○● 読書感想記 ●○
2008年 【5】

※ 書影画像のリンク先は【bk1】です ※

TALK TOPへ

 


20
 
『聖剣の刀鍛冶3』 三浦勇雄 著

 えーあー、うーん……。
 冒頭からいろいろと語りすぎなカンジ……。
 入りの悪さは今シリーズ当初から感じていたトコロではありますけれど、今巻ではとくに。
 前巻からの流れから言っても、別段、不自然な説明では無いと思いますし、悪魔契約とか魔剣精製のこととか、ルールを語らなければ先に進めないのだとはわかるのですけれど、ねぇ。
 一市民でしかない主人公の目線で物語を描いていながら、そこで語られる対象が「世界」というのはバランスが取れていないっちうか、荒唐無稽寄りであるっちうか……。
 もっとも、そういう大言が今シリーズの、ひいては三浦センセの魅力ではあるともわかっているのですがー。
 ――だからこそ余計に、「もっとスッキリと語ってくれないかなー」と思うのですよーん。


 そんな次第で眉を寄せながら読み進めていったのですけれど、大きく動き出した中盤以降は、嗚呼これぞ三浦センセだなぁ……という熱さがありました。
 やぱし三浦センセには単純な気持ちの有り様こそが相応しいと思うー。

「なめないでください。私の名前はリサ。リーザ・オークウッドの遺した悪魔にして刀鍛冶ルーク・エインズワースの助手、そして魔剣アリアと誉れ高い騎士セシリー・キャンベルの一友人――リサですっ!!」

 ああっ、もうっ!
 リサってば強くなったなぁ……(T▽T)。
 この啖呵の切り方、素敵すぎ!!
 いろいろと不確定で不安だった自分の立場をみんなが明らかにしてくれたし、それを受け入れることもできたし、そしてそんな自分に自信を持つことが出来た。
 そういった強い意志へと昇華した雰囲気を感じられるのですよー。
 「誉れ高い騎士セシリーの一友人」というあたりが泣けるわー(T▽T)。



 でもってリサにそうまで言ってもらったセシリーは……。
 今回は痛々しかったですね……。
 これまでにもここに至るような悲劇の一端を暗喩され続けていましたけれど、まさかそれが現実のものになるとは……。

 初見のときはなんて三浦センセは容赦無い人なのだろう……って思ったのですよね。
 物語を作品として仕上げるためなら倫理とかそういう境界をあっさり越えてしまう仕事人なのかなーって。
 でも、何度か繰り返して読んでみたら、そうじゃないのかなって。
 やっぱり三浦センセは三浦センセなのかなーって。
 現実はすぐそばに悲劇が潜んでいて、そこに直面した人は間違いなく傷つくけれど。
 でも傷ついたことで立ち止まるか否か。
 失うものがあってそのままでいるのか、取り戻すのか、それとも新しく掴み得るのか。
 そういう部分に問いかけているように思うのですよー。

 もちろん厳しいことを突きつけているワケですし容易く答えが有るワケでもないですけれど、そこはたぶん三浦センセも苦しんでいるんだなーって。
 あとがきでの言葉、とても重かったです……。



 今回もみんな怒ってました。
 「世界はこんなものなんだ」なんて言葉で自分を納得させるようなことはせず、納得できないものは納得できない、そして許せないものは許せない。
 だから、誰がなんと言おうと、それは正す。
 泣いてうつむいているより、怒りにまかせてにらんでいるほうがいい。
 世界を変えるのは、きっとそういう瞳だから。



 ところで。
 今巻の表紙絵のセシリー。
 Webで書影を見たとき、どうしてセシリーがインカム付けてるんだろう……って思っていたのはわたしだけ!?
 ばーやばーや!(T△T)
 


19
 
『葉桜が来た夏2 星祭のロンド』 夏海公司 著

 あーうー……。
 悪くない……悪くないとは思うのですけれど、どうにもこう、先を急ぎすぎているような気がしてなりません。
 もっとさー、主人公ふたりのすれ違いと惹かれ合う部分についてしっかりと描いてからのほうが良いのではないかなーと思うのですよ。
 アポストリと人類の歴史に物語の舵を切れば、たしかにスケールは大きくなるとは思うのですけれど……。

 政治に巻き込まれた少年が、青臭い正義を振りかざして世界の不公平を糾弾するような物語を描きたいのでしたらそれはそれで……。
 でもアポストリとの共生の設定とか主人公のひとり学が抱くトラウマとか、そーゆーところって別の物語要素なのではないかと思うのです。
 終盤、学が急に政治を語っている(騙っている?)シーンでは、なーんか違和感をおぼえてしまったのですよー。

 うーん……。
 普段は厭世っぽいっちうかヤル気無しで面倒くさがりな態度を見せつつも、やるときはやります!……って性格設定は昨今の流行りに思いますし、「実はデキル奴」というスタンスは正しいのかなぁ……。
 いまの業界において。
 あと、いらつくくらいに朴念仁っちうか近くの人間の心情について無頓着というような性格もまたしかり?
 学はもっと葉桜について考えたほうがいいと思う!(><)

 んー……。
 そういう読み手の目線とは逆の行為をする人物が主人公だからこそ、逆に物語にたいしてのめり込むのかなー。
 学には共感を得られないという理由で、あえて葉桜を応援したくなりますしー(^_^;)。

 しかしその葉桜も終盤ではとんでもないミスを犯してくれやがりますがー。
 誰が敵味方か分からない状態で容易く外部の応援を求める、それも自らが動くのではなく間接的にというのは、ちょっと状況を甘く見すぎ。
 これをドジッ子というには、かなりヘビーなミステイクですよ?
 まぁ、葉桜は「真面目でいろいろと先に考えてしまう子」というポジションでしょうから、表面上の理屈優先で動いてしまうのも仕方がないのでしょうけれど。
 ……あー、うん。
 そういうトコ、可愛いっちゃあ可愛いです、よね(^-^;)。


 今巻で登場した星祭というキャラに代表されるように、物語の舞台が居留区の外に向かっている流れが、ちょっと……。
 もう少しのあいだ、狭い場所のなかでふたりが心を通わさざるを得ないシチュエーションを続けていってもいいんじゃないかなー……と思ったのです。

18
 
『舞姫恋風伝 〜廃城の反乱〜』 深山くのえ 著

 慧俊の后となった愛鈴のもとへ田舎から国試のために弟がやってきたのだけれど、極度のシスコンである弟は結婚して夫である慧俊を大切する姉の様がいたく悔しく。
 そんなところへ実は愛鈴の血筋がやんごとなき人のそれにつながっていると知られ、反帝派の人間が落ち込んでふてくされている弟を利用して近づいていき……。

 農民の娘をお后にした帝……という身分差がひとつのポイントだった作品で、それを根底から崩しかねない愛鈴の出自。
 ちょっと驚いてしまったのですけれど、今巻の物語としてその「失われた高貴な身分」という点が効果的かつ重要な要素となって組み込まれているので悪くなかったなーというカンジ。

 なんといっても結局のところ、「身分がどうであっても、慧俊と愛鈴のふたりはきっと結ばれていた」という確信を得られる展開だったからでしょうか。
 身分差というポイントは物語から外されましたけれど、それ以上にふたりの絆っちうか運命みたいなものに気付かされたっちうかー。
 ホンッと、LOVEすぎるんですわ、このふたりーっ!(≧△≦)


 そんなふたりのあいだに割って入ろうとするなんて、弟の修安もバカ。
 人間関係を察せられないって、勉強できたとしてもダメだわー。
 しかもよくよく考えてみればその勉強ですらまだ子供の浅知恵という程度でしかないのに「自分は出来る!」なんて思い込んじゃうんですから、頭の良さも知れているなぁ……というカンジ。
 おまけに身に流れる血に異様なプライドを持っちゃってみっともないったら。
 お姉ちゃんはそのプライドを「忘れた」のではなく自らの意志で「捨てた」というのに、そのことすら気付かないんだもんなー。
 可哀想なくらいに格好悪いー(><)。


 でもって今回もまた重要なファクターたりえた愛鈴の「舞」。
 うーん……。
 戦争を止めちゃう舞ってのはスゴイなぁ……。
 弟との争いを制して帝位についた慧俊も立派ですけれど、そんな慧俊を舞で魅了し争いも止めたとなれば、后の愛鈴のほうが伝説になっちゃう気がするー(笑)。


 そしてそんな愛鈴に負けず劣らずの活躍を見せた大親友の佳葉ちゃん。
 宮廷に乗り込んできたテロリストどもを向こうに回しての大活躍。
 大切な親友をさらい、愛する国を不安に陥れたテロリストへの怒りが原動力。
 怒った顔が素敵なオンナノコには惚れるわー(笑)。
 しかもそんな嫁を褒め称え、自分も負けじとハッスルする義父。
 温家って……(^_^;)。
 慈雲は慈雲でそれなりに活躍しているハズなんですけれど、ふたりの活躍に比べたら目立たないことこの上なし。
 修安とは違った意味で可哀想……(笑)。



 困難を乗り越えて結ばれたふたりだけれど、結ばれたからってそこで人生が終わるわけで無し。
 物語は結婚しても続いていくんだよ――と。
 でも慧俊と愛鈴のふたりなら、きっといつまでも離れずに愛し合っていくんだろうなーって感じます。
 昨日より今日、今日より明日。
 ふたりの愛してるって気持ちは日々膨らんでいくようで。
 そんなふたりから倖せを分けてもらえる、嬉しい作品です。
 

17
 
『舞姫恋風伝』 深山くのえ 著

 身売りされてきたオンナノコが妓女とは名ばかりの雑女として宮仕えをしているうちに、偶然、皇太子と出会い、見初められ、身分差を乗り越えて結ばれるお話。

 くあーっ!
 古典ッ、古典過ぎる!
 だが、それがいい!!(≧▽≦)

 雑女としていいように扱われて苦難の日々のなかにおいても、主人公の愛鈴は自分を見失わずに前向きに生きている姿が好感。
 しかもどうしてそこまで耐えていられるのかといえば、まだ宮中に連れてこられた幼い頃に出会った皇太子 慧俊との思い出があるからであり、彼との約束をはたすためにはくじけてなんかいられないという強い気概をもっているからで。

 嫌味を個性と勘違いしているようなキャラ造形が少なくない昨今、愛鈴の素直さと前向きさは非常に、ひっじょーぉにっ!眩しすぎます!(><)


 太子の慧俊もさー、愛鈴ラブラブだってことを隠さないところが気持ちいいですよねー。
 しかも愛鈴と出会ってから数年ものあいだ彼女を放っておいてなにをしていたかといえば、太子としての立場と帝位継承者としての自分を強くするために努力していたとあっては、なによ、この男前わーっ!てなカンジですよ、もう。
 慧俊もまた恋する気持ちに舞い上がったりせず、大切な人のためになにできるのか、なにをすべきなのかを考えられる人なのですよねー。
 いやぁ、もう、素敵なカップルですわー(≧▽≦)。


 『舞姫恋風伝』のタイトルが示すように「舞」が重要なファクターになっている点が物語として納得いったかなー。
 愛している気持ちだけでも十分ふたりが結ばれる理由にはなるのですけれど、物語として立ちはだかる障害に対して、愛鈴が体得する舞が切り札になっているワケで。
 障害を乗り越えるにたる理由であり、愛鈴が選んだ勇気と努力の結果に体得したものだと素直に納得できるといいましょうか。

 もっちろん、慧俊も身を張って愛鈴と結ばれるためにがんばったワケでー。
 ああっ、もう、このふたりってば!!!



 慧俊×愛鈴 のカップルのほかに、ふたりの友人である慈雲と佳葉のカップルも素敵だわー。
 べたすぎる「素直になれない幼なじみカップル」(´Д`)。
 そんなハッキリしない関係だったふたりが、愛鈴をも巻き込んだ帝位継承問題でゴタゴタしているあいだに急接近してプロポーズしてOKして……って、あははははーっ!!!
 長年慎んできた反動?でどさくさにまぎれて勢いでGO!ってなカンジが面白すぎます!!



 ひゃー、もー。
 こんなベタ甘カップルのお話があるなんて、ルルル文庫もあなどれないわー(笑)。
 

16
 
『嘘つきは姫君のはじまり 見習い姫の災難』 松田志乃ぶ 著

 うむむ……。
 コバルト文庫という少女小説のステージのなかでもしっかりと推理小説してますねぇ……。
 トリックに「本格」ほど凝っているわけではないにしても、構成する要素は意外性を認められるものですしー。
 真相を明かされたとき「ああ!」って楽しい驚きがあるっちう。

 推理させる過程においても思考する材料はきちんと配置されていますし、そしてなにより私が思うのはブラフのことも意識されているなーって。
 明確にミスリードさせる意図ではなく、真相へのルートを隠すための森の木々みたいな見当違いの情報。
 そうしたものが要所要所に配置されているために、先を読み解くために浅からぬ考察を要されるという。
 謎へ迫る楽しみがあるのですよねー。
 松田センセとの駆け引きってカンジ。


 とはいえ、トリック優先ではなく、ちゃんと取り替え姫の受難を中心にしたトラブル・ミステリーであるとことが作品の妙なのですよね。
 しかも宮子は振り回されつつも、見るべきトコロはきちんと見ている堅実派なワケでー。
 読者目線の探偵役として共感しやすいわー。
 もちろん目線より一歩先に宮子はいて、そんな彼女を応援したくなるんですよー。
 まさに気持ちの良いキャラ造形です。

 反面、彼女の婚約者?であるトコロの真幸はなぁ……。
 あまりオトコノコとして好きになれないかなー、いまのところ。
 自己中ってほど我が儘ではないにしても、いま迎えている状況に対して視野が狭いっちうか。
 次郎の君もどこかつかみ所がないので、今作においては蛍の宮のほうが魅力的だったかなー。



 あとがきで松田センセ、氷室冴子先生の訃報について触れられてましたね。
 やぱし今シリーズって『なんて素敵にジャパネスク』のオマージュなのかしらん。
 ラストの蛍の宮のイジワル?なんて鷹男のそれをまさに彷彿とさせますもん。

 オビの「いきなり大反響!」がどれほどなのかわかりませんけれど、氷室先生の遺志を受け継ぎつつも、松田センセらしさを描きながらこのまま平安ミステリーとして続いていってほしいです。
 


15
 
『ブルースカイ・シンドローム』 一の倉裕一 著

 ヒロインの造形、花丸。
 そのカタチを活かすために世界設定や展開が用意された感が。
 だもので終盤の駆け足具合とかはもー大慌てってカンジで。
 お話を「終わらせるため」にいろいろあちこちの都合を持ってきている感があって、正直詰め込みすぎ。
 終わらせるために必死になりすぎて、物語としての抑揚やら余韻やらを置いてけぼりにしてしまっているんではないかなー……と感じられてしまう点が、惜しい!
 ほーんとに惜しいって気がするんですよねー。

 わたしには終盤に山が二つ来てしまっているように感じられていることも減点。
 それぞれがなめらかにつながっていく、進行していくなら問題無いのですけれど、山が来て谷が来て、また今度さらに大きな山がきて……って流れですとこちらの気持ちも一度弛緩してしまいますし、なにより後ろの山のインパクトが減じてしまうと思うのですよー。

 でもって、二つの山がきている理由だって、ヒロインの性格を強調する、披露する、魅せるためにイベントを用意したためだとわたしには感じたので。
 んでもこれはもう作品の作り方を是とするかどうかでしかないのかなー。
 キャラがいるから物語が走るのか、物語の中でキャラが生きているのか……の差とでも言いますかー。

 もちろん単純に「キャラモノ」と言い切ってしまっては今作を見誤ってしまうので、そこだけは間違ってはいけないと思います。
 ヒロインの性格を活かすために用意された物語かもしれませんけれど、その結果できた物語では見事に意図を達成しているのですし。
 まさかさー「愛し合う2人が離ればなれになるお話」がツンデレヒロインとこんなに相性がいいとは思いませんでしたよ。

 ええ、ええ、そうなんです。
 この物語、愛のお話なのですよ。
 それも気持ちを伝えあってお互いの気持ちをハッキリと知っているのに、遠く離れてしまっているために触れ合えないというもどかしさ。

 気持ちがつながっているなら大丈夫……なんて、本気で信じていたら清らかすぎます。
 気持ちは揺らぐものだし、この世に絶対なんて無い。
 目で見えるもの触れるものが絶対だなんて唯物論が真理だとは言いませんけれど、好きだから触れ合いたいって気持ちを無視はできないよねー、と。
 そんな気持ちが物語の発端にあるのではないかなー。


 幼い頃の約束、少しだけ大人になってのすれ違い、黙っていた気持ちに気付かれたとき気付いたとき、離れていても信じるココロ、でも揺らいで不安になるココロ、そしてやっぱり世界でいちばん大切な人。
 もーっ、もーっ、もーっ!
 ツンデレなオンナノコと朴念仁なオトコノコの心情をこれでもか!って詰め込んできてます。
 幼なじみ → 友達 → 恋人未満 →いろいろすっ飛ばして結婚(笑)。
 フルコースすぎておなかいっぱいですよ〜!(≧▽≦)
 えーと、あれですか。
 ツンデレ彼女のイニシアチブを奪うには、無意識での先制パンチで有無を言わさないようにするって教訓ですか?(笑)
 まー、その先制パンチで混乱している様がまさにツンデレの「デレ」部分なのかもですけれどー。



 SF設定とかあちこちみれば「足りてない」と感じてしまうのですけれど、それでも楽しませるためのエンターテインメントとしての正当性はまさに有るとわたしは言いたく。
 今後のご活躍を楽しみにしています。
 

14
 
『名前探しの放課後 下』 辻村深月 著

 うーわー。
 SF作家と推理作家の違いを如実に感じられるオチー。
 前者はいわば「量子が時空を越える」と言い放つのに対して、後者は「気持ちが時を越える」って言ってるみたい。
 大雑把に言えば理系・文系の違いなのかもだけれど。

 でも結局、タイムスリップしたことに対しては積極的なアプローチをしなかった点については、正直気持ちよく無かったなぁ……。
 推理ミステリーとしての体裁を整えるためにSFガジェットが都合良く用いられた形なので。
 たしかに主人公のいつかがタイムスリップで得た知識が無ければ探偵家業が始まらなかったのですけれど、最後は感情論(語弊があるかもですけれど)で解決するならそもそも導入にムリクリ感を挟まないでほしいなーと思うのですよ。
 現代の推理ミステリー作家ならば。
 簡単にその境界を越えてくるな――と。


 でも、まぁ、その入りの部分に目をつぶれば、仲間を救う絆とか負い目を乗り越える若者の克己とか、そーゆー青春物語として面白かったように思います。
 ことにひとりの仲間を救うためにみんなが一丸となって動き出すクライマックスは、緊迫感とスピード感に溢れています。
 みんな、すべてはこのときのために準備してきたわけで!
 それまでバラバラだったピースが、この瞬間に理由が明らかになって、意味をもって集まるという。
 名探偵が推理の披露をするスタイルではありませんですけれど、これはこれで確かに爽快感がありました。


 上巻で目指す被疑者らしき人が見つかってはいましたけれど、そのまま素直にいくワケ無いと構えていたら、はたして――というカンジ。
 なるほど意外性はあったのですが、そこで上下巻構成にしてはちとわかりやすすぎやしませんかねー、と。
 まっとうな物語であるならば、なんのヒネリもなく終わらせるハズが無いですもん。
 下巻……っちうか、真相ではその立ち位置を変えてくるんだろうなーと感じてしまうっちうか。
 ……邪道な読み方ですね(^_^;)。

 んー。
 まぁ、先の展開が気になる程度には集中していたのでしょうけれど、物語構造に気を払ってしまう程度にはのめり込めなかったということ、なんでしょうねぇ……。
 

13
 
『ピクテ・シェンカの不思議な森 ひねくれ執事と隠者の契約』 足塚鰯 著

 この本、bk1で購入したのですけれども、同時に下の本宮センセの『幻獣降臨譚』も頼んでおいたのですよー。
 届いたブツを開けてビックリ、池上紗京センセのイラストが並んでるーっ!(笑)
 池上センセが挿絵を担当される作品って、なにげに好きになる率高いかもー。

 モノクロの効果を見ていると、以前に比べて細やかになっているような……?
 デジタル環境に移行したのかしらん。

 で、そんな池上センセの表紙を見たら、あら、ネーメイじゃありませんこと?
 キミ、そんなに出張ってもなければ活躍もしてないでしょうに。
 むしろ今回の主役は後ろにひょっこり立ってるツンデレ執事でしょー!(≧▽≦)
 不慣れの王都でムイとデートして笑顔を見せるわ、森の住人のトラブルに巻き込まれてムイが怪我をしたことに怒り心頭になったり、材料集めの成果についてムイに褒められたら照れてしまったり、おやおや、クールの殻がかなりはがれかけてきていますよ?(笑)

 まー、彼がこうもココロ乱されるのもムイが真っ直ぐだからですよねー。
 面倒くさがり屋だけれど、自分の立場とその立場にともなう義務をわかっている。
 ほんっと、ムイは「良い子」なんですよねー。
 それも誰かの理想を押しつけられ作られた「良い子」ではなくて、人として正しい道を感覚として知っている「良い子」。
 理想として「あるべき形」を自発的にもっていないと、こうは成長していかないですよねぇ……。
 ルズとリアーニだけじゃなくても、こりゃ可愛がりたくなりますわー。


 ああ、そんなルズとリアーニですけれどもー。
 ムイが夏休み入って森で過ごすと決めてきたものですから、それはもうすごいはしゃぎップリですね(笑)。
 わかってはいますけれど、どんだけ子供好きなんですか、この人たちは。
 フィンドルの子供の頃を回想してうっとりしているあたり、さすがと言わざるを得ません(笑)。



 そんな本編のほう展開は、ボロボロになった契約書のために新しい契約書を作ろうと材料集めをするお話。
 とはいっても個々の材料についてクエストのようなものを中心に据えるのではなく、代わりに森の内情――契約したい住人、したくない住人の違いやそれを利用しようとするティッセの存在、そして森から抜け出た住人がいることに感づいた王様など、「森」の周辺の状況を簡単に提示したことで今後の展開の布石だらけ……というカンジでしょうか。
 うはー、これはお話の規模(世界?)が外へ外へ広がっていく予感をカンジさせられて楽しくなってまいりました〜♪
 

12
 
『掲げよ、命懸ける銀の剣 幻獣降臨譚』 本宮ことは 著

 ライル! あんたって人はぁぁぁぁぁぁっっっっっ!!!!
 これはもうマジでアリアとのフラグは折っちゃったってことなんでしょうか?
 でもってシェリカ姫ルート?
 アリアとのお話だったらBADエンドストーリーですけれど、シェリカ姫とのお話だったら見事にルートに入ったカンジ。

 ……ああっ!
 前回、アリアを行かせるか行かせないかが分岐だったの!?
 だとするとゲームとして上手すぎます!(笑)
 つまりあそこでカッコつけて平気な素振りをみせるかどうかが選択肢かー。
 もー、ライルのばかばかばか!!!(><)
 今巻の表紙ではアリアと一緒にキメてるのにーっ!

 でもミルヒランドへ着いてからのアリアを見る限り、その成長を邪魔してはいけないって気もわかるんですよねー。
 すごく大人になっているっちうか、世の中の有り様を見抜く目を持ち始めたっちうか。
 そんな彼女がいよいよ公女ヒルディア姫と対峙。
 でもって一発で彼女の秘密を見破ってしまったことに正直、喝采。
 今巻は目通りしたここで終わっているのですけれど、これまた見事な引きだな〜と思った次第。
 ヒルディア姫の秘密は読者にはすでにわかっているわけですし、むしこ秘密に触れてしまったここからが勝負所。
 聖獣が居る限り、これ以上の誤魔化しはできないでしょうし、知略家っぽい姫がどう出るのか楽しみー。


 帝国との戦いが始まったことでライルは大忙しなわけですけれど(女性関係にも大忙しですがー)、それは同じ騎士であるシェナンにしても同様で。
 ちやほやされたい乙女たちに言い寄られても、スパッと切って捨てる様がカッコイイですねー。
 以前だったらウザがってなあなあで済ましていたようにも思うのですけれど、今は必要な正しさを求める意識を持っているワケで。
 成長したなー、王子さまも。

 シェナンはライルと違って「のびしろ」がある人だったのですよねー。
 だからこそアリアと同じく、ここにきての成長していく様が著しいといいますかー。
 基本値がそもそも高かったライルは、この辺りがシェナンに比べて不利なんですよねー。
 間違いと失敗を経て成長していく様を描けないという点で。
 読み手のカタルシスを満足させられる対象ではないといいますかー。
 王侯貴族とのやりとりとか、緊張感あって好きなんですけれどー。

 一方……ディクスは成長時の振り分けポイントを間違えたカンジ(T▽T)。
 すでにアリアフラグをぶった切ってしまっているディクスは、今回は出番無し。
 あとがきによりますと次巻ではオレリーとともに新発見をするみたいですけれど、どんなもんでしょうかねぇ……。
 幻獣とともに生きる世界を、アリアを否定する彼は、どれだけの貢献をしようとも受け入れられがたいと思うのですがー。



 ディクスは言うに及ばず、シェナンのお付きであるユリストルに、アランダムの巫女姫サフィア、リスタルの第二王子シェレスト、第二王女のシェリカ……etc。
 影や負の感情を持っている人が多すぎて、このまま一筋縄ではいかない状況がそこかしこにー!(><)
 でも克己する人がちゃんと大きくなるということを示してくれているシリーズですし、みんなみんな大丈夫だと信じてます。
 がんばれー!
 


(ラノベ指数 13/77)
11
 
『仏果を得ず』 三浦しをん 著

 文楽の道に精進している30男が、その道を究めることに悩みながらも素敵な女性と出会って道を踏み外しそうになったりしつつ、それでも万事は芸の肥やしとばかりに振り切って成長していくお話。

 ひゃー。
 30男が主人公だっていうのに、雰囲気が若い若い。
 文楽という芸能の世界だからこそ成せるものでしょうねー。
 この歳であっても若造ですもん。
 でもって芸を極めるという点では、たとえ人間国宝の人だってまだまだ道半ば。
 常に上を目指そうとする人たちの姿はとても心地よいです(^-^)。


 こういった芸能の道を描いた作品では、コミックのほうでは能の世界を描いた成田美奈子センセの『花よりも花の如く』がありますけれど、あちらの作品でも純真に道を究めようとする人の姿が描かれていましたねぇ。
 媒体は小説とコミックと異なりますけれど、雰囲気、なんだか似てるー。

 成田センセへの「悪人がいない」という批判点も同様なのかもですけれど、悪意が無いのはそれにこしたことは無いと思いますし、悪が討ち滅ぼされる勧善懲悪の様式だけが物語ではないですしー。
 学生の頃はいろいろと問題もあった主人公が、偶然であった文楽に引かれて身を正し、いまではその道に邁進していく文楽バカになりましたとさー……って、「失敗を失敗と認めることができて、反省した上で前を向く」そんな主人公であれば物語になるワケで。


 脇を固める人たちも個性的で物語に色を添えてくれています。
 甘いモノ好きで情事にも老いて盛んな銀太夫師匠。
 そんな師匠のパートナーで唯一師匠の舵取りをできるクールな亀治兄さん。
 無理矢理相方に組まされて難渋しながらも次第に息のあったコンビになっていく「腕はあるが変な人」兎一郎兄さん。
 でもって突如主人公のまえに降臨した女性、真智さん!
 さらに真智さんのひとり娘、ミラちゃん!

 なんて痛快なひとなんだろう。真智さんも、ミラちゃんも。まっすぐに切り込んできて、いつでも誇り高く真情をさらし、俺にもそうしろと激しく求める。

 オトコどもがとことん「芸バカ」なところにおいて、このふたりのエモーショナルば部分は作品にくさびを打ち込んでいる気がします。
 ああ、ふたりに加えて、兎一郎兄さんの奥方、藤根先生もですね。
 なんていいますか――強い。
 真っ直ぐであるということはこうまでも強いのか、そう思わされます。


 芸能のお話とはいっても専門性にひきこもることなく、十分に大衆向けにくだかれた語り口で読みやすいったら。
 その読みやすさの部分でひとつのポイントなっているのは、やはり恋愛感情ではないかなーと思うのですよ。
 作中でも「世話物の主人公の男の、一番魅力的な部分」として指摘されている点が「色気」ですし、物語には色気が必要なのですよ!(極論……(笑))

「たいがいの男は、自分を優しいと思っているものだろう。それなのに恋がうまくいかないことが多いのは、もっと大事なことがあるという証拠だ」
「それはなんですか?」
「色気だよ」
「えー」

 うひゃひゃひゃ(≧▽≦)。

 三浦センセの作品は初めてだったかなー?
 こういう筆致で書かれる人だと知って、なんだか嬉しい気分。
 ちょっとほかの作品にも興味がでてきたー。
 


(ラノベ指数 26/77)
10
 
『月明のクロースター 虚飾の福音』 萩原麻里 著

 仮面を使った儀式ということで、どこかで叙述的なトリックがあるんだろーなー……って身構えちゃったところが敗因かなー。
 読む側として。
 そのせいで初めっから裏を読もうと努めていた気が。
 んでも、そーゆー意識を抜きにしても「仮面モノ」として面白かった気が。

 仮面っちうか、ペルソナっちうか。
 物としての「仮面」ははたして心の内面を隠す象徴でしょうし、そしてその仮面の姿にそれぞれに相応しい別称を与えて呼び合うあたり、なかなかにサスペンスとして雰囲気作りが巧みだったなーと。

 まあ、でも、そうした雰囲気の中では年齢やら性別やらを詐称してミスリードさせているのですから、トリックという仕掛けの点では大味だなーとか思ったりして。
 んー……。
 意外だという驚きより、設定見せられた感心ってカンジでしょうか。
 こういう手法、力点は、なるほど萩原センセって気もするのですがー(^_^;)。


 にしても冷静に振り返ると酷い事件ですねぇ……。
 恋心が狂わせたと言えばそうなのですけれど、でもだからって、もうちょっとこのふたりはなんとかできたような。
 この物語に置いての状況を作ったのは周囲の人間かもしれないですけれど、根本的なこのふたりのトラブルメーカーぶりはいつか本当に無関係な他者を巻き込んで破滅しそう(><)。
 のろけるなら余所でやれ!
 誰にも迷惑かからないところで!……ってカンジ。


 ……もしかして、このお話、すごく恋愛だったのかも?(笑)
 

(ラノベ指数 25/77)
9
 
『聖鐘の乙女 光の王子と炎の騎士』 本宮ことは 著

 ホンッと本宮センセは仕事をされるかたですねぇ〜。
 あっちこっちで書きすぎじゃありませんか?
 ちょっと筆致のほうが乱れやしまいかと心配になるのですけれどもー。
 んでもそんな心配は無用ですか?
 むしろ書けば書くほど手慣れた感が出てきて楽しいったら。

 それでも今作は実質250ページ弱というところなので、一般的な作品に比べると量的に乏しいかなとも感じたのですけれど、これって一迅社文庫アイリスの規定のような気もするので今回は不問ってことでー。
 むしろこのページ数のなかできちんとシリーズものの導入部を収めてきたのですから、やぱし本宮センセは成長されているのだなぁ……と思うのです。


 で、そんな本編。
 これ――ゲーム好きな本宮センセらしい乙女ゲーでしょ!(笑)
 右見ても左見ても美丈夫しかいやしない!
 石投げれば当たるくらいにイケメンしか!

 や、もちろん脇役としてフツーの男子も登場してくるのですけれど、これがまた引き立て役にしかならない立場の弱さ!
 イケメン軍団の株を上げるために、これでもかと失態を繰り返しております(笑)。
 フツーの男子に、乙女ゲーの世界で生き残る価値は無いのだーっ!(≧△≦)


 イケメン軍団のなかで主人公のアディーシャにいちばん近い存在なのはネイトだと思うのですけれどー。
 アディーシャが女性であることを隠して学院に入学してきたことを知っている存在ですし、それゆえになにかとイベントが多いですし(イベント言うな)。
 でも、どーなのかなー。
 本物の王子であるサリアンが、ぎっりぎりなラインで存在感を持って行っているような気がしてならんのですわー。
 キャラ紹介もアディーシャに次いで2番目にいますしー。

 うーん、うーん、うーん……!(><)
 目的に向かってまっしぐらなオンナノコを支える、実直で厳格なオトコノコ……という組み合わせは好物なんだけどなー。
 でもイザってときにはその生真面目さが災いしてスッパリと身を引きそう……。
 いまのところ仕えているサリアン王子LOVE!な人ですし……。


 へ? ジェッツ?
 いまのところは安全パイでしょー(笑)。
 これで彼が「キャンディの君」であればまた違うのでしょうけれど、んー……どうなのかなー。
 これで彼がまんま「キャンディの君」だったりすると、それはそれでストレートすぎるかなぁ……という気が。
 展開的にも、ここは現状の流れをミスリードとしておいてほしいところ。



 亡き父の形見を探しに、男子校へ入学したオンナノコ。
 天性の歌声を響かせて、世界を司る謎へと迫る物語。
 アディーシャの行く先にどんな真実が待っているのか、なんとも楽しみなシリーズが開幕です(≧▽≦)。
 

(ラノベ指数 10/77)
8
『クジラの彼』 有川浩 著

 いまとなっては初期の頃の作品群となってしまう、有川センセの短編集。
 自衛隊内の恋愛賛歌であるスタンスはいまと変わらないのですけれど、んー……なんちうか、いまよりも「自衛隊」という組織にこだわっているような気が。
 自衛隊ならではの状況から着想を得ているっちうかー。
 いまはもっと、「普通の恋愛」と「隊員の恋愛」を単純比較しているような?

 たしかに特異な生活をしているのだけれども、そこに抱く感情はわたしたちあなたたち一般人のそれと全然変わらないのよ?と言っているような。
 今作ではまだそこまで踏み込んでいなくて、組織がくくりになる障害を物語の中心に据えているような気がするのですよー。

 もっとも、出だしの作品が『海の底』のスピンオフ作品ということもあって、組織にある程度の焦点を当てざるを得ないところもあるのかなー、とか。
 ある程度の縛りがあるっちうか。
 まぁ、そういうことが面白さの本質には影響なかったと思いますけれども(付随する「贅肉」に影響しているのではないかなーと)。


 収められている6編のなかでは、素敵すぎる彼女と付き合っていくことに自信のもてない潜水艦乗りを描いた「有能の彼女」が好きかなー。
 30過ぎて自信喪失自己嫌悪している潜水艦乗りが可愛いねー(笑)。

 可愛さから言えばイーグル乗りの奥さんを描いた「ファイターパイロットの君」もなかなか。
 自衛隊員としての有能ぶりに反して、世間一般的な「良い奥さん」になれていないことを悩む姿がかわいー!
 でもって肝心なのは、そんな奥さんを……いや、そんな奥さんだから愛している旦那様が!
 世間の偏見から奥さんと、ふたりの愛の形であるひとり娘を守る旦那さんがさー、かっこいいわー。
 世間がどうあれ、自分たちは自分たちだとしっかりとした芯を持っているなーと。

 この掌編は『空の中』からのスピンオフ作品とのことで、読むのが楽しみにー♪


 恋人に会うために一時脱走を試みる新隊員を諭す「脱柵エレジー」は、ホントに説話的っちうかー教示的っちうかー。
 物語的な抑揚には乏しいけれど、最後にドーンとたたき落とす!みたいなー。
 『ラブコメ今昔』での表題作でも近似のものを感じましたけれど、これはこれで有川センセのひとつの様式なのかなー。
 最後に意外な真実が!みたいな。
 恋愛話として興味を引かれるのはその「真実」のほうにわたしはあったので、それまでの「お話」を引っ張る狂言回しにはちと難がー。
 「ラブコメ今昔」ではその後にフォローが入ったから補完できましたけれど、こちらは投げっぱなしですからねぇ……。
 うーん……。



 ……あ、つまり、あれかな。
 今回の収録作の中で好きな順って、たぶん「ベタ甘ラブ」な順かもだ(笑)。
 ストレートに描いてくれたほうが好きーってことでー!(≧▽≦)
 

(ラノベ指数 15/77)
7
 
『ラブコメ今昔』 有川浩 著

 んっきゃーっ!(≧▽≦)
 自衛官+ベタ甘ラブ!
 この組み合わせでもはや有川センセに叶う人などいるのだろうか、いやいまい(笑)。

 恋愛物語における妙味って、降りかかる理不尽なくらいの障害なのだと思うのですよ。
 その点においてはベースが「自衛官」というだけでもう全てがクリアされているっちう。
 遠距離恋愛も、身分差も、性差も、家同士のしがらみも……etc。
 こう書くと語弊がありそうですけれど、自衛官のかたが恋をするって、ホント大変なんですねぇ……(^_^;)。


 6編収められている掌編のなかでは、オタクな自衛官との遠距離恋愛を描いた「軍事とオタクと彼」がイチバン好きかなー。
 オタクであることを引け目に感じて、なかなか積極的に踏み出せないでいる自衛官の彼。
 自衛官ってだけでも軽くないのに、そこへきてオタク趣味。
 いざカミングアウトされてもオンナノコが引くのもわかるわー。
 でもこのお話の彼女は、その性癖があったとしても耐えられるか考えに考え抜いたワケで、そこが素敵だなーと思うのです。
 自分の気持ちに、この恋に、真剣に向き合っているなーって。

 自衛官であることもオタク趣味であることも、それは彼を形作るモノなのだからそこを納得できなければこの恋は無理だろうってことも分かっているのですよね。
 そのことに「耐えられるか」ではなくて「許せるか」。
 耐える恋に未来は……無いかもですよね。
 でも許せるなら、たぶんきっと違う未来があると思うー(^-^)。

「こう見えてもあたしはな、あんたにオタクやて打ち明けられたとき、あんたがアニメの抱き枕持っててもあんたと付き合うって決意した女やで。舐めんな!」

 あはははははーっ!
 すごい啖呵の切り方(笑)。
 最後の「舐めんな!」が効いてますよね、リズムっちうかテンポっちうか。


 このお話では自衛隊の海外派遣のことも絡んできて、ふたりの仲に影を落とすのですけれども。
 たしかに一方的な書き方かもしれないのですが、どうして自衛隊が派遣されるのか、そしてそのときの自衛官の気持ちは考えはどうであるのか、彼の言動に考えさせられるものがありました。
 やっぱりわたしも「ほかの誰かのこと」としてしか派遣に関する問題を考えていなかったのかなーって、反省……。

 派遣に賛成するにも反対するのも、そしてそもそも自衛隊の存在にYESなのかNOなのかからして、もっと考えないといけないなー……って。
 本編にあるような「危険だから派遣させるべきではない」なんてコメンテーターの言は、矛盾どころか馬鹿げているなーと感じます。
 危険だから自衛官たちは赴くのでありますし、それは大切な人をその危険から守りたいからなのですよね。

 自衛隊の成り立ちを歴史的に追求し批判することと、いま、この瞬間に、大切な人を守るために戦うことを躊躇わない人の志を汚すことを一緒にしてはならないと思ったのです。



 次いで好きな掌編は、上官の娘さんと秘密裏に交際を始める「秘め事」。
 秘密なんてモノはバレるから物語なのであって!(笑)
 その発覚への流れがまた自衛官らしい衝撃的な展開だったりして……(TДT)。
 クライマックスへの怒濤の展開は、本作中イチバンだと思います。

有季が好きなんだ――好きなんだ好きなんだ好きなんだ! 邪魔するな!

 ひゃーもー、どんだけベタ甘なんですか!
 10代のオトコノコだってこうまで言わないと思うー(笑)。



 そのほかのお話も、どれもこれもがベタ甘で。
 そしてラストは有川センセらしいハッピーENDで。
 こんな倖せばかり見せられたら、ハートがメタボになるっつーの!(≧▽≦)
 でも後悔はしないね!
 おかわり!(笑)
 



(ラノベ指数 15/77)
6
 
『別冊図書館戦争U』 有川浩 著

 これにて幕引き!ってことで、ついに手塚と柴崎のエピソードが。
 えー、なによ、これ。
 本編の主人公ふたりより優遇されてませんかー?(笑)
 そりゃもちろんボリュームでは本編4冊+外伝1.2冊ってところですから十分に主人公の面目躍如でしょうけれど、エピソードがさー。

 本編はどうしても良化委員会との確執を登場人物の気持ち以上に中心に据えて置かないと軸がぶれますもんね。
 その点、外伝では良化委員会との確執なんてどこ吹く風ですしー(笑)。
 気持ちに焦点が絞られてくるのも当然でしょうし、そうなればエピソードもより親密なものになるのもまた当然ってことですか。


 フィナーレとなる今作ではそんな手塚と柴崎のお話のほかに、緒形副隊長のほろ苦い思い出と、堂上と小牧、両教官の若気の至りでの失敗談が収められているわけですがー。
 緒形さんのお話が思いのほか良かったです。
 外伝の『T』で「お前たちは同じ側なんだから」という緒形さんの台詞があったので、もしやと思って楽しみにしていたのですよー。
 ああ、この人にはなにかあるなって。

 取り返しのつかない過ちというのは世界にはあるもので。
 緒形さんもそんな過ちを犯し、それを心の傷として背負って生きてきたワケで。
 でも彼が立派なのは過ちを挽回することではなく、それを受け止めて同じ過ちを繰り返さないこと、その過ちを糧に成長することに努めたことなんですよね。
 不器用な人なんだなーって思いますけれど、だからこそカッコイイ。

 有川センセのパターンもそろそろわたしも理解してきたのでアレですが。
 センセのお話は必ず倖せな方向を示して結ばれるのですよね。
 どれだけ悲痛であっても辛くあっても切なくあっても、最後には必ず希望が見えるっちう。
 緒形さんのお話でも、そう。
 緒形さんが、そして加代子さんが受け止め続けてきた十数年を、わずか数ページで飛び越えて倖せをカンジさせるなんて、それを安易だとする向きもあるでしょうけれど、わたしは好き。
 それは別冊という今作の構造上の制限であるかもですし、なによりそんなことがなくても緒形さんと加代子さんは「倖せになるべき資格」があると思うのです。思ったのです。

 玄田隊長と折口さんの例が目の前にあるのですし、不惑の歳がなんだというのです!
 たしかにあの頃は優しさが足りなかったかもしれないですけれど、でも嫌いになって別れたワケじゃないっしょ!
 しかもその「好き」って気持ちをずーっと抱いてて!
 なんていうのかなー、そういう気持ちを抱きながら大人になるのって、すごく素敵なことだと思うワケさ。
 純愛とかそんなの知らない。
 でも、ずーっとずーっと変わらぬ気持ちを抱き続けられるなら、それは何者にも勝る揺らぐこと無い真実なんじゃないの?

 くだらない世の中のせいで遠回りをしてしまったふたりだけど、そんなふたりだからこそ、倖せになるべきだと思うのさ!
 きっとこんどは絶対に間違わないよ、ふたりとも!(≧△≦)



 あー、緒形さんのことで語り過ぎちゃってメインの手塚と柴崎のことでなにを述べて良いやら(^_^;)。
 このふたりがもう鉄板だというのは当然だとして、そこまでへの運び方が実に厭らしいったら。
 最後にはハッピーを見せてくれる有川センセですけれど、そこへ至る過程でのエピソードでの陰湿さはかなりのものですよねー。
 真綿で首を絞めるとはこのことか。
 ジワジワと逃げ場を失うように追いつめていくっちうか、キリキリと胃が締め付けられるようなストレスにさらされるっちうか。

 で、そんなウサウサした気持ちの中で、やぱし郁はすごいですわ。
 問題解決に直結することはないのですけれど、こちらの代弁者たり得る行為を見事にきめてくれるっちうか。

「分かってんのか貴様らはっ! 同じ図書隊の仲間が! しかも女性が正体不明のストーカーに写真上とはいえ辱められたんだぞ! 憤りこそすれ回し見て喜ぶなどは言語道断だ! 写真は見なくても黙っていた者も同罪だ! 今日は全員まともに歩いて寮に戻れると思うな!」

 図書隊が一枚岩ではないことは重々承知していたつもりなのですけれど、これはなぁ……。
 良化委員会との闘争も変化(軟化?)してきた時代ということを差し引いても、こうまで図書隊の中が低俗化していたということに驚きを隠せませんでした。
 ことに郁が教官として教えていた吉田という隊員のアホウっぷりは極まれりでしょうか。
 こいつ、いつか図書隊にとって大きな足枷となりかねない気が。
 ……以前、朝比奈さんが柴崎に仕掛けてきたようなパターンで籠絡されて、簡単に機密情報を売り渡しそう。
 「あいつは俺がなんとかしてやらなきゃダメだったんです!」
 とか自信たっぷりに。
 緒形副隊長のストイックぶりを見せられたあとだけに、余計にダメダメ感が。

 吉田ってあれかなぁ。
 本編4巻のエピローグで「銃、打ちたかったなー」とかほざいていた隊員。
 だとするとホントにもう……(TДT)。


 柴崎へのストーカー事件は、可能性を考えられる最重要容疑者を敢えてなのか捜査線上からずーっと外している点が気になりました。
 いや、そこ、真っ先に捜査するでしょ!とか思ってました。
 先述の図書隊内の規律の乱れにつながるのかもしれないですけれど、郁をはじめとする真面目な図書隊員は身内が敵に回ることを想定していないっぽく感じるのデスヨ。
 図書隊を志願してくる者同士には鉄壁の絆があるかのごとく。
 むやみに疑えとは言いませんけれど、いざ有事に当たる場合には初期条件をクリアにして全ての可能性を探るべきだよなぁ……と。

 ぶっちゃけ、そこを疑えば犯行も早期に発覚してスピード解決していたのではないかと思ってしまったりして。
 写真に書かれたメッセージについても、誰も指摘しないし……。
 ダメすぎです、この探偵たち……(笑)。

 有川センセに推理ミステリは難しいかも……と思ってしまったわ(^_^;)。
 もっとも、それ以上に恋愛の機微について精緻に書けるかたなので、弱点や欠点は放っておいて得意なジャンルでこれからも活躍していってくれればいいんじゃないかなーとも思います。



 とまれ、本当にこれで最後。
 大変な時代はまだしばらく続く世界ですけれど、そんな世界だからこそ、みんなみんな倖せになればいいと思うよ!(≧▽≦)
 


(ラノベ指数 38/77)
5
 
『放課後トロイメライ』 壱乗寺かるた 著

『いきますよー! みなさんもご一緒に! キャッチフレーズは!』
「ラブ!」
『合言葉は!』
「ラブ!」
『変わらぬ魂はここに生きている!』

 いいなぁ、美春ちゃん……(T▽T)。

 富士見ミステリーが消えようとしているところ、富士見ファンタジアへ移ってリスタート!……なんですが。
 新規読者を開拓しようって気、あまりないですよね、壱乗寺センセ(笑)。
 もー、冒頭から飛ばしまくりじゃないですか!
 仮に新規読者がかろうじていたとしても、流行りモノに乗っかったオタクネタが次々と次々と登場してきて、ふざけてるとしか思えないんじゃないでしょうか。
 それも流行りモノすぎてネタが滑り気味ですし……。

 いや、あの、これが壱乗寺センセですから!
 ふざけてなんか、いないんです!(>△<)


 と、まぁ、ここまで読み続けてきた既読者としては、「いつもの壱乗寺センセ」らしくって安心して笑ってしまったのですがー(笑)。
 むしろ今更状況説明とか始めない潔さに感動デスヨ!

 ああ、でも、満を持して登場したトーマの妹・葉琴ちゃんに説明するかたちでトーマの周辺をさらりとまとめてみせていたのは、そーゆー意図があったのかも?
 だとすれば、せっかくの琴ちゃん登場なのに使い勝手の良い小道具として配された彼女が不憫で……。
 今シリーズは妹キャラが数多く登場しますけれど、そのなかでも正統派妹ポジションにいたはずの琴ちゃんを! そんな形で消費してしまうことがっ!

 でも正統派の妹キャラだからこそ、ラストではお兄ちゃんを見事に立ててくれましたねぇ……。
 妹キャラがいかに多くても、その兄妹関係がどこかいびつなものばかりの世界にあって、このふたりは「普通」の兄妹なんだなぁ……って。


 トーマはさぁ、ホンッとダメダメで頼りないお兄ちゃんなのかもだけれど、それでも他人の痛みを感じ取れる人間だし、どうやれば世界が(少なくとも自分が手の届く世界だけでも)倖せになれるのか探すだけの優しさを持っているワケっしょ?
 のほほんとしていてもさー、幼かった頃の彼の気持ちを見せられたエピローグはもうねもうね……(T▽T)。

 底辺はいずり回るトーマがどうして<トップ3>の一員なのか説明に窮しているシーンがありましたけれど、やぱじ長峰さんの指摘が正しいのかなーって思います。
 ダメなら、これから立派になればいい。
 ダメな人間の中にはダメなままに過ごす人もいるかもだけど、トーマは違う。
 彼はダメなままでいてはいけないことを知っている人だと思うのです。

 ――その思いの結果、はたして「立派」になるのか、それとも「もっとダメ」になるのかはこれからですけれど、もー(笑)。



 変わってないと先述しましたけれど、んー……どこか変わったような?
 トーマの気持ちが、もっと深いところまで踏み込んでいるような。
 チョコ争奪戦のラストも、トーマは一葉さんのチョコが欲しかったのかな?
 もしかしたら冬姫さんから欲しいって思ったんじゃないかなって。

 叶うはずのないことだから、トーマは言葉にしてしまうような。
 少しでも、わずかな可能性だとしても叶うかもしれない未来であるなら、彼は言葉にはしないんじゃないかなーって。


 うー、あー……。
 いろいろと考えることが多すぎて、もうっ!(><)
 早くっ、早く次の巻を!!!

(ラノベ指数 46/76)
4
 
『アスラクラインI 科學部カイメツ』 三雲岳斗 著

 もー、のっけからクライマックス!っていうか。
 ようやく環緒さんに会えたかと思った前巻からの続き。
 使い魔を操る真日和に追われるわ、契約悪魔の鳳島氷羽子に襲われるわ、はては怪しげなピカソ仮面にぶった切られるわ、とんでもない窮地の連続。
 よくまぁ、智春たちは次のステージまで生き残ることができました……っつー。

 これだけの大乱闘を繰り広げてしまっては、環緒さんに続いてこちらもようやく、ようやく!出会えた夏目直貴の印象もかすんで……かすんで……あれ? かすんでない?
 ちうか、彼が語る実は!実は!実はっ!の世界背景暴露話のほうが実際の乱闘よりも衝撃的で。
 これまでも匂わせられていたトコロですけれど、一巡目での失敗をやりなおすためのこの二巡目の世界、そこにどういう意味があるのか、そして智春の身に降りかかる災難のワケがここにきて一気に! 怒濤のように明らかになって!

 でもこれ、今回だけではただの設定開陳でしかないのですよね。
 むしろ次巻以降でより詳細に明らかにされていくことへのプロローグでしかないワケで。
 やーもー。
 この壮大かつ緻密な伏線の張り方は三雲センセの真骨頂ですな!(>▽<)
 設定は設定として、これからどう展開させていくのか見せてくれるのか、楽しみで仕方ないデス!


 ラスト、智春の身に起こった新しい状況。
 そんな智春はさておき、この状況って二巡目の奏っちゃんの命に時間猶予がされたってことにもなるのですよね、物語的に。
 真相に近づくのはこれからの智春の行動次第なので安心はできませんけれど、それでもあのまま奏っちゃんが傷ついていくのは見ていられなかったので。
 もうちょっとさぁ……彼女、報われてもいいと思うのに、なぁ。
 直貴と環緒さんの関係がそうだと明らかにされたとなると、智春と奏っちゃんもアレなのかなぁ……と思えてしまって、なんだかちょっと寂しい気持ちに。



 ひとりの無邪気さが悲劇の連鎖の根源であったという。
 ホンッと、タチ悪いわ、自分の欲望を正統なモノだと主張する人には。
 欲望があるからこそ人間かもしれないけれど、それは誰かの欲望と重なりはしないのか、邪魔をしないのか。
 そういう距離を意識してこそ人間でしょうに!
 距離を優先しろとは言ってないよ!
 でもねでもね、ほかの人はどうでもいいなんて考えは間違ってるよ!
 自分に都合悪い世界なんてイヤだから、都合の良い世界に行くよ……なんて考え方、許してはいけないと思う!

 世界を「優しい」とか「厳しい」とか感じるのは自分次第でしかなくて。
 本当は世界はそこにあるだけ、そこにあるのが世界なんだと思う。
 厳しくなるのも優しくなるのも、自分の考え方ひとつなんじゃないかなー。


 智春はこれでどん底だし絶体絶命かもだけれど、ここからの大逆転劇に期待してます。
 幽霊憑きではあったけれどそれ以外は特別なことをなにも持っていない彼だからこそ、わたしも共感できるのかなーって。
 弱虫でも、臆病でも、いざというときには少しだけ勇気を振り絞る智春。
 そんな彼だからこそ、きっと読み手の代弁者たり得るのだと思うのです。

(ラノベ指数 7/76)
3
 
『阪急電車』 有川浩 著

 あ、装画は徒花スクモさんなんですねー。
 メディアワークスの外でも有川センセとペアを組まれるとは、よほど相性が良いのでしょうか?
 今作の装画、情緒深くもあるのですけれど、それでいてどことなくとぼけているような雰囲気が可愛らしいです。
 少しだけ苦く、そして少しだけ倖せになれる。
 そんな本編の雰囲気ととてもマッチしているなーと思います。


 阪急今津線車内およびその沿線を舞台にした、多様な人間模様。
 電車の中で見られる人からドラマを作れとは創作系物書きのトレーニングとしては常道なのですけれど、それをひとつの物語に仕上げてしまうというところが上手いのかなぁ。
 アイディアとして着眼するだけでなく、ひとつの形として顕在化させるっちうか。


 小さな恋の始まりや、昔の自分に区切りをつけて新しい一歩を踏み出す人。
 ひと駅ひと駅の乗車時間なんて10分程度なのでしょうけれど、その短い時間にだってドラマはあって。

 寝取られ相手の結婚式へ乗り込んで見事討ち入りを成し遂げた翔子さんとか、暴力的な彼氏からキッパリと身を引く決心をしたミサさんとか、かっこいい女の人のお話も素敵でしたけれど、やぱし恋の始まり、その瞬間を描いたお話のほうが好きかなー。
 とくに大学生の圭一くんと美帆ちゃんのふたりがさー。
 もう初々しいったら!(≧▽≦)

 ちょっと頑張れ、今頑張れ、俺。

 幸運の神様に後ろ髪は無くて。
 チャンスは、訪れたその瞬間にしか無くて。
 始まりは偶然が運んできてくれたかもしれないけれど、それを結実させるのはやぱし当人の気持ち、努力しかないのですよねぇ。 


 ユキさんと征志くんの大人カップルもいい雰囲気!
 大人しそうに見えて意外と策士なユキさんと、単純そうに見えてそんなユキさんの手綱をしっかりと握って御している征志くん。
 なんなのー、このお似合いすぎるカップルわーっ!!

 お酒を飲める人は多いでしょうけれど、お酒を嗜むことができる人は少ないんじゃないかなー、と。
 ユキさんのお酒の飲み方、かっこいいわー。



 格好良くて可愛らしくて。
 人生の楽しみ方って、まさにそこにあるかなーと。
 同じ人生を見つけることはできないですけれど、ここに描かれた人たちみたいに楽しいドラマを見つけていきたいなー。
 そんなふうに感じたのでした。
 


(ラノベ指数 34/76)

『聖剣の刀鍛冶2』 三浦勇雄 著

 世界の裏事情が見えてきて物語も動き始めているなーという感覚はあるのですけれども、実際にセシリーたちが過ごす日常は地味ですねぇ。
 主人公からみで派手さが無いといいますか。
 んでも、派手さはなくても熱さはあるワケで。
 んもー、なんなのよー、彼女の剛速球は!(笑)
 人間のやることにある、行動の裏、建前、言い訳、繰り言……etc。
 そんな虚飾をすべて取っ払っちゃって、その奥にあるひとつの真実だけを叩きつけてくるっちう。

 己の無力を嘆いても詮無い。だからそれは捨て置く。
 そこに自分の力が及んでいようとなかろうと、結果的に彼女たちが救われるのならば問題は無い。そう思う。自分はみっともなく他者の脚にしがみつき、乞い求め、その人に力を行使してもらう。それで彼女たちが救われるなら偽善や誇り云々など瑣末なこと。
 ――救うために、体裁は棄てろ。

 無力だから、勝算が無いから。
 そんなことは「動かない」ことの理由にはならないのですよね。
 失うものと得るもの、ふたつを天秤に図って失うものが勝ってしまったとき、人は「動かない」ことの理由を探し始めるわけで。
 自分の役割ではない、時期尚早、大局的見地……。
 そんなもの、だからどうした……と。

 間違っていることは間違っている、そして正しいことは正しい。
 立場とかタイミングとか、そんなことで揺れ動くようなことは間違いでも正しさでも無く。
 それはただの「都合」で。
 そしてそんな「都合」に隠されてしまう間違いも、正しさも、世界にはあって。
 セシリーは思考ではなく感情でそれを見つけてしまうのですね。
 そして彼女の信条は「救う」こと。
 全てを。
 だからこそ彼女は間違いを正そうし、正しさを守ろうとする。
 そんな真っ直ぐさに泣けてきてしまうのです。
 「都合」で動かされてしまう、情けない現実を前にして。


 もちろん彼女も信念を貫き通すためには自身が無力であることは百も承知。
 「救う」ためにはある種の力が必要であって。
 だからこそ彼女は強くなろうとしますし、そしてその努力は少しずつ実を結んできています。
 そうした結実した結果には爽快感があるのですけれど、でも彼女の魅力は強さに到達していく結果にあるのではなく、それを求め続ける姿勢にあるのではないかなーとわたしは思うのです。

 これを「過程」と表してしまうと、なんだか部分を切り取ってしまったカンジ。
 彼女が達するべき答えはもっともっと先にあって、それはもしかしたら辿り着けないトコロにあるのかもしれないけれど、だからといって彼女は歩むことを止めはしない。
 歩み続ける姿も、そして手にする答えも、どちらも大事。
 間違ったやりかたでたどり着く答えは、やっぱり間違っているのだと。
 正しい答えには、正しい道筋を歩んでこそ、はじめてその「正しさ」が証明されるのではないかなー、と。
 過程と結果の相関関係と申しましょうか。



 自分ひとりが良いことをしても、汚い世界は変わらない。
 そう、うそぶく人もいるでしょうけれど。
 自分ひとりのその行いの分だけでも、世界は変わるのではないかな。
 それでもその小さな善行をしないのは、そこに損得を見たりしているかななのではないかなー。

 セシリーは自分で「頭が悪い」と表していますけれども、それは損得を考えられない頭の悪さなんですよね。
 だからこそ本質に「感覚」でたどり着いてしまうっちう。

 物事の本質を見据えてそれを暴き、取り繕うこともせず受け入れるのは「勇気」だと思いますし、本質を隠そうとするあまたの事象を打ち払い、そこにたどり着こうとする意志を「覚悟」だと思います。
 そんな彼女にわたしも続いていけるようになりたい。
 そう、感じたのでした。
 

戻る