ズブさんの
アイデア天体
写真館

もくじ

惑星再考(まがたま68号より)

この文章は、「まがたま68号」(2007年1月発行)に書いた記事を一部なおしたものです。「またがま」とは、私が所属する天文同好会、さいたま☆天文同好会(旧SPGAS)の会報です。なお、さいたま☆天文同好会のサイト内にある「webまがたま」では、まがたま49号(2000年12月発行)以後の記事の一部が紹介されています。

1 はじめに

2006年8月に国際天文学連合(IAU)総会で太陽系の惑星の定義が決まりました。その結果、冥王星は 『惑星』 という分類から外れることになりました。このことはニュースでもずいぶん取り上げられました。いろいろ議論があったようですが、私個人としては、冥王星を惑星に分類しないという意見に賛成です。発見の経緯や、従来の観測技術では詳しいことが分からなかったことなどから、長年惑星として扱われてきたのは仕方のないことでしょう。しかし観測が進んでより多くのことが分かった結果、冥王星は惑星ではないと考えるべき状況になったのです。昔の人はクジラを魚の仲間だと思っていた(漢字の『鯨』は"魚へん"です。)が、学問が進んでよく調べたら哺乳類だった、ということと似ているように思いました。

2 惑星に関する知識を再確認

さて、このニュースを聞いたころ、冥王星がどれだけ他の惑星と異なる性質を持っているのか気になり、いくつかの資料を改めて見直しました。そのとき、自分が持っていた惑星の知識やイメージの中で間違っていたものや、改めて確認したことがいくつかありました。まずはそれらを書きたいと思います。

2−1 天王星と海王星は大きさと質量で順位が逆転

天王星と海王星を比べると、質量が大きいのは海王星です。一方、大きさ(赤道半径)は天王星の方が大きいのです(表1)。それまで私は、天王星の方が質量も大きいと思っていました。なんとなく、木星以遠の惑星は木星から順に外に向かって小さくなっていくと思っていたのです。赤道半径で比較すれば確かに距離の順になっていますし、地球から見た時の大きさと明るさは、地球からの距離の違いもありますから確実に距離の順に一致します。きっとこれらのイメージから質量も同じ順だと思っていたのでしょう。

それにしても、質量と赤道半径では両者の順位が逆になるというのは面白いものです。他の惑星同士では(仮に冥王星を入れても)このような順位の逆転はありません。

表1 天王星と海王星の質量と赤道半径
惑星名 質量(地球を1とする) 赤道半径(地球を1とする)
天王星 14.5 4.00
海王星 17.1 3.88

2−2 平均密度が一番高いのは地球

これは、ちょっと冷静に考えれば驚くことではないでしょう。主にガスや氷でできている木星以遠の惑星より、主に岩石でできている地球型惑星のほうが高い密度を持つのは当然です。しかし、あまり密度について考えたことはなく、地球が1番であるというイメージも持っていませんでした。今回、改めて確認することができました。そして調べてみると、惑星だけでなく太陽や(資料で分かる範囲の)衛星と比べても、太陽系の天体の中で一番高密度な天体は地球なのです。

2−3 地球は惑星の中で赤道重力が3番目に強い

赤道重力が強い順に惑星を並べてみると、次のような順になります。

 木星 海王星 地球 土星 金星 天王星 水星 火星 (冥王星)

これほど大型の惑星と地球型惑星とが入り混じったランキングも珍しいように思います。また(僅差ですが)水星より火星の方が、赤道重力が弱いのです。これにも少々驚きました。

多くの人には、質量が大きい天体ほど重力も強いというイメージがあるのではないでしょうか。確かに第1位は木星です。しかしこの話はそれほど単純ではありません。大雑把に言うと、天体の表面での重力は 半径 と 密度 の積に比例します。詳しい話は後で述べますが、大型の惑星は半径で、地球型惑星は密度で、表面での重力を "稼いで" いるのです。

2−4 地球の反射能はあまり高くない

私は、地球の反射能は非常に高いと思っていました。地球の表面は海、氷、雲などに覆われていて光を反射する能力が高いと、どこかで聞いたような気がしていました。特に「満月はとても明るいが、逆に月に行って"満地球"に照らされると本が充分読めるほど非常に明るい」という話も聞いたことがあり、そのような影響で持っていたイメージかもしれません。それに、地球を外から見ることはありませんから、地球の明るさを実感することもありません。ところが資料を見ると、地球の反射能は8惑星中第6位でした。火星と水星以外の惑星は、地球より高い反射能を持っているのです。

3 大型の衛星を含めた考察

太陽系の天体の色々な性質を比較しているうちに、上記のようなことに改めて気づいたわけですが、ちょっと気になったことがありました。それは水星のことです。確かに冥王星は、他の惑星と比べて特異です。しかし、「冥王星ほどではないけれども、水星だって残りの他の惑星と比べるとだいぶ特異な性質があるのでは?」と思ったのです。そして、「水星はやっぱり惑星でいいんだ」という安心感が欲しいとでもいうのでしょうか、そんな気持ちでさらに色々と調べてみました。この先は、以下に挙げる大型の衛星も比較対象に加えて話を進めていきます。

イオ エウロパ ガニメデ カリスト(以上木星の衛星) タイタン(土星の衛星) トリトン(海王星の衛星) 月(地球の衛星)

3−1 軌道

惑星(冥王星を含む)の軌道傾斜角と軌道離心率の分布を示した図 図1 惑星(冥王星を含む)の軌道傾斜角と離心率の分布

まずは公転軌道の比較です。図1のようなグラフになりました。これには衛星を含んでいません。 冥王星は他の惑星と比べて公転軌道の様子が異なります。離心率が大きく、軌道傾斜角も大きいのです。しかしグラフを見ると、水星も他の惑星に比べればだいぶずれていることが分かります。

3−2 大きさ

惑星(冥王星を含む)と一部の衛星の大きさを比較したグラフ 図2 大きさ(赤道半径)の比較(対数表示)

続いて大きさの比較です。これは赤道半径で比較し、図2のようなグラフになりました。 冥王星は月よりも小さな天体です。確かに、月より小さいと聞くと惑星っぽくない印象を受けます。一方、水星は冥王星の2倍ほどの大きさがあります。月より大きいですが、しかしガニメデとタイタンよりは小さいのです。

3−3 質量

惑星(冥王星を含む)と一部の衛星の質量を比較したグラフ 図3 

今度は天体の質量を比べてみましょう。図3のようなグラフになります。質量で比べると、水星はどの衛星よりも大きい(重い)ことが分かります。このことは、「水星はやっぱり惑星でいいんだ」と自分で納得する一つの安心感になりました。一方で冥王星は7つの衛星よりも軽いのです。

ところで、天体を比較する話題で、"どちらが大きいか"という比較の方が"どちらが重いか"という比較より多いように思います。これは、小さな天体の質量を知ることは簡単ではなく、質量が分からない天体が多いからでしょうか。物理的には、質量の方が本質的な量であるように思うのですが。

3−4 赤道重力

惑星(冥王星を含む)と一部の衛星の赤道重力を比較したグラフ 図4 赤道重力の比較 惑星(冥王星を含む)と一部の衛星の平均密度と赤道半径の分布を示した図 図5 平均密度と赤道半径の分布
(図中の曲線は赤道重力が等しい線) 惑星(冥王星を含む)と一部の衛星の平均密度と赤道半径の分布を対数目盛で示した図 図6 平均密度と赤道半径の分布(対数表示)
(図中の直線は赤道重力が等しい線)

次に赤道重力を比較しました。その惑星の赤道上での重力の強さです。惑星、冥王星の値は文献からのものです。衛星の値は、完全な球であると仮定して質量と半径から計算したものです。結果は図4のようになります。対数で表示しなくても収まるようなグラフになりました。〔2-3〕でも書いたように地球は第3位です。惑星と冥王星の差は大きく、大型の衛星はどれも両者の間にランクインしています。

重力は万有引力によって生まれます。万有引力の強さは質量に比例しますから、天体表面での重力も質量にそのまま比例しそうな気がしますが、そうではありません。万有引力の大きさは物体間の距離の2乗に反比例するからです。赤道上での重力を考えるのであれば、星の中心から赤道までの距離、すなわち赤道半径を考える必要があります。例えば地球の表面に立っているのであれば、地球の中心から約6400km離れたところにいることになるわけです。半径が大きい天体ほど当然体積も大きく、質量も大きくなります。しかし、同じ質量ならばより小さな範囲にぎゅっと物質が詰まっていた方が、表面での重力が強くなるのです。つまり高密度の星の方が、表面での重力が強くなるわけです。地球は赤道半径や質量では第5位ですが、〔2-2〕にも書いたとおり密度では第1位です。そのため赤道重力のランキングでは地球が上位に現れるのです。

地球の赤道重力が思いのほか上位である理由にはもう一つ、遠心力の影響があります。赤道では遠心力が万有引力と正反対の向きに働きますから、万有引力から遠心力を差し引いた力が赤道上での重力になります。そして、遠心力は回転速度の2乗に比例し、回転半径に比例します。木星以遠の惑星は大きくて自転が速いので、赤道重力に対する遠心力の影響が大きいのです。これに加えて、遠心力によって天体自体が赤道方向に伸びて潰れた形状になっています。"ちょっと潰れたみかんのような形状"と言われたりもします。この場合、天体の質量は変わらないのに、天体中心から赤道までの距離は長くなります。したがって、いっそう赤道重力は弱くなるのです。もし天体が自転していなかったら、あるいは表面の平均重力で比較したら、地球は第4位に下がるはずです。

このようなことを考えると、赤道重力ではなく、表面の平均重力で比較すべきかもしれません。しかし、大型の惑星を除けばあまり大きな差はない上、平均重力に関する資料が無かったのでそのまま比較しました。

さて、天体の半径、密度と表面重力の関係をもう少し具体的に書くと、「天体の表面における重力は、その天体の平均密度と半径の積に比例する(天体は球であると仮定し、遠心力は考慮しない)」ということになります。質量は半径の3乗に比例しますから、それに比べると赤道重力に対する半径の "貢献度" はあまり高くありません。

このように、表面重力は平均密度と半径から求めることができます。そこで各天体の平均密度と赤道半径の分布をグラフにし、その中に表面重力が同一の値となる線(表面重力の等高線)を書き入れたのが図5です。これは、遠心力を考慮していない計算上の表面重力です。繰り返しになりますが、遠心力を考慮すると半径と密度以外に自転速度などの要素も入ってきますので、等高線を書き入れられなくなります。

図を見ると、木星以遠の惑星は半径が大きいために、地球型惑星は密度が大きいために、表面重力が大きいことが分かります。一方、大型の衛星はそのどちらもが小さいため、表面重力も小さくなっています。そして、冥王星はこれらの衛星よりもさらに、密度、半径とも小さく、表面重力はかなり小さいのです。

この分布図を対数表示で示すと図6のようになり、表面重力の等高線は直線になります。図6を見ると、地球型惑星、木星以遠の惑星、大型の衛星とそれぞれがまとまった分布をし、冥王星は明らかに違う分布をしていることが分かります。このグラフは、「水星はやっぱり惑星でいいんだ」と自分を納得させるのに大きなプラスになりました。

重力の話が長くなってしまいました。このような比較にどれだけ意味があるか、私にはよく分かりません。惑星と冥王星を分ける一番の違いは、惑星の定義にもあるように「その天体の周囲から(衛星を除く)他の天体を排除した」かどうかでしょう。この基準は非常に納得できるのですが、数字で比較しにくい項目です。一方、惑星の定義の中で、「じゅうぶん大きな質量を持つために自己重力が固体としての力よりも勝る結果、重力平衡形状(ほぼ球状)を持ち」というように重力に関連することも挙げられています。ですから、あながち見当違いな比較でもないのでは、と自分では思っています。

4 終わりに

冥王星が惑星でなくなるというニュースが、このようなことを考えるきっかけになりました。知っているつもり、分かっているつもりのことも、改めて見直すと新しい発見があって楽しいものです。冥王星を惑星に分類すべきかどうかも大きな問題でしょう。しかしそれ以上に、今までの考えでよいのか改めて見直す機会があるということが大切なように思いました。

アップロード:2007.2.7