| 初デートはサンタと共に |
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俺とあの人が、所謂『恋人同士』になってから、一ヶ月が過ぎようとしていた。 普段の部活動中は、あの人も俺にあまり関わっては来ない。 隠れてこそこそと付き合う、と言う訳ではなく、互いに目立つのが嫌だからだった。 只でさえ目立つ二人が付き合っていると知れたら。 唯一の女性であるあの人は俺と付き合っている。 ある意味、周りに示しがつかない。 結局、隠れて付き合っているようなものだった。 同級生や部員は勿論、親友である今川にすら隠して。 そして、十二月を迎えた。 それは同時に、あの人の十七歳の誕生日が来る、という事だった。 「ねえ、純直?クリスマスなんだけど……都合、大丈夫?」 いつものように、部活帰り、あの人と駅まで一緒に歩いている時の事だった。 急に顔を覗き込まれて聞かれたので、俺は一瞬返事に困った。 また、どうしてそんな事を聞くのかすぐには分からなかった。混乱してしまったのだ。 「……店の手伝いが一段落つけば、大丈夫だと思いますが………それが何か……?」 やっとの事で出した答えに、あの人はやや不満気な表情を浮べて、そう、と答えたきり黙り込んでしまった。 駅でまた明日、と言って別れた後、俺は自分に対する猛烈な怒りと、自分の犯した失敗に対する後悔の念に襲われた。 ああ、またやってしまった。 クリスマスと言えば、付き合っているからには、一緒にいたいと思うのは当たり前じゃないか。 俺だって、あの人と一緒にクリスマスを過ごしたい。 それを、店の手伝いがどうこうなんて理由で、あの人の気分を害してしまった。 なんて俺は、馬鹿なんだ………。 その日を境に、あの人と俺は、気まずくなってしまった。 何だかんだと理由をつけて、互いに避けていた。 でも、今度ばかりは、俺にも理由があった。 せめてもの罪滅ぼしがしたかったのだ。 あの人の誕生日は、年内最後の練習試合が入っているせいで、一緒に過ごせないから。 だから、クリスマスだけはと思って、当日店の手伝いをしない代りに、それまでに店の手伝いを全て済ませようと思った。 それに、贈り物がしたかった。 自分の失言の詫びと、あの人の喜ぶ顔が見たくて。 そして、何とか、クリスマスの日に会ってくれるという約束を取り付けた。 それは、初めてのデートの約束でもあった。 それからまた数日が過ぎ、二学期の終業式を終えて、クリスマス当日となった。 街には正にクリスマス一色。 煌びやかな飾り付けと、聖夜を祝う歌、そして恋人達の姿。 そして、ホワイトクリスマスを予感させる、ちらほらと降り始めた雪。 そんな中俺は、あの人の元へと急いでいた。 約束の時間を、既に四時間過ぎていた。 普段俺は、待ち合わせの時間に確実に間に合うようにする。 今日も、家を出るまでは良かった。 だが出ようとした途端、近所の顔見知りのお婆さんが急に倒れたという事を聞いた。 それにそのお婆さんには身寄りがおらず、一人暮しだったのだ。 お婆さんを医者に連れて行けば、確実に遅刻する。 でも、俺を幼少の頃から知っている人が苦しんでいるのを、放っておける筈が無かった。 他に手の空いている人もおらず、俺はお婆さんを医者に連れて行った。 幸い、命に別状は無かった。 だけど、お婆さんの診療が終わる頃には、約束の時間はとっくに過ぎていた。 一縷の望みと、あの人への贈り物を握り締め、俺は待ち合わせの場所へ急いだ。 待っていなくて当たり前。 例え待っていたとしても、約束を守れなかった事に対する罵声が飛ぶ事も覚悟していた。 それは、最悪の事態も覚悟して。 でも、行かない訳にはいかなかった。 待ち合わせの、駅前の大時計の下に着いた時には、既に午後十一時を回っていた。 雪の積もり始めた時計の下には、誰一人いなかった。 「……もう、希理子さんは帰ったな………。」 俺は、予想していた通りの結末に、半ば安心し、そして終わりを覚悟した。 俺が時計に背を向けてその場を立ち去ろうとしたその時。 「こらぁ、何処行くんだ小林!可愛い彼女を放っておいて!」 忘れ様の無い、ある女性の声が、俺を呼び止めた。 まさか。そんな筈は……。第一、約束の時間からもう五時間以上も経っているのに………。 恐る恐る後ろを振り返る。 するとそこには、既に顔も唇も蒼褪めて、凍えそうにしているあの人が立っていた。 「き、希理子さん………すいませんでしたっ!俺が……俺が全部悪いんです!」 俺は居ても立ってもいられず、土下座して、地面に頭を擦り付けて謝った。 俺の頬を、涙が幾重も流れた。 雪の中、こんな時間まで待たせてしまった事。 それでも待ってくれていた事。 ありがとうございます。ごめんなさい。嬉しい。苦しい……… 色々な感情が、ごちゃごちゃになって、俺の頭の中を駆け巡った。 だけどあの人は……俺の顔に手を添えて、顔を上げさせた。 その手は氷のように冷たかったが、何故か、暖かかった。 そしてあの人の瞳は、限りなく優しかった。 そこには、非難の色など微塵の欠片も無かった。 「馬鹿だね、言い訳しないんだね……。いいよ、待ってたあたしも馬鹿なんだから。あんたが遅刻した理由ね……お兄さんに聞いて知ってるんだ。だから、別にあんたが謝る必要は無い。それに、聞いちゃったんだ。あんたがあたしの事避けてた理由。今日の為だったんだって?」 俺は顔が真っ赤になった。 あの人には全て筒抜けで、お見通しだったんだ。 「ホント、馬鹿だよ……。一言でも言ってくれればさ、あたしだって無理な事させなかった。……でも、来てくれて、本当に嬉しかった。理由分かってても、来てくれるか心配だったからさ………。」 「希理子さん………!」 俺はたまらず、冷え切ったあの人の身体を強く抱き締めた。 自分の身体の熱を、少しでもあの人に分け与えたくて。 そのまま、冷たい唇に、自分の唇を押し付ける。 「んっ………」 あの人の唇と頬に赤みが少しずつ戻る。 長い口付けの後、ようやく唇を離した俺に、あの人はぽつりと呟いた。 「………初めてだね、純直からキスしてくれたの。」 「あ………!」 俺は顔から火が出るほど恥ずかしくなった。 改めて考えると、今まで、自分から口付けた事なんか無かったからだ。 「このイヤリングもすごく嬉しいけど、会いに来てくれた事、純直からキスしてくれた事が、一番のプレゼントだよ。」 あの人の耳には、誕生日に手渡したガーネットのイヤリングが、静かに揺れていた。 本当は、ガーネットは俺の、一月の誕生石。 だけどあの人が『いつも俺のことを想っていられるように』という注文(?)をしたから、いつでも着けていられる、それに身近に感じられる、と言う事で選んだものだった。 買いに行く時、とても恥ずかしかったのは、言うまでもない。 「でもね……あたしの事、それだけ想ってくれてるって思うとね………すごく嬉しいんだ。」 あの人が優しい笑みを湛えて微笑む。 「……俺には、それしか出来ませんから。だけど……」 「だけど………何?」 「貴女への想いだけは、誰にも負けませんから。」 「………馬鹿」 そう言うと俺は、またあの人を抱き締めた。 あの人も負けずに、俺を抱き締めてくれた。 あの人の微笑みの前には、何もいらなかった。 「あ、純直……これ、あたしからのプレゼント。」 思い出したようにそう言うと、あの人は紙袋から真っ白なマフラーを取り出した。 「ごめんね、もっとキレイに仕上げたかったんだけど…初めて編んだから上手くいかなかった。」 そう言ってあの人は、照れたような顔をしてぺろっと舌を出した。 「希理子さん、これ………手編みですか?」 見てくれは少々悪かったが、そのマフラーは、一目一目、心を込めて編まれたものであると、すぐに分かった。 「あ……ありがとうございますっ!」 俺がそう言うと、あの人はますます照れた顔をして、マフラーを俺の首に巻いてくれた。 「何だか、今日の純直、サンタクロースみたいだね……」 「え?え?」 俺は、今の自分の格好を改めて確かめた。 頭には、深々と降る雪が積もり、あたかも帽子のよう。 上着は、お気に入りの真っ赤なジャケット。 そして……首には、あの人の心の込もった、真っ白なマフラー。 成程、サンタクロースのような格好だ。 「……そうですね。俺は、貴女にちゃんと何か贈れたでしょうか?」 素朴な疑問を、口にする。 「………うん。純直、あんたが今、ここに居てくれる事が、今まで貰ったものの中でも、最高のプレゼントだよ。」 あの人は一層幸せそうな顔をして、また抱きついてきた。 そのまま、口唇を重ねる。 さっきとは違って、その口唇は、とても暖かかった。
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