○● 読書感想記 ●○
2007年 【8】

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(ラノベ指数 18/67)
20
 
『セレブな恋の咲かせ方 〜女子高生は外交官!?〜』 ひずき優 著

 外交官のいとこに恋している女子高生が、歳の差を痛感させられつつも恋心と夢を追い続けるお話。

 うはは『NG恋』だったー(笑)。
 やぱし歳の差というのは小さくない障害なのですねぇ。
 身分の差というのは価値観を変えれば乗り越えられるものですけれど、歳の差はどうあっても変わらないものですし。
 しかも世間的に認められない要素であることもあって、社会的に阻害される、排除される感覚といいましょうかー。
 禁忌、なワケで。
 そんな反発がくることを覚悟して受け入れているような罪悪感とでも申しましょうか。
 そういういじましさがきっと物語を生むのでしょうね〜。


 今作の桜に関して言えば、悩みに悩み抜いたという時期は過ぎて、自分の心に宿っている感情が「恋」だとハッキリ認識しているところで物語はスタートしているわけで。
 歳の差については、もう、いかようにもしがたいものだと受け入れているのですよね。
 その点が普通の歳の差カップル物としては珍しいなぁ……と。

 ただ、受け入れているからといって不安にならないワケではなく。
 ハッキリした絆が見えてないという不安は、恋心に万国共通。
 自分の気持ちは決まっている。
 だけれども相手はどう思ってくれているのか不安になる。
 そんな揺れ動くオトメゴコロが可愛くて素敵なのですよーん!(≧▽≦)


 で、しかもその恋心のせいで「外交官になる」という夢を捨てようとさえ一時は迷ってしまい。
 だけれども、そこであらためて恋と夢をしっかりと見定めることができる利発さも好感。
 どうして恋のために夢をあきらめなければいけないのか。
 自分で考え、そして答えを見つけられるオンナノコ。
 うーん素敵だなぁ……。

 大切なのは答えを見つけられることではないのかも。
 もちろん最後にたどり着くことは重要かもですけれど、その前に自分で自分の非を認められることが大切なのかも。
 勢い込んで行動したあげくに「偶然」答えを見つける主人公像が少なくないライトノベルにあって、彼女の行動様式は希有ではないかなー。


 うん。
 彼女のおかげでスッキリできたお話でした。
 セレブかどうかは微妙ですし、現実感には乏しいお話かもしれませんけれど、夢と希望にあふれていました。
 次回作も期待したいです。
 

(ラノベ指数 18/67)
19
 
『乙女はお姉さまに恋してる 櫻の園のエトワール』 嵩夜あや 著

 この作品を素直には認められない『おとボク』ファンがここにひとり……。

 『おとボク』の妙って、エルダー制度にあったと思うのですよ。
 良き女性の体現者としての象徴たる「エルダー」という存在。
 それがオトコノコである「鏑木瑞穂」によって完璧なまでに実現され、そのことを目の前にしてあらためて自己変革を遂げていくオンナノコたちのお話……というふうにわたしはあの作品をかみしめているのですけれどー。
 この作品は、そうではない、と。


 エルダーという制度に目を向けなければ、一般的な上級生と下級生の間柄以上に親密な女の子たちの物語として、けっして機能不全に陥っていないとは思うのです よ。
 でも、それって、灰汁だか毒だかを抜いて一般化しているだけのような……。
 良くも悪くも『マリみて』の亜流というポジションでしかないと思ったりして。


 魅力的な新キャラクターたちが次々に現れ、この世界を広げているというカンジは受けます。
 でも「これで終幕」と宣言する作品で登場されてもなぁ……。
 このままでは彼女たちの行動動機や出自の背景などがまったくわからず、不完全燃焼になってしまうことこの上なし。
 二次創作のネタを用意してあげただけ……とは思いたくないのですけれど。



 原作の知識があるので、繰り広げられる世界を理解することはできました。
 でも理解することと納得することは別。
 楽しむということに関しては、わたしとは違う方向を向いているのだなぁ……と感じてしまったのでした。

 ……原作者が携わった作品でそのように感じてしまったというのはツライなぁ。
 それはどうしてもわたしの受け取り方に問題があるということなのでしょうし。
 はぁ……。
 ショック……。
 

(ラノベ指数 16/67)
18
 
ヴィクトリアン・ローズ・テーラー 恋のドレスと秘密の鏡』 青木祐子 著

 わたしの知るカップルのなかで、いまイチバンやきもきする焦れったいふたり。
 それが今作の主人公、シャーロックとクリス(^_^;)。
 あーもーっ!
 最近になってようやく互いの気持ちを確認したふたりではあるのですけれど、気持ちを知ったからといってどうするというワケでもなく。
 周囲が自分たちのことを(簡単には?)認めてくれないだろうことを知りつつ、さりとて時間をかけて周囲を納得させようという動きも見せず。
 そろそろ一歩違うと「悲劇に酔ってる」と思っちゃいますデスヨ?

 ……ああ、違うかな。
 なんちうか、このふたりの共通理解に見えている部分って、もしかしたら根本的にズレているからどうにもならないのかも。
 同じ方向を向いてはいても、高さが違うっちうか。

 んー。
 現状のままの境遇で許しているクリス。
 これから先に目を向けずにはいられないシャーロック。
 生きていく時間の早さが違うのかなぁ……。


 ケネスのこともそうでしたけれど、現在の流れの中でのビアードの結婚観などは、ヴィクトリア時代の英国風俗の雰囲気を巧みに表していて良いなぁ。
 そもそもシャーロックとクリスの仲がはっきりと進展しないのも、この辺りの意識の溝があるからですし。
 うーむ……。
 歴史大河めいてきていたり?(^_^;)


 シャーロックの気持ちが誰に向いているのかアディルにもバレて、次回は嵐?
 どれだけ波乱が巻き起こるのか、楽しみで仕方がないったら!(≧▽≦)
 

(ラノベ指数 29/67)
17
 
『伯爵と妖精 紅の棋士に願うならば』 谷瑞恵 著

 晴れて婚約者となったエドガーとリディア。
 そんなふたりに降りかかる災いは、これまでとは違って「二人が婚約者である」からこそのものなのですよねー。
 ああ、物語が進んでいるのだわ〜と思えて嬉しい(^-^)。


 すでに明確な絆がふたりにあるので、ちょっとやそっとの揺さぶりではふたりを引き離すことなどできはなしないのに、今回の騒動の発端であるファーガスは役者不足なことこの上ないったら。
 リディアでなくとも「一族の娘」であればそれでいいとかぬかすファーガスに、リディアでなければダメなんだと惚気まくるエドガー。
 はなっから勝負は見えていたワケで。

 まー、ライバルとしては役者不足ではありましたけれど、情けない引き立て役としては十分でしたでしょうか。
 彼がいたからこそ、エドガーの本気も十分に見えてきたワケですし。
 戦わずして保身に走るような、そして自分の気持ちではなく一般論で語るようなオトコノコに、決してオンナノコは惚れることは無いのデスヨ!


 情けないライバルではありましたけれど、これはこれでふたりの絆をさらに強めたという点では立派に役どころを勤め上げたと言えましょう(笑)。


 ラスト、別れの言葉を聴きたくないと駄々をこねるエドガー。
 これってリディアに甘えているんだと思うのですよ。
 ポーズではなく本心から。
 二人が婚約者となったおかげで、攻守のポジションが微妙に変わってきているような気がするのですけれども……?
 それはとても良い変化だと思うのです(^_^)。


 ふたりの前途にはまだまだ困難が待ち受けているワケですけれど、きっとだいじょうぶと感じられるラストでした。
 嬉しくなったー。
 

(ラノベ指数 10/67)
16
 
『少女ノイズ』 三雲岳斗 著

 瞑っちゃぁぁぁぁんっ!(≧▽≦)
 クールでミステリアス、んでも甘えたがりなところがたまらんです!!
 ……ハッ。
 これがツンデレ?
 他人がいるところではツンツンして、二人きりになるとデレデレ?
 …………いや、違うなぁ。
 主人公のスカに対しては甘えたところをみせる、彼だけには心を許しているってところはデレなのかもですけれど。

 ちまたのジャンルで「ヘッドフォン少女」というものがありますけれど、彼女を見て初めてその意味するところがわかったような……っちうか、意味のある「ヘッドフォン少女」というものを初めて見せられた?というカンジ。
 萌え学としては単に記号としての意味以上のモノを必要としないのかもですけれど、そこに「物語」が付加されればより強力なんじゃね?という。
 おしゃれ以上の意味、物語が、ね。

 ちうかさー。
 自分で動くのはイヤだから「アナタが運んで」って手を伸ばしてくるのって、どんだけ甘えたがり屋さんなんだか。
 でもって会いに行くのが少しでも遅れたり、はじめの話題にほかのオンナノコのことを持ち出してきたりするとあからさまに不機嫌になったりさー。
 もうねもうね。
 可愛すぎですよ、瞑ちゃんってば!


 そんな愛らしい一面をみせつつも推理の冴えは超絶で。
 そう、この物語は推理ミステリなのです!(^_^;)
 ほんっと三雲センセの仕事の幅には敬服です。

 短編連作なので規模としてはそれほど大がかりではないですし、形式としても本格とは言いづらいくらいのものですけれど、その有り様は簡単的確スッキリしていてわたしは好きー。
 短編ですからひとつの事件がスパスパ切れ味のごとく解決していくっちうか。

 そんな中においても瞑ちゃんとスカの関係も微妙に変化していって、連作として見事にラストのお話につながっているという!
 もう、最後のお話での瞑ちゃんは必見!
 っちうか、嬉しいわ!
 クールでミステリアス?
 はんっ!
 しかしてスカのことになると……んきゃーっっっ!!!(≧▽≦)

 そしてそして、ラストシーンね!!
 推理ミステリなのに恋愛小説ばりのラストを持ってきてくれましたよ!
 んもーっ!
 あらためて瞑ちゃんが「ヘッドフォン少女」であったことを考えさせられるのデスヨ。
 外の世界を遮断するためのヘッドフォンも、だけれどただひとつの音をそのコードから耳へと届ける境界でもあるのですよね。
 そのコードの先をつなげる先を、彼女はようやく見つけられたワケで……。
 嬉しいなぁ、このラスト。


 類似する作品がいくつか思い浮かぶ今作ですけれども、であるからこそむしろ今作、三雲センセのすごさが改めて浮き彫りになるような気が。
 実力が違うっていうか……。

 キャラクターものとしてとらえなくても、三雲センセにはもっと推理ミステリを書いてほしいなー。
 今作は今作で終わりでしょうけれど、次の推理ミステリ作品を楽しみにしています。
 

(ラノベ指数 25/65)
15
 
『オオカミさんとマッチ売りじゃないけど不幸な少女』 沖田雅 著

 シリーズ最新刊!……とは言っても短編集。
 物語として先を進むべき明確な指標があるわけではないので、こういう形式で気が済むまで続けていってもいいのかな〜なんて。
 サクッと読み終えることができるので、わたしは好きなんですけどー(^_^;)。

 物語的には進むことはなくても、亮士くんとおおかみさんの仲が微妙に動いているところを感じられてくすぐったいっていうかー(笑)。
 亮士くん、ヘタレの代名詞のように扱われていますけれど、ここまで自分の恋心を周知されていて(しかも実ってないとまで知られていて)、それでいてなおあきらめることを知らないのですから立派なオトコノコだと思うのですけれど〜?

 最近のおおかみさんの、なんとはなしに亮士くんのことを認めちゃっている態度も、そういう一心さが伝わったからだと思ったりして。
 おおかみさんの過去が過去だけに、ねぇ……。


 えーっと、あとはもうホンッとにオールスター的にドタバタした喜劇というカンジで。
 これはもう難しく考えずに楽しんだモノ勝ち!
 ちょっとキャラが入り乱れすぎって気もしますけれど、ここは賑やかさ優先で、かな?

 個々のお話は入りから出まで短いながらもコンパクトにまとめられて、キャラクターの背景を説明する必要が無いとはいえ短編に必要な……というか物語に必要な様式はそろっていると思うので、ある意味、短編のアベレージにしたいくらい。

 うん、やっぱり好きです、このシリーズ。


 ……ところで。
 表紙といい挿絵といい、微妙ではないくらいにエロ度が上がっていると思うのは気のせいですか?(^_^;)
 

(ラノベ指数 29/65)
14
 
『アスラクライン9 KLINE Re-MIX』 三雲岳斗 著

 和狸ナオせんせのエイプリルフールねたから始まった智春の女装ネタ。
 いや、『電撃AprilFool』では女装ではなく性逆転ネタでしたけれど。
 それに触発されたっぽいことは以前に三雲センセも書かれてましたけれど、よもやそれで1冊書き貫くほどだったとは!(笑)

 まぁ、そんな次第でネタから始まったストーリーに若干の背景的進行を加えたものなので、全体の物語として大きく何かがあるというわけではないのですがー。
 終盤に次の展開への引きがあるくらいですし。

 んでも長期シリーズにはこういう回があってもいいかなーと思うのですよ。
 キャラクターの魅力を掘り下げる部分でもありますし、また背景世界を広げる意味もあるわけで。
 そういう点で今回は佐伯妹こと玲子ちゃんががががっ!
 あーもーっ、この子ったらなんて可愛いのかしら!(≧▽≦)
 舞台的な因縁もなにもなくて、純粋にオンナノコとして智春のことを心憎からずと思っているのって彼女だけなんじゃないかしら!
 ……ええ、まあ、だからこそ彼女に作中での勝ち目は無いのでしょうけれど。

 いや、それを言うなら三雲センセの作品ではそれほど恋愛要素って最後まで進められたことないので勝負が有る無いどころでは無いかもなのですがー(苦笑)。

 しかしこの巻での操緒の活躍なんてたかが知れているのですから、せめて表紙に玲子ちゃんを描いて欲しかったなー。
 でなければせめてメイド服姿。
 背景は秋の風景で作中と合っているのですけれど、ならばどうして制服なのかと小一時間……。


 前巻までの重い雰囲気もこの巻で小休止。
 しかし次は運命の巻らしいので、刮目して待ちますよー。
 三雲センセの次回予告?は本当に本当ですから、それはもう物語としても佳境にさしかかっているのだなーと思うと、もうね!
 

(ラノベ指数 19/65)
13
 
『総理大臣のえる! 歴史を変える大勝利』 あすか正太 著

 このお話を荒唐無稽だと切り捨てるのは簡単なことだし、あるいはねじ曲がった右傾化作品と決めつけるのもあるのかなーと。
 でも、そうして「文学上の技巧」だけを追い求めてしまっては、この作品は楽しめないのだと思うのデス。
 人が動き出すには根底になにが流れているのか、困難なことに立ち向かうために忘れてはならないことはなにか、そういう人が人として正しく生きていくために必要なことがこの作品にはあると思うのですよー。


 国際連合に加盟しながら敵国条項を残されたままの日本。
 米国主導で進められる国際調和。
 「正しさ」ではなく「都合」で推し進められるこの世界のなかで、どうしたら理想を実現できるのか。
 理不尽さに遭いながらも、それを怒りではなく希望に変えることができるのか。
 閉塞感の漂う現実にあって、この作品の突き抜けかたはほんっとーに気持ちが良かった!


 理念だけでは評価も難しいとするなら、技巧的にも面白い仕掛けをいくつも用意していると思います。
 もっともあすかセンセにしてみたら、それは技巧を凝らしたという意識によって為されたものではなくて、それこそのえるのように「どうやったら楽しいことができるのか」を考えたら自然とそうなったと思えなくも無いのですけれどー(笑)。

 「どの国にも裏切り者はいるものです」と言った米国大統領ノア。
 この言葉が遠くない将来に自らに返ってくるとは思いもしなかったことでしょう。
 ノアは米国という国に絶対の希望を見いだしていたようですけれども、のえるはそうではなかった。
 ほんの数百年、歴史上で覇権を握ったところでやがては消えゆくモノ。
 のえるは「作られた」組織よりも「作り出す」人を信じていたのですね。


 シリーズを通して見るならば、かつてのえると対峙した人たちから励ましのメールが届いたり、それこそ1巻で登場した端役のお母さんまでも登場したところで感動モノですよ〜(T▽T)。
 「彼女は押さない核ボタン!」という章タイトルも原点回帰で良かった〜。
 そんなカンジで、シリーズを読み通した人にはとてもとてもサービスあふれる内容で、嬉しいったら!


 愛するから人は戦う……と本文中にはありましたけれど、人が人である限り愛は無くならないでしょうし、だとすれば戦いも無くならないのかも。
 うーん……。
 そう感じてしまうのは、わたしがバカだからだと思うのです。
 きっとのえるなら、戦いが無い愛の世界を目指すに違い無いのですから。
 でも、もし戦うことが必要だと本当に判断したなら、彼女は絶対に迷わない。
 自分を信じて、そして自分を信じてくれる人も信じて。
 そんな彼女の生き様を、わたしはとてもまぶしく思います。


 でも、本当は、のえるはみんなの心にいるはずなのです。
 いつだって、一緒。
 だから勇気をもって、この世界を良くしていかなきゃ。
 そうすればきっと明日は今日よりも良い日に違いないから。


 元気をもらえるお話でした。
 大好き。
 

(ラノベ指数  6/65)
12
 
『彩乃ちゃんのお告げ』 橋本紡 著

 未来を見通す力を持つ小学生にして「教主さま」彩乃ちゃんが引き起こす、優しい奇蹟の物語。
 迷っているとき、自信が無いとき。
 そしてやっぱり「未来」に不安だったりするとき。
 そんな人たちの背中をそっと押してくれるような彩乃ちゃんの言葉。
 彼女にはその「未来」の姿はかなり明瞭に見えているハズなのに、けっしてその「未来」に合わせようとするのではなく、ほんの少しだけ往く道筋を照らしてあげるだけ。

 ……ああ、見えているというのとは違うのかも。
 そしてそれは奇蹟などではないのかも。

 彩乃ちゃんが想う、願う、ほんの少しだけ良くなっているハズの「未来」の姿。
 その姿に近づけたい、「未来」をいまより倖せにしたい。
 そんな気持ちが言葉となって発せられ、そしてその言葉に導かれて彼ら彼女らは動き出して、倖せな「未来」をつかめたのかも。

 倖せな明日をつくるのは、倖せになりたいと願う人の心なのかな〜。
 自分だけで終わる倖せではなくて、もしかしたら遠い空の下で悲しんでいる人の明日を倖せにすることもできるのかも。
 倖せを願うバタフライ理論(笑)。


 それでもこの作品にどこか橋本センセらしい「影」があると感じるのは、そんな彩乃ちゃんの倖せが描かれないことでしょうか。
 他人の倖せを願う彩乃ちゃん。
 そんな彼女の倖せは、誰が願ってくれているのでしょうか。

 あるいはそんな少数の犠牲のうえに多数の倖せが成り立つ世の中だと訴えているのかも。
 その数が少数であればあるほど倖せの還元率?は高まるわけですし、もし彩乃ちゃんひとりで世界のすべての倖せを支えられるのなら、それは――……。

 でも、たぶんきっと、そんな彼女の倖せを願う「誰か」の存在はあるハズ。
 その見えない「誰か」の存在を信じられるから、橋本センセの作品を好きなのです。


 もしくは、たったひとりの存在がすべての倖せを担うなんて、この世界の大きさを甘く見るんじゃぁないよ?ってことになるのかも。
 世界は大きくて広い。
 そして倖せは絶対にある。
 だとすれば、その倖せを支えていけるのは、たったひとりの小さな存在ではないハズ。
 必ず誰かが誰かの倖せを願っている。
 そんな連鎖が、本当に本当に、この世界を倖せにしていけるのだと。


 小さなアイテムが次のお話につながっていく今作。
 いっとお好きなのは第二話「石階段」かな〜。
 努力が認められる様を目にするのは、いつだって気持ちの良いものなのです(^-^)。

 あと第二話では印象に残った台詞があってー。

「食べられるところまで食べればいいよ。残りは俺が食べてやるから」

 このお話の視点である辻村くんの台詞なのですがー。
 我田引水かもですけれど、先述の倖せを願う連鎖のように、誰かが誰かを支えてあげられるようにこの世界は成っているのではないかと信じることができるのですよ。
 この言葉から。
 そんな気持ちになっちゃって、この台詞見たときには嬉しくて嬉しくて〜(T▽T)。
 辻村くん、いいやつ!



 最近はオトナな作品が目立ってきていた橋本センセですけれども(活躍の場を考えれば仕方のないことかもですが)、今作のようにもう少し目線を下げた世界の描き方もいいな〜……とあらためて。
 やぱし好きですわ〜(^-^)。
 


(ラノベ指数 31/65)
11
 
『アストロノト!』 赤松中学 著

 よくまとまっているとは思うのですけれど、まとまりすぎで意外性が無い展開だったかなぁ……。
 予想通りであって、期待以上ではなかった……というトコロ。

 オトコノコがオンナノコのためにその身を賭けて月を目指す――という部分はライトノベルとして間違いではないと思うのですがー。
 気になったのはその見せ方かなぁ。
 「月を目指す」という行為の困難さはもちろん明らかになっていて、そこに立ち向かうオトコノコの前向きさやひたむきさは理解できるのですけれども。
 その行為を発する「動機」が最後まで隠されているために、いまひとつ感情移入できなかったといいましょうか……。

 うーん……。
 こういう手法があるとは認めつつも、ライトノベル、ことに今作のような主題における展開のさせ方では狡くないかなぁ。
 状況証拠だけでなく直視的に感情に訴えてきてくれたほうがわたしは好みだったかなー。


 そんな構成の有り様のほかヒロイン像などにも赤松センセがとても良く考えられておられるのだなぁ……という気配を感じるのですけれども。
 どーも「計算ずく」で動かれているような気がして、終始引っかかりをおぼえていたりして。
 狙いすぎとは言いませんけど、考えすぎではあったような。
 クライマックスで現される世界設定までも含めて「実はこうだったんですよー。驚きましたか?」と言われているような気がして。
 最後まで手のひらの上ですか、みたいなー。


 そして今作の最大の過ちは、ラストの2ページね。
 ここまで蛇足感を味合わせてくれたラストって、ちょっと記憶に無いわー。
 まぁ、このラストのおかげで「次」があると考えられるのかもですけれど、この程度の引き、次作の冒頭に配しておけばとか思うのですよ。
 この作品をこの作品でまとめることを軽視してやいませんか、と。


 うーん、うーん……。
 今作で引っかかった構成のあたりは、数をこなしてくればバランスを見せてくれるのかなぁ……。
 筆致は嫌いでなかっただけに、次作も見てみたいのですが……
 

(ラノベ指数 11/65)
10
 
『図書館戦争』 有川浩 著

 うーん……。
 エンターテインメントであることは理解できても、それが性に合うかどうかは別だよなぁ……という?
 有川センセの「世界の造り方」は異論を挟む余地が無いくらいにエンターテインメントであると思うのですけれど、その「造り方」における「方向性」が合わないのかなー。

 なんちうか……お子様感性のわたしには、「大人の毒」が強すぎるちうカンジ。
 「図書館の自由法」と「メディア良化法」の対立軸のあたりはエンターテイメント性で受け止められるのですけれど、その「メディア良化法」の存在感を際だたせるために用いられるリアリズムの有り様が苦々しいのですよ、わたしは。

 だからこそ真に迫ることができているのかもですが。


 その点のリアリズムが先鋭化しすぎて存在感を大きくしすぎている感があって、有川センセお得意の「大人の恋」あたりのテイストが影薄くしてしまっているのは気のせいかなぁ……。
 あー、うーん……。
 影薄くしているのではなくて、両者が乖離している……と評したほうが正確かも。
 なんか、ね。
 別のお話を読んでいるような気がして(^_^;)。
 

(ラノベ指数 22/65)
9
 
『銀星みつあみ航海記 LOG.03 僕が仲間になった理由』 鷹見一幸 著

 あーうー……。
 読み足りないなぁ、ほんとにもぅ。
 「堂々の完結!!(打ち切りの隠語)」らしいので仕方無いのですけれど、それにしても今回はスピード超過で進んでしまったなぁ……というカンジ。

 これまでの鷹見センセの作品から察すると、個々のイベントに対してもっと行数を割いて展開させていたように思うのですよー。
 それが今回は、この一冊で収拾をつけないといけない「枷」があるためか、どうしても急ぎ足になってしまっているっちうか……。

 その影響もあるのか、今回はハヤトやハインツたち銀星号のメンバーの活躍が目立ってなかったような?
 もともと群像劇っぽい視点で描かれることの多い鷹見センセですから、主人公サイドの視点が弱い……主人公としての立ち位置の弱さがあることはわかっているのですけれど、それにしても今回は目立たなさすぎ……ちうか、いいトコなさすぎ(^_^;)。
 主人公の「外」にいる人たちの活躍で、傲慢な権力者たちに一矢を報いるという「いつもの展開」こそは成り立っているのですけれども、ねぇ。
 やぱし、なんていうか、こう……(苦笑)。

 まぁ、こういったウェイトの置き方も、「世界の有り様」を描き続けている鷹見センセらしいのかなぁ……とも思ったりします。
 辛辣で残酷で、無情すぎるけれども、優しさの可能性にはあふれている世界を。


 駆け足すぎてひとつの作品として見るには難しいかなー。
 『でたまか』ボーナストラックぐらいに見るほうが落ち着くのかも。
 「あの『マイド』のご先祖様が大活躍!」とかコピーつけて。

 う、うーん……。
 自分で言っておいてなんですけれど、そういう位置づけのほうがしっくりきてしまうわー(^_^;)。
 

(ラノベ指数 13/65)
8
 
『風の王国 金の鈴』 毛利志生子 著

 前巻から続いていたラセルとツェンニャの確執?が解決される巻なのかなー……と思って読み始めたのですけれど。
 そちらの問題はあれよあれよと進んでしまい、巻半ばではもう解決してしまってアレレレ〜?と。
 なんちうか、クライマックスであるはずのものが中途半端なところに存在しているような……。

 だけれど、それはそもそも間違いでー。
 この巻のクライマックスは『金の鈴』イェルカ王女の誕生だったのですね!
 おめでとう翠蘭!(≧▽≦)
 先述のラセルとツェンニャの絡みも、ラセルがお兄ちゃんになるための通過儀礼だと思えばその位置に挿入されていたことも十分納得できますしー。
 うんうん。
 王位継承のこととかあって、生まれてくる子は妹が良いなーと思っていたのですよ。
 でもラセルなら弟でも妹でも、良いお兄ちゃんになりそうだなー……とか。
 気だての優しい良い子ですもんねー(^-^)。
 よく勘違いされるような「『優しさ』と言い訳するような『弱さ』」ではなく、きちんと周囲を気遣うことのできる意味でラセルはその気質を持っていると思うのですよー。
 もちろん現状ではリジムに比肩しうる「王としての強さ」を持っているとは言い難いと思うのですけれど、作中で指摘されているように、ラセルの「優しさ」はリジムのそれと同質のモノだと感じますし、またそれは「王として」備えておいて全く問題無いどころか必要なことかとー。
 その気質に人は惹かれていくのでしょうし、この巻でもラセルに人を引きつける魅力があるように描かれていますしー。
 実際、ラセルの身の回りにはだんだんと人が増えている気配が?
 良きかな良きかな(^_^)。


 ……と、ラセルの成長や家族が増えていく描写に微笑ましく思っていたところ、ラストで急転直下の展開が待っていようとは!!!
 いや、まぁ、振り返れば幸せの中に不穏な空気が漂い始めていたことも事実だなぁ……と気づいたり。
 あああああ……(T△T)。

 今作はチベットの史実をベースに描かれているので、思わず即席ですがWebでチベットの歴史を調べてしまいましたよ。
 そしたら……。
 う、うーん……。
 なにかのブラフというわけでもなく、ラストで発せられた言葉は真実……っぽいようでさらに落ち込んでしまったりして。
 真実を知ることは、いつだって痛みをともなうことなのね……(TДT)。

 へぁ〜……。
 そんなぁ……。

 まぁでもしかし。
 翠蘭はいまでもチベットの人から慕われている存在であると知れて、それがこれからの展開に対して救いになったかなぁ……。
 悲しみだけではない……と思うことができるので。

 うーあーっ。
 早く続きをお願いしますぅぅぅぅ(T△T)。
 


(ラノベ指数 26/65)
7
 
『走れ、真実への細き途 幻獣降臨譚』 本宮ことは 著

 王家の恐ろしさが歴史に基づく権威だけでなく、権謀術数うごめく宮廷の貴族社会において生き抜いてきたというまごうことなき現実にあるということを教えてくれる希有な作品。
 こわー、王家ってこわー(T△T)。
 リスタル国王のシェルダンの威圧感たるや、文章だけだというのにすごい存在感が。
 脳内で彼の声が若本規夫さんか秋元羊介さんに自動変換されていたのってわたしだけですか?(^_^;)


 そんな国王とのギリギリのやりとりを切り抜けることの出来たライルなのですがー。
 どうにも死亡フラグが明滅しているようでなりません。
 アリアとはちゃんと気持ちが伝い合ったように思うのですけれど、ねぇ……。

「この先、おまえがどこに向かうつもりか知らないけど――下手したら、俺が敵に回るぞ。それもわかってるな?」
「う……ん。なるべくそんな羽目になりたくないけどね」
 アリアはほろ苦い笑いを浮かべた。ライルも同じように苦笑する。
「ああ、まったくだ。けど――万が一、敵に回ったときは」
 ライルがまっすぐにアリアをみつめた。暗闇の中で、闇よりなお深い瞳に吸い込まれそうになる。
「手加減はしねえぞ。いいな」
「うん。望むところだよ」
 アリアもライルをまっすぐに見つめ返した。
「ライルこそ、巻き込まれないよう気をつけてね。光焔は――強いよ」

 んきゃーっ!
 強くなったなぁ、アリアは!!
 もう誰かの影に隠れているばかりの小さなオンナノコではないのですねぇ……。
 戸惑い、悩みはするけれど、より良い方向へ進むことを自らの意志で選んでいるっちうか。
 誰かに導かれることなく。
 そんな彼女だから、もし一緒になる誰かがいるとしたら、自分を守ってくれるだけの人でも、自分が守るだけの人でも、そのどちらでもなくて、守り守られ対等な立場でいたいのかなー……なんて。

 そして聖獣を従えている自分にそんな人が現れるとしたら、それはもう運命でしか巡り会えないと考えているようなフシも感じたりして。
 この直前の会話で「悲しいけれど、縁がなかったってことだね」という決断も受け止める覚悟を見せていましたし。
 あー、もうっ、この子ったら!(T▽T)


 えーっと、現状では自分が自分が状態に陥ってしまっているディクスは大きく後退してしまっているのは事実ですしー(実際、今巻では登場すらしていませんし)。
 もし……万が一にでもライルの身になにかあった場合、彼の後ろにつけているのは、やぱしシェナンなのかなー。
 キャラ紹介のアイコンも大きいですし(そこかい!)。
 んでも王子様としての世間知らずは遅々とはしていますが改善方向にありますし、なによりアリアに恋心を抱いていると自覚できたことは高ポイントでしょう!
 がんばれ王子様!(≧▽≦)

 ……いや、でも、やっぱりライルと結ばれて欲しいなぁ。
 ライルはシェリカ王女との関係がポイントになったり?(苦笑)


 エラン村を発ったクルサード一行の様子にもラストで触れましたし、物語はまだまだ多方面で動きを見せますねぇ。
 本宮センセによると折り返し地点かつ起承転結の「転」あたりだそうですし、これからの展開が楽しみになってまいりました!
 どれだけ深刻な展開になろうとも、アリアがポジティブシンキンに転化しましたから、これからは読み手のわたしも耐えられそうです!(><)b



 にしても、カバー折り返しのところのセンセの自己紹介は、相変わらずハイセンスだわ……。
 どうしてこの人はオタ心をくすぐるのか……(笑)。
 アニメネタで「CLANNAD」→「グレンラガン」のコンボは強烈すぎデスヨ(^-^:)。
 


(ラノベ指数 23/65)
6
 
『銀星みつあみ航海記 LOG.02 俺らが運ぶべき希望』 鷹見一幸 著

 時系列として『でたまか』より以前ということで、この時代においてはマルス家に鉄槌が下されることは無いっちうことが、どうにもモヤモヤ感をー。
 専横を繰り返す彼らに対して、現場である末端の人たちが機転を利かせて主人公たちをサポートしてくれていく理解を示してくれていくワケですけれども。
 ここでそのいっときを脱したとして、マルス家の傍流貴族にこの場限りの恥をかかせたとして、それでもこの世界の息苦しさが打ち払われることはないのだよなぁ……と思うと、さー(T△T)。

 末端の人たち、そして主人公たちががんばっているということをひしと感じられてしまうだけに、やるせなさがこみあげてくるのですよー。
 鷹見センセは「当たり前のことを当たり前に行う人を適切に評価するのも、また当たり前のこと」とするお話をよく語られるのですけれど。
 んでは逆に「当たり前のことを当たり前にできない人にツケを払って欲しい」と思ってしまうのは、単に勧善懲悪思想ですか?(><)

 マイド・ガーナッシュはいずこにありや? 全宇宙はそれを知らんと欲す。


 うーん……。
 もしかしたら今作っちうか今シリーズは、気持ちの振れ幅はこの程度で良いのかなー。
 あくまでリーズナブルな庶民感覚と申しましょうか。
 「鷹見一幸」という人の作家のベースとなる要素がコンパクトに詰め込まれている作品ってカンジ。
 艦隊戦とか大逆転劇とか派手なシチュエーションは無くても、たとえひとりであろうと困っている人がいれば助けるというような基本線は揺らいでいないと思えますしー。
 原点に立ち返ったような……ってことかしらん。


 主人公たちの華々しい活躍が光だとしたら、惑星ホルストでのウーフの活躍は影だったなー。
 もうひとりの主人公というべきくらいに。
 あ、いや、違うか。
 物語の体裁上、主人公という人物の存在は欠くことができないにしても、世界は主人公のまわりだけで構成されているわけではない……ってことなのかなー。
 それはまたいつもの鷹見センセらしい世界の描き方ですし。

 社会の物流を担っている、道を走っているトラックに感謝する。
 そういう視点に気づかせてくれる


 にしても帝国からこんな仕打ちを受けたという歴史があれば、エルノリク男爵領の市民が反帝国に傾くのもうなずけるハナシでしたなぁ……と。


 「鷹見一幸」という人となりを知るにはお手頃感のある作品でした。
 お手頃感っていうのは、それなりにある程度はチープであるという気もするので、このシリーズは長く大きくはならないだろうなぁ……という所感を得ていたのですけれど。
 にしても、だからといって――打ち切りの憂き目に遭うとは、ねぇ?(T▽T)
 その終わりが遠くないものだと覚悟していても、「自発的に終わらせる」ことと「強制的に終わらせられる」のあいだには深い溝がー。

 とにかくラストの次巻!
 ファンとして楽しみにしていますよっ!(><)
 

(ラノベ指数 18/65)
5
 
『ソフィアの宝石 −乙女は、謳う−』 渡海奈穂 著

 なんか、こー、お行儀良すぎるような。
 物語のまとまりかたに。
 それは決して悪いことではないとは思うのですけれど(まとまってないことよりは)、安定感がありすぎて予定調和的にも思えてしまうっちうかー。
 ……こちらの読み方が欲張りすぎなのか、斜に構えすぎなのでしょうかねぇ(苦笑)。

 そんな次第で尊き血筋に連なりつつも庶民として暮らしてきたオンナノコが、両親の死去にともない本家筋に引き取られて貴族社会に放り込まれ、庶民感覚とのギャップに困惑するお話の第2巻。
 貴族サマたちのゴージャス感覚に主人公のリディアがイラッとしたり呆れたりするところとか、貴族サマが庶民の暮らしぶりに興味を抱いたりするところ、なーんかデジャブあるなぁ……と思っていたのですが、わかりました。
 『桜蘭高校ホスト倶楽部』なんですよ(笑)。
 いえ、まぁ、ほかにもあるとは思いますけれどー。
 クリフェイドの関心の寄せぶりなんて、殿みたい(^_^;)。


 で、そんな貴族との軋轢のなかでぶつけられてくる悪意(……とは言っても可愛い類ですけれど)に対して、軽くぶち切れて勢いで乗り切ってしまうリディアすげー……と思いつつ、その根性の座り方とか好感ですなー。
 ポジティブ、ポジティブ。
 あまりにポジティブすぎて周囲へ無防備すぎるような気がしますけれど、そういう脇の甘さも主人公かつヒロインとしての魅力なのかなー。
 こう、読み手と等身大的っちうか。

 いまだ持て余し気味の≪古き力≫も、その効果のほどは微妙なカンジちうか伏線の域を出ていないにしても、貴族の鼻っ柱を折る程度には効果的に扱われていて溜飲が下がるっちう。
 んでも、その≪古き力≫にしてもプロローグで描かれたことにしても、さらにはリディアに接触を図ろうとしてくる宗教集団?にしても、見えていない部分が大きすぎて伏線だとしたら回収するまでには長くなりそう……(^_^;)。
 前巻も今巻も収まりが良いのは刊行予定が先行き不透明だからゆえのことなのかなー……と勘ぐってしまったので、そこまで長期的視野で執筆していてだいじょうぶなのかなぁ……と不安にも(苦笑)。
 単巻のみならず、シリーズとしてもきちんと決着してくれるといいなぁ。


 色男はたくさん登場しますし、主人公のリディアは前向きなでアクティブな子ですし、この作品ってドラマCD向きなんじゃないかなー……とか思ったりして。
 『彩雲国』みたいなー。
 あとはもう少しリディアを中心としたLOVE度が上がってくれれば?

「あなたの想い人にはなってあげられないけど、悲しいならそばにいさせて。ジルは、王都じゃ数少ないあたしの大事な友達なんだから」

 ――なんて、いいお友達でいましょうね宣言している場合じゃなくてさあっ!(笑)
 なんてフラグクラッシャー……。
 


(ラノベ指数 6/65)
4
 
『小説・秒速5センチメートル』 新海誠 著

 新海監督の最新作を、監督ご自身の手によるノベライズ化。
 そういえばこれまでの2作は別のかたの手によるものでしたっけ。

 で、本編の感想はといえば、筆致は本職にされている作家さんと比べるとつたないところがあるような気が。
 あざとい技巧がなくてシンプルにまとまっている……と言えなくもないとは思いますけれど、本著単独で価値を計るとするらば、やぱし割高感が否めないかも。

 でも。
 この本の本質は単に一冊の書籍というところにあるのではなくて、やぱし「ノベライズ」というところにあるのではないかとー。
 補完……というより、もう少し前向きな。
 映像では語りにくかった部分が、文章にすれば鮮やかに描かれているように受けるのですよ。
 それはもう、どちらの表現手法の優劣を競うものではなく、映像には映像の、そして文章には文章の得意とする分野があるのだとしか。

 「桜花抄」ではまだ「映像を文章化した」という直接的関与作業の色が強いように思うのですけれど、それが「コスモナウト」「秒速5センチメートル」と続くにつれ、映画・映像との表現の異なり方に気づかされた次第。
 もちろんベースは同じ物語なので新鮮みがあるわけではないのですけれど、しかしあの世界の視点や人物心象については新しい一面を見せてくれたように思います。

 ……まぁ、それなりの世代にはグサグサ突き刺さるようなところは映画も小説も同じだったワケですがー(T▽T)。


 そんな新しい一面のなかで見られたもののなかに、どんだけタカキは恋愛フラグのクラッシャーであったかということで(笑)。
 やっぱりアカリの言葉が呪いだったんじゃないのぉ?

 あの言葉はもっと――せめてあと3年くらい時間を経たタカキであれば害無く受け止められたのかもしれないけれど、まだ13歳では打ちのめされるっちうか、その重さを真正直に背負ってしまうっちうか。


 んでも、「秒速5センチメートル」のラストシーン。
 わたしが映画で感じた、少し前向きな感想と割に近い結びであったので、これはこれでホッと安堵できたのも確かだったり。
 後味に関しては、映画より悪くないものではないかなー。
 そのぶん大衆化してしまったということなのかもですけれど。



 ところで。
 ハードカバーの書籍には紐状のしおり?が付いていることがありますけれど、今作もそれが付いていたのですよ。
 ソフトカバーに付いてくる紙製のしおりでもそうなのですけれど、作中のどのシーンにそれが挟まれているかわたしは地味に気になっているタチでー。
 なんとなく、しおりが差し込まれているシーンが自分にとって運命的になっているような気がして(どんな乙女回路ですか)。

 んで、今作でのしおりが挟まれていた場所。

 第2話「コスモナウト」で花苗が「――優しくしないで」と心の内でつぶやくシーン。
 ――切なさで人は死ぬるのではないかと思ったー(TДT)。

 まぁ、たぶん、どこにしおりが挟まれていても、今作に限っては似た気持ちを抱いたとは思います、けど(苦笑)。
 

(ラノベ指数 21/66)
3
『ようこそ女たちの王国へ』 ウェン・スペンサー 著 赤尾秀子 訳

 社会における男女の立場が現代とは逆転した世界。
 社会を動かすのは女性であり、男性は添え物。
 だけれども出生率に大きく差があるため「結婚の道具」として男子は社会的価値が備わっているワケで。
 それは個人の資産であり、家族の「取引材料」であり。
 そんな世界で主人公のジェリンが王女様に見初められたことから物語は始まって――。

 読み始めてしばらくは、男女の力関係が逆転した倒錯物かと思っていたのですけれどもー。
 いや、倒錯的であるのは倒錯的なんですけれど(笑)。
 戦争や政治といったものを執り行うのは女性であって、家庭に入って家事を行うのが男性であって。

 どこまでも倒錯的であると思ったのは「性的な意味で襲われる」ことのベクトルが、女性×男性で描かれているトコロ。
 男性の出生率が低いため、結婚というのはもちろん性生活と重要に直結していて、一族を繁栄させるために「子種」を必要としているのですよ。
 だものでその手の欲望シーンが少なくなくて、うわぁ……と、ちと赤面(≧△≦)。
 もちろん当たり前のように一夫多妻制でー。
 でも主導権を握っているのは幾人もいる奥さんのほうな次第。
 ハーレムのように見えてハーレムじゃない(笑)。


 んでも、そうした社会的立場が逆転しているとはいえ、恋する女性たちの可愛らしさは一般的なそれと変わっていないと感じますし、男性――ことに主人公であるジェリンの危機における勇ましさは頼りがいがあると思いましたしー。
 物語的な立ち位置はそれほど倒錯的ではないのかも?

 一目惚れしてしまったレン王女はもちろん、気まぐれなオディーリアに内気なトリニ、理論的なリリア、個性的なハリー……これ、みんな奥さん(笑)。
 そんな奥さんは皆それぞれに魅力的でありますし、ジェリンも真っ直ぐな気性の持ち主でありますから作品として嫌味が無いのかも。

 もちろん王族の姫様たちだけでなく、ジェリンの姉妹も魅力的で。
 わたしとしては年長のエルデストがかっこよくて好きー。
 ジェリンの結婚と引き替えにエルデストたち姉妹も王子を結婚相手としてもらうことができたワケですけれど(男子は資産なので、金銭や等交換で授受が行われるのデスヨ)。
 実際的で冷静なエルデストがどんな新婚生活を送るのか興味あるー!(≧▽≦)
 なにしろ相手は一回り以上も年下と思われる王子様ですからね!

 ……竹村雪秀センセの『TAKE ON ME』に登場する大野さんをイメージしたのですけれどもー(^_^;)。


 で。
 そんなふうに倒錯的恋愛物かと思いきや、ジェリンと王女が出会うきっかけとなった大砲盗難事件や、かつての国王殺害にまつわる真相、さらには浮かび上がってきた王位簒奪の動きなど、実はものすんごくアクティブなエンターテインメントなのでしたー。
 事件究明が進むにつれてのスピード感たるや!

「おまえら名門とちがってね、ウィスラー家は“義理の姉妹”をこけにはしないんだ。うちには絶対遵守の家訓がある――ひとりやられたら、家族全員やられたと思え!」

 ぎゃー!
 どんな任侠モノ――っ!?(笑)
 かっこいい……かっこよすぎるよ、エルデスト(´Д`)。

 とびかう銃声、とどろく砲声。
 血なまぐさい闘争のなかでも、家族の絆はけして壊れることなく。
 その絆が奇跡を呼んで、見事、敵に打ち勝つワケで。
 人の正しさが素地にある点、ここでも嫌味が無くてー。
 
 社会を斜めに見たようなひねった物語も面白いですけれど、こうした真っ直ぐな気持ちで描かれた物語というのは、なんとも心地よいものです。
 読後感がね、さわやかなのですよー。
 作中には書かれていませんけれど、もう、見事に「めでたし、めでたし」で結ばれているんですもん!

 うーむ……。
 こう見事な「It is happy, and happy. 」って、初期の頃のハヤカワFTみたいだなぁ……とか思ったりして。
 つまりは古典的ってことなのかしらー?
 でも、そういうクラシカルなところは性倒錯的な部分でアレンジが入れられているために、作品として古臭さを感じさせないのかも?
 物語構造はあくまで真っ当に。
 その上で現代風の今様なセンスを入れられるか否かが作家性っちうか力量なのかもー……とか思ったりして。


 性描写がラノベに比べると生々しいところは欧米の作家センセらしいなーと思ってしまいましたけれど、それ以上に躍動感ある筆致はすごく好み。
 うん、満足したー(^-^)。
 


(ラノベ指数 21/66)
2
 
『ポイポイポイ』 桑島由一 著

 金魚一匹すくえないやつに、女がすくえるか!!
 説得力ありそうでなさそうで、だけれど勢いだけはものすんごいキャッチ。
 そんなキャッチに表されるように、勢いとノリと熱さがバッチリ詰まった素晴らしき青春小説でした。

 「金魚すくい」が題材ってあたりが一般的とされるラインから外れていて「ライトノベル」なんだなぁ……と考えさせられたりしますけれど、そういうゾーニングよりなんちうか「金魚すくい」と「桑島由一」という人物像が妙にマッチしているのでニヤニヤしてしまうわー(^_^;)。
 こう、世間を斜めから見ている感覚といいましょうか。

 表紙がイラストではなくて写真画像を用いているあたりも一般的なラノベとは一線を画していて、そういうトコも桑島センセらしいなぁ……とか感じたりして。
 SD文庫っちうより、NO DISK RECORDS だよねー(笑)。


 そんな次第で、かつて金魚すくいで名を馳せそして崩壊した一家に育った主人公が幼なじみのオンナノコを本意でない結婚から救うためにその婚約者と金魚すくいで勝負するお話なのです。
 なるほど「金魚すくい」の部分は一般的ではないのかもですけれど、物語の進行それ自体はしかし直球も直球、定番中の定番のゴールデンストーリーではないかと。

 憎からず想っている幼なじみとの関係はいつまでも続くと考えていた矢先に敵対者現れ平穏な日常が崩されて。
 幼なじみを救うために技術を磨く主人公だけれども、そこに立ちはだかるは家庭起因のトラウマと、そして自身の余命。
 病に冒された主人公は、しかし残された時間を幼なじみを救うために使うと誓い、そのために全力をかたむけて。
 そしていざ勝負!――という段になって、その勝負を行わせまいと神様が怒っているかのごとく主人公に降りかかる困難の数々。
 しかし主人公は命をかけて困難を乗り越え、そして勝負を終え、幼なじみをすくったあとで、最後に自分の想いを伝えるのでした。
 めでたしめでたし。


 なによー、これー……ってくらいに展開にだれるトコが無くて。
 勢いはもう半端無かったデスヨ。
 それでいて単にノリだけで進ませるのではなくて、きちんとそのなかで抑揚を配しているところがサスガだと。
 こう、アッパーにさせられるところとダウナーにさせられるところの振幅を。
 でもってその波のピークが見事クライマックスに!

 病に冒された主人公ですけれど、賭けるのはしかし自身の命ではなくて、彼女に対する想いなのですよね。
 それを自分と、そして彼女に対して証明するために。
 でもって最後の舞台へ立つために主人公は汗と涙を流して――走る!
 いや、もう、物語すぎますわー!(≧▽≦)


 若干長めという点を除けば、ライトノベルのひとつの形式と模されて良いくらいではないかと思います。
 キャラ造形も昨今の記号論に偏ったそれとは異なって、物語の中の位置づけを強く意識されたところから発信されていますし。
 うーん……スゴイのひと言、かなぁ。


 とまれ、桑島由一という作家の奥深さを再認識した一冊でした。
 
(ラノベ指数 17/63)

『魍魎の都 姫様、出番ですよ』 本宮ことは 著

 厳密に言えば今作がシリーズ第1巻となっていますがー。
 『されど月に手は届かず』と時代/舞台を同じくしているせいか、シリーズ二巻目という印象が。
 とはいえ背景や人物設定の予備知識をそちらで得ていたために、内容把握するにも問題なかったカンジ。
 本文も最低限の知識を得ているものとして描かれているように思えましたし。
 基礎部分の説明を省いているっちうかー。
 それが物語の進行に対して描写の余地を与えているとは思うのですけれど、逆に新規読者に対しては優しくない仕様かと……。
 いたしかゆし。

 シリーズ二巻目!と銘打てば問題無かったかもですけれど、今作をスタートとすると読み手側は混乱するかも……。


 そんなカンジで始まった本文は、およそ姫様らしからぬアクティブな活動をみせる諾子が好感で。
 女の子でありながら漢文をたしなんだり、夜中に一人で出歩いたり、時代背景に照らすとたしかに異端児ではあるのですけれど、そーゆー自分の気持ちに真っ直ぐなところが、です。

 うーむ……。
 世界に対してひとり浮かび上がるような個性を配することがキャラクター設定なのだなぁ……と思わされたりして。
 自ら事件に首をつっこんでいくのは、まさに主人公向きな性格ですし(笑)。


 事件解決にあたっては彼女の機転が活かされるようであればもっと好みだったのですけれど、そこで外部の力を頼りにしてしまったのは残念かもー。
 助けてー……って言って助けられるのは、ちとカタルシスが薄いっちうかー。
 「救助の声を上げる」ことが主人公の役目ではないと思うのですけれど……。

 んでも、ここでスーパーパワーを諾子に発揮されても興ざめですか。
 むしろ彼女には解決の手段がないという事実は、普通の人間である読み手と同じ目線で語るためにも必要なことなのかもー(^_^;)。


 でもって無事に事件解決でひと安心……と思いきや。
 藤原道長から恋文届いちゃったりして、新たな波乱の幕開けかっ!
 見事な引きっちうか、なんか、もー(笑)。
 鷹男からの手紙に新婚初夜を邪魔される瑠璃姫みたい!!(≧△≦)

 なんだかんだ言いながら、楽しみなシリーズ開幕となりました。
 

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