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「ごめんよ、澤村……。あたしのせいで………」
ここは澤村の部屋。
熱を出し、顔を真っ赤にしてベッドで横になっている澤村と、とても申し訳無さそうな顔をするあたし
がいた。
「ったくよ……誰がお前のせいだなんて言ったよ……俺が勝手に風邪引いただけだろ?」
澤村は強がろうとしてたけど、その声は熱のせいで擦れてた。
なんで、澤村があたしのせいで風邪を引いたのかって?
それは、2日前の木曜のことなんだ。
「あっちゃー……参ったね………」
その日、部活が終わった後、帰宅しようとするあたしを、急な夕立が足止めした。
朝の天気予報では、今日は雨一つ降らない筈だったんだ。
しかし、天気なんてものは刻一刻と変わるものだし、夕立なんてものは急に来るから、そうそう予報は
当てになりゃしない。
あたしも、朝の天気予報を鵜呑みにしちゃって、傘なんか持ってこなかった。
しかも運の悪い事に、その日あたしは、買い物に行くつもりだったんだ。
ただ買い物するだけなら、別に他の日でも良かったんだけどね。
でも、どうしても今日行きたかったんだ。
急に、あいつにシルバーのリングを贈りたくなっちまったんだよ。
経済的な問題っていうのもあるけど、あいつ、装飾品の類(ピアスとかリングのことだよ)は全くつけ
ないだろ?
付き合ってるあたしが言うのも何だけど、絶対似合うと思うんだ。
多分、普通に勧めたってつけやしないだろうよ。
でも、あたしが贈った物なら、つけてくれるかな……って。
そりゃ、『自分が贈った物を、肌身離さず身に付けていて欲しい』っていう、願望だけどさ。
まあ、後から考えてみれば、あたしとした事が随分と少女趣味な事考えちまったって赤面しちまうけ
ど、その時はそう思ったんだ。
そんな訳で、あたしは雨の中を走って帰るつもりだった。
ところが。
「おい、希理子、傘も差さないで帰るつもりかよ?」
鞄で頭を覆って走り出そうとしたあたしを、澤村が呼び止めた。
「仕方無いだろ、持ってくるの忘れたんだからさ!」
あたしはんべっと舌を出し、憎まれ口(って言ったって、あたしは普段からそんな口調だけどさ)を叩
く。
「大方、朝の天気予報鵜呑みにして、持ってこなかったんだろ?……いいよ、俺の傘貸してやる。」
そう言って澤村は、あたしに傘を差し掛けた。
「これ借りちゃったら、あんたの傘が無いじゃない?」
澤村の傘を受け取ったけど、あいつ、他に傘があるのかな。
「ああ、部室にもう1本置き傘置いてあるから、心配すんなよ。」
「そうかい。………ありがと。」
素直に礼を言うあたし。
雨の日は何だか調子が狂っちまうね。
「今日は何か用事があるって、昨日言ってただろ?その日の用事は、その日の内に済ませた方がいいから
な。」
優しい笑みを浮べて呟くあいつ。
全く、いつもクールなくせに、こんな可愛い顔することがあるから、他の女までメロメロになっちまう
んだ。そんな顔見せるのは、あたしだけにしておくれ!……おっとっと、口がすべっちまった(ちと顔が
赤い)。
「分かったよ。それじゃ、また明日ね!」
そう言って、雨の中を駆け出すあたし。
多分、あいつはあたしの背中を見送ってたんだろうね。
あたしを見守る、あったかい視線。そんな気がしたんだ。
で、その翌日。
「あれ?澤村はどうしたんだい?」
部活に顔を出したあたしは、体育館の何処にも澤村がいない事に気付いた。
(ん?さっき『愛の力ですぐ分かった』なんて考えた奴、出ておいで!そんな恥ずかしい事言う奴はちょ
っと懲らしめてやろうじゃないか。……まあ、そりゃ本当の事だけどさ。)
とりあえずあたしは、一番状況を知っていそうな成瀬を捕まえて聞いてみた。
「希理子さん、昨日澤村の奴、傘も差さずに帰ったんですよ。しかも、濡れたままバイト行ったらしくっ
て……。今朝、風邪で休むっておれの家に電話がありました。」
えっ……ちょっと待っとくれよ。
あいつ、『置き傘がある』って言ってたじゃないか。
「澤村、部室に置き傘があるって昨日言ってたんだけど………」
内心動揺しているのを成瀬に勘付かれないように、あたしはそれとなく聞く。
「え?あいつ、そんなもの無いっすよ。でもおかしいなあ、部室出るときあいつ、傘持ってた気がするん
だけど………」
成瀬は頭を捻ってた。
やっと分かった。あいつ、あたしに傘持たせる為に、他にあるって嘘ついたんだ。
それで自分が風邪引いてりゃ世話無いよ。ばか………。
あたしは、今日は調子が悪いと言って、そのまま帰った。
帰りがてら澤村の家に寄ろうと思って、携帯を鳴らしたけど、留守電に繋がるばかりで一向に出やし
ない。
「今日は、仕方ないね………。」
あたしは、それ以上電話をかけるのを諦めた。
家に帰って、ご飯を食べても喉を通りゃしないし、布団の中に入っても、あいつのことが心配で眠れや
しない。
連絡がつかなかったのもそうだけど、一人暮しで体調崩すとなかなか治らないし、不安にもなる。
でも、あくまでもあたし本人じゃなく、澤村の体調が悪いんだよ?
だけど、こんなに心配だし、不安なのは……やっぱり、あいつの事愛してるから……なんだろね。
憎まれ口叩いたって、皮肉な事言われたって、やっぱり好きなんだって思い知らされる。
全く、この希理子さんとした事が………。
『恋は人を変えちまう』って言葉を聞いた事がある。
その時は、『あたしは絶対に変わらない』って信じてた。
だけど、実際には……こんなにあいつの事しか考えられなくなってるあたしがいる。
ある意味とても滑稽だけど、今すごくあたしは幸せなんだ。
だから、それはそれで構わないよ。
「よしっ……起きたら、澤村の家に行こう。見舞いと称して。」
布団の中であたしはそう呟き、まどろみに身を任せた。
朝目が覚めると、8時を過ぎていた。
「んー……よく寝た気がする。」
あたしは大きく伸びをして、身体を布団から起こした。
なんで『気がする』のか、って言うと、実際に寝たのは午前3時過ぎてたからなんだ。
その割には、よく眠れた気がして、ね。
「さてと……澤村の家に行こうかね。」
あたしは身支度を整えると、一路澤村の家に向かった。
澤村の家に着き、チャイムを鳴らす。
ピンポーン。
暫くして、ごそごそという物音と共に、疲れた真っ赤な顔の澤村が、ドアの向こうに現れた。
「なんだ、希理子か……。」
「なんだとはなんだい、折角様子を見に来てやったのにさ。」
結局こんな時でも、憎まれ口を叩いちまうあたし。
ったく、素直になれないってのは……時々自分でも呆れるよ。
「冷やかしなら帰ってくれ……。お前に風邪うつす訳にはいかねーんだ。」
「なんでだい?」
答えが自分でも分かってるくせに、ちょっと意地悪してみたくなった。
「……大事なお前に、風邪引かせたくねえんだよ。」
確信犯だね、あたしは。
こういう言葉が返ってくるのを承知で、聞いてるんだから。
「じゃあ、尚更放っとく訳にはいかないね。あたしだって、大事なあんたを一人で野垂れ死にさせたくな
い」
「ばかやろ………」
怒ったような素振りをしてても、嬉しそうなのがバレてんの。
「……分かったよ。上がってくれ。何も出せねえけどよ。」
あたしは澤村の家に上がった。
澤村は部屋に戻るなり、ベッドに横になった。
「悪りぃ、希理子……。ちと、キツイんだ………。」
苦しそうな声で呟く澤村は、とても心細そうな顔をしていた。
さっき、玄関で話した時は無理してたんだろね。
ごめんよ、無理させちまって………。
「あんた、熱測った?……何これ、すごい熱じゃない!」
あたしは澤村の額に手を当てた。
尋常じゃない熱さ。
あたしは、持ってきた体温計で熱を測らせた。
「38度1分……。なんで医者に行かなかったのよ!?」
あたしは濡れタオルを用意しながら、ついつい説教っぽく言ってしまった。
病人に対して、あまりいい事じゃないって分かってはいたんだけど。
「……今月、インターハイで休んだせいで、バイトの時間短かったからよ……。金欠で、余裕無かったん
だよ………」
そうだった。
澤村は一人で生活費を稼いでる。
だから、今月なんかは特に苦しかったんだ。
それに気付かなかった………。
「ごめんよ、気付かなくて………。成瀬から聞いたよ、あんたが風邪引いたのは……あたしのせいだった
んだろ?」
あたしは辛かった。
澤村が風邪引いたのは、結局はあたしのせいじゃないか。
それをあたしは………
「成瀬……余計な事言いやがって……。心配するだろうから、言うんじゃねえって釘刺しといたのによ…
……」
澤村は顔を背けて呟いた。
あたしには、その行為が、『あたしから目を逸らした』ような気がして、急に悲しくなった。
そして、いてもたってもいられず、澤村を強引に自分の方に向かせた。
「どうしたんだよ、希理子……?」
「いいから、目を閉じててよ……」
言われるままに目を閉じる澤村。
あたしは澤村の口唇に、自分の口唇を重ねた。
熱のせいで乾いた口唇に、潤いを与えたくて。
「んっ………」
絡みつくような濃厚なキスではないけれど、あたしはいつも以上に愛を込めて、澤村の口唇を愛する。
暫く口唇を重ねた後、あたしは顔を離した。
「大丈夫かい……?」
「いくらか、唇の渇きは癒されたみたいだぜ………。悪りぃ……眠くなっちまった………」
とても眠そうな顔をする澤村。
どうやら、安心したら眠気が襲ってきたらしいね。
「いいよ、ゆっくり休んで………。傍にいてあげるから、さ………」
あたしはそのまま、ゆっくりと眠りに落ちる澤村の手を握っていた。
時々、温まった濡れタオルを取り替えるとき以外は、ずっと。
夜の7時を回る頃には、熱も下がり、顔の紅潮も引いてた。
それでもあたしは、澤村の傍にいた。
離れたくなかったんだ。
完全に治った、って分かるまで。
そのまま、あたしも何時しか、深い眠りへと落ちていった………
気が付くと、朝になっていた。
見るとベッドはもぬけの殻で、いったい澤村は何処に行ったんだろうと見回す。
そんなあたしの鼻が、台所からとても香ばしい匂いが漂ってくるのを感知する。
「おう、目が覚めたか。朝飯、出来てんだけど……食う?」
台所から、元気になった澤村がひょっこりと顔を出した。
昨日まで、心細そうな顔をして寝込んでたのが嘘みたいだね。
元気になって、よかった………。
「うん、食べる!」
朝ご飯を食べた後、今日は一日ゆっくりしてなよと伝えて、あたしは澤村の家を後にした。
ちょっと後ろ髪を引かれる思いで。
本当は、もっと一緒にいたかったけど、無理させたくなかったからさ。
あ!リング渡すの、忘れてた!
まあいいか、また会う口実が作れるから………
*** ヲワリ ***
あとがき
すいません、オチてないです(汗)。
なんか急激に突発的に書きたくなって……。小説電波神が降りて来てしまったせいです。
もっと練ってからサワキリ書こうと思ってたんですが……お目汚しですいません。
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