○● 読書感想記 ●○
2005年 【2】

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20
『お・り・が・み 外の姫』 林トモアキ 著

 主人公は誰なんでしょ……。
 別段キライなお話ではないんですけど、感情移入対象がハッキリとしないために、どうも「読まされている」感が強くなってしまっているような。
 林センセ御自身、あとがきで「ターニングポイントとよも呼べる」と仰っているのは、物語からの観点だけで、そこで活きるべきハズのキャラクター――ことに主人公たるべき人物たちに某かの変革がにあるようには思えないんです。

 今回の……というより、前巻からこの作品の中心人物はみーこさんになってしまっているんですよねぇ……。
 1巻は単なるプロローグでしかなくて、そこで描かれている鈴蘭なんて、主人公でもなんでもないってことなんでしょうか。
 キャラ紹介のページでも、あまりな扱いなのはそのため!?


 まー、そういう観点を抜きにすると、翔希くんの悩みと決断とか、クラリカの強い意志とか、すんごい好き。
 林センセは、ぶつけてくるような強い意志を描かれるのが巧みだなぁと思う次第。
 簡単に言ってしまえば個性的なキャラってことなんでしょうけれども、ことはそう簡単ではないように思うわけで――。

 カラー口絵なんかもドキドキですよー。
 翔希vsクラリカなんていう構図があり得るのかって。
 鈴蘭の覚醒は、まぁ、どうにかなるっしょ……とか思ってました(笑)。
 それよりも表紙でパンチを繰り出している姿がカワイイ。


 ……ああ、今回に限って言うならば、翔希が主人公の話だとすれば、物語としての筋は通っているのか。
 そっかそっか。

 4巻も刊行されるようで、良きかな良きかな。
 これまで全編通してのおバカなストーリーって、林センセの作品では無かったですもんねー。
 夏休み……って仰ってましたし、7月くらいでしょうか。
 楽しみ楽しみ。



19
『ベルガリアード物語1 予言の守護者』 デイヴィッド・エディングス 著

 待望の新装版!
 きゃーっ! なに、このラノベを意識した表紙は!(笑)
 ガリオン、かっわいーぞ!(≧▽≦)
 ポルおばさんの美しさは良しとして、えっと、ミスター・ウルフ? 太った……?
 そしてアナタは……ダーニク? え? スパーホークじゃなくて?(笑)

 もう何度読み返したか分からない作品なのですけれど、今読んでも面白いなぁ。

「カブしか作っていなかったわけじゃない」ブレンディグは怒った顔をあげて言った。
「そうだった」シルクはてのひらで額をぴしゃりとたたいた。「キャベツをうっかり忘れていたぞ。かれはキャベツも作っていたんだ、ガリオン。キャベツを忘れちゃいかん」

 ――とかさぁ、もうっ!
 ……いや、これはシルクだからかもですけど。
 こういう会話の妙が面白くって!
 センダリアのフルラク王なんて、王様の名前を5人挙げろと言われたら、まず間違いなくわたしは挙げますヨ。次点、ドラスニアのローダー王。あとセイバーとギルさまで4人か……。

 で。
 そうした会話だけでなく、そもそもファンタジーの王道行ってる設定込みで大好きです。
 期せずして始まった旅程も、行く先々の街の設定とか細かくて細かくて……。
 そういった設定を目にするだけで惹かれるというか。
 世界設定だけでなく、そこに生きる人々の描かれ方もハンパでなく。
 生活に必要な知識や技術など、感覚として通じ合えるんですよねー。
 匂いとか、手触りとか。
 もちろん描写は設定だけでなく、人々の言動にも表れるわけで。
 あー、もうっ! どのキャラも生き生きとして……。

 解説にも取り上げられていましたけれど、女性陣の存在感っぷりも見事ですよねー。
 この巻ではポルおばさんがメインですけど、さっそくポレン王妃なんかも実力を見せているというか。
 ズブレットは……まあ、こんなカンジ?
 んでも――

彼女は遊びを考えだしたり、お話をこしらえて聞かせたり、自分のためにファルドーの果樹園からリンゴやスモモを盗ませたりした。小さな女王よろしくかれらに君臨し――

 ――とかあって、タマ姉!?とか思ってしまったことよ(笑)。
 ツンデレ好きな人にはオススメのシリーズですよーん(そういう勧めかたはどうか……)。
 あー、次巻が楽しみ楽しみ!



18
『銀盤カレイドスコープ vol.4 リトル・プログラム:Big sister but sister』 海原零 著

 舞台の違いで、物語の枠組みの小ささは否めない、かなぁ……。
 世界を相手にしているタズサに比べて、どうしても……。
 それでも、どこか精神的にくすぶっていた感のある前作よりは、筆致が戻ってきたカンジで好感デス。
 一人称で軽妙に書かれるほうが、海原センセには似合っているように思います。
 ……もっとも、タズサとヨーコの心情レベルまで同一のモノのようになってしまっている筆致については是非があるでしょうけれど。
 この筆致が意図的なのかそうでないかという具合に。
 姉妹なので、ある程度同じ印象を受けるように仕組んでも、それは間違いではない……と、わたしなどは思うのですが。
 それでも2巻の頃に受けた印象と、ヨーコは違うなぁ……と思ってしまうワケですけれども。

 印象の違いを述べるなら、タズサもそうであるわけで――。
 なんというか、お姉さんしてるなぁ〜……なんちて。
 結局、印象の違いというのは視点の違いに尽きるだけなのかもしれません。
 タズサ→ヨーコ と ヨーコ→タズサの違い。
 心情が描かれない側は物語上アドバイザーであって、それはもう頼りになる存在に見える……という。
 そしてファンとしては、ラストの独白が気になるわけで――。

 ヨーコの物語としては、なんというか先述のように小粒さキラリ……というカンジ。
 んでも、その中に描かれているタズサの変化にグッときた……ってカンジ?
 会話の端々に上ってくる世界の広がりもファンとしては嬉しいトコロですね。
 「ガブリーかと思っちゃった」とか、説明無しでくるとYEAH!ってカンジなわけで。

 集英社としてもトリノ五輪に向けて盛り上げたい作品かなぁ……と(苦笑)。



17
『12月の銃と少女』 吉田茄矢 著

 第4回富士見ヤングミステリーで受賞した2作より技巧的に劣るのは認めますけど、エンターテインメント性ではわたしはこの作品の方を買うなぁ。
 で、その技巧的なところが、やはり現在の受賞レースでは大きなウェイトを占めているように思えるので、そうした意味でこの作品が最終選考止まりに「なってしまう」のも分からないではないです。
 良くも悪くも、尖ったところがないですし。
 でもそれって読みやすさ・理解しやすさにつながるところですし、まして独創的な設定を語って悦に入ってるように感じてしまう文章ではないわけです。
 こういう書き方の人のほうが、わたしは物語を作るという心意気を感じます。

 もちろん、あとがきとかを読むと、応募作は刊行された形とは大きく異なっていたようですし、あまり論じるのは適当ではないのでしょうけれども。
 わたしの好みの「バディもの」である点も、ちょっと贔屓目入っちゃいますしー。
 でも現状では形式上でしかないかも。
 もっとホンダとウォルターが同じ意識を持って動いてくれたなぁ……。
 まだ、こう、心を通わせるようなところがなかったので(転属直後で無茶言うな)。

 そしてミステリの常とはいえ、ミランダの扱いがあんまりだと……(T△T)。
 もうちょっと、こう……。
 容姿的にシルビアよりミランダのほうが好みだっただけなんですけど。
 でも……あのラストシーンはいろいろと期待させられてしまいましたっ!
 ちょっと、ええっ!?みたいな(笑)。


 全体的にキャラクターが地に足付いた描かれかたをしている点が好感。
 ひとくせあるとでもいいましょうか……。
 心情面……動機がしっかりと書かれているという点も。
 うんうん。キャラが動いてこそナンボですわー。

 続刊でもここで終わらせても、どちらでも可能な終わりでしたけれど、わたしはプッシュしますよー。



16
『タム・グリン 水の妖精つかい』 青木祐子 著

 表現の枠組みとして、あまり広くない世界かなぁ……。
 んでも、これくらいの世界も好きです。
 世界の有り様より、そこで生きる存在の動機を大切にしてくれているので。

 「表現したい」ではなく、「伝えたい」と感じます。
 それも、生きるということの意味を。
 集団としての生き方には、集団を集団として守るために善悪が存在するでしょうけれども、個として考えた場合には善悪では判断できないなぁ……と思ったりして。
 イオとシェランではなく、セオロスとライアの生き方から。

 というか!
 イオとシェランが主人公なのは、そらもう十分に納得&理解できるのですけれども、セオロスとライアのまぶしいばかりの存在感はなんなのよ!
 立場を考えると眩しくなくてダークっぷり著しいのですけれど!

 イオとシェランだけでなく、あの2人にもちゃんと終わりを与えてくれたことは嬉しかったです。
 あれは……もう、仕方が無いよ、ね(T△T)。


 エリノアの役どころは、ちと分かりませんでしたけれど。


 東条さかなセンセのイラストも秀麗で良いですね〜。
 好きなタッチです。
 どちらかというと、挿絵のほうが生きているんじゃないでしょうか。



15
『キリサキ』 田代裕彦 著

 物語の構造――もっと簡単にギミックとかトリックとか言ってしまってもいいかもしれませんけれど、そこを考えるのが好きな人なのかなぁ……とか思ったりして。
 こういう人は、編集部としても手放したくないでしょう。

 センセ御自身、たしか学校へ通って文章の書き方を学んでいらしたんでしたっけ。
 「思いつき」というレベルでの発想を「才能」と思いこんで状況に甘んじることなく、そのレベルからいかにして作品というレベルまで昇華させるのかを精緻に考えていると感じるのです。
 文章でお金を稼ぐ人の姿勢、心意気のようなものを感じます。


 で、本編なのですけれども――もしかしてSFなのかしらん?
 それを是とするかどうかはまちまちかもしれませんけれど、わたしは是かなぁ。
 筆者のみが理解・共感しうる想像の域を脱して、きちんと言葉で説明できているように思うので。
 「記述」ではなく「説明」。

 あえて苦言を呈するならば、女性の描写かも。
 ちょっと……「道具」程度の存在感しか感じられないんですよねー。
 今回は女性の心理が根幹を成しているはずなのに。
 ……いや、だからこそ「道具」というレベルなのかも?
 ミステリを表すのに、余計な思い入れを残さないために。


14
『奇蹟の表現』 結城充考 著

 物語としての起伏に欠けるきらいはあるかもしれませんけれど、全体を通しての雰囲気とか、好きかも。
 うん。『レオン』ですよねー。

 もっと動と静の区別をしていたらなぁ……と思う次第。
 激しいことが起こっているハズなんですけれど、どうにも淡々とした筆致なので、勢いを削いでしまっているような気がするんですよねー。
 残念ッ。
 そこが「味」でもありますし、わたしも好きな筆致ではあるのですけれども、やはり起伏の無さが「銀賞」という結果に表れてしまっているのかもしれません。
 んでも、わたしは第11回の3賞の中では、イチバン好きー!

 あ、ラストページのデザインも良いですね!
 ページをめくったとき、ドキッ!としちゃいましたよ。
 心地よく物語を終えることができました。

 イノシシ頭の大男を主人公にしているあたり、時代性におもねるような人ではなさそうなので今後の活躍も推して知るべしというカンジかもしれませんけれど、ちょっと楽しみかもです。
 それでも、もうちょっとエンターテインメントということを考えてみたらどうかなぁ……とは思いますけれど。
 少なくとも、電撃文庫で続けていくのなら――です。

13
『ひかりのまち nerim's note』 長谷川昌史 著

 シチュエーション>キャラクター……な人なのかな?
 進行している事象については書きすぎるくらいに細やかなのに比べて、そこで動く人物の描写が乏しいというか記憶に残らないというか。
 あとになって(=進行上必要になって)から文字にするものだから、驚くことこの上なし。
 「私のお父さん、警察署長なんです」には本当に驚きました。

 全体を通しても、物語というよりはシノプシスな印象に……。
 とかく背景設定の説明に終始しているカンジがしました。


12
 
『食卓にビールを3』 小林めぐみ 著

 旦那さまとの絡みが増量中ですか?
 んでも、嬉しい。
 二人の会話は楽しいですよーん。

 トラブルに巻き込まれ続けてきた奥様も、トラブルへの耐性がついてきているような気が。
 本編中でご当人も口にしてましたけどねー。
 そういう次第で奥様の慌てる様に文章を取られなくなったぶん、事件に対してより詳細に描けるようになったように思います。

 あと今回は個々の話に登場するキャラクターたちが活き活きとしていたように思えるのですけれど、気のせいですか?
 鈴音ちゃんとかジロちゃんとか、存在感ありますよ。
 ……剣康之センセが描くジロちゃんが、白峰忍ちゃんに見えてしまたことよ(苦笑)。


 最近、小林センセは桜庭一樹センセと並んで女子中高生に人気らしいんですけど、それってホントですか?
 女子中高生のSF入門書として人気なんだそうですけどー。

 
11
 
『ルカ -楽園の囚われ人たち-』 七飯宏隆 著

 んー。
 筆致よりもギミック重視なんでしょうか、最近の電撃大賞は。
 まぁ、文章は書いているうちに矯正できますけれど、発想力は育てようと思っても育てられませんしー。
 もちろん、大賞を取るだけの筆致ではあるんですけど。
 このラスト、作中の人物たちにとっては嬉しいことなんでしょうけれど、その喜びに共感……はしなかったかなぁ。

 

10
『先輩とぼく 4』 沖田雅 著

 う、う〜ん……。
 シリーズとして厳しくなってきたんでしょうか。
 勢いも見えなければ、押し進める物語も無く……。
 達観していくはじめちゃんが好きなので、わたしは読んでいけますけど……。
 どうしてはじめちゃんがカワイイかを本編中で分析しちゃイカンような気がするんですけど、どうなんでしょ。
 冷静に自作品を見ているとも言えますけど、それって冷めた気持ちでメタ視しているようにも思えるので、もしかしたら沖田センセ御自身がすでにこの作品に対する情熱を失っているんじゃないかなぁ……とか思ってしまうのは行きすぎですか?

 以前はあった毒のようなものも抜けてきてますし……。
 オタネタを用いるにしても、なんとなーくオブラートに包んで、多方面に差し障りのないようにとの配慮が……。
 それってわたしの気のせいかもしれませんけれど。
 でももっと尖っても良いと思うのですよ。

 このままだと、次巻あたりで整理されてしまうような気配が……。
 うわ〜ん。


9
『白夜の弔鐘』 田中芳樹 著

 あー、こういうアドベンチャーは好きですー。
 田中センセのエンタテインメント性みたいなのが溢れてます。
 ちょーっと陣容図、人物間系に凝りすぎなきらいも今作ではあるようにも思えますけど、そこは若さゆえかしらん?

 もうちょっとネコマタが活躍してくれたら嬉しかったんですけど。
 活躍とまでいかなくても、少なくとも聖司と一緒に行動してくれたら……。
 なーんか、物語の飾りとして登場させただけのような気がしないでもないので。

 あ、あとやっぱり男女関係の収め方は、ちょっとわたしの趣味と違うかなー。
 なんというか、極めて男臭いデスヨ。
 違う言い方をするなら、ダンディズム。
 それを格好良いと思うかどうか……ですかねー。


8
『見えない人影』 氷川透 著

 やっぱりトリックは平易かなぁ。
 それでもわたしは変に凝られるよりは、このあたりのレベルが良いと思うワケで。

 そういう推理ミステリーの部分では好感なのですけど、動機とかキャラの動きになんとなーく違和感が。
 主人公役の晴美にしても、「好き」という心情へ辿り着くのは、ちょっと突然過ぎる気が……。
 そもそも、その気持ちに気付いたからといって、その後の行動が何か変わったのか分からなかったり……。
 事件後のサッカー部でマネージャーをしていく彼女が、「かわいい一年生」云々を口にするのも誠実さがない気がするんですけどもー。

 分からないのは桑折亮クンの存在も、ですか。
 彼が各務原氏と事件当事者の間に入って接点となる意味は……?

 そんなふうにキャラを重要視しないで、トリックを解くことに集中すれば楽しく読めるかな、と思う次第。
 推理ミステリでは波長が合うのでー。


7
『へんないきもの』 早川いくを 著

 最初、空想上の生物を集めたのかと思っちゃいました。
 でも、どの生き物も実際に存在するって……ええーっ!?
 クマムシなんて、設定からしてフィクションくさいんですけど(設定とか言うな)。
 絶対零度にも6000気圧にも真空にも放射能にも耐えるって……。
 おまけに外見が一昔前のSFアニメの怪物っぽいというか。

 装甲巻き貝の説明に、ちょっと夢膨らみます。
「人類にまだ知られていない、装甲でもないと対抗できない、恐怖の外敵が黒煙の中に潜んでいるとでもいるのだろうか……?」
 深海の熱水を噴き出す場所に住んでいるらしいんですけど、そこってまだまだ人間にとっては未知の場所だよなぁ……なんて。
 やっぱり深海は宇宙より遠いです。

 解説書ですけれどコメディ調に書かれていますので、真剣に資料として手に取るのはどうかと思います。
 まぁ、軽めの読み物というカンジでー。


6
『各務原氏の逆説』 氷川透 著

 推理ミステリー作家はラノベ作家には成り得ないんじゃないかと思わされたり。
 別に両者の間に優劣なんてものは考えていないのですけれど、やはりわたしは趣味としてラノベの方が好きなのせ、氷川センセの物語は不満が残ってしまうわけです。

 推理ミステリーとしては平易な部類かなぁ……と思うんですけど。
 でも、分かりやすいというのは状況についてであって、トリックそのものではないようにカンジました。
 読み手のことを意識されているのかなぁ……と。
 そういう読みやすさのような点は好感でした。

 でもトリックのほうへ目を向けると、不確定要素を「これはこういうものだから絶対なんだよ」という形で押し切っているように感じます。
 そういうトコロを感じてしまうために、種明かしをされてもスッキリしないという……。

 いや、あのラストはどうなのよ……と思わざるにはいられなくて。
 わたしは蛇足に感じてしまうんですけど、もしかして既に様式美の域に入っているんですか!?

 あるいは推理ミステリーというものは、筆者のウソをどれだけ許すことができるかで評価が決まるのかも――と思ったりして。
 ……って、もしかして『精緻な論理と巧みな文章力』という評価を得ている筆者に対して、変なバイアスがまたかかってますか!?


5
『となりのドッペルさん』 砂浦俊一 著

 あー……。
 好きな筆致なんですけれど、なんか、こう……。
 主人公の知人が超人で、事件もその超人さんが解決してしまって、主人公は傍観者という位置付けの作品、なんか最近目立っているような。
 この作品も、千早ではなくて優がそのポジションに収まればいいのに……とか思ってしまったり。
 千早のキャラクター性は買うんですけど。
 知人のスーパーパワーで事件解決! ……って、物語の軸を間違えている気がするんですよー。

 もちろん個人ではなく集団が当事者になる場合もあるでしょうし、今作も主人公・愛美は千早を友人として慕うわけですから、ある種のグループとして捉える向きもある……のかな??
 今作だけでは愛美と千早の関係が薄くて、どうもそうとは捉えきれないんですけれども。

 でも、この作品に続きが出るとしても、軸となるのは千早の出自でしょうし、そうなると愛美は語り部以上の存在にはなれないような……。

 あ、でもホントに筆致は好きです。
 安心して読むことが出来るというか。
 ちょっと伏線の張り方/出し方が、微妙かなーと思いましたけれど。


 オビに『コミティア出身! 期待の新鋭デビュー!!』と入っているんですけれども、世間的にコミティアってどれほどの認知度なんでしょうね。
 ここに記すくらいなので、編集部としては購買層へ向けてのアピールになると考えたんでしょうけれど。
 これを見たときのわたしの印象は「手垢の付いたコミケというブランドを向こうに回して、新たな商業イメージを確立出来はしまいかの実験?」というものでした。
 ぶっちゃけ、あまり好印象ではなかった……と。


 それと携帯のメール機能を使って作業を進めるという手法にも驚きました。
 でもそういう手法って、意外でもないのかもしれません。
 『Deep Love』とかあの辺りの作品って携帯というツールを活かしたものですし、それが受け手ではなく送り手になっただけというカンジで。


 高橋慶太郎さんのイラストも良かったです。
 特に口絵で描かれた4人組の構図が好きです。
 でも表紙は最初、鉈を持っているように見えていたのは秘密です(^_^;)。


 ……とまぁ、いろいろと面白かった作品でした。


4
『こどもに伝えたい 今も昔も大切な100のことば』 サンリオ 辻信太郎 著

 『たあ坊の菜根譚』の子供向けバージョンらしいのですけれど――。

『きもちはことばにしなきゃつたわらない』
 「ありがとう」「ごめんね」「すきだよ」……
 ことばにしなければ相手にはつたわらない。

 ――って、本当に子供向けなの!?
 なんていうか、こう、20代OL向けな気がする解説文なんですけど!(笑)

 でも、簡単な言葉で綴ってある分、心に響いてきますし、あるいは考えさせられるというか。
 どの言葉も、当たり前のことなんですよね。
 忘れてしまいそうなくらいに当たり前のこと。
 でも、大切なこと。

 書店で手に取ったとき、なんだかひどく感動してしまったことよ(T▽T)。

3 『ちーちゃんは悠久の向こう』 日日日 著

 ……ダメです。もう変なバイアスかかっちゃっているのが自分で分かります。
 ですので、真っ当な感想とも言い難いのですけれども――。

 多彩ではあっても、人間の本質って変わらないなぁ……と思ったりして。
 救いの無い現実を描ける、強い人なんですね。
 わたしには付いていくことは無理ですけれど。

 あ、あと久美沙織センセの解説には首を傾げてしまったりして。
 今作の主人公が、かの人がゲンナリしていると言うところの「ライトノベルの主人公と書き手」と何が違うのか分からなかったりします。
 『ファミ通エンタメ大賞』の選評といい、どうもこの人の考え方はわたしには合わないようです(選評については日日日さん以外のとこで)。



2
『アウトニア王国人類戦記録3 でたまか 漆黒無明篇』 鷹見一幸 著

 物語から人が次々と退場していく様は、クライマックスが近いんだなぁ……と思わされます。
 その過程をつぶさに描けないのか描かないのか。
 退場していく人の中には、この物語の中での存在意義を疑ってしまうような退場をさせられる人もいるわけですけれど。
 それは言うまでもなくアレクレスト。
 彼がマイドの対立者としては役者不足なのは分かりますけれど、それにしてもこの使い捨てっぷりは見事かなぁ。
 こうまで存在を持て余すくらいなら、アテナとの人情話はやっぱり無駄だったんじゃないかなぁ……とか思ってしまいます。
 これで最終巻で驚天動地な役割が彼女に振られるなら別ですけど。

 そしてアウディエンシア枢機卿の退場の際に発せられた「おんどぅるらぎったんか!」は、鷹見一幸という人の悪い癖が出てしまっているなと思いました。
 これはかなり致命的な汚点かも……。

 チャマーはまぁ、彼もまたマイドに対しての噛ませ犬みたいなものですし、ポキリと折れてしまうのも仕方ないかなぁ。
 それよりも、わたしの中で株を下げたのはミストラル。
 チャマーという人の本質を理解しないままに、過剰なまでに持ち上げたから。
 どうしてあそこまでチャマーを信奉できるのか、その理由が分からないのです。


 ……とまぁ、いろいろと不満もある今作ですけれども、それを補って余りあるほどに心を揺さぶられたわけで。
 とくにシリーズを通してずっと説いてきた「命という可能性」の意味が、ここでより大きなものとなってきたというか。
 大人へと成長するということは、可能性をひとつひとつずつ消していくこと。
 可能性を失った大人が次代へと残していけるものは、あるいは残していきたいと願うものは、たくさんの可能性を秘めた子供たち。
 自分が辿り着けなかった未来へと進んでいってくれるであろう、その可能性を大人は守りたいのです。人類の未来が、より倖せなものであると信じて。

 だから、惑星アキツから脱した1億の子供たちには覚えていて欲しい。
 忘れないで欲しい。
 アウトニアの歌を。

 ……いや、もう、ちょっと。あのシーンはヤバイくらいにキました(T△T)。
 何度か繰り返して言っていることなんですけど、やっぱり、自分が何者かを理解していて、そしてその役割を真摯に果たそうとする人の姿には胸打たれます。

 「命の可能性」の話もそうですけど、ミナモト少尉の言動に代表されるような「明日への希望」も今シリーズの根幹にはあるわけで、そういうのって言うなれば「生きる意味」を問うているのかなぁ……と思ってしまうのは、ちと大袈裟?
 人間と電子人格、そしてバイオドールと、それぞれにこの世界に生まれているのに何が違うのかと問うのもそういったことから発していると思いますし。
 「生まれてきた」ことと「生きる」ことは違うと言っているような。
 自分にできることを探そうともしないのでは、生きているとは言えない……と。

 さーて、次巻が外伝でなければ、いよいよ最終巻。
 人類の存亡を賭けた戦いにどのように終止符が打たれるのか楽しみです。
 今回ピンチに陥ったマイドも義体に入って、メイと一緒に成長していく……とか?(それじゃ『月と貴女に花束を』だ)
 でも今回登場した看護婦のバイオドールって、メイ……?


 余談。
 『でたまか』的、イイ男の系譜。

 ケルプ → ワタル → ニック

 ニックのイイ男っぷりが急上昇なんですけどっ!?

『私の優しくない先輩』 日日日 著

 ウワサの5冠達成したスーパー高校生の著作をー。

 ラノベ感覚より一般文学寄りなので、セカチューとかを好きな人はOKかも。
 芥川賞向けだなぁ……とか。
 そしてわたしも決して嫌いじゃないんですけど……(どちらかというとセカチュー、好きですよ?)。
 言葉は巧みなんですけど、迫るような感情が少なくともわたしには感じられなかったワケで。
 少しずつ削られていく、残された時間のこととか。
 筆致については、少し引っかかるところもありましたし。

 むしろこの作品って、ドラマ脚本向けなんじゃないかって思いました。
 日曜の昼下がり、CX系あたりでどうですか?

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