順位論。 たとえばこんな愛のかたち3。    2000/6/25up



    

 今日は雪こそ降らないものの透き通るような冷たさを持つ風の強いとてつも無く寒い日だった。

 いつものように練習を終え、部室のカギを締め職員室に返しに行くと時間はすでに6時半をまわっ

ていた。公立高校である上南はよっぽどの理由が無い限り冬場の完全下校は6時半までと決まってい

る。10分程度なら何も言われないがそれ以上になるこれからの活動に対して学校側から注意をされ

てしまうので小林は急いで、それでも学校のルールである『校舎内は走らない』を律儀に守りながら

早足で正門に向かっていた。それに小林の足を急がせるのにはもう一つ理由がある。希理子が正門の

ところで待っているのだ。

 いつもならとっくに帰ってしまっているのに希理子は何故か今日は小林のことを待っていた。それ

ゆえ一緒に2人だけで帰ろうといつも一緒に帰る今川に断わりをいれて希理子と約束をしたのだ。

「遅くなりました」

 正門の柱のところにもたれ掛かりながら希理子は待っていた。自分に向かって急いで駆け寄ってく

る小林を見ると小さく笑って出迎える。

「遅い!」

 口調はきついが声のトーンからからかうためのものだとわかっているが小林は小さく頭を下げて希

理子の顔色をうかがう。だがどうもおかしい。

 もともと色白である希理子だがその肌の色はさらに透き通るまでに白くなり青ざめているといって

も過言でない様子になり、それなのにほほの辺りは紅をさしたかのようにぽぉっと赤くなっている。

しかも形の良い薄い唇は完全に紫に変色し、瞳はうるみを帯びていた。

 小林はその希理子の様子をいぶかしむが、それには希理子は気付かない。

「ちょうどよかった。これだけ寒いと渡しやすいね」

 希理子はそう言いながら持っていた紙袋の中から銀色の袋に入った包みを取り出した。

「また1つ違いに戻ったね。嬉しいだろ?」

 からかうような口調に小林は今日が何の日だったか思い出した。1月20日、小林自身の誕生日だ

った。まぬけなことに自分の誕生日のことをすっかり忘れていたのだ。

「手触りもよかったし、あったかいと思うよ。なんたってちょっと高かったしね」

 希理子はそういってニッと笑うとその銀色の袋のブルーのリボンのラッピングを解くと中からラベ

ンダーブルーのマフラーを取り出した。優しい色合いだが紺色とモスグリーンのラインも入っている

ため男性がしてもけっして派手では無い代物だった。

 希理子はそれをふわりと小林の首に巻き付ける。

「似合ってる。やっぱりあたしはセンスがいいね」

 小林の首に巻き付けたマフラーとその顔映りを見て希理子はそういって満足げに微笑んだ。その表

情に見とれながらもそれ以上の意識が小林の中に浮かび、からだの動きを支配した。

「!」

 突然の小林の行動に希理子は目を見開く。小林が希理子の手、その指先を掴んだのだ。

「冷えきってるじゃないっすか!」

 小林は自分の首にマフラーを巻き付けた時に自分のほほにふれた希理子の指先の冷たさに驚かされ

ていたのだ。その希理子の手はすでに白いのを通り越して紫色にまで変色してしまっている。

「冷え性なんだよ、あたしは」

 希理子はさっと小林に掴まれた手を引っ込めると後ろ手に組んでその両手を隠してしまう。

 だがそれによって小林は逆にどれほど希理子のからだが冷えきってしまっているのか気付かされ

る。希理子は小さなことに関しては大きく吹聴するくせがあるが本当におおごとの時にはあまり何も

言わない。特にそれが相手に気づかわせるものであるならなおさらだった。

「なんで先に帰らないんですか!こんなに冷えきって」

 思わず声を荒げてしまう。だが希理子は小さく首を横に振った。

「たいしたことないよ。いつものことさ。あんたが気にすることじゃ無い」

「どうしてあなたは……!唇だって色変わってしまってるし、それにほほだって……」

 小林は左手で希理子の右二の腕の辺りを掴みながら、右手でそのほほに触れた。まるで氷のような

冷たさが小林に伝わってくる。

「こんなに冷えきって……!」

 小林は思わず背筋にぞっとするような冷たさがその手から伝わってくるのを感じながらそう声を洩

らした。だがそれと同時に自分の迂闊さにも気付かされる。

 希理子は今日自分を待っている間ずっと体育館のフロアにパイプ椅子をおいて自分達の練習風景を

みていた。その間約2時間あまりである。そうでなくても底冷えがひどく、すきま風が入り込んでく

る体育館では動き回っている自分達はともかくその場にじっとしているのではその寒さは尋常では無

かったはずだ。特に今日みたいに風のある寒い日にそんなことをするなど自殺行為と一緒だ。それな

のにそれを考え付かなかったなど情けない。どうして寒く無いようにコートを貸すなり、暖房が入っ

ている図書室にでも行っておくように言わなかったのか、いや、練習を開始する前に今日は一緒に帰

ろう、待ってるから、と言われた時にどうして先に帰さなかったのか。

 希理子に待っていると言われたことに浮かれてしまって周囲のことが見えなくなっていたのだ。

「……こんなもの、何時でもいいじゃないですか…!こんなものいらなかったんです、なのにどうし

てあなたは……!」

 自分に対する怒りが思わず声色に交じる。だがそれを希理子は自分に対する非難とった。

「こんなものって言い方はないだろ!何時だってっていうのも何だい!今日だから、特別な日だから

渡したかったってのに」

 希理子の視線に激しい怒りが満ちる。むしろ悲しみと言ってもいい。

「こんなものです!」

 小林は強く言い切りながら希理子の身体を思いっきり抱き締めた。その骨がくだけてしまいそうな

ほどの力強さと突然の行動に希理子は目を見開く。

「あなたより大切なものなんてない、あなたが風邪をひいたり、病気になったりしたらどうするんで

す!そんなことになったら俺は自分を許せない、もっと自分を大切にしてください!」

 小林は自分の想いを絞り出すようにそう言うと希理子の唇に自分のそれを強引ともいえる激しさで

重ねあわせた。その冷えきった唇を無理矢理開かせ、舌を絡ませる。

 自分の熱がすべて希理子に伝わればいい、希理子が傍にいる、自分を想ってくれている、そのこと

を感じるだけで熱く自分を支配していく熱もその想いもすべて希理子に伝わればいい、希理子がいれ

ば何もいらない、希理子以上に大切で欲しいものなど何も無い───、そんな想いを抱き締める腕と

唇に込めて希理子のすべてを奪い尽くすかのようにその唇を、舌を貪る。

 そういう想いを込めた口付けを終えてほんの少しだけ希理子から身体を離すと、小林の目に何とも

表現しがたい穏やかな表情を浮かべた希理子の姿が映った。満ち足りた、それでいて泣き出してしま

いそうに感じてしまう笑顔を希理子は浮かべていた。

「……何時だってあんたはあたしの一番欲しいものをくれるんだね」

 希理子はそうつぶやくと離れたばかりの小林の唇にそっと自分の唇を重ね合わせた。そして一回ぎ

ゅっと抱き着くとそっと小林の身体に寄り添うように包み込むような柔らかさで小林の身体に手をま

わした。

「あんたの誕生日だっていうのにさ、あたしのほうがあんたからもらっちゃったね」

 希理子はそう言いながら抱き着いたまま小林を見上げた。小林はその言葉の意味がわからずに瞳に

疑問符を浮かべるが希理子は何も言わずもう一度ぎゅっと抱き締めると身体を離してするりと身を翻

した。

「やっぱりまだあげない」

 希理子はいたづらめいた表情で微笑むと小林から首から自分で掛けたマフラーをするりと奪い取り

自分の首にそれをまいた。そしてそのマフラーを希理子は器用にぎゅっと結んで大きなリボン結びに

してしまう。

「貰いついでで悪いけどさ、たった今、欲しいものできちゃった。そのかわりにオプションつけてあ

げるからさ、もう一つあたしにくれないかい?」

 その意味深な物言いといたづらめいた表情に小林はどぎまぎしながら次の言葉を待つ。

「やっぱメチャクチャ寒いんだよね、身体中冷えきっちゃっててあっためなきゃ死んじゃいそう」

「だったら」

 早く帰らないと───、希理子の言葉に対してそう言いかけながら小林ははっと自分のコートに手

をやりそれを脱いで着せかけようとした。だがその言葉と動きを制するように希理子はにこりと微笑

んだ。

「だからさ、あっためて」

 ハートマークが後ろについてそうな言い方で希理子は小林の瞳を覗き込む。

「待たせて悪いって思ってるんだったらさ、ちゃんと責任とってあっためてよ。あたしこのままじゃ

死んじゃうよ?こんだけ冷えちゃってたら人肌じゃなきゃあったまらないかんね。だからさ、あんた

の身体であっためてよ。あたし今ものすっごくあんたが欲しいの」

 小林はその言葉の意味に真っ赤になる。

「ダメ?」

 自分の瞳を覗き込む、からかうような、誘うようなその濡れた瞳に小林は捕われてしまい希理子の

すべてから目がはなせない。いたずらめいたその表情がいたいけな少女のようでもあり、男という生

き物を知り尽くした娼婦のようでもあり、小林の中の男の部分である相手を支配したい、そのすべて

を自分のものにしてしまいたいという欲望を強く刺激してくる。

「あっためてくれたらこれの中身もあげるからさ」

 希理子は自分自身に巻き付けた大きなリボン結びのマフラーを示しながらわざと笑いを誘うような

言い方をした。

 舞い上がってしまった脳裏でも何とか希理子の思惑を理解した小林だったがそれにどう反応を返せ

ばいいのかわからない。そのためこれ以上ない本心だけを口にしてしまう。

「それが一番うれしいです」

 希理子はその小林の言葉に一瞬目を見開く。そしてテレと可笑しさゆえに真っ赤になりながら口元

を押さえてクスクス笑い出してしまう。

 小林はその希理子の態度に自分の発した返答の意味に気付かされ、真っ赤になってしまった。希理

子はその小林を見て笑いをおさめると、先ほど見せた穏やかな満足げな表情を浮かべて小林にむかっ

て微笑みかける。

「17歳、おめでとう」

 小さいが万感の想いが込められた希理子のその優しい言葉に小林はすべてが満たされていく気がし

ていた。

 差し出された希理子の手を取りながら、何があってもこの日のことは、このとき感じた想いだけは

決して忘れることはない───、小林は確信以上の真実として自分の中に込み上げて来たものに対し

てそう思った。

 愛しさに導かれて再び希理子の華奢な身体を引き寄せ唇を重ね合いながら、小林はこの瞬間、たし

かに互いの身体だけではない熱が交換されて、そしてそのことがさらに互いの想いを熱く、それでい

て心地よいあたたかさにかえていくのを感じていた。



        

                                  Fin


 ワンパターンと言われても仕方が無いですね。いつものようにコバが希理子に翻弄されて終わる
話になってしまいましたから。でもきっとこれからもずっとこのパターンでいきます。これが2人の
愛のかたちですから(笑)。でも自分でかいてて思ったのですが、この話の中の希理子って原作とは
別人のような性格してますね。だけど小林と恋をする希理子だったらこんな感じになっていくんじゃ
ないかと思うんです。気にいらなければ苦情はいつでも受け付けてますからどしどしメール下さい。
                       

 


                              
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