ドイツの日時計(2)
Sundials in Germany (2)


 ミュンヘン、南ドイツの中心都市、アルプスを挟んでオーストリア・イタリアに隣接するバイエルンの王都。訪れたのは世界最大のビール祭りオクトベル・フェスト(Oktober Fest)が終わったばかりの頃であった。

7)住宅地の一角、Munchen、垂直型
 比較的新しい作品である。アナレンマの位置が標準時正午。時刻線には経度差補正が入っている。太陽南中を示す視正午は垂直の破線で示してある。垂直型には標準時との経度差補正を入れるのが一般的である。均時差の読み取りがアナレンマとの関連で比較的容易になるからである。その場合は南中線を入れることが多い。太陽の南中は正午についての自然な感情に結びつくものであり、実際的にも日の出・日の入りの間のほぼ正確な中間時刻になる。新しい作品にしては、サマータイムの時刻表示をしていないのが興味深い。日時計作者の主張であろう。すでに実施中のヨーロッパでもサマータイムの是非についての議論は依然としてあると聞く。
 アナレンマに沿って、黄道12宮を示す記号が入る。それぞれの曲線に挟まれた部分を、先端のノーダスから容易に読み取ることができる。現代の日時計でもこのような黄道12宮の線を描くことは珍しくない。季節情報と考えればよい。壁画が興味深い。日時計面に描かれた絵としてはたいへん珍しい部類に属する。何者かが「時」の網の目の中で囚われの身になっているかのようである。

8)フラウエン教会、Munchen、垂直型、1996年
 1514年教会建設と同時に設けられ、以後何度も修復されながら新しく作り替えられた歴史を持つ。1944年、教会は戦災に会って破壊された。現在の日時計は1996年新たに設けられたが、中世のままの視太陽時を基準としたラインのプロットであり、標準時を読み取ることはできない。製作にあたって、今回ランドスートの日時計を案内していただいた専門家のクネシュ博士(Knesch)の助力の申し出が断わられたと聞く。博士なら、標準時の読み取りを可能にするライン設計も考慮されたはずである。
 10月16日、すでに秋分より3週間余り経過しているにもかかわらず、ノモンの先端の小球よりなるノーダスの影が偶然にも春秋分ライン上にある。よく見るとノモンが支持具の位置から下へ折れ曲がっているのが原因であることがわかる。視太陽時は上の半円に並んでいるギリシャ数字によって表示され、ノモンの投げかける影のラインより読み取る。下の表示盤は黄道12宮の線、不定時法の線、イタリア時法の線、バビロニア時法の線から成っており、先端のノーダスの小球の影の位置から読み取ることができる。
 この日時計は視太陽の時角を示しているので、ノモンの影の位置から現在の時刻を調べるのはいささか煩雑である。経度差、均時差、サマータイム、の3つの要素を考えてやっと手元の腕時計の時刻を見出すことができる。現代の時刻制度が如何に人為的なものであるかを考えさせられる。

 ミュンヘンのドイツ博物館、上階のベランダスペースに日時計の庭(Sonnenuhren- garten)がある。現在考案されている日時計のほとんどについて、大理石板などを用いて、注意深く作成し展示してある。主としてオピッツォ氏(Opizzo)による作品である。展示の作品の中から4点取り上げたい。

9)ドイツ博物館、Munchen、サクソン日時計
 イギリスではサクソン日時計(Saxon dial)と称しているが、ドイツでは教会法日時計(Kanonische Sonnenuhr)、フランスでも同じく教会法日時計(Cadran Canonial)と称している。中世の教会や修道院の日課の時刻の基準を示す計時用具として使われていた。その意味ではドイツ語やフランス語の名称の方がこの日時計を理解しやすい。現存しているものは少ない。南向き垂直の面に8等分した線があり、ノモンは面に対して垂直に出ている。左右の水平の直線は日の出と日の入りを示し、垂直の線は視正午すなわち太陽南中を示している。8等分した線の間は等時的ではない。線の先端に近いところのクロスバーはその時刻の宗教上の重要性を強調するためである。サクソン日時計は昼間を8等分するものが多いが、単に4等分や、4等分の線に一部中間線を入れることもある。クロスバーは4等分した線上にあることが多い。
 同種のより簡易な作りの日時計が現存している。イギリスでは教会の壁面によく見られることからミサ日時計(Mass Dial)又は壁面を引掻いたような作りであることから引掻き日時計(Scratch Dial)と称している。ヨーロッパ大陸においても同じのものがあるがイギリスに比べて確認されているものが少ない。サクソン日時計やミサ日時計は、北ヨーロッパへもたらされたローマの日時計の末裔である。

10)ドイツ博物館、Munchen、アナレマチック日時計
 アナレマチック日時計(Analemmatic Dial)と称している。ヨーロッパの公園などで、多くはないが珍しいものではない。ドイツ博物館のものは展示用の小型のモデルに過ぎないが、この興味深い日時計が一般に知られることが少ないのであえて取り上げた。ヨーロッパ大陸でも同様の呼称である。関口直甫著の「日時計百科」(1980年, 恒星社, p.163)ではカゲボウシ日時計と称している。
 季節によって指定した子午線上の位置に垂直な棒を立てると、その時の棒の影と楕円との交点が正しく視太陽時を示す。一般的には垂直の棒の代わりに人が立ち、人の影が届く範囲を考慮して作られることが多い。「カゲボウシ」と称する所以である。この場合平面上に描かれるだけで、地表に何ら突起物の無い日時計ができる。公園や学校の校庭などで、石を配置するだけよい。経度差補正は容易だが、直読式の均時差補正の方法については議論がある。この日時計の歴史は比較的浅く、文献に出てくる時期から考えると西暦1600年前後に考案されたらしい。呼称の由来・補正の議論等については、ネットで詳しい文献が入手できる。→アナレマチック日時計
 
11)ドイツ博物館、Munchen、ベルンハルト日時計
 ドイツのマーチン・ベルンハルト氏(Martin Bernhaldt)作である。一見なんの変哲もなさそうなデザインであるが、日時計として優れた工夫がなされており、100余りが広くヨーロッパに設置されている。このような全く同一デザインの、いわゆる標準型の日時計がこれだけの数作られるのは、欧米の日時計の世界では希有である。作品毎に新しい工夫とデサインを常に目指すのが日時計作家の誇りと自負だからである。
独特の形状の中央のノモンは均時差の年周変化を考慮してあり、年2回夏至と冬至の時に取り替えるだけで、直読で時刻を読み取ることができる。均時差の分だけ毎日回転修正を要する一般の赤道環型に比べ手間がかからない。コマ型の円盤タイプは夏には読み易いが、冬になるとノモンの影が円盤の裏側になり読み辛い。この日時計は冬の間でも正面からの読み取りを可能にするために、上部を大きくカットしてあり円盤を内側に湾曲させてある。
 精度は1〜2分。一般に精度の高い精密日時計(Heliochronometer)はこのような赤道型の直読形式がほとんどである。この日時計は実用性の高い日時計として、標準時の時刻は読み取りやすいか、取扱いに手間はかからないか、正確さがある程度確保されているか、これらの時として背反する諸条件をバランスよく、高いレベルで満たしていると思う。なお水平型や垂直型など、補正表によって標準時を読み取るタイプの日時計については、精密日時計と称するのは適切ではない。

12)ドイツ博物館、Munchen、ギリシャ・ローマの日時計
 ギリシャ・ローマ時代に用いられた日時計の中で、最も初期に考案されたものの復元である。ギリシャ・ローマの日時計については様々な呼称があるが、ギブスの分類(S L Gibbs, Greek and Roman Sundials, 1976年, Yale University Press)では、球面型(Spherical)、円錐型(Conic)、平面型(Planar)、円柱型(Cylindrical)の4種がある。時刻線は当時の時法にしたがって、日の出から日の入りまでを12等分する不定時法によっている。
 左側がHemispherium、右側が Hemicycliumである。時刻線と季節線(冬至線・春秋分線・夏至線)のプロットはそれぞれ全く同じである。考案された時期は必ずしも明らかではないが、HemispheriumはBC4世紀頃といわれている。それぞれのノモンの取り付け位置は異なっている。右側のHemicycliumは軽量化のためにHemispheriumの不要な部分をカットし、雨水の排出を容易にしてある。実際には垂直ではなく、夏至線に沿って斜めにカットするのが通例であり、球面を確保しつつ、不要な部分をできる限り削り取り、台を含めて装飾的な石彫を施すのが一般的である。


本文は東亜天文学会の会報誌「天界」に「ドイツの日時計(1)、(2)、(3)」と題して投稿し、2000年7月、8月、9月号に掲載された内の8月分です。一般向けに配慮して若干削除・変更してあります。

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