○● 読書感想記 ●○
2007年 【7】

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(ラノベ指数 5/63)
20
 
『おおきくなりません』 白倉由美 著

 既読なのですが、文庫化されて書き下ろし部分もあるということなのでー。
 ……えっと、どこが書き下ろし?
 「ケーキ・ケーキ・ケーキ 平野月哉のあとがきにかえて」の部分かなぁ?
 本編の流れに大きな違いはなかったように思えますしー。
 細かな修正されていたらさすがにわかりませんっ!(><)


 表紙、鶴田謙二さんをそのまま再起用したのはナイス判断といえましょう。
 鶴田さんの絵が持つ雰囲気ってどこかお伽話風であり、それが白倉センセの作品とは似合っている気がするのですよー。
 センス・オブ・ワンダー?


 再読することになって気づいたのですけれど、大人になるための通過儀礼として作品を作り上げる女の子の姿が描かれているわけですがー。
 少女が、少女の時期にしか紡ぐことのできない物語を、ひとつ形として成す……というのは、白倉センセの既刊『東京星へいこう』と同じ流れだったりするのですね。
 むぅ……。
 あらためて考えるまでもなく、通過儀礼、死、再生、セーラー服、夢……etc と、白倉センセらしいキーワードがちりばめられた作品ですなぁ。


 割と好評っぽいですし、すでに続刊が決まっていますし、これで白倉センセの認知度が高まってくれたら嬉しいなっと(≧▽≦)。
 語り部が月哉から麻巳美へと移るのは……不安より期待のほうが大きいかな?
 どちらかといえば月哉は導き手であり記録者な印象が。
 物語の主題に生きる対象としては、自我に変化を及ぼし続けている麻巳美のほうが適任っぽく思えますしー。

 なにはともあれ楽しみになってまいりましたー。
 


(ラノベ指数 10/63)
19
 
『あるゾンビ少女の災難』 池端亮 著

 いよっし!
 下品でアウトローであるけれど、スタイリッシュでモードなカンジの池端センセは不滅でした!
 どれだけ奇天烈で想像だにし無かった事柄であろうと、貫き通す信念さえあれば少数派だろうが劣勢だろうが、そこに正義は生まれるものだと。
 反対に、視野を狭くし思慮足らずで目先の小さな欲にとりつかれる様のなんと愚かで醜い様かと。

 当然、見てくれだけならゾンビであるユーフロジーヌのほうが醜くて、どうして彼女が主人公でいられるのかというほど。
 翻って、彼女の安眠を破った人間たちの見目は、すっきりとしていて形容としてだけなら美しいといってもよい類。
 んでも、内面はどうかといえばまったく正反対であり。

 自分たちの行いについて深慮することなく、周囲に与える影響を客観的なものさしではなく自分たちのみに通用する、そして自分たちにひどく甘い価値基準でもってしか判断できないことは、わがままを通り越しているような気すら。

 腕をもがれ頭を削られ、崩れた体でもなお戦うユーフロジーヌは、気持ちの上でいかに崇高な存在であったか。
 とらえられた従者を気遣い、そして従者を傷つけた者へ正当なる復讐を遂げる様はノブレス・オブリュージュを果たしているなぁ……と。

 そうした明文化されていない「理念」をきちんと守っているユーフロジーヌに比べて、仲間内の約束すら軽視しているように人間の側は映るのですよねぇ……。
 かなしいかな。


 B級ホラー?
 そんなコメディのガワを被っているとは思うのですけれど、そこに描かれた行動指針のようなものは強いアイロニーを伴っているように思います。
 で、そうした斜めっている部分を池端センセらしいな〜と思いますし、わたしは好きなのですね(^-^)。
 
(ラノベ指数 31/63)
18
 
『悪魔のミカタ666 スコルピオン・デスロッック<下>』 うえお久光 著

 菜々奈がなに考えてるのかわからない……。
 あ、いや、違うか。
 なにかを考えている、そのことだけでわたしが嫌うには十分な理由ですわ。
 腹にイチモツあるっちうか、さー。
 計算ずくでしたり顔されてるのが、もう、憎たらしいったら!(`Д´)

 これで「喧嘩相手にも理があり」という状況説明にはなってるのかなー。
 コウはさぁ、人類に対して卑怯ともいえるような「手段」を講じるにも明確な覚悟と目的を表していたと思えるのですよ。
 でも、そのコウの前にたちはだかる菜々奈は、そのコウをすら上回るだけの「手段」を持ちながら、目的も覚悟も表してないっちうか……。

 コウは考えと行動が表裏一体で同時性を持っているように思えるのに対して、菜々奈は別の要素と成っているような気が。
 それは狡知に長けたというということなのかもしれないけれど、わたしには小賢しいように映るのですよー。

 ……人としてはそれで間違いではないのかもだけど、ラノベの主人公然とはしてないよなーってことで。


 洋平にしても、近似。
 いろいろとご託を並べ立てたあげくに、それか、というカンジ。
 間違ってはいない。
 だけれど、間違いではないことがすなわち正解かと言えば、そうではないと。

 んー……。
 ツマラナイオトコになっちゃった感が。


 まぁ、でもしかし。
 高校の体育祭としては、かつて例を見ないくらいに盛り上がっていたなーと。
 さすが、うえおセンセというカンジ!
 スポーツの躍動感というところではなく、メンタルなところで盛り上がりを描くことにかけちゃあサスガと言わずには。

 なんかねー、この雰囲気って高校生の頃にしかあり得ないモノのような。
 中学生では子供すぎて、かといって大学生ともなれば大人の気恥ずかしさでこの共感を培うことはできないと思うー。
 そんなね、限られた時間性を、うえおセンセは描かれるなぁ……と。


 でもって、事件が終わってからの衝撃の結び。
 真に選んだわけでも選ばれたわけでもなく、ただそれは逃げであり甘えなのかもしれないけれど。
 だけれども、いまこの時間、ほかの誰でもないお互いを求めているという事実は偽りではなくて。

 これからのことなんてわからない。
 でもね。
 だからこそ、いまだけは、ハナちゃんに「良かったね」と伝えたくて。

 コウが一般論的に理想の男性ではないことは初めからわかっていたことで。
 でも、ハナちゃんがそんなコウを好きだと言うならば、わたしはそれを応援するしかないワケで。
 だってコウよりハナちゃんのほうが好きだから!

 ……そうは思うのですけれど、これはこれで、やぱしキツイわ〜(T▽T)。
 どうなっちゃうんでしょうか、ねぇ……。
 

(ラノベ指数 9/63)
17
 
『遠まわりする雛』 米澤穂信 著

 <古典部>シリーズのなかでも、これまで発表された短編をまとめたもの。
 実際、『野性時代』での掲載時に既読だった作品が多かったのですけれども、こうして時系列順に沿ってまとめられると、あらあらまあまあ、別の面白さがありました。
 なんちうか、奉太郎をはじめとする<古典部>の面々の心情の移り変わりが察せられるようになったと申しますかー。
 「動かなかった時代」「希薄な関係」から一歩先へ踏み込もうとしているっちうか。

 奉太郎の「やらなくていいことなら、やらない。やらなければいけないことなら手短に」という信条は彼を大人びた少年に見せているけれど、実はなにかに恐怖して動こうとしないだけなのではないかと。
 信条といえばかっこがつくと。
 ……ええ、まぁ、奉太郎はカッコつけたがりなところがありますけれど(笑)。

 で、そうした彼が、少しだけ踏み込んで、恐怖を乗り越えて、大人になろうとしている……のかなぁ、とか。
 里志が摩耶花のチョコレートを受け取らなかった=答えを保留したことと、奉太郎がえるへの申し出を躊躇ったことなどは、現状の関係を考え始めている証左でしょうし。
 微笑ましくも、その戸惑いはわかるなー。
 互いの関係を決定的なものにしたくないっちうか。
 自由を失うことは必ずしも不自由になることではないのにね。


 でも、あれかなー。
 奉太郎は「勝負」をかけるべきだと思うぞよ?
 今回収められている最後の作品「遠まわりする雛」でのえるの発言を鑑みるに、奉太郎とえるの人生って、高校を卒業してしまうと二度とクロスすることが無いんじゃないかって気が。
 それは『ToHeart2』での貴明とささらのような雰囲気を醸し出していると思えることに由来しますし、果ては『秒速5センチメートル』のタカキとアカリのようになってしまいそうで。
 ……えーっと、「アタマの良いオンナノコ」と「臆病なオトコノコ」のカップルっちうか。

 もちろん奉太郎の人生においてえるが最高最良のパートナーだと言えるかどうかは難しいですけれど、現状、あまりにお似合いであると思えるので、ふたりが共に歩む未来を願ってしまうのは傍観者のわがままってことでー(^_^;)。


 さて、これで奉太郎たちの高校一年の時間が終わったワケで。
 進級した彼らの物語を楽しみにしております。
 ……<古典部>には新入部員が入ったりするのでしょうか??
 

(ラノベ指数 24/63)
16
 
『ガン×スクール=パラダイス!』 穂邑正裕 著

 なんちうか、もっと設定を簡潔にしようよ……と、まず言いたく。
 そしてゲームのルールも逆転性に欠けるシビアなものですから、終盤でのやりとりにgdgd感が漂うのですよね……。
 勢いだけで押し切ったっちうか。
 ……まぁ、道中の展開も「偶然」や「奇跡」に頼ったところが少なくなかったので、心情的に共感性を得るつもりはなかったのかなー、とは思うのですけれど。
 情緒的な作品ではなく、スピード感あるエンターテイメントを狙ったっちうか。


 しかしですよ。
 そんな次第で入りから道中、そして終盤にさしかかるまで、整合性とか公平性とか無視して突っ走っておきながら、最後の最後、ジュブナイル的なテーマを持ち出すのはズルイと思うー。
 卑怯というのではなく、やってくれたな!という意味で。

 「楽園は、自分たちで創る」

 いまの生き方をツマラナイと言うのは簡単だけれど、ツマラナイとわかっているなら自分で面白く、楽しく、素敵なものにしていこうよとメッセージ。
 ひとりでダメなら、誰かと一緒に。
 ──違いますね。
 ひとりで楽しいことなんて無いって言ってるのかも。
 キミがいて、ボクがいて。
 だから世界は楽しい場所に変わっていくワケで。


 この真っ直ぐなテーマを浮かび上がらせるために、終盤まではお馬鹿な振りをしていたのかと思うくらいなんですけどー。
 ……それはさすがに考えすぎかー(苦笑)。


 武力によって築かれる理想郷は、人の心を繋ぎ止めることはできず。
 争いではなく協調によってこそ、本当の楽園は見つけられるはず。
 そのために必要なのは──やっぱり「愛」なんじゃないの?


 「愛」と相反する存在として武力の象徴たる「銃」があるのは良いとして、そのために舞台がサバゲーの体を成しているのもOKとして……。
 やっぱりそのほかの細部の設定が煩雑な印象……。
 もったいない……とは思うのですけれど、これでブラッシュアップなどした日には案外寂しいことになりそうでもあるので、これはこれで「佳作」という作品には値するのかもなぁ……とか。
 難しいですね(^_^;)。


 ところで。
 武力によって、あるいは武力を否定して、それぞれ楽園を願うとか、なんだか『ガンダム』みたいだなーとか思ったのはわたしだけですか?
 そうですか(笑)。
 

(ラノベ指数 18/63)
15
 
『ヴィクトリアン・ローズ・テーラー 恋のドレスと大いなる賭け』 青木祐子 著

 気のせいかシャーロックとクリスのカップル、悲劇に向かっている雰囲気を漂わせてきているような……?
 なんていうか、こう、運命に翻弄されて生きている間に倖せは得られることなく、ただ生を終える一瞬に、わずかばかりのそれを与えられるような。

 もともと身分違いの恋なのですから、そこに横たわる障害は大きなモノだとわかってはいるのですけれどもー。
 このふたりの恋って、その障害を受け入れてしまっているような感があって。
 障害を取り除こうと動くのではなく、その現実を認めたうえで成し遂げようっていうか。
 そちらのほうが困難だとわかってしまうから、もしかしたらその先に待っているのは悲劇しかないのかなー……と思ってしまうのですよー。


 まぁ、でもそれ以上にシャーロックがお馬鹿さんって気もしないでもないですが。
 クリスとの約束を反故にしてまで、自分の政治的関心を選択するか、あほー!!(><)。
 もしかしてこの人の恋って、大人のそれにまで成熟してないんじゃないかしらかしら。
 今回の選択、まだ幼いオトコノコのそれのような未熟さを感じてしまったー。

 どうなのかな、彼は、さー。
 恋物語の相手として応援する価値のある男性デスカ?
 クリスの相手として。
 控え目ながらも自分勝手すぎるきらいがあるように思えるのですけれど。
 うーん……。
 ラストシーン、クリスが最近はやりの「ヤンデレ」化したのではないかとビクビクしています(T△T)。
 立て続けに心を不安定にさせる出来事があったにもかかわらず、伯爵家からの依頼を微笑んでお受けするって……ねぇ?
 闇のドレス、作っちゃったりしないよ……ねぇ?


 そんなシャーロックとクリスのカップルに比べて、パメラとイアン先生のカップルは微笑ましかったー。
 こちらもまぁ、イアン先生が頼りなさ過ぎるところはあるのですけれど、パメラ自身がこの恋……のようなものをきちんと理路整然っぽく考えているところで安心できるのですよー。
 もっとも、いまだ彼女自身の中でも気持ちを整理できていないあたり、今後は……という気がしたりして(苦笑)。
 パメラにしても、自分の恋よりもクリスのことのほうが重要であったりするでしょうしねー。


 アディルに一本とられてしまったシャーロックは、彼女の網から抜け出せるのでしょうか。
 そしてクリスの心はいかに!?
 目が離せないなぁ、このシリーズ。
 

(ラノベ指数 20/63)
14
 
『白の火焔 ─恋語り─』 青目京子 著

 読み始めて既視感をおぼえたのですけれど、『緋風の蝶』と同じ事件を別視点から描いた作品なのですね。
 こーゆー試み、珍しかったりする?
 視点を変えるのはたまにあるけれど、時間軸までもまったく同一とするのは。

 でも、こーなると視点の主である主人公に対しての好き嫌いがハッキリしてしまうような。
 少なくともわたしは今作の主人公である火焔よりは前作の主人公のほうが好みかなー。
 なんちうか、未来を切り開くだけの力がありながら、いろいろな理由をつけて諦めているところが嫌い。
 身につけた力は自分らしく生きるためでは無かったのかと。
 単に「この家に生まれたから」という程度で剣術を身につけたのだとしたら、それはもう自分の運命についてどうこう言う資格は無いなぁ……とか。

 結局はこれも覚悟の問題ではなかったかと。
 家とか一族とか、そういったものに重きを置く生き方ももちろんあると思います。
 だけど、それを理由にほかのなにかを諦めるというのは潔くない、と。

 うん、火焔もそーゆー覚悟って「知って」はいると思うんですよ。
 でも、だからこそ余計に考え過ぎちゃっているのかな?
 頭の良い子らしさっていうか。
 そんな賢さが、ラスト、倖せとは少し軸のずれた、ほろ苦い結びにつながっているのは好感。
 つまりはキャラ造型を苦手とはするものの、物語展開は嫌いじゃないってことなんでしょーねー(^_^;)。
 

(ラノベ指数 17/63)
14
 
『警極魔道課 チルビィ先生の迷子なひび』 横山忠 著

 借り物の言葉で自己主張をしているように感じて、とても気持ち悪かったり。
 物を語るという創造的作業にありながら、けっしてイチから世界を築き上げていくようなことはせず、事前に用意されている決まり事の上でオリジナリティだと誇示しているかのよう。
 それはまるで出来合いの料理に調味料を一滴加え「自分の味!」と宣言するようなもの。

 たとえば「1時間」という言葉があります。
 わたしたちがこの言葉を日常的に用いているのは、時間という量的度合いにおいて文化的に共通認識が図られているからです。
 しかしこれが現代社会以外の世界で用いられると、いったいどういう意味が表されるのでしょうか。
 1時間という単位を用いるのであれば、1日という長さを24分割したうちのひとつの長さであって、さらには60進法などの数的文化が内包されていると考える(べき)なのです。

 では、そうした背景がこの作品にはあったのでしょうか?
 わたしは無かったと思わざるをえません。
 そこが異世界であろうと別次元であろうと、1時間は1時間。
 それは不変という考え。
 ……いえ、不変という考えすら無かったように思います。
 あまりにも筆者にとって当たり前のことすぎて、そうした考えには至らなかったような。

 キャラクターの名前の付け方にしてもそう。
 日本人のような名前、欧米人のような名前、そして中華系の人のような名前。
 こうした種々の名付けの実体が示されながら、どうしてこのような雑多な世界となっているのか、各人が帰属する社会はどのようなものであるのか、そうした理がまったく明示されないままにこの世界はあるのです。

 物語が繰り広げられる世界の文化や文明について意識することもなく、ただイベント性のみを追求した有り様。
 わたしはその軽薄さを許せそうにありません。


 「DVDレコーダー」なんて言葉が登場したら、これは現代物かあるいはそれに近い世界背景をもった作品なのだと思ってしまうのでは?
 にもかかわらず、いっさいの説明無しに異世界モノを繰り広げていくのは、読者に対する詐欺行為ではないかとすらわたしは思ってしまう次第。


 設定厨だと笑ってもらっても結構。
 でもね、世界を創造するっていうのは、そうした根底にあるべき認識の部分から考えられていくものだと思うのです。
 そして見えない部分でも丁寧に築き上げられた世界に生きるキャラクターからは命の息吹を感じることがありますし、また、物語そのものに対しても統一感やリアリティといったものが生み出されるのではないでしょうか。
 そこを蔑ろにしては、書き割りを前に演じるパフォーマンスの域を脱しないように思います。


 筆者は新人賞の佳作を受賞できるほどの文筆家なのでしょう。
 しかしけっして言霊を操れる人では無いと、わたしはそう感じます。
 

(ラノベ指数 8/63)
13
 
『夏休み』 中村航 著

 にははは。
 甘くても後味スッキリ系なラブストーリーは大好物でっす!(≧▽≦)

 「十日ほど留守にします。必ず戻ります」
 そんな書き置きを残して家出をした吉田くん。
 彼のひととなりを思えばこの言葉は真実なのでしょうけれど、そうした決断を誰ひとり相談することなく実行してしまったことに愛を疑ってしまうわけで。
 たぶん愛してくれてはいるのだろうけれど、どれほど愛してくれているのか不安になってしまう気持ちっていうか。

 そーゆー「相手を不安にさせることに気付かない」タイプの人って困るっちうか。
 そりゃひとりで生きている、生きていく覚悟があるなら良いのですけれど、もうこの時点での吉田くんは違うワケで。

 で、そういう吉田くんに対して自らも家出をすることで反撃を試みる奥様方がたのもしかったり微笑ましかったり。
 反撃しつつ、その実、迎えに来てくれることを願っているのですから、可愛らしいったらありゃしませんよ(笑)。

 まぁでもしかし、そうした可愛らしさがあったとしても、事件にはひとつの答えを求めなければ。
 そうしてハッキリさせておかないと、いつか愛がおかしくなってしまうワケで。
 そんな決着のつけかた、奇妙だけれど合理的で深く納得できるっちうか。
 なんちうか、こう、見事に腑に落ちるってカンジで。

 短くも長い夏休み。
 終わらせるのはやはり少し寂しくもありましたけれど、でも、それまでの不安定だった気持ちからは少しだけ前を向いて明確になったような。
 まだ若いとはいえ結婚もしている良い年齢の大人が主人公ですけれど、人間っていくつになっても成長できるんだなぁ……と思ったりして。


 そんな物語とは別にして、主人公の奥さんであるユキさんが素敵。
 男気あって、サッパリした性格。
 うーむ……惚れるわ(≧▽≦)。
 

(ラノベ指数 19/63)
12
 
『鉄球姫エミリー』 八薙玉造 著

 鉄球姫が襲いかかる暗殺者を屠り、修道院の院長になるお話。
 ……あれ?
 なんだか変ですね。
 でも実際にこれだけのお話ですし、読み終えた直後から違和感がぬぐえないのです。

 うん。
 「修道院の院長になる」は別にエミリーの願いでも目的でもなかったわけですから、物語の骨子から外れているかも。
 とすれば「鉄球姫が襲いかかる暗殺者を屠り生き残るお話」だけになってしまう……。


 思うのですけれど、エミリーの目的とか侍女や従者たちの願いとか、そーゆー命題がこの物語って明らかにされていないと思うのですよ。
 ああ、違うか。
 侍女や従者の願いは明らかなんです。
 それは辺境の地で隠遁生活をする姫さまに昔と同じようにもういちど笑顔を浮かべて欲しいって。
 その願いがあるから侍女や従者たちは身体を張って暗殺者から王女を守ろうとするわけで。

 それなのにラストカットは侍女であるセリーナの笑顔。
 結びの一文は「それだけで、彼女(セリーナ)は満足だった」。
 この物語が「誰の」「なんのための」お話なのか、見失っているっちうか定まっていないっちうか、そんな気がします。


 暗殺者は仕事として襲いかかってくるというだけで、エミリーとは個人的になにがあるわけでもなし。
 敵でもライバルでもなく、あくまで命を奪いに来るだけの者。
 そこで暗殺者には暗殺者の理があると、それこそ主人公サイドのエミリーと同じくらいの重みで描いてはいますけれど、その事実が双方のこととしてクロッシングするわけでもなし。
 んー……。
 個々の事由がつながらないせいで、クライマックスにカタルシスを得られないのかも。

 対比しているようでいて、その実、彼我の立場に変わりはないんですよねぇ。
 別の何者かによってこの世での存在理由を与えられているという点で。


 この作品中でエミリーの敵という存在があるのなら、それは暗殺者ではなくその暗殺者を仕向けたノーフォーク公のはず。
 しかしながらその彼は今回の件でなんの傷を負うこともなく恐らくは都でのうのうと暮らしているなかで、エミリーはたくさんの親しい人を失い自らも傷つきながらも生き長らえる道をつかむわけです。

 辺境の地に移り住み、異母弟との権力闘争には全く関心を持たないという姿勢を示しながらも、王女という存在だけで生きることを許さない者がいる。
 その事実が物語の重要なファクターにはなっているとは思うのですけれど、だからこそ、なぜにエミリー姫の行く末が修道院なのかと。
 どれだけ暗殺者を返り討ちにしようが、それはノーフォーク公らとの戦いに負けたことを意味するのでは?

 これは、敗北の物語なのでしょうか?
 しかしながら、いわゆる「負け戦の哀愁」があるわけでもないのです。
 ──それが違和感の正体なのかも。


 エミリーが生き残ったことで、たとえ修道院に移ったとしてもシリーズ展開は可能になったのかも。
 だからこそノーフォーク公との戦いになんらかの答えを出さなかったとも考えられますけれども……それは、なぁ(´Д`)。


 下品さと崇高さが合わさったエミリーの言動、そんなエミリーとはじめとするキャラクターたちの掛け合いの明るさと凄惨で血生臭に徹底した戦いの描写。
 そうしたギャップが生む面白さは目を引きますけれど、その下にあるべきはずの物語の根幹が脆弱だったりする……ような。

 見た目の派手さと読み進めやすい筆致。
 ライトノベルらしいといえばまったくその通りなのかもなのですけれど……。
 

(ラノベ指数 6/62)
11
 
『ぐるぐるまわるすべり台』 中村航 著

 黄金比とか白銀比とか、情報を情報として鼻高々に表すのではなくて、そこから物語の雰囲気を膨らませる、物語に溶け込ませるような手法、好きー。
 今作で言えば、そうした数学的情報を示して無機質的な乾いた世界を描きつつ、そうした状況へ愛情をそそぐ温かな視線が織り込まれていると思うのですよ。
 言うなれば、痛みと優しさ、みたいな。

 単に修飾する文でたとえ話に用いるのではなく、世界の有り様を表す具体例。
 そういうマッチングが文章の技巧ってものであるのかなーと。


 で、本編はまぁ中村センセらしい厳しい現実の中で生きる心優しい人たちというワケで。
 優しいから傷つく、だけども優しさをけっして否定はしない。
 その理不尽さに共感してしまうのかなー。


 今作には二編収められていて、表題作とその前日譚にあたる書き下ろしの「月に吠える」。
 表題作は休息の時間から世界を再視している、いってみればまだ止まっている状態のキャラクターであるのに対して、「月に吠える」は動き始めることを決意するまでのお話。
 どちらも穏やかに物語は終わっているのですけれど、やぱし後者のほうが好み。
 未来が見えるっちうか。
 そう思えたくらいなので、この構成、書き下ろしまでを収録させたことは賞賛ですわー。
 1冊としてのまとまりがすごく良く思えるのですよー。


 あ、どうして今作を気に入ったのか、もひとつわかった。
 音楽を扱っているからなんですね(^_^;)。
 「ギタリストってのは職業なんだよ。だけどドラマーってのは属性なんだな」
 こーゆーセリフ、好きー(^-^)。
 

(ラノベ指数 19/62)
10
 
『ソフィアの宝石 -乙女は、降り立つ-』 渡海奈穂 著

 両親の死去と共に自らに貴族の血が流れていると知らされ、思いもかけずに放り込まれた貴族社会の中でも矜恃を守りつつ逞しく生きていくオンナノコのファンタジーロマン。

 うんうん。
 がんばるオンナノコは大好きです(^-^)。
 それも義と礼を心得ている負けず嫌いで前向きなオンナノコとあれば、それはもう応援したくなってしまうものですよーん。

 なにやら「古き力」を受け継いでいるようではありますが、そうした能力云々のお話は今回はさわり程度で。
 貴族社会で得た初めての友人の結婚話から端を発した政治劇に巻き込まれていく騒動?
 もっとも政治のほうも今回だけでは裏事情が明らかにされていないので本筋とは言えませんがー。

 んがしかし、友人のために身の危険を顧みずに飛び込んでいく様は非常に好感。
 ただ闇雲に突進する風でもなく、その目的を果たすためにはなにをすれば良いのか知恵を巡らす・手段手法を筋道立てて描写してくれる筆致も好み。
 こう、偶然や運で強引に展開させない優しさが。


 ともあれ、やぱし魅力は主人公・リディアの造型かなー。
 変に尖ったところが無くて、わかりやすい性格をしているところとかー。
 古から受け継がれてきた癒す力を有していることを知ったとき、もっと早くその力に気付いていれば怪我や病で命を亡くした両親を救えたかもと悔いるような、強気一辺倒ではない弱さも◎。
 責任感あるってことは、こういう二面性を持っているよなー、と。
 個性というのはそれひとつで存在しているのではなく、必ず反対の面を持つっちうか。
 良い面と悪い面。
 それが人間性ってわけで。

 もし一面性しか顕していないようであれば、それは性格っちうより「設定」だよね……というハナシ。
 うん、まぁ、そういう「設定」で楽しませる作品もあるので一概に断じることはできないと思いますけれど、少なくとも今作は違うような印象を。
 記号論よりは物語で……ってこと、かなー。


 とまれ、いろいろと興味深げな伏線を張っていただけてますし、これは次巻以降の展開が楽しみです。
 まだまだリディアのお相手が誰になるのかわたしには絞れなくて、そのあたり、すごく興味が(笑)。
 スレイ……なのかなぁ???
 

(ラノベ指数 25/58)
9
 
『C -シーキューブ-』 水瀬葉月 著

 「謎の黒い箱が宅配便で届けられる」、「夜中に真っ裸でせんべいを食べる美少女」というふたつのアイディアを冒頭で連続して消化するために時間経過が行われるワケですよ。
 それも寄りによって「主人公が眠りに落ちる」という手段で!
 へぁぁぁ〜……。
 主人公とヒロインの出会いに意外性という華を添えたいのは分かりますけれど、なにも複数のアイディアをそこで消化する必要なんて無いのでは?
 あるいは絡め手で、ふたつのアイディアを合体させることもできたのではないかと思うー。
 それをせずに時間経過で解決する──しかも視点のひとつである主人公を眠らせ、物語の進行を強制スットップさせてまで行う──のは、物語の要素を整理できていないか展開を楽しようとしているのか、そのどちらかだとわたしは考えます。


 敵方のひとりについての使い捨て感も好感持てなかったー。
 なぜ彼女があそこで退場させられなければならないのか分からないっちうか。
 ああ、アイテムの能力を開花させるためでしたっけね。
 アイテムの能力を引き出すためだけに配置する。
 そーゆーのって使い捨てって言うのでは?


 でもってクライマックスの立ち回りも興醒め気味。
 誰も知らないスーパーアイテムが存在していて、そのスーパーアイテムのおかげで勝利するってなぁ……。
 今後どれだけ窮地に陥っても、たまたま通りがかった第三者が持っていたスーパーアイテムによって一発逆転が果たされるという可能性を示してしまったわけで。

 別にその世界にある全てのアイテムをリストアップしろとはもちろん言いません。
 でも物語に関係あるそれくらいは明示しておくべきでは?
 最後にきて初見参のスーパーアイテムがゲームをひっくり返すのは、いくらなんでもやりすぎってことで。
 ゲームにはルールという制限が必要だと思うー。
 現状、「死」すら終わりではないのですから。


 白水瀬だか黒水瀬だか知りませんけど、御自身にキャラクター性を持たせる以上に考えることがあるような。
 

(ラノベ指数 27/58)
8
 
『悪魔のミカタ666B スコルピオン・デスロック<上>』 うえお久光 著

 洋平や菜々那を応援したくなるような読み手の人っているのかなぁ……と、ちと考えてしまったりして。
 わたしはどうしてもこのふたりを好きになれないんですよねぇ……。

 洋平の「取引はしない」なんて自分ルールはつまらないプライドだと思ってしまいますし、「日奈なら生き返ることを望まない」なんて理由は傲慢だと思ってしまうので。
 好きな人のために行動するのは尊いことなのかもしれないけれど、洋平のそれは不確定な相手の気持ちを絶対のものとして自分に理由付けしているだけですし。
 あるいは本当に日奈はそう考えるのかもしれないけれど、そんなの箱の中の猫が死んでいるのかわからないってくらいに不確定。
 いま、この瞬間の自分の行動原理としては、本当の理由を一般論で覆い隠しているだけではないかと。
 ──そんなの本気だとは思えないし、ましてやコウをバカにしている気が。

 「日奈のため」ではなく「コウに勝ちたい」という行動原理ならまだマシに聞こえたんだけどなぁ。
 現状、その気持ちって2番手だと洋平は意思表明しちゃっているワケで。


 菜々那はさー、なーんか世の中を知っちゃっている風なのが気に入らなくて。
 それは余裕なのかもしれないし、経験則なのかもしれないけれど。
 ……まぁ、そういう余裕ぶったところを見せている相手だからこそ、これからのコウの逆転劇が面白くなるのかもですがー。


 と、語ってしまったワケですけれど、今回は洋平や菜々那の活躍はあまり無かったのですよねー(笑)。
 いや、も、今回はイハナちゃんのターン!
 白組参加を告げるだけ告げて電話を切ったコウに対して、すぐさま電話をかけ直してマナーモードとみるやメールを送ったりするイハナちゃんが可愛い(笑)。
 さらには開会式での見事な変身。
 初めて披露する体操着姿とか、どんだけ盛り上げるんですか!

 作中でも述べられていますけれど、いまや挑む側はイハナちゃん率いる白組ですからねっ!
 こーゆーチャレンジャーを描くことに関して、やぱしうえおセンセは力量あるなぁ……と感じたりして。
 綱引きのときのコウと関谷くんとの会話に見られるようなテンポの良さっていうんでしょうか(あの会話はおバカすぎ(笑))。
 詳細な描写より、リズムを作って引き込むっちう。

 でもってクライマックスのラストシーン。
 コウに選ばれなかったことも悔しいでしょうけれど、やぱし誰も選ばなかったコウの不甲斐なさこそが悔しかったんだろうなぁ……。
 イハナちゃんが理想とするコウの姿って、あーゆーみっともなさでは無いと思うので。
 うん、ま、別の意味でのみっともなさなら許容すると思うんですけれど。
 そもそもコウって「かっこよさ」という点ではあまりポイント高くないですし(^_^;)。
 加えてイハナちゃんって母性が強そうなので、好きな相手がバカやっても「仕方ないですね」って許してあげそうで(でもお仕置きはキツイ)。


 そんなラストシーンも含めて次巻への引きはバッチリ仕込んできた今巻。
 続きが気になりますっ!(>▽<)
 

(ラノベ指数 23/58)
7
 
『扉の外V』 土橋真二郎 著

 オェェェェェェッ……。
 気持ち悪ぅ……。
 欲深い人間の醜さを、よくもまぁ、こうまで冷静に描けるものですわ。
 この描写が生来の観察眼からくるものなのか、あるいは経験からなのかはわかりませんけれど、こと「人間」を類型化することに関して、これが処女作とは思えないくらいの筆致がありました。

 もっとも「萌え」はそうした類型化と相性が良いハズなのですけれど、今作においては全くそうした甘えが介在する余地が無くて。
 なんちうか、心地よい香りではなく血や汗の臭いが漂うような。
 生臭いっちうか。
 虚構ではなくて、実在するそれとして。

 そんな「生」の感覚が描き出された世界が、ゲームの中の世界であったというのもまた痛烈な皮肉。
 どこまで悲観すればいいのか、この作品は。
 元居たこの世界はいつしか彼ら彼女らのなかで価値を失って、新しく価値を創成しはじめたゲームの世界こそを「生きる場所」として選ぶ。
 たとえ惨めであっても、なにも価値のない世界では生きることはできない、と。
 ──その価値は自分以外の誰かが決めるものだとしても。
 ──自分では何一つ価値を決めることが出来ないとしても。


 弱者となったオンナノコたちを弄ぶ男子生徒たちには、ホンッと吐き気がしたわ。
 これまでのシリーズ二作でもそれに近い陵辱的シチュエーションが無かったわけでは無いですけれども、ギリギリのところで線が引かれていたと思うのですよ。
 それが今作では堕ちるトコまで堕ちていて。
 これは単に作中で進行するゲームの種類によって影響されたモノなのかもしれませんけれど、あるいは運命付けられたモノなのかもと思ってしまったり。
 いわく──負けた、あるいは負ける人間は、弱いものだと。

 これまでの二作は集団として生きることを選んで、その結果、多少の違いはあっても勝利をつかむことができたわけで(それが最終的なモノではなくても)。
 でも二組はまとまることをせず、ただ欲望に身を任せて生きたから、どこまでも堕ちたのだと。
 「二組」なんて括りで表しても、その実、個が同時に存在しているだけであったということを示していたのではないかなー。

 このシリーズって、そうした社会性についての考察を顕していたと思うのは──ちとうがちすぎ、かなぁ?


 んがしかし。
 そうした題材が最後で物語の像を結んでくれたら良かったのですけれど、惜しいかな、最後は駆け足であったり「作品としての世界」を題材に沿う形で描けたとは思えなかったり。
 物語としての示し方が、いささか観念的で抽象的すぎる──というのはまだ良い言い方で、物語としては欠陥品であったというのが実際かなぁ。
 これは構造的な問題だと思うので誰か、例えば担当さんなどが意見を述べて修正できる点だとは思うのですけれど、電撃はそういうことをしそうもないかなぁ。
 自由に書かせるだけ書かせて、枠にはめないっちうか。

 とまれ、処女作がシリーズ化して3巻まで達したというのは電撃の新人としてはひとまず及第ですし、人物表現以外での物語としての楽しみを付加していくのは今後に期待ってことでー。
 わたしは電撃の新人さんのなかでというだけでなく、最近新しく手にした作家さんのなかでも、かーなーりっ、好きになりましたよ〜ん!
 

(ラノベ指数  8/58)
6
 
『神様の悪魔か少年』 中村九郎 著

 やってくれましたよ、中村センセは!
 独特の言語センスはそのままに、んがしかし描かれる世界はこれまでになく洗練とされて決して独り善がりではない読み手を意識された筆致に。
 いやはや、大きく化けた──そんな印象が。
 成長?
 進化?
 よくわかりませんけれど今作の筆致と比べれば、既作はまだ子どものストレートすぎる感情のままに書かれたのだなぁ……と思ってしまいます。


 母を殺したという重い意識に悩まされながら時効が来るその日まで、目立たず世間から注視されないように生きていこうと努めていた少年、彰人。
 しかし恵というひとりの少女と出会ったことから運命の歯車はおかしな動きを見せ始めて。
 母殺しを隠すため、世間の目を別の事件へ向けさせようとする彰人。
 彰人と恵の謀略は友人をそそのかすといった小さなものから、いつしか地方都市の政治に絡んだ暗部へとつながっていって──。


 あらすじ、こんなカンジかなぁ。
 うん。
 とにかく彰人の個人的事情から始まった物語が、やがて大きなうねりとなって地方の一都市を巻き込んでいく、その広がり方に圧倒されてしまうっちうか。
 閉塞感が漂う地方都市で窒息しそうな息苦しさを感じながら彰人や恵は生きてきているのだけれど、そうした苦しさや痛みがホント伝わってくるのですよ。
 必死にね、生きていくからこそ、この物語は大きくなっていったワケで。

 ……ああ、痛みや苦しみが根底にあるのは、いつもの中村節ですね(苦笑)。


 でも、今回の中村節はひと味もふた味も違うっちうか。
 ヒロインの恵との会話なんて、そらもう軽妙でユニークで、そして詩的ですらあって。

「青空禁止条例」
「はぁ?」
「だから青空禁止、空色廃止。青い鳥が見つからないの、空が青い色だからなので。青い色はもうナシナシ。うざったい、青春。古臭い、空の色。緑のくせに、青信号」
「どうやって禁止するんだかな」
「それはおいおい考えるけど、打倒空色よ」
「空色に復讐するの?」
「あたしの青い鳥探しの、邪魔だからね」

 こんなに綺麗な言葉が中村センセから紡がれるなんて思いもしなかったデス。
 どこか寂しい雰囲気を漂わせながらも、とても力強い言葉で。


 「萌え」って、ある側面では二次元から三次元へのコンバージョンなのではないかなーとか、ふと思ったりして。
 感情だけで収まらずに、ほかの感覚でも体験できるように。
 現在のラノベ業界には、そうした次元を変化できる因子が組み込まれていることが望まれているような。

 でも、中村センセの作品はそうではない。
 そういう「萌え」という因子からは、すごく遠く離れたところで存在していて。
 だから三次元へ変異することはできないけれど、だけれども──故に?二次元の文字情報として洗練していっているのではないかなぁ……と思ったり。

 「萌え」は別次元で再構成されて評価を受け、そしてまた人へと回帰してくるものだけれど、中村センセの言葉はただただ純粋に人の感情へと送り込まれていくのみ。
 それは希釈することなく与えられる薬みたいなもので(だから耐性の無い人には毒になる次第)。


 ともあれ、地方都市の暗部に迫るミステリーとしても秀逸であるなかで、しかし彰人と恵の狂おしいラブストーリーとしての部分こそが今作の魅力であるとわたしは宣言したく!
 息も出来ないくらいに純愛ですよ。


 映画を見るときはスタッフロールが流れ終わって場内が明るくなるまで席を立つなとは良く申したりしますがー。
 同じように今作は、どんなに中村節が苦手であっても、エピローグまで目を離すなと申し上げる次第。
 本を読む姿勢としては、しごく当たり前ですけれど。
 それでも和らいだとはいえ、やはり筆致には「素人にはお勧めできない」香りがあるわけで。
 んがしかし、エピローグまで辿り着かずして今作の魅力を語ることは出来ないデスヨ。


 ところで。
 中村センセは今作の出版社である富士見書房のほか集英社スーパーダッシュ文庫からも上梓されているのですけれど。
 作品を比べてみると、わたしは富士見書房から刊行されている作品のほうが好みでしょうか。
 『黒白キューピッド』より『ロクメンダイス』でしたし、『 アリフレロ キス・神話・Good by』より今作です。
 あ、ガガガ文庫でも出されているんでしたっけ。
 んーと……集英社より好みですけれど、富士見よりは下、かなぁ。

 先述の「萌え」論を受けての話になるのですけれど、そうした「萌え」因子が無いために、ライトノベルとして上梓されながらもシリーズ化はおそらく出来ないのではないかぁ……と。
 でもそれは悪いことではないと思うのです。
 今作までで中村センセは5つの物語をきちんと終わらせることができています。
 物語を終着させる。
 それは作家としてなにより大切な資質だとわたしは思っています。
 どれだけロングヒットのシリーズを生み出そうが、終わっていない物語の評価は結局のトコロ判定不能。
 あるいはヒットシリーズひとつで燃え尽きてしまったかのようにラノベのシーンから消えてしまうセンセも少なくない中で、中村センセはこれだけの作品を上梓ししているワケで。

 んー……。
 それって結局、中村センセはラノベ向きではないってことなのかなぁ(^_^;)。
 そうかもねー(^_^;)。
 とにかくハッキリしたことは、ご活躍される舞台がどこになろうとも、わたしは中村センセを応援していきますよ!ってことで。
 次回作を楽しみに待ってます!(≧▽≦)
 



(ラノベ指数 19/58)
5
 
『リトルガーデンへようこそ』 片山奈保子 著

 純朴で、克己心があって自助できるマジメなオンナノコが、古い伝統に彩られたムラの中で強く生きていくお話。
 でもって同じように古い伝統に縛られはしているんだけれどオトコだってことで彼女よりは多少の自由があるオトコノコが彼女の前にフラリ現れて、一目惚れしちゃったのにそうだと気付かずに彼女のためにいろいろ立ち回ろうとするお話。

 ……アハハハハハーッ!
 すごくコバルト文庫っぽいお話だなー!
 鈍感……っていうより、恋に奥手なふたりの物語?
 そういう感情があるのは知識として知っていても、自分には縁遠いモノだと「決めつけている」って。
 そんな考えの持ち主だからこそ恋心は突然訪れて、だからこそ物語は始まるのですよねー。
 ボーイ・ミーツ・ガールでガール・ミーツ・ボーイで。


 本当の第一王子であることが義母である王妃にバレて暗殺者を送り込まれるのですけれど、その暗殺者を逆にこちらへ引き込んでしまう人徳ってのも、ほのぼのとして良かったー。
 マジメに真っ直ぐに生きていれば、剣や拳を鍛えていなくても、それだけで武器になるって示してくれて。

 なんちうのかなー。
 頭がよい人とか要領がよい人とか、そういう生き方「だけ」が得をするような世界はイヤなんです。
 そういう生き方「も」、もちろん評価されてしかるべきとは思いますけれど。
 ただ不器用でもマジメに生きていく人も倖せをつかめるような世界のほうがわたしは好きです。
 そんなことをカンジさせるような今作の雰囲気なのです。

 それっていつもの片山センセの作品なのかもですけれどー(^-^)。


 オンナノコには「花の乙女」となる運命が、オトコノコには魔神の呪いが。
 それぞれに試練が与えられている設定もまた良し!
 その試練を乗り越えて、ふたりがこの世界で倖せをつかむ姿を見てみたいデス。
 あー、楽しみ楽しみ〜♪
 

(ラノベ指数 15/58)
4
 
『花咲く丘の小さな貴婦人 林檎と花火とカエルの紳士』 谷瑞恵 著

 ぬああああーっ!
 微速前進な青春物語ぃぃぃぃっ!!!

 責任の重さにゆとりを失っている生真面目すぎるヒロインに、手の掛かる妹みたいに思っていたオンナノコをひとりの異性と意識してしまう感覚を持て余し気味なオトコノコとぉっ!
 でもって「オトコノコ/オンナノコはなに考えているんだかわからない!」って呆れたり起こったりする彼女や彼ら。
 いっや〜、青春してますな〜!(≧▽≦)

 物語としてとくに目立つガジェットがあるわけではないですけれど、ひとつの閉じた世界(地域)の中に男女が共に顔を合わせて生活していれば衝突も起こるし意識もするし。
 そういう思春期にありがちな感情の変遷が気恥ずかしくも伝わってきたりして。

 前巻よりキャラの主要キャラの立ち位置が定まっていたことで、よりそういった感情部分を描き易くなっていたり?
 それでいて新入生も入ってきたりしているので、物語も多角的になってきたっちうカンジ〜。
 んでも、わたし的には新入生(新キャラ)登場は、もう少しあとでも良かったかなぁ……とか思ったりして。
 まだまだ一期生?のみでお話を構築して欲しかった寂しさがー。


 しっかしエリカに対するジェラルドの感情の持て余し気味っぷりは凄まじいっちうか。
 小学生か、キミわ!(笑)
 まぁ、エリカのほうがかの国では規格外なオンナノコなわけですし、扱いに手を焼いているのも仕方がないですか。
 フツーに生活していれば、フツーに上流階級同士の家柄で決められるような婚約を果たして家庭を築いていそうですし。
 でもってジェラルドなら、そういう一般的ルール内での振る舞い方ならそつなくこなしそうに見えますしー。
 一度も会ったことのオンナノコをいきなり婚約者だと決められても、それなりに大事にしてくれそうっちうか。
 あの時代の平均的男性以上には愛情を育んでくれそうなカンジっちうか。

 たとえ成り行き上でもロジャーに宣戦布告したわけですし(一方的でしたけれど)、これからどうエリカと接してくるのかなー。
 楽しみ〜(ニヤニヤ)。
 


(ラノベ指数 21/57)
3
 
『バード・ハート・ビート 夜姫天炎!』 伊東京一 著

 ブラヴォー!(≧▽≦)
 前作と同じく、ボーイ・ミーツ・ガールの王道をいくお話で心底満足!
 オトコノコは最後まで諦めないし、オンナノコはそんなオトコノコの力をいつだって信じてる。
 前作から二年の時が流れても、物語の根幹は全く揺らいでないなぁ。
 さすがに時間の流れに不安になって前作を引っ張り出して復習をしてから読み始めたのですけれど、だからこそ余計に印象深かったですし、またホッとできもしたのですよー。


 先の事件から数ヶ月の時を経て、国定競鳥騎手見習いと国王の婚約者と、互いの立場が離れてしまったところから物語は始まり──。
 だけれどもそのあいだ、ふたりはあの同じ時を過ごした数ヶ月前を決して忘れはせず、互いの存在をこころの奥で密かに求め合っていて。
 だからこそ、王都に起こった事件がきっかけとはいえ、その再会に胸を奮わせたりしてしまうワケで。
 んもーっ! んもーっ!!!!(≧▽≦)

 再会して、そして再び事件を解決に向かう中で、ふたりはようやく幼い恋心に気が付くのだけれどっ!
 でもやっぱり自分たちの立場ってものがあるわけで。
 んがしかし!
 身分がどうの立場がどうの、好きでいるという感情にはそんなこと全く関係無いワケで!
 キミ想う気持ちに、なんの問題があろうか。
 ボーイ・ミーツ・ガールであり、かつ騎士と姫の物語でもあるわけで。

 でもって、ラストではこの問題にも真っ正面から向き合う物語的解答を示してくれるんだもんなぁ〜。
 嬉しくなっちゃったデスヨ!


 そんなテオとリーンの関係に進展を見せただけでなく、幼なじみの三人という関係にも変化を見せたり、能ある鷹はなんとやらの王様にもLOVEを用意したり、なんという濃密な物語であったことか!

 あ、さらに忘れてはいけないのが、テオの相棒、ミルヴィル。
 今回もまたまた彼?はやってくれました!
 テオを信じて、彼を勝たせてやれなかった自分を恥じ粉骨砕身、精進する様は生半可なバディ物では見られないくらいに熱い絆ですわ〜。

 だからもう少しだけ、そこで待っていてくれ。
 自分が行くその時まで、絶対に無事でいてくれ。
 この翼が砕けてでも、必ず助けに行ってやるから!

 くっはー!
 なんて熱い魂をもっているのかしら、この鳥さんは!
 この物語、テオとリーンだけじゃなくて、ミルヴィルも含めて3人の物語ですよね〜(^-^)。


 そのほか脇を固めるキャストも魅力を放つようになったというのに──この巻が「完結編」だそうで。
 あーあーあー……。

 いやね、売上悪かったから打ち切りになるのは仕方のないことだと思います。
 でも、前巻が終わったところで残されていた謎や伏線が取り立ててあったわけでもなし、さらにはこの巻と前巻との展開のあいだに強い物語的つながりを見せられていたわけでもないのに、さもシリーズとしての結びつきがそこに存在していて、ここで満を持してシリーズのクライマックスを迎えたのだと言わんばかりの「完結編!」との売り文句には閉口してしまうのですよ。
 どんなセンスですか、それは。
 わずか2冊しか刊行せず、とりたててシリーズとして売り出してもいなかったクセに「完結編」ですって。
 怒りを通り越して呆れてしまったわ。

 もしかして編集部に、過去に打ちきりになった作品の続刊を望む迷惑な問い合わせがあったりしたんでしょうか?
 「あの作品って次は無いんですか?」……とか。
 だからハッキリと「この作品は終わりました!」と明記するようになったとか……。

 なんかさー、例えそういう事態が起こっていたにせよ、これは言わなくても良い類のことだと思うんですけれどっ。
 「打ち切りになったとは思うんだけど、あの作品の次って出て欲しいなぁ……」と夢想することすら奪うんですか、編集部は。
 商品としての終わりと、作品としての終わりは違うでしょうに!!!!(`Д´)

 編集部に続ける意志が無いのはわかりましたよ。
 でもね、でもね!
 中途半端なところで「完結編」なんて銘打つのは、その作品を「殺す」ことと同義なんじゃありませんかねぇっ!?
 なに?
 いつかあの人はきっと帰ってきてくれます!って信じて待ち続けることが、そんなにも許されないことなワケ!?
 ふざけないで!


 ハァハァハァ……。
 いつになく熱く語ってしまいましたコトヨ。
 わたしが知る限り、シリーズとしての体も成していないのにわざわざご丁寧に「完結編」と銘打った作品はこれで二作目ですけれど(富士ミスの『トキオカシ』と)。
 ちーきぃしょぉー。
 だからってわけではありませんけれど、わたしは伊東センセの次作を待ってます。
 ちゃんとした「完結」を迎えられる日がくるまで応援するッス!!!(≧△≦)
 


(ラノベ指数 16/57)
2
 
『風の王国 初冬の宴』 毛利志生子 著

 わたしの中で2004年ベストカップルに輝く翠蘭とリジム。
 あの頃のふたりが戻ってきたーっ!(≧▽≦)
 いや、もう、最近は血なまぐさい事件事件の連続で、しかも公務と重なったりしてなかなかふたりで過ごす時間がなかったですもんねぇ。
 ……やぱし、子はかすがいデスカァ!?(笑)

 今回も公務の中での宴ではあるのですけれど、そこはそれ。
 ふたり、同じ場所にいるという安心感が貴重なのであって。
 呼びかければ振り向いてくれて、手を伸ばせば触れることの出来る距離に居るということが。

 王妃としての立場に翠蘭が慣れたということもあるのでしょうけれど、宴を切り盛りする翠蘭の姿には余裕のようなモノを感じたりして。
 やぱし、リジムがそばにいるってことが良い方向へ影響しているのかなー(^-^)。


 良い方向といえば、朱瓔とサンボータのふたりも。
 まだ婚約って段階なのに、はや何年も連れ添ったふたりのような雰囲気を醸し出していますよ?
 あーもーっ!
 そんな姿を見せられると、もともとこのふたりって、相性が良かったんだろうなぁ……と思わずには(笑)。


 で、そんなラブラブカップルの様を眺めて楽しんではいても、やはり物語ですからそれだけで終わるはずもなく。
 翠蘭がリジムの子を成したとあれば、浮かび上がってくるのが後継者問題。
 ラセルは聡い子でありますから大切な人を傷つけるようなことは考えないと思うのですけれど、周りの大人たちが、なぁ……。
 生まれてくる翠蘭の子の乳母を探す件についても、次代の権勢を狙う件と無関係ではないと示されてましたし。
 リジムと翠蘭が清廉なだけに、周囲の無名な強欲な者たちの意地汚さが目立つわー。


 現実も同じで、本当に汚い人間って、無名の大多数な人たちなんだろうなぁ……と思ったりして。
 大多数だから自分が汚いという意識が働かなくなってしまうっちうか。
 自分の言動を第三者のポジションから冷静に見つめることの大切さって、あるよなぁ……と。


 それはさておき、ですよ?
 この巻でお話がまとまらないなら、上下巻なり前後編なり明記しておいてーっ!と思うのはわたしだけですか??
 そう、終わってないんですよ。
 んもーっ! んもーっ!(><)
 事件の大部分は次巻以降で顕されるのだとしたら、そりゃあ今巻ではLOVEカップルたちの惚気っぷりをサービスサービスするわけだわー。

 ちうわけで、多分ドキドキハラハラする展開になるであろう次巻を期待して待ってます。
 

(ラノベ指数 18/57)

『なつき☆フルスイング2』 樹戸英斗 著

 夢魔が人に取り憑いてどうの……とかいう作品のベースが揺らいでいるように思うのですけれど?
 もちろん電撃文庫にはハートウォーミング系の作品の系譜のあるのですけれど、そちらへシフトするならするでハッキリと新作を構築したほうが良いと思うー。
 なにも無理に方針転換をするようなことをしないでも。

 ……あー、うーん。
 銀賞受賞作ですし、そこについてきた読者もいるのだから続編を作ったほうがそこそこ安定的な売上が見込めるってのはわかるのですけれどー。
 それで作品に無理が生じてしまうのでは本末転倒なのでは?


 短編連作という形を取って新キャラ増員したり、この巻だけでは形にならない次の展開へ向けての仕込みを色々と模索したり。
 少なくともシリーズ物の2巻目でやることではないと思います。
 それは「新たなスタート」という位置付けなのかもしれないけれど、そこまでシリーズとしての形を既に成しているとは思えないのです。
 ことに主要キャラの存在感の薄さったら、見ていていたたまれないわ。
 

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