ドイツの日時計(4)
Sundials in Germany(4)


 ドイツ計時学会日時計部会発行の日時計カタログによると、現在約7,500個の日時計が登録されています。ここでご紹介するのは、一昨年ドイツの日時計仲間の案内で訪れることのできたミュンヘン、ランドスート、ブレーメン、ビーレフェルトの日時計のうちの一部です。ヨーロッパの中でも、フランス南東部(プロバンス)、イタリア北西部(ピエモンテ)、オーストリア西部(チロル)、スイス、ドイツ南部(バイエルンなど)のアルプス周辺に広がるこれらの地方は、日時計が多いことで知られています。古い日時計が修復されて、今でもその美しさを保っている例がたくさんあります。

1.ギリシャ・ローマの日時計
 ミュンヘンのドイツ博物館にある展示モデルです。ギリシャ・ローマの時法は日の出から日の入までを12等分する不定時法によっています。北ヨーロッパなどでもローマの影響が及んだ城塞跡で発見されています。同じ不定時法でも、夜明けから日暮れの、薄明の始まりから薄明の終わりまでを明け六・暮れ六として昼夜の境とした江戸時代の不定時法とは同じではありません。

2.ペトルス・アピアヌス
 ドイツの数学者で天文学者・宇宙誌家として知られる、ペトルス・アピアヌス(Petrus Apianus 1495〜1552)の作品と云われています。鮮やかな彩色が施されていますが、回廊が増設されたため陽の当たらぬ日時計になっています。視太陽時、不定時法、イタリア時法(日の入を日始とする定時法)、バビロニア時法(日の出を日始とする定時法)、黄道12宮、太陽高度、太陽方位、の七種類の線が描かれています。日時計はその製作原理を天文学に拠っており、日時計製作は天文学者の大切な仕事でもありました。

      
    1.ギリシャ・ローマの日時計、展示用モデル        2.トゥラウスニッツ城、ランツフート(Landshut)    
       ドイツ博物館、日時計の庭
(Sonnenuhrengarten)                         

3.機械式懐中時計の調整
 16・17 世紀頃に日時計がどのような用途に使われたかが分かる挿絵です。3-1では若い貴婦人が、日時計が正午になるのを見て手元の機械式懐中時計の時刻を調整しようとしているところです。3-2でも懐中時計をもった3人の紳士が正午計を見上げています。お金持ちの中産階級にも懐中時計が普及を始めていましたが、一日に一回は時刻の調整が必要だったようです。

                    
       3-1. ヒュールスマン博物館発行のカタログの挿絵      3-2." La Gnomonique Pratique"
               ビーレフェルト(Bielefeld)                セレス(Celles)の著作、巻頭の挿絵   
              

4.教会や市庁舎の日時計
 教会の機械時計と併設された日時計です。市庁舎にも同じ例が見られます。この日時計の用途も前の挿絵と同じように時刻の調整に用いられていました。教会や市庁舎の機械時計は市民に時刻を知らせる大切な役目を担っていましたが、あまり正確ではなかったようです。精度の高い平均時を刻む機械時計の出現は19世紀になってからです。

5.ヒュールズマン博物館(Stiftung Huelsmann)
 ヒュールズマン博物館に展示されている携帯用日時計です。15・16世紀にドイツの商工業の中心として繁栄したニュールンベルクやアウグスブルクの製品です。面白いことにこの両市は携帯用の機械式懐中時計の中心的生産地でもあったのです。晴れた日には日時計を、曇った日には懐中時計を使ったのかも知れません。

      
         4.マーチン教会、ランツフート           5.ヒュールスマン博物館、ビーレフェルト

6.多面型日時計
 ブレーメンのフォッケ博物館(Focke Museum)の庭に移設された8面体日時計です、底面を除いて7面に日時計のラインが入っています。このような多面型日時計は17・18世紀頃のヨーロッパの庭園装飾として流行った時期があり、とくにイギリスに多くの作品が残されています。

7.フレスコ画と日時計
 修道院のフレスコ画と日時計です。製作年度は古いのですが、最近見事に修復されて製作当時の輝きを取り戻しました。ランドスート(Landshut)の美しい町の中には数多くの日時計が残されています。ヨーロッパで多く見られる日時計は垂直型です。ほとんどの場合、真南を向いているわけではありません。壁の向きに合わせてラインを描いてあるというわけです。垂直型は水平型にくらべると、よく見える、汚れにくい、日当たりを得やすいなどの特長があります。日本でもっと作られてよいと思います。

      
      6.フォッケ博物館、ブレーメン(Bremen)             7.シトー会修道院、ランツフート
                                     
8.日時計の復元
  第2次大戦で教会は灰燼に帰し、教会の建物とともに新しく復元されたと聞いています。中世のままのラインが施されています。この場合、日時計の示す時刻から、現在の時計の時刻を割り出すのはいささか煩雑です、ヨーロッパ中央標準時との経度差、均時差、夏の前後のサマータイムの三つの要素を修正してやっと時刻を割り出すことができます。現代人は如何にも人工的な時刻制度の下に暮らしているということかも知れません。

9.指時針は人
 アナレマチックダイアル(Analemmatic Dial)と云われる日時計で、ドイツ博物館の展示用モデルです。季節によって指定した位置に立つと、日時計の楕円と影の交点が視太陽時の時刻を示すことから、日本ではカゲボウシ日時計と称されています。あまり知られていませんが、平面に描くだけで地表に突起物が無い日時計を作ることができます。

      
        8.フラウエン教会、ミュンヘン                   9.日時計の庭、ミュンヘン

10.東南面垂直型
 これはほとんど東を向いた日時計です。しかし真東を向いているわけではありません。その場合の時刻ラインは平行線になります。季節線がはっきりと描かれています。上の曲線が冬至線、中央の直線が春秋分線、下の曲線が夏至線です。現在新しく作られる日時計は、少なくともこのように三本の季節線を描き入れることが多いようです。日時計は最も古い利用法として、太陽高度を測ることにより、時刻よりもまず季節を知るために用いられたと云われています。夏至線上の時刻表示はサマータイムの一時間進めた時刻表示となっています。

11.画はアヴァンギャルド
 正午の位置の当たりに8の字状のラインが入っています。これは英語ではアナレンマ(Anallemma)と称しています。これは日時計から標準時を読み取るための役割をするものです。
 視太陽と平均太陽の南中時刻の差のことを均時差と称しています。これを毎日の太陽高度とともに線を描いてゆくと一年間でこのような8の字を描くと云うわけです。日時計は視太陽時を示すものですから、日時計の示す時刻に、均時差を修正すると地方平均時を読み取ることができます。修正分を読み取る方法として、日時計面上にアナレンマを用いるか(日本では例が非常に少ない)、数表やグラフを用います。
 日時計にはもう一つ明石以外の土地では標準時子午線との経度差という問題があります。例えば平均太陽が東京で正午(南中)を迎えても、日本標準時の正午になるには、つまり明石で南中するにはさらに19分ほどかかります。日時計で日本標準時の読みとりを可能にするには、このようにラインや数表に工夫が要ります。

        
        10.市街中庭、ランツフート                   11.住宅地、ミュンヘン

12.ベルンハルト日時計
 ドイツのマーチン・ベルンハルトさんの創案の日時計です。100個あまりが広く欧米に設置されており、欧米では非常に珍しいケースです。作品毎に新しい工夫とデザインを目指すのが日時計作家の誇りだからです。中央の指時針(ノモン:gnomon)に工夫があり、時刻が読み取りやすい、取り扱いに手間がかからない、直読で比較的精度よく標準時を示している、などの特長があります。

13.日時計と銘
 集合住宅の一角にある日時計です。明快な図柄になっています。季節毎の太陽高度に合わせて黄道12宮(Zodiac)のラインが入っています。日時計面には特定の日付を示すラインを入れることもできます。また、面上や台座に銘(Motto)がよく入れられます。写真の銘は旧約聖書、詩編90-4の引用です。「主の御目のもと、千載も昨日過ぎし日の如し」。

         
      12.日時計の庭、ベルンハルト日時計             13.集合住宅、ミュンヘン


 2001年6月9日、明石の天文科学館で行われた日本日時計の会第二回総会の際に、一般向け講演の資料とするためドイツの日時計の概略を短くまとめたものです。ドイツの日時計(1)(2)(3)と内容・写真ともに重複します。

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