○● 読書感想記 ●○
2006年 【6】

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20
 
『レヴァイアサン戦記U』 夏見正隆 著

 慣れたー。
 夏見センセが描く、愚かさを誇張した社会には生理的なトコロで?嫌悪感をおぼえてきたのですけれど、それに。
 刺激も、与えられ続けると、やぱし慣れるものだな……と。

 慣れたというか、見方が変わった?
 いやさ、AWACSのロートドームがフリスビーのように飛んでいく……って、子どもの発想じゃないですか!
 そんなシーンが書かれたことで、ああ、これはコメディなのか……と、わたしの腹も据わったというかー(笑)。
 感情移入してのめり込むとイタイですけれど、一歩引いて眺めれば、それなりに毒も笑えるのか……な?

 現実をベースにしたうえでの「誇張」なので、そこで描かれることは示唆的なのかもしれませんしー。
 「市民に反乱を起こすだけの知恵をつけさせないために学力を低いものにするよう努めている」といったあたりなどは、ゆとり教育など現代日本の教育体制を思い浮かべさせられて、薄ら寒いモノを感じます。
 こういう未来も、この日本にはあるのだなぁ……。

 冷静に眺めてみれば、東西両国共に明確な正義が社会に備わっているわけではなく、どちらも動かすのは人の欲。
 目に見えない人の意志が、いちばん恐いものなのですね。


 めまぐるしく場面が変わる手法は今巻でも。
 キャラもその場面の数だけ多数登場しているはずなのですけれど、登場したそれぞれにさほど混乱せずに読み進めていくことができてます。
 さすがに前巻ではどうだったかな……とまでは覚えていないのですが、少なくとも今巻の中だけでは把握できたというか。
 多分、それぞれの場面での役割がハッキリしていて、その役割に応じた活躍が、正であれ負であれ、どちらのベクトルであっても印象深いものなのだからかと。

 なかでも、いよいよ?主役然としてきた東日本の水無月是清大尉と、立花五月嬢がーっ!
 独裁体制から抜け出したふたりが、このあとどうやって再会するのか楽しみ〜。
 スパイ容疑をかけられて追い立てられているってのに、自室に戻って星占いの本を取ってくる五月嬢、かーわいー!(≧▽≦)
 もう、このあたりの行動がコメディなのですよね(笑)。

 メルマガでは西日本の森高美月少尉が「一番人気」で「大活躍」するって書いてあったような覚えがあるのですけれど、記憶違いだったかな……?
 今巻、たしかに活躍はしているのですけれど、「大活躍」ってほどではないような……。
 まぁ、活躍の度合いを言うなら、先述のとおり場面がチャカチャカ切り替わるので、個人での活躍のほどは少尉以外であろうと知れているのですけどー(苦笑)。
 でも「一番人気」のほうは、どうなのかな??
 印象からすれば、五月嬢のほうが……。
 やぱし記憶違いなのかなー。
 それとも、今後に大活躍の予定が?
 ……展開上、たしかにありうるんですよねぇ(^_^;)。

 あ、表4に書かれているあらすじを読むと、葉狩真一さんが主人公のように読めますが、たしかに重要人物のひとりではあっても、そんなことないので。
 少なくとも今巻で描かれた状況においては、完全に部外者です。
 だいたい「果たして彼の運命は──!?」なんてアオリ、本編には全く関係ないっていうか、彼自身の運命がどうなろうと知ったこっちゃないってカンジ(笑)。


 夏見センセの作品との付き合い方もわかってきましたし、楽しみになってまいりました(笑)。
 


19
 
『銀盤カレイドスコープvol.7
     リリカル・プログラム:Be in love with your miracle』 海原零 著


 か……海原センセと鈴平センセは、わたしを殺す気かーっ!

 冒頭のガブリーの流れで目を回しましたヨ!
 えっ、あのガブリーが? わたしのガブリーが? うそだーっ!……みたいな。
 ほどなくしてそれもオチがついて、ホッ。
 やっぱりガブリーはわたしの天使でした(笑)。

 鈴平センセはもちろん155pのリアの挿絵。
 カラー口絵も相当なものでしたけれど、挿絵のほうが破壊力あったかな〜。
 新しい魅力っていうかー。
 いや、むしろ犯罪的か!

 今巻は、そんなふたりが前面に。
 リアへの挑戦者としての立場が同じであるガブリーとの交流は興味深かったです。
 病床の子どもの元へ慰安に赴くガブリーって、ああ、らしいなぁ……とか。
 性格よろしくなくても悪人ではないタズサがそれに付き合ってしまう様も面白いというか。

 挑戦者としての時間が長くなってしまったために湧き起こる不安。
 抱えるものは同じでも、その中身は挑戦者ひとりひとりで異なるために、共有なんてできないのですね。
 ましてや理解し合うなんて。
 見当違いの慰めの言葉はかけられても、立ち上がるのは自分自身でしか。
 ガブリー、だいじょうぶなのかなぁ……。

 リアとの交流は、押され気味のタズサを見られるところが面白いデスネ。
 普段とは異なる様だけに(笑)。
 今後のリアの計画について、タズサは自身の不甲斐なさに感じたりしてますけれど、どうなのかなー。
 もちろん現実にその点も関わっているのでしょうけれど、それが落胆や失望にはなっていないような。
 スケートに真摯に向き合っているから、感情で判断するトコロは無いのではないかなぁ……と。
 他人がどうのではなく、自分のレベルでは物足りなくなったから、更に高みを目指しただけなカンジ。
 まぁ、その事態を面白くなく思うタズサってのは、図式として正しいのかとは思いますけれどー。
 五輪では、その怒りをパワーに!(笑)


 勝負ごとでの物語って盛り上げ方が難しいなぁと感じる今日この頃。
 なにしろ勝負それだけで話が終わるなら、勝って終わりという単純なものになりがちなんですもん。
 もちろん、勝負に関心が集まるのは、至極真っ当なんですが。
 んでも、この手のお話のキモは、勝ち負け以外に盛り上げる要素を持つかどうか……かと。
 そのあたりが『銀盤』の良いトコロなのかな〜。
 勝負だけでなく、勝負者のメンタリティを丁寧に描いているあたり。


 ここしばらくはタズサ以外のキャラクターに焦点を当てて進んできて、1・2巻の流れでファンになったわたしとしては、ちと不満があったのも事実。
 でも、ここにきてその流れがあったからこその面白みも増えてきて、これまでのタズサ外の流れがようやく生きてきたカンジ。
 さすが最終章(笑)。
 ステイシーのインタビュー記事とか、わりと面白かったりして。
 5巻あたりから彼女、妙にさばけてきた感が(笑)。
 キャンディのコメントとかも、ちょっと成長がうかがえて。

 ああ、オビのコピーがステキですね。
 「満を持して。桜野タズサ伝説の章、ここに始動。」
 なんのてらいもなく、ストレートに。
 読み手であるファンの心理を汲んでるな〜ってカンジがします。
 待っていた時間が、いよいよ始まるって気持ち、伝わります。
 そのコピーの背景に「最嬌毒花」ってあるあたりが、遊び心かしらん(笑)。
 タズサをうまく表現してる〜(^-^)。

 そんな次第で、次巻はいよいよラスト!(予定)
 勝敗より、どんなプログラムになるのか楽しみです。
 タズサはもちろん、ほかのスケーターたちも描いてほしー。
 ガブリー! とくにガブリーをお願いしますっ。
 なんかもー、ピートのこととかどうでも良くなっちゃった(笑)。
 だってさー、ピート本人じゃなければ、生まれ変わりだとかそんなの意味ないような気がして……。
 で、実は生きてましたーってのも興醒めですし。
 それならば、タズサの心の中だけに生き続けてくれれば…って。

 今巻の終わり方、1巻のそれと雰囲気が似ているような……。
 とすれば今巻の流れで湧いた問題点が再浮上?
 タズサが怪我する……とか?
 うわぁ、気になる〜(><)。


 時期的にスケート連盟の金銭不祥事のこととか、なにか書かれるのかな〜と思っていたのですけれど、触れてませんでしたね。
 大人ですね(苦笑)。
 


18
 
『アスラクライン4 秘密の転校生のヒミツ』 三雲岳斗 著

 「交差」と「反転」がシリーズを読み解くキーワードとのことですが。
 はぁ。
 ってことは、前巻での朱浬さんにまつわるお話は、まさにそれってカンジかしらん。
 今回の平行して進むふたつの事件も、その方針に基づくもの。
 そのいっぽうが「下着ドロ」騒動ってのは、いささか突飛だなぁと読中、思っていたのですけれど、そうした一見すると無関係な両者が……って構成は物語の基本ですよねー。

 そうした構成の妙のほか、そろそろっと今巻ではSF的なアプローチ姿勢も見えてきて、いよいよ三雲センセらしさが漂ってまいりました!
 強い重力のもとでは時間も止まる……とか、細かいところで発揮されるSFガジェットがクールですわ(^-^)。

 もっとも、構成の妙やガジェットのクールさとは違って、事件捜査のための推理・考察に関しては、今回ちと強引だったなぁ……と。
 関連性という条件提示がかなり漠然としていて、解決の段で主人公・智春の頭の中で構築されてしまう部分が大きいかな〜……と思ったり。
 もっと捜査の段階(聞き込みとか)の描写を多くしたり、あるいは地図を挟み込んだりしてほしかったー。
 ……って、べつにこのシリーズは推理ミステリではないので、そこまですることもないのですけれど(苦笑)。

 そもそも今回は、魔神相克者と称される「アスラクライン」の明示が主で、機巧魔神の戦いっぷりってあたりがその次にくるものですしー。
 そのラインで読むと、めまぐるしく場面変化していくスピードの速さもわかるというものですか?
 かなり情報量が重めなので、物語の進展と併せるとかなりハイペースにならざるをえなかったのでしょうねぇ。
 それでも、情報の出し方や次の展開へのつなぎ方などは、別段、無理目になっているようには感じませんでした。
 むしろ、余計な考えを抱かせないような素直さがあったかと。
 この流れるような展開、巧いなぁ(^_^)。


 そんな展開の中で、設定的に三角関係が定められてしまった、智春と操緒ちゃんと奏ちゃん。
 設定的に……とは言っても、今回のラストシーン、奏ちゃんは早くも攻めてきてますよねぇ?(笑)
 無意識な攻め手というあたりが、かなりの攻撃力です。
 姿は見えても物理的な接触ができない操緒ちゃんの逆襲に期待します(笑)。

 ……あれかなぁ?
 智春の肉体への憑依が示されたことで、感情もダイレクトに共有するようなことになったり……する?
 そうすれば操緒ちゃんの気持ちも智春に伝わるわけでー。
 「だいじょうぶ、操緒がついているよ」も、決め台詞になってきたカンジ。
 やぱし、ふたりの絆は浅からぬモノを感じさせますねぇ。

 ああ、そして杏ちゃんは、いよいよ2軍落ちな気配が。
 あとがきによれば次巻はもしかしたら活躍が期待できるのかもしれませんけれど、でもねぇ……?(苦笑)
 智春へ向けてのポジションはすでに玲子ちゃんに奪われてしまっているのではないかと。
 ラストシーンがそれを示してるような(^_^;)。

 新キャラのアニア嬢については、今巻ではまだ未知数?
 朱浬さんと同じく、智春とはどうにかなりそうもないですけれど、愛らしさなどキャラの魅力は次巻以降デスカ。
 今巻は事件絡みで登場しただけですしー。


 それにしても、由璃子さん再登場はウレシーッ!
 あの、さばけた性格、好きなので(^-^)。
 柱谷先生との夫婦生活を覗いてみたいと思うんですけど、短編とか無理かな〜。
 ふたりの生活とか、なれそめ話とかは、奏ちゃんにとってすごくプラス材料になると思うんですけれど!(笑)
 

17
 
『アスラクライン3 やまいはきから』 三雲岳斗 著

 性格反転ギャップの魅力。
 朱浬さーんっ!(≧▽≦)

 はじめ見たとき、表紙、誰か分からなかったー。
 「いや、まさか、そんな……似ているけれど、違う……よね?」みたいなー。
 本編内容に忠実に描かれてますけれど、オビの下に位置しているあたりが攻撃力たかーい!

 そんな朱浬さんメインで進んだお話。
 彼女の新しい魅力満載で面白かったとは思うのですけれど、興味深いお話であったか関心を持つか否かでは……ちょっと、そのー。
 朱浬さんって、基本的な立ち位置は智春とは無関係なところにいるじゃないですか。
 恋愛感情には至らないだろううなー……って。
 そういうポジションにいる人のお話って、今シリーズではどうなの?と。
 そちらに進展しないと見えているお話って、ドキワクしないというか。
 ……そのようにわたしが感じているだけで、絶対ってことではないのですけども。

 今回のお話は朱浬さんの性格を反転させたために面白い状況が生まれたので、二度三度とこのシチュエーションが使えるわけでなく。
 朱浬さんの言動に智春がドキドキするのも、最初で最後かな……って。
 年頃のオトコノコとして普通にドキドキすることはあっても。

 ……朱浬さんなら、そんな無用の挑発をやってくれそうで、今後も楽しみではありますがっ(笑)。

 結局、良くも悪くも、朱浬さんは「おねえさん」キャラなんだなぁ……ってカンジさせられたお話でした。
 今回のお話、ラストの展開──本当のヒロインを登場させるために考えられたお話かなって。
 そのあたり、シリーズ中に必要だからやったまでで、作品としての魅力はその次とか感じてしまうのですよ。


 ああ、それにしてもですよ?
 ひとつの作品としてではなく、ひとりのキャラとしての朱浬さんの魅力は見事に描かれていたというか、さらに得点重ねたとは思うのですがー。
 杏ちゃんの低空飛行っぷりは涙を誘われます(TДT)。
 彼女が持つ設定(属性?)では、智春とはオトモダチ関係止まりといいますか。
 智春に踏み込める要素が見当たりません(苦笑)。
 お母さんとか応援してくれていればまた違うのでしょうけれど、別に智春に杏ちゃん以外の彼女ができてもOKみたいですしねぇ……。
 すなわち家族からも(つまりは三雲センセからも)、智春を相手としたラブコメ要員とはみなされていないという……。
 合掌(TДT)。
 


16
 
『アスラクライン2 夜とUMAとDカップ』 三雲岳斗 著

 な、なんなんですかっ。
 智春のモテっぷりは!
 基本スペックが高性能とはさほど書かれていないので、やはり彼の特別なポジションに惹かれているってことなんでしょうねー。
 一般生徒全てに好意条件がそろっているのではなく、ある特定の女子から意識される……と。
 むしろその「特定の女子」のスペックが高いために、モテてモテて困っちゃう〜みたいな雰囲気を受けているのかな〜。

 智春が特定の女子に惹かれるような、そんな環境を整えたことに、三雲センセの巧さがあると思う次第。
 そういう状況を受け入れられやすいように、舞台を用意しているトコが。


 あとがきによると今回のお話、「湖」で「合宿」、あと水着とのこと(笑)。
 学校イベントがメインであるせいか、奏ちゃんの急接近ぶりがすごかった!
 まだ2巻目なのに、勝負かけてきてますよね、彼女!
 無意識下での大胆さが強みデスカ?
 恐ろしい子ッ!(゚Д゚)

 でも操緒ちゃんの印象もたしかに残っていたりして。
 活躍の場は限られていたのですけれど、智春の中での存在の大きさを匂わせてくるといいますかー。

『だいじょうぶ、操緒がついてるよ』

 彼女のこの言葉がねー。重いというか強いというか。
 そうやってこれまで幾度と無く声をかけてきて、そしてそのたびに心を落ち着かせてきたのかと思うと。

 朱浬センパイは、いよいよ対象外ってカンジでー(笑)。
 まぁ、楽しそうにしている様がステキなので、べつに構わないですか?
 口絵カラーの楽しそうなこと楽しそうなこと(^_^;)。


 タイムリミットが待っている物語ですけれど、さほど性急に進めようとはしないんでしょうか。
 今回のお話なんて、人物相関をふくらませるためのものでしたし。
 あとがきによれば5巻とか6巻とかのイメージもこの時点ですでにあるようですから、『ランブルフィッシュ』なみの長編を意識されているのかなー。
 楽しみです。


 サブタイがかなりネタバレギリなカンジだったことに、読み終わった後で気付きました。
 やられた〜!(><)

 



15
 
『アスラクライン』 三雲岳斗 著

 うんうん。
 主人公が主人公たるべき活躍をあげるために成長する必要があるなら、そこには選択があるべき。
 その選択にはもちろん葛藤がともなって、成長して得るモノと、二度と手にすることなく失うモノを比しているべき。
 今作での主人公・智春にはたしかに選択が迫られ、その瞬間、深く葛藤していました。

 個性的なキャラクターをバンバン登場させてきて、賑やかでライトな方向で進められるのかな〜と読み始めた当初は思っていたのですけれど、意外や意外。
 物語の切り口として、非常に真っ当な仕上がりを。
 個性的なキャラクターたちが多数登場して賑やかに盛り上げる……というのは、考えてみれば三雲センセのパターンですわね(笑)。
 群像劇っていうか。

 選択の明示と、絡み合う人間関係。
 とても好みだわ〜(^-^)。


 飛行機事故で身体を失い、智春に憑いている「射影体」の操緒。
 智春と操緒の関係は悲しいものであるのですけれど、その悲しみを払拭できるかもしれない可能性をも示しているのは、ウマイというかズルイというか。
 人間はみっともなくても可能性にしがみつくものなのよ!
 そんなこと言われてしまっては、この先の展開が気になるじゃないのさ!(笑)

 俗に「シリーズ化が前提」とか「続刊が決まっている」とか、展開や結末に対して言われる作品があります。
 ことに最近では珍しくないという有様。
 わたし的には好きくない状況ですけれど、だからといって必ず1冊で終わらせることが至上命題でも無いわけで。
 となれば、「続きがあるんですよ?」というメッセージで終わらせるのではなく、「続きはどうなるの?」と関心を抱かせる内容であるべき。

 先述の「選択」の扱い方や、このような結びへ持っていった構成に、三雲センセのベテランらしい円熟した筆致を感じるのですよ〜。
 
14
 
『ミスティックM.A.D.』 藤原健市 著

 なんだか、置いてけぼり感……。
 すごいことをやってるな〜って、近くで見せられてるような。

 アブソリュートとスマッシャーの言い合い。
 熱い展開……にする目的は感じられたのですけれど、ちょっと無理ないかなー。
 その展開に持ち込むための命名って気が。
 そのほかの幾つかの展開も、枠を作ってから素材を用意する(当てはめた)カンジ。
 フォーメーションを決めてから選手を選ぶサッカーみたいな。


 窮地にあって能力開眼!ってパターン、やっぱり好きくないです。
 ましてそれまでの執着や拘泥も飛び越えちゃって一石二鳥なことになると、もう。
 抑圧されていた部分が解き放たれるのであれば事前のマイナス状況と釣り合い取れると思うのですけれど、ただ能力を上乗せしただけのパワーアップではバランスを欠くというか。
 ちょっと、場当たりすぎなーい?と思ってしまうのデスヨ。


 大枠が披露されただけの巻。
 シリーズ化が前提の進行だったのでしょうか??
 


13
 
『聞け、我が呼ばいし声 幻獣降臨譚』 本宮ことは 著

 ホワイトハートは、たまに色欲にストレートで困ります。
 端役男性キャラは、もう、頭の中それしかないのかと。
 この辺のイメージって、池上紗京センセのイラストから刷り込まれているような(笑)。


 幻獣の守りを失ったオンナノコが、世間から向けられる忌諱の目を乗り越えるお話。
 女子の出生率が男子に比べて極端に少ないって設定からしてアレなのに、主人公・アリアの周囲に集う男子のカッコイイことカッコイイこと。
 逆ハーレム文学のなんたるかを心得ていると(笑)。
 幼なじみに頼れる兄さん、寡黙にわがまま。
 バリエーションも取りそろえておりますよ〜。

 それだけ絶妙なシチュエーションが用意されていても、そこでガッつくのは端役のやること。
 アリアのお相手となるべき男性には、どこか偲ぶ恋のような雰囲気が漂っていて。
 見守るような視線とか、影の部分を持っているトコロがステキなのさ〜。

 アリアも、そして男性のほうにも、恋に対する姿勢に遠慮?みたいな奥ゆかしさが必要とされる部分があって、それが苦難の道のりを演出しているのですよね〜。
 はっはっは。
 素直にいかない恋のほうが、見ている分には興味があるのさ(下世話)。


 にしても、これだけお相手候補が登場してくると、本命は誰なのか思い悩む〜。
 これだけハッキリしない作品も珍しいとか思ったりして。
 ホワイトハート的に解釈すると、幼なじみは無いんじゃないかな〜と思うのですけれど(嫌な読み方)。
 いちばん大きな影を背負っていそうな、クルサード、本命?
 今回の展開でも、もっともアリアに接近していたのは彼ですし。


 冒頭からイバラの道を進むことを明示されたアリアでしたけれど、ラスト、少しだけ救われたようなカンジであったことが嬉しかったり。
 まぁ、でも、しかし。
 本当にあれで救われたのかどうかは、次巻になってみないと分からないというあたり、巧い引きだな〜と思うのです。
 良くも悪くも「特別な存在」であることはハッキリされましたし、その点では、村社会の因習に対しての意趣返しにはなったのかな〜と思ったので、わたしはちとスッキリできたのですけれど。

 とまれ、次巻が楽しみなシリーズ開幕ですわ。
 
12
 
『うれしの荘方恋ものがたり ──ひとつ、桜の下』 岩久勝昭 著

 ひとひとりの人生は、生き方は、物語だと思います。
 でも、他者が興味をそそられる物語たるのかは別かと。
 エンターテインメントの作品として語る意図があるなら、生き方に対する姿勢、行動原理や性格、長期短期あわせての目標などを提示する必要があるのでは?
 簡単に言ってしまえば、キャラ付け、だと思うんですけれど。


 それよりも全体の構成について、ある既存の作品を思い浮かべてしまった時点で、わたしの視線は当該作品との比較になってしまい、公正な感想は述べられなくなってしまっているんですけどー。

 以下、当該作品との関係性を語っているので、背景色で。
 ネタバレにももちろん関わってしまいますので、了承した上で反転してご覧ください。


 その作品とは、米澤穂信センセの『氷菓』。
 「日常の中で小さな謎を解き明かしていく主人公に対して、抱えていた悩みの解決をヒロインは主人公に託し、解決を願う。
 主人公は限られた資料から過去の事件の真相に辿り着き、ヒロインの悩みを解決する」
 ──って書くと、どうなのかなぁ?と。

 なんというか、類似点が少なく無くって……。
 この程度の類似性、ミステリえは当然に扱われるのかなぁ……。

 とは言っても、先述したようにキャラ付けという点では雲泥の差を感じてしまうワケで。
 ……んー。
 これは差ということではないのかもしれません。
 レーベルの方向性、かも。
 ことに「LOVE」を打ち出している富士ミスとしては、一目惚れもアリでしょうし、謎を解き明かすことが直接的で最大の解決策では無いというあたりも
 ヒロインが抱えていた悩みは、謎それ自体にあったのではなく、トラウマにあったのですから。
 謎を解くことが物語の命題ではなかった……と。
 この辺りの差異はレーベルの方向性として見ると同時に、類似性を見てしまったわたしは「オマージュ」であると感じた方がよろしいのでしょう。

 ただ──。
 萌え文化の現状を鑑みるに、一目惚れって、読者などの受け手たちへは理解されづらいのではないかなぁ……とは思います。
 説明放棄にも取られますしー。
 


11
 
『狼と香辛料 U』 支倉凍砂 著

 社会的な死ということを見事に描かれているなぁ、と。
 ちうか、オタ向けの分野では珍しいというか。
 斬った張ったで命のやり取りといった、生物学的な死を見せられるより恐怖感がつのるカンジ。
 それって社会に生きるがゆえに、自分という存在が失われることの恐怖なのでしょうねぇ。
 生きながらの死こそ、わたしの恐れるモノだと。


 仕掛けはさほど凝ったとは感じなかったのですけれど、今作の妙味は仕掛けそれ自体にあるわけではないのですよね。
 経済学の啓蒙書では無いのですし。
 高度な知識を駆使して物語を構築しているわけではなく、万人に受け入れられる視線で描かれているトコロが優しいなぁ……って。
 専門的に寄りすぎないというかー。

 大枠の仕掛けより、小さいところでの描き方が好きー。
 天秤の件とか、分かりやすくて小粋さ!(≧▽≦)
 知識より知恵の部分?


 んで、妙味のひとつと言えば、窮地からの脱出、大逆転劇なわけで!
 中盤からの話しが転がっていく様は勢いあった〜。
 主人公・ロレンスは、失敗に落ち込んで愚行もするけれど、自らの行動を省みることも過ちをつぐなうこともできるんですよね。
 いいオトコじゃーん!
 そんなみっともなくても頑張るロレンスのことを見つめるホロが、これまた可愛くってさ〜。
 大人な女性っていうの? 寛容であるっていうか。

 25歳と数百歳という歳の差カップルですけれど、設定ってそれを決めることではないと思わされる次第。
 描かれたことが相応に相応しくなければ、設定なんてなんの意味も持たないと。
 ロレンスはようやく大人に見られはじめた25歳の青年ですし、ホロは数百歳の経験をもっても女性の機微を示すわけでー。


 もひとつの妙味といえば、やぱしロレンスとホロ、ふたりのやりとりですか〜。
 主導権を奪い合おうとする様が微笑ましいといいますかー。
 結果は見えているのに、勝負をかけねばならぬというのがオトコの意地(笑)。
 たまに仕方ないふうを装って、ホロが引いてあげるあたりも楽しいです。
 余裕綽々ってカンジ!
 記録上ではロレンスの勝ちにカウントされても、実際は全くそんなことは無いという(笑)。


 ラストも、じんわりと心温まる余韻がありながらも、綺麗かつシンプルにまとめられていて好き〜。
 全てを語ることはなく、ただただ物語を結ぶために用意されたラストシーン。
 映像化しても悪くないんじゃないかなーって感じます。
 スタッフロールが流れる様が目に浮かんできたりして(´Д`)。


 ふたりの旅、まだまだ見せてほしいな〜。
 楽しみです。

 しかし──。
 600円もの下げ幅を記録した本日の株式市場で、支倉センセの身の上が心配でもありんす(笑)。
 


10
 
『さよなら、いもうと。』 新井輝 著

 自転車に乗っている感覚……?
 いつもと同じ風景を見ても、それは歩む時よりはたしかに早く流れていって。
 少しだけ違う日常を意識させられてしまうような。
 その違いはけっして不快なものではないのだけれど、なんとなく不安で、ココロの表面を波立たせるというか。


 特段、「妹」という立場を大きくして振りかざしているのではなくてー。
 突然失ってしまった彼女の存在を、主人公だけでなく周囲の人たちみんながどうにかして埋めていこうというココロの向き方が切ないですね。
 会話文が多いのも、雰囲気をしんみりと適度にウェットな方向へ運んでいくことへ効果的だったかな〜。
 それぞれのキャラが明確に色分けされているので、キャラクター小説だというジャンルとしての立場以上に、演出として配慮されていたような。
 描写は不要、って。

 思い切った描写の節減は、どちらかというと絵本のレベルまで研ぎ澄まされているのかも。
 大切なコトを振り返る……って、『わすれられない おくりもの』を思い出しちゃいました。
 亡くなったアナグマさんのことを、みんなで振り返って、いかに彼と過ごした日々が素晴らしいモノであったかと語り合う──。

 直接的に「何がカッコイイ」とか「何がカワイイ」とか、そういうことじゃなくて、「あれって……どうだったのかな? どうだと思う?」と語りかけてくるような。
 描かれたことは、とてもとてもツライことだったけれど、優しい気持ちもそこには一緒にあるよ、ね。


 ラスト、ちょっと意外な気がしても、なんだか納得。
 おそらくは主人公・ヒロシのなかで(初めて?)優先順位が決まったということなのでしょうし。
 ミノリちゃんには優しくないことかもしれませんけれど、妹と幼なじみでは全く違うって帰結なのですし。
 トコを失ってバランスを欠いていたココロが、ようやく平衡を取り戻したってことなのかなー。
 それもまた日常。
 トコのいない日常。
 それを受け入れる用意ができたヒロシは、きっとだいじょうぶ(T▽T)。


 ……最初の挿絵を見て喜んでいた1時間前の自分はアホですか。
 読後、しばらくしてから、ジワジワくるわ(TДT)。
 ゆっくりと消化されていくタイプの作品なのね。
 

9
 
『ラキア』 周防ツカサ 著

 ああ、そっちの方向へいってしまったのね……というカンジ。
 華やかさも賑やかさもなく、優しく包み込むような柔らかな雰囲気は周防センセらしいな〜と好感なのですけれど、そこへ大きな仕掛けを組み入れたことが良いのか悪いのか。
 仕掛け、ガジェットが大きすぎて雰囲気を呑んでしまっているような。
 でもって、仕掛けを完全には作中に活かし切れていないようにもカンジて、その点が浮いているというか借り物のような印象になってしまうのですよー。
 既読感がある……とでも言ってしまえるかも。
 もっと言えば、周防センセらしくないと感じたりして。

 一案として量子論的なお話を披露されてますけれど、そういう考えを提示すること自体、どこか借り物めいていて、かつ自分のモノにされていないという印象になるのです。
 文系として言葉では理解していても、理系として数的に理解されていないのでは……という危惧。
 もちろん、わたしのほうが周防センセより、もっともっと文系寄りのバカであることから理解できないだけなのかもしれませんが。

 ……量子論の話を持ち出した上で、観測者としての少女の存在を創造しているのは面白いなーと思いますけれど。
 でも、そこに関係性はありやなしや。


 そんな仕掛けの是非は別にしたとき、繰り返される体験を通して主人公の気持ちが純化されていくという展開は好きです。
 いちばん純化の過程が綺麗だったのは、4本立てのうちの最初のお話、PHASE.1だったかなー。
 自分の気持ちと向き合って、その気持ちを昇華させるための覚悟に辿り着いた主人公・貴壱くんが好感。
 わたしの好きな「走り出す主人公」像なので(^-^)。

 PHASE.4では章タイトル?に仕掛けが見られて、ガジェットを昇華するためにいろいろと挑戦されているなぁ……と。
 こういうトコ、簡単ではない仕掛けを全体へ施しながらも、それを投げっぱなしにはしない前向きな姿勢がうかがえて、わたしは好きー。
 あとがきでは続刊のことにも触れられていますし、この世界の有り様をもっと見せていってほしいです。


 結局、キライじゃないんですわ、周防センセの筆致(^_^;)。
 


8
 
『M.G.H 楽園の虚像』 三雲岳斗 著

 うわー、うわー。
 ホントにこの作品、99年に上梓されたものなの?
 いや、驚くのは発行年ではなくて、まだ新人でありながら緻密な構成を成立させている三雲センセの才能ですか。
 『ランブルフィッシュ』で感銘を受けた計画性など、もう新人の頃から持っていたのですね〜。


 SF本格ミステリ。
 SFの体を成していても、本質は推理ミステリ、それも本格寄りの。
 状況の提示の仕方がすごくさりげないというかー。
 小さく配置された数々の情報が、クライマックスへ向けて収束していく様は大きな興奮を運んできますねぇ。

 主人公・鷲見崎凌くんに探偵の自覚がないトコロも、推理ミステリの定番っぽくて好感。
 もちろんそんなヤル気皆無な探偵役を発憤させるヒロイン・森鷹舞衣ちゃんの存在も魅力的。
 振り回されっぷりが楽しいったら(笑)。


 解説のかたも指摘されている通り、キャラクター小説の側面もこの作品は持っているので、数年を経たいまでも──むしろ時流を考えると今のほうが輝いているのかも。
 昨今執筆されているレーベルの多くから見るに、三雲センセはライトノベル作家としての認知が高いと思われるなかで、その方向はセンセの一面であると指摘したこの解説のかたは、なかなかにわかってらっしゃる(^_^;)。
 三雲センセの作家性を分析した、とても面白い解説だったかと。


 推理させるための材料、そこにSFの部分が抵触しているとしても、けっして現実から大きく乖離しているわけではないのですよね。
 近未来っていう舞台設定のせいでもあるでしょうけれど、きちんといまのわたしたちが生きる現実に立脚したモノを見せてくれているというか。
 自らのセンスを披露するためだけではなく、ちゃんと読み手の視線を意識されているのですよね〜。
 うん。
 エンターテイナーですなぁ〜♪

 現実に立脚している……という点では、ファンションについての三雲センセの描写、好きー。
 服装や髪型って、設定して終わりってだけじゃないですよねー。
 状況に応じて変化していくものですしー。
 どうしてそのような服装であるのかを描写することで、キャラクターの心情変化を巧みに表していると思うのです。
 漫然と外見描写をしているのではなく、ここでも読み手の視線を意識して、その人のどこを見て判断するのか……といった一般的な良識を作中に持ち込んで書かれているように感じるのです。


 あー。
 初期作品にこれだけの力量を見せられては、ほかのシリーズも読まなければって気になりますわー(^-^)。
 
6/7時点、bk1に書影無し
7
 
『鬼ごっこ』 青目京子 著

 異端であることが発覚して、現在の場所を追い立てられる……って、ブーム?
 定番といえば定番でもあるのですが。
 「能力者」系のお話に目立ってきているような。

 出奔……というのとはチト違うのでしょうけれど、追い立てられるように愛着ある場所から去らねばならないのはツライなぁ。
 場所って自分を形成してきた礎みたいなものですから、そこを離れることは自分が何者であるのか不安定にさせられるワケで。

 物語としても「幸せな今」を守るという目的がトリガーとなって、それぞれの覚悟が定まる場合が少なくないと思うのですよ。
 そうした傾向がある中で、こうした出奔? 放逐? 放浪?系のお話では、守るべき「幸せな今」が無いので全体を通しての目的意識の構築が難しくなるかと。

 もっとも、その心配は今作に関して言えば的はずれで、「いつかはあそこへ戻る」という意識が明確にされているのですよね。
 それだけは不安定な気持ちにさせられた中で心強く感じました。
 

6
 
『風の王国 朱玉翠華伝』 毛利志生子 増田メグミ 著

 なによなによ、朱瓔とサンボータのふたりの関係はーっ!
 本編では匂わす程度の描写しかなかったように思いますけれど、これは確定的ですかー?(≧▽≦)
 ちうか、コミックとして活躍の場を与えられたサンボータの格好良さが意外というか。
 おそらく本編でのイメージがそれほどではなかったので、朱瓔の相手として認知しなかったのかなぁ……とか思ったりして。
 こうして絵で見せられると、お似合いだよなぁ……と。

 もっとも、コミックのほうは増田センセが考えられたお話っぽいので、どこまでこのカップリングが正式なモノとなっていくのかは未知数なのですけれど。
 でもー。
 「朱玉翠華伝」のラスト、朱瓔を肩にかついだサンボータ、ふたりの後ろ姿は可愛らしくて良いなぁ。
 バランスを取るためだとわかってはいても、反対の肩へ手を伸ばしている朱瓔の姿に、無意識下での信頼みたいなものが感じられて(^-^)。


 尉遅慧とかクシェンとか、忘れそうになってました(苦笑)。
 外伝を書くにしても、主要な登場キャラが意外と少ないので大変なのかも……。
 本誌ではソンツェン・ガムポ様の若かりし頃のお話とか書かれてますしー。


 ここでインターバルおいて、来月発売の本編では展開進むのかな?
 楽しみー♪
 

5
 
『侯爵夫妻の物語 〜よかったり悪かったりする魔女〜』 野梨原花南 著

 好きかキライかで言えば間違いなく好きで、野梨原センセらしいトコロも散見されて嬉しかったりするのですけれどもー。
 物語としてはどうなのかなぁ……。

 今回のタイトルに表されるように、このお話って「侯爵夫妻の物語」であったの?という疑問がアタマをもたげて。
 「侯爵夫人(不幸にされた人)を倖せにする魔女の物語」ではなかったのかなぁ……と。
 何故、ポムグラニットがマダーのそばで魔女家業を続けるのか、その答えがこの最終巻には無い……というか。
 あのオチからすれば、側に居る必要なんて感じなくなってしまうという。

 どこかで読み違えたのかなぁ……。
 わたしが。


 その一点を除けば、たしかに「侯爵夫妻の物語」としてはキチンと結びを迎えているワケでー。
 たんにその場の勢いであったかのようなエピソードも伏線として活かされていたりして、存外にキレイにまとめられていることに驚きを(苦笑)。

 誰かが、誰かを思って力を尽くす。
 それはよかったり悪かったりするだろうけれど、毎日どこかで行われている冒険だ。
 

 もぉ、この言葉がステキ。
 世界は物語で溢れているってカンジ。
 それは、わたしの、あなたの、物語でもあるワケで。

 こういう、小さなトコロを見つめる視線が、野梨原センセのステキなトコロなのかなー、って。


 にしても、マダーは可愛くなりましたねぇ。
 言動と併せて、P183の挿絵なんて破壊力抜群です。
 これでアザーが倖せにならなきゃ、ウソですよ〜(^-^)。

 ……倖せな物語だったのだから、良し、なのかな(苦笑)。
 



4
 
『学校の階段2』 櫂末高彰 著

 小利口に立ち回ったほうが、人生勝者!……みたいなオチになってなくて、ほんっと〜にヨカッタ!(≧▽≦)
 物語たらんとするためには、まさかそのような教えというか世の理を語って終わりなんてことは無いとは思いますガー。
 自分たちがアウトローな存在であることに誇りを持っているとカンジられた結びで嬉しいったら。

 社会はルールによって築かれているものです。
 その枠の中に収まっている限り、いろいろなモノに庇護され保証され、苦しむことなく生きていけて。
 でも、枠に収まって生きていくことに息苦しさをおぼえる人種という人たちは確かにいて。
 ルールから外れることは、苦しくて、とても大きなパワーを必要とすることで、どうしてそんなバカなことをするのか分かってもらうには簡単なコトじゃなくて。
 でも、わからない人にわかってもらうコトよりも大切なことが、その人たちには「枠の外」の世界に見えているんですよね。

 崖から飛ぼうとする子どもは、きっとその大切なコトをつかみたいから飛ぶんじゃないかな。

 良識とか常識とか、そういう理屈では追えない感情。
 それは本能に根差す部分なのかもしれません。
 心の内の深いトコロを大切にして描いた櫂末センセの姿勢(生き様かも)に拍手!


 物語の構成がどうのという論旨より、同じ想いを抱いてきたか、体験してきたか、そんな共通認識がこの作品を支えているような気がします。
 いわば、共犯意識かも。
 オビのコピーがふるっていると思ったりして。
 「ビバ青春の無駄足! 大反響の学園グラフティ」ですって。
 いまどき「グラフティ」ってセンス、どうかと思うトコロも無い訳ではないのですけれど、この作品においてはその微妙なセンスすら最高のモノだと感じられる次第。
 なんかねー、こころにチクッとくるような、こそばゆさ?みたいな(^_^)。

 もちろん、構成の妙も立派なモノだと思いますよ〜?
 序盤、「階段部」なのに走るシーンが無いと鬱屈したものがあったのですが、それは華々しいクライマックスへ導くための溜めであったわけで。
 走ってばかりはいられない……というのは、この作品の難しいトコロだとは思うのですが、それでも「走る」ことを魅力的に、そして貴いものだと見せることを忘れていないとカンジたり。
 アウトローな存在を描いているのだという矜恃というか。

 作中の展開と同じく、この作品をどう扱って良いのか、編集部内でももめなかったのかなぁ……。
 完全に是とするには、やぱし問題が多すぎるような気が……。
 今作のオチにしたって、もっと穏便に、もっと社会的に、結びを付けることも可能であったように思います。
 んでも、尖った部分を和らげることを良しとしなかった方向性に、櫂末センセと担当さんの覚悟を感じるのですよ〜。
 「これしかない!」というような、熱い気持ちというか(笑)。
 そんな無茶さ加減が大好きです!


 キャラクターが背負ってきたモノを明らかにしていったのも、彼らが枠の中で生きることのできない人種であることを示していて好感。
 ただの設定開陳ではないと思えて。
 深みが出てきて、シリーズ化への布石である……と言ってしまうのは簡単ですけれど、そのさじ加減は難しいですから〜。

 前作では添え物扱いっぽかった四姉妹のお姉さんたちも、存在感を増したカンジ。
 特に階段部顧問となった小夏お姉さんはキャラ立ちすぎでしょ!(笑)

「階段レースでなら、階段部は無敵です。たとえ陸上部といえども勝てませんよ」

 きゃぁぁぁぁっっっ!!!
 小夏おねぇさ〜ん!!!(≧▽≦)
 こういう信頼感を示されるの、弱いなぁ……。

 あ、美冬おねえさんも、限られた中で美味しい役回りを……(´Д`)。
 あのひと言?も、信頼を示してましたよねー。
 カラー口絵……わかってらっしゃる!!

 天然、天然と言われる主人公・幸宏くんには、どうしても「御堂巴」の姿を重ねてしまふ……。
 言動からすれば、ゆうこ部長のほうがらしいですけどねー(笑)。


 今後へ向けての下地固めのような趣きがあった今作。
 目をつぶっていたイレギュラーな部分をあえて自ら顕在化させても示したかったのは、誇りを持ってルールに背を向けるという強い意志。
 その心意気や、お見事です!
 次作も楽しみにしてまーす。
 



3
 
『アウトニア王国拾遺録3 でたまか 終劇追幕篇』 鷹見一幸 著

 カーテンコール……って言葉から、後日談のことばかりかと受け取っていたのですけれど、ちと間違っていましたか。
 エピローグ的なお話ではなくて、作品としてのカーテンコールだったワケで。
 明らかにされていなかった部分に、いま一度ライトを浴びせる……と。

 そんな次第で読み始めたもので、ちょいと時系列を把握するのに戸惑ってしまいましたコトよ(苦笑)。


 収められている5編の中で、わたしはドーダイ提督を描いた「ザ・ロンゲスト・デイ」がイチバン好きー。
 好き……というか、洒落がきいててくすぐったいというかー。
 だってさー「ザ・ロンゲスト・デイ」ですよ?
 邦題はもちろん「史上最大の作戦」。
 ザナックスとの戦闘にも勇猛果敢に立ち向かった提督において、なにが「史上最大の作戦」たりうるかなんて、そりゃもうあの人との関係に他ならないって!
 タイトルと、そこに描かれたドーダイ提督のイラストを見ただけでワクワクしちゃいましたヨ!(≧▽≦)

 もちろん「長い一日」としても、ちゃーんと構成されていて、提督のひととなりを改めて実感させられたなぁ……って。
 チャマーとのやりとりと、その後に続く麾下の兵との会話では目頭が熱くなってきて……。
 ああ、これが『でたまか』だったんだなぁ……って。
 あとに続く者へ想いを託せることこそ、倖せなのだと。
 自分が、自分という一個の人間だけで終わらないという、存在の広がり。

 国家とはなんでしょう? 国家とは国民です。
 物語ではそう述べられていました。
 世界は、ひとりでは作られないのですよね。


 ここでのチャマーの言動が、後ろの「ベア・ベア・ベビーシッター」で効いてくる構成も良かった〜。
 「ベア・ベア・ベビーシッター」はこの一冊だけでなく、『でたまか』の最後を締めるお話でもありましたし、チャマー……とエリス様とのことだけでなく、ほかにも詰め込まれているあたりも良し。
 ディハルト、フィルマ……良かったねぇっ!!(T▽T)
 カタログ眺めていたのは……ワタルとアーヤ?
 エリス様もがんばっておられるようですし、きっとだいじょうぶ!


 鷹見センセの執筆手順──あまりにもライトノベルとは離れすぎる初稿に、担当さんの指摘で要素を追加していく──から思うにですよ?
 「レディ・ゴー」の最後の4行って、そうした中で追加されたものではないかと勘ぐってしまうのですけれども……。
 センセの手法からすると、あのような明言は避けるのではないかなぁ……と。
 まぁ、末永く倖せに方式は極めて古典的な結びでありますし、無いわけでは無いでしょうけれど(^_^;)。


 本編の結び方に納得できないかたの中には、このカーテンコールにも不満を覚えるのかもしれません。
 んでも、わたしは、もう、満足できたかな〜。
 これ以上を求めるのは無粋って気がするのです。
 表紙に、そしてカラー口絵に描かれた、若かりし頃のマイドとメイの姿に、なんだかとても嬉しくなってしまうわたしがいるので。
 きっともう十分なのだと思うのです。

 本当に、ココロから、感謝の気持ちを、『でたまか』の全てに。
 


2
 
『制覇するフィロソフィア』 定金伸治 著

 も、もったいないー。
 作品が不完全であることを指しての「もったいない」ではなくて、もっと個別に語るべき要素を孕んでいるトコロが一個の作品に収められていることを指しての「もったいない」。
 豪勢な使い方をするなぁ……。
 そういう「豪」勢さも、今作の雰囲気に相応しいモノですけれど(笑)。


 哲学論をベースにしているのって、昨今における語るべき言葉を持たない幾つかの作品群へのアンチテーゼだったりする……という見方はうがちすぎ?
 いろいろと遊んでいるように見えたり、哲学論争の仕掛けの仰々しさも、全ては業界の現状を冷めた目で見ているからこそ出来るのかなぁ……と。
 ただ揶揄しているようには感じられないのデスヨ。

 もちろん、ひとりの作家として、文章に遊び心を織り交ぜてくることとは別のお話。


 「『女ばかりで、萌えに走った』とか思われるのもイヤ」だったと、あとがきには書かれています、がー。
 たしかに『萌え』路線では無くなったように思いますが、その分、余計にジェンダーが強調された作品になったかと。
 あー、なんていうか、エロティシズムが漂うというかー。
 んでも、変に盛り上げようとしてネタのひとつとして用いられているワケでないので、イヤらしさは感じなかったかなー。
 むしろ荘厳で綺麗ですよね(^-^)。

「ああ、そうとも! おれはいやらしいとも! いやらしくて何が悪い! いやらしいことと悪とは何か関わり合いがあるっていうのか!? おまえはその関係性を証明できたというのか!? いやらしいが善であるという正義のかたちも可能じゃないのか!?」

 「かたち」にこだわるイデア論……(笑)。
 中高生がこの本で初めて哲学に触れたとしたら、哲学に対しておっそろしい勘違いを持ちそう。
 あるいは希望を(^_^;)。


 驚異的なペースでキャラを消費していってますけど、元がアレだけに復活することだってアリなのではないかと思ってます(笑)。
 「友情・努力・勝利」をハッキリ掲げている作品でもありますし、このあとの展開が楽しみです。
 ……次巻、ありますよーに!(><)
 


『不思議使い2』 葛西伸哉 著

 あ、あああああ……。
 なんだか奥歯に物が挟まったようなというか、不完全燃焼というか。
 アクション──ではあったような気がするクライマックスではありますけれど、ガツン!といくような爽快感を得られなかったのですよー。
 解決策にしても、ふーんってカンジ。
 理屈では正しいのでしょうけれど、主人公・未嗣くんが身を削って、知恵を総動員して、逆転の勝機をその一瞬に賭けた……というあたりが感じられなかった、と。


 モヤッと感は、今回登場したライバルなポジションの「不思議殺し」のふたり組の存在も関係あるんでしょう。
 シリーズ化へむけて?の顔見せの意味合いが強いということはわかります。
 でもー、顔見せ以上に存在感を発揮しちゃって、1冊の文章量の中では閉じることが出来てないように感じたのですよー。

 敵か味方か分からない、正体不明の危険なヤツ……ってコトなら、物語途中の活躍は要らなかったとまで思ったりして。


 ああ、不完全燃焼なのは、解決策について前巻との比較をしてしまっているからかもしれません。
 不思議な現象を科学的な見地から説明してみせるってパターンを好きな身としては、噂の自然消滅って肩すかし……。
 物理現象ではなく人の感情に働きかける噂の類は、科学的な説明を論拠することは難しいとは思うのですけれど、そこをなんとか捻ってきてくれるのかなぁ……と期待しながら読み進めていったもので。

 そういう題材を持ってきたことからして、このシリーズはそういう解決策を良しとする作品とは違うのでしょうねぇ……。
 どちらかというと、大人しくは見えても殴ってナンボ、みたいな熱血パターンというか(アクション作なんですから、それは当然正しいのですけれども)。


 ところで。
 集団に埋没してしまうような没個性の少年が、人並み外れた能力を持つオンナノコの集団に取り込まれて自らの価値を見出しつつ事件を解決するお話。
 ……ってまとめると、この『不思議使い』も同じMF文庫から刊行されている麻生俊平センセ『つばさ』も同じになってしまうよーな。
 同じ担当さんですし……。
 おふたりの作品であとがきをみると、アドバイスを送り合う親密関係みたいですけれど、それが何らかの影響を及ぼしているってことは……ないのか心配。
 『つばさ』の次作で、新顔のオンナノコに告られて戸惑う主人公と、その主人公にヤキモチやくオンナノコの図があったりしたら……。
 あわわ……。

 どちらの作品も、最初から飛ばしてキャラ多すぎなのではないかな〜……と思ってしまうのは同じトコロですか(苦笑)。
 

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