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「ううっ寒い」
希理子はそう言いながら両手をこすりあわせていた。
「手の色真っ青じゃないですか!どうしたんです?!」
一緒に帰る約束をして待ち合わせていた小林が希理子のその完全に変色してしまっている手を見て驚
きの声をあげた。
「手袋忘れちゃってさ、冷え性だからこのざまだよ」
希理子はいささか恥ずかしそうにその手を隠すようにポケットの中につっこんだ。冷え性の人間はあ
まりに寒さがすぎ冷えてしまうと赤くなるのを通り越して本当に青くなってしまう。
「気味悪いだろ?ホントにヤになっちゃう」
希理子の言うように確かにその様は異様だった。まるでエイリアンか何かのような地球外生命体を思
わせるような様子なのだ。
「そんなこと言ってる場合じゃないでしょう!」
だがそんなことには気も止めず小林はいささかきつい口調でそう言うと慌てて自分の手袋を外した。
そしてそれを希理子の方に押し付ける。
「これはめてください、少しはましでしょうから」
「えっ」
希理子は自分より頭一つ大きい恋人の顔を見上げる。
「だけど……」
「いいからはめるんです」
珍しく強引な命令口調に希理子はその手袋を受け取ると寒さで感覚を失っている両手にそれをはめ
た。
「大っきい……」
もともとバスケをやっていた為、女性にしては手も大きく指も長い希理子だが、小林に渡されたそれ
は指先の部分が一関節分ぐらい余ってしまった。
「さっ、早く帰りましょう。このままじゃ希理子さん、風邪引いてしまう」
小林はそう希理子を促すと駅の方に向かって歩きはじめた。いつもは並んで歩くか自分の後ろを歩く
のに、珍しく前を行くその恋人の姿に希理子は首をかしげる。
「あっ」
しばらく進んでから小林のその行動の意味を悟る。嬉しくなって顔を少しほころばせる。今日は少し
風が強かった。だけど小林が進行方向から吹いてくるその風をその大きな身体で遮ってくれていたの
だ。
「待って、はい、これ返す。半分こしよ?」
希理子は少し早足になり小林の前に回りこむとはめていた手袋の右手の方を外して小林の手におしつ
けた。
「ダメですよ、ちゃんとはめててください」
「いいの!」
小林の制する言葉に希理子は首を振る。
「こうしてる方があったかいから」
希理子はその言葉と共に手を伸ばし小林の左手と自分の右手をつなぎあわせた。
「!!」
その突然の行動に小林はびくっと身体をふるわせた。その様子に希理子は慌ててその手を外す。
「ゴメン、あたしの手、氷みたいに冷たいモンね」
申し訳無さそうにしゅんとして希理子は自分の行動を恥じ入るようにくるりと小林の方に背中を向け
た。だがその身体を小林が優しく、でも抗えない力を込めて自分の方を向かせる。そして自分の手を希
理子のそれに重ねあわせた。
「さあ帰りましょう、希理子さん。この方が俺もあったかいですから……」
真っ赤になりながらも優しく注がれるその眼差しに希理子はコクンと頷いた。そして寄り添うように
歩き出す。
風が強くなり寒さが増したはずなのに何故だか寒さは感じなかった。
THE END.
【作品解説】
2001年のコバの誕生日にこそやそサンのところの掲示板に勝手にのせた作品です。この時のペンネームの『匿名希望。』は『とくなきみ』と読みます(笑)。またそのうち何処かに出没してみたいと思っています。出没希望のサイトさんは御連絡ください(笑)。
2001/3/1 日向葵
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