ひとよ
一 夜
(再々改訂版/17篇)
◇◇◇ 目次 ◇◇◇
キョウ
ゆらぐ/残像/次なる「私」か/景色
思い出も/私は.../私の神さまへ/七月八日/景色
これまでも、今も/タオ/呼ぶものは
鈴の音/明日こそは/立ち返る/私は待つ
キョウ


都会の片すみに
一羽のフクロウがいる

昼夜の別なく
その両の目に
生の光を宿し
じっと
何かを待ち続けている

ホウ
と、小さく啼く
ゆらぐ


不安にむしばまれ
私が
ぽろぽろ
ぽろぽろ
崩れてゆく
朽ちた板塀のように
残像


暗いな

時折、ぼんやり
光が見えることがあるけれど
それは蛍火よりもはかない

どこへ行こう

ふわり
浮遊するかげろう
消える----

暗い
ここは暗いな
次なる「私」か


叫んでしまったら
崩れ落ちてバラバラになってしまう
そんな怖れがある
大きな揺れがあるわけじゃない
心は相変わらず
嫌になるぐらいにひっそりとしている
ただ、そのひっそりの底に
わずかにむずむず蠢くものがある
それがこの奇妙な不安をもたらしている
微かな不安なんだけれど
それが実体化したらすべてが終わってしまう
そんな気がして仕方がない
叫びたいと感じながらも
叫ぶことが許されぬ
もどかしさ、不安、恐怖----
景色


そこは白の世界
すべてのものが白んだ光に覆われ
穏やかな色彩を保ち
ひんやりとした空気が漂う
時折、そよと風が吹く

風が吹くと
そこにあるものは
すっと色を失い
さらさら
さらさら
細かな白砂となって崩れてゆく
無音の白い砂漠が広がる
思い出も


すべてが遠くなってしまった
私にあるものと言えば
夢の躯<むくろ>である詩と
夢と詩を生み出し続けた心

だが、今
その自分の心さえ遠い

望む思いもどこかに行ってしまった
無理に夢を思い描いてみても
核となる望みを欠いた夢は
描いた先から広がり、消え失せてしまう

私は、今、ここにいるはずなのに
「今」も「ここ」も感じられない

広がってしまっている
何がどうかもわからぬぐらいに
私は広がり、希薄になり
すべてが遠くなってしまっている
私は....


また一日が終わりゆく

あなたと言葉を交わすことなく
また今日という一日が終わりゆく

せめて、眠りの中
夢の世界では----

そう願ってみても
夢も思い通りになりはしない

昼にも夜にも
私の自由になるものなどない

そうして一日が終わり
明日がやってきて----
私の神さまへ


寝て覚めれば
今日という新たな一日が始まる

それなのに、どうしてなんでしょう
私には「またか」という思いしかありません

夜が明けても扉が開くことはありません
望みは薄れ、消えゆくばかり
だから、こうして
眠りに就く前に嘆きの言葉を洩らすのです

嘆いているからいけない?

なら、望めるだけの今日という日を
一日でもいいですから、お与えください

でなければ、覚めても
また今日という一日が始まるだけ
その思いに変わりはありません
七月八日


ひっそりと
七日の夜が過ぎ去ってゆきました

日暮れとともに
降り始めた雨はやまずに残り
今もその軽い雨音が聞こえている

窓を開け、空を見上げても
黒に墨色を滲ませた空
降りそそぐ雨粒がわずかに光る

今夜、お願いしようとしていたことは
去年と同じ
叶えられなかった願い
今も願い続けている

さらさら
さらさら
雨は降り続いている
夜が更けてゆく
景色


そこは何ということもない世界
光が降りそそげば
闇が訪れもする
風は時々に変化し
温度も湿度も、また気まぐれだ
事物も確かに存在し
見てとることも、手にとることもできる

だが、そこにあるものはすべて
私の手が触れるやいなや
ぱぁーっと
光の粒となってはじけ散り
穏やかな色彩を変化させつつ
ゆっくりと地面の上に落ちてゆく
これまでも、今も


もう嫌だ
すべてを投げ出し
自分自身をも捨て去ってしまいたい

そんな自暴自棄な思いに駆られ
その一方で私が
うち拉がれているから
風よ
お前は私を慰めてくれるのか
そうして
まだ私に「進め」と言うのか

でなければ、なぜ
金木犀の香りを私のもとに運んでくる
この甘い香りが
望む思いを揺り起こし
私は癒され
そうなってしまえば
私はまた歩みを続ける以外にない
タオ


確かな形を作らなければ
私は自分であるところのものに戻れない

自分でないのだから
私には居場所はない
訪れるものとてない

形としての自分がない
迎える準備を怠っている
呼ぶものは


あなたは本当に遠くなってしまった
これまでも、近い
その感じはあったのですが
現実のあなたは遠かったです
そうして今
あなたはますます遠くなってしまった
言葉を交わす機会さえほとんどない

なのに、
なぜ、
近い
その感じだけが残っているのでしょう

今も望みを捨ててはいません
私はあなたが好きです
ですが、今
あなたが近くに感じられると
私の心は以前よりも激しくうずくのです
言葉を交わす機会もないほどに
あなたが遠くなってしまっているから
鈴の音


(ちりん....)

彼女の訪れはすぐにわかる

(ちりん、ちりーん....)

あの鈴の音が聞こえてくるから

(ちりん....)

いつか君は話してくれたね
その身に着けた鈴のわけを

(ちりん、ちりりーん....)

「こうして鈴の音が聞こえると
あっ、私はここにいるんだって安心できるの」って

(ちりん....)

そうだったね

(ちりん....)

今は遠いけど
それでも聞こえているよ

(ちりん....)
(ちりりーん....)
明日こそは


明日こそは、
そんな虚しくも感じられる繰り言を
寝入るまでの呪文とし
今夜も私は眠りにつきます

このまま、二度と目覚めなかったら----

そんなバカなことを
願ってみたくなることもあるのですが
目覚めれば、やっぱり朝

晴れにしろ、雨にしろ、曇りにせよ
訪れるのは
明日こそは、
と、願っていた今日なんですね
立ち返る


今、こうして書いている詩を
誰かに認めてもらいたいとか
誰かではなく
まずあなたに認めてもらいたいとか
そんな思いがない、
と言えば、それは嘘になります

でも、
今ここにある詩は
何よりも
私自身のために歌ったものなのです

今の私は
現在の闇の中に落ち込み
道を見失い
自分自身をも失いかけています
ですから、私は
私自身のために
歌わなければならないのです
私は待つ


私は待つ
この扉が開くときを
私の道が再び輝く日を

だから、
今はじっと闇を見つめる
何を望むのではなく
ただじっと闇を見つめる
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