○● 読書感想記 ●○
2005年 【3】

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20
 
『神を喰らう狼』 榎田尤利 著

 クローンを巡る倫理観のお話……?
 臓器移植のためにクローンを造ることの是非は──もっとニュートラルなところから語られるべきなのではないかと、わたしは思ってしまうわけで。
 クローンに人格や意志を認めるのかどうかということと同じ重みで。

 ただこの作品の中では、ある一方を「善」として一方を「悪」として描いているんですよね。
 主義の違いということではなく、正されるべき悪役として描かれるという。
 そこにあるのは異なる主義の対立ではなく、勧善懲悪しかないわけで。

 ……まぁ、この件に関してのわたしの倫理観は、世の中から大きくズレていると思っているので、これで正しいのでしょう。たぶん。
 この作品は当然ながら、榎田センセの主張ということでー。

 クローン問題を別にすれば、解放の物語だと思います。
 あるいは旅立ちの物語。
 世界はどこまでも広がっていて、なにをつかむのかは自分次第ということ。

 筆致はすごく好きですー。
 言い回しとか、リズムとか、わたしには合ってました。
 興味ある作家さんです。

 


19
 
『電波的な彼女 〜愚か者の選択〜』 片山憲太郎 著

 紅香さんの行動。
 なんだか既視感をおぼえるのですけれども……。なんだろう。
 →『ROOM NO.1301』の蛍

 嘘でも偽りでもいいから、少なくとも正しいと思える心を持っている人がいるというのは救いがあります。
 ただ気味悪い物語を書こうとしているのではなく、伝えたいことがあるのだと感じられるので。

 気持ち悪い、醜い……と、この作品を言ってしまうのは簡単ですけれど、それだけでない強い心を感じるのです。
 誰が、なんと言おうとも、譲れないモノがある。
 そしてそれを決めるのは、他の誰でもない、自分であるということ。
 正しいと思うことがあるなら、最後まで貫く。
 その心が勇気なのだと……。

 感情移入対象としての主人公・ジュウは、昨今の作品では珍しいタイプなのではないかと思います。
 強い感情、読み手の心を焚き付ける力強さを持ちながら、その実、彼自身は問題解決に実行力を持たないという。
 「物語を結ぶ」ことと「事件を解決する」ということは異なるのだなとカンジさせられます。
 事件は彼の手では解決されません。そういったことは昨今の作品では珍しいことではありません。
 だけれども彼は、事件から学び、感じ取り、成長して、その結果に物語を結ぶ大役を為しています。
 そこが珍しいのではないかと思う点であり、また、わたしが好感しているところでもあります。


 構造はそんなカンジで好感なのですけれど、構成は……どうなんでしょ。
 新キャラが活かされているとは思えないのですがー。
 行動だけを見ると、雨でも十分に役割を果たしたのではないかと思う次第。
 もしかして「電波的な彼女」であるところの「雨」を持て余し気味……?
 女の子みんなが「電波的」なので、タイトルに偽りはないのですけどー。

 それにしても口絵カラーは、見れば見るほど哀しくなります。
 彼女が……(TДT)。

 ともあれ、続刊を期待します。
 この世界がどれだけ醜いモノで溢れていても、揺らぐことのない尊いモノを描き続けてほしいです。

 


18
 
『クラウディア』 中村幌 著

 哀しい話なんだと思います。
 でも、そんな物語の中にも笑顔を忘れないようなセンス、好きです。
 涙を流しても、笑顔でいられるような。
 希望があるのかどうかはわかりません。
 だけれども、精一杯に生きて、誰かのことを想う物語というのには、わたしが惹かれるものがあるのです。

 はじめて読み終えたときは、あのラストは希望を残した終わり方だと感じたのですけれど、いま読み返してみると少し違うかも……という気が。
 だけれども、そんな未来のことは関係なく、クラウディアとエーファの生き方がはっきりとわかるという点に感動できるのは変わりないわけで……。

 過去と現在を交叉させながら展開させていく手法も、ありきたりながらも非常に効果的であったと思います。
 少しずつ、登場人物の心情に近づいていけるようなカンジがして。

 主人公・ラタが彼女と再会するシーンは衝撃的でした。
 そうであろうという「読み」はあったのですが、いざそのシーンを目の前にすると、予想外のショックを受けてしまったというか……。
 水上カオリさんのイラスト、ものすんごい仕事をしてくれます。


 やっぱり、哀しい話なんだと思います。
 それでも、この作品には優しさがありました。

 


17
 
『ベルガリアード物語2 蛇神の女王』 デイヴィッド・エディングス 著

 セ・ネドラ、きたーっ!(≧▽≦)
 この巻で登場したばかりだというのに、早くもわたしの心をわしづかみ。
 考え無しに「あんなにきれいな人は、いままで見たことないよ」と口にしてしまったガリオンの前から、ショックで泣きながら立ち去っていくとこなんて、カワイイですよねー。
 無邪気に勉強を教えてあげるところとか。
 あれだけ接近しているのに、そのことを意識しているのはガリオンだけって……。
 大人の女性になりきれていないセ・ネドラ(笑)。

 アレンディアの王宮でのナチャクとの対決シーンは、シリーズ通して最初のワクワクするシーンでした。
 短いながらも躍動感に溢れていて。
 というか、わたしマンドラレン、好きなのでー。
 ガリオンを仲間と認めて、彼の誓いを自分のそれと同じく負うマンドラレンに乾杯。

 このシーン。マンドラレンのほかにも、バラクやシルク、そしてヘターの存在感が増したシーンでもあると思います。
 猫のようなステップを踏むヘターが、読んでいて目に浮かんできます。

 マンドラレンを好きなのとは反対に、レルドリンは苦手……。
 改めて今回読み直しても、やっぱり……(TДT)。
 なんか、こう……我の通し方が、性に合わないというか……。
 たぶんわたし、アスター人とは友達になれそうもないです(苦笑)。
 それゆえにベルガラスが──

「きみは意外と分別があるようだな」

 ──とか口にしたのには驚いたというか。
 なんの冗談かと。
 いや、登場シーンは良かったのかも……レルドリン(笑)。

 今回もHACCANさんの表紙は素敵ですねー。
 ドリュアドと戯れているベルガラスが描かれているのがグッジョブ!(^-^)b
 ほんっと、このおじいちゃんは元気ですわ。
 おもに下のほうで(笑)。

 


16
 
『ハルシフォンの英雄』 雨川恵 著

 ……また表題と内容が合ってない気がするんですけどー?
 いやさ、宝剣ハルシフォンの所有者・アレクシードの話ではありましたけれど、宝剣を所有しているという事実がそれほど展開に影響を与えているとは思えないんですよねー。
 庶出であるにもかかわらず王弟でもあって王位継承権を持っているような、彼の複雑(……というほどでもないですけれど)な出自が今回の柱になっているわけで。

 んでも今回は新妻のユスティニアがけっこう登場していたので、とりあえず満足。
 もう少し「妻」としての立場を意識して欲しいかも……とか思ったりもしますけれど、10歳の女の子にそれをさせるのは酷ですか?
 えー、でもー、10歳にしても彼女の言動って幼すぎる気が……。
 時折見せる、無意識のうちに真実を見抜く言葉は、聡いなぁと思いますけど。
 そうした彼女の聡明さが活かされるには、まだ物語が先に進まないといけないと思うのですけれど、はたして続刊は……?

 物語の構成としては、前巻よりスッキリまとまっているカンジがしました。
 ただ、やぱしこの巻だけではどうにも中途半端すぎて。
 まだまだ色々と描きたいことがあるんだろうなぁ……とは思うのですけれど、1冊を一つのエピソードとしてちゃんとして欲しいなっと。


 アレク・25歳、ユスティニア・15歳の頃のお話を見てみたいんですけどー。
 このころになってもこの二人って、「本当の夫婦」にはなっていない気がする……。
 なんだかんだで時機を逸し続けてきてしまうというカンジが(笑)。

 

15
 
『アダルシャンの花嫁』 雨川恵 著

 表題から、もっとこう新郎と新婦のいきちがいと仲直りのような物語を期待していたのですけれども……。
 どちらかというと王と王弟、あるいは王弟を主と仰ぐ騎士のカップリングのほうが目立っていたような。
 政略結婚で結ばれることになった10歳の花嫁というのは、単に波風立たせるためのカードのひとつといったカンジで。
 良人となる王弟に対しての恨み辛みを、花嫁が割りにあっさりと引き下げたようにカンジるのも、彼女が端役なのではないかと思ってしまうトコロ。

 期待していた展開とは離れていたという点は、読むにあたって痛かったデス。

 んでも、物語としては普通に読んでいけたかな?
 冒頭から起伏に富んでいて、先を知りたくなるというか。
 ところどころ前後関係が分かりにくい、文意をつかみかねるトコロがあったのですけれど、全体としては読みやすい筆致でした。

 続刊は……あるかな?
 あるのでしたら、ぜひ新婚生活中心でお願いしたく!
 『ざ・ちぇんじ!』で綺羅と結婚した三の姫みたいなー(笑)。

 

14
 
『暗夜変 ピストル夜想曲』 青目京子 著

 あれれ? 結果、そういうオチにつながっていくのなら、情報屋の出した情報は何か矛盾……というか、間違ったことを教えていませんか?
 ああでも、情報の信頼性については説明していましたけれど、それを伝える人物信用に足るのかどうかは言及していませんでしたか。
 さらに言うと情報屋としての価値はさほどなく、終盤へつながる台詞さえ伝えることができれば物語としては及第なので、そこは不問にしても良い……ってことかなぁ。

 うーん……。
 物語としてはそつなくまとまっているように感じたのですけれどもー。
 盛り上がり方に付いていけなかったのかなぁ……。

 


13
 
『公爵夫人のご商売 〜よかったり悪かったりする魔女〜』 野梨原花南 著

 マダーの泰然自若っぷりは何かを超えちゃっているような(笑)。
 もっともこんな性格でなければ、彼女の身に降りかかったことに押し潰されてしまっているかもしれませんけれど。

 ……野梨原センセって、『ちょー』シリーズでも男女入れ替わりモノを描いてましたよね。
 好きなのでしょうか?

 マダーがそんな性格しているから、旦那様のアザーがなんかかわいそうで。
 でもところどころでマダーは彼を旦那様として立ててくれているんですよね。
 それが義務だからか、あるいは礼節がそうさせるのかは分かりませんけれど。

 とにかくマダーは世間がどうのとかツマラナイ一般論では動くことをよしとしていないんですよね。
 だからアザーにもそうさせる、と。
 自分で考えて、自分で成せ。
 マダーなら、そうする人の背中を押してくれそうですよねー。

 ポムグラは使えそうで微妙な気もしますけれど、それでも味方は味方。
 いつまでもいじけてると、大切な人を逃がしちゃうよー、アザー。

 ま、カデットへの対応はあっぱれだったと言えましょう。
 これは期待できますよ。


 あー、そのカデットね。
 マダーとの対比で面白いキャラでしたー。
 もうちょっとアザーの件でがんばって欲しい気もしましたけれど、あれはあれで二人とも女っぷり男っぷりを上げたと思いますので、良かった……のかな?


 そんなこんなでいろいろとありましたけれども、ともあれ今巻ではマダーの褒め殺しというか、口の上手さが印象的なのでした。
 奥様、大人気ィ(笑)。

 


12
 
『レギ伯爵の末娘 〜よかったり悪かったりする魔女〜』 野梨原花南 著

 魔女見習いの女の子が、友人の呪いを解くために奮闘する話。
 ……って、すごいシンプル! そこがイイ!
 もちろんファンだから好意的解釈で言っているってのも分かりますけどっ。
 ファンでない人が見れば、なんのヒネリもない空虚なお話だと言うかもしれませんし。
 でも好き。
 ごちゃごちゃした設定は無いのは理解しやすさにつながりますし、キャラクターたちも自分というモノを見せるように描かれてますしー。
 彼女たちに感情移入=行動を理解するというのとは別に、進行していく風景を惹起しやすいと思います。

 台詞回しとかの筆致もね、好きなんですよん。
 テンポがよいですし、たまに少し変化球で落とした会話があったりして。
 こういうのって、たま〜にあるからわたしは良いと思うんです。
 なんか、こう、日常っぽいと言いましょうか……。

 呪いを解くために主人公ポムグラニットはあれこれと働きながら、途中、先達の方々のお力を借りるワケですけれども──

 根本的にあたしは何もしてない。あたしが呪いを解いてあげるって言ったのに。そ、そもそも初めっから間違っていたのよ。
「あたしが呪いを解いてあげなきゃ意味無いじゃん」

 ──これこれ。これですわ〜。
 自分で動いて、自分の力で解決しようとする意志。
 そこに物語があると思うわけです。
 偶然とかイヤーボーンとか、生まれた血筋とか家柄とか、スーパーパワーを持った友人知人の類が解決するのではなくて!
 諦めたり嘆いたりせずに。
 どういう物語が好きかと問われれば、今作で描かれるような前向きな物語が好きだと答えます。

 本質的には悪人が登場しないトコも、読んでいて気持ちがよいトコロなのかも。
 情けない小悪党は登場してますけど(笑)。


 それにしてもこの作品、挿絵の枚数が多くないですか?
 203ページで15枚……。
 連載分だから多いのでしょうか?
 実際、第7〜8章は少ない気もしますし。
 でも、鈴木次郎センセの絵はこの作品に合っていると思うので、多くて良し!
 ポムグラニット、かわいー!(≧▽≦)

 


11
 
『ラビュリントスの王子』 藍田真央 著

 えっ? それで終わりなの!?……とか思ってしまったり。
 もうちょっと余韻みたいなものをー。

 別段、大仕掛けな部分ではないにしても、それなりに隠してある設定が、人物紹介のところでバレてしまうというのは、なんとも……。
 序盤でバレるというならまだ作中に入っているから良いとして、キャライラストで物語展開が読めそうになるというのは……。

 んと、でも藍田センセは設定を見せる人ではないから、あまり問題なし?
 今作だってそのことが事前に分かったからって、作品の魅力を損なうわけではないですしー。
 その物語も至極まっとうに描かれていて、安心して読めました。
 もう少し起伏というか、クライマックスでの衝撃のようなものが欲しかったとは思いますけれど。
 あ、あと女の子を……。
 ビーンズってそんなに衆道っぽかったでしたっけ?
 

 たとえば「今日から真面目に生きるから」と宣言しても、人は前日までの不真面目な態度しか知らない。それまでの自分で裁かれるのは、逃げ出したくても決して逃れられない事実だ。

 『ロクサーヌ』でも同じようなことが書かれていましたけれど、もしかして藍田センセの人生観?みたいなものなのでしょうか。
 とりあえず今回もまたわたしはウンウンと頷いてしまったワケですけれども。


 今回、ページ構成とかミスっているように思えたのですけれど、気のせい?
 大きなミスというわけではなく、ページが足りなくてギュウギュウに押し込んでしまいましたー……というカンジで。
 後書きとか人物紹介とか、すごく変な印象を受けたのですけれど。
 本文も含めて、もうちょっと構成を……
ごにょごにょ

 


10
『じーちゃん・ぢぇっと!』 ハセガワケイスケ 著

 なんだか……要素が混ざりすぎているというか、物語を進めるために要素がつながっていっていないような印象を受けるのですけれども。
 そもそも「ちょっとヘンな話」を描きたいトコロで、伝奇アクションに入っていくのは、すこしジャンルの荷が勝ちすぎているような気がするのです。

 「ヘンな話」なら、それほど設定を構築しなくても良いのではないかなぁ……とか言ってしまうのは短慮ですか?
 ……つまるところ作品が放つ軽めな雰囲気と、その実、重めの設定を用いた世界という、その2点の不均衡を気にしているのかもしれません。

 ハセガワせんせの「ヘンな話」をわたしは好きなので言うのかもしれませんが、設定を消化させるために必要となったアクションシーンは、正直、間延びした印象を受けました。
 勢いを「見せる」人ではないと思うんですけれど――。
 もっとこう、ゆっくりと染みるように「感じさせる」筆致のかたなのではないかと。


 じーちゃんがLOVEすぎて幼なじみのミーちゃんは、ヒロインの座に辿り着けていないんですけど、いいのでしょうか?(苦笑)


9
『撲殺天使ドクロちゃん 5』 おかゆまさき 著

 あー、ドラマCDではなくて、TV版キャストを正史にしますー……ってことデスカ?
 まぁ、ドラマCDの方は電撃歴代ヒロインCVをキャスティングしてみましたー……というトコロも売りだったわけですから、それも仕方がないですか。
 んでも、サバトちゃんはマリ姉さんで脳内変換されるダメ絶対音階(笑)。
 ていうかアニメ化で、また妹さんからの直筆メッセージですか!
 ああ、もう……(笑)。

 で、本編のほうは相変わらず笑わせてくれます。
 よくまぁ、これだけネタを考えつくものです。
 とはいっても、本当にスゴイなぁと思うのは、そのネタを勢い殺さずに展開させている筆致なのかなと。
 でも今回、あちらこちらが、えちぃ方向に流れてましたよね。
 「そうとも読める」微妙なラインで。

 あと、もはや恒例とも言ってしまって良いのではないでしょうか。
 あのゲスト企画!
 いや、本文読んでて驚きましたYO!(≧▽≦)
 もはやこの勢いは誰にも止められない気が……。

 今回いちばん魅力的だったのは、マウスピースを付け替えるシーンでの南さん。
 え、あれれ……もしかして?(んなこたぁ、ない)


8
『ROOM NO.1301 #5 妹さんはヒロイック?』 新井輝 著

 うーん……。わたし的には、ちょっと停滞気味にカンジたりして。
 衝撃のシチュエーションも、数を並べられてくるとそれほど衝撃的には感じなくなってきてしまいますし……。
 今後の展開につながっていくであろう、今回のお話なのだろうとは思うのですけれど、それは裏を返せば今回では成立しないお話だったわけで。

 健一の流されっぷりにも、ちと首を傾げてきたといいますかー。
 それで良いと言ってしまう千夜子の存在も不思議で……。
 全てを許せる聖女のような存在なのか、それとも許せるのではなく何処か壊れてしまっているのか。

 面白くなくはないのですけれども、流されるだけの現状ではない展開を、少しでも良いので見せて欲しい気がします。


 ……あー、あとですね、わたしが当初このシリーズを好きになれたのは、あの「13階」を中心とした共同体幻想のようなものが感じられたからなのだと思います。
 で、ここにきて「13階」の意義やら存在やらは、つとに希薄になってきているような気がするのです。

 ――あのとき、あの時間、あの場所に一緒に居たことに意味がある。
 たしかそのようなことを以前仰っていたように思います。
 でしたら、もう少しこう……なんとかならないものでしょうかねぇ(^_^;)。


7
 
『ゼロヨンイチナナ』 清水マリコ 著

 あぁっ!? 今回の舞台って上野じゃないですか!
 しかも奏楽堂とか出てくるしっ!
 つい最近、行ったことがある場所なので、記憶に新しいワケでー。
 これまでになく場所のイメージが沸いてきました。
 ああ、奏楽堂なんて、言われてみれば清水センセっぽい世界だわ(笑)。

 んで今回はー、明智くんの、ちょっと切ない夏物語?
 最近の清水センセの中では暗めではない筆致は、心情的には読みやすかったです。
 でもでも、その今回の主人公である明智くんの言動が、ねぇ……・
 なんか、こー、大切なモノを見失っていることに気付かないままに、自分の行動を無理矢理に肯定しているようなところが、見ていて苦々しく思えてしまうというか……。
 若さ……って言ってしまえば、もちろんそうなんですけども!
 それに後半ではちゃんとオトコノコらしさを思い出してくれたから、良し……かな。
 そういう物語としての展開は、さすがだなぁと思わされます。

 前作のときの彼とは、どことなく印象が違って見えたのですけれど、これもやはり視点の違い、語り部の違いが、そう見させているのでしょうね。

 人間というのは、誰しも一面だけでは語れない。
 キャラクターを単なる登場人物以上の存在に見ているなぁ……と思うのです。
 わたしたちの世界とつながっている場所で生きる、同じ人間だと感じることができるのですよー。

 


6
『リリアとトレイズT そして二人は旅に行った<上>』 時雨沢恵一 著

 歳の差を考えると、アリソンが20歳のときの子なわけですよ、リリアは。
 それで、ヴィルが上級学校を卒業して連邦大を目指して首都に移り住んだのは、18歳〜19歳のシーズン。
 ……ということは、ですよ?
 え、えーっと、これはアリソンの電撃作戦は成功したと見るべき?
 それとも、ヴィルの意外な男らしさを見たと驚くべきかしらん。

 それにしてもリリアが生まれたばかりで家庭的には大わらわな時期に、よくヴィルは3年で連邦大を卒業できましたねぇ。
 娘ができたから、余計に責任感を感じちゃってがんばっちゃったのでしょうか。
 でも、そのあとトラヴァスさんの養子にヴィルはなっているわけですし、案外、トラヴァスさんが「おばあちゃん」になってリリアの面倒をみてたりしていたりしませんかねー(^_^)。


 導師さまの家での食事、ジャガイモきたーっ!とか思いました。
 まぁ、そこまでキーアイテムでもないとは思うのですけれど、旅先で食べる二人の食事にはジャガイモが縁あるというカンジで(苦笑)。

 あの4名の子がそこに居るというのは、なかなかに感慨深いものがありますねー。
 んでも、必要以上にアリソンとヴィルの影を見ないようにしないと。
 なんといっても、これはリリアとトレイズの物語なんですし。
 ……って言いつつも、アリソンとヴィル、そしてベネディクトとフィーが美味しいトコ取りしているんですよねぇ。
 一番最後の挿絵なんて、なによ、それ!ってカンジ(笑)。
 子供たちをさしおいて、主人公然してますよー。

 秘匿回線でのアリソンとヴィルの会話。
 まさかヴィルがあのような言葉を自ら口にするなんて……。
 大人になったんですね……(T▽T)。


 そして恒例の後書きは……(笑)。
 楽しませてくれる人ですねーっ!

 


『灼眼のシャナ\』 高橋弥七郎 著

 千草さん vs ヴィルヘルミナ! シャナを介しての御母堂対決!
 口絵からしてドキドキですよーっ!
 ……あー、でも、千草さんが負けるトコロというのが、全く想像できません。
 常勝無敗、王者の風格を漂わせているというか(笑)。
 もう、人とかフレイムヘイズとか関係無しに最強伝説まっしぐら。
 ヴィルヘルミナとかティアマトーとかが言葉でやりこめられていく様は苦笑と痛快さがないまぜになって、もうっ(^_^)。
 いやはや、すごい御仁です。

 そんな千草さんの旦那サマ、悠二のパパ殿であるところの貫太郎さんが今回ようやく登場してくれたわけですけれども──。
 いいパパさんだわ〜。
 この奥さんにして、この旦那サマあり!ですね。
 貫太郎さんは貫太郎さんで、ある種の無敵っぷりさ加減を感じるのですけれども──。ん? 無敵というより全能? なんでもできるという存在。
 いうなれば貫太郎さんは名馬であって、その手綱を握っている賢者が千草さんってことですか?(笑)

 こんな二人が「人」としての枠に収まっている存在なのか、ちと考えてしまったり。
 ひょっとしたら二人とも、あちら側の世界の存在なのではないかと。
 ただの助言者……と考えるには、少々キャラ立ちすぎなので(苦笑)。
 おりしもカップルとしての存在では、『約束の二人』の件が語られ始めたトコロですしー。

 ママさんパパさんのが際だっていた巻ですけれども、悠二とかシャナとか、もちろん吉田一美ちゃんとかも印象深かったわけで。
 一美ちゃん、がんばってたよー!(T▽T)
 もう儚いだけの健気さが売りのオンナノコじゃないですよね。
 迷いはあっても、自分の立ち位置をしっかりと見据えているという。
 シャナはシャナで、ますます感情豊かになってきてカワイーですし!
 悠二も少しずつ成長していってますし──。
 この子たちの物語は、ホントに楽しみです。
 どういう答えを導き出すにしても。

 あ。
 手塩にかけて育てた愛娘に「大嫌い!」と言われてショックを受ける立場なのは、普通、父親の役割でしたか(苦笑)。
 やけ酒あおるトコロとかもー。
 ……マージョリーも、姉御肌というより、今回はオカンになってますよ?(笑)


 そして今回も「学園ストーリー」では無かったような気が……(^_^;)。

 



 
『ディバイデッド・フロントV この空と大地に誓う』 高瀬彼方 著

 偽りの──虚構に満ちた紛いものの戦争を描いた作品はこれまであまた存在していたと思います。
 ですので、この作品せ描かれる世界が着想という点では図抜けて衝撃的なモノであるとは思えません。
 ですが──。
 そうした紛いものの戦争の中で生き抜いていく存在たちが、かようなまでに必死で、迫るような悲壮感を抱きながらも生きる事を見失わない、そんなふうに綺麗で、凄絶で、狂おしいまでの「生」をカンジさせる作品は、今作以外にちょっと簡単には思いつきません。

 絶望の中、神々しく煌めく希望。
 どれだけ絶望の淵が深く、暗かろうとも、見るという意志さえあれば希望をその淵の底に見ることができる。
 そうした意志の物語なのではないかと思います。
 もちろんそこには「見ない」という選択もありますし、それはもう生き方の違いなんでしょうね。
 高瀬センセも後書きでそうしたことに触れてますけども。

 またかと思われるかもしれませんけれど──。
 後書きにあまり注目しすぎるのも良くないことなのかもしれません。
 ですけれど、今作のあとがきはとても意味のあるものだと感じずにはいられません。
 ああ、後書きとは本来このようにあるべきものなのだと思わされます。
 この後書きだけでも感動できましたヨ……。


 それにしても、どこまでも厳しい選択を突きつけるていきますね……。
 そんなに重い筆致ではないんですけれども。

 交代しながら、各人の語りで物語を描いている点も非常に効果的ですよね。
 それでこそ見えてくる視点、浮かび上がってくる心情といものがあるわけで。
 とにかく、そうした文章術を駆使して描かれるキャラクターたちの生き様には、もう、惹き付けられずにはいられませんでした。

 うーん……。
 ホント、すごい作品ですねぇ……。
 キャラクター、ひとりひとりの存在感が際だっているという……。

 ちょっと脱帽ですわー。


 そうした中で印象的だったのは、桐島さんでした。

 お願い、私の心。
 嘘でもいい、演技でもいい、偽物でもいい。
 もう少しだけ理性を繋ぎ止めて。恐怖に震えて当然の十七歳の女の子にならないで。
 

 こうした心情の吐露が、たとえようもなく胸に響いてくるんです。
 もちろん、桐島さんだけではなく、みんなの気持ちが。


 ラストシーン。
 あの人が「左腕」を差し出して、あの人を求める。
 そうしたことも、希望を見失わなかったからこそ、たどり着けたんですよね。
 素晴らしいラストシーンだと思います!(T▽T)

 



 
『真実の扉 黎明の女王』 いわなぎ一葉 著

 物語を進めるためのウソ(=設定)を減らすなり整理するべきなのではないかと思います。
 それぞれの国情が物語で活きてこないのであれば、それぞれの国名を列挙する必要など無いわけですし。
 というか、それを指摘するなら、そもそもが政情を物語の基幹に据えるべきではない……ということかも。
 そうした設定の妙をいわなぎセンセには求めてはいない……という意見は、もしかして少数派なのかしらん。
 ぶっちゃけ、130ページくらいまでの展開には、正直ついていけませんでした。
 もう、固有名詞がアメアラレで、混乱するったら!

 加えて言うと、こうした固有名詞が言語的に統一されていない印象を受けるのですけれども?
 例えて述べるなら、英語とギリシャ語が文法を顧みずに同時に用いられているカンジ。
 カタカナにすればなんでもOKという状態に見えるんですけど……。

 前作からの続きではありますけれど、前作を知らない人でも楽しめるようにとの配慮から説明に多くが割かれていたのかもしれませんけれど、それって功を奏しているとは言い難いカンジが……。
 読んだ人と読んでない人、どちらにも良いようにしたところ、どちらにも不満を抱かせる結果になってやいませんか?

 でも、そんな印象の悪さも中盤を過ぎていくあたりから解消されるというかっ。
 ああっ、もうっ! これが、いわなぎセンセの真骨頂だわーっ!みたいなっ。
 展開が急すぎるきらいはどうしてもあるのですけれど、二人の女王を想うカルロには同情しちゃいますし(ヘタレですけど)、亡き女性の存在に気兼ねしてしまうクレアは恋する乙女ですし!
 そして二人をつなぐクリムの存在がまた……(TДT)。

 ……どう考えても、この作品って前作を読んだ人に向けられたものだと思うんですけれど?
 一話完結の形式をとっていることと、前作を引きずらないということは異なると思います。


 このあと三巻の存在をにおわせるような発言を後書きでされていますけれども、それってちと心配というか。
 ここまでまたカルロを中心に据えるのは難しいと思いますしー。
 というか、二人の中を引き裂いてどうする!というカンジ。
 ……ん? いや、それってもしかしたら面白い? 面白い? うむむ……。
 わたし的には、またクリムの話を見たい気がします。
 彼女を好いていた男性の悲恋みたいなものをー。
 ……無難なトコロでは、アリーシアとゴードウィンかなぁ。

 もっとも、このシリーズでもかまわないのですけれど、ウソの少ない現代モノなどを上梓していただけないかなぁ……とか思ってしまったりして。

 


 
『風の王国 竜の棲む淵』 毛利志生子 著

 記憶喪失ーっ! 恋する乙女には定番なイベントですねっ!(笑)
 旅先ということもあって、そうでなくてもリジムは翠蘭に遠慮しちゃってラブってないっていうのにっ!
 ……いろいろと大変ですよねぇ、リジム。
 もっかのところ、最大のライバルが自分の息子っていうあたりに苦労が偲ばれます(笑)。

 ようやく登場した宰相ガルの人物評は……まだ分かりませんよね。
 ここまではまだ、リジムに何かを仕掛けてくるような人物には見えないのですけれども……。
 ラストでのリジムとのやりとりなどを見ても、リジムを気遣う様などはサンボータとそう変わらないように思えたので……。
 まだまだ奥があるということですか?

 あ、そうそう。サンボータですね、今回。
 いやぁ……そうですか。サンボータと朱瓔がねぇ……(笑)。
 以前よりなんとなーくですけど親しい素振りをみせてましたけどねー。
 このまま良い関係になっていってほしなーっと。


 リュカがとてもツンデレ属性をお持ちとお見受けしたのですが、いかがか。
 とてもカワイイ性格をしていますよねーっ!(笑)

 

『 彩雲国物語 漆黒の月の宴』 雪乃紗衣 著

 あまり後書きを気にするのもどうかとは思うのですけれども──。
 作品の良さとは別だと考える人もいるでしょうし。
 んでも──
 

 彩雲国は人数とページ数の関係で「いなくても良し」と判断されたキャラは即ドナドナされます。主役級の人間でもあっさりドナドナ。

 ……とか言ってしまうのって、どうなのかなぁとか思います。
 「いなくて良し」というキャラクターを登場させて物語を描いたのは誰なのか。
 そして自分が好きになったキャラクターがいたとしても、その人物が物語から退場するような事態に陥った場合、そのキャラクターはこの世界から「いなくて良し」と思われたということなんですよね。
 おちおちキャラクターを好きになってもいられません。


 んー、で。本編のこと。
 朔洵がドナドナされたわけですけれども、つまり不要だったってことですか?
 秀麗の心はかき乱していってくれましたけれども、そうした彼女の心情の揺れってなんとなーく無理があったような。
 朔洵が劉輝と比されていたわけですけれど、秀麗の言葉で「似ている」と評されていただけで、どの点が類似しているのかが伝わってこなかったというか──。
 両者が対峙して、それこそ同じ言動を示してくれれば良かったようにも思うのですけれど。
 秀麗と劉輝の恋物語の波乱を描いたとしたら、ちょっと空回りだった気がします。


 そんなカンジで秀麗の周りは「?」な動きだったワケですけれど、香鈴とか春姫の頑張りは良かったかなぁ。
 本当なら彼女たちのような言動を、秀麗で見せてほしいのですけれども。
 ぶっちゃけ茶州への旅程って、秀麗にとってはあまり意味するところはなかったのでは?
 ここまでのお話って、鴛洵を巡っての物語を引っ張ってきただけですしー。
 次巻では任についた秀麗たちの立ち回りに期待したいです。

 

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