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皆既日食、ギリギリセーフ!−反省&おまけ編−(まがたま73号より)

この文章は、「まがたま73号」(2008年9月発行)に書いた記事を一部なおしたものです。「またがま」とは、私が所属する天文同好会、さいたま☆天文同好会(旧SPGAS)の会報です。なお、さいたま☆天文同好会のサイト内にある「webまがたま」では、まがたま49号(2000年12月発行)以後の記事の一部が紹介されています。

2008年8月1日に皆既日食がありました。この皆既日食は、ロシア、中国、モンゴルなどの国で見ることができました。私は、この皆既日食を見に中国へ行き、そして念願のコロナを見ることができました。これは、準備段階を含むその報告です。大変長くなってしまったので、全部で5編に分けてあります。

  1. 準備編
  2. 旅行記前編
  3. 日食編
  4. 旅行記後編
  5. 反省&おまけ編

反省点など

最後に反省点やおまけなどを書きます。まずは反省点から。

デジタル一眼のピント合わせ

一番の反省点は、デジタル一眼でのピント合わせです。デジタル一眼で撮った日食の写真は、「ピントが甘い」などというレベルではなく、「ピンボケ」というほどピントが合っていませんでした。その最大の原因はテスト不足です。シャッタースピードを変えて何回もシャッターを切る練習はしましたが、全て部屋の中で練習していました。また、撮影予定の機材でピントが合うかどうかは、月でテストをしていました。実際の太陽でピントや構図を合わせる練習はしていなかったのです。実際の太陽でテストすべきだ、と思ってはいたのですが、平日の昼間は仕事ですし、休日はその他の準備に追われていました。

それでも、テストの必要性を強く感じていれば、1回はテストをしただろうと思います。それを一度もテストしなかった背景には2つの油断があったと思います。

1つ目は、水星の太陽面通過や部分日食で太陽の写真は何回も撮ったことがあるから大丈夫だろうという油断です。しかしここ数年間に撮った太陽の写真は、どれもCOOLPIX990を使ったものです。この場合、望遠鏡のアイピースの後ろからカメラを覗かせる『コリメート方式』になります。カメラのオートフォーカスが働くので、あまりピントを合わせる必要はありませんでした。 COOLPIX990をマニュアルフォーカスで使うこともありましたが、それでもデジタル一眼と違う点がありました。当たり前のことですが、太陽を写野に入れてピントや構図を合わせるときは、日が差している下で作業を行います。すると、カメラの液晶画面が非常に見づらいのです。COOLPIX990はレンズがカメラボディに対して回転できるので、少しでも液晶画面を見やすいように回転できました。一方、今回使ったD40xは、ライブビュー機能もありません。つまり液晶画面を見ながらのピント合わせはできないのです。ファインダーを覗きながらピント合わせを行う必要がありました。さらに、試し撮りした画像を液晶画面で確認するときも、画面が見づらいですから判断が甘くなります。 事前のテストを怠ってしまったので、このような状況を当日までしっかりと把握していませんでした。

2つ目は、カメラレンズで撮るのだからピントが大きくずれることはないだろうという油断です。デジタル一眼に付けたレンズは、ニコンの180mmEDレンズです。このレンズも何度も使ったことがあり、自分で作った目盛りシールも貼ってありました。EDレンズは温度によってピント位置が変わるので、"一番端までまわせば∞" というわけにはいきません。∞マークよりも回るようになっています。しかし、"目盛りシールで3目盛り"にあわせるとほぼピントが合うと分かっていました。 ところが今回は180mmEDレンズにテレコンを付けています。さらに、180mmEDレンズを昼間の気温の高いときに使ったこともありませんでした。このような状況でも"目盛りシールで3目盛り"で良いのかテストしていませんでした。これも事前に把握しておくべきことでした。

このように準備段階で油断してしまったのですが、当日皆既日食の前にピント合わせをしたときにも慎重さが足りませんでした。とりあえず見た目で合わせた結果、"目盛りシールで3目盛り"ではなく、"目盛りシールで5目盛り"になっていたのですが、時刻が迫ってきた緊張のせいか、あるいは雲が気になっていたせいか、「テレコンをつけているし気温も高いから、これくらいずれるものなのだろう」と安易にピント合わせを終えてしまったのです。

今回は特に、太陽に黒点がなかったのでピント合わせが一層やりにくかったということもあると思います。せめて、初めに遠くの山でピントを合わせ、目盛りシールでの位置を確認してから太陽でピント合わせをするべきだったと反省しています。

反省:固定撮影の焦点距離

次の反省点は、固定撮影で撮った連続写真に関することです。もともとこちらは、おまけ的な気持ちもあったのですが、それでもインターバルタイマーの動作など事前の確認もある程度行いました。しかし、ズームレンズの焦点距離の設定で失敗していました。 太陽は皆既の後、雲に隠れてしまいましたから、仮に失敗がなかったとしても、第1接触から第4接触までの全過程を写すことはできなかったでしょう。けれども、撮った写真を見れば、第4接触まで入りきらない構図であることは明白です。COOLPIX990の焦点距離は8mm〜24mmで、これは35mm判に換算すると38mm〜115mmになります。私は35mm判換算で45mm程度、COOLPIX990で約10mmの焦点距離で撮影するつもりでした。ところが撮影後のデータを見ると、焦点距離は18.8mmになっていました。焦点距離の確認は、試し撮りした画像を再生してそのデータを見て判断していたのですが、見間違えたか、操作ミスをしたのでしょう。結果を見れば撮影可能な範囲だけがうまく収まったのですが、もっと注意が必要でした。

反省:焦点距離の選定

鏡筒+アイピースで拡大撮影したほうの写真は、ピントは良かったのですが構図が少しずれて太陽の端が切れてしまいました。これについては、焦点距離の選定にもう少し余裕を持たせるべきだったと思います。 太陽と月の視直径はだいたい同じくらいで、約30′です。35mm判フィルムの場合、2000mmの焦点距離でほぼいっぱいに写ります。しかし皆既日食の時に撮影したい対象物は、太陽そのものでも、月そのものでもありません。プロミネンスにしても、コロナにしても、それらの周囲に広がっているものです。したがって、太陽や月を撮る時よりも短い焦点距離で考えるべきでした。いや、そのことは理屈では分かっていましたし、実際に数字を見ながら焦点距離を考えました。けれども感覚として、月全体を撮ったり太陽全体を撮ったりするときのイメージで、長めの焦点距離を好んでしまったように思います。加えて言うと、皆既日食では短時間に何枚もシャッターを切るので途中で構図を確認している余裕がありません。赤道儀も正確に合わせていませんし、"たわみ"などもありえます。構図の多少のずれは、写野の広さでカバーすべきだったと思います。

その意味では、デジタル一眼のほうは焦点距離が35mm判で480mm相当と余裕があり、太陽が中心から少しずれてしまったのですが、コロナまで写野に収まってくれました。

反省:雲台

カメラ用の雲台に、テスト時には起きなかったトラブルが起きました。カメラレンズで撮影するほうのカメラは、縦構図-横構図切替雲台の上に微動雲台を付け、さらにカメラを付けていたのですが、トラブルが起きたのはこの構図切替雲台です。この雲台のカメラを乗せる面にはゴムシートが付いているのですが、直射日光と高温が原因で接着剤が弱くなり、ゴムシートが取れてしまったのです。

このゴムシートが取れてしまうと、いくらカメラねじを締め付けても、カメラの重みで上に乗せた微動雲台がすぐに回転してしまいます。結局、微動雲台を構図切替雲台の背面に押し付けて固定することで何とかなりました。

さすがにこの現象は、ちょっとくらいのテストでは発現しません。そもそも、ここまで同じ条件でテストすることは不可能です。しかたないと言えばしかたないのですが、もう少し大きめの雲台を持っていくべきだったかもしれません。

機材の問題

これは反省点というより、さらに上を目指すなら必要、ということになると思います。まずなんといっても、できるだけ撮影を自動化したいということです。短い時間でシャッタースピードを変えて何枚も撮影しなくてはなりません。特にダイヤモンドリングなどは、どれだけたくさんシャッターを切れるかが重要になります。露出を前後に数段ずつ補正して連続して数枚撮影する"オートブランケット"機能があるカメラも多いのですが、私が使ったD40xにはこの機能もありませんでした。中にはプログラムでかなりの撮影を自動化できる機種もあるようですし、さらには自分でマイコンなどを使いプログラム制御する方もいるようです。

いずれにしても、できるだけ自動化すればその分多くのコマを撮影できますし、失敗も減るでしょう。それに加えて、自分自身は観望に徹することができるというメリットもあります。

ただ、これらの機能はその他の天体写真を撮る時にはあまり使わないと思います。そういう機材を用意するかどうかは、自分にとってのコストパフォーマンス次第ということになりそうです。

ついでにここに書くと、COOLPIX990のインターバルタイマーもあまり正確ではありませんでした。5分間隔に設定しても、4分50秒〜5分5秒程度になって、ずれが生じてしまうのです。これは事前に動作テストを行って、状況は把握していました。これも機材自体の問題だと思います。今回は、妥協策として4分58秒に設定して使いました。多少のずれはあまり問題にならなかったのですが、気にして途中で一度タイマーをいじった時に、少し三脚を動かしてしまったようです。

スーツケースの選定

既に書きましたが、観測地はバスを停められる道路から荒地を少し入って起伏を登ったところでした。機材が重いのはしかたないことですが、スーツケースが良くなかったと思います。私が持っていったスーツケースは、基本的に4輪ともが地面に着いた状態で転がすタイプで、車輪も大きくありません。空港やホテルなど、下が平な所を転がすには特に問題ありませんが、石と砂の荒地ではほとんど転がりません。実際ここでは大変苦労し、行きも帰りも途中から先に運び終わった方に手伝っていただきました。

最近のスーツケースは、取っ手を持って引っ張る形で転がすタイプが主流で、車輪も少し大きめだと思います。今回は母のスーツのケースを借りたのでしかたないと思いますが、皆既日食に行くために改めてスーツケースを用意するならば、砂利道を転がす可能性を考える必要があると思います。 また、重量オーバーで超過料金を取られた話も書きましたが、スーツケース自体が7〜8kg程度ありましたので、軽いスーツケースの方が有利だと思いました。ただし、軽い分だけ弱くては困ります。カタログを見ると、ポリカーボネート製の軽くて丈夫なスーツケースもあるようです。スーツケース自体の丈夫さと、中身を守る能力とはイコールではないと思うので注意が必要ですが、スーツケース自体の重さは選定時の重要な要素だと思います。

思ったことなど

その他、思ったことなどを書きます。反省というより全体的な感想です。

とにかく全体を振り返って思うのは、「過酷だった」ということ。交通事故は皆既日食ツアーだから起きたというものではありませんので別としても、テント生活はかなりきつかったと思います。2日間はお風呂もシャワーも使えませんでしたし、トイレも故障が多発して使えるところが少なく、衛生状態はよくありませんでした。私も含めて、お腹の調子をくずしてしまった人も結構いたようです。"青空トイレ"を使用せざるをえない人もいたと思います。(私は一度"ニーハオトイレ"を使いましたが。)何度も日食ツアーに参加しているという方の中にも、「こんなにきついのは初めてだ」と言っていた方もいました。まあ、日食も交通事故も含めて、いずれも「ギリギリセーフ」だったから笑い話で済むのだと思います。

もう一つ感じたのは、添乗員や運転手などスタッフの大変さです。仕事なのだから仕方ないことかもしれません。私が見て、勝手にそう思っているだけかもしれません。しかし、客の私が過酷だったと感じているのですから、客と一緒に行動しつつさまざまな業務をこなすスタッフの方はもっと大変だろうと思います。荷物の積み替えや見張りもあったはずですし、我々が眠っている間も、運転手の方は長時間の運転をこなしてくれたわけです。特に、現地スタッフの方々は今回のツアーの仕事をどう思ったでしょうか。現地添乗員の方々は、毎回の日食のためのガイドをしているわけではなく、普段は普通のツアーのガイドをしているのだろうと思います。当然、食事や環境など地元の生活には慣れているでしょうが、日食ツアーのガイドをするのは最初で最後でしょうから、日食ツアーならではの大変さがあったと思います。現地スタッフの方々が、この日食ツアーに携わったことで日食を見ることができて良かったと思ってくれたなら、ツアー参加者としても嬉しいと思います。

最後にもう一つ。これだけ現地スタッフの力を借りていることを考えると、もし日本の経済力が世界の中で今よりも落ちてしまえば、こういうツアーに行くことも難しくなってしまうのではないか、ということです。これは一番初めに書いたことと重複することですが、皆既日食ツアーから帰ってきて、改めて思いました。この先世の中がどうなっていくのか分かりません。思ったほど大きく変わらないかもしれませんし、想像以上に変化するかもしれません。とりあえず、自分の"天文屋ノルマ"として残っているオーロラは早めに見に行きたいと思いました。

こぼれ話

最後にどうでもいいようなこぼれ話を3つほど。

こぼれ話 その1

『MASTERキートン』という漫画があります。私が大学生だったころにちょうど雑誌に連載されていたのだろうと思いますが、私は専ら単行本で読んでいました。主人公『キートン』は、軍隊経験を持つサバイバルの達人であり、良い就職口に恵まれない考古学者でもあり、実際には収入を得るために保険の調査員としての仕事をしている、といった感じの人物です。この漫画の中に、『砂漠のカーリマン』という話があります。中国のウイグル族が住む地域での遺跡発掘に関連するストーリーなのですが、その中でキートンはそのウイグル族の長老(?)に対し、自分の胸に手を当てながら「ヤクシムシズ」という挨拶をします。それに対して長老は「あなたは発掘隊の中で唯一イスラムの作法を心得た方ですな。」と言うのです。 ウルムチに着いたあと、バスの中で現地添乗員の方が、「ウイグル語の挨拶は、右手を左胸に当てて頭を下げながら『ヤクシムシズ』と言います。」と教えてくれたとき、このシーンを急に思い出し、「おおっ、『ヤクシムシズ』というのはウイグル語の挨拶だったんだ。」と思いました。昔読んだ漫画のことを、こんなところで思い出すとは思っていませんでした。

こぼれ話 その2

こぼれ話その1に書いた、胸に手を当てて挨拶を言うという習慣ですが、実際にその挨拶を使う機会はほとんどありません。唯一その挨拶をしてみようと思ったのが、トルファンでの夕食でぶどう棚のところへ入るときのこと。入り口に立っていた男性が、胸に手を当てて頭を下げながら我々を迎えてくれました。そこで私も胸に手を当ててちょっとお辞儀をした瞬間、その人がすごい勢いで私のところにきて「アッサラーム、アレイクム」といいながら手を握ってきたのです。あまりの勢いに驚いて私は何も言えませんでした。 「アッサラーム、アレイクム」はイスラム世界で使われる挨拶ですが、元々アラビア語で「あなたがたに平安がありますように」という意味だそうです。皆既日食も交通事故もギリギリセーフで済んだのは、神のご加護があったからかもしれません。

こぼれ話 その3

上海から東京へ向かう帰りの飛行機でのことです。離陸前に機内食が配られ、離陸したのはみんなの食事が終わったあとだったことは先に書いたとおりです。この時の機内食は、「うなぎご飯」と「豚肉ご飯」との二択でした。機内食は「beef or fish ?」みたいな感じの選択肢があることが多いですが、ふと「お客さんが片方ばっかり頼んだら、数が足りなくなったりしないのかな?」と思いました。"お客さんにどこの国の人が多いか"にもよるでしょうが、「『うなぎご飯』と『豚肉ご飯』だったらうなぎご飯を希望する人の方が多いんじゃないか?」と思ったのです。そんなことを考えているうちに、私の席にも客室乗務員が来て尋ねました。「『うなぎご飯』と『豚肉ご飯』のどちらがいいか」と。私がうなぎご飯を希望すると、ちょっと待って欲しいと言われました。そして数分すると、日本人の客室乗務員が来て、「申し訳ありませんがうなぎご飯がなくなってしまいまして・・・」とのこと。「やっぱり数が足りなくなることがあるんだなあ」と思いつつ、「豚肉ご飯でいいです」と返事をしました。

アップロード:2008.10.5

  1. 準備編
  2. 旅行記前編
  3. 日食編
  4. 旅行記後編
  5. 反省&おまけ編