あれは数年前のことだった。
俺はネットで、ある女に恋をしたのだ。
いや、今となっては女であるか、それどころか人間であるかどうかも定かではないのだが。
それはいい…
その女は、とても可愛かった。
いや、もちろん会ったこともなければ、声を聞いたこともないし、写真を見たことすらない。
ただ、ネット上でのやり取りだけのつきあいだった。
掲ヲ板やチャット、メールなど。
ネットでの経験の浅い彼女に対し、俺はあらん限りの知識や技術を伝えた。
しかし、生まれてこの方、俺は女に嫌われてきた。
もちろん、童貞ではない。
そんなものは風俗で捨ててきた。
そんな俺に、彼女は無垢なまでの初々しさを持って接してきたのだ。
そして、俺は、彼女が人妻であることは知っていたのだが、いつしか恋心を抱くようになっていったのだった。
彼女は、自らのHPを持つまでになっていた。
しかし、ネット上には危険がいっぱいある。
個人情報の流出や詐欺、性欲を満たしたいだけの男…
狼共が巣食うネットには、彼女を置いておけない…俺は、そう思うようになっていた。
一応、彼女には、色々なアドバイスをしていた。
個人情報流出につながるようなネット上の生活は送らないほうがいいと。
メールアドレスなどにも、色々と注意を与えていたのだが…。
俺が気を抜いてる隙に、彼女に接触し始めた輩がいた。
彼女と彼らが交わす怪しげな話題は、俺についていけるものではなかった。
彼女には、あいつらとはつきあわないように、再三注意したのだ。
しかし、彼女は、そいつらとのつきあいをやめようとはしなかったのだ。
プレゼントのやり取りまでする始末だった。
俺は彼女を独占しようとした…いや、この言い方は正確ではあるまい。
彼女を守る方法は、それしかなかったのだ。
現に、彼女はネット上での、他の男とのつきあいで住所や電話番号まで教えあってるのだ。
(到底許せるものではなかった…彼女を毒牙から守らねば…。)
俺は、そいつらを批判した。
もちろん、ネット上や彼女に対するメールでだ。
(彼女を守れるのは、自分だけ。彼女とセックスできるのは自分だけ!)
そう思っていた。
ところが、彼女は、俺に感謝するどころか、そいつらに加担して、俺を攻撃し始めたのだった。
彼女は、完全に騙されてしまっているのだ。
そして、彼女は、俺の知らぬ間に、ネット依存症にもなっていた。
(全て、あいつらがいけない。)
俺は、あいつらを許せなかった。
俺のホームページには、一人の人間が5個や6個のプロバイダーと契約し、
日本全国からのアクセスポイントを使い、別人に成りすまし覗きにくるのだった。
ある巨大掲示板に俺を悪く書いたりもした。
裏は取れていないのだが、それはあいつらに決まっている。
彼女は、そんな奴等とは知らずにつきあっているのだろう。
いつしか彼女は、あいつらにひどい目に合わされるだろう。
そんな思いを持っていたのだが…。
そして、俺は、彼女のホームページから弾き出されてしまった。
さらに彼女はHPを閉じ、その理由として、明らかに俺が原因として閉じたのだと表明していた。
彼女は完全に騙されてしまっていた。
そして、彼女はあいつらにとられてしまったのだった。
だが、俺には彼女との線は残されていた。
あるメンバーサービスを使ったシステムだった。
他のやつらなら知らず、俺には、目星をつけていた女がいた。
別のHNを使っているが、あれは彼女に違いなかった。
成りすましと言うやつだろう。
そして、案の定、彼女は俺に接触して来た。
その女は自分がそうであることは肯定しなかった…否定した。
しかし、俺には分かっていた。
その女は彼女なのだ…そして彼女は、俺を忘れられないのだ。
そして、彼女は一日中、ネットにいなければならない、重度のネット依存症になっていた。
そのメンバーサービスの中に、彼女は別HNで何人もいた。
早朝から深夜まで…彼女は、いつでもログオンしてる状態だった。
(そんなにしていては、身体を壊す…俺と結婚しなければならない、大事な身体なのに…)
俺は、いてもたってもいられなかった。
「お前は●●だろう!」
そう言ってみた。
「違います。」
返ってきた答えは、これだった。
だが、それはごまかしであることが俺にはわかっていた。
そこで、そのメンバーサービスのミニメールで彼女とやり取りを始めた。
しかし、彼女の答えが変わることはなかった。
本当に別人かもしれない…そんな考えが俺の脳に宿ることはなかった。
彼女は●●なのだ。
そして、彼女とのやり取りはブラックリスト入りにまで発展し、そして消滅した。
その前後、彼女が再び別HNで俺に接触してきた。
新しいIDを取得し、俺に接触してくる…それは、彼女が俺から離れられないことを意味するのだった。
やはり聞いてみた。
「お前は●●だろう!」
展開は、やはり同じこととなった。
そんなことが何人かと続いたあと、俺は確信した。
全て成りすましである、そして、彼女は俺のところに戻ってきたいのだと。
そんな頃のことである。
あいつらが、そのメンバーサービス活動を始めた。
あいつらとは、●●のHPにいたやつらだ。
卑劣で俺から●●を奪い取った憎いやつらだ。
あいつらは俺を監視し始めた。
俺が何を言っても、あいつらは、それを俺の妄想だと言っている。
メンバーサービスでも、あいつらが作っているくだらないHPでも、俺を攻撃し始めた。
暇なやつらだ。
男女数人でやっているが、何人かは同一人物がなりすましなのだろう。
いや、もしかしたら、全部が同一人物なのかもしれない。
そこへ、彼女も参加し始めた。
俺が彼女へ送ったミニメールまで公開している。
そして、俺を貶める発言を行い盛り上がっているのだ。
もはや、許せる段階ではなかった。
脅迫及び名誉毀損で訴える。
俺は、そんなポーズを取ってみた。
しかし、あいつらは、それを完全に無視してきた。
相変わらず、俺への攻撃は止まらなかった。
そして、俺のところにきていた彼女もこなくなった。
彼女は別HNでいたるところで遊んでいると言うのに…。
俺の頭脳は冴え渡っていた。
深夜、一つの結論に達したのである。
俺以外の全ての人間は成りすましなのだ。
今まで、身近にいた人間も、立体映像とか言うやつなのだろう。
そして、そのもとはただ1人…彼女だ。
そう、彼女は隣にもいたし、地球上の反対側にもいたのだ。
と言うことは…この地球上には、俺と彼女しかいないのだ。
いや、宇宙の中でも、そうかもしれない。
俺と彼女とは結ばれる運命だったのだ。
そして、俺と彼女の間を妨害してきたあいつらは、恋物語を盛り上げるための成りすましだったのだろう。
朝、目覚めると快適だった。
今日からは、周りに見える誰もが彼女なのだ。
テレビをつけてみた。
女性アナウンサーがニュースを読み上げている、アイドルがバラエティに出ている。
全て彼女なのだ。
こらえきれない笑いがこみ上げてきた。
外に出てみることにする。
通学途中の女子高生が歩いてきた。
可愛い顔立ちだ…しかし、彼女なのだ。
「お前は●●だろう!」
近づいて、抱きしめて、キスをした。
大声で喚いていたが、照れているのだろう、可愛いものだ。
近所の色っぽい人妻の家に入ってみる。
「お前は●●だろう!」
服を脱がし、セックスをした。
抵抗されたが、気持ちよかった、きっと彼女もだ。
電車に乗ってみる。
美人のOLもいた…やはり、彼女なのだ。
「お前は●●だろう!」
乳をもみ、スカートの中に手を入れた。
周りの成りすまし達に助けを求めている、ふふん、一人芝居ってやつだな。
俺は成りすまし達に取り押さえられた。
そして、婦人警官に見える成りすましに連行され取調べを受けた。
いや、その前に、俺は、その婦人警官に見える成りすましに向かって言ったのだ。
「お前は●●だろう!」
(終)