○● 読書感想記 ●○
2007年 【3】

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(ラノベ指数 12/44)
20
 
『翼は碧空を翔けて3』 三浦真奈美 著

 ヤラレター。
 戦争がどうのとか、身分違いの恋とか、そんなことよりただ「飛行船に乗って、好きなオンナノコのもとへ駆けつける!」ってシチュを描きたかっただけなんじゃないかと。
 でもってそれがまた絵になっちゃうもんですから、もー(笑)。

 そんなふうに勘ぐってしまうほどに、色々な要素を置き去りにしたままのフィナーレってカンジが。
 厭戦派の学生運動とか、講和を締結したあとの政治混乱とか、技術進歩と兵器開発の関係とか、身分制度と市民社会とか……etc、etc。
 そういうこと、しっかりと描いてくれたら面白そうだったのになぁ……と思ってしまったり。
 全三巻という構成、詰め込んだ要素と比して短すぎたんじゃないかなぁ。

 大団円……っていうのは、こと恋愛方面に限ってという気が。
 それも力業でふたりを結ばせた──ってカンジがするんですよねぇ。
 先述のシチュエーションはどこか芝居じみたトコロを受けますし、そもそもふたりが意識し合う過程が大きく省かれているような。
 突然その想いに気付いたという印象があるのですよー。
 結局のトコロ、こちらに関しても尺の短さでスピード上げた進行をせざるを得なかったのかなぁ……と思ったりして。

 ……ああ、でも三浦センセの恋愛模様って、意外とそういう急激展開だったのかもと、ある意味納得もできたり(苦笑)。
 あまり情緒細かく描かれないっちうか。
 でもって、これはこれで良かったのかもって気にさせられたら、それで十分かもですね(^_^;)。


 それにしても、好きな人の匂いを嗅ぐって行為に激しく共感してしまったわ。
 匂いフェチなもので。
 王女様のすることかどうかはさておき(笑)。
 


(ラノベ指数 2/44)
19
 
『螺鈿迷宮』 海堂尊 著

 海堂センセは推理ミステリ以上のことを描きたいのでは?
 売り出し文句としてはそれを「医療ミステリ」とか、そーゆーふうに出版サイドは投げたいのかもしれないですけれど、もうそんなジャンルに収まっていない雰囲気が漂ってきます。

 社会派ミステリの分野なんでしょうけれど、なにがミステリなのかって、それは現実の有り様にほかならなくて。
 作品単体として特筆すべきガジェットというより、現行制度の悲しい矛盾を明らかにしているだけのような。
 それは「推理ミステリ」っていうのかなー、と。

 で、そうした遠大な題材を述べたいがために、「バチスタ・スキャンダル」から始まったシリーズがあるのかなー……なんて思ったりして。
 今作で桜宮という街を舞台にした物語の方向性が大きく舵切られて、その先にあるもの、向かうものが見えてきたカンジ。
 その深さ、巨大さがかなり衝撃的で。
 だものでジャンルという枠組みを超えようとしているのではないかという感覚を受けてしまったのデスヨ。


 もちろん作品の有り様と同じく、キャラクターたちの個性にも深みが。
 まさかあの「ロジック・モンスター」白鳥が、かように窮地に陥るとは……。
 んがしかし、勝利において人は伸びず、敗北において人は成長する……といった具合で、今回の件が彼をパワーアップさせることは確かなのだなぁと。

 海堂センセは白鳥を「完全無欠のスーパーマン」には思い描いていなかったことも、ある意味衝撃で。
 今作での彼のみっともなさは、かなりの英断だったと思うのです。
 彼もまた人なり、と。

 加えて、これまで名前だけ登場していた彼の部下「氷姫」姫宮も登場。
 いよいよ役者がそろってきた感があります。
 今作の主人公、天馬くんも、医療の厳しさに目覚めたみたいですし、もしかしたら再登場あるかもですしねーっ。

「最後って、どういうこと? これからどうするつもりなの?」
 僕は答える。
「大学に戻る。医学にどっぷり浸かって、とことん勝負してみようと思う」
 それから、一つ深呼吸。引き返す道を塞ぐように、宣言する。
「もう、逃げるのはやめた」

 いや、まさか、海堂センセの作品で、こうも熱い気持ちを聞かされるとは思いもしませんでしたヨ!
 がんばれ、ラッキー・ペガサス!(≧▽≦)


 次の『ジェネラル・ルージュの凱旋』は『ナイチンゲール』とかなりリンクした冒頭だったので楽しみです!
 読むのに時間掛かるのは困ったものですけれど、それだけ充実した内容であると!
 だったら読むしか!
 


(ラノベ指数 16/42)
18
 
『リリアとトレイズY 私の王子様<下>』 時雨沢恵一 著

 へぁ〜。
 これで落着だとするなら悲しすぎます。
 どうして『アリソン』で物語を終えなかったのだろうかと。

 結局のところ、最後までこの作品が上梓されるべき理由が、わたしにはわからなかったなぁ……。
 『アリソン』の時代を神代の時代として、もっと地に足付いた「人の世の時代」みたいな位置かと思ったのですけれど、そうでもなく。
 『アリソン』の頃を引きずりたいならそれでも構わないのですけれど、だとすれば今回のお話の軸はアックスに焦点を当てるべきでしょう?
 それなのに事件の首謀者はポッと出の泡沫キャラっていうのは、あまりにもヒドイ気が。

 神代の時代の遺産を使い続けていくだけの滅び行く人類……みたいな感覚。
 もう、終焉に向かうしかないような。


 で、それじゃあやっぱり前作は土台でしかなくて、このお話は「リリアとトレイズ」なんじゃないの〜?と。
 いや、しかし、そうとも思えなくてー。
 ふたりの間で、このお話の期間でなにが変わったのだろうかと。
 オビのコピーでは「僕はひとつの結論を出した」とあるのですけれど、それって──なに?

 トレイズの正体バレなんて、物語当初から織り込み済みの既定路線なワケで。
 そ・れ・か・ら!が無いなぁ……。

 ……まぁ、ただの「人」として生きるふたりには、そんなエンターテイメントあふれる生活など相応しくないのでしょうから、その生き様がはたから見ていて退屈感を催すことになっても、それはもしかしたら「倖せ」ということなのかもしれませんけれど。


 しかし、なんだかんだ言ってもトレイズは、身体を張って行動できるオトコノコであったので、その点については好感です。
 んでも、その美点がリリアと釣り合いが取れているのかという点については疑問がー。
 むしろリリアに美点らしきところが見当たらないことが不幸なのかも??


 仮にこのシリーズも『アリソン』同様に年一冊ペースだったりしたら、もしかしたらもっと評価を良くできたのかもー。
 とにかく上下巻構成は間違っていたと、わたしは思うのです。


 ところで。
 「ジャガイモ薄切りでお願いします」ってことは、ようやくヴィルはアリソンをトラヴァス夫人のもとへ連れて行く決心ができたということなのでしょうか??
 ──ああ、やっぱり気になるのは『アリソン』のほうだわ(^_^;)。
 

(ラノベ指数 5/37)
17
 
『些末なおもいで』 埜田杳 著

 んー……。
 その不思議な現象に対して、ある程度の説明と実体を求めてしまうのは、読み手として幼いのでしょうか?

 身体の一部に異常が起こり、やがて羽が生えて飛び去ってしまう……という原因不明の「病」について、某かの呼称が無いというのは不自然に思えて。
 「あれ」という呼び方だけで済ますのではなく、もう少し設定を煮詰めてきてほしいなぁ……と感じてしまったり。
 でなければ、そんな超常現象に物語の起因を置くのではなく、もっと地に足付いた現実寄りのお話しにしてしまうとかー。


 一生のうち、ほんの数ヶ月だけ付き合いのあった知人がこの世からいなくなってしまうとき、いったいどのような感情が湧き上がるのか。
 付き合った時間に「親しさ」は必ずしも比例するわけではないことに気付かされ、その数ヶ月が自分にとっての青春だったと思い返す──。
 本当に「些末なおもいで」だったのかもしれないけれど、ココロに強く焼き込まれている。

 ──なんて纏めることはできるのですよ。
 そしてそれ自体は悪くなかったなーと思ったりもするのですけれども……。
 なんちうか、素材が持つ奥深さに対して調理法が淡泊過ぎな印象だったかなー。
 

(ラノベ指数 12/37)
16
 
『放課後あやかし姫 -家出王子がやってきた-』 足塚鰯 著

 視野の狭い自己中心的な不幸自慢にはおなか一杯……と思ってしまったり。
 おかげでツムギの言動にはイラチイラチだったんですけれどもー。
 んでも、そのことを諫めるヒロインがいて、過ちに気付いてクライマックスへと走り出す物語構造は好み好み。
 ツムギの性格設定は、物語のトリガーたり得たなぁ……と。

 ──あ、そっか。
 作品としての主人公は日名子なんだけれども、今作のエピソードにおける主人公はツムギ……なのかな?
 日名子は苦労人として、お話しの運び手であったとー(笑)。

 平均的な良識を持っている以上に、日名子は、切り捨てるべき部分と捨てきれない部分についての優先順位を付けていた点が、ひっじょーに好感でした。

「普通の友達だったらそこまでしないよ」
 苦々しげに呟く茜に、日名子は笑って
「茜や小夜がツムギみたいな状況になったら、同じことをするつもりだよ」
 と言った。

 なんのてらいも無く言ってのけちゃうんだもんなぁ……。
 茜じゃなくても、かいぐりかいぐりと撫で回したいわっ!(笑)


 足塚センセは『蛇と水と梔子の花』シリーズ以来の人妖交流譚ですけれど、やぱしこの雰囲気は好きかなー。
 それほど奥まったお話しが展開されるわけでなく、日常の隣にある世界を想像させてくれるっちうか。
 童話や御伽話のような郷愁感をくすぐられるのデスヨ。
 長く続くシリーズになってくれると嬉しいなっと。


 ところで。
 ひだかなみセンセの挿絵も、ひっじょぉーにわたし好みだったのですけれども。
 あとがきを見ると、足塚センセのもとへは千遊さんのラフ画が送られているそうな。
 んがしかし、本編には千遊さんの挿絵は無くてー。
 どーゆーことよ、これぇ!?
 再登場、求めます!(笑)
 


15
 
ヴィクトリアン・ローズ・テーラー
  恋のドレスとガラスのドールハウス』 青木祐子 著


 闇のドレスのこととか、クリスの心境とか、それなりに深層へと入っていったハズの今巻だと思ったのですけれどー。
 最後にパメラが全部持っていっちゃった感が(笑)。
 イアン先生、可哀想……(^_^;)。


 本編のほうは、シリーズの核となっている「闇のドレス」絡みの展開と、その巻における独立したエピソードの乖離が大きくなってきているような。
 マドクス家のゴタゴタって、結局、当事者である家族間で問題解決しちゃっていますしー。
 エピソードよりキャラクターの顔見せのほうが重要だったのかもしれませんけれど(ユベールの例もありますし)。

 まぁ、しかし。
 シャーリーの不甲斐なさに全ての元凶はあるような気がします、がっ!
 今回もか……ってカンジ!(><)
 

14
 
『光の精煉師ディオン 旅立ちの朝は君と』 村田栞 著

 どうしても『鋼の錬金術師』を思い浮かべてしまふ……(^_^;)。
 ま、その分、新シリーズだというのに入りやすかったのですけれどー。

 主人公ディオンが、わりと理性的な判断をくだして行動していってくれるので、言動に関して違和感なく受け入れられたっていうのも大きいでしょうか。
 素直に読み進められたといいますか。
 んでも決して、物語に都合良く動いていると感じたりはしなかったんですよね。
 この辺り、村田センセの筆力がアップした……のかな?
 これからが楽しみでっす。


 ……にしても一気に「ビーンズ文庫」らしくなりましたなぁ。
 どこを見ても♂×♂カップリングが(笑)。
 『マリみて』がライト百合なら、今作はライトBLではないかとー。

 いや、そういうジャンルなら世の中すでに沢山あったりしますか(苦笑)。
 

13
 
『日曜日のアイスクリームが溶けるまで』 清水マリコ 著

 たくさんのモノを切り捨ててオトナになろうとしたけれど、それは無理だとわかるまでのお話し……なのかなぁ?
 幼年時代の聖域に触れて、自分らしさを取り戻すお話しとも言えますけれど。


 少しだけ幻想的な恋物語……と括ることもできますが、それでも手法が斜めを行きすぎているような気が。
 ラノベで出されてもこの構成には首を傾げてしまうかも。
 ……ああ、だから文芸なのですか。
 ちょっと納得。


 安易な落着を見せないあたりは矜恃を感じて良き哉と。
 そのあたりは清水センセらしいなぁ……とも。
 んでも、だからといって作品として成功しているかという話とは別で。
 終わりとは始まりの一歩だと思うわたしからすれば、このラストはあまりに寂しさが強いので。


 ところで、巻末の著者プロフィール。
 「嘘つきは妹にしておく』でデビュー」とあるのですけれど……あれれ?
 パラダイムのあれとかは?(苦笑)
 ノベライズって作家の仕事のウチにはカウントされないのかなぁ……??
 ……まぁ、伏せておきたいトコロであるというのが真相かもですねぇ(^_^;)。
 

12
 
『塔の町、あたしたちの街』 扇智史 著

 葛藤を、喧嘩というアウトプットで表現するのって希有なんじゃないかなーと思ったり。
 言い合いなんて生やさしいものではなく、剥き出しの感情が言葉となって口から飛び出せば、さらに脊髄反射で拳も繰り出されるっちう。
 んでも欲にまみれた、あるいは力の誇示といった喧嘩の趣きは無く、あくまで我と我のぶつかり合いってカンジがして。
 ゆずれないことがあるから退かないっていう。

 ちょっと賢しい人や、あるいはもう少し大人であったりしたら、そんな喧嘩もしないで穏便にコトを運べたかも……とは思うのですけれど、それは違うのですよね。
 この年頃のオンナノコが、正面切って喧嘩をすることが貴重っていうか。
 正面から喧嘩をしあえる相手がいることが大切っていうか。

 わたしの中では『大運動会』のいっちゃんとあかりの喧嘩に匹敵するくらいに印象的でありましたことよ。
 変な表現ですけれど「名喧嘩」ってカンジ!(^_^;)


 にしても扇センセはオンナノコの物語が好きなんですねぇ……。
 ぶっちゃけ今作って、背景を変えた『アルテミス・スコードロン』ってカンジが……。

 なんちうか扇センセは、もっと1冊の範疇で収まる物語を作られたほうがよろしいのではないかと思ったりして。
 たしかに「背後関係は複雑に絡んでますよ〜」とか「真相はあとで明らかに」とか、後々の展開を期待させるようなポイントは必要かとは思いますけれどー。
 かといって、後回しにする設定の存在が大きすぎたりするのもいかがなものかと。
 どうも扇センセの作品って、そういうところがあるような気がー。

 続刊に引きます……っていう意図があからさまに思えるのですよー。
 もう少し、もう少しだけでも、その辺りに慎みをー(苦笑)。


 というわけで、今回の物語を端的に表しているのではないかなーと思った台詞。
 

「ワタシのためになごちゃんを殺せるか、それともなごちゃんのためにワタシを殺せるか。どっちもできなきゃ、死ぬのはあなた」

 つまりー、オンナノコ同士の命を賭けた三角関係だと思うー(違ッ)。
 やぱしスゴイわ、扇センセ。
 これからも付いていきます!(≧▽≦)
 


11
 
『鋼鉄の白兎騎士団W』 舞阪洸 著

 ガブリエラを中心とした物語かと思っていたのですけれど、ここにきて雛小隊──今巻から遊撃小隊に格上げとなりましたが、彼女たち全員へライトが向けられるように感じてきています。
 それが良いのか悪いのかー。
 全員に活躍の場を与えようとした結果、物語の抑揚を失った感が。
 個人の見せ場が物語に活かされていない印象。

 まぁ、窮地らしい窮地も無いってことで、今巻あたりはガブリエラの言葉を借りるなら「実りある収穫のために、いまは種を蒔く時期」なのかなーって気もします。
 そこで働いてもらうために、個々のキャラを掘り下げているような。
 そういった期待感はあります。


 にしても今巻の表紙、アフレアですか〜。
 ちょっと本編と関係薄い気がしますけれど、他のキャラより認知度は高そうですし仕方が無いのかな?
 というのも、次巻の表紙はジアンだと読んでいるからなんですけれどもっ。
 あとがきで「次巻で解決」と舞阪センセが仰っていて、さらに本編中で王子となにかつながりが浮上しそうな気配もあったのでー。
 LOVEかっ!?
 もしかしてLOVEなのですか!?(笑)

 雛のなかでも色事に縁遠いように見えたジアンに、そーゆー話が持ち上がってくると、それはそれで面白いのですけれども!
 しかもきっと、ミネルヴァ姫とイメージ結びつけられるんですよ。
 うーわー、正反対〜!(≧▽≦)

 次巻、楽しみでッス!
 

10
『ナイチンゲールの沈黙』 海堂尊 著

 んー……。
 前作『バチスタ』より、ミステリとして数段落ちてしまったカンジ……。
 いや、そもそも推理ミステリしてないのかも。
 サスペンスに近い?
 犯人である可能性がある人が極めて限定的であることからも。

 でもサスペンスだとしても、その追いつめ方がどうも淡泊な印象。
 犯人の焦りや緊張が無いっちうか。
 まあ、「焦りや緊張が無い」というそのこと自体には理由があったワケですけれどー。


 あと今回は「歌声が脳を刺激して映像を見せる」って現象が扱われてましたけれどー。
 それがいかに「医学的に認めることができる現象」であったとしても、それを事実として述べただけでは読み手に伝わってこないんではないかなーと思ったりして。
 歌声が映像を見せるっていう表現がされていなかったような気が。


 どちらかと言えば今作は、推理ミステリの分野ではなく、医療現場の描写に比重が置かれた(置かれてしまった)ように感じます。
 両者の融合が前作の魅力でもあっただけに、ちと残念。
 

9
 
『夜は短し 歩けよ乙女』 森見登美彦 著

 テンポの良い舞台を見ているかのよう。
 先輩である「彼」の後輩である「彼女」に対する恋物語なワケですけれど、「彼」と「彼女」の間で視点がクルクルと交代していく様が、機械仕掛けで大道具を入れ替えての場面転換に思えて。

 交代といっても「彼」と「彼女」のパートでそれぞれ物語の流れの引き継ぎが行われているので、完全な視点入れ替えを意識させないのも面白かったー。
 バトンをリレーしているみたいで。
 で、物語としてはそうしてひとつのラインに乗っているというのに、ふたりの──特に「彼」の気持ちが空回りしている様が滑稽でもあり切なくもあり。

 「彼女」を追いかけてなんとか仲良くなろうと画策するも、いざ「彼女」の前に出るとさも偶然に出会ったかのように偽ってしまう(かっこつけてしまう)「彼」がさー。
 愛しき情けなさ(笑)。
 常に「彼女」のことを見ている「彼」ですから、「彼女」の窮地には必ず現れてはその身を救うのですけれどー。
 そんな「彼」のことを、「とても親切な先輩」としか見えてない「彼女」っていうのも、かなり天然はいっちゃっているっちうか純朴すぎるっちうか。
 オトコの見栄で「偶然だよ」なんて言っちゃう「彼」の言葉を真に受けすぎ!

 いや、ま、そうした「彼女」が、やがて「彼」の存在を心に植え付けていく変化が素敵でもあるのですけれどもー(^_^)。

 必死になって自分の魅力を伝えようとするオトコノコと、生来のエキセントリックさから自分が他人からどう見られているか気付かないオンナノコ。
 そんなアンバランスなふたりが、この作品の魅力なのかなー。
 大きな緋鯉のぬいぐるみを背負って、さらに達磨の首飾りをしていても可愛く思えるっていうのはスゴイ(笑)。


 そしてテンポの良い筆致には、小気味良い台詞も多くて楽しいったら。
 大学の学園祭を舞台にした第三章はもう、怒濤のジェットコースタームービーですわー。
 その勢いたるや、止まることを知らず。
 読み手のわたしはぐいぐい引き込まれてしまった次第。


 喜劇、かつ恋物語。
 ハッピーエンド万歳!
 なぜなら「神様も我々も、御都合主義者」なのですから!(≧▽≦)
 


8
 
『サクラ上等。』 三浦勇雄 著

 無理して頑張ってみたところで、鉄平は鉄平。
 でも、そんな努力が無駄であったのかといえば、そうではなく。
 自分には自分の、そして自分にしかできないやり方があるって気付いたことが大事。
 泣き顔を笑顔で隠すなんて鉄平には似合わない。
 彼にはやっぱり──真っ直ぐ前をむいている姿が似合ってます。

 あー、もうっ!
 上等。だよね、これがっ!(≧▽≦)
 凹んで、自分にウソをついて、諦めかけて。
 でもやっぱり譲れないコトがあるって気付いて。
 だったら──やるしかないじゃん?って。
 そのシンプルさがホントにステキ過ぎるっ!!!

 ゆかりにしても、記憶を失っていてもゆかりはゆかり。
 鉄平を信じているし、鉄平を信じている自分も信じていて。
 そんなふたりがそろえば無敵じゃん!って感じられることがステキで。
 GO AHEAD!って叫びたくなるふたりデス(笑)。


 ほかにも鉄平に感化されたような人ばっか。
 諦め悪い人たち。
 格好悪いんだけど、でも、力強くて。
 そんな彼女たちの姿を見せられると励まされるなぁ……。


 想いを伝える筆致はとても重くて、そして鋭さをもってハートに切り込んできて。
 読んでいるとドキドキしてしまいますわ。
 緊迫感とか疾走感もあるんでしょうけれど、それ以上に鼓動そのものなんじゃないかって気がするー。
 伝える言葉が生きている──って。

 だから、上等。はやめられないのデス(^-^)。


 大学入試二次試験までのカウントダウン要素まで加わってきて。
 更に盛り上がるのは必至。
 最後はやっぱり『サクラサク』。
 楽しみにしてまっす!(≧▽≦)
 

7
 
『アリフレロ キス・神話・Good by』 中村九郎 著

 九郎節、健在……(苦笑)。
 中村センセは「わかっている」ことが、わたしに「伝わらない」ことが「わかった」次第。
 なんちうか、文章を映像化してみないタイプの人なんじゃないかなー……とか思ったりして。
 あくまで言葉、単語の持つ力だけにこだわって。


 三人称に見えて、実は<千里眼>という能力に因るメタ視した一人称……っていうのは、ちょーっとズルイんじゃないかなーと。
 で、ズルイだけじゃなくて、その結果、物語に必要とされる情報が整理できない印象が。
 あっちもこっちも知りうる状況になっているから描くべきだ──ってのは、なにか違うという気がするのですよ。
 散漫っちうか。


 中村センセの既作では『ロクメンダイス』のほうが好きで、『黒白キューピッド』はダメだったんですよねー。
 そういう感覚で言えば、スーパーダッシュ文庫で上梓されているだけに今作は『黒白キューピッド』に近かったような。
 担当さんの、あるいはSD文庫の方向性なんでしょうか。
 この……スタイリッシュさは。

 叶うこと無い愛だったけれど、報われはしたのかな……。
 ラスト、絶望の中にほんの少しだけ救いを感じました。
 あるいは、かすかな救いとともに絶望へ落とされたっちう。
 うー……。
 そこは嫌いじゃなんだけどなぁ……(苦笑)。
 


6
 
『ハルカ 天空の邪馬台国』 枡田省治 著

 ブラボーッ!!!!(≧▽≦)
 拍手を送りたくなるくらいに高揚感がっ。
 恋する、愛する、信じる、認める、そして託す。
 「生きる」ってことの全てが詰まっているような気がします。

 生きるって、気持ちのことなんじゃないかなーって。
 良いことばかりじゃないけれど、でも、誰かに表して示して、わかってほしく思うことが。
 そうした感情がつながっていくことが「生きる」ことなんじゃないかなーって。
 だから、ひとりじゃ生きていることにならないのかも。
 自分と、そしてアナタが居て、初めて生きることにつながっていくのかなー。

 とにかく「命」の躍動感あふれている筆致に感動。
 素敵なことだよね、生きることって。
 そんな気にさせてくれました(^_^)。


 もちろんボーイ・ミーツ・ガールとしても秀逸。
 オトコノコはオンナノコのために身体を張って、オンナノコはそんなオトコノコをどこまでも信じて──。
 時間跳躍モノでもあるわけで、そのことがふたりの仲を安穏とはさせないのですけれど、だがしかし!
 その障害があっても負けない強さを持っているふたりが眩しいったら!
 駆け引きなんて恋愛のスパイス、必要無いの。
 そんなことしなくても、お互いの存在だけで十分すぎるから!
 ひゃー、もー、照れるわ!(≧▽≦)


 ふたりだけでなく、そこへ集う仲間たちもステキ。
 単純って言ってしまえばそうなんですけれど、そのシンプルさに憧れてしまうというかー。
 単純ってことは、純粋ってことですし、混じりけの無い大切なコトだって思ってしまうわ。


 でも、アレですか。
 「枡田センセの作品」+「猫娘」+「名前はお夏」
 ──と聞いたら、それだけで哀しくなってしまったりして。
 外れようの無い展開が待っているワケで……(TДT)。

 ほかにも辰穂姫と辰実姫も登場したりして、『俺屍』ファンとしては嬉しく。
 もともと『俺屍』は史実を下地にしているのですから、こーゆーのってクロスオーバーとはちと違うのかもですけれど。
 辰実姫、「らしい」と思ってしまったことよ(^-^)。


 全体の構成も巧みだなぁ……と。
 小さな目標をクリアしていきながら、やがて世界を救うまでお話は広がっていって。
 その広がりかたに無理が無いっちうか。
 ハッタリ効いたラストも、ちゃんと伏線が張られていたので顔が緩むったら。

 終盤を迎えるにあたって主人公の武器がパワーアップするとことか、ほんっとゲーム的だなぁ……とか思ったりして。
 期待を裏切らない、お約束の展開でー(笑)。


 ああ、もうっ!
 そのラストね、ラスト!
 見事すぎる大団円に、倖せになってしまったわ!
 YEAH!(≧▽≦)


 あとがきで枡田センセも書かれているように、まだまだ書き残した余地のある作品だとは思います。
 んでも、それはそれとして。
 書き残しがあるからといって、それは作品に抜けたところがあるというワケでなく。
 一人称の物語って、そういうものだと。
 張政という主人公の物語においては、あますところなく書ききられた感が。


 とーにーかーくっ。
 時空を越えて出会った、張政とハルカのふたりに。
 そして、悠久の時の中に生きていく存在すべてに。
 幸あれ!

 世界の全てを祝福したい気持ちになったのでした(^-^)。
 


5
 
『ふれていたい』 小手鞠るい 著

 む……。
 今回は「破れた恋が再生する話」ではなく「新しい恋に踏み出す話」でした。
 前者のほうがエンターテイメント性はあるような気がするのですけれど、過去に囚われずに前向きなトコロが好感。
 成長していくって大事。


 人の出会いは、そしてその順番は、自分で決められるようなことではないけれど、その順番で人生が大きく変わってしまうワケで。
 もし、あの人より先に、自分の気持ちを伝えることができていたら──。
 そんな可能性にしがみついていても仕方が無くて。
 切なくても哀しくても、未来に続いていくのは「過去」ではなく「今」なんだから、ね……と。


 前に踏み出すことには勇気が必要で。
 それはとても恐いことで。
 でも、やっぱりそこには新しい世界が待っていて。

 小手鞠センセの作品って、どれだけ哀しい気持ちにさせられても、最後には新しい何かを見つけさせてくれるから好きー。
 自分も前を向いてみようかなって気にさせてくれるので。
 良いお話ってのは、こうでなくっちゃね!(≧▽≦)
 


4
 
『占者に捧げる恋物語』 野梨原花南 著

 千一夜物語?
 王様がヒロインを側にいさせようとするパターン、『ちょー』シリーズでもあったなぁ。
 野梨原センセの作品って、基本的にオトコノコはバカだからそうなるのかな?
 閉じこめたくらいで気持ちが変わることなんて無いのにね──って。

 オンナノコがオトコノコを変えてしまう話。
 野梨原センセの真骨頂ですわね(^-^)。


 そんな次第で全体の流れに新鮮味は無かったのですけれど、ところどころに表れる文言には相変わらず惹かれます。
 物事の真理を、スパッと切れ味良く言い表しているっちうかー。

「女の子は、外で泣かないのよ。いいこと。涙を見られて誰かに恋をされたら大変ですもの」

 ──とかねーっ!(≧▽≦)

 とにかく「お馬鹿なオトコノコを優しく包み込むオンナノコ」って構図が楽しくって。
 それも静的に見守るってだけでなく、動的にオトコノコに叱咤することもあるたりが激しく好感。
 跳び蹴りで恋心を気付かせるヒロインって、そうそう見ないと思う〜(笑)。
 流浪の大賢者スマートじゃなくても「しばらく語り継ぐぜ」(^_^)。


 そんなヒロイン・カリカの他にも、王妃であるユウレルダヤとか、その侍女のタニニミヤとかも魅力的で〜。
 タニニミヤなんて仕える身でありながら盲目的に従うことをせず、しっかりと自分を持っているところが良かった〜。

「たとえしくじったとしても、やると決めて行動に移して。それで何も変わらないわけはないのです。事態がたとえ悪い方に動いたとしても、それを受け入れる覚悟が出来ているのなら、きっとなんとかなると私は信じています」

 ああん、もうっ!
 良いことばかりだけでなく、悪いこともきちんと目に映して。
 その強い姿勢に憧れますよー。
 今年は主従関係が来るかなぁ……とか思ったりして(^_^;)。

 ユウレルダヤは一見すると強い人であったけれど、やぱし折れてしまったところが可愛かったワケで。
 ギャップがー(笑)。

 無敵の魔法?
 なんだろうそれ。
「女の涙っていう魔法だよ」
 スマートが言い、カリカは笑った。
 確かに魔法だ。
 平伏せ、陛下。

 ここで「涙」をもってくるあたり、うまいなぁ……と。
 定番ですけれど、その伏線は張ってあったと思いますしー。


 それでも語るだけで物語をまとめようとせず、クライマックスでは主人公たちが身体を張って事に当たろうとするあたりで熱くなるワケで。
 渦中に飛びこまずに、なにが主人公か。
 やっぱり自分の力で事件を解決してこそ主人公だよなぁ……と思った次第。

 スマートと魔王は、またまた別の世界へと旅立ってしまいましたけれど、次はどんな世界で暴れてくれるのか楽しみです。
 サリタ以外の魔王の存在も見えましたし、多元世界へ物語が飛躍していくことに期待して。
 ラストはオールスターキャストだったりすると、ちょー嬉しいんですけれどもっ!
 カリカ、魔法使いの修行を始めましたし、どうかなー??
 


3
 
『空と海のであう場所』 小手鞠るい 著

 このお話も「一度破れた恋が再生する物語」であるワケで。
 小手鞠センセ、そーゆーの得意なのかな?
 だとしたら激しく好みなんですけれどもっ!

 一度無くしてしまった、手放してしまった、見失ってしまった恋だから、再び巡り会ったチャンスを大切にしなければ……という想い。
 それがどれだけ奇跡的で幸運なことなのかわかっているからこそ、何よりも必死になるという。
 ただ前向きであるという気持ちとはちと違くて、んー……。
 傷ついたことがある人の、強さと優しさ?
 成長のシルシっていうか。
 そういうトコロ、感じられて、かなり好感デシタ。


 作中作の童話に恋人同士をなぞらえて描くのも印象的。
 付き合っていた彼が執筆したという設定なのですから、暗示的な作品になっているのももっともなのですけれど。
 直接に心情が吐露されているワケではなくても、その作品を通して現在の彼の気持ちが伝わってくるような。


 物語の転換点も明確ですし、そこからクライマックスへと流れていく勢いも見事。
 ラスト、余韻を残す終わり方も美しくて好きー。
 ホッと出来た読後感なのでした(^-^)。
 


2
 
『伯爵と妖精 ロンドン橋に星は灯る』 谷瑞恵 著

 アルテミス、銀の矢を放つ……ってカンジ。
 わたしの中で女の人が弓を射る姿というのは、かなり好きなシチュエーションといいますかー。

 本編のほう、前巻と密接につながっているあたりがこれまでと違うところ?
 前後編として併せてしまっても良いくらいに。
 vsプリンス編のクライマックスといった趣きなだけに、ボリュームのほども当然……という。

 ことプリンスに関しての解決?は味気なさも感じてしまうのですけれど、彼以上の問題を身のうちに抱えることになって次の展開への引きはバッチリ!といったカンジ〜。
 区切りの付け方と構成の妙に感心してしまいましたことよ。
 飽きさせない盛り上げ方、関心の抱かせ方っちうか。
 次からはいよいよ外敵に向かうのではなくて内面と対峙するワケですね。
 まー、でも、リディアが一緒なワケですし、きっとだいじょうぶ……かな?(^_^;)

 そうそう、婚約ですよ婚約。
 はぁ〜……長かった、ここまで!(笑)
 ここ最近、前巻まではリディアもエドガーも、あと一歩踏み込めばっ……という寸止め状態が続いていたので不完全燃焼していたのですけれどー。
 いやいや、ラストシーンで、もう満足。
 ごちそうさまーってカンジ〜(^-^)。
 可愛いなっ、ふたりともっ!

 これでこれからはリディアの嫉妬にも正当性が伴うわけですね(笑)。
 エドガーのことですから身辺整理はキチンとするとは思うのですけれど、相手がどう思うかはまた別の話ってことでー。
 それに炎の蛍石のことでも情報を集めないといけないでしょうし、そのためにはたくさんの人と交流しないと……ですしねー。
 中には妙齢の女性の方だって、もちろんいるでしょう(笑)。

 ああ、でも、そうであったとしてもリディアには「待つ女」にはなって欲しくないかなー。
 愛し、愛されはするけれど、やはりひとりの自立した女性であってほしいかな、と。
 フェアリードクターとして立派に独り立ちしていた彼女の姿が好きなので。
 外に出て、どんどん事件に巻き込まれたらヨロシ(笑)。
 エドガーって「追いかける恋」が好きなタイプだと思うのでー。


 ふたりの仲に一区切りついて新しい関係になったこれからが楽しみです。


 ……にしても最近のコバルトって、結婚が終着点ではなくて、そのあとも物語が続くシリーズが多くなってきたような気がするのですがー。
 結婚が答えでは無い……って時代性なのかしらん。
 

『リリアとトレイズX 私の王子様<上>』 時雨沢恵一 著

 進展がありそうで無い……ような。
 もう、いつまでこの状態が続くのかなーって、冷めた気分になって。

 「リリアとトレイズ」なのに、そのふたりを応援したいという気持ちになれないというのは、読む姿勢として致命的だなぁ……。
 ふたりはふたりなりに頑張っていて、それこそ窮地という観点から言えばアリソンたちが同じ年頃で体験したことよりもっと危ない橋を渡ってきているとは思えるのですけれどもー。
 んー……でもなぁ。

 ああ、応援したいという気持ちになれないというのは、ふたりの仲についてもですか。
 とーにーかーく、トレイズがダメ過ぎて(TДT)。
 覚悟が決まっていないから優先順位が酷く曖昧で。
 いざ判断の場に面したときに、選んだ行動について場当たり的に感じるのです。
 王子様という立場を隠しているにしてもさー、もちっと、こう、周囲に流されない部分っていうのを持っていてほしかったり。


 そうした不甲斐なさが、最終巻での大どんでん返しクライマックスで活かされたりする……んでしょけれど。
 それにしたって……。


 「まるのままのジャガイモ」とか、嗚呼とか思って反応した部分もあるのですけれどー。
 それってシリーズだから、とくに『アリソン』で描かれたところだから反応しただけですし。
 『リリアとトレイズ』という作品の魅力って……じゃあなに?って考えてしまうわ。
 

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