○● 読書感想記 ●○
2004年 【10】

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20
『灼眼のシャナ[』 高橋弥七郎 著

 1章「雨の別れ」って、前巻のエピローグですよねー。
 この巻に収録するには、ちと雰囲気に違和感を感じてしまいました。

 で、本編の方では、池くんに同情……。
 彼のことは決して好きではないんですけれども、あの状況は……。
 ひとりだけ蚊帳の外って、あまりといえばあまり。
 この疎外感が、いつか悠二たちに災いとなって降りかかる予感。
 それでも池くんのことを応援する気にはなれないんですよねぇ。
 行動がズルイという気がして……。
 なんだか気持ち悪いですよ、池くん! ストーカー気質?

 それにしても女性陣が強い作品ですね。
 シャナや吉田さんは言うに及ばず、緒形さんや姐さんや、そしてヴィルヘルミナ。
 あのタイミングで登場しますか!(笑)
 まぁ、方法は方法でしかないですし、さらにいえば唯一無二というわけではないので、シャナはそれ以外の道を見つけるでしょうけど。
 それでようやくシャナも親離れでしょうか?
 ……ヴィルヘルミナの子離れって言った方が近いかもー(笑)。

 吉田さんとシャナの対決は、いよいよ面白くなってきましたー。
 「敵」のイメージは、わたしの場合、イメージしにくいのですけども、そういう対立構図よりも、キャラが立っているので良い良いです。
 この作品の場合、物語がキャラを生み出すのではなくて、キャラに物語が付いてきていると思いますし。


19
『暗く、深い、夜の泉。 蛇々哩姫』 萩原麻里 著

 やられましたぁーっ。
 そうですか、こういうオチで結びますか……。
 そしてバイプレイヤーと思っていたあの人たちが本当は……。
 主人公だったのね(^_^;)。
 うんうん。どうして蛇々哩姫の噂を調べてはいけないかとか、ホラーとしての流れは充分伝わってきました。
 そりゃあ……調べたら、マズイっしょ。
 知らなければ倖せに暮らし続けられたかもね……。
 もちろん、知ってこそ、苦しみと共にその先の道もあるのでしょうけど。

 増田恵センセの絵は、やっぱ好きですわー。
 色っぽくて、カワイイ。
 凪と甲斐がすれ違うシーンなんて、すごく良いです。
 なんにしても、続刊が決まっているらしいので楽しみです。
 でも、学園モノではなくなっちゃうんですよねぇ(苦笑)。

18
『食卓にビールを2』 小林めぐみ 著

 あっはっは! オビのコピー「BEER LOVE」ですって!(笑)
 最近の富士ミスはおもしろい仕掛けを考えてきますねー。
 『ROOM NO.1301』とかもですけど。

 で、今回も「カリスマ人妻女子高生のヘンテコストーリー」だったわけで。
 この感覚、お伽話を聞いている感覚に近いなぁ……と思ったりして。
 途中ワケが分からなくなっても、最後には「○○でしたとさ、おしまい」でチャンチャン♪となって終わるというか。
 なーんか、好きなことを書けているんだなぁ……というような、奔放さが心地よいです。
 筆致もわたしのリズムには合ってますし。

 今巻ではSF色が薄まったのと、おつまみ篇が少なかったのが残念かも。
 軽めなSF話って好きなんですけどー。


17
『パートナー 1』 柏枝真郷 著

 NY市警に勤めるふたりの刑事を描くこのお話。
 「男女の友情」がテーマだそうですけど、なーんか雰囲気良くって好きです。
 海外ドラマのノリ……という柏枝センセの目論見は、見事、果たされているのではないかと思います。

 9.11のあとのNYという雰囲気も、よく表れているような……。
 というか、NYの造詣が深いと見受けるのですけども、よほど好きなんでしょうね。
 もしかして住んでいらっしゃるのかな……?

 事件のガジェットとなる推理の部分は、あくまでエッセンスとして。
 コンビを組む男女が、いろいろとわだかまりを覚えつつも、ひとつの目的に向かって行動を共にしていく様が爽快です。
 ドロシーが強きでGO!なお姉さまっていうのが良いですね!
 穏やかなセシルと良いコンビ!(≧▽≦)
 でも、乱暴なだけじゃなくて、ちゃんと恋人がいて、彼には甘えた素振りを見せているところがカワイイなぁ……と。

 脇をかためるキャラ達も好感です。
 ロイドも良いですけど、やっぱりソフィアママですかねー!(笑)


16
『プレイヤーズ』 池田裕幾 著

 文章で音を表現するのは難しいと思うんですけど、それでも当作品では記号として特化させることで、ちゃんと目でイメージさせることに成功しているのではないかなぁ……と。

 少年と少女が出会って、現実からの逃避行っていう物語の基本ラインが良かったなぁ……。
 隔離された独立国「渋谷」というロケーションも、逃げられない閉塞感をとてもカンジさせるものですし。
 ガジェットのひとつひとつが少年と少女に関わってくるのがまた……。
 分かりやすくて、とても引き込まれる筆致も良かったです。
 章タイトルと合わせてのテンポがわたしには合ってました。

 で、わかりやすくて衝撃的なラスト……。
 ちょっと打ちのめされたといいますか……。
 ガジェットのひとつではあるのですけれど、「プレイヤーズ」というタイトルが、このラストを読んでからだと、とても意味深いものに見えてきました。
 この作品を象徴してますよね。

 すごく映像的な作品であったかと。
 そしてまとめかたも秀逸ですね。
 全体のボリュームをきちんと考えて構成されているカンジがして。
 なんというか、ほんと良作。
 読むことが出来て良かったです。

15
『逆さに咲いた薔薇』 氷川透 著

 うーん……。
 本人が「名探偵なんかじゃありませんもの」と言っても、役割はソレなんですよね。
 犯人指摘の場面でも、梨枝さんは美帆さんの考えをなぞっているだけですし。

 犯人の心理は説明していますけど、犯行についての説明は……どうだったんでしょ?
 とくに説明を必要とする犯行ではなかった……ということ、デスカ?
 なにか違うと思いますけど……。

 梨枝さんと美帆さんの関係は面白いんですけど。

14
『まおうとゆびきり』 六甲月千春 著

 得ようとするモノ、得たモノ。
 代償を払うから、あるいは払う覚悟を見せるからこそ感動するのだと思います。

13
『マリア様がみてる 特別でないただの一日』 今野緒雪 著

 いよいよリリアン学園祭なんですけれども、ここに来るまでにいろいろありすぎて(待ち過ぎて?)盛り上がりには欠けたかもー。
 キャラの賑わいと物語の賑わいは別……かな、と。
 全体的には、バタバタしちゃってるかなぁ……。
 嫌いな雰囲気ではないんですけどね。

 可南子ちゃんの件は、これで解決なんでしょうか?
 志摩子さんのお家のことの解決のときも思ったんですけど、謎の内容と解決の仕方が、これまで巻数をかけて引っぱってきたことと釣り合っているのかなぁ……と不安に思うことがあったりして。
 提示されると「なるほどねー」とは思うんですけども。

 これで解決ってことは、可南子ちゃんの役割は終わり……なのかなぁ。
 ということは祐巳ちゃんの妹は……やっぱり、瞳子ちゃん?
 今巻での見せ場の多さったら、スゴイですもんねぇ。
 いよいよ祥子さまからも申し渡されてしまいましたし、次巻あたりで妹問題は決着でしょうか、ねー?

12
『涼宮ハルヒの暴走』 谷川流 著

 口絵カラー、ページ数多くないですか?
 通常、4ページくらいのものではないかと思うのですけど……。
 でも、この作品にとっては、その戦略や間違いでなし!
 しかも本文よりビミョーに過激に描かれていたりして、想像という翼を得て妄想が飛び立ちますよ(^_^;)。

 ハルヒと関わるという自分の立場をキョンが受け入れたことで、物語が前に進んだ気がしますね。
 積極的に事象について考えるようになっているというか。
 やっぱり自分には関係無いとか後ろ向きなこと言っている人には共感しにくいところがあったので、ずいぶんと読みやすくなったなぁ……と。

 えーと、で、やっぱり長門さん? デスカ?
「わたしの情報操作能力に枷をはめたのはあなた」とか!
 なんちうか、もう、正ヒロインの座を着々と……。
 おかげでハルヒが狂言回しというか、きっかけを与えるだけの存在に収まってしまっているわけですけど、物語としては据わりが良くなったカンジがします。
 キョンが前向きになったので、ことさらハルヒが動く必要はなくなったとも言えますけど。
 無茶をしなくても、キョンは動き出すということで。

 しかし今回、表紙にあのふたりをいっぺんに登場させちゃって、次はいよいよあとがなくなりましたデスヨ?
 これもラスト、大団円へ向けての布石なんでしょうか?
 わたし的には最終巻はまたハルヒだと思うんですけどもー。
 本編内でも、なんとなーく終末をカンジさせる描写が少なくなかったですし。

 ……ハルヒがいなくなった世界で終わり、ということはないですよね?
 安定した世界にハルヒの存在する場所はなかったとかいって。
 楽しみであり、心配でもあります。


11
『ゼロの使い魔 2 <風のアルビオン>』 ヤマグチノボル 著

 魔法使いの物語……ではなくて。
 男の子と女の子の物語……と考えるとスゴク好きだなぁ、と。
 ルイズに自分より相応しい人がいる、自分ではルイズの邪魔になる……と勝手に思っちゃって落ち込む才人は、おバカでカワイイと思いますしー。
 自分が持っているその気持ちがいったい何なのか分からなくて戸惑ったり素直になれなかったり、だけど自分を見て欲しいし大切にして欲しいと無意識で態度にしちゃっているルイズは、初々しくて微笑ましいですしー。

 世界的な物語としても、激動の時代の到来を予感させて引いてますし、ふたりの仲とともにこの世界がどう変わっていくのか楽しみになってきました。
 仕掛けに凝らない分、分かりやすい物語になっているのではないでしょうか。

 才人が5万の軍勢にも引かない覚悟を決めたシーンはカッコよかった〜。
 あるいはその後の展開は肩透かしになるのかもしれませんけれど、今回に限って言うならば、覚悟があったからこそ落差が描かれているように思えました。
 やれば出来たのかもしれないけれど、結局は口先だけになってしまった無力感のようなものを強く感じます。


10
『電波的な彼女』 片山憲太郎 著

 ミステリーしてますねぇ〜。
 人物が少ないだけに展開上の役割に意外性は無いのですけど、その展開における雰囲気作りには目を引くモノがあるかと。
 丁寧に事柄を積み重ねていくので、受け入れやすいというか。
 SD文庫っぽくない作品なので、そこは意外かもです。

 猟奇とか苦手な人には難しいかもしれませんし、そういう点では誰でも面白いと思うとは限らないのでしょうけど。
 でも昨今の流れを受け継ぐという点では、キャラの作りではかなり良いセンを行っているのではないかと思います。
 素地がしっかりしているというか。

 乱暴な解釈で「優しさ=女らしさ」「強さ=男らしさ」という見方をするならば、主人公のジュウは女らしさの象徴であり、ヒロインの雨は男らしさの象徴ではないかと。
 表面上の性別と内面的な役割が反転してるんですねー。
 こういうのも時代の流れなんでしょうか。
 しかも、その内面的な部分に揺らぎがないのでわたしは好きです。
 雨の強さなんてホレボレしますですよ。

 雨の妹の光には今作での登場理由は見つからなかったんですけども、これはやはり続刊を意識してのことでしょうか?
 だとしたら楽しみです。

 あー。
 前髪で眼を隠している雨ちゃんを見て、まっさきにティセ(byわくわく7)を思い出してしまいました(笑)。


『ご愁傷さま二ノ宮くん』 鈴木大輔 著

 なんだか非常にストレスを感じてしまいました……。
 読み手との共感者たる主人公が、常にプレッシャーにさらされ続けているので。
 押しばかりで展開するというのは、どうも……。

 こういうのは個人差なのでしょうけど、本来ならオビにも書かれているように「ドキドキ」をカンジさせる部分が、わたしには単にストレスになってしまったといいますか。

 個性的な病名を持ち出してきても、途中からはそれを「サキュバス」ととだけしか言わないのはもったいないなぁ……とか思ったりして。
 その割には、「サキュバス」が起因となるイベントが少ない……かも。
 せっかくのキャラ設定がイベント数の少なさで活かされていない……ってこと?
 設定は面白いと思うんですけどー……。


『ネザーワールド -ロビン-』 東佐紀 著

 前作でも感じたんですけど、物語の結び方、ラストシーンがすごく印象深い人だな〜……と。
 ここだけ別個の世界が広げられているというか、特別にあつらえたような感覚。
 このラストシーンへ向けて物語を導いていっているかとも思うのですけど、それでもやっぱり別格かなぁ、物語全体の中では。
 で、まぁ、そのラストシーンがお気に入りなわけですけどっ!

 本編のほうは、いろいろとやりすぎている……ような気が。
 あれもこれもと、ちと欲張りすぎかもー。
 「ネザーワールド」の雰囲気は前作より深まっているように感じたんですけど、それを活かすための仕掛けがバラバラに感じちゃうんです。
 だもので、そのぶん物語が分裂しているような。

 なにより、バイプレイヤーであるはずのクイーンが、事件解決のために最前線で立ち回ってどうにかしちゃうというのはどうなのかなぁ……と。

 それでも最後の最後には男の子が犠牲を払ってでも頑張って女の子を救う物語になっているので、間違ってはいないんでしょうね。
 この「犠牲を払う」という過程が無視されていないので、クライマックスが盛り上がるんですよねー。

 キャラ的には、もちろんフローラがカワイイんですけども、それ以上に……ダイアナ、かなぁ。
 もうちょっと出番が欲しかったかなぁ。
 シャルロットの心の動きは、ちと急ぎすぎなカンジがしましたです。



『約束の柱、落日の女王』 いわなぎ一葉 著

 うぐっ……。
 わたしのツボに見事合致する主題なもので、もう、どうしたら……。

 冒頭は視点が交錯して理解しにくかったり、中盤まで書き急いでいるカンジを受けなくもないですし、また中盤からのイベントは少し強引かなぁ……と多うのですけれども。
 カルロの名前は、ちと分かり難かったです。
 カルロ・カルネロス、ネロス、カルロ……。
 同一人物で幾通りもの呼び名があるなら、そこのところ入りの部分で説明していただきたく……(その後ありましたけど)。
 リーファンなんか、外見描写がなかなか出ないので、もっと年寄りかと思ってましたヨ。
 キャラ描写をもう少し丁寧にしてくれたらなぁ……というカンジですか。

 それでも最後は見事に結んでますし、なにより物語がブレていないところがスゴイなぁ……と。
 主題をいつも意識して、ひとつひとつのわずかな材料でも、その主題を活かすために配慮されているという、全体のまとまりがとても好感です。
 あますとこなく、この作品で書くべきトコロは書ききっているなー……というカンジを受けるのです。
 もう、全力投球。

 時間が愛するふたりを分かつという寂しさだけでなく、結びでは前に進み出す勇気を描いているところがステキ。
 うんうん。そういうところがラノベですし、ジュヴナイルですよね。
 傷つくのは誰だって嫌だけれど、傷ついてなお立ち上がるから、人は強くなれるんですよね。

 ……そんなことを思いつつも、やっぱりクリムとカルロに、ひとときだけでもいいから人並みの倖せがあってほしかったなぁ(TдT)。

 主題が主題だけに、わたし個人的に高得点なのは認めますけども、やはり筆致などは読ませる人だと思いました。
 これからの活躍に期待です。



『Holy☆Hearts! 勇気をくれる、なかまです。』 神代明 著

 正直に言えば、本編であるところの「スノーフレイク編」はあまり好きではなかったりします。
 事件が事件として成立していない気がするので。
 もとよりキャラが多すぎて各々の立場が明確ではありませんし、物語を進める上で必要なキャラとは思えない人が出張ったりしてきますし。
 キャラを好きになりすぎて整理できないのかなぁ。
 ゲストキャラとレギュラーキャラの立場を混同しているような気がするのです。
 一度登場させたからと言って、その後も同じペースで描いて存在感を提示しなければならないというわけでもないでしょうに……。

 キャラの数が多いというのに、人物紹介のページは機能していませんし……。
 ネタならネタで、もう少しなんとかしたほうが……。

 でもですよ。
 そんな冗長な本編とは違って、課外授業はめちゃ面白くって!
 こちらのノリで長編を書いてほしいくらいです!
 長編じゃなくても良いので、連作短編のようなものを……(^_^;)。

 あぁ、それにしても、キュノたちも二回生ですかー。
 なんというか、この辺のノリは『マリみて』テイストですねー(笑)。
 一回生も入ってきて、キュノを巡って争ったりするのでしょうか?
 はぁ〜。あのキュノが“先輩”ねぇ……(笑)。


 あ。折り返しのところに、著者の既刊本リストが記されるようになりましたね。
 あの運動には参加していなかったのですけど、欲しかった身としてはよかよか。
 それと気になったのは、背表紙のタイトル表記のフォントですけど、新人さんのフォントだけ違うんですけどー?
 丸ゴチ?
 あまり見映えがよいものとは思えないんですけども……。
 既刊シリーズはデザイン上仕方がないということにして、これからの新シリーズはあのフォントで表記されていくのかなぁ。
 ちと、考えてしまいます。



『echo −夜、踊る羊たち−』 枯野瑛 著

 あー……。キャラ造形の勝利、かも。
 物語の構造は、それこそ中盤に至るまでに見えてきてしまうのですけれども、キャラの心情がしっかりとしている=受け止めやすいので、展開に飽きが来ないかなぁ。
 こうなると物語の平易さすら、キャラの心情を際立たせるために敢えてそのようにしたとも受け取れますし。
 事件を起こして、そして解決するだけでは物語とは言えないという好例ですねー。
 事件に関わるのは、読者の前に、まずキャラクターたちなのだという。
 ある状況に陥ったとき、どのように振る舞うのか……。そんな設定が細やかに作られて、そして活かされているのではないかと思います。

 まー、それにしても、須賀桐子ちゃんのステキムテキっぷりったらないです。
 こういうタイプに、わたし、弱いんです!(≧▽≦)
 わたし的には、もう一歩、直樹とのことで踏み込んだ描写が欲しかったと思うのですけれども、そうすると本旨からズレてしまうのは分かってますし……。
 心残りですけど、これはこれでOKです。はい。


 それにしても「新鋭が放つ、ミステリアス・ストーリー」って……。
 えー。枯野センセって、まだ新鋭なのー?
 ファミ通文庫のコピーは、いまいち引っかかるなぁ……(^_^;)。



『推定少女』 桜庭一樹 著

 やっぱり桜庭センセは、女の子同士の交流を描かせたらスゴイなぁ……。
 文字で伝える情報量は少ないのに、文章の中にある空気というか醸し出される雰囲気が、心に直接染みてくるというか。

 状況説明とか、話を回すためのギミックとか、ほかの作家さんならいろいろと用意しているであろうポイントが全くないようなカンジ。
 削ぎ落としてこうなったのではなくて、もう、初めから別個の種なんじゃないかって気がします。
 ……もっとも、受け入れられない向きには、こうした不足したところが嫌なのかなぁと思ってしまうわけですけれども。

 今作ではワタシ好みの通過儀礼っぽい雰囲気もありましたし、よきかな。
 大人になることを自分の目で見ている少年少女の姿は美しいな……と。


 それにしても「新・青春エンタテイメント」とかいうコピーは、いまごろどうかと思います。



『さよならトロイメライ 3 幻想リプレイ』 壱乗寺かるた 著

 肩から力抜けるような軽妙な筆致は1巻の頃を思い起こさせますけど、あの頃よりは格段に読みやすくなってますねー。
 というか。
 1巻の頃は改行位置とかが、わたしの肌には合わなかったわけですけども。

 そして富士ミス方針転換後の「LOVE!」の流れに沿った作りで……。
 やーもーっ。
 面白く読ませていただきました。

 今巻、そんな「LOVE!」の体現者は、都ちゃんでも泉ちゃんでもなく、ましてや八千代ちゃんでもなくて、やっぱり長峰亮平&榊みどりのお二人ではないかと!
 なんなんでしょうか、このふたりはっ。
 別世界にいますよ、このヒトタチだけっ!(≧▽≦)

 ここにきてキャラの立ち位置もようやく整理できたのかなぁ……という気が。
 当初の印象とは変わってしまっている人も居なく無くはないですけれども、物語を動かす方向への転化だと思うので、よきかなよきかな。

 敵となる存在も登場していますが、それも主人公トーマの背景設定を披露するため、もしくは深めるために位置していますね。
 敵対する存在としてよりも、背景を知る者として存在のほうが重要なわけで。
 本来なら都がそれを為すべき、為せる位置にはいるのですけど、まさか彼女にやらせるわけにはいかないですし……。
 そういう意味では、悪役とはいっても狂言回しなので、見ていて安心は出来るかなぁ……と。

 ミステリ部分の全体の中での相変わらずウェイトは低いというか、むしろ敵という読者の意識を向ける存在が登場することと相まって、これまで以上に低くなって……と言わざるを得ませんけど、今の方針の中ではそれも有るべき姿だと理解できます。
 大雑把に言えば、構造が推理モノから勧善懲悪モノになっているというか。
 なにも前者を描くために無理する必要も感じられないので、これ関しては良いのではないかと。
 むしろ今巻でのキャラの見事な掛け合いを見るに、そうしたガジェット部分は足を引っぱりかねない印象を持ったもので……。
 勧善懲悪、わかりやすくてオッケーですよ。
 ……違うか。
 わかりやすい勧善懲悪がオッケーなんですね。


 あえてひとつ苦言を言わせていただくなら、カラー口絵。
 もっと機能的に活かす方向でレイアウトなど考えていただけないものでしょうか。
 情報を整理する目的で――。
 ただでさえシリーズ当初からキャラ総数が多いシリーズなんですし。


『スカーレット・ストーム 第二海軍物語』 中岡潤一郎 著

 「萌え架空戦記」として生み出されたハズなのですが、女の子をたくさん出せばいいという考えでは何も「萌え」を表現できていないと思います。


『待つ宵草がほころぶと』 沖原朋美 著

 はっきりとした絶望も希望も描かないような、静かに結ばれる帰結は、沖原センセの持ち味なんですね。
 それが分かれば、あとは好き嫌いですしー。
 前作『勿忘草』ではちょっと首を傾げてしまいましたけれど、いまではそれもアリだなぁ……と思うように。
 もちろん、今作も。

 良い子でいるために自分を押し殺している凛の姿は泣けてきました。
 彼女の生き方に共感できる人というのは、あるいは限られてしまうのかもしれませんけれども。
 我慢の人生ですし。

 小道具の多くない作品ですけど、そんな中であの「浴衣」はとても効果的に用いられているというか。
 いろいろと先が見えてしまう展開の平易さはあるのでしょうけど、それだけに瞬間が来たときは凛とシンクロしてしまうかなー。
 訪れるであろうけれども来て欲しくないモノが、ついに来た……みたいな。

 白尾先生との恋物語はどうだったんでしょ。
 そっち方面での期待は空振りでしたけれど、凛の心の軌道はとても丁寧に描かれていたのではないかと思います。
 物語としては、ふたりの仲が成立して欲しい気もしますし、また、あのままでも良いような気もします。
 後者の理由としては、先生よりもお母さんと向き合うことに凛の立場はあると思うので。
 つまりは、この作品は恋愛小説ではない――と。
 児童文学の文脈かなー。


 友達ふたり、真沙美と桂も良かったですね。
 ああいった気の遣われかたは、嬉しくなります。
 友情だー(T▽T)。

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