○● 読書感想記 ●○ 2005年 【7】 ※ 表紙画像のリンク先は【bk1】です ※
「ですが、お任せください!」 青白い顔に引きつった笑みを浮かべて、フローリーは叫ぶ。 「わたくしたちTMEと、ヘルフォード中佐の『メイドン・カースル』が、きっとご無事に皆さまを──」 強烈な爆風が寝台車にぶつかった。車体は大きく左に傾いたが、かろうじて転覆せずに持ちこたえ、大音響とともにレールへ車輪を戻した。 「──皆さまをお連れしますっ!」
小川センセの作品で、プロがその職業意識を気高く掲げたときには、ヒートアップするほかないわけで! やるべきことを心得て、どんな危機であろうと務めを果たそうとする様には、早くも感涙モノですよ。 主人公のテオはプロの意識を教えられてはいるでしょうけれど、それを体現するまでには至ってないってカンジ。 彼が自分のやるべきことを自覚すれば、この物語も終盤に入るのでしょうね。 んー……。 今作でいうとテオだけでなく、彼と友人になる3名にも務めが生じそうですね。 アルなどはすでに鉄道知識を披露する機会に恵まれていますし、下巻ではアッと驚く策を講じてくれそう。 ローラインは──テオの成長を加速させるヒロインって役どころ? 憎からぬオンナノコが信じてくれれば、オトコノコは強くなれるものですしー。 キッツは過去と向き合うときに必要ですしー。 というか。 上巻だけでは「分水嶺戦争」なるものの存在がいかようなモノだったのか、まだまだ霧の向こう……。 この辺の披露の仕方が、ちと緩く感じるのですよねー。 これだけ路線図を示しながら、TMEが采陽に釘付けってことはないでしょー。 下巻では大陸東側を回りながら、総元締めのレーヌスに反攻を!……って展開を読んでみましたが、はたして!?(笑)
「それとは全く逆です。あんなに自制心の強い女性は他に知りません。黙って怒るし、黙って喜ぶタイプです。とっつきにくいところはありますが、そこがなんと言いますか。個性的であろうとしていないのに個性的、と言いますか。……味がある、と言うんでしょうか?」
作中人物がクチにした言葉ですけれども、これってなんとなく米澤センセの作品に登場する主人公(探偵役)の人物の評に近いような気がするんですけれど? 性別の違いはありますけれどー。 それと……。 <GEN>さんの「ちょっと気になるんですが」に反応した人──挙手(笑)。
オカンみたいな一弥にワラタ。
わかるな、物事のはじまりに興味をもつのはダーニクが最初じゃなかったのさ。
──とか。 ポレドラとのなれそめには笑わせてもらいました。 初めっから、全然ダメじゃん、ベルガラス! 負けてるよ!(笑) カーテンへのこだわりの件とか、デイヴィッドとリーのやりとりそのままなんじゃないかって思います。 <珠>を奪還するために谷を旅立つ際、チェレクとその息子たちの言い訳を落ち着いて受け答えするポレドラの様子は……バラクとかシルクとかがポルガラに見破られている姿に重なりますねぇ(笑)。 そして、おバカなおじいちゃんだなーって思ったところ。
つむじを曲げたときのポレドラは、そりゃもう愛らしいんだ。ガリオンならたぶん理解できるだろうが、ほかの連中には無理だろうな。
──理解できる! できるけどもっ! あんたたち、ホンマもんの家族だよ(笑)。
青春はやさしいだけじゃない。 そして痛いだけでもない。 米澤穂信が描く、さわやかで ちょっぴりホロ苦い青春ミステリ!
──というのは、本当によくセンセの作品のことを表しているなと。 んで、摩耶花ちゃんもそーゆー彼のことをちゃんと見ていて……。 奉太郎とえるちゃんとは違った意味で、この二人もお似合いですよねー。 摩耶花ちゃんの苦しみも、分かる……というか、感情移入しちゃったデスヨ。 ミステリは最初の仕掛け──制限条項の提示、が割と需要だと思ってます。 そのなかには時間制限もあると思うんですけれど。 時間内に解決しなければいけない……って展開。 ドキドキしますもんね。 その他に今回は部誌の売り上げカウントダウンも関わってきて、ドキドキ感倍増。 表記の仕方もそれを煽ってくるというか。 しっかし200部って尋常じゃないですよねぇ……(苦笑)。 今回、安楽椅子探偵を奉太郎は気取るのかなー……って思っていたんですけれど、なかなかどうして。 料理対決のあたりとか、かなりアクティブに感じちゃいましたデスヨ。 うん。 ミステリの本旨の部分とは別に、あのシーンは盛り上がった!(≧▽≦) 『氷菓』とか『愚者のエンドロール』もそうなんですけれど、事件というモノはそれが目に見えるまでに表面化する前の段階で、すでに発生している……と。 時間をさかのぼって事件が描かれるっていうのが、米澤センセのミステリの特徴……と言えなくもないかしらん。 あー。 『さよなら妖精』の描き方も時間をさかのぼってますかー。
「愛は人を傷つけるものだ。人は人を傷つけるものだ。それが生きていくということだ」 マダーはアザーを見つめる。 視線を逸らさない。 「だから、もしお前が人を愛すると人が傷つくというのなら。もし、お前が毒で、お前の愛を受ければ誰かが毒に侵されるというのなら。それはとてもお前が人間らしいということで、それ以上でもそれ以下でもないのだろう。……だいたい、お前はそんな、一人だけで自己完結して馬鹿みたい」 (中略) 「面白いじゃないか、私たちはごっちゃごちゃだ。お前が毒だというのなら私も毒になろう。それがなんだというんだ? みんなそうだ、大したことじゃない、自分の望みを叶えることが、全ての人にいいことだなんて、そんなはなしはどこにもないし、自分の恋を叶えることは、いつだって相手の恋の芽を全て枯らしていくことだ。(後略)」
しょうがないよね。 生きるとか人とか恋愛とかって、そういうものだし。 きれい事だけでは済まされないというかー。 そういう点ではアストレアの発言も近似なのかもしれないですけれど、本質が異なるとどうにもこうにも。 だから、どうする?──の先に見据えるモノの違いというか。 しようがない……ってことを悲観するのか楽観するのか。 正しいかどうかは別──っていうか、その問題には答えなんか無いのかも。 んでも、自分の考えを見つけている人は、強いなって。 アストレアやスノウ王女なんかは、そうした答えをまだ見つけていないクチ。 はっはっは。悩め、若人よ。 次巻ではそうした悩みへの解決編かなー。 野梨原センセの本に、問題や悩みの答えはありません。 でも、一緒に考えてくれるような気がします。