寂しさと
(13篇)
◇◇◇ 目次 ◇◇◇
戯れ詩(1)/よく見る夢
困ったもんだ/戯れ詩(2)/答えは二人に
距離/寂しさと(1)/困った大将/ズレている?/どう思います?
白日夢/ノック/寂しさと(2)
戯れ詩


惚れたら負けよ
弱味はこちらに
切り札はそちらに

だから、さあ
先に惚れて頂だい

だって、今度こそは
負けたくないんだもの
よく見る夢

不可思議に身にしみるこの夢を----
ヴェルレーヌ


不可思議に身にしみるこの夢を、私はたびたび見るのです
「一緒にいましょうね」
そうにっこりと微笑んでくれる女性
しかも、見知らぬ
ただその感じだけがはっきりとわかる女性

「一緒にいましょうね」
そうですね
どこにいても私はあなたを身近に感じています
こうして夢の中で
微笑みを交わしあうこともできるほどに
二人の心は響きあい、通いあいしているのです

でも、目覚めが訪れると
私はあなたの顔も、名前も忘れてしまうのです
残っているのはあなたの感じだけ
それでも私は豊かな気持ちの目覚めです
必ずあなたに出会えると確信していますから
互いの心はしっかりと呼びあっているのですから
困ったもんだ

うめく風が闇の中を吹くように
H・ヘッセ


うめく風が闇の中を吹くように
私の心にも
あなた恋しの風が吹く
ついこの間までは
人恋しのそよ風だったのに
あなたという光を浴びて
今では、まあ
吹くは、荒れるは、で
抑えようという気さえ
吹き飛ばされてしまっています
戯れ詩


私は心狭い人間です
中々に惚れっぽいところもあるのですが
それでも、「好き」
そう言ってしまえる人のための場所は
一人分しかないのです

そこがその人の場所
と、なってしまうと
それでもう
他の人の入る余地はなくなってしまうのです
本当に心狭い人間です
答えは二人に

つれない世路を----
ヴェルレーヌ


つれない世路を私は歩いてきました
多くの願いは
現実の手によって打ち砕かれ
それでもメゲぬ自分に支えられ
そうしてここまで歩いてきました

叶えられなかった願い
それは恋とても同じこと
大切なもの
大切だから手折られたのか
大切だからしくじったのか
そんな疑問も
今となってはどうでもいいことなのです

これまでの道程が
あなたと出会うためのもの
そうしてこれから
あなたと道行きをともにするためのものであった
そう確信できれば
それが始まりになるのです
距離


あなたはそこに
そこにあなたはいるのだけれど
一歩、
その一歩が踏み出せないで
あなたはそこに
わたしはここに
寂しさと


寂しい
と、言ってしまえばそれまでのことなのですけれど
今、あなたが側にいないことが
私にはどうにも寂しくて仕方がないのです

そもそも、あなたの心が
私の方を向いてくれるのか
それさえわかっていないことが
寂しくもあり、不安でもあるのです

ええ、私の心はしっかりとあなたの方を向いています
そうして、実際
あなたのところへ向かおうとするのですが
自分に自信のない私は
もう傷つきたくない
そんな半端な気持ちのまま
「向かおう」の「おう」で止まってしまっているのです

おかげで、今夜もひとり
寂しさと向かいあいです
困った大将


当たりの前のことなのですが
冬は寒いです
寒さに負けて
心も身体も縮こもりがち
どうにもこうにも
「やりきれない」
その気持ちだけがひたすら元気で
かまって、かまって
と、私の心にのしかかってくるのです
ズレている?


なぜなんでしょう
なぜ私は
こんなにもあなたに心引かれているのでしょう

外見だけ
と、言うのでしたら
あなたより美しい人を私は知っています
それに、私は
あなたの内面を理解している
と、いうわけでもありません

それでも、私は
あなたの凛とした感じ
ささいな仕種
とりわけ笑顔に心引かれ
どっぷりあなたに惚れてしまっているのです

こういうのを
タデ喰う虫も好き好き
と、言うのでしょうか?
それとも
縁は異なもの味なもの
と、でも言うのでしょうか?

いずれにしても
今度こそは、その答えを
自分ひとりのものとはしたくありません
どう思います?


私は思うのです
運命の赤い糸というわけではありませんが
誰にでも
その人のための誰かさん
と、呼べる大切な人がいるということを

私もこれまで
自分の心を頼りに
私にとっての誰かさんを探してきました
でも、どれも人違い
と、するしかどうにも納得がゆかない結果ばかり

で、今また私は
問うべき時期に入りつつあります
はたしてあなたが
私のための誰かさんなのか
そうして私が
あなたのための誰かさんなのか
白日夢


手を伸ばせば届きそうなのに
届かない
伸ばしたはずの手は
心の中でだけのこと
でも、この手にはあなたのぬくもり

私はあなたの顔を
そっと胸に引き寄せる

ぎゅり----
えぐられたかのような痛みが胸に走り
あやふやなぬくもりが手から消えた
ノック


あなたをもっと身近に感じていたい
そう願ってはいるのですが
その前に、まず
私の来訪を知らせ
扉を開けてもらうために
ノックをしなければいけないんですよね

扉をたたく
簡単な行為のはずなのに
私はそれができず
どうにも困っているのです
ごめんなさい
寂しさと


寂しい
と、言ってしまえばそれまでのことなのですけれど
こんな冬の夜に
あなたのことを思っているのは
やはり寂しいのです

夜は冷たい
一人は寒い

あなたへの思いは
確かなぬくもりを与えてくれてはいるのですけれど
そのぬくもりが
取り巻く空気の冷たさを
より際立たせてしまって、私は
寂しい
と、つぶやくよりほかないのです
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