イチゴ金時レモン味

     

   

 

 最近の上南メンバーのお楽しみ、それはガッコウ帰りに近くのオヤツ屋でかき氷

を食べること。

 今日も到底店には全員入りきれないから使い捨ての容器に入れてもらってその店

を取り囲むように思い思いの場所で涼をとっていた。

「あれっ?今日は『ブルーハワイ』ですか?珍しいですね」

「ぁあ?」

 そう声を掛けたのは成瀬。うっとおしそうに返事をしたのは希理子。その手には

青い色をした氷がこんもり乗っている。

「だって希理子先輩いつも『みぞれ』でしょ?色のついてる蜜はあんま好きじゃな

いって」

「ああ」

 その言葉に希理子は納得して頷いた。成瀬のいうとおり希理子がいつも注文する

のは『みぞれ味』。お金に余裕がある時はそれにあずきをトッピングしている。

「さすがに毎日毎日みぞれも飽きてきてさ、でたまには違うのにしてみようかと思

ってこれにしてみたわけ」

 そう言って希理子はスプーンを動かして一口分掬うとそれをぱくりと口に含ん

だ。そしてかき氷独特のキンと突き抜ける冷たさに微かに顔をゆがめる。

「ウ−ッ、冷た」

 希理子は冷たいものも甘いものも大好きだがいわゆる『犬舌』というヤツで冷た

さに弱い。だから他のメンバーがほとんど平らげてしまっても独り食べ遅れてしま

うことが多い。今回もそれで周りのほとんどが食べ終わって追加でラムネなどを注

文している今になっても半分近く残っていた。

「もう舌がビリビリする」

 何とか周囲に追い付こうと無理矢理口に含んだのが災いしてか、希理子は余りの

冷たさとその感覚に思わずべーっと小さく舌を出した。

「ぷっ」

 その希理子の様子を目撃した成瀬は思わず吹き出す。

「?」

 後輩の突然のその行為の意味がわからずに希理子は目を丸くする。

「何だい?何がおかしいんだい?」

 とにかく自分が笑われているということだけは察した希理子はいささか視線を強

めながらそう成瀬に詰め寄る。だがその腰に手を当てて詰め寄ってくるその様子が

さらに可笑しかったのか成瀬はその迫力に気押されながらも笑いがこらえきれない

ようだった。

「えっ、えっ、あの…」

「何だい、ハッキリお言いよ?!」

 煮え切らない後輩の様子に希理子はますます語調を強める。

「だっ、だから、その…」

 希理子の怒りが増したことに成瀬はしどろもどろになる。

「どうしたんだ?成瀬、それに希理子」

「あっ、桜井先輩!」

 自分の後ろから降って涌いてきた声に成瀬は歓喜の声をあげた。成瀬にとっては

桜井の出現がまさに助け舟そのものだったのだ。

「どうしたんだ、そんなに騒いで。何かあったのか?」

 桜井の言葉が示すとおり、周囲はある意味いつもどおり、だが何ごとかがあった

のかとうかがう視線で希理子と成瀬2人を取り囲みつつ合った。

「こいつがさ、あたしのコトみて笑ったんだよ」

 その言葉に希理子が不満そうに声をあげた。

「なのに何で笑ったのか言わないからとっちめてたトコロなのさ」

 その言葉に納得したように桜井は大きく頷いた。そして今度は成瀬の方に視線を

かえる。

「わかった。じゃあ成瀬、どうして希理子のことを笑ったんだ?」

「……え?」

 成瀬は思わず目を見開いて固まってしまう。桜井が来たことで希理子から逃れる

ことができると思ったのにこうきっぱり問いかけられては、そして他のメンバーの

視線も集めてしまっていてはその返答を逃れることが出来ない。

「……あっ、あの……」

「ん?」

 いつものニコニコ笑顔で桜井が言葉を促す。

「その……」

「ハッキリお言いよ!」

「!!」

 痺れをきらした希理子のその厳しい言葉に成瀬は思わず桜井の後ろのまわりこん

で桜井の背に隠れた。

「成瀬!」

 その事がさらに希理子を刺激し、もう少しで怒りMAXを確実に向かえるところ

まで来てしまった。その様子に思わず成瀬は桜井の背にすがりついて震えたままぼ

そりと、それでも周囲にハッキリ聞こえる声で答えた。

「……だって希理子先輩、ホントに『魔女』みたいなんですもん」

「・・・・・・えっ?」

 成瀬の口から出た意味不明な言葉にそれを耳にしたもの全員が目を丸くする。

「だってほら、その唇と舌」

「?」

 その言葉に一瞬目を丸くしながら希理子はペロッと小さく舌を出した。

「プッ!」

 次の瞬間、先程の成瀬と同じように希理子のその姿を目に入れたもの全員がぷっ

と吹き出したり、お腹を抱えて笑い出した。

「ハハハハハ、ホントだ、成瀬の言うとおり、お前本気で魔女みたいじゃない

か!」

 そう一番ウケた反応を見せたのはガンだった。

「唇は紫で、舌なんか真っ青じゃねえか!とうとう本性現わしたか!」

 その言葉のとおり、希理子の唇は冷たさで色を失い紫に変色し、そして舌は食べ

ている氷の蜜であるブルーハワイの着色料によって真っ青に変化してしまってい

た。

「うるさい!!」

 次の瞬間、そのかき氷が宙を舞った。そしてそれはまっすぐな軌道でガンにむか

って突き進み、そしてベチャリという地味ながら確実な効果音を立てた。

「わっ、冷た!何しやがるんだ、希理子!」

 まさにガンの顔面に直撃したそれはぼとりと音を立てて周囲に飛び散った。半分

は溶けて水に変わってしまっていたそれはガンの顔だけでなく着ていた白いカッタ

ーシャツもあざやかなコバルトブルーに変えてしまう。

「これであんたもあたしとお揃いだよ!いい気味だってんだ!」

 希理子はそう怒鳴り付けると足音も高らかにその場から早足で歩き出した。

「おっ、おい、希理子!」

 その背中に桜井が声をかけるが希理子は振り返らない。

「くそ〜、あの性悪魔女めぇ!!」

 ガンはビタビタのベタベタになってしまった顔とシャツをタオルで拭きながらそ

の背中に向かって怒りの、でも仕方がないな、とでも言った親愛がこもった恨みの

声をあげた。今度はそのガンの周囲に部のメンバーが集まりはじめる。

「桜井先輩?」

 去っていってしまった希理子の方を向いたままだった桜井に今回の元凶となった

成瀬が声をかける。

「悪い」

 桜井はその声に反応して突如小さく頭を下げると希理子の去っていった方に向か

って駆け出した。

「希理子を連れ戻してくるからまだみんなを帰らせないでくれ、特にガンを」

「桜井先輩?!」

 その桜井の突然の行動に目を見開いた成瀬を無視して桜井は去っていってしまっ

た希理子を追った。

 希理子が曲がっていった路地の先、その突き当たりには小さな公園があり、案の

定希理子はそこのベンチに座ってふて腐れていた。

「何しにきたのさ!」

 桜井の姿を見た瞬間に希理子は威嚇した。

「あたしはあやまんないからね!あいつの方が悪いんだから」

 そう言った希理子の唇はつい先程とはうって変わって真っ赤に腫れ上がってい

た。

「違うよ、まだ誰もそんなこと言ってないだろ?」

 そんな希理子の様子を宥めるように小さく笑いながらゆっくりと希理子の方に近

づいていく。

「聞きたいことがあったからお前を追ってきたんだ」

 そう言ってニコリと笑う。

「あっ、ここ座るよ?」

 希理子の反応を待たずに桜井は希理子が腰掛けている同じベンチに座った。そし

て前のめりの状態、膝のすぐ上に肘をついて手を握りあわせる格好をして希理子の

方を覗き込むようにしながら。ゆったりとした口調で話し掛けた。

「希理子が怒るのはいつものことだけど今日の希理子は何だかいつもと違ったみた

いだからさ。いつもの希理子ならこれぐらいのことであそこまではしない、俺はそ

う思ったんだ。だけど実際希理子はあそこまでする程怒った。だからその『理由』

を知りたいと思ってさ」

 その言葉に希理子は皮肉な様子で笑う。

「何だいその言い方は!それじゃ『いつも』あたしが怒ってるみたいじゃない

か!」

「挙げ足取るなよ、希理子」

 希理子のその返答に桜井はちょっとだけ苦笑が交じった笑みを浮かべた。

「何が『挙げ足』さ。あんたの言い方が失礼だからそう言っただけだろ?」

 ますます意固地になった様子で希理子は言い返してきた。それに対して桜井はゆ

ったりとした口調で名を呼んだ。

「希理子」

 もう一度繰り返す。ゆっくりと、変わらぬ穏やかさで。

「希理子」

 その声に希理子はしばしかたまり、そして大きく息をついた。

「わかったよ」

 こういうときの桜井が一歩もひかないことを希理子はよく知っていた。穏やかな

脅迫とでも言えばいいのか、この様な時の桜井にはどんなにはぐらかそうとしても

結局口を割らされる。話すまでしつこく、いつまでも追い掛けまわされる。

 それがわかっているから、そしてこの桜井の強引さがこれまで何度も希理子の心

を軽くしてきてくれたことをわかってるから、ほんの少しカケラだけは聞いて欲し

いという気持ちもあって希理子は口を開いた。

「話せばいいんだろ」

 その言葉に桜井が頷く。

「アイツらさ、あたしのことバカにしてない?!」

「……はあ?」

 希理子の口から出た思わぬ言葉に桜井は一瞬我が耳を疑う。

「あたしのこと、嫌いなんじゃないかい?!」

「えっ?」

 だが希理子のやけに真剣な思いつめた様子に桜井は希理子の顔を覗き込んだ。

「だってさ、何であたしの時だけ笑うのさ?!みんなだって蜜で口とか舌とか染ま

っちまってたのに何であたしのことだけ笑うのさ?!あたしのときだけ笑うの

さ?!」

 希理子はたまっていた想いを吐き出すように口を開いた。

「それってさ、あたしのことがバカにしてるからじゃないのかい?!」

 希理子の目の淵にはうっすらと涙さえ浮かんでいる。

「あたしのこと、嫌いだからじゃないのかい?!」

 希理子の言葉は不安と恐れに揺れていた。

「──────ハハッ」

 そんな希理子の一挙一同を見守っていた桜井は一瞬の沈黙の後、突如笑い出し

た。

「桜井?!」

 よく笑う男ではあったが、その為か桜井はお腹を抱えて爆笑をするような男では

なかった為、その突然の桜井の行動に希理子は目を見開いた。

「ハハッ、すまん、すまん、あんまりおかしくってさ」

「?!」

 懸命に笑いを堪えながらの桜井のその言葉を希理子はいぶかしむ。

 その視線の先で桜井は何とか笑いの衝動を押さえるといつもの穏やかな顔で希理

子に語りかけた。

「誰もお前のことを嫌ってなんかいないさ、嫌いなどころか皆お前のこと大好きだ

と思うぞ」

「?」

 その言葉に希理子は視線だけで続きを促す。

「お前の言葉使わせてもらうと俺達男はガキだからさ、上手く出来ないんだよ。お

前は俺達男の中でたった1人『女』だろ?それを差別するってわけじゃないけどや

っぱり特別だからさ、優しくしたいし、1人だってことで気を使って欲しくない。

だからつい『お前』に対してはハシャギすぎちゃうんだよ」

 桜井の言葉が優しく響く。

「バカな生き物だよな、男ってのはさ。お前に気を使わせたくないから気を使っ

て、かえってそれがお前に気を使わせる結果になってるんだからさ。だからさ、許

してやってくれよ、ガンのこと、成瀬のこと、俺達みんなのこと─────嫌いに

ならないでくれよ、今頃きっとアイツら全員、お前を本気で怒らせちまったって本

気でビビってるはずだからさ、それに免じてお前をそんなに不安にさせた俺達のこ

と許してくれよ」

 そう言って桜井は大きく頭を下げた。その背中を希理子は半分呆然と見つめる。

 夏の日ざしを受けた木漏れ陽がその桜井の背の上で、汗ばんだシャツの上で揺れ

ている。夕暮れ時の渡る風が微かに木や髪を揺らす。────なんだか、優しい気

持ちだけが希理子の中に取り残されていく。

「───…しゃあないねぇ」

 微かに声が震えてしまい、それをごまかすようにして希理子はぷいっと桜井とは

反対側に顔をそむけながら自分の中に芽生えた優しい感情を隠すようにわざと大き

な声で、恩着せがましく言い切った。

「ホント、男ってのはバカな生き物なんだから!」

 その言葉に桜井は顔をあげた。

「よかった」

 そして本当に嬉しそうに笑みを漏らした。

「お前に見捨てられたら俺達これからどうしていいかわからなくなってたからな」

「ふん」

 その言葉に希理子は顔を赤らめながら一瞬すました様子をみせるが、押さえきれ

ずに小さく至福の笑みを漏らした。

「行こう」

 桜井はそんな希理子の様子にますます嬉しそうに微笑むと希理子を促すように先

に立ち上がった。そしてもと来た方向に向かってゆったりと歩き出す。その後につ

かず離れずの距離で希理子が続く。

「そう言えばさ、さっき希理子擦ったんだろ?」

 何かを思い出したかのように桜井はくるりと後ろをふり返って話し掛けた。

「んっ?」

 希理子はその何の脈絡もない桜井の問いかけに一瞬目を丸くする。

「唇、真っ赤になってたから」

「!!」

 示すように自分自身の唇を指して言った桜井のその言葉に希理子はパッと自分の

唇を覆い隠した。

「隠さなくってもいいのに、せっかく可愛いんだからさ」

「なっ!!」

 からかうような響きを含んだその言葉に希理子は真っ赤になる。

「何言ってンのさあんたは!からかうのいい加減におしよ!」

「ハハッ」

 桜井はそんな希理子の様子を目を細めて笑うと何を思ったかべーっと自分の舌を

出した。

「俺さ、希理子は『ブルーハワイ』だったけど、さっき『イチゴ』食べたんだ」

 その言葉が示すとおり、桜井の舌は真っ赤に染まってしまっている。

「それが?!」

 ますますワケのわからない桜井のその言動に希理子は目をしばたせる。

「だからさ、お前は擦らなくてもよかったわけ」

「えっ?─────」

 ニコリと満面の笑みで微笑んだ桜井と、その桜井から紡ぎだされた言葉によって

希理子が顔をあげた瞬間、しばしの空白が生まれた。

「これで、少しはマシだと思うよ?」

 その空白の後、桜井は再びニコリと笑った。

「──────」

 だがそんな桜井に対して希理子は唖然とし、目を真ん丸に見開いたままカチンコ

チンに固まってしまっていた。

「さあ、戻ろう?」

 桜井は再び希理子に笑いかけるとその手をひいて希理子を促す。希理子は呆然と

したまま先程ガンに対してかき氷を浴びせかけた店まで連れ戻され、どことなく自

分を気遣った様子のガンと向かい合った。

「悪かったよ、言葉がすぎた。許してくれよな」

 照れくさそうに小さく頭を下げたガンに対して、やはり半分唖然としたまま希理

子は返事をする。

「────ああ、馬鹿ガキのいうことなんざいちいち覚えてらんないよ。次があっ

たら氷じゃなくて熱湯ラーメン、頭からかぶせるからね」

「何おう!」

 その言葉にドッと笑いが起こる。何処かほっとした、安心した、というのがあり

ありとわかる、そんな笑い。

 希理子はやはり唖然としたまますっと桜井の方に視線をやった。その先では穏や

かないつもの笑顔で桜井が笑っている。

「じゃあ帰るか!」

 2人が戻ってきたことを受けて馬呉の呼びかけでそれぞれが荷物を持って最寄り

駅に向かって歩き出す。

 そんな中、ガンの次に責任を感じていた成瀬が希理子に向かって話し掛ける。

「希理子さん、ホントすみませんでした。さっきは失礼なこと言っちゃって……」

 ペコリと頭を下げたその様子に希理子は話半分といった様子で頷く。

「ホント失礼なヤツだったよ、あんたは。今度ヒトのことあんな風にして笑い者に

したら東京湾に沈めるからね!」

「はっ、はい!」

 何とか許して貰えたのだと思って成瀬はホッとため息をついた。

 だがそんな2人の様子を見守りながらいぶかしみの視線を送る男がいた。

「なあ、あんた」

「んっ?」

 澤村である。

「何で舌先『紫』なんだ?奥の方はしっかり『青い』のに?」

「えっ!?」

 その瞬間に希理子は全身をびくりと震わせ真っ赤になった。虚ろな視線が空を舞

う。そして漏れ聞こえてきたその会話に微かに頬を赤く染める男が一人。

 理由は明日の準備の為に沈んでいこうとしているお日さまだけが知っている。


  

 
                         THE END. 
     


     


 タイトルに偽り有り(笑)ちなみにこのタイトルは昔『りぼん』で連載してて、現在『マーガレット』系で活躍中の浦川まさる先生の名作から。
 話は出来たんだけどどうしてもいいタイトル思い浮かばなくて悩んでた時、ふと出てきたのでこれにしました。とりあえず桜井くん殺っちゃってください。

                         2001/8/18  日向 葵


 反省点。あとから調べてみると浦川先生の作品の本当のタイトルは『いちご金時レモン味』で『イチゴ』ではありませんでした。大好きな先生の作品なのに汚してしまった自分を反省。
 とりあえず希理子の『犬舌』のモデルは私です。好きなんだけどアイスが半分しかたべられない……。人生半分損してますね、ホント。       《2001/10/19》
 

  

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