10th. circle 
01/10/05up

  

  

 インターハイ都予選5回戦翌日、勝利をおさめた上南は次の試合及びその先にある四谷鵜の原戦、

そしてさらに先に続いているインターハイに向けて激しい練習があった。

 6月も下旬のこのころの体育館は湿度も高いこともあってまさに天然のサウナそのものだ。そのよ

うな状態で走りっぱなしの練習を日曜日ということで丸一日、計6時間もしているのだから終わる頃

には『くたくた』というよりも『くらくら』だ。ほぼ部員全員、一部の例外を除いては声を出すこと

すらおっくな状態になっている。

「じゃあおつかれさん」

 だがその中の例外、部の中で一番ハードに練習をしておいて、なのにけろりとまったく平気な様子

をしている桜井は疲れ果てて部室から立ち去ろうとしないメンバーにそう声を掛け、暑さのあまり開

けっ放しで着替えていた扉に向かった。その背中に呆れたような、感心したような、聞きようにとっ

てはどちらともとれる音声で誰かが声を掛けた。

「元気ですねぇ、桜井先輩、用事か何かあるんですか?」

 いつもなら部員達と共に駅に向かう桜井がさっさと着替えを終え、何やら時間を気にした様子で足

早に立ち去ろうとしているのが気にかかったのだ。

「いや、ちょっとね───じゃあ」

 その言葉に桜井はいつもの笑顔でそれ以上の疑問を封じると一見悠々とした───だけどかなり早

足で部室を後にしていった。その背後では昨日の少女、つまりゆかりと約束があるのではないかなど

と憶測が飛び交い始めたのだが、桜井はそれを相手にすることもなくとにかく急いで駅に、そして自

分の『家』に向かった。

 最寄り駅から約30分、駅から徒歩5分で近くにコンビニもあるという恵まれた立地条件のオート

ロックの7階建て、その最上階の角部屋、自分の実家である藤が丘と上南高校のちょうど中間にあた

る位置のマンションで桜井は一人暮らしをしていた。

 最寄り駅で下車した後、駅から部屋に戻る間にあるコンビニで適当にジュースやお菓子などを買い

込むと本当なら誰もいないはずの自室に戻った。

「おっそーい!」

 だがその誰も居ないはずの広いリビングから桜井が扉を開けるのと同時にそう不満の声が上がっ

た。

「ゴメンゴメン」

 桜井はその声に苦笑しながらその声の主に向かって歩み寄りながら頭を下げる。

「練習ながびいちゃってさ、希理子」

 その視線の先ではまるで自室であるかのようにクーラーを効かせ、麦茶の入ったグラスを片手に寝

そべりながらTVを見ている希理子が居た。

「言い訳だけならサルでも出来るよ、あたしは時間にルーズな人間は嫌いだって言っておいただろ

う?」

 そう言いながら起き上がり桜井を軽く睨み付ける。そんな希理子に桜井はどこか悪戯めいた表情で

問いかける。

「じゃあ、部の練習をサボる人間は良いワケ?」

「うっ、うるさいよ、あんた!」

 桜井のその言葉に希理子は立場が悪くなった時のいつもするようにパッと微かに頬を赤らめながら

ぷいっと顔をそむけた。その希理子の反応に桜井は小さく笑う。

「ちょっと待ってて、着替えてくるから」

 そう言いながら桜井はその場にカバンをおろすと、高校生の一人暮らしのくせに贅沢にもリビング

の他に2部屋───勉強部屋と寝室のうちのクローゼットがある寝室の方に足を向けた。ちょうど希

理子の座っている位置からでは見えないことをいいことに扉を開けっ放しにして制服を脱ぎ散らかし

私服に着替えながら希理子は向かって問いかけた。

「昨日、親父が会いに行ったって話だったけど、どういう話だったんだ?」

 その話については昨日ゆかりを自宅に送り届け、一風呂浴びて落ち着いていたころに希理子からあ

らましについては連絡を受けていた。だがくわしい内容については互いに情報交換をしないといけな

いだろうということで今日話をすることにしたのだ。

「うん、まあ予想どおり、っていうトコかな?」

「と言うと?」

「遠回しな牽制アンド直接的な牽制」

「はあ?」

 希理子のその意味不明な言葉に桜井は首をかしげる。

「あんたン家の近く、というか病院の近くにあるやったら高そうなレストランで晩飯奢ってもらった

よ。そこで昔のあんたはどうだっただの、あたしンちはどんな感じだの根掘り葉掘りというか、まあ

とにかくいろいろ聞かれたよ」

 そして付け足す。

「とにかくあんたにそっくりの胸くそ悪いオヤジだったよ」

「ハハッ」

 その言葉に桜井は小さく笑った。

「そこまで簡潔にまとめられると何だかヤな感じだな」

「こっちの方が気分悪いよ、あんたの親なんだからってある程度は予想してたけどあんなに曲者だと

は思わなかったよ。にこにこ顔の下で何考えてるかわかりゃしない」

「そうだな───」

 呆れ返った様子の希理子のその言葉に桜井はどこか渇いた、感情を押し隠したような言葉で返答し

た。

「で、結局上手くいった?」

「あんた誰に向かって言ってるのさ?」

 戻って来た桜井のその言葉に希理子が笑う。

「あたしは『矢部希理子』───あたし以上の曲者がこの世界に存在するモンか」

 自虐的、自嘲的───だけどそれ以上の自信と確信に裏付けされたその言葉と表情に桜井は大きく

頷く。

「そうだったな、お前は希理子だもんな」

 一見意味不明の言葉で桜井は納得の意を表した。その反応に希理子も頷く。

「で、そっちはどうなのさ?」

 希理子からの問いかけに桜井は顔をしかめる。

「正直いうとビビった」

「何が?」

「ゆかりもしっかり『女』だったんだってことがさ」

 今度はその言葉に希理子が顔をしかめる。

「まさかあんた情にほだされて変なコトしてないだろうね?!」

「まさか!」

 桜井は即答する。

「そんなことするわけないだろう?いくら俺だってそれくらいわかってるよ」

「さてはてどういう意味だか」

 自分の斜め向いの位置に座ろうとする桜井を疑わしげに見ながら希理子は肩をすくめた。

「ホントだって!ゆかりはあくまでも妹だ。せまられたとしても困るだけだよ」

「本当に?」

「絶対だ」

 きっぱりと言い切った桜井に希理子は先を促した。

「了解。で、じゃあどういう意味でその言葉が出てきたんだい?」

 その希理子からの問いかけに桜井は一瞬考え込むような素振りをしながら慎重に口を開いた。

「───うん、どう言えばわかってもらえるのかわからないけど、とにかく何だか俺の知らないゆか

りだったんだ。怖いくらいに真剣で、怖いくらいに女だった」

 桜井は昨日のことを回想しながらそう希理子に説明した。

 ゆかりに希理子のことを好きなのかと問われたとき、桜井は希理子が好きだとは言わなかった。だ

けどそれとほぼ同じ意味───もしかしたらそれ以上に深い意味を持つ言葉として希理子のことを好

きにならない人間はいないと答えていた。

 だいたいに関して打ち合わせはしている桜井と希理子ではあったが、具体的なセリフに関してまで

は決めてはいない。ただあらかじめ2人が動くことによって予測されるであろうゆかりの反応や行動

に対してどういうふうに行動し、そして次にゆかりや周囲をどういう方向に進ませねばならないかと

いうことだけを話し合っていた。

 それはセリフの一言一句まで用意してしまうとどうしても芝居がかりすぎてしまう為に、時には流

れに身をまかせたほうが何ごとも上手くいくという希理子からのアドバイスというか指示でのことだ

った。

 ので、おそらく試合のあとふたりきりになったときにゆかりから希理子との関係について訊ねてく

るだろうからそれに対してただ『恋人のことを妹から問いただされたつもりで返答しろ』とだけ希理

子から指示されていたのだ。

 だから桜井は素直に『本当』の希理子に対する気持ちを語った。演じているとき以外の───つい

先日までPAをやっているなど微塵もかんじさせなかった、自然体で大雑把でおおらかで、限り無く

お人好しの希理子に対する自分の気持ちを語ったのだ。

 するとゆかりは希理子の予測どおり案の定2人の関係を───特に傍若無人に振る舞いまくってい

る希理子のことを認めないと宣言してきた。だがその時のゆかりのあまりに強固な姿勢が、『女の

目』をして、自分のことを問いただし、ほとんど見ず知らずの、自分に対して親切心を見せてくれた

女でさえ心底憎むような目をして見せたゆかりのことが理解出来なかったのだ。

 病弱で甘やかされて育ったゆかりなので我が儘という点では希理子に負けず劣らずだが、桜井の知

っているゆかりはどこか何ごとに対してもあきらめたような態度をとることが多かった。何ごとにも

期待しないし、何ごとに対してもあまり執着を見せなかったのだ。

 なのに今回のことに関してはゆかりは本当に激しく反発した。その感情のあまりの激しさに発作を

起こしてしまうのではないかと心配になった程だ。

 だが先週の初対面の時の桜井と希理子の親密さからゆかりはある程度予測してきていたのだろう。

『信じない、認めない』と言葉を口にしつつもどこか冷静な声で桜井に対して宣言してきたのだ。

『私、あきらめないから。だってお兄様は間違ってるもの、お兄様は矢部さんみたいな変な人と接し

たことがなかったから、好きなんだって思い込んでるだけなのよ。お兄様にあんな人全然相応しくな

いんだから』

 ゆかりのあまりに激しいその言葉に桜井は希理子に対する評価を訂正するように求めたがゆかりは

断固としてそれを受け入れなかった。

 自分の知っている『ゆかり』だったならば。自分から言われれば言い過ぎたと反省してその言葉を

取り消そうとしたハズだ。だがゆかりは桜井が希理子をかばえばかばうほどますます強固に希理子に

対する反発心をあらわにしてきた。それはまさに嫉妬といっても全然過言ではない代物だった。

「何だかさ、そんなふうなゆかりを見てると自分が半分うそついてるからってじゃなくて、本当にそ

こまで想われてしまっているってことが怖くなってさ、逃げ出したい気分になったよ」

 桜井のまとめたその感想に希理子は小さく笑った。

「円を描いた魂のいっとう最初のいっとう綺麗な恋だモン、本気も本気、邪魔するものは当たって砕

くよ」

「『円を描いた魂』?」

 桜井は希理子の使ったその文学的な表現に首をかしげた。

「うん、ゆかりちゃんを見てるとね、そんな言葉しか出てこないんだ」

 そう前置きを置いて希理子は説明を始めた。

「人間の心はさ、この世界に誕生した時には柔らかで真ん丸なものなんだってさ。そして人間の人生

はまさに坂道を下るようなもんで、ある程度自分を取り巻く周囲の環境───つまりは親とか兄弟と

か友人とか、自分が生きていく上で関わっていく人間と接することで形が決まっていくんだって」

 そう言ういいながら希理子は両手でふんわりと何かをかかげるように見えないものを示した。

「だけどゆかりちゃんのように過保護に───本当の意味で真正面から他人と向き合ったことなんか

なくて、周りの人間から傷付かないように、ぶつからないようにって真綿で包むように守られ続けて

きた人間は誰ともぶつかりあってきたことも、坂道の途中にある小石に弾き飛ばされたこともないか

ら魂に本当の意味でのキズも出来てないし、形も定まってない」

「───それが『円を描く魂』?」

「そう」

 桜井の反応に希理子は頷く。

「だけどいくら形が円のままでも、坂道下ってる最中に柔らかさ───つまり周りから何かを吸収し

受け入れるっていう心の柔軟さは失われていってるから、そんな状態で突然真正面から誰かとぶつか

ったり、大きな石にひっかかったりすると下手するとそれに耐えられない」

「だとすればどうなるんだ?」

 希理子の重い口調に桜井の表情も厳しくなる。

「壊れるか───もしくは歪むかどちらかだろうね」

「──────」

 その希理子が口にした言葉の意味を桜井は正確に理解した。それゆえに言葉が出ない。

「大丈夫」

 だがそんな様子の桜井に向かって励ますように希理子は笑った。

「そのために『あたし』がいるんだろ?あたしが絶対に壊させも歪ませもしない、綺麗な円を描いた

魂を持ったまま、『大人の女』になってもらう」

「うん」

 桜井はその言葉に素直に頷いた。希理子がそう言うならきっとそうなる───そんな確信にも似た

感情が桜井の心を優しく満たす。そしてそれは常に希理子が桜井に対して感じる感情とよく似てい

た。

 だがそんなことを知る由もないが、希理子は桜井がすこし前向きな姿勢を取り戻したと確認すると

そのことに対して更に付け足した。

「今回のことはきっとゆかりちゃんの将来にとっていい経験になるよ。周りから全部を与えられてき

た人間が初めて本気で誰かを憎める程欲しがることが出来たんだモン、その結果が是と終わっても否

と終わってもきっと大きく成長出来るよ」

「そうだな」

 希理子のその言葉と、珍しいといってもいいほど穏やかな希理子の表情に桜井は納得したように大

きく頷くと、希理子と同じように小さく笑みを漏らした。

「とにかく早い目に決着つけたいね。心のケアもだけど身体のリミットだってせまってるだろうし」

「そうだな」

 希理子の言葉に桜井は同意する。

「少なくともこの予選───インターハイが始まる前までには決着をつけたい。じゃないと冬が来る

までに手術が受けられない」

 ゆかりの心臓病の手術は大掛かりなものであるがゆえに入院即手術というわけにはいかない。執刀

してもらう専門医の都合もあるだろうし、手術に向けての準備期間として1、2か月は必要とのこと

だった。

「暑さもだけど寒さは更に心臓に負担をかけるから、気候のいい秋の間に手術とある程度のリハビリ

を終えられる様にするのがベストなんだ」

 その言葉に希理子も頷く。

「それにあんまり長丁場になるとぼろが出るかもしれないしね、早めにケリつけよう」

 そう言うと希理子は立ち上がった。

「今日はもう帰るよ、また何か動きがあったら連絡して、電話で話しづらいことだったらいつでもこ

っち来るから、せっかくあんたからこの部屋のスペア借りたことだし、この部屋にもちっと『細工』

もしたいし」

 そう言ってチリンとジーンズのポケットにつっこんでいた鈴付きの鍵を指で回しながら指し示し

た。

「わかった」

 桜井はその言葉に頷いて希理子と同じく立ち上がった。

「駅まで送ろうか?夏場だっていっても時間が時間だから周りも大分暗いし」

「いやいい」

 希理子は桜井からのその申し出に首を横に振った。

「『雇い主』さんにそこまで気を遣ってもらっちゃ悪いよ」

 そう言って笑う希理子はどこか悪戯が成功する様を見守る子供のような笑顔をしていた。 

「じゃ」

「うん」

 結局希理子を見送るのは玄関までにして桜井はその希理子からの別れの挨拶に頷いた。

「あっそうだ」

 だが靴を履き終えて扉を開きかけた希理子は何かを思い出したように桜井の方を振り返った。

「なに?」

 桜井が忘れ物でもしたのか、という意味でそう問い掛けると、希理子は小さく首を横に振って桜井

の背後───奥に続く部屋を指し示した。

「あんたの部屋初めて入ったけどさ、あんたがこのままじゃゆかりちゃんは救われないからね」

「えっ───」

 その言葉に桜井は思わず目を見開く。

「さっきの続き、人間は周囲の人間と接することによって決まっていくって言っただろ?だけどぶつ

かるべき相手が───それもその人間にとって本当に大切な相手が自分を偽って、隠してごまかした

ままじゃ『本気』なんて伝わらないんだからね」

 希理子は真正面から桜井を見上げたままで言葉を続ける。

「ゆかりちゃんのことを想うなら本気で、『ホントのあんた』でぶつかってやりな、あたしはその手

助けだったら何だってしてやるつもりだから」

「……どういう ───」

 思わず言葉が震えた。重ね合わされた希理子の瞳に映る自分自身の像さえ震えているようだった。

「『部屋』ってね、結構その持ち主というか家主の心そのままに映し出すモンなんだよ。その人の何

を考えてるか、何を隠してるか、そんなコトを───ね」

 そこまで言うと希理子はくるりと背を向けた。

「考えてみな、人間、綺麗なだけじゃいられないんだよ?見たくないからって目を背けてたって現実

はいつか自分に降り掛かってくるんだ。それがわからないあんたじゃないだろう?」

 そして扉を閉める。

「『過去』になった時間は戻ってこないんだ。『今』が『過去』になっちまう前にあんたにはするこ

とがあるんじゃないのかい?」

 その言葉だけが独りになった桜井の元にとり残された。

「──────」

 もちろん、かなり抽象的で具体的な言葉を一切口にしなかった希理子に対して疑問は浮かび上がっ

てきていた。まだ扉を開ければ希理子がそこに居ることはわかっている。しかし扉を開け、その意味

を問いただすことが桜井にはためらわれた。完全にではないにしても心の片隅で希理子の言葉の意味

を理解していたからかもしれない。

 しばしの間、桜井はその場に立ち尽くし、ふと横目に入った玄関横に飾ってあった鏡に映る自分を

見るとやけに弱々しくも厳しい表情をしている自分が居た。そこには普段誰に対しても見せている

『桜井』の顔はない───顔だちは同じでもまったく違う、誰にも見せたことのない『自分』が居

た。

 桜井はその『自分自身』の姿───誰にも見せたくないし、何より自分が一番見たくないその自分

自身の姿から目を背けると逃げ出すようにして室内に戻った。

 すると高校生の男子の一人暮らしとしてはかなり綺麗に整理された室内に奇妙な違和感を感じた。

 希理子が前回の打ち合わせの時にすると言った『細工』以外にも何だか今朝部屋を出た時とは違う

ような印象が急にし出したのだ。

 桜井はゆっくりとその違和感の元を探し出そうと室内に目をこらす。上手に元に戻されていても自

分の大切な物を触られたことがわかるようなそんな微妙な違和感がこびり着いて離れない。

「─────!」

 すると一ケ所に目が吸い付いたように引き寄せられた。そこは希理子が寝転がって見ていたTVの

横のチェストの上───幾つか並べて置いてある写真立てのところだった。

 桜井はそこに向かってゆっくりと恐る恐る足を近付ける。だんだんと大きくなっていく目に映るビ

ジョンは自分が感じた違和感の元がそこで正解だったことを確かに裏付けていった。

「───────」

 一番奥に───他の写真立てと重なり合うようにわざと目に着きにくいように置いていたその写真

立てが何故か一番前に置かれていた。それを手にとり、そこに飾られている写真に目を通す。

「───────」

 そこに映し出されているのは遠い過去の光景───どんなに望んでもたどり着くことは出来ない遠

い過去の光景。そこには幼い頃の自分の姿も映し出されていて、本当に無邪気な顔で笑っていた。だ

けどそれもすでに遠い幻───もう取り戻せない過去の思い出。

 その中に映る一人の人物の上に桜井は指をすべらせる。もう望んでも───どんなに懸命に望んで

も決して触れることは出来ないから、万感の想いを込めて優しく震えた指をすべらせる。

「母さん──────」


 
 
 桜井が手にした写真には幼い頃の桜井自身を真ん中にして笑う、今は亡き母の姿も含めた家族の姿

が映し出されていた。

                                 

                               TO BE CONTINUED・・・

    

    

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