「寒い夜には」
     

     

    

「・・・・・・・・・・・・何だ、それは?」

「ん?見て分かんないの?コタツっていうんだけど」

 そう言って希理子は半身をこたつ布団の中に埋めて、その机の上でみかんを手に雑誌を
読んでいた。
 玄関で、自分の部屋に突如現れたコタツに呆然と立ちつくしている澤村は、希理子のそ
の答えに声を荒げて、ズカズカとコタツの前まで歩み寄る。

「んなこと聞いてんじゃねぇよ!何で俺の部屋にそんなもんが置いてあるんだって言って
んだろが?!」

 コタツを指さしてそう怒鳴る澤村を、希理子は特に気にするでもなく、雑誌から視線を
外して、自分の横でいきり立つ年下の恋人を見上げた。

「いいじゃん、別に。自分の金で買ったんだしさ。それに今は家賃も折半して払ってんだ
からあんただけの部屋じゃないだろー」

「だからってお前なぁ・・・・」

「それにほら、冬って言えば『コタツにみかん』だろ?いいと思わないかい?こーゆーの」

 小悪魔的にぺろっと舌を出した後、けらけらと笑う希理子に、澤村はガックリと肩を落
として呆れたように大きく溜息を吐く。

(何でエアコンがあるのにわざわざコタツなんだよ・・・)

 どうにもこの女だけは分からない。今まで色々な女の、色々な一面を見てきたつもりだ
が、この女ほど自分が振り回されることはなかった。
 いつも自分の考えを見透かされているようで気にくわないのに、一緒にいると心地がい
い。側にいるのが当たり前で、今ではコイツがいなければ自分が自分でないような気さえ
してくる。

 澤村はもう一度大きく溜息を吐き、その様子を見ていた希理子が顎をしゃくりながら言
葉を紡ぐ。

「いつまでバカ面下げて突っ立ってんだい?中、お入りよ」

 反論する気も失せる口の悪さだ。たまに、コイツは本当に女なのかと思う時もある。

「あ、何だよ、テメー。この机、普段から使ってるヤツじゃねーか」

 澤村は中腰のままコタツ布団を少し捲って手を入れると、コタツの中の割には冷たい空
気に、首を傾げて中を覗き込んだ。

「あははー。実は布団だけしかないんだよね、今のところ。明日くらいに宅配で届くって
言ってたけどさ」

「・・・・それじゃコタツの意味がねえだろ」

「ま、いーじゃん。雰囲気だけでも暖まる気、しないかい?」

 いつもの悪魔めいた笑みではなく、少女のような、あどけないこの笑顔には勝てない。
澤村には何となくそれも気にくわないのだが、その笑顔に悪態を吐く気も失せて、コート
を脱ぐと適当に投げ捨てる。
 そしてさも当然のように希理子の後ろに立つと、そのまま彼女を覆うように腰を下ろし
てコタツの中に足を入れた。

「う、うわっ!なんでこっちに入ってくんのさ!」

 目を見開いて、一瞬で顔を赤らめた希理子に澤村は皮肉めいた笑みで、細腰に腕を廻す。

「こっちの方があったけーじゃん」

 そう答える澤村の、押し付けられている意外に広い胸が背中越しでも、冷え切っている
のが分かる。
 それに対して希理子の身体は、突然抱きしめられたこともあって急速に体温が高まって
いた。そしてそれを澤村に気取られるのが気恥ずかしくて、希理子は目一杯もがき始める。

「は、離れろ!このヘンタイっ!」

「何、今さらこんなんで照れてんだよ。お前?」

「誰が照れて・・・!!」

 カッとなって後ろを振り向いた希理子を捉えて、澤村は有無を言わさず自分の口唇を彼
女のそれに押し当てた。
 そのことがまた希理子の熱を高まらせる。

「〜〜〜んっ・・・!」

 自分の後ろに澤村の身体があるので、うまく手で押しのけることの出来ない希理子を無
視して、澤村の口吻けはさらに深さを増していった。

「さわ・・・・。ふ・・・」
 
 それは徐々に二人の熱を上げさせる。そしてより深い熱を求めて澤村が希理子を再度、
抱き寄せる頃には、希理子も観念したのか、彼に身を任せていた。

 しばらく続いた口吻けに、希理子の身体から力が抜けてぐったりとなると、ようやく澤
村は彼女から口唇を解放する。
 少し苦しそうに息を弾ませる希理子の艶っぽさに一瞬見とれた後、澤村はもう一度軽く
口吻けてから首筋に顔を埋めた。

「・・・な?こっちの方があったけーだろ?」

 そうして悪戯っぽく笑う澤村に、希理子はまだ熱の冷めきらない顔を拭って悪態を吐く。

「この、この、エロギツネ!」

「バーカ。男はみんなこんなモンなんだよ」

 いつもなら売り言葉に買い言葉で返すハズの澤村だが、希理子が耳まで赤く染め上げて
いるのが楽しくて、・・・嬉しくて、噛み殺したような笑い声をあげてそう答えた。

「何、一人で笑ってんのさ!」

「・・・別に。お前って面白いよな、と思ってな」

「どーゆー意味だ、この変態ドスケベ男!!」

「ああ、はいはい。俺が悪かったって」

 ムッとしている希理子の頬や耳に、何度も口唇を寄せて澤村が呟く。

「コタツも結構、いいモンだな」

 その言葉に拍子抜けした希理子が、呆れた様子で溜息を吐いた。

「・・・・・コタツなんか買うんじゃなかった・・・」

 ―――そう後悔しても後の祭りだということに、今度から買い物には気を付けよう、と
教訓を得る希理子だった―――。

      

                ***END***

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 我が人生に一遍の悔い無し。ゆーきさまが私の人様のかいたサワキリを読みたいとい
う野心をかなえてくださいました。まさか本当に人様のサワキリが生きているうちに見
られるとは思ってもいませんでした。あまりの素晴らしさに画面を見る目が潤み、マウ
スを動かす手が震えました。ああっ、人生長生きしてみるもんだ。(by 日向)

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