○● 読書感想記 ●○
2008年 【3】

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(ラノベ指数 13/73)
20
 
『荒野』 桜庭一樹 著

 桜庭センセの直木賞受賞後第一作とのアオリですけれど、三分の二の流れは加筆修正がされているとはいえファミ通文庫で上梓されたそれですし。
 作品の出自がそこにあるせいか、いまの桜庭センセの作品にしては作り込みが甘い印象があるよーな。
 いまのセンセなら、もっと複雑な感情や情念を織り込んでくるイメージがあるのですけれど、今作は思考の流れが固定化されているっちうか一元的っちうか。

 もっとも、そうした単純構造があるから、12歳から16歳の多感な少女時代を経てくる荒野の変わり様が浮かび上がってくるのかもですけれど。
 ……でも、やぱし彼女の視点や思考が強すぎて、それはキャラクター性を重視するライトノベルという分野で生まれた作品だからなのではないかなぁ……と感じてしまう次第。

 「越境作家」が騒がれて久しいですけれど、作品の描き方で二つの世界の異なりかたを示してくれている貴重な作品でもあるのかなーと思います。


 もちろん全てが違うというワケでもなくて、少女が女に変わるということ、女性が圧倒的な存在感で世界の中心に据えられているようなトコロ、変化を恐れながら必然のためにそれを受け入れるトコロ……etc、いまの桜庭文学に通じていく要素などはむしろ盛りだくさんな印象があったりして。
 このあたりがやぱし桜庭センセのターニングポイントであって、そしてベースラインなのかなー、と。


 荒野についても悠也と付き合うことになっても、そこに劇的ななにかがあるわけでもなく、外へと歩み出していく悠也とは反対に昔からの場所にとどまることを選んでいるワケで。
 少女から女になった彼女もまた、新しい世界の中心に座していくのだなぁ……と思うワケですよ。
 で、悠也は彼女を起点に外へ外へと「荒野」を目指していくワケで。
 始まりを決めなければ、なにが「外」でなにが「内」なのかは規定できませんものねぇ……。



 桜庭センセの作品は、青春文学には決してならず、あくまで少女文学の域で高みに達しようとしているのだなぁ……という認識を深めた一冊でした。
 

(ラノベ指数 12/73)
19
 
『風少女』 樋口有介 著

 うええええ??
 構造が『ぼくと、ぼくらの夏』と同じデスヨ???
 それでいて探偵役・斉木亮と、ヒロイン・川村千里のつながりが薄まっているので、今作は「青春ミステリ」としてはデビュー作より後退しているなーという印象が。
 反対につながりが薄まっているだけに亮の行動の自由度が高まっているので、推理ミステリ、そしてハードボイルドとしての質は高まっているかなーとも。

 どちらに重きを置くかで違うのでしょうけれど、ね。
 今作の、そして樋口有介という著者に対しての評価が。
 わたしは「青春ミステリ」の部分が大好きだっただけに、この後退?は残念だなーとしか。
 ことに構造自体は前作を踏襲しているだけに、その部分での違いが明確すぎるのですよー。


 まぁ、でも、しかし。
 少し斜に構えた主人公のじわりとモテる様はニヤニヤしてしまいまふ。
 もちろん主人公補正というのもあるのでしょうけれど、こーゆー影のあるオトコノコが気になるオンナノコというのも理解できるなーと思うのですよ。
 ことに自立心があると自分では思っている子など、ダメな男子を自分が守ってやらなきゃ!とか思ったりするんでしょう。
 実際は守るはずが守られてしまうワケですけれども。
 そんな理想と現実の裏返しが可愛いのです(笑)。

 はい、ツンデレツンデレ。


 ミステリ部分も素敵ですけれど、やぱし樋口文学の妙は男女関係にあると思うー(≧▽≦)。
 

(ラノベ指数 27/73)
18
 
『伯爵と妖精 誰がために聖地は夢みる』 谷瑞恵 著

 晴れて婚約者同士になったのですから、リディアももう少し気安くしていればいいのに。
 いや、ま、喜んでいるんだろうなーって気配は感じられるのですけれど、どうにもギコチナイっちうか。
 一般的なオンナノコの例に漏れず「婚約」や「結婚」については喜んでいるように見えても、その相手が「エドガー」であるから喜んでいるようには見えてこないんですよねー。
 エドガーを特別な人と意識しているのかしていないのか。
 まぁ、考えることが多すぎて、エドガーに甘えるどころではないのかもですけれどー。

 それでも決着に向けて動き出しているなーというカンジが真に迫ってきていたり。
 リディアの出自についても、エドガーとプリンスのことについても。
 それを一緒にまとめて解決を図ってしまおうというトコロに物語としての仕掛けの大きさをカンジたりして。
 シリーズ当初はここまで膨らむお話だとは思わなかったですもの。
 思えば遠くへ来たものです(^_^;)。


 そうした大きな流れに、ニコは呑まれてしまった感が。
 まさかニコがリディアのもとを離れる日が来ようとは!
 でも彼女の母から頼まれたことを果たしたと感じるなら、ニコがそうすることも理解できるのですよねぇ……。
 エドガーという、リディアのこれからをともに歩んでいってくれる存在が見つかったのなら、ニコも彼女の母であるアウローラへの義理?を果たしたと言えるのでしょうし。

 まぁ、レイヴンとの絆?がこれほど深まるというのは予想外でしたけれども。
 友情とはまた違った信義みたいなものが通じ合った間柄というのでしょうか。



 自分の存在が愛しい人を傷つけると知って、一時的にせよ愛しい人のもとを去る。
 その別離がまた違う意味で愛しい人のココロを傷つけてしまうと知っても、それでもこれから先のふたりの未来のために。
 あーうー……。
 こうまで綺麗な葛藤を目にするのも久しく無かった気がするー(TДT)。

 離ればなれになってしまうリディアとエドガーですけれども、それでもふたりの絆は切れてしまわないと願っております。
 ほんとにね、もうねもうね……。
 
(ラノベ指数 18/73)
17
 
『メグとセロンU 三三〇五年の夏休み<下>』 時雨沢恵一 著

 ひとり頭の良いオトコノコが誰よりも(当然読み手よりも!)真相にたどり着いて、それを確かめるためにひと芝居をうつ。
 彼のことを無条件で信頼する仲間が彼の芝居を受け入れて賛同し、共に芝居を打つ中でいよいよ浮かび上がってくる真相。

 なんでもかんでも結びつけるのは性格悪いですけれど、どーも『アリソン』の流れをなぞっているような気がするのですよねぇ……。
 探偵役のヴィルの位置はそのままで、アリソンの役割を今回は分割して複数の「仲間」に割り振ったというか。
 ……って、『リリア』でそのまますぎるポジショニングを配してしまったことへの反省なのかなー?

 まぁ、「名探偵、みなを集めて『さて』と言い」な舞台は嫌いじゃないですしこれも良いのですけれどもー。



 夏休みの学園で遭遇した奇妙な事件を解決した一同は、そのまま少年少女探偵団になってこれからも学園に巻き起こる事件を解決して回るのでした、めでたしめでたし……ってカンジ?
 そういうお話も悪くはないですけれど、学園という狭い場所で「探偵、現るトコロに事件あり」という展開は好きくないなぁ。
 今回のお話などは、長い争いを続けてきた二国間の問題が解消された戦後ならではの引き出しだったと思いますし、そういったこの世界ならではの事件であったりすると良いのですけれど、ね。



 ところで。
 ジェニーのCVは小暮英麻さまが良いと思っているのですが――っちうか、英麻さまの声で聞こえてくるんですよ!(笑)
 なぜなのでしょうか……。
 あの、人の言うことを聞きそうもない雰囲気がそうイメージさせるのでしょうか(^_^;)。
 

(ラノベ指数 19/73)
16
 
『嘘つきは姫君のはじまり ひみつの乳姉妹』 松田志乃ぶ 著

 平安期を舞台にしたドタバタ恋愛絵巻かと思っていたのですがー。
 意外や意外、かなり真っ当に推理ミステリしてませんか、と。

 姿の見えない13番目の楽器と、その楽器が置かれた部屋で起こった神隠し。
 そして真相への突破口となる恋歌に重ねられた意味とかー。
 雰囲気や精神論で押し切ることの少なくないコバルト文庫において、なかなかに本格志向ですわ。
 きちんとトリックを考えられているという点で。


 13番目の楽器については「目に映っていても見えないモノ」系のトリックですし、割に古典的なものではあるのですけれど、それにしたって展開においては裏を取るように進められていますし一筋縄では消化していないところが好感。
 ことに恋歌への裏の意味を重ねてくるやりかたは、これでこそ平安絵巻!ってカンジで楽しいな〜。
 現代を舞台にした推理ミステリには無い風流さが漂ってくるといいますかー。


 キャラ配置も好き〜。

 天才肌の探偵役の姫様に振り回される、凡人代表の助手役である恋人たち。
 馨子姫は天才肌ってだけでなく自由奔放で型破り。
 常識にとらわれない言動は見ていて飽きませんしー。
 そんな姫様に振り回される乳姉妹の宮子は少しおっとりなところはありますけれど真面目で堅実路線な憎めない良い子ですしー。
 宮子の許嫁の真幸にしたって、そんな宮子にお似合いの誠実さをカンジさせる好青年。
 んがしかし、そんな爽やかな彼ですけれど両親を海賊に殺されているという過去を背負っていますし、さらには主家に残った男手が自分ひとりだということを受け入れて姫や宮子を守ろうと決心している様は立派すぎ。

 今回の事件関係者である有子姫も散々振り回してくれたにしてもその真意を知れば他人を思いやることのできる人だとわかりますし。
 主要キャラに嫌味が無いところが好感なのかな〜。
 読んでいて変にストレスが溜まらないっちうか。


 宮中に上がった宮子がどんな騒動に巻き込まれるのか楽しみデス。
 毎回今作と同レベルのトリックを配するのは難しいでしょうし、常に300ページ越えというのもコバルトでは異例にもなりますでしょうから、次は少し軽めな頃合いでも良いのかも〜。
 ちょうど真幸とは引き裂かれて、そこへ次郎の君がちょっかいをかけやすいシチュエーションですし、次は恋愛要素を増量しても……(笑)。
 

(ラノベ指数 19/73)
15
 
『流水宮の乙女 ゆらめきまどう炎の縁』 片山奈保子 著

 ただひとつの目的のためだけに生きてきた親友から、はからずもその「ただひとつのもの」を奪ってしまったオンナノコ。
 親友は自分の存在価値を見失って彼女を恨み、彼女に代わってこの世に無二の価値となる位置へと持ち上げられてしまったオンナノコを巡って動き出す物語。

 うーあー……。
 それまでいた全ての人から持てはやされるポジションから堕とされてしまってアイデンティティを見失って混乱する様はわかるのですけれどー。
 しょせんは与えられたものであったポジションに固執すること、自分が唯一無二の存在であったと思い込むこと等々の姿からは、かつての<流水宮の乙女>である落華へできる同情は無いといいますかー。
 謙虚さが足らんっちうか。

 そんな彼女に代わって獅子龍神に<乙女>へ選ばれた飛沫もなぁ……。
 <乙女>として生きることに全てを捧げてきた幼なじみである落華への忠義?みたいなものはわからないでもないですけれど、だからって隠し通してどうにかなるものでもないと思いますし……。
 そもそも、偽りの立場へ落華を追い込むことが彼女のためになるのかどうか。


 えー、あー、うーん……。
 そういうことを言えるのは部外者だからでしょうねぇ……。
 当人にとってはやぱしそこまで理性的に考えられる事柄でも無いと察せられますし……。

 でもねぇ……。
 そうはわかっていてもふたりの「いざというとき」への想像力の無さにはイラチしてしまうのですよー!(><)


 まぁ、それでも天風国の皇太子、瑪瑙のアホさかげんにくらべればどうってことないですか?
 あとがきによれば今後も登場するっぽいですけれど、えー???
 立場的にも「終わってる」感が強いのですけれど??


 とまれ、落華の逆恨みは恐いですけれど、逃げ出した飛沫と彼女を追う龍月との邂逅も楽しみですし、ちょっと楽しみかもです。
 でも<乙女>になってしまったら飛沫との距離は離れることが確定なんですよね、龍月は。
 遠い存在になってしまって、どうするのかなー。
 追いかけはするにしても、そのあたりの選択と葛藤が物語になるのかしらん。



 イラストのChiyokoさん、こういう中華風な衣装も良いですねぇ。
 飛沫は凛々しいですし、落華はお人形さんのように愛らしいですし。
 たのしみ〜♪
 

(ラノベ指数 12/73)
14
 
『医学のたまご』 海堂尊 著

 医学専門誌に連載していた中高生向けの読み物……と聞いていたので、現役の海堂センセが医学のなんたるかを易しく語り「目指せ、ジェネラルルージュ!」みたいな激励を贈る作品かと思ってましたー(笑)。
 したら、あーた。
 人生の教訓を集めて諭すあたりはなるほど中高生向けだなぁ……と感じたのですけれども、いや、ちょっと、これって普通にセンセの「桜宮市と東城大付属病院」を舞台にしたシリーズじゃないですか!

 しかーも。
 はじまりはやはり教訓めいたことを説話としてつなぎ合わせているだけで、その舞台や背景にはそれほど意味はないのかなーと思っていたのですけれど、大間違い。
 クライマックスでのシリーズとの関わり具合が半端無くて、一気に感情を持っていかれましたよ!


 こういう装幀ですし、出版社も異なるので仕方がないかもですけれど、この本を海堂センセの作品としてはじめて手にする人も少なくないのではないかなぁ……と。
 あぅぅぅ……もったいない。
 是非とも『ナイチンゲール』『ジェネラルルージュ』を読んだあとに手にして欲しいトコロ。
 そうすることで、クライマックスが持つ意味が何倍もふくらんでくると思うー。


 まさかオレンジ新棟がねぇ……。
 でもって如月翔子ちゃんが師長ですか……。


 『チーム・バチスタ』を読んでもいまひとつ理解したとは思えなかった「アクティブ・フェーズ」と「パッシブ・フェーズ」の仕組みというか本質?みたいなものがようやくわかりました。
 さすが中高生向け……っちうことは、わたしの読解力はティーンレベルということですか、そうですか(T▽T)。



 突然に不相応な社会的地位を与えられた中学生が父親をはじめとする正しい人に支えられて失敗を乗り越えつつ、正しくない人と立ち向かう決心をするお話。
 語られているいくつかの教えのなかでわたしが好きなのは――

「エラーは気付いた瞬間に直すのが最速で最良だ」
「悪意と無能は区別がつかないし、つける必要もない」

 ――のふたつです。
 特に後者は明言だと思ってます。
 戦いを決意するのに迷ってはいけないということでもあるような気がするので。
 それが敵であるならば、相手の立場が動であろうと打ち負かし勝たねばならないのですし。



 医学ミステリーと銘打たれていますけれど、それは海堂センセのこれまでを持ち上げすぎて内容とは乖離してないかなーという印象が。
 この作品は、もっと、こう、少年の成長譚な部分とか、言質や修辞などの筆致の妙に楽しさがあるのではないかなーと。
 


(ラノベ指数 22/73)
13
 
『ハーツ ひとつだけうそがある』 松井千尋 著

 成功の望みが薄い手術を受けるオンナノコを励ますために、幼なじみだとウソをついて久しぶりに会うフリをする。
 この出会いはウソなのだから、本気になってはいけない。
 彼女を励ますために近親者が仕組んだ「仕事」に乗っただけ。
 だから、どれだけ親しくなってもいいけれど、本気になったら、そのときは自分が辛い思いをする――。


 えー、あー、うー……。
 見える、見えるよ、オチがーっ!!!
 ウソをついているなら、そのウソがバレるのが物語!!!
 ぎゃーっ!(><)


 ウソをついて病身の真純に会いに来た輝幸ですけれどー。
 分別付いた人間のようでいて、しかし大人になりきれていない子どもでもありましたなぁ。
 「仕事」だなんて言い続けて自分を納得させるつもりでも、だけれど自分の直感――ひと目ぼれを信じて動き出してしまうというあたり。
 本気になってはダメだと忠告されていたのに、その忠告を無視しても自分はだいじょうぶだと思い込んでしまう理由の無い自信とか。
 もしくは、どんなことになろうとも、自分と、そして真純とは、その障害を乗り越えられると無邪気に信じているのかも。

 ああ、もちろん、世界はそんなふたりにけっして優しくはなくて(T△T)。


 わかってた。
 わかっていたともさ、あのオチは!
 でもなぁ……やぱし納得いかないよ、できないよ。

 そのとき、その瞬間を描いたりせず、少し時間を進めてみんなが落ち着いて「結果」を見られるようになったところか始まるエピローグ。
 この手法で描かれたからこそ最後まで世界の選択肢はふたつ残されていて、そして終わってしまえば世界はひとつに収束されているのですよね。
 箱の中の猫のように。

 最後の最後まで読み手の意識を引き留めるこのやりかた、ヤラレター。
 ちーぃきしょぉ〜(TДT)。


 主人公が食事中の皿に唾を吐き捨てるヒロインってすごいなぁ……と思っていたのですけれど、そんなの些細なことでしたー。
 いや、ほんとに。


 ラストシーン。
 慟哭する輝幸を他の誰にも触れさせないように、守るように囲んでくれていた深田と島の立ち振る舞いが素敵すぎ。
 誰にも慰めることができない傷があることをふたりは知っていて、それは自分たちにも癒すことはできないからアンタッチャブルでいるけれど、それでも自分たちはそばを離れないという意志を示している姿が、が、がっ!

 悲しみを他の人間とわけあうことのできた幸福な子供時代は、彼らにもすでに、遠い昔のことだった。

 改めて気付かされる幼年期の終わり。
 切なさと痛みをともなう通過儀礼。
 だけれど、それは、ひとつの愛の物語でした。
 


(ラノベ指数 17/73)
12
 
『ぼくと、ぼくらの夏』 樋口有介 著

 ちょ、ちょっとーっ!
 「青春ミステリーの歴史的名作」との声に偽り無しだわ!
 んもーっ、んもーっ!
 春一と麻子のふたりの関係がさーっ!
 なんて素敵で可愛らしいの、この子たち!(≧▽≦)

 ことに麻子の可愛らしさには恋してしまいそうです。
 言いがかりで春一を傷つけ、それで春一が立ち去ろうとするところを彼のシャツをつかんで引き留めるとかさ、もうねもうね!
 仕草がいちいち可愛いのね!

「面白くないわ、ちっとも」と、ぼくの指を自分の掌の中でいじくりながら、ふてくされた声で、麻子さんが言った。「けっきょくいつも、最後は戸川くんの言いなりで。くやしいったらないわよ」

 うひゃー。
 かーわーいーい〜(≧▽≦)。


 理不尽なことで振り回される春一も、だけれどそんな彼女を甲斐甲斐しく相手してるしさー。
 麻子には「冷たい人ね」と評されてしまいますけれど、本当に本当、間違えていけない最後のトコロでは正しい行動を選ぶことができてますしね。
 クールを装いながらもオンナノコを守ることにためらいが無いっちう。
 ハードボイルドだね!(≧▽≦)

 ……ああ、そうか。
 青春ミステリなんだけれど、ハードボイルドなのか。
 オトコは強くあらねば?



 ミステリにはわたしはふた通りあると思うのですよ。
 新本格のようなトリック重視のタイプと、動機につながる心理描写を重視するタイプ。
 わたしの感想では後者のほうが物語的な色づけは濃くなる気がするのですよ、どちらかといえば。
 で、今作がどちらなのかと言えばもちろん後者で、事件そのものの種別などは極めてステロなんですよね〜。
 動機や手法も含めて、おおよそすぐに類推できてしまうという。
 それでもそれ以外の部分、ことに先述のように春一と麻子のやりとりなどがとにかく軽妙でそれだけで引き込まれてしまうわけでー。

 ああ、これが15年以上も前に上梓されていたなんて。
 昨今のライトノベルのブームとかツンデレを筆頭とするキャラクターのラベリングとか、正直、負けてしまっていると思ってしまったり。
 樋口有介という人は、そんなところを15年前に通過しているんだなぁ……と。


 とにかくハートをわしづかみにされてしまったので(主に麻子の可愛らしさに)、これから樋口センセを追いかけていこうと思います。
 


(ラノベ指数 16/73)
11
 
『アネットと秘密の指輪 お嬢様のおおせのままに』 雨川恵 著

 ビクトリアっぽい英国風なお国(英国なの?)を舞台とした貴種流離譚。
 もちろん物語類型が正義漢をたどるものだからというだけでなく、ビーンズ文庫の少女向け作品の主人公のオンナノコの熱いハートは相当なものだと思うー(笑)。

 今作のアネットも、育ちで苦労していたからといって卑屈にならず、正しいことと間違ったことを区別できて、そして他人の倖せを願うことができる性根の持ち主なんですよねー。
 ちと熱くなりすぎるきらいがあるのは、主人公としての愛嬌ってなもんです。


 突然にお嬢様になれと言われて戸惑うアネットも大変かと思いますけれど、そんな彼女に振り回される執事のリチャードと弁護士のユージンのふたりも大変ですよねぇ(^_^;)。
 ポジションとしてはリチャードとは愛情で、ユージンとは友情で結ばれているのかな?
 互いの領域を侵さない立ち位置が物語に安定感を与えているなーと思ったりして。
 いたずらに展開の枠を広げるための駒を配しているという雰囲気ではなくて。

 ユージンとはその態度に腹を立ててけんか腰で付き合ったりしてますけれど、なかなかどうして相性の良いふたりだと思うのですよー。
 そもそも気があったりしなければ喧嘩なんてできやしませんし。
 物語……ちうか、事件解決においては仲間はずれにされてしまったユージンですけれども、日常的には彼のほうがアネットと距離が近いのではないかなー。
 精神的な距離感とでもいいましょうか(笑)。



 下町で育ったアネットが、リチャードとユージンに囲まれてどのようなお嬢様へと変貌していくのか楽しみです。
 もちろん、アネットがどんな破天荒なことをしでかして社交界に騒動を巻き起こすのかも、です(笑)。
 

(ラノベ指数 26/73)
10
 
『ミスマルカ興国物語U』 林トモアキ 著

 その手段はともかくとして、暴力を真っ向否定する姿勢は素晴らしいなぁ。
 ……と、違うか。
 姿勢が素晴らしいなんて言うと非暴力主義を礼賛しているみたいに聞こえますけれど、賞賛したいのはそこではなく。
 そういう尖った思想を真面目に受け止めて描写していることに拍手を送りたいのですよ。
 言い訳も誤魔化しもなく、ただ本当に心から否定していることを。
 暴力の存在に屈して、その価値を認めるくらいなら、そんな世界にもそんな自分にも意味は無いと言い切ってしまうところを。


 作中では勇者として人々の賞賛を集めている人たちが登場していますが。
 そんな勇者たちが理不尽な試練に対して「自分にはほかにやるべきことがある」とかなんとか理由をつけて試練を降りていく様は非常に滑稽。
 勇者だなんだと持てはやされていても、所詮、人は人。
 そういう自己欺瞞で取り繕うような弱さと醜さを持っていて当然なのに、さも自分こそは重要人物であるがゆえに小事にこだわることはできないのだと言い訳している様がとても下らないなーと。

 そんな人たちが人格者として崇められるくらいなら、突き抜けたバカのほうがよっっぽど貴い存在であるなぁ……と思えるのですよ。


 まぁ、でも、それを表現して貫き通す手段がゼンラーマンってのは、ちょっとなぁ……と首をかしげてしまったりして(^_^;)。
 わたしの中の理屈では、それで道が開けるとは思えないので。
 んでも、このあたりの世界法則は人それぞれですし、そして林センセのこういった世界の見方は好きなので、結局は大枠で受け入れられるんですよねぇ。


 でもジェスの言動は勇者とかそういうところとは別に器の小ささを感じてしまったりして。
 帝国領内で己が成したことがあまりにも大それたことで誰にも信用されるはず無いと思ったからこそ言葉にするのを封じていたのに、マヒロが発したあまりにも大それた言葉の中身をさして吟味もせずにあっさりと拒否したってのは、どうにも言動不一致な気がするのですよー。
 どれだけ信じられないことであっても、人が言葉を紡ぐときにはそこに真実が紛れているということを身をもって知っているハズなのに、しかしジェスは他人の言葉を信じようとはしないんですよね。
 ここがなぁ……。

 まぁ、べつに彼に対して絶対な正しさを求めるところでは無いと思いますし、そういう矛盾点をはらんでいる存在だとしてもキャラクターとしてはむしろ人間性が富んでくるのかなぁ、と。



 それにしても長谷部キタッ!(≧▽≦)というカンジです。
 沙耶香のいじられやすさは翔香さんより翔希の血筋な気がするー(笑)。
 『おりがみ』と『マスラヲ』の関係よりは薄いつながりですけれど、同じ世界の中での物語ということで、このあとも共有される設定が登場してくると嬉しいなっと。

 次巻は帝国第一皇女ですか?
 白薔薇姫も楽しみですけれど、三番姫の再登場もお願いします(^_^;)。
 

(ラノベ指数 7/73)
9
 
『愛は売るもの』 ジル・チャーチル 著

 世界恐慌まっただ中のアメリカ史もついでに学べてしまう(そーかぁ?)「グレイス&フェイヴァー」シリーズ第4弾。
 邸宅を下宿にするだけではなかなか収益があがらないのは毎度のことで、いよいろリリーもロバートも手に職を……ということで、ふたりが選んだ職というのが小学校の先生だったというお話。
 こういう題材としての職業選びにもセンセのセンスが感じられて好きなんですよねー。
 突飛すぎず、日常的すぎず……という塩梅が。


 謎解きに関しては終盤にたたみかけるように開陳されていくというペース配分も相変わらず。
 それでも今回は用意されたトリックに対して、そこへ至るよう推理するための情報の出し方がいつになく丁寧だった印象が。
 質というより、それを印象付けるための説明回数……かなぁ。
 なんども言及されていれば、さすがにお馬鹿なわたしでもわかりますぅ、と(^_^;)。

 加えて言うなら、今回用いられたような「同じことを指しているのに、見る人、受け取る人によって違う事柄のように思い込んでしまう」勘違いや誤解を題材にしたトリックは好きなタイプだったりして。
 仕掛けられた誤解(というか作為?)に気付いたときの爽快感ったら!(笑)


 さらに今回は警察署長のウォーカー氏が目立ってました〜。
 事件聴取の都合上、リリーともずいぶんと接近してましたし、もしかしてもしかしますか?
 ジェーンのシリーズでもお相手は刑事ですし、そういう組み合わせが好みだったりして。

 でもウォーカー氏はもっと年齢が上の人かと思っていたので、今回の接近はちょっと意外だったっちうか。
 そもそも彼をリリーの相手として考えていなかったのですよね。
 ああ、でも、あちらの物語ですと20歳差くらい平気で飛び越えてカップル成立したりしますし、彼の年齢は関係ないのかもですねぇ。


 そんな次第でリリーとウォーカー氏の関係も楽しみになりましたし、グレイス&フェイヴァーへの住人も巻を追うごとに増えてきていますし、ますます物語が賑やかになっていく予感を。
 プリニー夫人と新しく住人となったターキントン夫人って、『赤毛のアン』のマリラとリンド夫人みたいだなー……とか思ったりして(^-^)。

 取り巻く世界は不穏な空気に包まれていく時代ですけれど、そんな時代にあってこそ残されている楽しい日常を描いたコージー・ミステリーであってほしいです。
 

(ラノベ指数 25/72)
8
 
『塔の町、あたしたちの街2』 扇智史 著

 シリーズとして出してしまった企画に区切りをつけましょう……という完結編の第2巻。
 ええ、2巻でも『堂々の完結』というアレです。
 ファミ通文庫はホントに……(TДT)。

 そのような次第ですので幕を引くことに最優先課題があったかのようで、クライマックスへの流れはとにかく押し押し押しってカンジ。
 うーあー、もったいない〜。
 たとえば今回のお話の鍵となる子犬だって、もう少し時間が許せばポジション的に育てられたんじゃないかなぁ……と思う次第。

 倖せな結末を迎えることなく、ひとつの世界が終わりを迎えることを描いたという点に関して、わたしは否定的になるものではありません。
 んでも、その起因たるところがこの子犬にあるというのは、いささか荷が勝ちすぎているのではないかなぁ……と思ってしまうのですよ。
 子犬に同調するなごみの心情に唐突感を抱いてしまうというか。

 うん、わかる。わかります。
 わかるんだけれども……ねぇ?というカンジ(^_^;)
 なごみがそのように動くであろう方程式のようなものは本当にわかるのですけれど、だからこそその心情についてもっと描いてきてほしかったなぁ……。


 逆に華多那の退場に関しては、上手いなぁ……と。
 予想する間も与えない不意打ちさ加減。
 彼女に関しては迷うところが無かったということで、あの結末は衝撃的であれこそあれ以上の説明は必要なかったおうに思うので。
 ああ、迷うところが無かったというのは彼女の立ち位置についてです。
 なごみに対してはもちろん悩んだり迷ったりしていましたけれど、優先順位をつけるという、わたしがもっとも尊敬できる「覚悟」を持っていたという点で素晴らしいと感じられたのですよ。
 世界の最後まで。


 あとはさしたる活躍の場を与えられずに退場していったキャラが多数おりますけれど、これはもう仕方がないことですよねぇ……。
 むしろ今巻のみでいたずらに出番を増やそうなどとしなかったのは慧眼でしょう。
 ……まぁ、事情が許せば彼ら彼女らにも出番があってしかるべきだったとは思いますけれど。
 ほんとに、もう……。



 ひとつの世界が終わりを迎えても、主人公たる人たちは自分たちが住まう世界がそうなることを願ってそれを叶えたのだから、この物語は悲劇では無いのだと思うのです。
 なにより、ゆがんだ世界が遠からず滅びを迎えるのは必定なのですし。
 そのゆがみが少数の犠牲から成り立つものであればなおのこと。

 結果、世界が壊れてしまっただけで、倖せを得ようとする行為と心情そのものは非難すべきモノではなかったわけで。
 もしそこに間違いがあったとするなら、倖せの無い世界を作りあげたことそのものが間違いだったと言うほか無いと思ったりして。
 たとえようもなく難しいことだとはわかっていても、誰かの犠牲のもとに享受する倖せを「当然」と感じる世界は間違っている、と。

 そして。
 この世界では得られない倖せなら、世界そのものに意味はないのです。


 悲劇ではなかったと思います。
 でも、不幸な物語であったと。



 前巻が刊行されたのがほぼ1年前……と思ったら、調べたところ扇センセ、2004年のデビューから年1冊の刊行ペースでした(例外としてデビュー年は2冊上梓)。
 ということは次の作品は来年ですか、ねぇ……(苦笑)。
 それでも、わたしは楽しみに待っています。
 

(ラノベ指数 28/72)
7
 
『Kaguya 〜月のウサギの銀の箱舟〜』 鴨志田一 著

 うええええ……。
 狙いが定まらないオトコやなぁ、主人公の宗太はー。
 「その出会いは運命?」
 という言葉がオビのコピーなのですけれど、宗太の気持ちの上では「運命的」ではないような。
 運命的であったのは宗太と、ヒロインのひとり(!)であるひなたが互いに持つ能力の相性の部分なのであって。

 うーん……。
 ヒロインを分散化させる必要があったようには思えないのですけれど……。
 最後のどんでん返しへの仕掛けであったにせよ、それでもそこまで重要なファクターであったところは見せてないワケですし。
 もうひとりのヒロインである千歳は。


 ひなたのほうは宣戦布告をしたわけですから、これからの物語である……ととらえることもできるわけですけれど、もー。
 でもその戦いに千歳の存在が不可欠であったとは……ねぇ?


 そんなキャラ配置の気持ち悪さに加えて、ひなたの身体的障害の扱いについてもちと眉をひそめる部分があったりして。
 なーんか都合良く視覚障害ゆえのトラブルを配しているような気がして。
 失明している……ということも、なるほどキャラ設定のひとつと考えられるのも当然ですけれど、そこで引き起こされる諸々の重要なことを無視しているのではないかと。

 これについても「その設定、必要だったの?」と首をかしげざるを得ないワケですけれども、しかし宗太の能力を活かすためには必要な設定であったのですよね。
 つまり、そういうことなのではないかと。
 それが、いわゆる、運命、という。


 あざとい……と言ってしまうのは昨今の業界においては言い過ぎな気もしますけれど。
 んでも、どちらにしても気持ちよく受け取ることが出来たわけではない物語の有り様でした。
 

(ラノベ指数 25/72)
6
 
『黒耀姫君 〜うつろいのつき〜』 萩原麻里 著

 隙だらけのミケェヌに腹立つわー。
 いざシオンの正体を目の当たりにしたからって、それで態度を翻すのはあまりに覚悟足りてないのではないかと。
 それまで自分が彼に対して優しい言葉をかけ続けてきたのが口先だけってことになりやしませんかね、と。

 うー……。
 でも、まぁ、想像を超えた出来事に遭うと、人間、自分の殻に閉じこもってしまうのも仕方がないのかなぁ……。
 だからこそ、常に想像力を働かせろとわたしは思ったりするものですがー。
 (もちろん「創造の範疇外」であった場合までも想像するのです)

 それにそのあとミケェヌは自分の態度を省みて精一杯のことをしているように見えましたし、これはこれで彼女にとってひとつの成長の糧になったのかもですし。

 嗚呼。
 アートリムごときにどいつもこいつもいいように操られていることが腹立ちの本質なのかもしれません。
 そこまでの知略家には見えないのですよねぇ……。
 実際、真面目一辺倒のターム隊長には警戒されて仕掛ける場合でも無い様子ですしー。
 やぱしアートリムに使われてしまう人たちって、どこか隙があるのではないかと。

 三巻構成ゆえの急ぎ足だから見逃されている気がするのですけれど、もし状況が許せば皇帝に食べられちゃってますよ、ミケェヌ。
 『FE聖戦』のアルヴィスとディアドラのように。
 ちうか、あそこであっさり手を引いてしまった皇帝の弱腰には、ちと驚きましたよ。
 ほかに誰かいい人がいるならともかく、あそこは強引に押しでしょう!とか思ったー。

 ……まぁ、だからこそ後味もそれほど悪くはないことにはなっているのですけれど、もーっ。


 次巻が完結編ということなので、あれやこれやのモヤモヤしたところを吹き飛ばしてくれることを願っています。
 

(ラノベ指数 20/72)
5
『死神姫の再婚 -腹ぺこ道化と玩具の兵隊-』 小野上明夜 著

 アリシアより先にカシュヴァーンのほうが恋心に気付くなんて……。
 気付くっちうか、認める?っちうか。
 そういう自分の気持ちを否定するかと思っていたのですけれど、意外に素直に受け入れているなぁ……という印象が。
 もっとも、気付いてしまったから余計にアリシアの無邪気さに振り回されてしまっているワケですけれどもーっ!(笑)

 いや、も、アリシアひどすぎ!
 成長どころか退化してませんか、ココロが。
 寸止めされ続けるカシュヴァーンが可哀想で可哀想で!(≧▽≦)
 しかし恋心すら本気で知らない様子のアリシアなので、こういう事態もむべなるかなという。
 ノーラたち周りの人が教えてあげられることでもないでしょうし。

 ……ちうか、周囲の人にとってはそういう気持ちになってそういう行為をすることが当たり前すぎて、アリシアの無知を正すほうこうに気が付かないってこと?
 誰の助けも期待できないカシュヴァーンは大変だなぁ(^_^;)。
 今回登場したレネがそのあたりを引っかき回してくれそうなカンジなので、今後が楽しみにではありますがー。

「あなたがバルロイ様お気に入りの、ノーラというおっぱいメイドですね」

 直球勝負しかできない投手キタ!(笑)
 でも今回の件を見る限り、レネの存在はアリシアに薬になってるワケではないですよねぇ。
 むしろ問題が倍加したような?(^_^;)
 ふたりそろって本気で知らなすぎなんですもん!
 カシュヴァーンとノーラ、乙!(笑)



 本編のほうはルアークの出自を含めた過去話をベースに、ライセン夫婦との絆を深めるという回?
 ウソだと知りつつ、あえてそのウソに乗ることで安息を得ようとするルアークの悲しい立場がよく表れていたかなぁ。
 そしてそんな愚かさを拳で修正するカシュヴァーンの漢っぷりったら!
 おまえがっ、泣くまでっ、殴るのをっ、やめないっ!(笑)

 お父さんと息子ってポジションで表されてましたけれど、わたしには男同士の友情に見えたかなぁ。
 間違ったことをしているなら、殴ってでも引き留めるような、真の友情?みたいな。
 で、そんなふたりを嬉しそうに眺めるアリシアというポジションもまた、ヒロインらしい立ち位置だったかな〜と。
 慈愛を持って見守るポジションといいましょうかー。


 ルアークをダシにしてカシュヴァーンにちょっかいをかけてきたオーデル侯爵の存在は相変わらず明確な敵として残っていますし、そんなカシュヴァーンの周囲はアリシアを介して人が集まってきていますし、これは物語として大きく膨らんでいくのかな〜と楽しみに。

 さーて、カシュヴァーンがいつまで我慢できるかなっと(笑)。
 


(ラノベ指数 12/72)
4
 
『理由あって冬に出る』 似鳥鶏 著

 「素人探偵」のわりに本格よりの推理小説ですなぁ。
 見取り図とか出されるとワクワクしてしまいます(笑)。
 それでいて推理ミステリ一辺倒でもなく、高校生らしい甘酸っぱい?感情の交錯というあたりはライトノベルに近しいものですし。
 「本格推理」+「ライトノベル」というのは、誰にでも創造できるというわけではないと思うので、これはこれでひとつの固定化されたジャンルなのではないかと考えたりして。
 青春ミステリっていうのかなー。

 でもってわたしの好きなパターンとしては、やぱし「動かない探偵」と「動き回る助手」の組み合わせ。
 もちろん後者が主人公。
 今作も「助手」役の葉山くんはあちこち動かされながら、「探偵」役の伊神さんに知恵をもらい、やがて真相にたどり着いていく様に引き込まれるっちう。
 そーゆー「見えないなにかに向かって動くことを恐れない」姿勢に共感をおぼえるのかな〜。


 そんな葉山くんと演劇部部長の柳瀬さん。
 どーゆー関係なのか気になるわ〜。
 花束持って見舞いに来た葉山くんに対しての柳瀬さんの言動。
 かなり可愛らしくて微笑ましいのですけれど、あれ以上の決定的なシーンは提示されていないのですよねぇ……。
 そこに布石を打たないあたりが、この作品の立ち位置が推理小説寄りという証左なのかもですけれどー。
 ……うーん、惜しいっ!(≧△≦)

 花束の中のひとつひとつの花の花言葉の意味を知り、すぐさま行動に移ろうとする柳瀬さんは積極的ですねぇ。
 舞い上がっているともいえますが(笑)。


 表紙はこのふたりを描くべきだったと思うのですけれど、どうして秋野ちゃんなのかなー。
 事件に対してはたしかに柳瀬さんより近しいポジションにいたのかもですけれど、こうして表紙にふたりで描かれるほど近い距離でもないでしょうに。
 互いの距離感でいえば、柳瀬さんのほうがずっと近いでしょー?


 とまれ、期待の新人さん登場ってことで、これからのご活躍を楽しみにしています。
 

(ラノベ指数 26/72)
3
 
『騎條エリと緋色の迷宮 英国亭幻想事件ファイル』 秋月大河 著

 うーん……。
 「若くて博学なキャラ」 ぶっちゃけると「天才キャラ」の欠点は経験の足り無さからくる絶対的な威厳だとわたしは思うのですよー。
 その知識量に由来せずに威厳を備えさせるとすれば、それは生来のものであろうとも。
 貴族サマとか。

 乱暴に言ってしまえば、18才という年齢ではどうあっても18年分の経験しかできないと思うのですよ。
 騎條エリがどういう経験をしてきたのかは端的にしか描かれてませんし想像するしかないのですがー。
 端的にしか描かれていないことで想像できない……のは、わたしのアタマがカタイのかなぁ。
 どうにも若すぎに思ってしまうのですよ、彼女のポジションに比して。


 まぁ、ライトノベルライトノベルライトノベルと三回唱えればこれもあれも受け入れられるものなのかもしれませんけれど……。



 いろいろと固有名詞を設定しているのに、事件の鍵となる舞台が「大学病院」ってのは、正直、興が冷めるといいますかー。
 よりにもよってそこを設定しないのですか……。
 

(ラノベ指数 17/72)
2
 
『ようこそ無目的室へ!』 在原竹広 著

 シチュエーションコメディっていうのでしょうか。
 たとえば日本では三谷幸喜さんが得意とする舞台を定点化したドラマ。
 ライトノベルでも最近になって流行りつつあるような気がするのですがー。
 今作も「無目的室」という一室を舞台に、そこに集うオトコノコとオンナノコの対話をメインに進めていく次第。


 限定された空間であるせいか、お互いの距離感が日常のそれより近しく濃密に感じられるのですよねー。
 だもので交わされる言葉にも素の人柄が浮かんでいるような気がして。
 飾られたそれではなく、気の置けない言葉。

 加えて、舞台だけでなく登場人物の数も絞ってきたことは悪くない方向だなぁ……と思うのですよ。
 在原センセという人は多人数を描くことには向いていらっしゃらないと感じていたので(^_^;)。


 基本的には日常で遭遇した不可解な出来事を推理していくことで物語が流れていくわけですけれどもー。
 天才肌の安楽椅子探偵と、素直で純朴な助手という組み合わせは黄金律ですね。
 ことに謎を目の前にして好奇心を抱いても解決までには至らない助手の存在は、まさに読者目線で気持ちが良いっちう。


 そんな心地よさで進む物語のラストで、衝撃の告白!
 ああ……ああっ!
 そうですよ、そうですよ!
 この潜んだダークっぷりこそ在原センセですよ!(笑)
 ただのキャラクターものに終わらない、それぞれが背負うた影といいましょうかー。

 「無目的室」に立ち込めるのは郷愁だけではなく、不確かな自分への不安なのではないかなーとか。
 そこに集うのは一見すると「逃げ」なのかもしれないけれど、でも未来へはばたくためのいっときの羽休めの場、なのかも。
 くすぐったいくらいに居心地がよくても、いつかはそこから去らなければいけないという寂しさ。
 そういう相反した感情を残すところ、在原センセらしいなぁ(^_^;)。
 
(ラノベ指数 24/72)

『葉桜が来た夏』 夏海公司 著

 当初は反目し合っていたオトコノコとオンナノコが、それぞれの確執を乗り越えて手を取り合って未来を向くお話。
 ステロといえばステロなんですけれど、それだけに安心して読み進められたかなぁ。
 奇をてらったところが無いというか。
 でも、この作品ならではの魅力っていう点も薄い気がするのも……。

 とりあえずステロにするならステロに徹してほしいような。
 ステロゆえに雰囲気でわかってしまう、通じてしまうって部分が少なくなくて、もう少し細やかなところに意識を使って創り上げて頂けたら……と思うともったいなやもったいなや。


 1冊のお話としては枝葉の部分になってしまうのかもですけれど、女性だけの種であるアポストリたちが繁殖のために人間の「血」を必要とするくだり。
 んー……こことか、ねぇ。
 両者に強制的な関わりをもたせるにしても、ならばもう少し要点として描いて欲しかったような。
 おぼえている限りこの設定が展開の表面上に浮き上がってきたのって1回だけだったような。
 人間とアポストリ、そして人間の学とアポストリの葉桜。
 全体の関係を描くにも、個の関係を描くにも、設定が浸透していなかったように思えるのですよー。

 このあたり、続刊とかで活かされてくればいーなー。


 まぁ、でも、この物足りなさも、そう悪くないような?
 続きを読みたいと思う程度に。
 奨励賞を受賞しているってことは、レーベルの傾向としてもう1冊は出してもらえるのはないかと思いますしー(笑)。

 うん、楽しみにしています。
 

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