○● 読書感想記 ●○
2009年 【4】

※ 書影画像のリンク先は【bk1】です ※

TALK TOPへ

 



20
 
『鋼鉄の白兎騎士団\』 舞阪洸 著

 ついに『白兎』も9巻ですか〜。
 巻を重ねるごとに活動域が広がっていって、いまやメインの活動場所が大平原。
 クセルクス盆地なんて、遙か彼方ですよ(笑)。
 砦に戻ってマクトゥシュさん、再登場しないかな〜。

 表紙はヨーコさんとアルゴラ様。
 最近はペアで登場させるようになってきてましたが、この二人がペアになるとはシリーズ当初からすると予想外だったカンジです。
 アルゴラ様はクシューシカさんのほうが親しいカンジを受けてましたので。

 しかしまぁ、短編での流れとか徐々に明らかにされていった関係を見れば、今となってはこのふたりのペアというのも納得ですか〜(^-^)。


 で、本編。
 前巻までのコリントゥス防衛での功績を認められて休暇を与えられた遊撃小隊でしたが、その休暇をあっさりと撤回されて今度はイリアスタ側の街を強襲しに行くお話。
 しかしその途中で無能な指揮官に巻き込まれて窮地に陥るも、「魔王」ガブリエラの奇策が炸裂。
 騎士団一危ない女 アルゴラが、騎士団一非常識な女 ガブリエラと組んで巻き起こす乾坤一擲の大逆襲。

 ……ていう話でしたよね?(笑)

 いくらアルゴラ様が戦闘狂であっても、きちんと理を唱えれば無碍にされることもないと思うのですがー。
 しかしそれに乗じて自分の策を陳情するガブリエラもガブリエラってカンジ。
 おっとりしているようでいて、しかし身の証を立てようとする部分で野心家なのかな〜って気がします。

 まぁ、そんなことに巻き込まれてしまうドゥイエンヌほかの周囲の人間はご苦労様としか。
 アルゴラを止められないなんて諦めが入ってしまうあたりで、十分に常識人ですよね〜(´Д`)。


 アルゴラという暴走エンジンにガブリエラという高性能ガソリンが注ぎ込まれて、序盤から終盤まで爆走状態だった遊撃小隊ですけれど。
 しかしそうした中において、アルゴラが番隊を率いる幹部たらん姿を見せ、のちに幹部となるガブリエラたちに指標として折々に描いていたのは印象的でありました。

 ガブリエラが自分の才だけで団内を駆け上がってしまうことも十分に許容範囲ではありましたが、こうして未熟な部分を先達から学んでいる仕草を見せられると、このあとの活躍ぶりも納得できようもの。
 同レベルの仲間だけの視点を描く作品が少なくない中、学ぶべき先達を配する作品というものはステキなものだと思えます。



 ガブリエラにジアンにマルチミリエに、あと胸の大きさでウェルネシア。
 非常識の集まりと化している遊撃小隊ですけれど、どんな事態に遭っても対処できる汎用性の高さは随一ですねー。
 このあとに控えているであろう戦いでも活躍をしてくれるものだと期待です。
 あ、新雛との融合?みたいなところも楽しみにしてます。
 アスカねえさーん!(≧▽≦)
 

19
 
『スノーフレーク』 大崎梢 著

 着想ではなく知識から作品を作ってるカンジがするー。
 推理ミステリだと、その成り立ちは致命的な気がします。
 「物の見方」にキモがあるのではなく「情報の有無」にウェイトがあるので。
 ようは「知っているか、知らないか」って次第。

 『成風堂』シリーズでも状況は同じではないかと思うのですが、あちらは「書店員の視点」という要素が加味されるので、単に「知っているか、知らないか」では判断できないのですよね。


 事件推理の展開も大雑把というか……。
 高校卒業を前に気持ちを整理するため、6年前に幼馴染みの身に起こった事件の真相をつきとめようと動きだすのですがー。
 6年間まったく変化を見せなかった事件の概要が、今回、主人公が動き出した途端にあれよあれよと進展を見せていく様が不自然に思えて……。

 しかもその捜査の効率の良さったらないわー。
 とにかくハズレを引かないっていうのはスゴイ。
 行く先々、会う人会う人から新たな情報を得て真相へと近づいていくという。

 次の行き先は往々にして向こうから呼び込みかけてくるので行動するにも迷いが無くて、途中で悩む必要が無いのですよね。
 だもので推理するのは最後の最後。
 まさに推理にもハズレ無し。

 んー……。
 経験値貯めながら街から街へクエストをこなしていくRPGみたい。


 真相をミスディレクションする要素も存在していて、それは最後まで可能性を持ち続けていたので「推理するのは主人公ではなく読者」というスタンスで読ませていたものだったのかもしれませんけれどー。


 主人公の周りに魅力的な可能性をはらんだ友人が少なくない数いたのですが。
 彼ら彼女らがそのミスディレクションを生み出す仕掛けとしか働いていなかった点が残念。
 個に収めて解決するのではなく、謎や悩みを集団で共有できたほうが良かったのではないかなー……って気がします。
 


18
 
『三匹のおっさん』 有川浩 著

 定年退職をはじめとする「第一の人生」に幕を下ろした「おっさん」たちが、「第二の人生」で手にした余暇の時間を身近な社会を守るために活かしていこうと自警団を結成して活躍するお話。
 ハッキリ言っちゃえば、本気モードの年寄りの冷や水(笑)。

 いやー、これはドキドキしたわー。
 そもそも「定年退職したオジサンたちが自警団を作って活躍する話」ってプロットが通って、それが面白い物語を展開させるなんて思いも寄らないですよ!
 たしかに有川センセには実績があるので期待するトコロはあったでしょうけれど、このプロットで通しちゃう編集部も編集部です。

 「おっさん」は人生が終わった姿ではない――って伝えてくる有川センセも大概ですけれど、編集部の先見の明にも脱帽(^_^;)。


 恐喝や痴漢、詐欺商法といった身近な問題を解決していく自警団。
 広い世界を守るのではなく、ご町内の平和を守ることしかできないと彼らもわかっています。
 その範囲で物語はもちろん進められていくのですけれど、しかしそれでも問題がひとつクリアされるごとに倖せになる人がいるってあたりがステキ。
 問題の大小は他人から見てどうこう言えるものではなく、抱えた当人にとっては世界が終わってしまうくらいに大問題なんですよね。


 で、そうした問題を颯爽と解決していく自警団が六十過ぎのオッサンってところがキモなのかなーって。
 これが血気盛んな十代の少年少女だったりすると、その無敵っぷりが鼻につくかもしれないので。
 そして結果だけを見て増長するかもしれませんしー。
 いい年したオッサンたちは、そうした部分を抑えるだけの人生を歩んできたのだと説得力を発揮しているのですよね〜。

 うん、もちろん、そうした人生の機微を学んでこなかったご老体も世間にはいるってことはわかってますけど。
 そこは有川センセらしい善性に包まれているっちうか、物語アプローチなんだって理解します(^_^;)。



 そんなオッサンたちの活躍と平行して描かれる高校生の可愛らしい恋物語っぷりもサイコーです。
 ちうか、この要素が存在しているってだけで、ああ有川センセの作品だわってわかるっちう(笑)。

 祖父と父が「三匹のオッサン」という知己の仲である故に、知り合ってからも微妙な距離を保たざるをえないワケですけれど、そうした軽い障害は恋のスパイスにしかならないですよね〜(≧▽≦)。
 そうでなくても二人とも「よい子」なんですし、みんなの顔をつぶしてまで盛り上がるようなことはしないワケで〜。


 「三匹のおっさん」たちはさすがにもう六十歳を超えてくる年齢なので人間としての成長は大きくは望めないとわかります。
 今作での活躍は、オッサンたちがそれまでの人生で培ってきた技術や経験でもって立ち回っているだけに過ぎないワケで。
 例えるなら、クエストをクリアしてもオッサンたちに経験値は入っていない……と思うのです。

 で、も!

 オッサンたちに使われた孫や子、そしてご町内の皆様がたにおかれましては、クリア経験値がちゃんと入ってレベルアップしていっているのがわかります。
 清一さんの孫の祐希の成長っぷりったらハンパ無いわ(^-^)。

 良い先達が身近にいれば、そしてそれを受け入れる度量があれば、若い人の伸びしろはこれほどに鮮やかなものだと示してくれてます。
 高齢化社会へ向かう日本において、こうした表現や描写はとても大切なことだと思うのです。



 いまの社会が抱える問題を、いろいろと考えるトコロがありました。
 んでも、それ以上に爽快さと痛快さを楽しめた、極上のエンターテインメントでした!(≧▽≦)
 


17
 
『紫色のクオリア』 うえお久光 著

 な、なんというスケールの大きさ……。
 そしてその広大な世界を息をもつかせぬ疾走感で駆け抜けて、茫漠たる地をまったく意に介していないという……。
 これは快作でありましたなー。


 人と違う能力を持ったオンナノコを救うため、これまた人には無い能力を授けられたオンナノコが無限の世界を渡り歩くガール・ミーツ・ガール。

 「その子には、他人が全て『ロボット』に見える」
 ――って観点が、もう、脱帽。
 いや、そういう着想自体は素人含めて少なくない人が思い抱けるトコロなのかも。
 んでも、その着想をきちんと観念としてまとめあげて世界を作り、そこから始まってそして終わる物語を作れるトコロがお見事。

 設定と物語、どちらかが優先されるようではいけない。
 それは作品において両輪であり、連理の枝であるべきなのだと。


 でもって、物語の展開がまた気持ちいい!
 先述した設定依存で事件がまず起こり、その解決のためにまた今後は物語特有の設定を活かして、活かして、活かし続けていって、全てを諦めて覚悟を決めた先にようやく答えを見つけるのだけれど、しかし結局はそれすらも否定され。
 ようやくつかんだ光明と、それを失わせる闇。
 このバンプクッションはなー、もー(T▽T)。


 事態が底の深さを覗かせはじめていく中盤から、答えを求めてひたすら駆け抜けていくクライマックスまでの筆致が本当にエキサイティング!
 次々と提示される情報。
 そこから得られる希望と、それを打ち消す絶望と。
 明滅を繰り返しながらも前へと進んでいる感覚が堪りません!
 それはまさに「毬井ゆかり」を助けるために前進し続ける「波濤マナブ」の気持ちに他ならなかったと思うのです。


 そんな「さあ、どうなる!」って展開に、「これ……SFだから、事実をまとめあげて終わりってパターンもあるよなぁ……」とくじけそうにもなりましたよ、わたし!
 しかし!
 これがSFだからこそ、SFならではの答えがあるのです。
 その答えを、シンプルな答えを最後にきちんと用意しておいてくれたうえおセンセに最高の賛辞を。
 見事でした。
 ブラーヴォ。



 成し遂げたい目的のため、自ら負う傷を厭わず駆けていく主人公。
 そんな主人公を大切に想い、その姿を嬉しく思うパートナー。

 SFでありガール・ミーツ・ガールであるのだけれど、物語の王道を往くそれはまさしく青春小説でした。
 着想、そしてそれを表現する筆致。
 「短編作家」としての うえおセンセの力量はもはや疑うところではないですね。
 

16
 
『恋の話を、しようか』 三上康明 著

 あ……甘酸っぱぁぁぁぁぁ――っ!!!
 でもって、ほろ苦ぁぁぁぁぁ――っ!!!
 うひーっ!(≧△≦)

 予定日に事情がある者同士で行われる予備校の前日模試。
 集まった4人が模試を受けているなか、突然の停電。
 どうすることもできない時間を過ごすために、ひとりが提案。
 「恋の話を、しようか」
 ただ予備校で顔を合わせる程度の間柄でしかなかった4人の距離が、このときから縮まり、複雑な関係を描いていくお話。


 うひゃぁ……。
 「大学受験を迎える頃の高校生」って世代の等身大な姿がチクチクするわー。
 世間を知らないほど子どもではないけれど、かといって世間のなにを知っているといえるほど大人でもない頃。
 身体と心ばかりが大人になりかけていても、所詮は大人に護られている身分。
 息苦しいんだけれど、護られていることで許されている自由さがあるっちう。


 4人、それぞれに望みがあって、そしてその望みを危うくする悩みがあって。
 各人の悩みなんて、あと数年、大人になってしまえばなんてことない悩みになってしまうのだけれど、いまこの瞬間では世界の全てを決めてしまうような重要な悩みなんですよねー。

 悩みなんてものは、それが及ぼす影響力の大小が問題になるのではなくて、当人がその悩みをどれだけ真剣に思うか否かが問題になるのだなーと思います。


 で、そんな悩みと望みに揺れ動きながら、「停電仲間」であるお互いが互いのことを気に掛けるようになっていってー。
 ひとりで抱えるには重かった悩みを、べつの誰かが支えてくれたことで軽くなってー。
 「ただの顔見知り」が「大切な仲間」になっていく流れって、ああこの世代なら本当にあるなーって感じられます。


 そんな「仲間」としては最高な人たちなんだけれど、「恋心」が入ってくると難しくなるのですよねー。
 しかしその気持ちが向かう先が見事にスクウェアを描いているものですから、もうどうしようもないわ(T▽T)。
 どこかに気持ちがぶつかりあうような混線箇所があればいいのに、綺麗に四角関係を描いちゃっているんだもん。

 恋心としては、せつないしもどかしい。
 んでも、大切な関係としては、その四角関係が極めて安定的に見えちゃって……。
 読み手としても綺麗に落ち着いてしまっているその関係を、あえて崩すことはできないかも……とか思ってしまったわ!(><)
 どうしてこの子たちは……。



 雪国っぽいどこかの地方都市って舞台背景がまた良いわ!
 大学受験という転機を迎えるに当たって地元を出るのか残るのか、そして将来は戻ってくるのか戻らないのか。
 年頃の青少年たちには、もうそれだけで物語になってるっつー。
 でもって、そんな心情やら雰囲気やらを哀切・哀愁とともに描いてるなーって。



 残念なのはエピローグ。
 ひととおり四人のエピソードが終わったところで、トンと時間を進めて少しだけ大人になった四人が集うところへ移るのですよねー。
 時間が経っても集う四人の姿には嬉しくもあるのですけれど、その中にはエピソードのなかで悩みを消化し切れていないメンツもいるってあたりが……。

 悩みは必ずしもその時代に解決されていくものではなく、そして悩みを抱えたまま少年少女は大人になっていく……ってことなのかもしれませんけれどー。
 しかし現実はどうあれ、物語としては作品のなかで「答え」を見せておいて欲しかったと思います。




 市川くん、誰かと印象がかぶるなぁ……と思っていたのですが、ナコ兄でした(笑)。
 ナコ兄よりもっと人付き合い悪いですけどー。
 

15
 
『PSYCHE』 唐辺葉介 著

 うあ……。
 序盤からこれほど「壊れている」臭を漂わせているとは……。

 事故に遭い、家族みんなが死んだ中でひとりだけ生き残った主人公 直之。
 周囲は事故から奇跡的に生還した彼との距離をつかみかね、彼自身は失ったものの大きさに慣れない日々を。
 なにより死んだはずの家族の姿が「彼だけには」これまでと同じように見えてしまうということが、現実と妄想の境界をあやふやにしているという……。


 現実と夢想の境界については胡蝶の夢のそれと同じようになぞっていくので新鮮味がある仕掛けではないのですけれど、そのたたみかけ方が精神の崩壊の勢いを表しているかのようで恐怖を感じたり。


 PSYCHEってギリシャ語の「蝶」とか「魂」の意味ですけれど、そこに加えてギリシャ神話のプシュケを思い浮かべますねぇ。
 愛を求め、愛を疑う、エロスの恋人。

 神話のプシュケは女性なので藍子をイメージしてしまうのですけれど、誰からも求婚されなくなって悲しみ、ようやく得た夫とは闇夜の中でしか会えないことを寂しく思う境遇を思うと、むしろ直之なのかなーって。



 結局、どちらが現実であるかってことは問題ではなくて、そのどこにも救いが無いどころか自らその手を断ち切ったという事実が重要なのかも。
 倖せがなにかわからない……という曖昧さではなく、そもそもその倖せを望んでいないという。

 辿り着く先が「拒絶」であるというのは、観念方向で文学的だなーって。
 エンターテインメントではないのですけれど、これはこれで感じるところはあるような。
 「息苦しい」とか「閉塞感」とか、そういう言葉は「生きる」ことを望む人が使うべき言葉だと思うのですよね。
 しかし直之からはそれを感じられない。

 とはいえそんな直之が特別な存在だとも思えなくて、実際に「生きる」ことを感じ考えながら日々を送っている人はそう多くないのではないかなー。
 だからこそ、今作はわたしたちのすぐ近くにある物語であって、かつ、この壊れていく様はできるだけ遠ざけておきたい存在なのかも。

 そういう意味で、極めて危ない作品ではありました。
 緩慢な死を願うっちうか。
 


14
 
『その日彼は死なずにすむか?』 小木君人 著

 無差別テロに遭って命を失った少年が、異世界の生き物の手を借りて「その日」に死なないようにするため人生を10歳からやりなおすお話。
 とはいえ、どうすれば人生が好転するのかハッキリとはわからないために、そこはダメもとで、再び「その日」が来ても後悔をしない生き方をしていこうと。

 やり直し人生クリアのための条件がわからないとはいえ、彼が行ったことといえばオンナノコに声かけまくりってのがまた……(^_^;)。
 いや、まあ、かつての自分に出来なかったことを、やりなおしの人生の今回では「後悔しないよう」動くだけの理由が彼女たちに対してあったので、けっして突飛な行動でもないのですけれど。
 それに好色で動いているワケで無し、共感できるような「勇気」がそこにはあるので物語のベクトルを崩してはいないのですよねー。

 まぁ、ラノベらしい流れ……ではあるのですけれど(^_^;)。



 都合3人のオンナノコが登場して、彼女たちが抱えていた――そしてかつての自分には解決できなかった問題を解決していくという。
 抱えていた問題や悩みが無くなった、あるいは軽くなった、変わっていった彼女たちの人生はもちろんのこと、そんな彼女たちと付き合っていくことで少年の人生も変わっていく流れは面白いなーと。

 いや、ま、当たり前ですよね。
 そんな小さい頃からオンナノコとの付き合いがあるだけで、オトコノコの人生なんてまったく変わっちゃいますよね(笑)。


 しかし「やりなおしの人生」の中でなにがクリア条件になっているのかはわからないままに時は過ぎていって。
 再び「その日」を迎えてもクリア条件を見つけられずに、迫りくる「死」の恐怖に耐えられなくなっていくワケですがー。
 そんな状況にあってもココロが恐怖で全て支配されているわけでなくて、大切なモノを見失わないでいられた少年の心意気が好感。

 でもってこのあたりのクライマックスの展開が二転三転していって、まぁ!(笑)
 読み手の意識を巧みにリードしていっておきながら、かつここでその「(導かれた)予想」を超えて展開させる力量はお見事。
 先へ先へと読み手を止まらせないスピード感は、まさにクライマックスに相応しいものでした。

 3人もヒロイン格のオンナノコを登場させてどう収拾つけるのかと不安でもあったのですけれど、そこにきちんと答えを出しているところが清廉だな〜と。
 彼女たちとの距離や関係をうやむやにせず、それでいて彼女たちが3人いたということに対しての理由付けも正しく用意していたあたりが天晴れっちうか。

 展開、そしてキャラ配置の妙など、計画性の高い作品だな〜と感じました。


 ただ、思うに、「クライマックス」や「オンナノコとのエピソード1」というような部分部分での描写や展開にはしっかりとした安定感を感じたのですけれども。
 そうした各エピソードをつないで全体としての流れを見たときは、ちょーっと強引で大味なところがあったかな〜……と思ったりして。
 もちろんそうした繋ぎ方での瑕疵を補えるぐらいに、個々シーンでの描写が巧みであったので全体として崩れることは無かったのではないかなーと思います。

 今作がデビュー作ってことで、次作以降では全体の流れも改善されることを期待かな〜。


 んでも、やぱし作品として高い好感度を得られたのは間違いないです。
 オンナノコのためにがんばるオトコノコと、オトコノコを信じているオンナノコ。
 可愛らしくてステキな物語でした。
 


13
 
『七夕ペンタゴンは恋にむかない』 壱月龍一 著

 あ……あああ、そうなんですか、この表紙は!!!!
 でもってオビの――

9年前のあの日、“神様”の前で誓った友情は、今――。

 ――というアオリも、ええええっ、な、なるほどーっ!!!!


 お伽話のような伝承が残る街で、同じ日に生まれ共に育った5人のオトコノコとオンナノコ。
 永遠に続くかと思った関係は、しかし大人になることと引き替えに壊れていって。
 移ろい、変わりゆく5人の関係。
 報われない片想いが交錯するペンタゴンが見つめた、小さな恋と優しい奇蹟のお話。


 想いの方向が綺麗に一方方向で、その想いが実ることはないのだろうなぁ……とハッキリわかってしまうだけに切ないわー。
 「5人でいる」という関係が居心地良くて、それを無くしてでも通したい想いだというのに、5人の関係が明確なだけにその結果まで見えてしまうという。

 これが普通の「友達」関係なら可能性もあったと思えるのですよ。
 でも彼ら彼女らは違うってトコロをそこまでに物語で構築しているので、その思いが許されないこともわかってしまうのですよね……。

 片想いをつづる物語は少なくないですけれど、その問題を解きにかかるまえに人間関係をきちんと定義している作品ってそう多くはないと思うのです。
 想いが成就するかどうかは物語の鍵ではなく、その先をどう生きるのかに焦点があるっちうか。
 その時間へ踏み込んだことが、今作を素晴らしいものにしているのではないかなー……と思います。


 だからこそわたしは、事件が全て片づいたあと、終幕へむかって静かに紡がれていく流れが大好きなのです。
 そこではもう全てが終わってしまっていて、主人公たちは行動することもなくなるのですけれど。
 奇蹟はそれ以前に尽くされて、泣いても叫んでも、現実は変えられない。
 フィクションであるから、もしかしたら変えられる「未来」はあったのかもしれないけれど、この瞬間においてそれはあり得ないだろうな……って感じられるのですよね。
 5人の関係を物語が動き出すまでにきちっと定義づけていたように、奇蹟というものもそこで打ち止めだと定義づけているとわかるのです。

 こうしたディファインぶりっちうか、物語導入以前の構築ぶりってところですでに勝負あったカンジです。
 物語の形式にはいろいろあるとは思いますけれど、物語が進むにつれて設定の中身が披露し効力が発揮されていく形式にくらべると、今作は物語導入時点で設定の中身や効力が発揮され披露されているのですよね。
 それに気付いたときはすでに手遅れであるという……。
 そのどうにもならない無力感が、また終盤で重くのしかかる次第……。



 がしかし。
 そうした重さを背負う反面、エピローグでの幕の引き方が鮮やかで。
 嫌味でも、誤魔化しでもなく、かつての事件を人生として受け入れている姿がとても爽やかで好感なのですよー。
 辛くないワケじゃないんです、きっと。
 でも、その傷に負けたりしていないのですよね。
 強い、成長した彼らがそこにいるのです。


 決して楽しいお話ではないのですが、だからといって悲しさだけが残るお話でもありません。
 人生における大切なことを描いている、そんな作品です。
 


12
 
『走れ!T高バスケット部2』 松崎洋 著

 前巻ラストで綺麗にまとまっていたので、続くこの巻ではどう話が広がるのかな〜……と思って読んでみたら、広がりはしなかったという。
 「な……何を言ってるのかわからねーと思うが」な心境でしたよ、最初は。

 つまり――。
 1巻ではいろいろあって都大会決勝で因縁の相手を破り、エピローグで簡単に部員全員の将来を見せてくれたのですがー。
 2巻ではその都大会決勝からスタートしているのですよ。

 因縁の相手を破って出場を果たした全国大会……というのはたしかに面白く描けるものだとは思うのですけれど。
 しかし彼らの将来まで示してありながらその間に差し挟むようなやり方って有りなのかなぁ……と疑問に思ってしまったのですよー。

 『1』とタイトルに銘打たれていたのだから『2』のことが念頭にあったであろうことは想像に難くありません。
 で、『2』をこのような形で進めるのであれば、あのエピローグ的な演出は不要だったなー、と思います。


 しかも今巻で描かれるT高の活躍というのがまたパッとしないカンジで。
 初の全国大会となったウィンターカップは2回戦敗退。
 最後の夏は都大会予選4回戦敗退。
 う、うーん……。
 彼らは彼らなりに良くやっていますしその様子も描かれているのですけれど、その結果がこれでは物語的なカタルシスが無いような……。
 「世の中そんなに簡単なものじゃない」って現実的な命題を与えられているのかもしれませんけれど(加えて、それでも努力する姿は美しい……ってか)。


 更に言うとこのラストゲームとなった試合。
 主人公は情より勝負にこだわって「二年生」より「一年生」をコートに送り出すのですよね。
 しかしコート上には自分が目立つことしか関心の無い「三年生」がひとりのさばっているのです。
 これは筋が通らないと思いました。



 部分部分、ある瞬間の要素を切り出せば「良い話」を演出しているのですけれど、全体の構成から細部の心情まで、トータルで見るとずいぶんと整合性の取れない部分が多々ある気がします。
 なんちうか……切り出した個々の場面を、あとになってからつぎはぎしているような印象を。

 それは場面転換の早さにつながっていますし、多彩なシチュエーションを盛り込めることにも役立っているので、この描き方を否定するものではありませんけれど……。
 それでも、なにかを伝えるというのであれば、もっと重みをカンジさせて欲しいなぁ……と思ったのでした。
 

11
 
『サイン会はいかが? 成風堂書店事件メモ』 大崎梢 著

 シリーズ第三弾は再び駅ビル内の書店に戻って、「本屋限定の名探偵」多絵ちゃんが次々と事件を解決していくスタイルへ戻りました。
 うん、わたしはこちらのスタイルのほうが好きかな〜。


 聡明だけど不器用で、それでも書店が大好きな多絵ちゃんの活躍は今回も冴えわたっていました。
 むしろその「書店好き」という気持ちに対して、いままでと比べてよりオープンになって感情表現するものですから、捜査や推理に前向きな雰囲気が。

「許されないですよね。本屋をコケにして、お日さまがのんびり拝めると思ったら大間違い」

 た、多絵ちゃんんんんん????(笑)

 昨今、アンニュイな空気を漂わせる探偵が少なくないように思えるだけに、事件に積極的にからんでくる探偵さんは嬉しいな〜。


 予約の受付から発注、棚の構成に雑誌の付録詰め。
 書店にまつわる仕事が事件にきちんと?絡んできて、その道ならではのプロの推理という趣が楽しいったら。
 専門性をただの知識のひけらかしに終えるのではなく、それでストーリーを立ててくるのですから感服です。
 そういった普段表からは見えない「プロフェッショナル」な仕事は、エッセンスとしても興味深いですし、また読み手の関心を惹くところでもありますよね〜。



 5編収められているなかでは、雑誌の種類が謎を生んだ「バイト金森くんの告白」が好きかな〜。
 そうなんですよねー。
 女性誌とかスポーツ誌とか、単にジャンル分けして覚えているだけじゃダメで、そこになにが書かれているのか誰が執筆しているのかとかまでをおぼえていないと書店員はダメなんですよねー……(´Д`)。
 それがきちんとできているあたり、人数は少なくても丁寧で気持ちの良い書店ですよ成風堂は。

 あとはまあ、金森くんの鈍感さが微笑ましいお話でもありました(笑)。


 表題作になった『サイン会はいかが?』も中小の書店が抱える苦労が良く描かれていて面白いのですがー。
 んでもトリックっちうかガジェットという点ではあまり好きではないかなー。
 新進気鋭の探偵作家がある事件に巻き込まれていて、今度サイン会を行うことになった成風堂もそれに巻き込まれる……という形なのですけれど。
 しかし事件解決の鍵が、その探偵作家が上梓した作中作にあるというトコロがどうにも気持ちよくなくて……。

 たとえば物理トリックなどですと成功の可否についてはおのずと限度があるハズです。
 「室内で核反応が起これば、それは可能だ」
 とか言われても、正しい機材が無ければ不可能です(機材があってもこれは……(笑))。
 しかし作中作に鍵が隠されているというのは
 「ここで『核反応』と書かれてあるのが証拠です」
 って言っちゃえば成立しちゃうんですよねー。
 事件解決への裁量権が、あまりに作者のほうへ傾きすぎている、有利になりすぎていると思うのです。
 トリックの成否について読み手のイメージによる審判がくだされることなく、そこではもはや「気付くか気付かないか」のチェックが入るだけという……。


 最後にあえて指摘するなら、作中作に鍵がある場合「成風堂事件簿」でなくても読解力のある読み手がひとりいれば物語は成立してしまう……という点が、この掌編への評価を下げているのかもしれません。



 それでも全体の構成は好みですし、さあ成風堂に持ち込まれる次なる事件はなにかな〜……と、楽しみなシリーズであります(^-^)。
 



10
 
『極北クレイマー』 海堂尊 著

 融通が利かず厄介者扱いされて極北の地に飛ばされてきた中堅医師が目の当たりにする、医療崩壊の現場のお話。

 やーもー、これはすごかったー。
 事実を含んで入るにしてもひとつの偏向ではあるのだと思うのだけれど、いま、この瞬間において責任ある市民たらんとする人にはマストで読んでもらいたい作品です。
 読んで、その現象を知り、そして考えろ……と。

 べつに今作で描かれたことが全て現実に起こっていて、そして読み手へ訴えたメッセージがすべからく正しいものだというつもりはありません。
 だけれど無関心であること、そして無知のままでいることは良くないと思うのです。


 身近な生活に関わる行政、社会の規範たり得る司法、そして未来の形を定める立法。
 三権がわたしたちを守ってくれているのか、その実効性や有用性について考えてみろと問うてくるのです。



 病はマイナス状態のところからスタートしているので、それを「ゼロ」=「健康」へ戻しても感謝されない。
 健康にしてくれて「当たり前」。
 わたしたちを支えてくれていることに気付かず、ただたたサービスだけを享受する姿勢が、三権の暴走による医療の支配を許してしまうのです。
 許してしまっているのです。


 「当たり前」のことだからそこに資金を投入することは無駄であり、資金をつぎ込むなら生活を豊かにしてくれる「可能性」のあるもののほうが良い。
 宿泊施設に観光施設。
 人が集まれば地元も潤うし、魅力ある土地になれば地元の住民も豊かになる。
 それは一理あるのですけれど、礎になる部分が瓦解してしまうようでは豊かさもなにもあったものではありません。

 健康は、失ってみて初めてわかる大切なモノです。
 これはフィクションなのではなくて、やはり現実に起こっていることなんだろうな……って恐ろしさがあります。
 とくにどこが舞台と明示されているワケではありませんけれど、むしろそれが「日本のどこにでも起こっている」という事実を突きつけているようで。



 現実に起こった事件をなぞるようなかたちで、経産婦治療を巡る医療過誤問題が作中で取り上げられているのですが。
 そのなかで亡くなられた妊婦の遺族のかたが口にした言葉。
 これはあえて海堂センセが言わせているのだとわかっているのですけれど、世の中の認識としては先述の「当たり前」と同様な事例なんだろうなぁ……って。

 お産は病気じゃないんだから普通は死なない。なのに明美は死んだ。それなら医療ミスかもしれない、と考えたって当然でしょう。

 人間という存在が、どれだけの奇跡の上に生きているのか理解していない恐さ。
 俗に性教育をもっと高めるべきとの声がありますけれど、さらに大きなくくりで生命とはなんぞやというトコロから知識を与えていかなければいけないのかもしれません……。



 三権が無分別にその力を行使して自己保身と自らが得る分だけの利益誘導をした結果、弱者は怨嗟の声すら上げられなくなっている現実。
 彼等に代わって声を上げるべきメディアも、もはや代弁者たる立場を見失い、ただただ強者におもねる存在に堕しているという。

 それすら気が付かず、むしろそちらに与しているが故に自らを強者と勘違いしてしまっているという愚かな事実!
 そこへも海堂センセは厳しい目を向けています。

「メディアはいつもそうだ。白か黒かの二者択一。そんなあなたたちが世の中をクレイマーだらけにしているのに、まだ気がつかないのか。日本人は今や一億二千万、総クレイマーだ。自分以外の人間を責め立てて生きている。だからここは地獄だ。みんな医療に寄りかかるが、医療のために何かしようなどと考える市民はいない。医療に助けてもらうことだけが当然だと信じて疑わない。なんと傲慢で貧しい社会であることか」
 一瞬静まり帰った場を取りなそうとしてか、顔なじみの記者が笑顔で言う。
「相変わらず手厳しいですね。まあ先生の人間嫌いは今に始まったことではないからなあ」
「私は別に人間嫌いではありませんよ。卑しい人間が嫌いなだけだ」

 総クレイマー……ですか。

 WEBが普及して、わたしも含めてこうして感想やら批評やらを簡単に行える時代になりましたけれど、それもある意味では「クレイマー」になっているのかなぁ……と考えてしまいます。

 エンターテインメントなのだから、自分を楽しませるのは当然だ。
 楽しくない作品があるとしたら、それは自分ではなく作品に問題があるのだ!
 もっと楽しい作品を作れ!

 ――じゃあ、そんな自分はエンターテインメントに対して、なにかを返していっているのか、と。


 誰かになにかを求める、そして何かを得る。
 自分はそれにどんな代償を払うのか、その覚悟はあるのか。
 そんなことを考えてしまうのです……。




 えーっと、そんな展開なのですが、いわゆる「桜宮サーガ」としての魅力も十分にありましたよ!
 とくに終盤、次々に姿を見せるシリーズキャストには興奮!
 しかもその誰もが医療に対して強い想いを抱いている面々ばかりなので、わずかな登場であってもその想いはハッキリと示されていますし、また伝わってくるのです。

 あー、もちろん「桜宮サーガ」を知っていることは前提なんですけどね。
 メディアや司法、行政といった「自覚していない毒」に医療が弱らせられてしまったトコロへ、あの人とかあの人とかあの人とかが登場してくる流れには感涙ですよ!(T▽T)


 しかし、こうも思ってしまったのですよね……。
 今作で極北病院は、卑しい人間にさんざん食い物にされて、翻弄されて、傷つかなくてもいい人が誰かの代わりに傷ついて……。
 社会が正しく、優しさに満ちていれば、こんなにもボロボロになることはなかったハズなんです。
 だから、最後に勇気ある人たちが手を差し伸べてくれたことで救われた(ように希望が持てた)としても、それはマイナスの状況がゼロに戻っただけなんですよね。
 事態は当初のところから、少しも好転していないっちう。

 それはまるで健康に対する人々の意識にも似て、やるせない想いがしました。
 


9
 
『晩夏に捧ぐ 成風堂書店事件メモ(出張編)』 大崎梢 著

 シリーズ第2弾はホームの成風堂を飛び出して、地方の老舗書店を舞台にした幽霊騒動を追うお話。
 舞台が書店の外となったことで、書店という限定された空間だけではやぱし事件の多様性を持たせるにも苦労しちゃうのかな〜……と思ってしまった部分もあるのですけれど。
 しかし前作は連作短編という形で既にいくつかのパターンを見せてくれていますし、シチュエーションに詰まったから舞台を外にした……という印象はそこまで深くはなかったです。
 まだ2作目だというのに、はやくも数本のタイトルを抱えているロングシリーズのような風格があると錯覚するっちうか(笑)。


 そんな次第で今回は杏子さんと多絵ちゃんが手を取り合いながら旅立って(違う)、元同僚から寄せられた相談事を解決していくわけですがー。
 そこそこ年の離れたふたりだというのに、こうしてプライベートでも仲良い(?)ところを見せられるのはなんだか嬉しいな〜っと(^-^)。
 事件のことがあるとはいえ一緒に旅行する間柄って、すごく近い相手っぽいじゃないですか。


 作中で語られたところによれば今回の旅行に限らず休日を一緒に過ごすこともあるらしいですし、そんなふたりの仲の良さに和む〜(´∀`)。


 シャーロック・ホームズの例にならうと、助手役は読者寄りの常識人であり、探偵役は世間との関わりが不器用な天才肌……となると思うのですが。
 今作での探偵役の多絵ちゃんは、言葉通りの「不器用さ」もあるのですけれど、それだけでなく何でもそつなくこなせてしまう天才ゆえの苦悩を抱えていることが明らかにされたのですよね。

 多絵ちゃん自身はそれを運命のようなものだと諦めて受け入れることを認めていたのですけれど、やっぱり心の奥ではそんな自分のことを惨めだと感じていて。
 そんな無自覚の悩みを抱えていたところで杏子さんと出会ったことが、たしかに多絵ちゃんを救ってくれたんだな〜って。
 単に探偵と助手という事件を通じた関係だけでなく、生き方や人生というレベルにおいてもふたりは絆を持っていると感じられたところが良かった〜。



 で、事件の展開のほうですけれど、こちらは極めてオーソドックスな流れだったかな〜って印象。
 事件の概要を掴んだあとは容疑者ひとりひとりと面会していって様子を探り、全て巡ったところで焦った犯人が動き出して尻尾を掴む、みたいなー。
 そこへ地方都市ならではの時代背景や、かつてその土地で起こった不幸な事件などが絡んでくるあたりは本当に古典の薫りが漂ってきます(^_^)。

 そしてタイムリミットが迫る中で、容疑者全員を集めて名探偵がさてと言い!
 いや、もう、なんという王道パターンですかこれ!てなもんです(笑)。
 推理小説らしい安定したモノがありました〜。


 んでも事件の真相やギミックについては、思いのほか捻りがなかったっちうか仕掛けが無かったかな〜ってカンジで、やや淡泊だったかも?
 むしろ冒頭の、コミックにまつわる掴みの事件のほうが印象的であったかもです(^_^;)。


 とはいえ、今回も書店を巡る事件として存分に業界人視点らしさが織り込まれていますし、作品としての方向性はがっちりしていました。
 調べただけではわからない、リアルな空気とでも言いましょうか。
 このあたりを感じられるのは、さすが元書店員の大崎センセというところでした〜。
 

8
 
『ガール・ミーツ・ガール』 誉田哲也 著

 敬愛していたボーカルが自殺したことに納得いかず、真相を探るべく旅立った女の子ギタリストの物語『疾風ガール』の続編。
 しかし前作と違って今回はミステリ色を排して、完全にガールズロックを中心に据えた物語になっています。

 うん、まぁ、こうした作品内容の棲み分けは良かったんじゃないかなーって思います。
 無理してミステリ色を加えるより、物語がすっきりしているカンジがして。
 それに誉田センセのミステリが読みたければ、それはそれで別のシリーズがあるのですし、こちらではまた違った魅力を語ってくれた方が……(^_^;)。


 で、本編。
 事件解決した前作ラストで、いよいよプロデビューの道が定まった主人公の夏美。
 事務所にも所属が決まり、さあデビュー曲作成ですよ!……というところから始まるのですけれど、面通しされた音楽プロデューサーと意見が合わず初っぱなから大騒動が。
 ああ、夏美の性格からすれば「ビジネスとしてまったく妥当なやりかた」だとしても納得できるわけがないわー(笑)。
 自分の音楽を信じて、その音楽に導かれて前に進んできている彼女なのですから、音楽以外の要素が入った理屈を信じられるワケが無いっちう。

 あー、あれですよねー。
 ストーンズもビートルズも、最初はプロデューサーの意見に従ってデビューしたんだよ……って(by『EXIT』)。
 きっと業界としてはそれは普通にあることなんだろうなーって感じられます。
 むしろインディーズの頃のスタンスを持ち続けられたままデビューするなんて、よっぽどのことが無い限り無理なんだろうなーって。

 もちろんその手法がまったく論外であるというつもりはなくて、少なくともインディーズから上がった人たちに自分たちの音楽を「売る」というビジネスモデルが備わっていないことも関係しているのではないかと思います。
 プロデュース能力が足りていない、だからプロデューサーが付く……と。


 まあ、でも、だからといって引き下がらず、自分の音楽を作る!生み出す!ために業界内を走り回る夏美の姿に勇気をもらえます。
 表現者たるもの、お仕着せの衣装で喜ぶんじゃなくて、自分で選んだ衣を颯爽と着こなさないとね!(≧▽≦)

 前作からの流れだとてっきりソロで活動していくのかと思っていたら、目指すはバンドサウンドってんでメンバー集めから始めるっちう。
 音楽モノの定番とはいえ、このメンバー集めが楽しいんですよね〜。
 思わぬ人が意外な音を奏でて、それに一発で惚れ込んでしまうような出会いなどが描かれて。
 それは偶然の出会いで一見すると「ご都合的」なのかもしれないのですけれど、こういう物語ですとそれが「運命の出会い」であり「会うべくして会った」とカンジさせられてしまう不思議(笑)。
 音楽が導いてくれたっちうかー。


 ただこのメンバー集めと平行して進む夏美のお父さんの問題があってー。
 幼い頃に失踪した親族が、デビューが決まった頃になって数年ぶりに連絡を取ってくるってパターン。
 目的はやっぱり「お金」だって勘ぐっちゃいますよねー。

 音楽のことに集中していかなければいけない時期に、こうした身内のゴタゴタは正直厳しいデス……。

 こうしたバックグラウンドの問題が、物語を音楽一辺倒になる危うさから回避させてくれていると同時に、奥深さとしての興味も増している……とはわかるのですけれどー。
 しかしそれにしては問題解決の手段が安易だったかな〜……という印象は否めなかったデス。
 加えてメンバー集めのほうも最後の最後ではただの数合わせみたいなカンジで強引に締められたカンジがあって、こちらもまた安易というかバタバタした印象があって。

 多層的に進行する事象を描いて奥深さを演出している意図は理解できても、その結果がおざなりになってしまうのであっては本末転倒な気がします。
 そこがなぁ……残念っちうか……なぁ(TДT)。



 今回はいろいろなゴタゴタがあって夏美自身の活動としてはあまり前進がなかったところなので、彼女とバンドが大きく動くお話とか見たいなー。
 まだまだやっとメンバーがそろっただけで、バンドの方向性とかが描かれてないんですもん。
 せっかくのロック小説なのに!(><)

 音楽に関しての造詣は今作でも相変わらず深く示されている誉田センセですので、次は!次こそは!熱いビートがほとばしる物語をお願いしたいトコロです。
 

7
 
『鉄のエルフ1 炎が鍛えた闇』 クリス・エヴァンズ 著

 ナポレオン戦争期の英国を思わせる異世界を舞台に、勇気と裏切り、恋と策謀が描かれる新シリーズ……だそうです。
 表4の概略を読むと。
 うーん……。
 まぁ、この1巻ではまだ勇気も裏切りも恋も策謀も、まったくと言って良いほど動きはありませんが。

 ジャンル分けするならヒロイック寄りのエピックファンタジーなのかな……?
 特定の人物(主人公)が逆境から帰ってくるところからスタートするのでヒロイックっぽいのですけれど、その主人公にことさら目的があるわけでなし、世界を覆う意志のようなものに流されているところが大きいので基本エピックかな〜……と。


 人間が多数派を占める中でもエルフやドワーフといった種族が共存している世界。
 そうした状況では多種族へ偏見を持つ輩がいることも仕方のないことで、そうした偏見からかこある事件が発生していてさらなる差別や偏見、そして抑圧を生んでしまっている世界だと。

 その事件で主人公のエルフは首謀者として捕縛され、流浪の刑に処せられていたところ恩赦され戻されるところからスタートするのですがー。
 この「主人公はわかっているのだけれど読者には伏せられている」という状況になんとももどかしい思いがわたしはするのですよー。
 事件の真相とか、背景とか、そのときなにを考えていたのか……とか。
 このあたり、ぜーんぶ主人公は知っているハズなのに、読み手には少しずつしか(それも謎めいた形でしか)明らかにされていかないという……。

 このようなもったいぶりかた、苦手……。


 そうした状況はなにも主人公に限らないことで、ヒロイン候補(だと思う。ひとりしか適齢の女性が登場していないので)の彼女も、表に見える行動だけで行動原理がわかるわけでなし……。

 んー……。
 キャラクターの心理を読んで欲しいって意図があるようには思えないのですよねー。
 あとになって「実は!」ってやりたいだけなんじゃないかって穿ってしまう……。
 

6
 
『最強の天使』 まはら三桃 著

 ひとは、この世に生まれてきたという事実だけで、最強の遺伝子を持っている……というお話?
 今作がどういうお話かをひと言で言い表すのは難しいのですけれど、まぁ、その、なんちうか、「世界は希望にあふれている、よ」系なんじゃないかなー……と思います。
 賛歌っちうか(^-^)。


 家庭の事情で生まれ育った地を離れることになり、秘めた想いと共にその事実を幼馴染みへ伝えなければいけないのになかなか言い出せなくて。
 折しも父が家を出てから絶縁状態だった祖父からの接触があったり、年下の同性からの告白疑惑もあったりで、もはや静かに別れを告げる場合ではなくなってしまって。
 そんな悶々としているうちになにか異変を察した幼馴染みからも先回ってフラレたようなカンジになってしまって、あとは野となれ山となれ〜……と(笑)。


 もー、ピュアなんだかシャイなんだかわかりませんけれど、言い出そうとしてタイミングを計っている中学三年生がオモシロ可愛いわ〜!
 追いつめられると途端に感情爆発する様も、年頃らしくって、もう!(笑)

 あれですよね〜。
 思考の処理能力をオーバーすると、シンプルな行動しかとれなくなるんですよね〜(^_^;)。
 で、この年頃ではまだまだその能力の許容量が大きくないから判断が偏るっちう。


 そんなふうにいっぱいいっぱいの中で考え込んだところで最良の判断が得られるハズもなく。
 まさに「案ずるより産むが易し」なオチへと向かっていく展開に対して、主人公の周一郎にはご苦労様と言ってあげたいわ(^-^)。


 いろいろと遠回りをしたけれど、最後には「雨降って地固まる」ラストが爽やかで。
 なんとも気持ちの良い読後感です。


 年下の幼馴染みとはどうなっちゃうのかな?
 ダメかもしれないし、続いていくのかもしれないし。
 でも、どちらを選ぶことになっても、たぶん良い人生を送れるんじゃないかな〜。
 Life is beautiful ですし、Wonderful Life なんですよ。

 人類はじまって、幾多の飢饉や戦争や災害で、たくさんの人の命が奪われている。そんななか、生き残った人たちは、やはり生命力が強いといえる。
 (中略)
 今、生きている、ということは、そういうことだ。みんな危機に打ち勝った人たちの末裔なのだ。強い遺伝子を持っている、生きているというだけで、強いことなのだ。最強だ。

 うーん、すごい。
 こうまでシンプルに命の強さを語ってこられるとは……。
 この真っ直ぐな真理に、思わず笑いがこみ上げてきてしまったデスヨ(^_^;)。

 そんな楽しさを感じられた作品でした。
 


5
 
『屋上ミサイル』 山下貴光 著

 居場所を探すように校舎の屋上に集った4人の高校生が、そこでの安穏とした時間を守るために屋上に持ち込まれる事件の数々を解決していくお話。

 もっとも事件が持ち込まれて「屋上が脅かされている」と感じることについては、彼らの一方的な思い込みに過ぎないのですけれど。
 んでも、思い込みであっても各人が気になっている、あるいは関わりを持ってしまっている事件でもあるので、それについて解決に動こうとするのは友情からの思いやりである……と言えなくもないのかな?


 また舞台背景として、その世界の超大国の大統領がテロリストに拉致されて軍事基地のひとつも掌握されてしまっているというものがあるのですが。
 で、大統領(と基地に勤める人たち)を人質に、テロリストは世界を脅迫しているという。

 こちらについては社会秩序が壊れていくためのソースとして用いられていただけで、「屋上」の物語にいては大きな関係があったようには思えませんでした。
 タイトルで言うなら、「屋上」と「ミサイル」がうまく混ざっていないっちうか。
 昨日までは確かなモノだった社会が緩やかに壊れていき、実は秩序なんてものは思った以上に脆いものだったのだと示せれば良かったワケで。


 そこがうまく繋がっていればなー……と思わずにはいられないのですけれど、もしかするとその両者を関連づけてはウソくささが許容量をオーバーしてしまうのかも。
 緩やかに壊れていく社会のなかで、少しだけ超常めいた日常的な事案に思い悩み解決しようとする高校生のバイタリティこそが作品の妙だと思いますし。

 多少、都合良く作られた感があっても、そこは爽快感とのトレードオフかな〜。
 何でも出来ると信じられた、高校生という年齢が持つ可能性っちうか。
 そんな中に、当然、好きだ嫌いだのエピソードがあったり、ロックテイストに尖ってみたり、物わかりの良い大人に逆らってみたり……と詰め込まれていて、賑やかさにかけては天井知らずだったような。


 「屋上」を守るために結成された「屋上部」という設定も、かなりトンチキですけれど、そんな「屋上部」の弱点は「雨」であるというような設定が用意されていては適当すぎると断じるワケにもいかないですよね〜。
 そうした小ネタ?であろうと、作中ではきちんと消化されているため、作り込みに甘さを感じるほどではなかったですし。

 思いつきの設定だけではない、物語との連動性とでも言いましょうか。
 屋上へ持ち込まれた数々の事件が集約していく流れは、なかなかに面白かったと思います。
 「このミステリーがすごい!」大賞選評では半数の選者に「偶然に頼りすぎて現実的な説得力に欠ける」と言われてましたけど(笑)。
 そーかなも、と思う反面、そーかなーとも思ったり。
 そんな偶然が起こるから、彼らは物語の主人公なんではないの?って。
 それを指摘するなら偶然の発生率より、物語の箱庭的狭小性を指摘すべきとか思うわー。



 あ、その選評なんですけれど。
 ダメだししている評者がとにかく「伊坂幸太郎」リスペクトしていて萎えた感が。
 「○○に似ているからダメ」だと論じるのは適当ではないと思うのですよね。
 そういう指摘が許されるなら、作品とは先行者が絶対なのかと。
 似ている、類似している、想起させる。
 その中で技術的や技巧的に劣っているのか優れているのかを評してくれないと。

 「伊坂幸太郎をまんま真似たような設定や科白まわしが鼻につく」

 評者がどれだけの読書量を経てきているのかわかりませんが、選評を読む人の中には「伊坂幸太郎」を知らない人もいるでしょうし、こうした評の表し方は「まず伊坂幸太郎くらいをマストで知っておいてから」という条件を突きつけているような気がして鼻持ちならないです。

 べつに特定個人の名前を出さなくても、単に「既読感があって新鮮味がない。流行りの文体」とかでよろしいんじゃありませんこと?ってことでー。
 個人の感想ならまだしも、公正さが求められる賞の選評などで言って良いのか、わたしは疑います。
 

4
 
『ヨコハマ B-side』 加藤実秋 著

 横浜駅西口の一角を舞台に生きる若者たちの日常を追っていくうちに、やがて小さな事件が西口ビブレ前広場の存亡をかけた戦いにつながっていくという――。

 横浜は横浜でも、開発が進む赤レンガ界隈や賑わいの中心の伊勢佐木町とか山手でなくて、よりよって西口、しかもビブレ前ってチョイスが渋いわー!(笑)
 横浜って呼称は全国区ですけれど、あそこは完全に地元密着型な場所なんですよねぇ……。
 混雑っぷりはハンパ無いのですが、決して観光客が来るような場所ではないという。
 あと、先端を行くオシャレさんも(^_^;)。


 そんな場所をこうして作品の舞台にしているワケですけれど、それ故に今作への評価はその場所への思い入れの差によって違ってくるのではないかなー、と。
 横浜の下町具合をリアル寄りで描いているのですが、しかしそれがまたなんだかウソくさくなってしまっているという……。
 いや、ホントに横浜の裏側(下町?)ってこんなカンジなんですって!(笑)


 本編はそこに生活の一部(大部?)を置く若者を中心とした連作短編。
 ティッシュ配りのお姉さんから始まって、車でサンドイッチを移動販売しているお兄さんに、カラオケの店員、発展途上のヘアスタイリストに路上ライブを行っている無名の芸人。
 横浜で生きる人たちの人生が、あの場所で交差しているんですよね〜。

 人ひとりの人生は線で描かれるものだとしたら、そんな線が網の目のように絡まり合っているのがあの場所だと言えましょう。
 たった1点でしか交わらない人生だとしても、その出会いが物語を紡いでいっているという。
 たぶん、きっとそれが社会ってものなんだなぁ……って思います。


 なかでも好きなのはティッシュ配りのお姉さんのお話と、カラオケの店員さんと女子高生の交流のお話かなー。

 前者は現状における未来への閉塞感に悩みながらも、しかしその場で全力を尽くすことへの思い切りの良さが好感。
 難しく考えて「自分はこんなもんじゃない」と腐ってみても状況は変わらないワケで。
 だったら、いまいる場所でいちばんを目指そう!って、すごくわかりやすいわ〜。
 何かの答えになっているワケではないですし、それが最良というワケでもないのですが、生きるってことは考えているだけではダメなんだって思えてきます。

 後者は生き方が不器用なふたりの交流が微笑ましくて。
 世間一般的な人間像としては欠点が多いふたりでも、当人はそれを実のところ苦にしていないという。
 むしろ世間の目を気にせずに自分なりの生き方のリズムを見つけているだけに、その姿勢には余裕すら感じてしまいました。
 だからといってふたりの人間性に欠けている部分があるわけでもなく、義理人情や善悪観については人並み以上に持っていますし守っています。
 さらにはその感性が呼べばすぐさま行動することも辞さないという決断力もあって。
 こちらでも考え方が人の価値を決めるのではなく、行動がその人の価値を決めていくのだなぁ……と。


 全てのお話が最後に繋がっていますけれど、その関係性はあまり強くなくて、その事件性についてはお仕着せ感を覚えなかったわけではないのですがー。
 あの広場を巡る一連のお話としては、まぁ、十分にアリでしたでしょうか。
 最後、オールスターキャストで展開されていくのは、サービスだとわかっていても嬉しいところですし〜(^ω^)。



 あー。
 あの猥雑とした雰囲気に飛び込みたくなったー……という読後感でした(笑)。
 


3
 
『猫耳父さん』 松原真琴 著

 昨今のライトノベル(電撃)の流れとは違うなーと。
 絞った狙い(萌え)の仕掛けが薄くて、ガジェットは構造のために用意されているカンジ。
 ライトノベルがジュブナイル小説と呼ばれていた頃のファンタジージャンルか、あるいは往年のライトSFなどに雰囲気は近いのかも。

 昔はさー、電撃文庫にもこういう雰囲気の作品ってあったんだよなーって、懐かしく思ってしまったー(^_^;)。
 しかし、いまこういう趣の作品を刊行してくるということは、もしかしたら電撃文庫って思ったほど(刊行予定)作品のストックが無いのかな〜……とか考えてしまいました。
 現在歩んでいるレーベルの本流とは異なるんですもん。
 企業グループ内から引っ張ってきているとはいえ、「週刊アスキー」連載から持ってくるのは、その形式からして異例のように思えました。
 ほかにもそういう形で持ってこられた作品ってあるのかなー??

 これを「電撃文庫をライトノベルとは呼んでいません」と宣言するくらいの懐の深さと見るべきなのか、はてさて……。



 で、本編。
 愛猫を失った悲しみから一夜明けてみると猫耳(+尻尾)が生えてしまったお父さん(職業:エロマンガ家)のお話。
 年頃のひとり娘との微妙な仲に頭を悩ませつつ、実はやっぱり互いが互いのことを大切に想っている家族の物語。

 いやー、もう、愛猫を失ったことに関しての冒頭の描写からキましたわ〜(TДT)。
 愛玩動物というくくりでみるのではなく、家族の喪失としての悲しみに満ちているんですもの……。
 でもって、それと相関するように描かれる、妻(母)を失った昔日の思い。
 夫としての視点と、娘から見た視点。
 ふたつの視点が繰り返されて、難しくて素直になれない気持ちでも、残された相手のことを悲しみのなかにあっても見続けている優しさがまた……(T▽T)。


 アラフォーのオタ男に猫耳装備なんて奇をてらったものでしかないかもですけれど、それをきっかけとした物語の流れはすごく真っ当なものだと思います。
 下手をするとタチの悪いコメディに陥るところを物語の芯がしっかりしていることで、むしろスパイスに変化しているカンジ。
 シリアスとコメディのバランスが良いんですよね〜。


 後半の流れは若干急いでいる向きもあるかもですけれど、今作に用意されたガジェットではこれ以上引き延ばすのは逆効果であったと思います。
 うん、これはここで事件を起こしてまとめに入ったことは正解だと。

 その事件に関しても決して前触れ無いものではなかったですし、むしろその流れに向かう伏線は示されていたワケで。
 それは見える形で示されていたモノではないのですが、周囲から浮いてしまっている感という雰囲気のようなものであって、それがまた良い味になっていると思うのですよー。
 刺激的というのではなく、噛みしめると感じる味わい深さのような。



 表題作だけではページが足りなかったのか書き下ろしの短編も1本収録されているのですが、こちらも良雰囲気をかもし出していて好感。
 形式としては同じく父娘モノなのですが、互いに距離を測りかねている不器用さがくすぐるわ〜(^_^;)。


 両篇とも同種のモチーフを描いているってことは、松原センセはこの件になにか思うところがあるのでしょうか?
 こうした優しい雰囲気の作品をまた読んでみたいと思ったセンセでした。
 

2
 
『竜巻ガール』 垣谷美雨 著

 連作短編かと思っていたらオムニバスだったことで少々肩透かしを。
 さらに推理小説新人賞受賞作ということでなにか挑戦的な仕掛けがされているのかな〜……と気構えていたのですが、こちらも仕掛け自体にはとりたてて斬新さは無くて。
 ちうか、そもそも「推理小説」に類する作品だったのかな〜……という思いがして。

 んー……。
 フワイダニットを「推理」すると言えば、そう言えなくもない……のかな??
 でも、今作はそうしたジャンルのくくりで見ることよりも、まずは単純に文芸作品として描かれる人間模様を楽しめば良いのかな〜と思います、思いました。


 収録されている4編のどれもが親子や夫婦、恋人といった「ありきたり」な人間関係の中に一癖をスパイスとして詰め込んでいて。
 それが本来は普遍的で落ち着きを生むはずの関係に不安定さを生んで、好奇を起こすのですよね〜。
 どちらかというとその感情は俗な部類に属してしまうのかもしれませんけれど、そんな通俗さって大衆文学には必要なものだと思う次第。
 読み手の人間性を操ることを意識していると思うので。



 収録作の中では書き下ろしの「渦潮ウーマン」がいちばん好き〜。
 旅行先で不倫相手が死亡してしまってその事実から逃げようとするのだけれど、逃げ切れないとわかってから起こした行動によって思いがけず真実に直面するという。
 作中でも言われているのですけれど、この作品の主人公・由布子さんの思い切りの良さが気持ちいいのです。
 上司との不倫関係や、同期が壽退社していって最後まで残っている事実や、仕事に対しての将来的展望など、日々思い悩むことがたくさんありつつも、一度こうと決めたら覚悟が定まるところがステキ。

 そんな性格なので、ラストが湿っぽくなっていないのですよね〜。
 ほかの3作はどれもが後ろ髪を引かれるっちうか良くも悪くも想いが残っている中で、この作品だけが後味スッキリで終わっているっちう。

 もちろん余韻を残した終わり方を見せているほかの3作も悪くないと思います。
 たとえば表題作の「竜巻ガール」などは、わずかな時間だけ肌を合わせた高校生男女の切なさが伝わってきますしー。
 身体を重ねても、ココロを重ねることに臆病になってしまったやりきれなさが、ね。
 表題にするだけのわかりやすいパンチがありました。



 推理ミステリの体としてみると物足りなさは否めませんでしたけれど、日常の中での人間関係へ向ける視線、視点、意識などにおいて非凡なものを感じました。
 これはほかの長編も読んでみたくなった〜。
 

1
『ROMES06 誘惑の女神』 五條瑛 著

 真新しい国際空港を守る最先端警備システム「ROMES」と、それに関わる人たちの姿を描いた第二弾。
 空港という場所柄、それに関わる人といっても実際にシステムを運用するセクションから果ては空港のショップで働く人まで多岐にわたっているワケで。
 あちこちへ視点が移りつつもその中心にあるのが「ROMES」であることには変わりないので、物語にブレはカンジませんでした。


 そんな中で中心人物と言えばやぱしROMESを運用するセキュリティセンターの面々なのですがー。
 そこの主任である成嶋と部下の砂村のLOVEっぷりがハンパないという。
 もうキミたちくっついちゃえば?と思わんばかりの相思相愛っちうか以心伝心っちうか(^_^;)。

「――そんなことより、支部長が自らここにいらした理由は?」
「君に、そろそろ床屋に行った方がいいと忠告しようと思って」
 成嶋は伸びた髪を指で梳いてから、おもしろくなさそうに行った。
「うるさく言う人間がいないから、忘れてた」
「ほう……。いつの間にそんな女性ができたのかな?」

 成嶋と本社の人間との会話なんですけれど、ほらやっぱり知らない人から見ればそういう関係に見えるんですって!(笑)
 このとき砂村は成田空港へ出向中。
 成嶋は鬼の居ぬ間のランドリーで自由を満喫しすぎているっちうか自堕落を楽しんでいるっちうか。

 わがままな王女様と忠実なる騎士だよなぁ、このふたりって……(^_^;)。
 その信頼関係があるからこそ、ひとたび事件が起これば同じ方向を向いて一心に立ち向かっていけるのでしょうけれど。



 んで本編。
 今回は「ROMES」開発時に生まれた因縁が発端に、死んだと思われていた伝説のテロリストが挑戦状を送ってくるワケですがー。
 いろいろと策を張り巡らせてROMESと成嶋の裏をかこうとしていても、むしろ策を弄するあまりの小者ップリを表してしまっているような気がして、相手として役者不足だった感が。

 ことに作品の主題のひとつが「機械は間違いを犯さない。間違うのは常に人間である」というところにあるだけに、グループを組んで挑んでくる犯人サイドの瓦解ぶりがまた……。
 どれだけ綿密な計画を立てたところで、それを遂行する人間が簡単に計画から逸脱してしまっては成功するものもおぼつかないワケで。
 ROMESが反撃するまえに、自沈していったカンジ……。
 だものでクライマックスでのカタルシスが微妙だったかなー。


 ただし犯行計画の遂行という部分を除けば、このグループに参画した各人の人間性の色づけは興味深かったカンジ。
 それぞれでまたひとつ物語が出来そうなくらいに濃いっちうか。
 あー、五條センセってこういうキャラ分けもできるんだなぁ……って、新たな一面を見ることが出来たのは収穫。



 ROMESの有能さは絶対的なんですけれど、西空内でその能力が及ばないエリアがあるのは前作でも今作でも突かれているトコロですし、そのシステムが万能であっても無敵でないと物語るのはもう十分かな〜、と。
 それを上回る「奥の手」を用意するのはフェアではない気がしますし、もしシリーズとして続けるのであれば、やはり「人」の動きにかかってくるのかなぁ……。

 終盤で見せた成嶋の読みは冴えわたっていて爽快感がありましたし、その読みのもとで全力で駆け抜ける砂村の姿も熱血していて良かった〜。
 敵にはその信頼関係が無かったから負けたのだと思えるくらいに。
 じゃあ、そういう信頼関係とROMESに匹敵するガジェットをもった敵が現れたら?
 そう思ってしまうのです(^_^;)。
 

戻る