○● 読書感想記 ●○
2006年 【1】

※ 表紙画像のリンク先は【bk1】です ※

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20
 
『走って帰ろう!』 加藤聡 著

 わおっ!
 自転車レースものってことで期待していたんですけれど、舞台仕掛けで斜めに行かれたカンジ。
 んでも期待した分には応えてくれたので満足〜。

 一人称で淡々と語っているからといって、他者と一線を引いているような冷めたカンジは受けないんですよね。
 そんな昨今多い「無気力」とか「無関心」とかとは離れたトコロにいる主人公で良かった〜。
 そーゆーのって、物語の最初に「ゆずれない部分」を明示しているから、軽薄さを逃れているのかなって。
 むしろ冷めた語り口に努めているな〜ってカンジがして、レースをせざるをえない主人公の真剣さが伝わってくるのですよ。

 もちろん冷静であろうと努めていても、どこかで綻びが生じるワケで。
 自らがおかれた不条理な立場との間で冷静たれと命ずる心の葛藤が〜。

 誰かの手を借りて楽な場所に逃げ込むつもりはない。僕の居場所は僕が作る。
 そう何もかも思い通りになってたまるか。
 そんな訳で僕は走り続けている。ゴールは果てしなく遠いけれど。

 逃げることを潔しとしない心根の持ち主だから、冷静でいようとするフリがまた哀しいっていうか辛いっていうか(T▽T)。


 レース周りも流れるような勢いがあって良かった〜。
 手に汗握るっちうか!
 あまり馴染みがない競技でしたけれど、ことさら専門的な面へ踏み込んでないのも読みやすくって好感。
 競技を学ばせるには足りなくても、物語を理解させるには足る語彙の使い方。

 展開にも栄光と挫折、そして復活が織り込まれていて、きちんと計算されてるなって。
 ファイナルレースの展開は、ちとバタバタ感があったようにも思いましたけれど、完全燃焼したーってカンジはしたので〜。


 段落?が異様に細かく区切られていたのは……んー、どうなんでしょ。
 読みやすさ/理解しやすさの一助にはなっているのですけれど、ひとつの作品としては、ちょーっと美しくないかなぁって思います。
 ひとつひとつのシーンをもっと長めに描かれたとき、どう印象が変わるのか見たい気がします。


 「委員長」といい部活の後輩といい、なんだかんだでモテモテなのも、彼ならわからないでもないかな〜。
 ご都合主義と言われればそれまでですけれど、影を負ったオトコノコには目がいくものなのですよ(苦笑)。
 ……んでも後輩ちゃんは、最初の登場時にはオトコノコかと勘違い。
 だもので、お弁当持ってきたときには焦りました(笑)。


 筆致は好きですし、展開に寄せられる要素もわたし好み。
 次の作品が楽しみです。
 


19
 
『抗いし者たちの系譜 逆襲の魔王』 三浦良 著

 理を説くキャラクターたちに感化されたわけではないでしょうけれど、全体を通して「聞かされている」感が強いような。
 誰か朗読者が語るコトバに耳を傾けているような感覚。
 そんな次第で直にキャラクターたちと心を通わすことのできる筆致ではなかったようにわたしは感じたのですけれどもー。
 そんな「誰かの口を通して語られる物語」も、物語の筋を興味深いものと感じ入ることができるのなら問題ないのかな〜なんて。
 むしろ「うんうん、それでそれで?」って次の話をせがむような心境デシタ(笑)。

 この作品の魅力って、各人の想いが深いところで交錯しているトコロにあると思うのですけれど、反面、それを描くために説明すぎるきらいがあるような……。
 わかりすぎるっていうのも、ちょっと、ね……(^_^;)。


 結び、その後というかエピローグにあたる部分を用意してくれたところは好感。
 事件が解決してハイ終わり!ってのも、まぁ良いとは思いますけれど、すこしでも時間を後ろにした部分が描かれると、「事件」ではなくて「物語」が終わったんだなーって実感できます。


 続編、あるとしても、ラジャスとサラの関係って微妙……。
 現状におけるふたりの力関係は対等ではないように思えるので。
 お姫様を支える王子様って関係には変わらないのですけどねっ!(笑)
 おまけにラジャスのほうはサラに対する気持ちを明確にしてないというか自覚無しって状態ですしー。
 ……鈍いオトコノコと本音を言い出せないオンナノコ?
 あははっ。面白そうなふたりですね(^_^)。
 
18
 
『電蜂』 石踏一栄 著

 ゲームの、此方と彼方の境界線がわかりませんでした。
 全体を振り返ると、筆致がわたしには合わなかったように思います。

 


17
 
『バレンタイン上等。』 三浦勇雄 著

 ブラヴォ〜。
 すんごい、すんごい。
 構成力とか、前作から数段レベルアップしている気が〜。
 物語の起伏、メリハリが効いてて、先を読ませる魅力に溢れてます。


 問題に直面したとき、自信の有る無しではなく、自分の役割を考えて動く姿にはホレますね。
 鉄平もゆかりも。
 自信の有無で動くのは自分のため、役割を考えて動くのはみんなのため。
 自分にできることなんて……と卑下しているのに、自ら動くことでちゃーんと「自分にしかできないこと」を果たしてるんですよね。
 そんな無欲さがほほえましいのです。

 そしてときには「見守る」という行動を選択することこそ、肉体を限界まで酷使することなどより苦しい行為であるという指摘を織り込むあたりもステキです。
 鉄平とゆかりは、どちらかに頼るような関係ではいけないワケで。
 ふたりともにきちんと自らの足で立ち、歩き、互いに向けて誇らしい存在で在り続けなければ。
 がんばれー!


 問題解決も、彼ら彼女らにしか持ち得ない特別な能力ではないトコロも前作と同様で、激しく好感。
 成功を目指すことを諦めない──「根性」が、必殺の武器。
 か〜っこいい!(≧▽≦)


 新登場のキャラたちの活躍はいまひとつな感もありましたけれど、今回は顔見せって考えるべきなのでしょうね。
 今後の展開を待てってカンジ。

 筆致、構成、文句なしデシタ。
 次回作も、もっちろん期待してま〜す。
 

16
 
『ネクラ少女は黒魔法で恋をする』 熊谷雅人 著

 「暗い人生を送っているのは可愛くない容姿のせい」と思いこんでいるヒロインが、「変わらなければいけないのは外見ではなく心」と気付くお話──って。
 始まりと結びはきちんと対になっているのですけれど、そこへと至る過程がボヤけているような。
 うーん……。
 過程というより、ヒロイン・真帆の気持ちの転換点が明確ではないからそう感じるのでしょうか。
 じんわりと彼女の変化は描かれているのですけれど、その積み重ねで真理に辿り着いていくというのは、ちとカタルシスに欠けるというか……。

 演劇部、ことに沙倖関連のお話と、真帆自身の恋話の間に、隔たりを感じてしまったのも、ボヤけたと感じてしまった一因かも。
 沙倖に対して真帆がどう感じているのか、よくわからなかったというか、素直に受け容れてしまっていることに納得がいかなかったというか。


 お母さんに「見に来てください」と誘いながらあのラストでは、ちょっと不義理なモノを感じてしまったのです。
 んー……。
 それでも作中の人たちはそれでも良いのですよね。
 不義理に感じてしまうのは、世界を外から見ているわたしの感覚なワケで。

 筆致や主題の描きかたはキライじゃないんですけれども、なんだかモヤッとしたものが残ってしまったお話でした。
 


15
 
『ファイナルシーカー レスキューウィングス』 小川一水 著

 プロフェッショナルの最前線での姿を描く、小川センセらしい作品ですねぇ。
 とりわけ「小川センセらしさ」を感じるに至ったコトバがこれ。

 最前線に劣らぬ働きをしていながら、国防の中における位置づけではいまひとつ最前線だと思われていない人々。

 能力がありながら公正に評価されていない人たちを描くことに長けてますよねー。
 虐げられている……ってほど過激な感情ではないかもしれませんけれど、そこに反骨精神とプロとしての自尊心を見出すワケで。
 後ろ向きでも現状維持でもなく、常に前を見据えて行動する人たちの姿が気持ち良いんですよー!

 もちろん世間的に評価を受けている存在との衝突や、プロ意識から来る挫折など、前途を見失いかけることもあるのですけれど……。
 前向きな心があるからこそ、幾多のトラブルも乗り越えていくワケで!
 あーっ、もうっ!(≧▽≦)

 政治に振り回されても、行き着く結論は、やぱし自分たちの仕事への誇り。
 遭難者を助けるという、唯一にして無二の目的。
 やぱしプロの仕事というのはカッコイイのです。
(逆に言えばカッコイイと思えない仕事ぶりは、その人がプロフェッショナルではないことを示す──ような)

 入りのプロローグから物語の展開、結びまで、よく練られた作品だなーと思いました。
 いやはや、小川センセも、まさしくプロフェッショナルです。
 

 ニュース系のマスコミが注目するのは、救助された遭難者とその数だ。自衛隊は救助システムとしか見なされない。システムだから壊れていれば咎められ、正常に作動すれば忘れられる。

 ──あらためて指摘されたこの事実は、ちょっと痛かったデス。
 自分に火の粉が降りかからなければ無関心でいられるのは、なにもマスメディアに限ったことではないですよね。
 軍拡とか軍縮とか、そこまでグローバルなお話でなくても、同じ日本人が命を掛ける職場にいるんです。
 もっと注目して、自らの目で判断していかないとなぁ……と思うのです。


 余談。
 オビのコピーに「星雲賞受賞作家」とありますけど、MF文庫では初仕事なんですよねぇ……。
 なんだか美味しいトコ取りしているみたいで、モヤモヤした気持ちが(^_^;)。
 


14
 
『マテリアルゴースト』 葵せきな 著

 自殺志願者に「苦しくなく『消える』ことができるのなら、僕はもうここで『ゴール』でもいい」なんて口にさせるなんて、鍵信者へ喧嘩売ってますか?
 コンチクショウ。

 Keyの作品なんて知らずに用いた文言かもしれませんけれど、それならそれで、Key作品を知らないなんて許せない!と思ってしまうわけでー。
 つまるところ、触れてはならないトコロに触れてしまったというだけのコトでした。
 信者ってタチ悪いですから。
 はい。


 そんな次第で公正さを欠いたままに読み進めてしまったワケですよー。
 んー……。
 プロローグの使い方とか、Interludeを連続させるとか、構成に戸惑いを……。
 ことにプロローグと第一章のせいで、物語の始動が遅くなっている気がするー。
 そのほか看護婦さんとか先輩とかも含めて、なんか、こう、展開上に表れる要素の少なくないトコロが物語を構築するには余分なようにカンジでしまったのです。
 ひとつひとつは興味を抱かせるに十分なものであっても、全体でみたときにそれらは本当に必要なのか……と。
 続編やシリーズ化などを見据えた上での要素……と言われれば、なるほどって思いますけれども。
 

13
 
『マージナル・ブルー 空曜日の神様』 水落晴美 著

 境界について言及しているのは興味深かったですけれど、なまじわたしの関心ある分野だったもので、作中での扱いに物足りないモノを感じたり……。
 民俗学方面で攻めるなら、もちっと、こう、全編を通して雰囲気を醸し出してほしいなぁ……と思ったりして。
 着想のひとつとして取り上げた小さな部分に、わたしが気にしすぎなだけかもしれませんけれど。


 オトコノコの不要さには泣けてきたりして。
 なんだかデジャブするなぁ……と考えてみたら、あれです。
 『神無月の巫女』と似てるのかな〜なんて(^_^;)。

 真人と葵が互いを意識するきっかけと、執着する理由がいまひとつつかめなかったのです。
 だもので、終盤の流れへ感情移入できなかったというか。
 茜ちゃんの行動理由は整然とされていたように思います。
 それゆえに真人不要論がー(苦笑)。
 


12
 
『憐 遠いキモチと風色のソラ』 水口敬文 著

 主人公の立場での憐の葛藤はすでに決着がついているワケでー。
 言ってみれば『憐』という作品のクライマックスは過ぎているんですよね。
 んでも、この最終巻では、自ら見出した答えに対して真っ直ぐに動く彼女の姿が心地よいです。

 すでに答えを見つけている憐と、迷いの中にある眞依。
 この巻での見所のひとつ、彼女たちふたりの対比も、憐の主人公らしさを綺麗に際だたせていて好感です。
 一方の眞依のケースにしても、端役として使い捨てるのではなく、丁寧に前向きな着地点を配するあたりも良いなぁ……と。
 先述のようにシリーズを通しての主人公の役割を憐はすでにクリアしてしまっているので、一時的に眞依を主人公格として扱っているのかなー。
 この巻だけでも物語としての筋を立たせようとしているのではないかと。

 元あるガジェットに整理が付けられたとは感じられませんでしたけれど(むしろシリーズ中盤以降は足かせになっていたような……)、それでもひとつの時代の少年少女たちの物語としては見事に決着したのではないかと思います。


 あー。
 仰々しいガジェットに因ることのない、オトコノコとオンナノコのお話を見たいです。
 理系的な技巧を施すのではなく、もっと観念寄りの……。
 眞依と図書委員のやり取りとか、憐・朋香・仁美のおしゃべりとか、雰囲気良いんですもん。
 雰囲気っていうなら、一年四組。
 ノリが良くって世話焼きで、ひとりはみんなのために!を体現したかのようなあのクラスからは、水口センセの優しい人柄が伝わってくるような。

 うん。
 優しい気持ちで作られた作品でした。
 次回作も期待してまーす。
 

11
 
『虚攻の戦士』 神野オキナ 著

 いきなりの情報過多で目が回る〜。
 個を描くことより、集団や組織など全体を描くことに傾倒してきているのかな……。
 本編を理解するために必要になるから予備知識を与えますね。覚えておいてくださいよー──ってカンジな、序盤の説明ラッシュ。
 わたしという読み手には優しくなかったDEATH(TДT)。

 いまはこの程度の情報ラッシュでも、かる〜く処理できるくらいの理解力と記憶力がないと、ラノベの読み手たり得ないのかなぁ……。

 背負うたモノを隠しているせいで、「素の自分」みたいなトコロをキャラの誰からも感じ取れなかった次第。
 キャラへ共感をおぼえるための情報が伏せられている──と感じてしまったのですがー。
 続刊への伏線だというなら理解はしますけど、こうも難しいと……。


 デブオタ、デブオタと連呼しながらも、実はデブオタというのは隠れ蓑デシター……っていう展開には裏切られた感が。
 デブオタだってカワイイ幼なじみに好きになってもらえる希望を見せてくれるかと思ったのにーっ!!(><)
 やっぱりデブでオタはダメなのか──っ!!!
 ていうか、汗もかかないデブオタなんて、それこそが『虚構』だーっ!
 汗はかくけれど清潔にする!とか、そういうスタンスで描いてくれる作品はないのかなぁ……(TДT)。
 


10
 
『ユメ視る猫とカノジョの行方』 周防ツカサ 著

 周囲への無関心・無感動が行動規範なオトコノコって、もはやひとつのスタンダード?
 そういうキャラ造型って苦手……。
 しかしながら当作品の主人公・智季は本心から何者にも心を動かされないワケではなく、理由があって距離を置いていると。
 そういったココロの距離感については、雰囲気良かった〜。
 エピローグでは他者との関わり合いについて新たに意識するようになっているところをカンジさせますし、主人公としても物語としても、間違ってはいない有り様だなと。

 清涼に澄んだ感じを受ける筆致は前作と変わらずで、これも好感。
 周防センセの筆致は好きだーって言えるなぁ。
 静かに流れていく筆致なので盛り上がりに欠けるきらいはあるかもしれませんけれど、終盤の「主人公が動く」クライマックスは前作からの進歩ってカンジがします。
 きちんとメリハリの波を意識されているなって。
 このあたりの作業、もしかしたら担当の三木さんがアドバイスされたのかも。
 周防センセと三木サンのコンビ、ちょっと注目するよ〜ん。

 文章であれこれと細かく披露するタイプではないので、説明や描写が不足した感を受けるトコロもありますけれど、それは伝え記すことを目的に描かれているワケではないとわたしなどは感じる次第。
 必要最低限な情報は提示されていますし、複雑な設定理解を必要としない物語は、素直に読み進めていくことができるのではないかと。

 複雑なのは設定ではなく、個々のキャラの心情……ですか。
 智季はいうに及ばず、円華や鉄男も影を負っていそうで。
 このあたり、続巻で描いていってくれたりすると嬉しいなー。

 それとは別に、キリコと円華の対決もー。
 勘違いとはいえ、宣戦布告には間違いないですし(笑)。
 あー、でもこの戦い、円華には勝ち目薄〜(^_^;)。


 森倉円センセのイラストも雰囲気合ってたカンジ。
 髪のツヤベタが綺麗〜。
 チャプターごとの見開きも良いカンジ。
 次回作も期待してまーす。
 
9
(bk1 扱い無し)
 
『TOWA』 藤永梓 著

 「私」って一人称を用いれば主人公……ってこと、なの?
 物語の進行を思わせるために視点を変える/混在させるなら、いっそのこと全てを三人称視点にしたほうがスッキリした気がするー。

 にしてもだいじょうぶなんじゃろか、新風舎。
 2006年という時期にラノベ業界へ参入するにしては、『ガールズライフ』ともども、いろいろとパワー不足なカンジを受けます。
 もっとも新風舎の出版スタイルは他社に比べて異色でありますし、その点ではかなりドライな数字を設定していそうなので続けられるのかなぁ……。
 
8
(bk1 扱い無し)
 
『ガールズライフ』 木村卯月 著

 オンナノコの日常として、まぁ、そういう生活もあるよね……って理解をしても、それ以上は興味が湧かなかったというか。
 けっして一般的とは言えない日常だとはいえ、それでドラマが始まっているかといえば……うーん。
 男女間の色恋沙汰なんて無視しちゃって、もっとオンナノコ同士の関わり合いを深めたほうが良かったのではないかなー。
 『ガールズライフ』なんですし。
 

7
 
『ぼくのご主人様!?』 鷹野祐希 著

 平行世界において自我と性別が相対する人物間で入れ替わってしまったお話。
 んでも、その平行するどちらの世界での「オトコノコ×オンナノコ」の関係だけでも物語は成立すると思うー。
 いうなれば「平行世界間での入れ替わり」というのは、作品を上梓するためのけれん味だけに付加されたモノに見える次第。
 そのけれん味も一方の世界に偏った描き方をしているので、効果を活かしきれているようには思えないトコロが残念ー。

 大切なひとつの想いを両側から見ているため、視点がオトコノコとオンナノコでザッピングされるのは悪くないのですから、そこに平行世界である意義をはめ込めば良かったのではないかなぁ。
 同じ世界の存在を、ふたりそろって飛ばすことはなかったように思うのですけれど。
 もしくは「オトコノコとオンナノコ」の組み合わせはふた組あるのですから、別世界の者同士で不器用な想いの有り様を伝え合うとか、この世界ならではの描き方はもっとあったように……。
 そこまで複雑にはできなかったという判断なのかもしれませんけれど。

 同じひとつの世界で生きてきた「オトコノコとオンナノコ」の間での視点入れ替わりはそうしてわかるとしても、序盤、ふたり以外の視点が入っているのは美しくなかったような。
 プロローグと、デブオタの件。
 前者は技巧的に仕掛けてみたという意図を感じますけれど、後者は不要な状況説明だったと思うのですが。
 結局、のちに主犯の言葉を持って同様のことが説明されますしー。

 友達の春生の存在も微妙……。
 千尋に重ねてしまって良かったと感じてしまうほどの存在感……(^_^;)。


 それでも、冒頭からオトコノコが前向きな姿勢で事態対処に動き出すところは好感が持てました。
 惜しむらくは、その前向きな姿勢のみで物語が成立してしまったトコロでしょうか。
 世界間を渡ったことに対応するためには苦慮しても、大切な子を守ろうとすることには苦悩も葛藤も無いので、物語に起伏が乏しいような。

 もっとも、このお話、「幼なじみの子が数年離れていても自分のことを想ってくれていた」なんて、ベタもベタなお話なので、「あきらめなければ願いは叶う」なんて、それはそれは綺麗事なモノでも悪くないのかもしれません。
 現実にはありえそうもないことを描くことが、エンターテインメントの基本でしょうし。
 それを子供だましだーって怒るのは、汚れてしまったオトナの言い分。
 夢を見ることを許されている少年少女たちへの賛歌──なのかも。
 例えば先述の平行世界の活かし方についても、少年少女たちにわかってもらえるように平易に描くことに努めたととらえることもできます。
 うん。キライじゃないですよー。
 


6
 
『マロリオン物語1 西方の大君主』 デイヴィッド・エディングス 著

 セ・ネドラ大活躍ー……っていうか、奥方として登場しているから存在感増して嬉しーっ!
 『ベルガリアード』の正統続編ってことですけれど、読み手のハートをつかむのがうまいなぁって思います。
 キャラクターたちとの再会にニヤニヤと楽しませつつ、少しずつ不穏の影を表しながら、急転していく物語。
 続編として作られた作品の見本みたいなカンジ。

 この巻だけでも名台詞(迷台詞?)が多いなーって思います。
 「ザンドラマスに気をつけよ!」とか「なんでぼくなんだ」とか「たきぎだ」とか(笑)。
 あー、たのしー!(≧▽≦)

 んでも、バラクたちが同行しないという展開については残念に思うんです。
 アレンディアの王宮での出来事を名シーンのひとつに数えるわたしは、バラクやマンドラレン、ヘターたちがガリオンの側にいないことは本当に残念というか不安になるというか……。
 まぁ、彼らは彼らで勝手をして、決して舞台から降板するわけではないんですけれどねー。

 リセルとかヴェラとか、女性陣の立場が強く前に出てきているのは、やぱしリーさんの影響なんでしょうか。
 理由はどうあれ、それで面白くなってきていることは確かなのでOKかな。

 シラディスとか、ほんっと良いキャラですよねぇ……(^_^;)。


 続きが気になって、旧版を読み返そうか迷ってます(苦笑)。
 

5
 
『BLACK JOKER -少女たちの方程式-』 あくたゆい 著

 表に出てこないキャラクターが事件を解決していくって、好きくないなぁ……。
 能力者集団としての組織を設定に盛り込んでいるので、それなりのメンツをそろえないと体裁が整わないのはわかるのですけれど。
 んでも、初めての刊行作品でこの人数は、わたしにはちとつらかったデス。

 刊行にあたって真純というキャラを追加したような逸話が編集部からのお言葉としてありましたけれど──。
 うーん……彼女は必要だったのかな?
 ミシェルを掘り下げる方向ではダメだったのかな?
 そうした作品はこの世にありはしないので、答えは見つかりませんけれど──。
 オンナノコ×オンナノコ的な雰囲気を入れたかったから……とかじゃないんですよね? ね?

 人付き合いがうまくないミシェル、頼れる兄さんのビクター、クールビューティーなトキオ……の3人だけでも雰囲気は悪くなかったような。
 真純が「要らない子」に見えて……あわわ。

 風都ノリせんせのイラストは可愛らしくてステキなので、今後、存在感が増すことに期待!(^_^;)
 

4
 
『覚醒少年』 北山大誌 著

 物語を始めるに当たっての設定が複雑……っていうか、説明しすぎのような。
 「特殊な能力を持つに至った経緯と現在の暮らしぶり」を読み手に納得してもらってから物語を進めようってことなのかもしれませんけれど。
 でもこれ、進めながらわかるようにしてほしい気が。
 その説明のせいで、入りの部分がもっさりしているように感じるんですよー。

 展開のところどころも、ちょっと都合良くないかなぁ……と思ったりして。
 ひとつひとつ説明がされて、納得できなくもない理由付けは提示されているんですけどー……。
 んー、ちと強引?

 キャラ造型に関して言えば、性格は好きかも。
 んでもスーパー過ぎる能力を持っているキャラの行動を応援する気にはなれなかったかなー。
 危険なミッションに立ち向かう勇気をみせたところで、思うのは応援する気持ちではなく、「それだけの能力を持っているんだから、もっとうまく立ち回りなさいよ」デシタ。

 いくつかの犯罪を、そうと知りつつ行っている方向性も、好きとは言えないかも。
 けっしてピカレスクってわけでもないですし、「罪の意識に乏しい少年少女」って映っちゃったんですよね。
 現代という時代を表しているっていえば、そうなんですけど……。


 それでも、さわやかな締め方は好感です。
 物語の要素をもっと簡素にして、シニカルな方向へ進まなければ良いなぁ。
 

3
 
『楓の剣』 かたやま和華 著

 江戸期を舞台にした読み物というモノに不慣れなもので、読み始めた当初、雰囲気つかみにくかったです……。
 剣客小説とか読まないもんなぁ……。
 わたしの読書傾向に偏りがあるという事実はおいておいても、この時代背景を扱うラノベは珍しいような気がします。
 著者のかたやまセンセはこの時代がたいへんにお好きだそうで、この作品も狙ったというより身のうちから自然ににじみ出たモノなんでしょうねー。
 願わくば、そうした「既定路線にない珍しさ」だけで今後の売り方が決まりませんように。
 筆致とかしっかりしているので、これからちょっと楽しみー。
 いくら好きだからといっても時代考証ばかりに行が割かれているわけではなく、わたしには必要最低限ってカンジがしました。
 あー、色々書きたいトコロでしょうに、きっと我慢しているんだろうなぁ……なんて思ったり(笑)。

 キャラクターの配置も好感。
 物語のためにこの人物が居る……ではなくて、この人物たちだから物語になったってカンジがするので。
 派手な物語ではなかったですけれど、しっとりとして良かったなーと。

 ただクライマックスでは言葉のやりとりだけで進んでいるような感がして、あまり迫ってくるようなモノがなかったような。
 ……だからこそエンターテインメントとしてはちと弱いかもと思ったのですが。
 でも編集部はエンターテインメントとして評価しているんですよねぇ。
 女剣客ってあたりの、キャラの表層しか見てないんじゃないかって思ってしまうー。
 「ツン×ツン」とかね、もうねもうね……(TДT)。
 

2
 
『GOSICK X ベルゼブブの頭蓋』 桜庭一樹 著

 古典トリックをあらためて図入りで説明されると、歳いったわたしなどは、どにも気恥ずかしくカンジてしまうのですけれども──。
 なんというか、こう、丁寧すぎる!みたいな。

 新本格のように、トリックのために成立させる物語というものもあるとは思いますけれど、この作品ってそこまでトリックの成立に比重を置くべき作品ではないと思うのですよ。
 もはや──と言うべき?
 ミステリー文庫とはいっても、誰も推理ミステリを望んでいるワケではない、と。


 桜庭センセの作品群のなかで、ちょっとこのシリーズをわたしは苦手にしているのですけれど、それってヒロインが受け身の姿勢であるところに由来するのかなー。
 運命とか、生きること、自分の価値に関して。
 今巻ではその辺り、ちょーっと境界が揺らいだようなカンジを受けた点が好感。
 その先に不幸がまっていようとも、それを納得しないでほしー。
 王子様は、その名を呼べば、きっと駆けつけるのです。

 その王子様のほうも、ひとつ認識が改まったみたいですしー。
 覚悟を決めれば勇気もでるさ!


 時代が前後して語られている手法、『ブルースカイ』を思い浮かべてしまいました(苦笑)。
 


『こちら、郵政省特別配達課!』 小川一水 著

 この作品をリアルタイムで手にしていた人は倖せだな〜。
 うらやましすぎ。
 勢いで書かれているな〜って思うトコロもあったりするのですけれど、それは小川センセの若さですよね。
 皆が不可能だと思う事柄を、機転と意地、そして溢れんばかりの熱情でもって見事解決していく──って、わたしが好きになった小川文学を久し振りに見ました。
 最近の作品は……ちと綺麗に収めすぎな感もなきにしもあらずだったのでー。

 組み合わせの妙っていうのも、小川センセの作品の魅力ですよね〜。
 郵便で一軒家をまるまる配達させてしまうって、想像のスケールが違いすぎるというか。
 郵便配達のスケールと、一軒家の大きさであったり重さであったりのスケール。
 それを合わせてしまうんですから、やぱしセンセの着眼点には敬服です。

 プロフェッショナルな人たちの生き様はもちろん胸を打つものなのですけれど、プロと呼ばれる人たちが仕事に誇りをもっているのは、それが人のためになると信じて疑わないからなんですよね。
 だからこそ独善でも傲慢でもなく、読み手のわたしは応援したくなるワケで。

「ヘリの真上だったからここに来たの。生きてたのね! わかる? あたしの声が聞こえる?」
「……わかる」
 眠気を上回る疑問に突き動かされて、水無川は尋ねた。そして、その答えを聞いたとき、なぜか深く納得してしまったのだ。
「あなたは……誰だ?」
「郵政事業庁特配課九班、班長の桜田美鳥と副班長八橋鳳一です! 水無川長官、お手紙です!」

 無茶してるな〜って感じるんです。
 んでも、その無茶がすごくステキなんですよね。
 長官に手紙を渡したシーン、思わず嬉しくて笑っちゃいました。


 経費を無制限に扱えたり、素人が体力のみで日本アルプス登攀しちゃったり、そーゆー展開は若いよなぁ……って思ってしまうわけです。
 穂高岳って、沖田君の命を奪った峰じゃなかったでしたっけ?(生徒諸君)
 のちの『第六大陸』などでは費用面での制約なども盛り込んで、より劇的にされていることを考えると、やはり古い作品だなぁって。
 可能不可能に対する説明の多少とか、展開への条件付けの甘さとか、現在の作品に比べると豪快すぎる気がします。
 んでも、好きさ!(≧▽≦)


 小川センセの作品にしては、恋愛色が表に出ているな〜って思うのですけれど。
 熱血漢だけれども自制する判断力を備えている年上の男性と、嫌なモノは嫌だと言ってしまう素直さゆえに世界の複雑さに悩んでしまう年下の女性って組み合わせ。
 センセの作品では定番な気がー(笑)。
 ラストシーン、すっごくステキ。
 知床の風景が目に浮かぶわ。

 古さはもちろん感じますけれど、時間の流れに負けていない、小川センセらしい良さがあります。
 わたしがいまステキだと感じている小川センセにつながっているものが、この作品には確かにありました。
 あーっ、もう。今年も小川センセの作品が楽しみだな〜っと!(≧▽≦)
 

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