雨が降る
(18篇)
◇◇◇ 目次 ◇◇◇
雨/心の現実
花が散る/わがまま/紡げぬ言葉/拒絶/だから今/光よ
雨が降る/過ぎゆくもの/残るもの、消えゆくもの/せめてもの「さようなら」
ディープ・ブルー/湖/風/地団駄踏んで/映る影/消えゆくもの



雨が降っています
どうにも仕方なく、雨が降っています
そうする以外、本当にどうしようもなくて
雨が降っています

とつとつと
あたる雨音が聞こえてきます
心の現実


覚悟はしていたはずなのに
いざその時が訪れてみれば
やはり私の心は大きくゆらいでしまう

失われた望み
行き場を失った思い

覚悟をしていたはずであっても
心の現実は避けられなかった
大切なものをえぐり取られる痛みは
やはりやってきた
花が散る


花が散る
花が散る

舞い落ちる
その花びらのひとひらひとひらに
思い出の時が映る
----消える

花が散る
花が散ってゆく
わがまま


私にはあなたが必要なんです
この思いの中にある意味
私はそれをあなたの側で見出してゆきたいのです

ひとり、
その言葉の重さはわかっています
ですが、この思いが
私一人だけに意味あるものであるとしたら
そこにどれほどの豊かさがあると言うのでしょう
この思いの先にも
私一人の姿しかないとしたら
私はいつまでたってもこの寂しさからは抜け出せません

思いの先にはあなたがいる
私はそのことを実感したいのです

そうでなければ
私は私になれない
そんな気がするのです
紡げぬ言葉


先が感じられぬ今
私はあなたへの言葉を紡げずにいます

いや、これは嘘です
私は先を感じているのです

ただ、そこに
あなたの存在を感じられないから
私はその言葉を紡ぎたくないのです
拒絶


さようなら
その言葉を私は言いたくありません

今も望みは残されている
そのわずかばかりの希望と
今も息づいているこの思いを
私は捨て去ることができません

置いてゆかねばならぬもの
私から離れていってしまうもの
私はこの思いを
そのいずれにもしたくありません

甘えとか、わがままとか
そんなことを言われたとしても
イヤなものはイヤなんです

すでに望む思いさえも薄れかけています
それでも、私は
さようならとは言いたくないんです

私はあなたとの始まりが欲しかった
今もやはり、始まりを求めている

この思いが残っている以上
さようならという言葉は
所詮、ウソっぱちでしかありません
だから今


あなたの現実と
私の現実

ふたつの現実が重なり合わずにいることが
今の私には
どうにも耐えきれない心の現実なのです

なぜなんでしょう

そんな疑問が
またも湧き上がってくるのですが
今はその答えを見つけにゆく気がしません
光よ


好きだ
その思いを胸に抱いてみたところで
外なる現実は重く固い
だが、外なる現実が確かである以上に
内なる現実
好きだという思いも
また重く確かだ

光よ、ああ光よ
二つの確かさをぶつけあい
そこではじけ生まれる光よ
今度こそ
私の道だけでなく
彼女の道を
私のものとともに照らし出してくれ

光よ
私はこれを最後にしたいのだ
第一の扉を
あの人への扉を
開ける力として
お前の輝きを
今も私は願う
雨が降る


雨が降る
雨が降る

聞こえてくる雨音
忍び込んでくる冷たさ
心は青に沈み込む

失いたくないのに
私はこの思いを手放したくないのに

雨が降る
雨が降る
雨は降り続いている
過ぎゆくもの


風が吹くと
湖面はさざめく

(ここにはあなたがいない)

風が通りすぎると
湖面は再び落ち着きを取り戻す

(ここにはあなたがいない)

風が吹き
風が止む

(ここにはあなたがいない)

深い藍の色を見せている湖面
今はゆったりと広がっている
残るもの、消えゆくもの


もし運命というものが
定められたものであるというのなら
私はそこに
残る思いを託してゆこう

今となっては
遠くなってしまったあの人

もしそこに互いの未来があるのなら
いつかまた彼女と会えますように
そこにもう、先がないのであれば
このまま二度と会わずに終わりますように

私は運命と呼ばれる意味ある偶然に
この思いの意味を求めてゆこう
雨音を胸に
今も残る、この思いを力として
せめてもの「さようなら」


明日、靴を買いにゆこう
そうして、新しい靴を履いて
毎日毎日を歩いてゆくんだ

終わってしまったものは
思い出の中へ押し込んで

ボロボロになるまで
履き続けてきた古い靴
お疲れさま、本当にありがとう

明日、靴を買いにゆこう
それが古い靴、最後のお仕事

あさってからは新しい靴
その新しい靴を履いて
毎日毎日を歩いてゆくんだ
ディープ・ブルー



カーテン越しに
その薄い光が漏れ通ってくる

だが、私は今も夜の闇の中にいる
ここはひんやりと静かだ

雨の音が聞こえる



過ぎ去ってゆくもの
何をしても、しなくても
すべては過ぎ去ってゆく

大切だと感じていたものも
確かだと感じていた思いも
私から過ぎ去っていってしまう

思い出と涙
出会いのときの笑顔も
いつしかそこに還ってしまう



今はまだ
思い出とはなりえぬ思いは残り
私は今もゆらいでいます

あなたは遠いところに
ただあなたへの思いだけが
今もここに

私はゆらいでいます
地団駄踏んで


やっぱりダメだ
乱れている

思いはまだ生きているというのに
言葉が散ってしまう

ツギハギ、ツギハギ
何とか形にしてみても詩にならない

ツギハギ、ツギハギ
形にしてみたところでうかばれない

希望が消えてしまっている
あの人はもう遠い

雨だ、雨が降っている
雨の音が聞こえる

言葉はない
詩は消えた

もってけ、もってけ
すべてくれてやる

残るものなどなくていい
詩も思いも、すべて行ってしまえ

要らない、要らない
こんな形代なんか要らない

雨が降っている
雨が降っている
映る影


散りゆく希望から
思い出ばかりが甦ってくる

あんなこともあった
こんなこともあった

希望が散りゆく今
それはもう思い出の出来事

さようなら
さようなら

散りゆく希望が
私に呼びかけてくる

さようなら
さようなら

私は呼びかける
本心からでない言葉を口に

さようなら
さようなら

散りゆく希望に
あなたの側にありえた日々に
消えゆくもの


叶えられなかった望みと
今も残る思い

そのふたつの大切なものを
音に乗せ、私は歌を口ずさむ

空に向かい
風に向かい
そうして、今も残る思い
その中に映るあなたに向かい
私は歌を口ずさむ
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