○● 読書感想記 ●○ 2008年 【4】 ※ 書影画像のリンク先は【bk1】です ※
銀河の片隅で生まれた恒星は、長い輝きを経てやがて、超新星としてその生涯を終える。その飛散した物質により第二世代の星々が生成される。その第一世代の恒星の溶鉱炉の圧力の下で、生まれた金が土壌に含まれたとのだ、と言われている。 つまり、金は、星の忘れ形見なのだ。
かーっこいー!(≧▽≦) 冒頭で語られたこの一文で、ハートわしづかみ! キュンときたね、キュンと!(笑) 星々の物語とは今作は関係なかったのですけれど、折に触れて「金」という物資にまつわる特別な事情が顔を覗かせてくる点が興味深くて。 それはもう「金」という物質の前には絶対的な数値のこと。 物語に都合の良い物質を創り上げるのではなく、誰もが知っている、そして詳しくは知らない存在に着目して物語を繰り広げる。 そうしたところにセンセの力量を感じるのです。 設定厨には絶対に辿り着けない高みだと思うのです。 もちろん二転三転していく展開も絶妙! まさに成功と落とし穴の連続。 「抱腹絶倒のジェットコースター・ノベル!」とのコピーに偽りなしだわ(^-^)。 先へ先へと引っ張られれる勢いがある〜。 でもってラスト、結び方が素敵。 なんちうか、これだけ広げた風呂敷を見事にまとめ、しかも落ち着くべきトコロへ物語を収めるセンスには脱帽デス。 ブラボー!(≧▽≦) ……やぱしねぇ、物書きたるや「物語」を閉じて、初めて評価される存在なのかなーと。 いつまでも長く同一シリーズを書き続けても、最終的な評価は保留……とまでは言わないけれど仮採点でしかないのかなー、って。 海堂センセの作品などを読んでいると、長期シリーズに至る作品って安易な手法に頼ってはいまいかと疑ってしまうわ。 「シリーズだから面白い」ということと「シリーズでなければ面白くない」というのは違うと思うのですよね。 だれか海堂センセの桜宮市の作品群をまとめて解説してくれないかなー。 年表とキャラ表は、マジで欲しいです(^-^:)。
違法行為で甘い汁を吸い、一方ではお嬢さん面をして生きていこうだなんて、ご都合主義にもほどがある。未成年だろうがなんだろうが、社会の一員として生きるなら、それ相応のルールは守れと言いたい。それが守れないのなら、社会から排除される覚悟をするべきだ。 「あんまり、当たり前のことをバカにしないことね。当たり前のことには、それが当たり前になるだけの、ちゃんとした理由があるものなのよ」
この言葉になんだかスッキリした気分。 どうしてやってはいけないの? 法律で決まっているから? なんでそんな法律、守らなきゃいけないの? そんなくだらない言い訳へむけて、最高のひと言。 自分という人間は社会の中に生きている。生かされている。 名前も、住むところも、経歴も、みんな社会が認めてくれたから価値があるもので、社会が認めてくれなければ価値も意味も失ってしまう。 だから、社会が決めたルールは最低限守らなければ。 それが自分を認めてくれる社会へ対して、自分が出来ることなのだから。 そんな法律、自分が知らないところで勝手に決められたものじゃん! そう言うならば。 「知らないところ」を「知るところ」にするためにも自分がその場所まで上っていくべき。 その努力すら放棄するなら、お仕着せのルールをあてがわれても我慢すべき。 自分はなにもしないでどうにかしようなんて、甘すぎる!(><) 耐震性に関しての違法建築。 百人を超す死者を出した列車事故。 学校でのいじめ、会社でのパワハラ……etc。 どの掌編も社会性や現代性に富んだ事件ばかりで考えさせられます。 事件の表面だけでなく、そこに至るまでの状況や感情などを巧みに織り込んで、ただの社会リポートにしていないっちう。 現実に即した事件を描く時代性も誉田センセの魅力だと思っていましたけれど、今作はそれが見事に表されているカンジ。 短編集ということでダイナミズムはなくても、そこに書かれたことの主張や方向性は、既作を含めてひとつの高みにたどり着いているような。 これからも姫宮さんが活躍するお話は出されるのかな〜。 楽しみっ!(≧▽≦)
「そんなことでぐずぐず言うの、男らしくないわよ」 「反省はしている」 「今度会ったとき、言いなさいね」 「なにを」 「わたしのことが、好きだって」 「今度会ったとき、言おうと思っていた」 「それなら許してあげる」
ひゃー、これですよ、これっ! 優しくない時代背景のせいか重々しい雰囲気が全体のトーンの今作ですけれど、むしろそのおかげでワイズクラックが要所を締めてるカンジ! やぱし樋口文学は楽しませてくれます(^-^)。
「偉い」 椿が言った。その声に振り返る。彼女がもう一度繰り返した。 「偉い。よく、やる気になった」
――と評したところに不思議と感動。 高い感受性と深い洞察力を兼ね備えた子なのかなー。 そんな彼女も彼氏に対して怒るときは、彼氏の良いところ、そんな彼と付き合うことが出来て嬉しかったこと……等々、「優しい人だと思っていたのに、なのに違うの?」ということを裏メッセージで切々と訴えるのだそうで。 素敵すぎる!(笑) 上巻ではようやく容疑者とおぼしきひとりを見つけただけ。 これでそのまま事件解決……とはならないと思いますし、どのような展開を見せるのか下巻が楽しみです。
十七歳という年齢はきっと立ち止まれないのだろう。いつかは苦い真相に行き当たるとわかっていても、暴いていってしまうのだ。十七歳というのは、どうしたって見えているものの裏側を求めてしまう年齢なのだと僕は思う。 (中略) たくさん知ってしまう。そして、気づいてしまう。いちばん繊細な心で、いちばん苦い真実を暴いてしまう。こうした取り合わせが生まれるのは、十代半ばからの気づきの多い時代だからこそ。僕が青少年期とミステリの相性がいいと考える所以は、ここにあるのだ。
最後に関口さんの解説より青春ミステリの骨子に触れた一節を。 まさに、正鵠。 そしてそれを体現している作品が、樋口センセのそれなのだと思うのです。
『魔女』 樋口有介 著 人を殺すには理由がある。 だから殺人事件は物語として描かれる。 そういう推理ミステリの基本であるところを樋口センセは丁寧に押さえてくれるから好きなんですよねー。 おまけに今作の主人公である広也もぬるま湯系っちうか、こう、COOLでは無いんだけれども決してHOTじゃないよねぇ……ってくらいの気概で。 樋口文学における、いかにも〜なカンジの主人公(笑)。 でもってそんなぬるま湯な温泉卵みたいなオトコノコが、樋口文学ではなぜだかモテるんですよねぇ……。 特に取り柄があるっちうわけでも、特徴があるってわけでもないのに。 エロゲの主人公みたい(笑)。 ←エロゲ脳 でも、現実の世界で恋するときだって、その人の能力にホレるわけでは無いですしねぇ……。 雰囲気っちうか佇まいっちうか、一緒にいるときの空気っちうか。 そういう観点でいうならば、樋口文学のオトコノコは好かれやすいのかも……とか思ったりして。 わたしには納得できる性格なのですよー。 そんなぬるま湯なオトコノコを振り回すオンナノコ。 ふたりのあいだに交わされるワイズラックは軽妙で。 ミステリとしても樋口文学としても、入門書としては適当かなーとか思ったりして。