国威発揚!
「rrrrr…」
電話のベルが鳴った。
ここは、とある政府機関の一室。
電話を取ると、上司からの呼び出しだった。
部屋を出て、上司の指定した場所に向かう。
もっとも、そこは私の個室からは、そこまで遠くない場所にある。
カードキーを差し込み、暗証番号を押すと、音もなくドアが開いた。
「何か?」
私は、軍服を着た男と一緒にいる上司にたずねた。
「あぁ、N君か、そこにかけたまえ。」
私は指定された場所に座った。
ひんやりとした室温が私を包み始めた。
上司は暑がりなので、この部屋を常に強い冷房で冷やしている。
私が腰を下ろすと、おもむろに上司は口を開いた。
「実は、、わが国軍で開発していた高性能爆薬がテロリストに盗まれた。
今回の君の任務は、それを取り返してきてもらいたいと言うことだ。」
そこで、上司はいったん切り、最近、よくなめてる飴ともガムともいえない菓子を取り出し、食べ始めた。
「テロリストの潜伏先は、A山地の山中のこの場所だ。
なお、人数は15人程度との報告を受けている。
相手の装備はサブマシンガンと自動小銃程度で、重火器はない。」
そこで、上司は沈黙した、いつものことで、私の質問を受ける時間を与えてくれる。
地図に書かれた印は、首都近郊の山地で、盆地のようになっているところだった。
四方に逃げられるようにしているあたり、用心はしているようだ。
「爆薬は、どこから盗まれたのですか?」
「残念ながら、この部屋からだ。」
「犯行声明は?」
「君も知っていると思うが、来週開催される先進国首脳会議。
明日から各国の首脳がわが国に訪れ始めるのだ。
その会議を阻止するという複数のテロリストグループの声明がある。
この爆薬のことには触れられていないのだが、いずれ出るだろう。
そのタイミングとあわせるようにして、武装した男たちがA山地に集結を始めた。」
「なるほど、では、急がないといけませんね。」
「そうだ、これは迅速に処理してもらわないと困る。」
「爆薬の大きさは、どれくらいなのでしょうか?」
その質問には、Sと名乗る大佐が答えた。
「大きさは…一辺が1cmのサイコロの体積がある。
ただし、粘土のよう変形できるので、形がどうなっているかは定かでない。
で、ついでだが、色は茶褐色だ。そう、コーラに似てるな。」
「なるほど…何か注意点は?」
「うむ、この爆薬は、じつは失敗作なのだ。
威力は素晴らしいのだが、保管に難点がある。
表面温度が30℃以上になると急激に温度上昇を始めて、40℃に到達すると爆発する。」
「なるほど、やっかいですな。で、威力は?」
「その大きさだと、5km以内の人間が殺傷される。」
私は思わず、口笛を吹いた。
「で、運搬は、どうすればいいのですか?」
「この装置を使ってもらいたい。冷却装置だ。
中に入れてこのボタンを押せば、内部は10℃になり、12時間は保存できる。」
私は手に取り、触ってみた。
これぐらいの大きさなら、作戦の遂行には問題ない。
「では、万が一の場合を考えて、二つください。そのほかに注意点は?」
「ない。そのまま、ここに持ち帰ってくれれば、それでいい。」
と、そこで上司が口を挟んだ。すでに、何個も飴を食べているため機嫌はいい。
「作戦途中で爆発だけはさせないようにな。テロリスト以外に死者は出さんように。」
確かにそうだ。
そんなことが起きれば、私も吹き飛ぶし、多数の死者が出る。
この民主国家では、政権交代も起きて、下手をすると私も職を失うだろう。
「わかりました。では、準備に取り掛かります。」
と言って、部屋を出た。
そう、私は、この国の情報機関の特殊工作員。
この平和を愛する国では、あまり表立つ存在ではないが、これまで幾度となく危険な場をくぐってきた。
しかし、当然のことながら、一般の民間人には被害を与えてはいけない。
これが、軍隊とは違うところだ…それが私の職業哲学だ。
消音装置付のサブマシンガンと拳銃、小型の拳銃とナイフと冷却装置二つを身につけ、
その他、侵入用の道具を整え、その分はバッグに詰め込んだ。
そして、抗弾ベストを着用し、車に乗り込んだ。
A山地は車を一時間も走らせると着く、近郊の山地である。
のどかな山地の中にテロリストがいる。
周りにいる善良な市民には分からないことだろう。
私は、適当なところまで車で行くと、後は歩いていった。
闇にまぎれて、路をわずかに外れて歩いていくと一人の男がいた。
肩に、自動小銃を担いでいる…テロリストだ。
私は消音銃の狙いをつけ、音もなく始末した。
途中、テロリスト二人を片付け、目的の本拠地に着いた。
それらの死体は、全て茂みに隠してきた。
この一件が終わったら、職員が引き取りに来るだろう。
彼らはテントを基地にしているようだった。
そのほかには建物はない。
のどかに三人で火を囲んでいる。
彼らを一人ずつ撃つ、5秒とかからなかった。
このとき、背後でボルトを引く音がした。
私は転がりながら、その方向にサブマシンガンを打ち込んだ。
人間が倒れる音がした。
念のため、銃を構えながら、その方向に歩いていくと、一人倒れていた。
あとは、火とテントが作る影を利用して、テントに近づき、中にいる人間を射殺した。
人数は報告にある15人と合致している。
発電機につながれている冷蔵庫を見つけた。
トラップが仕掛けられていないことを確認した後、冷蔵庫を開けると、酒や食べ物が出てきた。
そして、私は、お菓子に偽装した爆薬を見つけた。
そして冷蔵装置に入れ、この場を立ち去ることにした。
車までたどり着き、帰還することにした。
ほぼ冷蔵装置の作動時間の半分で作戦は終了した。
上司も喜んでくれるだろう。
私の査定も上がり、給料も上がると言うものだ。
そして、家族も喜び、国家も平和…
そんなことを思っていると私の携帯が鳴った。
「…もしもし、あぁ、私です。」
「今の状況は?」
「えっ? もう、回収しましたが…」
「若者たちは? いや…君にはテロリストと言ってしまったが…」
「…全て射殺しましたが…」
「分かった、すぐに他のものたちを組織して死体の回収に向かわせる。」
「どういうことなのです?」
「事情は帰ってから話す。」
電話は切れた。
とりあえず、車を飛ばし、オフィスに着いた。
上司の部屋に行くと、例の大佐とともに上司が困った顔をしていた。
「どうしたのですか?」
「いや…他言はしてもらいたくないのだが、爆薬はこの部屋にあったのだ。」
どうやら、上司が保管をきちんとしていなかったので、なくしただけらしい。
「では…あのテロリストは?」
「サバイバルゲームをやっていた若者らしい。」
「では、私は殺人を…」
「まぁ、そうだが、今、うちの処理班が死体を回収に向かっている。」
「それで終わりなんですか?」
「うむ、行方不明と言うことで処理することになるだろう。」
…上司の口調から、これは忘れろと言うことらしい。
それには従ったほうがよさそうだ。
私の職業哲学も、生活あってのものだ、忘れることにした。
職場の人間関係も円満になる。
各国の首脳が、わが国を訪れるのだ。
これほど、わが国にとって喜ばしいことがあるだろうか。
それを思えば、15人の若者が死んだことなど何ほどのことがあろう。
国家の威信が上がるのだ。
しかし、ことの発端となった爆薬はどんなものだろう。
上司の机の上においてある爆薬を手に持って眺めた。
感慨にふけっていると、急に指が熱くなってきた。
いや、この爆薬が熱くなってきたのだ…そう言えば30℃以上で爆発するとか…
そして、私は光に包まれた。
(完結)