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皆既日食、ギリギリセーフ!−準備編−(まがたま73号より)

この文章は、「まがたま73号」(2008年9月発行)に書いた記事を一部なおしたものです。「またがま」とは、私が所属する天文同好会、さいたま☆天文同好会(旧SPGAS)の会報です。なお、さいたま☆天文同好会のサイト内にある「webまがたま」では、まがたま49号(2000年12月発行)以後の記事の一部が紹介されています。

2008年8月1日に皆既日食がありました。この皆既日食は、ロシア、中国、モンゴルなどの国で見ることができました。私は、この皆既日食を見に中国へ行き、そして念願のコロナを見ることができました。これは、準備段階を含むその報告です。大変長くなってしまったので、全部で5編に分けてあります。

  1. 準備編
  2. 旅行記前編
  3. 日食編
  4. 旅行記後編
  5. 反省&おまけ編

皆既日食を見に行こうと決めるまで

実は私が皆既日食を見に行くのは、今回が2回目でした。1回目は、1997年3月9日にロシアやモンゴルなどを皆既帯が通った日食のときのこと。当時は学生だったので、春休みということで休暇は充分に確保でき、モンゴルへ行きました。しかし残念なことに曇ってしまい、雲ごしに細く欠けた太陽を見ることはできたのですが、コロナを見ることはできませんでした。その後就職し、なんとなく長期の休みを取りづらく思い、皆既日食を見に行くことなく10年以上経ってしまいました。

そんな私が今回の皆既日食を見に行こうと思ったのは、今年の4月頃。私に「皆既日食を見に行こう」と思わせる要素はいろいろあったのですが、主なものを挙げると、(1)2009年の皆既日食を気にし始めたところ、日本で見られるとは言っても島への上陸は限られるなど条件は厳しそうだと分かってきた。(2)今回の皆既日食は8月であり、夏休みを取ることで連続休暇を得やすい。(3)“景気が悪い”とか“燃料代が高騰している”などのニュースを聞いていて、「将来、海外旅行に行くこと自体が 夢のまた夢 という時代になってしまうかもしれない。」という不安を感じた。といったところです。いずれにしても、「今回は行けるチャンスだ。行けるときに行っておこう。」と思ったのです。

ツアーの選択とパスポートの取得

さて、皆既日食に行こうと思ってはいたものの、具体的な行動は起こさないままでいました。ただ、「今年は夏休みを7月末〜8月初めに取りたい」ということだけは、職場の周囲の人たちに表明しておきました。

具体的な行動を起こし始めたのは6月の中旬。その第一歩は、皆既日食ツアーの選択でした。1997年にモンゴルへ行ったときは、「皆既日食を見る」ということばかり考えていました。しかし、何度も日食を見に行かれている方の話を聞いていて、日食だけでなく観光も楽しむつもりで行くべきだと感じ、初めは観光コースに敦煌を含むツアーに予約を入れました。

ところが、その方にツアーの選定状況を聞いたところ、最終決定はしていないものの、いずれにしても太陽高度が高い"伊吾県"で日食を見るツアーに参加する予定とのことでした。「やはり太陽高度は重要か。敦煌に行かないツアーでも、観光はあるわけだし、場所は伊吾にしよう。」と思い、別のツアーに変更したのでした。実は変更後のこのツアーでも、敦煌に寄る「8日間コース」と敦煌に寄らない「6日間コース」があったのですが、仕事の都合もあって6日間コースにしました。ツアー会社に連絡したところ、もう締め切りぎりぎりなので急いで申込書を送ってほしいとのこと。先方からは案内と申込書の様式が速達で送られてきました。そして、私も速達で申込書を送り、申込を済ませました。

ツアーへの申込のほかにもうひとつ、早く準備しなくてはいけないことがありました。パスポートです。1997年にモンゴルへ行って以来、海外に行っていませんでした。パスポートも当然切れていて、今回改めて取得する必要がありました。単にパスポートセンターに行くだけではなく、取得のために必要な書類を市役所などでもらう必要もありました。しかし最近は、手続きに必要な書類の情報や窓口の開いている時間などがインターネットで分かるので、比較的手際よく申請と取得ができました。

機材の準備

ツアーへの申込やパスポートの取得など事務的な準備のほかに必要となるのは、なんと言っても機材の準備です。はじめは「とにかく見られればいい」という気持ちだったのが、準備をし始めると次第に「あれもやりたい、いい写真を撮りたい」と思うようになってきます。 目標を絞って準備を進めるには、どんな写真を撮りたいか考える必要があります。自分にとっては初めての皆既日食の撮影になりますので、まずは定番の「コロナが広がった写真」を撮りたいと思いました。そしてもう一つは、プロミネンスを対象にした「大きくアップした写真」です。これらを撮影対象に考えて準備を進めました。

 いろいろと調べると、コロナの広がりを狙うなら450〜800mmの焦点距離、プロミネンスを狙うなら1000〜2000mmの焦点距離が適当とのことでした。両方撮りたいわけですが、鏡筒を2つ持っていくのは辛いところです。そうなると短いほうの焦点距離をカメラレンズで実現することを考えます。私が持っている一番長い望遠レンズは180mmのもの。これに2倍のテレコンを付けると360mmになります。私が持っているデジタル一眼、ニコンのD40xは、35mm版に比べて焦点距離の換算率が1.5倍になります。したがって360mm×1.5=480mm となり、目標とする焦点距離になります。一方焦点距離の長いほうの機材ですが、これは鏡筒に依存することになるので、鏡筒の選定との兼ね合いで考えました。

機材別の選定過程など

持って行く赤道儀

赤道儀を使わないという選択肢もありますが、まわりの話を聞いてやはり赤道儀を持っていこうと思いました。私が長年使ってきた赤道儀は、ビクセンのスーパーポラリス(SP)です。しばらく前の例会でも新しい赤道儀を買うと言っておきながら、ずっと買わずじまいでした。SPは赤緯体をはずすこともでき、なかなかコンパクトな赤道儀なのですが、三脚はちょっと大きめです。前々から「ポータブル赤道儀があるといいな」と思っていたこともあり、今回ビクセンのGP2ガイドパックを買うことにしました。

GP2ガイドパックを買おうとしたところ、2軸コントローラしかないと言われました。確かに2軸のうちの一方を使えば良いわけで、写真撮影には問題ないはずです。しかし日食を見に行くには少しでも荷物を減らしたいところです。幸い、もともと別に持っていた1軸コントローラが使えたので、コントローラだけは前から持っていたものを使うことにしました。

鏡筒

日食の撮影にいい鏡筒はなんでしょう? インターネットで調べるとやはりボーグ社のミニボーグが、性能とコンパクトさで評価が高いようです。この際だから買ってしまおうと思いました。 ところがいざ買いにいくと、7月下旬まで入荷待ちとのこと。7月下旬ではちょっと間に合いません。ミニボーグの購入は諦め、学生時代の先輩からずーっと借りっぱなしの鏡筒、ペンタックスの75EDHF-Uを持っていくことにしました。ミニボーグより重くなりますが、この75EDHF-Uは今までにも部分日食や水星の太陽面通過などの撮影に使っており、その点では安心感がありました。

双眼鏡

「皆既日食は、写真撮影だけで終わってしまってはもったいない。眼視でも見るべきだ。」というのはよく聞く話です。そして、防振双眼鏡が良いという話も。私も前々から、新宿のヨドバシカメラに行ったときには「いいなあ」と思いながら防振双眼鏡をちょくちょく手にとっていました。とは言え「あまりあれもこれも買ってしまっていいのだろうか」という気持ちもありました。

しかし先に書いたとおり、ミニボーグは入手できず購入を諦めました。そこで「そのお金で防振双眼鏡を買おう」と決めたのです。買ったのはキヤノンの10×30ISです。

テレコンバータ

既に書いたとおり、カメラレンズにテレコンバータをつけた方法でも撮影する予定でした。これは、ケンコーのテレプラス2倍を購入しました。

拡大撮影用アダプターと拡大撮影用アイピース

鏡筒が決まるとそれにあわせて周辺の機材をそろえなくてはなりません。デジタル一眼はカメラレンズと組み合わせることにしましたので、こちらは35mm判のフィルムカメラを使います。愛用のNewFM2です。鏡筒に2倍テレコンを使うと1000mmの焦点距離になるのですが、私はもう少し長めの、1500mm程度の焦点距離が欲しいと思いました。そこで鏡筒を使うほうはテレコンではなくアイピースを使った拡大撮影にしようと思いました。手持ちのアダプターとアイピースで目標の焦点距離が得られないかいろいろと組み合わせたのですが、思ったような組み合わせはできませんでした。結局、ペンタックスの拡大撮影用アダプターと、ビクセンのNPL20mmというアイピースを購入しました。

固定撮影用のカメラ

もう一つ、固定撮影をしようかどうか迷いました。赤道儀に望遠鏡やカメラをセットした様子も記録として写真に撮りたいと思いましたが、そのためには、それらとは別のカメラが必要です。ニコンのCOOLPIX990を持っているので、それを持っていくことにしました。このカメラには専用レリーズがあって、このレリーズを使うと自動でインターバル撮影ができます。せっかくレリーズも持っているのだし、自動撮影ができるなら皆既中に操作する必要もないのだから、この機能を使って連続写真(フィルムカメラで言う"多重露光写真"ですが、デジカメでは撮影してから合成するので多重露光ではなくなりましたね。)を撮ろうと思いました。

ソーラーフィルター

太陽の写真を撮る場合、なんらかのフィルターを使って減光します。皆既中はフィルター不要ですが、皆既の前後の写真も撮ることや事前の準備のことも考えるとフィルターが必要です。これについては、金星や水星の太陽面通過の時に使ったバーダープラネタリウム社の「アストロソーラーフィルター」というフィルターを持っていました。薄い銀紙のようなシートで、自分で必要なサイズに切って使えるものです。

このフィルターの余りがあったので、今回は新たなフィルターは買いませんでした。しかしこのフィルター、レンズの前に取り付けるためには自分で準備しなくてはいけません。幸い、ペンタックス75EDHF-Uの前には付けられるよう作成済みでしたが、他の機材用に準備が必要でした。ダンボールや厚紙などを両面テープやボンドで組立て、"望遠レンズ用""防振双眼鏡用""COOLPIX990用"の3つを新たに作り、計4つのフィルターを持っていくことにしました。

それから、このフィルターは薄くてペラペラですし、自作の枠もダンボールなどの紙です。これをそのままスーツケースに入れて運ぶのは不安ですので、4つのフィルターを収納する箱も作り、これに入れて運ぶことにしました。(このフィルター収納箱も紙製ですが・・・)

機材一覧

ということで機材が決まりました。ここにまとめておきたいと思います。

カメラその1(焦点距離:480mmに相当)
ニコン D40x + Aiニッコール180mmED + ケンコーテレプラス2倍
カメラその2(合成焦点距離:1500mm〜2000mm?)
ニコン NewFM2 + ペンタックス75EDHF-U + ビクセンアイピースNPL20mm
カメラその1とその2を乗せる架台
赤道儀 ビクセンGP2ガイドパック
カメラその3
ニコン COOLPIX 990(カメラ三脚に乗せて撮影)
双眼鏡
キヤノン 10×30IS

練習

皆既の時間は2分未満です。とにかく短い時間の中で撮影や観望をしなくてはなりません。操作にまごついているヒマは無いので、やりたいことを何度も練習して操作になれておく必要があると思い、撮影の練習をしました。デジタル一眼でシャッタースピードを変えるときどっちの向きにダイヤルを回すのか、ダイヤルを回すとシャッタースピードは何段階変わるのか、シャッタースピードを液晶画面に表示させるにはどうする、・・・。これらは練習を繰り返したおかげで、スムーズに操作できるようになりました。

また、練習をしているとかなりの振動があることが分かりました。一番大きいのは、操作をしたあとの振動です。架台や雲台がコンパクトな分、振動は大きくなります。時間がもったいないと思いますが、ぶれた写真を撮りたいわけではありません。操作をしたあと、揺れが収まるのを待ってからシャッターを切るようにしました。

もう一つ振動の原因として、ミラーショックがあります。インターネット上でも、できればミラーアップすべきという記事を見かけました。かつて月などを銀塩フィルムで撮ったときの経験からも、ミラーショックは大きいと思っていました。そのときは筒先開閉法で対処していたのですが、皆既日食ではそんな余裕はありません。カメラのミラーアップ機能を使いたいと思いましたが、NewFM2にはその機能がありません。そう思ってネットで検索していたところ、セルフタイマーでミラーアップができることが分かりました。NewFM2では、セルフタイマーを働かせると、シャッターボタンを押したときにミラーアップし、その後セルフタイマーのレバーが所定の位置に来たときにシャッターが切れるのです。したがってセルフタイマーを使えばミラーショックを抑えることができるのです。長年NewFM2を使ってきましたが、これまで知りませんでした。しかし、短い時間の中でセルフタイマーを使うことには少し迷いました。かなりの時間のロスになるはずです。けれども「枚数は少なくても良い写真を撮ろう」と考え、セルフタイマーを使うことに決めました。こう考えると、デジタル一眼でもミラーアップを考える必要があります。しかし残念ながら、D40xでミラーアップする方法は分かりませんでした。(CCDクリーニング用のミラーアップはありますが、撮影用にミラーアップすることはできないようです。)

こうして、撮影時に必要な操作を確認しつつ、何度も練習を繰り返しました。初めのうちは操作を間違えて途中で止めてしまうこともありましたが、次第に慣れてきました。ある程度慣れてからは、腕時計のタイマーで時間を計りながら練習するようにしました。時間を計りながら練習するといかに短いかが分かります。これらの練習は、かなり効果があったと思います。(反省点もあるのですが・・・)

アップロード:2008.10.5

  1. 準備編
  2. 旅行記前編
  3. 日食編
  4. 旅行記後編
  5. 反省&おまけ編