○● 読書感想記 ●○ 2009年 【3】 ※ 書影画像のリンク先は【bk1】です ※
学校生活を営むことを困難にさせるための意図
――があるのではないかと穿った見方を。 また過去にその特異体質がらみで人死にまで出た事件があったとされるのですが、その捜査をした警察の杜撰さがまた……。 当事者からの聴取を最後まで行わず、推察だけで事件を終えようとするなんて。 事なかれ主義の無責任な官僚制度を揶揄しているのかもですけれど、それが物語の展開に有為になっているのであれば、その批判は場違いになると思います。 でもって一番の違和感は、先刻のその事件がらみでココロに傷を負った面々がこぞって主人公に「自分たちのために変わってくれ」と求めていることでしょう。 作中でもこの件は「間違ったこと」として触れられていますけれど、それでも最後に至ってもなおまだこのことが解消されたとは思えません。 彼らは、自身の傷ついた心を癒すために、主人公に居て欲しいし、自分たちを癒すための存在に変わって欲しいと願うのです。 主人公もまた傷ついたひとりであることは、誰ひとり考慮していないという! 自分たちは間違いを犯したけれど、その間違いをただそうと思う。 だからオマエも正しくあってくれ。 ――なんて傲慢。 変化が自発的に生み出されるものでなくて、そこになんの意味が? たしかに主人公は受け入れられることを諦めて逃げているのかもしれません。 でもそれを弱さだと弾劾する資格が、彼らにあるとは思えません。 いえ、弱さを罪だと、弱いままで居ることは罪であると責めることができるような存在がいるのでしょうか? 許されない弱さというものは本当にあるのでしょうか?? 主人公は彼らと交わることで強さを得ました。 だけれども、わたしはその変化が正しいことだとは思えませんし、それを求めた物語が良いものだとも思えないのです。
齢十七。いまだ少年の様子が色濃く残る顔立ちをしている。
童顔であるという主張はあるのかもですが、わたしは17歳という年齢がまだ「少年」として許されている社会風土なのだと受け取りました。 吉原だ花魁だと苦界のことを物語るにしては、ずいぶんと緩い社会なのだな……という印象をここで。 もちろん彼個人の出自に由来したものかもしれませんけれど。 そのもの自体を直接に描かなくても、世界の輪郭はなぞられていく……と思った次第。 萌えだなんだのオタクビジネスを展開しろと言っているのではなく、キャラクターにしか分からない感情で完結してほしくないなぁ……と思うのです。
「どんな大規模変更のモデルチェンジがあったって、工場は何事もなかったような顔して切り替えなきゃ本物じゃねえんだ。おめえらメイドインジャパンのメーカーの人間だろうが! ぬるいこと言ってんじゃねえよ」
自分たちが技術屋だというなら、その技術とやらを見せてみろ、と。 その魂や熱いですなぁ(笑)。 全編を通してこの熱さが保ち続けられていれば良かったのですけれど、あいにくとそうなならず……。 作品背景としてはそんな熱さは過去の遺物になってしまい、便利になった世界では安定志向やブランド志向のようなぬるま湯に染まってしまっているという。 また若年性痴呆症にかかってしまった父の介護をしなければならない立場や、自らが携わって世に生み出す「製品」が決して社会的意義のあるものとは限らないというむなしさなど、物語が進むにつれての陰鬱さは正直わたしには重すぎました。 技術考証などの部分では面白く感じましたので、今後に期待……かなぁ(^_^;)。
「命令だ。もう一つ言えば、君は実際に大統領やマヒロ王子と行動を共にしていた。かつ、この数日は不満を抱えていたようだったので勝手に調べられても困ると思い、釘を刺したかったまでだ。真実は話した。文句があるなら今ここで、何なりと私に言いたまえ。ただしそれ以外の誰にも言うことを許さん」 「では先ほど言わせていただきました、長官。くそくらえだ。議場で同じ言葉を叫んだというマヒロ王子が、愛おしいほどにです」
あるいは政治について学んでいたマヒロ王子のほうがまだ救いがあったのかもしれません。 与えられるだけの側、考える立場にすらなかったカトレアなどのほうが失望が大きかったかもしれないと思うと、正義なんてものを信じる気にはなれません。 作中でもセリアーナが言葉にしていましたが、やはり普遍の正義なんてものはあり得ないのかなーとか思います。 誰かの正義は必ず誰かと衝突するわけで。 その正義が間違っている!なんて言うヒマがあれば、正直にその正義にガチンコ勝負を挑みかかっていくほうがナンボかマシ。 話し合いが許される部分があるのかもしれませんけれど、譲れることができるようなら、その正義は所詮譲れる正義なんですよ、きっと。 そんなもの、正義じゃない。 林センセの作品は、通り一遍の正義論なんて語る価値すらなくて、譲れないモノを賭けた戦いの物語であることは一貫しているなぁ……と思う次第です。 ああ、でもしかし。 どの作品を描こうとしても、結局はひとつのところへ戻ってしまう世界の幅の狭さはそろそろ不安に思うトコロです(^_^;)。 睡蓮とヒデオのお話はやるって言っていたのでわかるのですがー。 ところで「ノエシス」って「ノエシス・プログラム」と関係があるんでしょうか? 世界の在り方を問うてることから、なにか関係がるのかなーと思ってしまうのですが。 でもそうなるとアウターの存在がいまどうなのかってことになるのかなー。 うーん……。 こうして考えることもシリーズものの面白みだとはわかっているのですけれども!(≧△≦)
「アシェンバート家の夫婦ゲンカについて申し上げるなら、旦那さまに勝ち目はありませんわ」
――らしいですし、大丈夫でしょう(笑)。 いままでも、これからも。 実際、今巻でのやりとりを見ている限り、心配することが馬鹿らしくなってしまうくらいに愛らしい喧嘩ばかりで。 もう少し、交わす言葉を多くしたほうが良いのではないかな〜……って思うくらいでしょうか(でも、そうしたら物語が成り立たない(笑))。 しかし今回の騒動のひとつが、夜伽のとき素肌を合わせるかどうかってことだとは……。 この時代の夜伽って、そういう習慣だったんですねぇ。 興味深い……。 それにしても今回イチバンのサプライズは、アーミン再登場!ではなくて、ケリーの挿絵登場!ではないかと。 うわっ、か、かわいい……!(≧▽≦) 本文での活躍も十分ありましたし、さらにはレイブンから「年増」扱いされるというイジられキャラとしての地位も確立しました。 なに、この存在感は!?(笑) レイブンやニコとのやりとりも今後は定番化するでしょうし、これはもう次巻あたり人物紹介ページへ登場してもおかしくないですよね! 新婚旅行だというのに気の休まる間も無いリディアとエドガーですけれど、少しずつ青騎士伯爵としての足場を固めていっているワケで、どの出来事ひとつをとっても無駄では無いと感じられます。 今回もそうですけれど、ふたりを助ける妖精が世界に増えてきているワケで。 いつかそれがプリンスと対峙するときに大切になるのかなぁ……と楽しみにしています。
『年下恋愛』 梅田みか 著 うはぁ……。 30代半ば前後でいわゆる「女性の倖せ」を探し求める必死さが伝わってきて、なんというか息苦しくて困ります(^_^;)。 それでいて結局、「苦しくてもがんばろうね」みたいなオチだから余計にたまらないわー。 仕事に手応えを感じている女性、バツイチ子持ちの女性、不倫を諦めた女性。 この年頃の独身女性が持つであろう代表的?なパターンの背景を持つ女性が、それぞれに年下の男性と付き合うことになって、はてさてどうなる?……という物語なのですが。 基本的に誰もそのままでは倖せを得られなくて、あえて得られたパターンとして「年下と思われなかったから結婚できました」というのであっては、ちょっと救いが無さ過ぎます……。 自分のほうが収入あることに引け目を感じている男性が、いよいよ社会的身分で立派になったところで男性より若い女性にトンビに油揚げで奪われていくなんて、もうあまりにあまりすぎて泣けてくるわ(TДT)。 結局、どうすりゃいいのよ……っつー。 うーん……。 別に梅田センセは「年下恋愛」を良いものだと勧めているスタンスでは無いので、こういう救いの無さも、アリ、なのかもですけれど。 それならそれで「30代後半、バツイチ子持ち。それでも倖せ」って言ってくれれば、それはそれで良いなぁ……と思えるのですが。 しかし今作で描かれる女性は、ひとりでいることを心からは望んでおらず、「結婚して子供を産む」という立場に心の底で憧れ続けているトコロがスッキリしないのですよねぇ……。 つまり。 ここに共感できないわたしは、梅田センセが想定される読者ではないってことなんですね。 読んでしまってゴメンナサイだわ(苦笑)。