ドイツの日時計(3)
 Sundials in Germany (3)


 日本を発つ前に連絡を受けていたミュンヘン付近の天候の長期予報は、必ずしも芳しいものではなかった。しかし、予報と異なりミュンヘン滞在中の4日間は申し分のない快晴に恵まれた。

13)住宅団地、Munchen、垂直型
 交通の多い道路に面している。極めて明快な図柄である。時刻線に経度差補正は入っていない。したがって12時の線が太陽南中線である。アナレンマによってヨーロッパ中央標準時の正午を読み取ることができる。アナレンマの周囲にあるギリシャ数字は1月から12月までの月の表示で、アナレンマの読み取り位置を示している。正午以外の時間帯では、12時の時刻線との差を考えればよい。ミュンヘンでは10月中過ぎ頃は、ちょうど標準時子午線との経度差と均時差が打ち消し合い、視太陽時はほぼ標準時を示す。そのため今の時期は上の写真の通り、12時の時刻線とアナレンマが重なっている。黄道12宮の境界を示す曲線が入っている。12個の絵図は左回りに描かれており、アナレンマの月の表示とは下の半分は一致していない。10月17日であることから、円盤の小孔より成るノーダスの影が正しく天秤座とさそり座の境界線の手前にある。
 水平や垂直の平面型の場合、設置場所や用途によって時刻線以外にどのような情報(Dial Furniture)を描くかを決める。アナレンマ、春秋分線・冬至線・夏至線等の季節情報を入れるのが標準的な現代の日時計である。平均的な太陽赤緯を用いて特定日の線を入れることもできる。日時計面や台座に銘(Motto)を入れるのも興味深い。写真の銘は「主の御目の下、千載も昨日過ぎし日の如し」。旧約聖書、詩篇90−4の引用である。

ミュンヘン郊外へ車を走らせると、畑と牧場と林が織り成す美しい風景が広がっている。集落ごとの教会の尖塔がよく見える。尖塔の形がそれぞれに異なっているのが、青空に映えて印象的である。

14)聖ヴィギィリウス教区教会、Bruchmuhl、垂直型
 礼拝堂の壁にあり、機械時計は尖塔の中ほどにある。墓地に囲まれた中、快晴の空にひときわ白く浮き上がる壁に、キリスト教の聖人をモチーフにしたフレスコ画と日時計の取り合わせが美しい。残念なことに鉄棒からなるノモンが曲がっている。フレスコ画修復中の出来事らしい。フレスコ画や教会の建物の様式については私の筆の及ぶところではないが、後で見る北ドイツの教会の印象とは明らかに異なっている。日時計についても同様である。
この辺りから南を望むと、空気が澄みきった条件のよい時は、アルプスの山々を望むことができる。フランス南東部(プロバンス)、イタリア北西部(ピエモンテ)、オーストリア西部(チロル)、スイス、ドイツ南部(バイエルン)、アルプス山脈の周りに広がるこれらの地方は日時計が多いことで知られている。

ミュンヘンからベルリンへ飛び一泊後、ドイツ新幹線ICEでブレーメンへ向った。駅にてクリーグラー氏の出迎えを受ける。

15)植物園公園、Bremen、水平型、1955年
 日時計愛好者の基本書として知られるフランスのロール氏の著書(Rene R J Rohr, Les Cadrans Solailes, 1965年, Gauthier-Villars)に紹介されており、日時計愛好者に馴染みが深い。典型的な御影石製の水平式日時計である。1時間毎の時刻線のみがある。黄道12宮を示す周囲の絵は単に装飾的であって、黄道12宮の境界を示す太陽赤緯線は無い。この日時計は経度差補正がなされている。日時計の示す時刻に、水平面の南側に彫られている均時差修正用のグラフの示す値を加減して、ヨーロッパ中央標準時を得る。当地の緯度と夏至の頃を考慮して、4時から21時までの時刻線が刻印されている。
 同じ公園内のすぐ近くに、花日時計がある。木製のノモンに、花の列を時刻線に見立てたものである。経度差補正が入り、さらにサマータイムのための1時間進めた時刻表示である。花を愛で、日時計に親しむのは夏季だけであるとの考えからである。均時差表はない。この季節は均時差の振幅も小さく、この種の日時計の精度からいって不要だからである。

 博物館の中庭に製作年代の古い頁岩製の複合型日時計が3個ある。市内にあったものを移築しノモンを新たにしている。博物館訪問の際新聞社の取材を受けた。

16)フォッケ博物館、Bremen、複合型、1617年
 3個日時計の内の1つ、8面体日時計である。8面体の底部を除いて7面に日時計がある。7面それぞれの面のライン構成は複雑である。写真に見えている西面垂直型は、定時法線、不定時法線、黄道12宮の線から成る。ノモンの影の先端を見ると、太陽南中を0時とした定時法の視太陽時は2時前、日の出を0時とし日の入りまでを12等分する不定時法で8時過ぎを指す。10月20日頃の黄道12宮として、天秤座とさそり座の境界線の手前を指している。他の面も刻印が薄れてきているが、バビロニア時法の線、イタリア時法の線も加わって多彩である。

17)フォッケ博物館、Bremen、複合型
 同じ中庭にある。4面垂直型日時計の4角柱の上に12個の星型のひだを持つコマ型日時計がある。帰国後、数ヶ月経ってからのことである。写真を見ながら、あれこれ想いを巡らしていると、この日時計が台座の4面垂直型と共に南北逆に取り付けられていることに気付いた。写真の影や他の日時計の位置関係から間違いない。クリーグラー氏を通じて、移築に関わったフォルンホルツ氏(Vornholz)に指摘をしたところ、事実その通りであった。近い内に修正工事をしたいとのことである。コマ型日時計は赤道環型と同じくノモンは天の北極を指し、その面は赤道面と平行であって北を向く。設置工事をした石工氏は日時計であるから星型の面は太陽(南)に向くはずだと思い込んだのであろう。

18)ヒュールズマン博物館、Bielefeld
 ブレーメン滞在中の一日を利用して、南へ鉄道を乗り継いで片道2時間、ビーレフェルトへ向った。人口30万余の工業都市。駅から旧市街を通って博物館へ向う道筋は、静かなたたずまいの小都市といった印象である。ここではニュールンベルク製やアウグスブルク製の携帯用日時計を数多く収蔵しているヒュールズマン博物館を訪れるのが目的である。ニュールンベルクやアウグスブルクは、15・16世紀におけるドイツの商工業の中心として繁栄した都市である。15世紀の終わり頃から、磁針を組み込んだ象牙製や真鍮製の携帯用日時計が両市で大量に作られている。ミュンヘンのドイツ博物館の携帯用日時計の大部分は、この両市で作られたものである。その頃には現在知られているほとんどの種類の日時計が考案されており、携帯用日時計についても様々な試みがなされている。興味深いことに、両市は当時の機械式携帯時計の中心的生産地でもあった。
 館長のグルンドマン氏(Grundmann)から歓迎を受けた。氏自身もドイツ計時学会日時計部会の会員である。展示品の説明を受け、写真を撮る。さらに収蔵庫の奥の珍品を見ることができたのは、同好の誼みであろう。
 象牙製携帯日時計6点はそれぞれ手の平に収まる大きさで、携行用に折りたたむことができる。磁針、水平日時計、垂直日時計、黄道12宮の曲線、イタリック線、バビロニック線、主要都市の緯度一覧等を精巧に彫り込んである。その他、占星術との関連が推測されるもの、簡単な暦計算ができる機能を組み込んだものもあり、その内容は一品ごとに異なっている。真鍮製の日時計は象牙製より大きく、窓際などに置いて用いたものである。

 ドイツでの日程を終わり、早朝ブレーメンからハンブルク、次いでヒースローへ。ロンドンでは博物館にある携帯用や室内用の日時計を見るのが主な目的である。野外型の日時計も5個所訪れた。ドイツでは晴天に恵まれたが、ロンドンの3日間は雨の毎日であった。雨に煙るヒースローを後にし、1999年10月25日、快晴の成田に降り立った。

 ドイツ計時学会発行の日時計カタログSonnenuhren, Deutschland und Schweizによると、そこに登録されているドイツ国内の日時計は6,050個とある。最新の資料では、7,496個となっており、今後登録数は増えていくことが予想される。今回我々が訪れたのは、ミュンヘン、ランドスート、ベルリン、ブレーメン、ビーレフェルト、ロンドン及びその周辺である。博物館収蔵の携帯型及び展示用の日時計を除くと、ドイツでは54個所、ロンドンでは5個所の野外の日時計を見ることができた。ドイツの日時計については登録数に比べてわずかな数に過ぎないが、実質一週間の日程で広く散在する日時計をこれだけ見ることができたのは、案内に立っていただいた方々のお陰である。

19)コッホ夫人宅にて
 左からマイヤー氏、筆者、小野氏、コッホ夫人。マイヤー氏とコッホ夫人にはミュンヘン滞在中、付き切りで案内していただいた。故コッホ氏はドイツ計時学会日時計部会草創期の中心人物の一人、マイヤー氏はコッホ夫人の幼なじみである。ランドスートではクネシュ博士、ビーレフェルトではグルンドマン氏、ブレーメンではクリーグラーご夫妻に大変お世話になった。この他にも多くの方々のご好意をいただいた。心から感謝申し上げたい。

 今や、太陽を眺めて時を思うことはない。しかし、太陽と共に一日が巡り、季節が巡ることは古えより変わることはない。天文家のみなさんに、日時計に託された想いを垣間見ていただければ、この上ない幸いである。


本文は東亜天文学会の会報誌「天界」に「ドイツの日時計(1)、(2)、(3)」と題して投稿し、2000年7月、8月、9月号に掲載された内の9月分です。一般向けに配慮して若干削除・変更してあります。

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