北をどのようにして求める
- 真北測定の方法
     How to find the Meridian


(はじめに)
 日時計を正しく設置するには地上の子午線を知る必要がある。水平型はもちろんのこと、垂直型の日時計の壁面の方位を求めるにも、子午線が基準となる。地上の子午線とは南極と北極を結ぶ観測地点の経線を意味し、子午線を求めることは真南あるいは真北を求めることと同じである。
 方位盤の設置にも正確な方位を知る必要がある。天文施設などで広場に子午線のラインをペイントで描いておくのも面白い。屋外での天文教室に役立てることができる。日時計の工作教室にも、日時計の出来上がりを確かめるために子午線のラインは欠かせない。

 我々ができるもっとも精度が高い方法は、測量用の経緯儀(セオドライト)を用いる恒星による天測である。恒星は点光源であり、固定座標と見なすことができるからである。しかしここでは昼間の作業の方が容易であることから、太陽による方法を紹介する。太陽を用いる場合でも経緯儀を用いれば日時計や方位盤には十分な精度が得られ、薄曇りでも太陽を視認できれば任意の時刻に測定できる利点がある。

             
            経緯儀(セオドライト)                エルボウプリズムとサングラスを装着

(太陽を天測する)
 天測によって、天体の方位角を求めることができれば、基準方位の方向が分かり子午線を見いだすことができる。このような天測は船舶や航空機の航法上重要であり、速算のための諸表が工夫されている。
 地上では測量用の経緯儀(セオドライト)を用いると測定作業が容易である。地上での測定は船上に比べて高い精度が得られ、小型の関数電卓で直接計算ができる。経緯儀は高度と方位を測る単機能型で充分である。接眼部にエルボウプリズムを用いるとよい。太陽の場合、対物部に太陽用の金属フィルターを用いるとよい(註1)が、接眼部のサングラス装着でも問題はない。経緯儀の望遠鏡は小口径であり太陽は数分で視野から消え去るため、太陽の熱でサングラスが破損する可能性は少ない。
 以下に述べる時角法と高度法は天体にも観測時機にもなんら制限がなく、その利用範囲は広い。方位角は南を0度とし、→西→北→東→南を正の方向とする。算出した方位角の値につき、逆の符号の向きに経緯儀を水平回転させると基準方位の真南を指す。観測地の緯度は測地緯度に依る。

     
            地平座標図                        赤道座標図

@時角法(Any time method)
 天体の時角(t)と赤緯(δ)、観測地の緯度(φ)の3要素を用いる。太陽を経緯儀の望遠鏡の視野の中央に入れた瞬間の時刻を記録する。方位角をAとすると

   tanA=sint/(sinφcost-cosφtanδ)

・測定範囲は概ね−90<A<+90°に限られるので、関数電卓に表示される正負の符号をそのまま用いることができる。
・視太陽の時角(t)=日本標準時(JST)+均時差+標準時子午線との経度差
  視太陽の時角は視太陽の赤経からも求めることができる。
・日本標準時(JST)は電波時計、携帯からの時報、GPSの時刻表示などより得る。記録式のストップウォッチ(註2)を用いると一人で測定ができる。
・理科年表は世界時 0 時の値なので均時差、太陽の赤経、赤緯(d)の値はそれぞれ内挿して用いる。天測暦の場合は付随の補間表を用いる。
・観測地の緯度(φ)は1/25000の地図かGPSより求める。

A高度法(Any altitude method)
 天体の高度(h)と赤緯(δ)、観測地の緯度(φ)の3要素を用いる。太陽を経緯儀の望遠鏡の視野の中央に入れた瞬間の高度を記録する。

   cosA=(sinφsinh-sinδ)/(cosφcosh)

・方位角(A)の正負は視太陽の時角(t)の正負と同じである。解の正負は関数電卓の表示では明らかにならないが、実測で正負の判定に迷うことはない。
・太陽の高度は大気差の補正が要る。ラドーの表か、略算式を用いるとよい
  (註3)。他の数値は@と同様にして求める。
・高度法は必ずしも正確な時刻測定を要しない点で@の時角法より作業が容易だが、@より誤差を生じ易い。

  時角法・高度法ともに、測定日のデータを事前に準備すれば、現地での作業時間は1時間余りである。筆者は速算表を作成して主に時角法を用いている。この場合そのまま経緯儀を利用すれば子午線の長いラインを平面上に容易に描くことができる。また壁面の方位も容易に求めることができる。大きな水平型あるいはアナレマチック型などで、設置作業中に微調整ができない場合は、とくに有用である。

(おわりに)
 以上が昼間に地上の子午線すなわち真南北線を求める天測の概略である。その他に太陽を用いる簡易測定法として南中時刻を利用する方法や、円の中心に鉛直棒を置く方法はよく知られている。さらに子午線を求める方法として、恒星(とくに北極星)の天測、磁石コンパス(偏角の修正を要する)、ジャイロコンパスを用いる方法などがある。
 筆者の知る限りでは、方位盤は磁北を指していることが多い。一般に磁石コンパスを用いる場合、地磁気偏角を修正してもなお正確な子午線を見出すのは難しい。方位盤の設置にも、任意の時刻に測定できる天測を活用するとよい。
 この様な天測は初歩的な天文計算の応用にすぎないが、日時計愛好者の方々に知られることが少ないと思い、あえて紹介を試みた。

(註1)安価で加工の容易な太陽用金属フィルター膜が国際光器から入手できる。着色がなく自然な太陽像を見ることができる。
(註2) セイコーシステムウォッチS129
(註3)「天体の位置計算」長沢工 p. 97 1985年 地人書館


(参考文献)
「天文計算入門」新装版 長谷川一郎 1996年 恒星社
「Practical Astronomy with your calculator」 3rd ed.
        P.D.Smith 1988年 Cambridge Univ. Press
「理科年表」 当年度版 国立天文台編 丸善
「天測暦(Nautical Almanac)」 当年度版 海上保安庁水路部編 日本水路協会


 本文は日本日時計の会会報誌 「ひどけい」 2000年12月第2号に掲載されたものです。

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