○● 読書感想記 ●○
2005年 【5】

※ 表紙画像をクリックすると【bk1】へと飛びます ※

TALK TOPへ

 

20 『ボクの瞳に映るのはキミときどきユーレイ』 歩川友紀 著

 タイトル……語感が悪くありませんか?
 もっとも、本文中で多用される「フォントを変えて擬音を表現」というスタイルに馴染めないような、古いセンスのわたしの言うことですからー。

 んーと。
 メインで出張る男の子が持っている設定のどれもがクライマックスで作用していないので、主人公というポジションに疑問が生じてしまうというか。
 メインの女の子Aが持つ「男性恐怖症」という障害を乗り越えるにあたって、件の男の子はなにを成したのか考えてしまいます。

 得るモノと失うモノの狭間でなんら葛藤せず、ただ心の奥から願い、腹の底から叫べば事態が改善するというのでは、ただ駄々をこねているだけにわたしの目には映ります。
 たしかに行動するということは大切なことかもしれません。
 でも、そこへと至る心情に苦しみを伴う何かが無ければ、その結果に得たモノがあったとしても、それは「大人への成長」ではなく「歳を経た子供」のままなのではないかと思うのです。

「こんなもん、お前の独りよがり、ただのジコチューじゃねえか」

 メインで登場している男の子のこの台詞が、どこへか跳ね返っていくような……。
 



19
 
『PARTNER3』 柏枝真郷 著

 セシルとドロシーがーっっ!!!(≧▽≦)
 ふたりとも意識しはじめちゃって、もーっ!
 職業意識とか倫理観から認めたくはないって分かるだけに、互いのことを意識して懊悩する姿が……わたしにはたまりませんねっ!
 わたしが見たい読みたいって思っていた方向へ見事にっ!

 友情と愛情の境界線をどこに定めるのかって……難しいですよねぇ。

 刑事モノとしても迫るような現実感があって頼もしいですね。
 捜査などが本当に現実に即しているのかどうかは分かりません。
 ただ、読み手が望む「捜査にまつわる緊迫感」があるのだと思います。
 今回は事件を解決するという目的の他に、同僚からの邪魔をいかにくぐり抜けるのかという点でも緊迫感がありましたし。
 くぐり抜けるっていうか、出し抜く?(笑)

 以前の事件の関係者であるフェイもレギュラー化しそうで、さらにセシルとの仲も……となって、今後が楽しみ。
 セシルの目がドロシーに向いているって分かっていても、一緒にいる時間が長くなれば……ねぇ?

 フェイのほかにもキャラクターたちが自己主張し始めてきてますし、楽しみなシリーズになってまいりました。
 


18
 
『ベルガリアード物語 魔術師の城塞』 デビッド・エディングス 著

 エランドでしたかーっ! >表紙
 今巻の需要シーンってソコってことですか?
 あのシーン、わたしのなかではけっこうスルー状態(笑)。
 婚約の儀式のほうが重要かなーって。

 じつはわたし──エランドって、好きでもなければ嫌いでもないキャラなんですよね。
 なんというかキャラクター・登場人物というよりは、物語のための舞台設定・仕掛けのひとつという認識が強くて。
 キャラクターも仕掛けのひとつであるということはもちろんそうなのですけれども、もう少し、こう、無機質めいた存在だと感じてしまっているのです。

 そして3巻の表紙に登場していたのは、やっぱりレルグ……なのかしらー。
 今回、彼の後ろに立っているのがタイバ……なんですよね?

 プロローグもこの巻あたりになってくると内容も本編に追いついてきている感があって、理解もしやすいと思うのですけれどもー。
 あらためて読んでみたら、リヴァの人たち……っていうか、アローンの人たちの行動ってひどくないですか?
 とくにトルネドラの人たちの扱いが。
 そりゃラン・ボルーンも納得いかないわ(苦笑)。


 初めて誰かを導く立場になってみたり、魔法を使うことに積極になってみたり、ガリオンの成長が著しいところですね。
 以前あったポルおばさんとの行き違いの件をアダーラに話すところなんて、反省を自分の糧にできてるなぁ……と思いましたもん。
 ガラス細工をポルおばさんへ贈るところもね。
 ふたりが優しくしているシーンが好きなんですよねー。


 それにしても、もともと値段の張る作品でいたけれど、今回、税込み1029円って、文庫本としてはひとつの線を越えちゃったカンジ。
 ボリュームはそれだけあるものなのですけれどー。
 それでもやはり新規読者はなかなか手を出しにくい値段かなぁ……と。
 つまるところこの新装版って、わたしみたいな懐古者がターゲットなんでしょうか。
 


17
 
『荒野の恋 第一部』 桜庭一樹 著

 甘酸っぱーっ!(≧▽≦)
 煌めいているよーっ! 眩しーっ!(>▽<)
 「月の夜 星の朝」みたいだよー。うん!

 これまでの桜庭センセの作品より、わたしは素直に読むことができました。
 うーん……。
 「不器用な生き方」より「不器用な恋」のほうが好みってことなのかも。

 んでも、読み手に考える余地を与える「物語としての脇の甘さ」は、「不器用な生き方」のほうがセンセーショナルに描けると思うので、昨今のライトノベルを支持するかたでは評価が分かれるのかもー。

 要素としては現代の恋愛の部分もあるんですけれど、全体像としては、なんか古典っぽいものを感じるんですよね……。
 男の子──悠也の言動とか、恋愛への障害の置き方とか。

 書き慣れていないということもあるせいか、恋愛に対する向き合い方が真っ直ぐすぎるってカンジるのかも。
 んで、そういうトコロを古典っぽく思う──ような。
 もっとも、わたしはそういうトコロを好感しているワケですけれども。
 うん、好き。


 こういう題材を書いてもらいたいって進言した、新しい担当さんに乾杯。
 三部作ということで、これからの展開を楽しみにしてます。


 それにしても「荒野」って、桜庭センセらしいネーミングだなぁ(笑)。
 

16
 
『学園はっぴいセブン1 われら開運研究会』 川崎ヒロユキ 著

 なんだか、ぐるーっと回って一周してきちゃったカンジがします。
 学園モノに戻ってきたっていうこともあるのでしょうけれど、亜麻乃ちゃんの立場が菊之介が類似してるなーと。

 で、まあ、そんな舞台背景はさておき。
 菊之介LOVEのオンナノコ、出し過ぎじゃーっ!(笑)
 それも登場させるだけ登場させておいて、実際に菊之介となにか進展あるわけでないところがストレスたまるというか。
 恋愛描写が皆無なんですもんねぇ……。

 菊之介に対して抜け駆けしないと取り決めた「淑女協定」は物語を進めるには効果的だと思う……ていうか、理解できるんですけれどー。
 わたしにとっては憎らしい設定ですヨー(T▽T)。

 たぶん、最後まで決着しないでラストシーンを迎えるんでしょうねぇ……。
 ああ……。
 みんなに「誰がイチバン好きなの!?」と言い寄られている菊之介というラストシーンが目に浮かんで……。

 仮にそうならなくて誰かと結ばれるとしたら……。
 今回の流れからすると、くりやちゃん……かな?
 いや、でも、わたしは、たもんちゃん派ですから!


 RUSHで始まったコミック版は、この学園シリーズを原作にしてますね。
 小説というより脚本というカンジを受ける作品なので、面白いメディアミックスかと。
 アニメ化も楽しみですよー。
 Little nonが主題歌ってところも注目〜♪
 


15
 
『竜が飛ばない日曜日』 咲田哲宏 著

 大願成就と慢心した犯人が意気揚々と自白をする──。
 クライマックスの入り口では、やっぱり推理ミステリーの手法を思い浮かべてしまいました。

 同じ言い回しが複数回用いられていたりと、技術的な面からデビュー作っぽいつたなさは見受けられてしまいます。
 ……だけど。
 事件の首謀者に語らせてることが目的ではなく、事象の解決を主人公たちの自発的な行動によって図らせるというスタイルは、物語の帰結を見る──見せられるにあたって非常に好感なのデスヨ。

 限られたページ数のなかで、主人公たちの感情の移り方もじっくりと描かれていたと思いますしー。

 貴士や瑞海は物語が進むにつれて、すごい力に目覚めていくわけでも、世界の英雄になっていくわけでもありません。
 でも、彼らの気持ちは、確実に変わっていくのです。
 その好ましい変化は、きっとわたしたち誰もができうることなのでしょう。

 必要なのは、新しい一歩を踏み出す勇気。
 自分の気持ちに正直になること。
 そしてそんな自分を大切に想ってくれる仲間を信じること。

 ほんの小さなきっかけで、人は変わることができるのです。

 そして終章。
 作品はきちんと終わらせることにしても、物語は続いていくことを惹起させられるのです。
 こうした結びをしっかりとされているのトコロも、わたしのなかではポイント高し。

 未熟な少年少女たちが精一杯生きていく様を描く学園小説として、良作なのではないかと思います。
 


14
 
『水の牢獄』 咲田哲宏 著

 SFホラーを推理ミステリーのセオリーで描いた作品……というカンジでしょうか。

 キャラクターの登場のさせかた、設定の披露の仕方が、至極素直な気がします。
 物語が進むことによって明かされるべきモノ以外は、初登場時にちゃんと読み手に説明してくれる手法。
 あとになって隠し球みたいに「実は!」と披露させるのは、不誠実でしかないと思うので。
 もっとも、そういう手法って脚本に近しいものに思うので、昨今流行の勢いある文章の作品にくらべると、どうしても野暮ったさが表れてしまうのかもしれませんけれど。
 そうだとしても、わたしは誠実であることを物語の送り手には望みます。

 ことに推理ミステリーの展開を持ち込んでいる場合、設定を隠すことはあまり上策とは言えないと思うんです。
 事件解決に隠されたキャラ設定が活かされるなんてことが起こったら、興醒めですし。
 そういうことを思うにつけても、巧い展開のさせ方だなぁ……と思うのです。

 事件背景が過去につながっていることを表すことを、キャラクターの独白で済ますのではなく、過去のシーンをザッピングするのも良かったかと。
 その過去のシーンと現実で進行中の展開との関係が絶妙なカンジ。

 キャラクターの能力面での設定は最初に披露していますから、あとは知力・体力を駆使して事件を乗り切ろうとする姿を描いていくワケで。
 誤解や対立などを乗り越え、仲間を救おうとする姿がステキです。
 うんうん。行動するから物語があるんですよね。

 そもそものキャラ造型も、そつなくこなしているような。
 一癖あっても、愛せるキャラ作り。
 良いですねっ。
 

13
 
『彩雲国物語 朱にまじわれば紅』 雪乃紗衣 著

 表紙の背景色、目に痛くありませんか?
 装飾も他の巻にくらべて少ない気がするのですけれど……。
 これが短編集ってことデスカ?


 わたしが見たいな〜って思う展開を描いてくださるのは嬉しいのですけれど、その展開の先にある情景は、雪乃センセとわたしの間で異なるみたいなのがちと哀しい……。
 だって珠翠が、さー……。
 べつに藍将軍が悪いとは言わないですけれど、えーうー(TДT)。
 邵可パパの気持ちも固いですし……。

 ていうか、お母さんの存在感がありすぎなんですよ!
 勝てるワケがないですよ!(笑)


 秀麗と劉輝についても同様なカンジ。
 このふたりは互いの立場や現在の関係を尊重して、今以上に近づくことが無いんじゃないかって思ってしまうんです。
 不惑の歳も過ぎればそういう関係も美しくて良いかもしれないなぁ……とは思うんですけれど、まだ若いっしょ、ふたりとも!
 本編ではこれからしばらく進展は無さそうですし……(TДT)。


 胡蝶妓さんとのくだりは、なんだかジーンときて泣けてしまいました。
 本編でも胡蝶妓さんの存在は大きなモノでしたけれど、今回もまた。
 妓さんは秀麗のことを「娘」と呼んでくれますけれど、普通の母娘の関係では表せないようなカンジですよね。
 お母さんとお姉さんの中間……みたい、な?
 ある集団の中における仲間意識みたいなものもありますし。


 短編集として面白かったです。
 願わくば、本編のほうが政治劇ばかりになりませんよーに(苦笑)。
 

12
 
『平和の鐘、永遠の女王』 いわなぎ一葉 著

 はぁ。三部作だったんですか……。
 最終巻でそう言われても……な、カンジだったりします。
 冒頭の地図なんかも、正直、わたしには今更な感があるのですけれど──。

 この世界を表すのに英語準拠?のルビは相応しくないんじゃないかなー、とかも思ったり。
 シスコンとかさー。
 あとは、たとえシリーズ作品だとしても、その巻でキャラクター初登場時くらいはフルネームで出してほしいなぁ……とか。
 なにか意図がある場合は別にして、そこで出さないならなんのための設定かっ!
 わたしという読み手には、優しくないよっ(苦笑)。


 読み終えた感想では、クレアとカルロを素直には祝福できないでいます。
 それはわたしがこの作品の中で、二つの恋を見せられ、そのように受け止めているからなのかも。
 いわなぎセンセはクレアとクリム、同じ魂を持っていれば恋する感情も同じと見ているように感じられるのですけれど、すくなくともわたしは「クレアとカルロ」「クリムとカルロ」という二つの、別個の恋として受け止めてしまっているんです。
 魂というモノを根幹とするか、恋という感情を柱とするか……。
 物語へ求める、その違い?

 クレアとのことを良かったねと思わないではないのですけれど、このあたりのことにも気を遣っていただきたかったなぁ……というのが本音です。
 なんていうか「運命だから好きになった。好きにならないハズがなかった」と終局的には言われているようで──。
 いやさ、運命だから──ってのは、たしかにドラマティックですよ?
 でも……運命<愛情であることを見たかった、です。

 あー。
 クレアとクリムの魂は同じだから、カルロはクリムに申し訳ないと思う必要は無いってこと……なのかな。
 うーん。そこをカンッペキに同一視した存在と位置づけているなら、そもそもの解釈が異なる、わたしが間違っているってことなのかー。
 ぐんにゃり(TДT)。
 

11
 
『運命は銀弓のように』 めぐみ和季 著

 どこかで見たことのある世界だなぁ……と思っていたら、やぱし前作『そして王国が誕まれる』と同じ世界でしたか。
 神獣とか、ね。

 わたしは前作を好感しているので、共通の世界であることはとりとめて異は無いのですけれど、でも一般的にはどうなんでしょ。
 ことに前作刊行が1年以上も前のことですし、そしてなによりこの物語が共通の世界である必要性は、わたしには感じられなかったのですけれども……。

 トートの正体や<銀角>への思慕のようなものなど、今後の展開についての引きは残されているわけですけれど、もし仮に売れ行き次第でシリーズ化を視野に入れているとしたら、なおのこと新しい世界で踏み出したほうが良かったように思ったりします。

 なんというか、筆者の強い思い入れって、読み手には伝わりにくいんじゃないかなぁ……って思うので。
 むしろそういう想いって、独り善がりに受け取られかねない危惧をはらんでいるワケで。


 んー、と。
 苦言から入ってしまいました感想ですけれど、今回もまたわたしは、めぐみセンセが描かれるヒロインの選択を好ましく思うのです。
 みんなが倖せになれることを目指すヒロインですから。
 そして、移ろう倖せを追いかけ続けるために、同じ場所へとどまることを良しとしないヒロインですから。

 展開が急なところがあったり、けっして時代の寵児になれるような筆致の持ち主だとは申し訳ないのですけれど思えません。
 それでも、センセのキャラクター造型を、わたしは好ましく思います。
 センセが生み出すキャラクターの物語を目にしたいと思えるほどに。
 センセの選択を信じてる……と。
 

10
 
『さよならトロイメライ4 追走の和音』 壱乗寺かるた 著

 「物語」は「キャラクター」に付随するモノ……という考えかたをされているのでしょうか。
 新キャラを登場させることで世界を広げているような。
 一概にその手法が悪いとは言えませんけれど、もちっと既存キャラを掘り下げていく方向でも良いのではないかなぁ……と思ってしまう次第。
 泉ちゃんの除け者っぷりは涙を誘います(TДT)。

 当初に想定していた「物語」の描くためにこれだけの「キャラクター」を配置させてみたけれど、もともと「キャラクター」に用意していた「物語」を描ききってしまったあとは、ちと存在を持て余し気味……という状態に見えてしまうのですけれどもー。

 八千代ちゃんの活躍は、キャラの掘り下げではなくて新規追加設定の類に受けるのです。
 イメチェンとかそーゆーのではなくて、キャラが違う!と。
 でも、ま、もう一度言いますけれど、そうした手法が一概に悪いというものではなくて……えーっと、むしろ、良い?
 うん、オッケーです!(笑)

 遠大な構想に着手されるより、もっと気軽な読み物を書いて欲しいなぁ……と思ったりします。
 改行も、もっとビシバシしちゃって。
 正直、ところどころ長文過ぎるきらいがあるような。
 うがった見方になってしまうのですけれど、あとがきで田代センセのことを今回書かれておられるのは、かの先生の筆致を意識しちゃっているのかなぁ……なんて。
 主人公・トーマスの一人称で書かれる文章のリズムは、わたし、気に入っております。
 ときおり現れる長文は、そのリズムを害しているような気がするのですけれど、いかに。

 あと、些細なところで気になった箇所。
 終盤、都お嬢様がトーマスの隣にぴったりと寄り添うような形で腰を下ろすシーンがあるのですけれど、そこで都お嬢様はトーマスの「右隣」に座るんですよね。
 左手に事情を持つお嬢様なら、トーマスの左隣に座るんじゃないかなぁ……って、なんとなくですけれど違和感をおぼえてしまいました。
 肩が、腕が触れたら、どうしてもトーマスは自分を責めてしまうでしょうし、そんなことをお嬢様は思って欲しくないでしょうし……。
 んー……。
 ちょっと気にしすぎでしょうか。
 でも、今回はその左手の事情に浅からぬ関わりをもつお話であったため、ちょっと気になってしまったのでした。
 そういうところの気遣いができる子だと思うだけに。


 ともあれ、ミステリーとして面白くなってきた気がします。
 主人公ががんばってるもんね。
 トーマスの成長具合と、女の子たちの駆け引きが楽しみです(笑)。
 


9
 
『蒼の行方。』 朝丘戻。 著

 うは〜。
 気持ちの良い物語でした〜♪
 スキスキスキーッ!(≧▽≦)

 魔法とはいつかは効果を失うもので、そうした時間制限があるということが物語性を生むんですよね。
 魔法が解ける瞬間がクライマックスとして用意されているというか。
 それは起こりうるべき事実として用意されることで読み手に前もって想起させておきつつ、書き手はいかにその事実から予想を超えるものを描くってことが。
 簡単に言えば、時間内のドキドキ感ですよね。

 行動を起こさないままに終わりを迎えてしまった恋を、もし、もう一度やりなおせるなら──。
 魔法がかかるまえに、もうサイアクの状況は迎えているんですよね。
 そこからどのようにして盛り返していくのかっていうトコロでも期待感をあおられました。
 ガンバレ……って応援したくなるんだよーん(^_^)。

 主人公・美月だけでなく、主要登場人物みんながまっすぐな心根の持ち主であることも良かったです。
 変にイヤラシイ性格の人物造形をしなくても、人間という存在は複雑な生き物なのだから物語は生まれるものなのかなぁ……と感嘆してしまいます。


 あとがきも巧いなぁ……。
 わずか2ページしかないものですけれど、なんていうか手紙のような雰囲気がステキです。
 そして「──結論」と表されている結びの言葉が、また胸を打つといましょうか。
 この作品の根源にあるものですよねー。
 

8
 
『たたかう! ニュースキャスターV 嵐を呼ぶ整形魔人』 夏見正隆 著

 「夏見正隆」名義では久し振りデスカ?
 このシリーズもついに3巻まで達したんですねぇ……。
 文庫から新書サイズへ移って成功ってことでしょうか。
 読者層の違いから、夏見センセはもう文庫には戻れないような気が(^_^;)。

 んで、本編。
 ……んーとですね。
 夏見センセの作品に登場するキャラクターは、主要人物をのぞけば、存在自体きわめて特化しているというか、役割に一面性しかないというか……。
 イヤな奴は本当にもう「イヤな奴」としての存在しか与えられていないような気がするんです。
 そうした「イヤな奴」という端役なら端役なりの人物が送ってきた、過ごしてきた人生や、ここに至るまでの人格形成のスタートポイントとか、そういうことに思いを馳せることもなく、単に「イヤな奴」として存在しているというか。

 キャラクターはあくまで作品に登場する「要素」のひとつでしかないような……。
 それ以上でもそれ以下でもなくて。
 主人公を苦況に立たせる障害としての役割しか……。
 克則のダメっぷりは本気でイラチしたーっ!(><)
 弁解の余地の無いダメッぷりだーっ!!

 勧善懲悪指向の強い作品において、「愛すべき悪役」なんてあり得ないとは思いつつも、表層だけで行動を取らされているような駒を見てると、モヤモヤ感よりも、こう、苦しくなってきてしまうのです。

 それでいて結局今回もよしみは小さな幸せすらつかんでないですしー。
 もー、さぁ。
 少しくらい良い目を見せてあげたっていいだろう!ってな同情からのフラストレーションですよ!
 この世の中、良いことをしたって自分に利になることはさしてなく、むしろ強運を見方につけた人が勝ち!っていうコンセプトなんじゃないかって疑ってしまうくらいっ!

 ……そう、読者に思わせたセンセの勝ちなんでしょうけど。
 分かっていながらそのように書いているんだろうなぁ……って、こちらも感じてしまうだけに敗北感がっ(笑)。
 うまく乗せられてしまってます。

 主人公よしみの完全な理解者(水無月さん)が、物語の外に出てしまっているっていうのがツライのかなー。
 必要なのは、よしみの行動を正当に「ステキだよ」って言ってあげられる存在なんじゃないかって思う次第。
 今回の秋美はまだその域には届いてないしー。
 

「──わたしが、この世で何よりも大切にしている言葉があります。
 それは『正義』と『友情』です──」

 そう口にした秋実の想いが、これからの展開で表されていったらなぁ……と思ってます。
 


7
 
『夜の王様 昼の王様』 萩原麻里 著

 ああ、萩原センセのデビュー作というとこちらになるですか。
 ティーンズハート大賞の「ましろき花の散る朝に」が2003年で、こちらが2001年ですし。
 ……ということは、この作品を上梓してから応募ですか。
 なんか、すごい。

 童話……としては、ちょっとクライマックスが難しいような印象を受けたのですけれどもー。
 王子のとった行動が、ちと判断力に溢れているように思えて。
 自己犠牲の精神は尊いと分かるのですけれど、失うものが自らの命では、その結果に得られるモノとギリギリ釣り合いが取れているかどうか。
 なんというか、おとぎ話って、命は尊いっていう一般論以上のことを説いていくものではないかなぁ……と思ってしまったり。
 いえ、まあ、それはおとぎ話に限らずでしょうけれど。

 尊いのは命ではなく、その存在だと思いますし。

 このクライマックスへ導くまでは、友情という、命より尊いものの存在をちゃんと説いていたのに……。

 もちろん王子も考えていなかったわけではないと思うのです。
 ここでの描写がなかったことを残念に思うということでー。
 


6
 
『ベルガリアード物語3 竜神の高僧』 デイヴィッド・エディングス 著

 ガリオンが自分の生きかたについて、ようやく向き合う決心を持った巻。
 そのほか、いろいろと物語が動いてきたなってカンジがするところでもあります。
 子馬さんのエピソードは、このあと折々に触れて引き合いに出されますしー。

 <谷>での生活で、少しだけ距離の縮まったガリオンとセ・ネドラなのに、また別れがあるなんてー……。
 韓流ドラマか!ってくらいに、悲恋ぶりか。
 ガリオンを送り出すセ・ネドラが、また、いじらしくってさー(TДT)。

 ところで表紙右上のキャラは誰デスカ?
 んー……。
 不敵な笑みを浮かべているのがマンドラレンで、後ろ髪が長いのがヘターでしょ。
 場所を考えると……レルグ? え? いや、それは……。
 もっと細いイメージがあったんですけど、彼には……。
 んで、ゴリムはモーガン・フリーマンのイメージが(^_^)。

 次巻「魔術師の城塞」ではセ・ネドラ大活躍ですから、旧作同様に彼女の鎧姿が表紙かなー。
 それで、アダーラとかアリアナとか女性陣が初のビジュアル化とか。
 ……王様大集合の表紙って可能性も?(笑)s
 

「ねえ、たまにぼくが今でもただのガリオンで、おじいさんはファルドー農園にやってくる年寄りの語り部だったらいいのにと思うことはない? ポルおばさんが昔みたいに台所で夕食を作っててさ──ぼくたちはぼくがくすねてきたお酒の瓶を持って干し草の下に隠れてるんだよ」ガリオンはそう言ううちに、郷愁がこみあげてくるのを覚えた。
「たまにはな、ガリオン。ほんのたまにだ」ウルフは遠くを見るような目で言った。
「もうあそこに戻ることはないでしょう?」
「昔のようにという意味なら、もうだいだろう」
 

 過ぎ去りし日々。
 時間は、感情とは無縁で流れていくワケで。
 でも、本質では、もうあの頃に戻りたい、あの時間を過ごしたいとは思っていないのではないかなー、と。
 世界のありようを知った今では。
 戻りたいのではなくて、ほんのすこし、いまのままで居たいって気持ちかなー。
 あまりにも周りの流れが速くて、ココロが置いてけぼりになっている状態?
 


5
 
『しにがみのバラッド。 6』 ハセガワケイスケ 著

 なんだか……危ない方向へ進んでいるような。
 ハセガワせんせのメンタル面が。
 この巻のお話、どれも心地よさなんて皆無で、読んでいると痛々しさを感じてしまうんですけれど……。
 そーゆーのって、センセのメンタル状態を反映していたり……する?
 ちょと心配デス。

 「きみがあるく塀の上。」が、今巻のなかではイチバンにキました。
 生きる時間の早さがね、心の成長よりずっとずっと早いんですよね、いまは。
 取り残される寂しさが、ネバーランドを作り上げるのかな──って。
 うまくいかなかったオトコノコとオンナノコのお話として、良作だと思います。
 良作だけど──好みは分かれますよねぇ。
 あのような帰結にならなかった展開だって、とうぜん──それも容易に想像できるのに、それを選ばなかったセンセの選択に対して。

 「彼女の風景」は、単館系のシアターで上映しててもおかしくない雰囲気が。
 なんというか、ソツなくまとまっている……っていうか、オチているようなカンジ。
 ちょっと綺麗すぎるオチかたかなぁって思ったりもしますけれど。
 でも、こういう雰囲気で描けるところが、ハセガワせんせらしいトコロだと思います。
 んで、わたしはそういう雰囲気──これは筆致でしょうか、が好きなワケで。


 ダニエルが登場するお話などを見ていると、幕が下ろされる時期が近づいてきているのかなぁ……って思ったりします。
 少なくとも、ハセガワせんせの中では、もう見えているような。
 

4
 
『リリアとトレイズU そして二人は旅行へ行った<下>』 時雨沢恵一 著

 母、強し(笑)。
 結局、アリソンが美味しいところを持っていっちゃって、トレイズの勇気がかすむかすむ。
 憐れなり、王子様(^_^;)。

 んで、母は強しの一方で、父はどうしていたのかといえば、裏方仕事を……。
 それも地味ーなわりには、重い仕事を。
 んー……。
 彼のそういう立場を思うと、人生ってままならないなぁ……と思ってしまします。
 もっと……こう……、簡単に幸せになれる人生が、彼には許されて良いのではないかと思うのです。
 もちろん、彼は彼の大切なモノのために、そんな簡単な人生を送ることを自分には許しはしないでしょうけれど。
 自分がそうした人生を送るより、大切な誰かがもっと幸せになれることを願う人でしょうから。

 やっぱりですよ……っていうか、当然ながら、リリアのお相手はトレイズしかいないわけで、この物語を物語たらしめているのはリリアの無自覚なんですよね。
 恋心への。
 アリソンとヴィルには無自覚でもつながっているような絆を感じ取れたので安心できていたのですけれど、このふたりはもっと俗っぽいから絆を形としてみせてくれないと不安になっちゃうよーん。

 今回の『御褒美』が絆だなんて言ったら、カルロでも笑っちゃうZEEE!(笑)
 その、ものどかしさが作品のキモなんですけれどもッ!


 そしてようやく「遺書」も収録。
 これで電撃hpが整理できるー!……って思ったのですけれど、イラストが収録されていないのではダメじゃん!(><)
 ほっほっほっ。
 巧いことをやりおるのぉ、メディアワークスさんは……(TДT)。


 「アリソンとヴィル」の時代って、いってみれば神話のようなものなのかなぁ……と思ってみたり。
 それが憧憬に近しい感情を惹起させるのですけれど、だからこそカンジる「ありえなさ」も容認できるような……。
 痛快であると同時に、フィクションであることを意識させられるというか。
 で、「リリアとトレイズ」は、そうした神話の時代から少し近代化した「民草の時代」に入ったのかなぁ……なんて。
 あこがれは薄まってしまったけれど、物語には生々しさを感じるというか。
 良くも悪くも、人間の物語──みたいな。
 


3
 
『大沢さんに好かれたい。』 桑島由一 著

 装丁、本文デザインが好きかも。
 アフターグロウ……って、『憐』とかもそうですか。
 斬新ってほど新しい印象はないんですけれど、これまでとは一線を画しているような雰囲気を受けます。
 ちょっと注目してこー。

 んで、本編。
 桑島センセらしいヘンテコ具合から入っているのですけれど、終盤の流れはキレがあるというか……。
 駆け抜けっぷり、見事。

 簡単には救いも癒しも見つけられないくせに、生きるってことは選択の連続で、後悔もたちまくり。
 態度として主張はしないけれども、確実に読み手に何かを残していく筆致が、桑島クオリティ?


 わたしが勝手に敬愛している松本徹先生の「創作の心得」の中にこんな一説が。
 

 作者は決して直接的になにかを出現させることはできず、読者という他人を回路として、初めて実質的に表現を達成するのです。

 この言葉に表されているようなことが、桑島センセの作品にはあるのかなぁ……と。
 


2
 
『タム・グリン 火竜の翼』 青木祐子 著

 年頃のオトコノコとオンナノコの精神年齢の差が見事に現れていますね(笑)。
 んでも、遠回りしたぶん、ふたりの絆が強くなっていればいいなぁ……と思うのですが。
 なんとなーく、前巻の引きと同じ印象を受けるので、ちと心配。

 物語としてはふたりの仲が引き裂かれる障害を乗り越えていかねばならんのは重々承知しているのですけれどもー。
 そうした物語分はハマッていると思うのですけれどもー。
 ……もう少し、ふたりをイチャイチャさせてもよろしいのでは?な気分(^_^;)。

 今回のお話でも、冒頭ではまだギクシャクしていたふたりですし。
 次回はもう少し距離の近づいたふたりが見たいなっと。

 

アウトニア王国拾遺録2 でたまか 天壌無窮篇』 鷹見一幸 著

 表紙と口絵カラーって……え? マリリン姐御? え? ええっ!?(゚Д゚)
 そんな驚きで口絵カラーを眺めていたのですけれども、恒例の「でたまか」説明の文言がニック・カターク少年のものだったために、本編を読む前にちょい凹み。
 ニック……がんばれー(TДT)。

 で、本編。
 今回は前々から仰っていたように短編集なのですけれどー。
 本編を補う形での短編集って、手段としてどうなのかなぁ……と思ってしまいます。
 チャマーでの1本は本編で明かされなかった彼の変節の理由が書かれているワケですけれども、これって彼の話というよりは物語根幹に関わる設定披露話ですよねぇ……。
 本編のエクスキューズのための外伝ってカンジがして、気持ち悪い……。

 アリクレストにしても似たようなカンジで、どうして本編で書かなかったのかなぁ。
 わたしが外伝に期待する話って、こういう本編の隙間を埋めるような作品ではないんですよー……。


 マリリン姐御とトーダの出会い話は、これしきの邂逅で本編の時間軸まで想いを引っ張るなんて、姐御、乙女スギやしませんかねぇ(笑)。
 うーん……。
 あーゆー人ほど、一途ってパターンなのかな……。
 それを言うなら、このシリーズに登場する女性陣のなかで、一途でないキャラはいないのですけれど。


 マイドが学生の頃のお話「ブルーリボン」とタカハジ大佐の初々しい異性交遊「鉄壁男」は、わたしが思うところの短編らしい良いお話でした。
 んでも、タカハジ大佐のお話って、「電車男」を意識して書かれて……い、る、ような。


 ……まぁ、ともあれ、コットンは無事に本懐を遂げられたようで、良き哉(笑)。

 
戻る