。もとよりその点を疑っていたわけでもない。だけど……。 「なら、いつまで地面に貼り付いているつもりですか?」 強い口調で言ってやった。先輩はびっくりしたようにこちらを見やる。 「ぼんやり空を見上げたり、本を読んだりしているだけじゃ、いつまで経っても空なんて飛べませんよ。今すぐに動きださなきゃ。飛行機だって、離陸のためには勢いつけて走り出すでしょう?」
うひゃー! こんな単純な煽りかたが堪らないです! 理由や理屈、言い訳を考えていてもなにもならない。 どれだけ難しいことだとしても、動きださなければその先は見えてこない。 それを若さゆえの蛮勇って言うかもしれませんけれど、臆病から得られるモノは無いのです。 あとはもう、ひとつずつ問題をクリアしていくだけ。 ヒトも、カネも、モノも。 どれも一筋縄じゃいかなくて、中では中学生の少年少女らしい軋轢も生じさせたけれど。 そして時にはやっぱり大人の力を借りなければいけなかったけれど。 それでも問題を解決できたのは、前を向く気持ちがあったから。 あー、もうっ、この子たちってば!!!(≧▽≦) 最後まで波乱を見せて、ドキドキした気持ちを完全に昇華させて閉幕。 夢を叶えていくエンターテインメントとして、脱帽です。 ブラヴォー! ラスト。 飛行クラブの今後について、少しだけ寂しい思い、残念な気持ちをおぼえましたけれど。 しかし実は未来は明らかにされていないのですよね。 もしかしたら……という可能性を勝手に夢みて、これはこれでアリだと納得(^_^;)。 次のこと、明日のこと、未来のことを考えて、不安と心配をおぼえてしまうのは大人の悪いトコロです。 いつだって、今を精一杯に生きる。 子どもの頃は誰もがそうしていながら忘れてしまったことを思い出させてくれる物語でした。
『僕と『彼女』の首なし死体』 白石かおる 著 これは良いミステリ!(≧▽≦) 読んでいけば今作がどこから着想を得て描かれたものなのかうかがい知ることができるのですけれど、しかしその「知識」という着想をきちんと自分の「物語」に転化させているところが素晴らしいです! そう、アイディアとストーリーは別物なのです!! そうした構想段階からの慎重さに加えて、序盤、冒頭から物語へと引き込ませるストーリーテリングが見事。 展開ももちろんなのですけれど、なにより書き出し、一行目で持っていったカンジ。 これほど力強い一行目って、ひさしく覚えていないわ〜。 んで、本編。 女性の死体から首を切り落とし、渋谷駅ハチ公の足下へそえた青年が主人公。 発見された生首で世間が騒ぐなか、彼は首を切り落とした女性の身体とそのあとも共に暮らし、まるで早く自分を見つけて欲しいかのようにふるまい続ける。 彼の真意や如何に? ――というお話なのですが。 この青年が「白石かおる」というあたりからして、人を喰ってるな〜って(笑)。 先述した大胆な犯行といい、そのあとの態度といい、つかみどころないことこの上なし。 さらには事件が表面化するまでに彼を取り巻く社会ではいろいろな事態が起こり、その対応っぷりも悠然としているっちうか泰然としているっちうか、およそ人が考える「恐さ」というものに対して不感症なのではないかって疑ってしまうくらいに堂々としているのですよねー。 トラブルに対して率先と取り掛かっていくからといって、勇気があるというのとは違うのですよね。 そんな大層な使命感に燃えているわけではないのです。 ただ目の前に立ちはだかるトラブルが気に入らないというだけで。 そしてトラブルを解決したからといって鼻にかけるでもなし、ただ解決できて良かった、日常が戻って良かったって感じるくらいで。 優しい人……。 うん、優しい人、なんだと思います。 ……んー、違うかな。 ほかの人が「面倒くさい」とか「難しい」といって諦めてしまうこと我慢してしまうことを簡単には諦めきれない欲張りなだけなのかも(^_^;)。 そうした気概が、あの犯行につながっていると思うのです。 「なぜ犯人は罪を犯したのか」 フワイダニットが明らかにされるクライマックスは、そんな彼の気持ちが十二分に詰まっていて狂おしくなります。 さらにはそこから始まるラストまでの勢いたるや、エンターテインメントとしても面目躍如ですよ! 止まるところを知りません!(≧△≦) そんな白石くんに不器用な接し方しかできない秘書室長の冴草さんもカワイー! 白石くんのただ者ではない無軌道っぷりにハラハラしつつ、しかし先輩として導こうとしても一般論では丸め込まれない彼を苦々しく思ったりして、いつしか目を離せなくなっているという。 推理ミステリとしての意外性、常識を越えての破天荒っぷりから感じる爽快感、そして微妙な距離感を見せるラブコメ。 んもー、幕の内すぎます!(≧▽≦) 白石センセはラノベ出身ということですけれど、最近は作品を出されていなかったのですよねー。 んー、これは昔の作品も見てみたくなりました。