○● 読書感想記 ●○ 2008年 【3】 ※ 書影画像のリンク先は【bk1】です ※
「エラーは気付いた瞬間に直すのが最速で最良だ」 「悪意と無能は区別がつかないし、つける必要もない」
――のふたつです。 特に後者は明言だと思ってます。 戦いを決意するのに迷ってはいけないということでもあるような気がするので。 それが敵であるならば、相手の立場が動であろうと打ち負かし勝たねばならないのですし。 医学ミステリーと銘打たれていますけれど、それは海堂センセのこれまでを持ち上げすぎて内容とは乖離してないかなーという印象が。 この作品は、もっと、こう、少年の成長譚な部分とか、言質や修辞などの筆致の妙に楽しさがあるのではないかなーと。
悲しみを他の人間とわけあうことのできた幸福な子供時代は、彼らにもすでに、遠い昔のことだった。
改めて気付かされる幼年期の終わり。 切なさと痛みをともなう通過儀礼。 だけれど、それは、ひとつの愛の物語でした。
「面白くないわ、ちっとも」と、ぼくの指を自分の掌の中でいじくりながら、ふてくされた声で、麻子さんが言った。「けっきょくいつも、最後は戸川くんの言いなりで。くやしいったらないわよ」
うひゃー。 かーわーいーい〜(≧▽≦)。 理不尽なことで振り回される春一も、だけれどそんな彼女を甲斐甲斐しく相手してるしさー。 麻子には「冷たい人ね」と評されてしまいますけれど、本当に本当、間違えていけない最後のトコロでは正しい行動を選ぶことができてますしね。 クールを装いながらもオンナノコを守ることにためらいが無いっちう。 ハードボイルドだね!(≧▽≦) ……ああ、そうか。 青春ミステリなんだけれど、ハードボイルドなのか。 オトコは強くあらねば? ミステリにはわたしはふた通りあると思うのですよ。 新本格のようなトリック重視のタイプと、動機につながる心理描写を重視するタイプ。 わたしの感想では後者のほうが物語的な色づけは濃くなる気がするのですよ、どちらかといえば。 で、今作がどちらなのかと言えばもちろん後者で、事件そのものの種別などは極めてステロなんですよね〜。 動機や手法も含めて、おおよそすぐに類推できてしまうという。 それでもそれ以外の部分、ことに先述のように春一と麻子のやりとりなどがとにかく軽妙でそれだけで引き込まれてしまうわけでー。 ああ、これが15年以上も前に上梓されていたなんて。 昨今のライトノベルのブームとかツンデレを筆頭とするキャラクターのラベリングとか、正直、負けてしまっていると思ってしまったり。 樋口有介という人は、そんなところを15年前に通過しているんだなぁ……と。 とにかくハートをわしづかみにされてしまったので(主に麻子の可愛らしさに)、これから樋口センセを追いかけていこうと思います。
「あなたがバルロイ様お気に入りの、ノーラというおっぱいメイドですね」
直球勝負しかできない投手キタ!(笑) でも今回の件を見る限り、レネの存在はアリシアに薬になってるワケではないですよねぇ。 むしろ問題が倍加したような?(^_^;) ふたりそろって本気で知らなすぎなんですもん! カシュヴァーンとノーラ、乙!(笑) 本編のほうはルアークの出自を含めた過去話をベースに、ライセン夫婦との絆を深めるという回? ウソだと知りつつ、あえてそのウソに乗ることで安息を得ようとするルアークの悲しい立場がよく表れていたかなぁ。 そしてそんな愚かさを拳で修正するカシュヴァーンの漢っぷりったら! おまえがっ、泣くまでっ、殴るのをっ、やめないっ!(笑) お父さんと息子ってポジションで表されてましたけれど、わたしには男同士の友情に見えたかなぁ。 間違ったことをしているなら、殴ってでも引き留めるような、真の友情?みたいな。 で、そんなふたりを嬉しそうに眺めるアリシアというポジションもまた、ヒロインらしい立ち位置だったかな〜と。 慈愛を持って見守るポジションといいましょうかー。 ルアークをダシにしてカシュヴァーンにちょっかいをかけてきたオーデル侯爵の存在は相変わらず明確な敵として残っていますし、そんなカシュヴァーンの周囲はアリシアを介して人が集まってきていますし、これは物語として大きく膨らんでいくのかな〜と楽しみに。 さーて、カシュヴァーンがいつまで我慢できるかなっと(笑)。
『葉桜が来た夏』 夏海公司 著 当初は反目し合っていたオトコノコとオンナノコが、それぞれの確執を乗り越えて手を取り合って未来を向くお話。 ステロといえばステロなんですけれど、それだけに安心して読み進められたかなぁ。 奇をてらったところが無いというか。 でも、この作品ならではの魅力っていう点も薄い気がするのも……。 とりあえずステロにするならステロに徹してほしいような。 ステロゆえに雰囲気でわかってしまう、通じてしまうって部分が少なくなくて、もう少し細やかなところに意識を使って創り上げて頂けたら……と思うともったいなやもったいなや。 1冊のお話としては枝葉の部分になってしまうのかもですけれど、女性だけの種であるアポストリたちが繁殖のために人間の「血」を必要とするくだり。 んー……こことか、ねぇ。 両者に強制的な関わりをもたせるにしても、ならばもう少し要点として描いて欲しかったような。 おぼえている限りこの設定が展開の表面上に浮き上がってきたのって1回だけだったような。 人間とアポストリ、そして人間の学とアポストリの葉桜。 全体の関係を描くにも、個の関係を描くにも、設定が浸透していなかったように思えるのですよー。 このあたり、続刊とかで活かされてくればいーなー。 まぁ、でも、この物足りなさも、そう悪くないような? 続きを読みたいと思う程度に。 奨励賞を受賞しているってことは、レーベルの傾向としてもう1冊は出してもらえるのはないかと思いますしー(笑)。 うん、楽しみにしています。