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の日はつるべ落とし(まがたま79号より)

この文章は、「まがたま79号」(2010年10月発行)に書いた記事を一部なおしたものです。「またがま」とは、私が所属する天文同好会、さいたま☆天文同好会(旧SPGAS)の会報です。なお、さいたま☆天文同好会のサイト内にある「webまがたま」では、まがたま49号(2000年12月発行)以後の記事の一部が紹介されています。

今回の特集テーマは『Fall』です。まがたま77号の特集が『Spring』でしたが、その秋バージョンです。『Spring』には『春』のほかに『ばね』や『泉』などの意味もあり、同じタイトルで3作品を書いてみました。

さて『Fall』はというと、『秋』のほかに『滝』や『落ちる』などの意味もあります。しかし「天文と秋」はまだしも、「天文と落ちる」や「天文と滝」はあまり良いネタが思い浮かびませんでした。その代わりに思い出したのが「秋の日はつるべ落とし」ということわざです。このことわざ、『秋』『落とし』も入っているではありませんか。

天文年鑑には天文薄明継続時間という欄があります。どれくらい前のことだったか忘れましたが、この天文薄明継続時間を見たとき、ふと「秋の日はつるべ落とし」ということわざを思い出しました。秋は天文薄明継続時間が短いことに気がついたからです。

「秋の日はつるべ落とし」ということわざの意味は、簡単にいうと、「秋の夕日は沈むのが早くあっという間に暗くなってしまう。」ということになります。これを私は、単に「秋は日暮れが早い」ということだと認識していました。例えば、"夏は午後6時でもまだ明るいが、秋になると午後6時はもうかなり暗い"というようなイメージを表現するものだと思っていたのです。しかしこれは同じ時刻での明るさを夏と秋で比較した結果であって、日が沈む速度の違いではありません。「つるべ落とし」というくらいですから、"日が落ちる速度が速い"というのが本当の意味ではないか、と気がついたのです。例えば、"30分前はまだ充分明るいと思っていたのに、もうこんなに暗くなってしまった"というイメージを表現していることわざだと思ったのです。

このときは、これ以上の調査や検証はしませんでした。今回は、改めてこのことを検証してみようと思いました。そこで、日没から天文薄明が終了するまでの時間、すなわち天文薄明継続時間をステラナビゲータで調べ、それをグラフ(図1)にしてみました。ちなみに、場所はさいたま市に設定しました。図1のグラフを見て分かるとおり、夏は継続時間が長く、ピークの頃には1時間48分あります。一方、秋は短く、最短のころでは1時間24分しかありません。その差は24分ですから、暗くなる速さの違いをかなり感じるはずです。

グラフを見ると、実は春も薄明継続時間が短いことが分かります。秋と同じくらいの時間しかありません。しかし、冬の薄明継続時間は夏ほど長くなく、1時間31分でした。冬と春の差は6分ですから、春になったからといって"暗くなるのが急に速くなった"とは、それほど感じないでしょう。

図1のグラフにもう一つ描いてあるのは、太陽高度が10度のときから日没までにかかる時間です。薄明継続時間は"日が落ちる速さ(日が落ちるのに要する時間)"ではありませんから、「つるべ落とし」を検証するには、むしろこのような比較が必要だと思いました。高度10度から日没までの時間が適切なのかは分かりませんが、ここではこれを日没に要する時間と考えたいと思います。

グラフを見ると、確かに秋は日没に要する時間が短いのですが、春も同じように短く、また夏よりも冬のほうが長いことが分かります。そして、秋と春の最短時間は55分、冬の最長時間は1時間7分、夏の最長時間は1時間1分でした。夏と秋の差は6分ですから、この違いを大きく感じるとは思えません。 これらのことから、"日が沈む速さは夏に比べて秋が特に速くなるわけではないが、薄明が終了するまでの時間は夏から秋に向けて急速に短くなり、暗くなる速さが速くなる"ということが言えるでしょう。

もう一つ作ってみたグラフがあります。図2のグラフなのですが、これは単純に日没時刻と天文薄明終了時刻を表したものです。春から夏に向かっては日没時刻が遅くなり、夏から秋に向かっては日没時刻が早くなるわけですが、グラフを見ると、春から夏への変化よりも夏から秋への変化のほうが早いことが分かります。(均時差によるものですが、説明は省略します。)

これは"日が落ちる速さ"の変化ではありませんが、夏から秋にかけての変化の速さは、日暮れが早くなったことを強く感じさせる要因になると思います。

これらのことから、"日が沈む速さ"は夏に比べて秋が特に速くなるわけではないが、薄明が終了するまでの時間は夏から秋に向けて急速に短くなり、暗くなる速さが速くなる。加えて、日没時刻自体も急速に早くなる。両方の原因により、秋の夕方は暗くなるのが早いと強く感じられる。そのために、「秋の日はつるべ落とし」ということわざが生まれたのではないか。と、私は考えました。

ところで、「秋の日はつるべ落とし」を英語でいうとどうなるのでしょうか。「英語は苦手だし、特にことわざを訳すのは難しいし・・・」と思っていたのですが、インターネットで以下のような訳を見つけました。

The autumn sun sets as quickly as a bucket dropping into a well.

「秋の日はバケツが井戸に落ちていくのと同じように速く沈む」という直訳的な表現です。"秋"は「autumn」、太陽が"沈む"のは「set」、つるべが"落ちる"のは「drop」という単語が使われていました。なんと、どこにも『Fall』が使われていないではありませんか!ということで最後にもう一つ、とんだオチがついてしまいました。

アップロード:2011.3.22