possessive proof        2000/5/20up


  

「くっそう、腹が立つったりゃありゃしない!」

 希理子は力一杯力説していた。そのエコー掛かった声に対して澤村はそっけなく答える。

「いいじゃねぇか、減るもんでもねぇし。それにテメェの方だって悪い」

「減る!」

 きっぱりと言い切ったそのセリフと共にドンドンという思いっきり床を踏み締める音を立てながら

希理子は台所に立つ澤村の前にあらわれる。

「それにあたしの何所が悪いのさ」

 睨み付けながら仁王立ちになる。その希理子の顔には水滴が散らばっており、水が滴っていた。希

理子は澤村の自室の洗面所で顔を洗っていたのだ。澤村との会話での怒りのあまり顔を満足に拭くこ

とさえせずに出てきたため、それこそ『水も滴るいい女』になってしまっていた。

「そんな格好しててよく言うぜ。そんなもん見せつけられちゃ寝た子だって起きちまわぁな」

 澤村は呆れ顔を満面に浮かべながら言う。その呆れとは顔も拭かずに出てきた希理子の子供っぽさ

と希理子の自覚のなさに対してだった。

 希理子は今日、びっちり身体のラインを強調するようなアイスブルーのシンプルなデザインのブラ

ウスに黒のミニのタイトスカートをはいていた。しかもそのミニスカートとは膝上25cmはあろう

かという代物である。暖かくなってきたとはいえ、まだ3月の半ばだった。そんな格好をしていれば

目立つに決まっているし、その上希理子は生足だった。

 夏場でもあまり素肌をさらさない希理子のその足はこれ以上なく白く、長く、細かった。しかも遠

めに見ただけでその肌のなめらかさがわかろうほどに若さ故の張りもあった。ここまで完璧な美脚を

人目にさらすのは毒というのを通り越して犯罪ですらある。

「仕方ないじゃん。クニちゃんからの命令だったんだから」

 希理子は自分の格好を自分自身で見下ろしながらいう。クニちゃんとは希理子の通っている専門学

校のアパレル部門の先輩だった。今日はその専門学校の卒業制作展覧会、略して卒展だったのだ。希

理子は専門学校の食堂で知り合ったその3つ年上の先輩と仲良くなり今日着ている服を作ってもらっ

た。そしてその代わりとして今日の卒展に着てくることを約束させられていたのだ。しかも家から。

 それが希理子にとっての悲劇のはじまりだった。出かけにはいていたパンストを引っ掛けてしまっ

て、予備も無ければ時間もなかったため生足で出かけることになった。そして格好が格好のためいつ

ものすっぴんで行くわけにもいかず普段はめったにしない化粧をした希理子はいつもの5割り増しで

色気があった。

 その完成された『作品』である希理子が目を引かないはずが無い。今日一日なめるような視線にさ

らされ続け、乗り換え3回、合計40分だけの電車の中で3回も痴漢にあったのだ。希理子の怒りも

当然といえた。

「男ってのはみんなケダモノかい!?夏にはもっと女の子たちすごい格好してるじゃん。理性ってシロ

モノ母親のお腹ん中に置き忘れてきちまってるのかい!」

「おまえなぁ……」

 澤村は思わず目を伏せた。やはり希理子はわかっていない。自分が言った『格好』とは服装のこと

だけではない。それを纏う中身を含めてのことなのだ。

 だけど希理子はその澤村の考えには気付かない。それゆえに力説する。

「それとも何かい?こういう格好してる女は襲ってもいいとでも、襲ってくれと思ってるとでも思い

込んででもいるのかい!」

 澤村はその希理子の言葉に呆れを通り越して怒りすら感じた。あまりに自覚が無さ過ぎる。

「こっちにこい」

 澤村は強引に希理子の手を取るとむりやり洗面台の方につれていく。そして自分の前に希理子を立

たせ鏡の方を向かせた。自分はその背後から希理子の肩ごしに鏡に映る希理子を見つめる。一人暮ら

し用の部屋にしては大きな半身全てが映る鏡の中にやけに真剣な瞳をした男とその男の突然の行動に

戸惑いを隠せない女が映し出されている。

「──口紅、塗ってたよな」

 澤村は背後から希理子を逃がさないように希理子の足の間に自分の左足を入れて洗面台の出っ張り

に押し付けながら指先で希理子の薄い唇をなぞった。

「それからファンデーション、少しだけ銀のラメ入りの藍色のアイシャドウもしてたっけ」

 そういいながら希理子の首筋の辺りを左手で愛撫するように撫でさすりながら右手の指先で顔のパ

ーツ一つ一つをゆっくりとたどっていく。

 希理子はその澤村の行為から逃げだそうと抗おうとするが身体を動かせない。鏡越しにみつめる澤

村の瞳が獲物を捕らえたハンターのように自分を釘付けにしてしまっている。

「それにこの生足だろ」

 澤村は希理子の太ももの辺りを何の遠慮もせずに撫で回す。希理子はその手から逃げようとするが

自分の足の間に差し込まれた澤村の左足のせいでそれもかなわない。その間にも澤村は首筋を撫でて

いた左手をブラウスの隙間から潜り込ませ、ブラジャーのストラップをずらしてしまって希理子の右

胸をやや力を込めて愛撫する。

 そして瞳は鏡越しに希理子をみつめたままで希理子の首筋から唇をはわせ、希理子の右の耳もとで

囁く。

「男はみんな女が襲って欲しいなんて思って無いことぐらいわかってるさ。それぐらいの理性ぐらい

持ち合わせてる。だけど女が、──お前がそうさせる、お前が『男』を『ケダモノ』にするんだ」

 澤村は希理子の耳を小さく噛んだ。

「……──んっ……」

 その甘い刺激に希理子は思わず声を漏らす。

「鏡を見てみろよ。今のお前は信じられない程みだらだぜ」

 その言葉に希理子はかっと血をのぼらせる。鏡に映る自分はその澤村の言葉通り『誘って』いた。

潤み切った瞳も澤村の目と手に犯されうっすらとピンク色を帯びた肌も、また纏っている雰囲気も男

の欲望を誘っても仕方がないと自分自身に思わせる程色付いて見えた。

「……いやっ……」

 恥ずかしさのあまり目をそらし、何とか澤村の手と身体から逃れようとするがしっかりと固定され

てしまっている自分の身体はその鏡と澤村の間から抜けだせない。

「ダメだ、逃がしやしねぇよ。今日という今日は本当に自覚するまで付き合ってもらうからな」

 澤村はそういうと片手で器用に希理子のブラウスのボタンを全部外してしまい、ブラジャーをたく

しあげてしまう。

「2度と隙をみせるな。お前は俺の女だ、気安く他人に触らせるンじゃねぇ。こんなカラダ全部で誘

うようなことしたら承知しねぇぞ」

 その言葉とその視線に希理子は全てを支配されてしまう。もう鏡越しの視線と背後から自分のすべ

てを食らいつくすかのような澤村のその瞳に逆らえない。

 嵐のように押し寄せる羞恥心とそれに附随する快感に翻弄されながら、希理子は澤村に『犯され』

た。


 
 

「……ぅぅっ……」

 どれくらい時間がたったのかわからない。希理子はぼぉっとしながら目をさますとゆっくりと視線

を動かし周囲を見やる。最近になってやっと見なれはじめた風景を捉え、自分の横に澤村が眠ってい

るのに気が付いた。そのことを意識したとたんに全身をたとえようもないだるさが襲う。

 自分と澤村は2人が横たわるには狭いシングルベッドの上にいた。澤村は『愛しあった』ときはい

つも希理子に腕枕をして希理子の身体を包み込むように眠りにつく。だけど今日の希理子に自分でベ

ッドに来た記憶もベッドに居た記憶も無い。それが示すことは澤村によって運ばれたということだ。

 昨日なのか今日なのかすらわからないが、希理子は洗面台の前で澤村によって何度も何度も『愛さ

れ』た。試合の時には体力がないと思っている相手だが、自分とこういう行為をするときには信じら

れない程激しく、強く自分を求めてくる。

 特に今回澤村は一切の容赦はしなかった。あまりの快感に絶えられなくなり、自分が何度も泣いて

懇願したというのにそれでも希理子の身体をはなそうとはしなかった。その結果、自分が気を失って

しまったことだけはうっすら覚えていた。

「……満足そうな顔しちゃって……」

 ぐっすり寝入っている澤村の顔を指先でつんとつつく。自分を抱いていた男とはとても思えない、

『10代の少年』の顔をしたその可愛くさえ見える寝顔に希理子は思わず見とれる。

 鏡越しに自分を見つめる瞳は『男』そのものだった。自分の支配する『女』を自由にしていいと思

っているとさえ感じさせる程強い『男』の目をしていた。そしてその瞳に自分は『女』にされた。自

分を見つめる、自分だけを見つめるその瞳の前では『女』でいたいとそう感じさせられた。自分は確

実に『澤村専用の女』に変わりつつある。

 そう考えるに至って希理子は無性に腹が立ってきた。澤村は自分に自覚がないと言って希理子を激

しく攻めたててきた。だけど自覚がないのは自分の方ではないか。これほど自分が澤村だけの女にな

っているというのにそれに気付いてもいないし、気付こうともしていないとは本末転倒ではないか。

「起きろ、このサディスト!」

 自分だけ気持ちよさそうに寝ているのが腹立たしくて、希理子は耳もとで大きな声を出す。

「……ぁあ?……」

 澤村はその希理子の突然の行動に目を擦りながら自分を叩き起こした声の持ち主を見やる。

だが希理子は澤村が起きたのを確認するとそっぽを向いてしまう。

「……たくっ、人が気持ちよく寝てたっていうのに」

 澤村は乱れた髪をかきあげながら不満そうな声をあげる。

「イイ気味!そりゃ自分は『気持ちよかった』だろうね」

 その言葉に込められた意味に澤村は苦笑しながら、でもただ言われるだけでは性にあわないのでそ

の言葉を逆手にとってやりかえす。

「自分だって『気持ちよかった』だろうが。なんせ気絶しちまうぐらい感じてたんだから」

「なっ……」

 希理子はその言葉に全身の血がかっとのぼるのを感じた。確かに自分は気絶してしまう程、澤村に

よって何度も絶頂に導かれ続けた。鏡に映った自分自身の姿があまりにみだらで、鏡越しに自分が乱

れる姿を見つめている澤村の視線が直接自分の肌や顔に向けられるのよりも恥ずかしくて、そのこと

でいつもよりも余計に感じさせられてしまい、それがくり返されておかしくなりそうだった。

「なっ、何言ってンだい!」

 何とかそう言うが自分の乱れまくっていたその有り様とそのときの澤村からの愛撫の激しさを思い

出してしまいマトモに反論出来ない。

 澤村はその音声として不十分な言葉と希理子の背中から自分の目論見がまんまと成功したことを確

信として理解し、くすくす笑いながら後ろから希理子を抱き締める。

「何だったらこれからは鏡の前で『する』か?その方が感じンだろ?」

「なっ!」

 希理子はその言葉にさらに赤面するが言わせておくばかりには自分のプライドが許さないので何と

かやり返そうと澤村の方に顔を向ける。だがそれを澤村は待ち受けていた。希理子に覆いかぶさりな

がらその唇を奪い、これ以上なく濃厚な口付けをそれこそ息切れがしてしまいそうなほど情熱的にほ

どこす。希理子は澤村の思惑通りにその口付けに流されそうになってしまう。だけどそれを何とか押

しとどめて澤村に対して口付けの合間に言い返す。

「……あんた、あたしに『2度と隙をみせるな』とか『カラダで誘うな』とか言ってたよね。それか

ら『そんなことしたら承知しない』とか」

「ああ」

 希理子の瞳がいたずらめいた光とそれ以上の真剣さに満ちているのに澤村は気がついて、それゆえ

に次の希理子の言葉を待つ。

「だったらあたしも言わせてもらうよ。もしもあんたがあたし以外の女にこんなことしたり、付け込

まれるような隙を見せたら『殺す』から。他の女にあんたの身体を触らしたら『殺す』から」

 希理子はその言葉と共に婉然と微笑んだ。その表情はこれ以上ない程魅惑的で希理子を知り尽くし

ている澤村でさえも誘われるものがあった。

「言い訳なんか聞かないかんね。『あんた』は『あたしのもの』、『あたしの男』。あんたの所有権

はあたしにあるんだから」

 希理子はそう言いながら両腕を澤村の首にまわすと自分の方に引き寄せるの半分、自分が身体を起

こすの半分で澤村の首筋に自分の顔を埋める。

「いてっ」

 澤村は思わず顔をしかめた。

「これで当分は大丈夫だね」

 希理子はそう言って満面の笑みを浮かべた。

「何するんだ」

 半分涙目の状態で澤村は希理子を睨み付ける。だけど希理子は平然と笑っている。

「あたしの『所有印』。あんたには女がいるんだってその証し」

 希理子はそう言うと指先で澤村の首筋に小さな円を描いた。その円の中には希理子が立てた歯によ

ってくっきりと赤くなった噛みあとが浮かび上がっている。

「ま、そんな心配しなくてもあんたはあたしにメロメロだし、学校に部活、それにバイトもあるから

他の女に目をくれてる暇もないんだろうけどね」

「おい!」

 希理子のそのからかうようなセリフに澤村は顔を真っ赤にして反論しようとするが、希理子のすべ

てを見すかしたような瞳と満足そうな笑顔に何も言えない。

「勝手に言ってろ」

 今度は澤村が照れ隠しに希理子からそっぽを向いてしまう。だけど希理子はその自分に向けられた

背中にくすくすと笑いながらそっと口付ける。

「ああ、勝手にするよ」

 希理子は先ほどまでと逆に澤村を後ろから抱き締めながらその背中に顔を埋める。そのやわらかさ

とあたたかさに導かれるように澤村はゆっくりと希理子の方を振り返る。その瞳にこれ以上ないほど

満ち足りた表情の希理子が映った。

 澤村はその希理子の表情にうながされるようにゆっくりと自分の顔を近付け、しっとりとした優し

い口付けを何度も何度もくり返す。そしてそれに満足したかのように唇をはなすと今度は互いの身体

に腕をまわしあいそっと、だけど決して離れることがないように互いの身体を抱き締め合う。その触

れあっているところからまるで溶け合うかのように伝わってくる互いの体温と鼓動に、まるで自分自

身のかけた部分が満たされるような幸福に包まれながら、二人だからたどり着けるまどろみにおちて

いく。 

 そのとき、幸福は互いの腕のなかにあった。

  

                               FIN



        

 あいかわらずアダルティなはなしになってしまいました。露骨に書かない分だけかえっていやらしい。 でも何故かキリサクよりもこっちの方が書きやすいし、イメージが浮かびやすいんですよね。やっぱり 現実にはありえないという不毛さが私を駆り立てるんでしょうか(笑)


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