日時計の楽しみ(2)
 Delight in sundials (2)


1.矢橋日時計
 矢橋徳太郎氏の創案になる。緯度45度の垂直面ライン(水平面も可)で、ある点からの等距離のとき等角近似になる点を見出したもの。ライン設計は常に同じですが、日本標準時を示すために設置の際、日本標準時経線・緯度45度の地点の接平面の鉛直方向と平行に時刻表示面を向けます。緯度35度前後の日本に設置する場合は、垂直面の上方が少し北に傾くことになりますので、地上で目線より少し下に据え付ければ、かえって見やすくなります。加えて、東京あたりに設置すると南面より少し西向きになります。時刻表示面は等距離・等角(近似)ですので、均時差を回転修正すれば日本標準時をほぼ正確に直接表示できます。国内に100基以上設置されていますが、原理がよく理解されていないためか、均時差表による回転修正がなされずに放置されていることが多いのが残念です。緯度35度の垂直面でも、さらによく近似した等距離・等角点があります。
 1-1 は1999年4月29日正午を示しています。下にあるのは正午計、小さな光の点がアナレンマの線上にあることが分かります。光の点の位置から平均的な暦の日付を読み取ることができるようになっています。 1-2 は矢橋日時計では珍しい水平型。日時計面は、日本標準時の経度135度ではなく、経度120度・緯度45度を基準とした設計のため傾きが大きい。生前、矢橋氏にお尋ねする機会がなかったので、経度120度を採用した理由は推測する他ないのですが、恐らく雨水の滞留を防ぐためと思われます。        
     
                
       1-1 岐阜天文台の矢橋日時計               1-2 近江神宮の矢橋日時計 大津市
           羽島市 1971年の設置

2.瀬戸市のアナレマチック日時計(または、かげぼうし日時計・楕円日時計)
 愛知県瀬戸市の市民公園にあります。日本国内では珍しいのですが、ヨーロッパでは必ずしも珍しいものではありません。説明板によれば設計・監修は宮島一彦氏となっていますが、平沢康男氏も相談を受けた旨を東亜天文学会の会報誌「天界」に書いておられますので、真偽のほどは不明です。時刻表示は楕円上にあり、季節によって指示された子午線上の位置に垂直の指時針をおくと、その影と楕円の交点が視太陽時を指します。指時針の代わりに人が立ってもよく、その場合は地平面に何ら突起のない日時計を作ることができます。設計計算はそれほど難しいものではありません。コンクリート面にペイントするだけでも出来ます。石やブロックなどを使って庭の芝生の中に作ることもできます。→アナレマチック日時計

         
     2-1 日時計の全景、台の上面にある           2-2 当日の位置に北面して立つ。
                                      経度差補正済みですが、均時差表が見あたらない

3.アナレンマ(Analemma)
 平均時の特定時刻に、均時差を横軸、太陽の赤緯を縦軸にとった場合の太陽位置のグラフ上の表現。背の高い 8 の字を描く。特定の点を特定の日付に対応させることができます。インターネット上の写真は天球上の太陽を一年間固定カメラで撮ったもの。同じ写真が Jean Meeus の ”Astronomical Tables of the Sun, Moon and Planets” の表紙になっています。精密タイプの日時計では全面に描くこともありますが (3-1)、一般には12時の近くに標準時正午を示すために描かれることが多いようです。
 この言葉はギリシャ語の「支えるもの、支柱」を意味する言葉から来ており、後にラテン語の中で「日時計の台座、支柱」を意味するようになりました。紀元前1世紀のローマの Vitruvius の「建築書」では、正射影による日時計制作の作図法の意味で用いられており、その後、日時計制作の作図用の道具・装置の意味でも用いられました。16世紀頃に考案されたと思われる前述のかげぼうし日時計をアナレマチックと称するのは、古来からの作図法である”アナレンマ”によって作図・制作されたことに由来しており、8 の字の意味する所とは関連はありません。
 この 8 の字の曲線は、18世紀の中頃、平均時正午を示すためにフランスで用いられるようになり、以後平均時(あるいは標準時)を示すために広く日時計面に描かれるようになりました。これをアナレンマと称するのは英語特有の用法であって、他のヨーロッパ諸国で用いられているわけではありません。どのような経緯で英語の中で用いられるようになったかについては、諸説はありますが明確ではありません。フランス語では平均時子午線(Meridienne de temps moyen)、ドイツ語では均時差曲線(Zeitgleichungskurve), イタリア語では双葉曲線(Lemniscata)、と称しています。→アナレンマ & アナレマチック日時計

                
      3-1 上原秀夫氏の精密日時計の一部         3-1 キリスト教の聖地 Oropa の日時計
           志段味西小学校、名古屋市                北イタリア、Biellaの北


4.世界一の日時計について
 世界一の日時計はどれかという議論は、ときどきドイツのRoth氏が主催する日時計メーリングリストの議論になります。日時計の大きさを比較する基準は何なのか、時刻表示面の占める面積なのか、ノモンの地表からの高さなのか、ノモンを含む構造物の容積なのか、容易に結論は出ないようです。見上げるような大きな日時計を作ることはたいへん興味深いことなのですが、そのような場合、日時計としての機能と正確さを充分発揮させることは、たいへん難しいことです。日時計にとって美しさと機能が大切であって、大きさを競うことに何の意味があるのか、という主張があるのはまことにもっともなことです。ここではそれはさておくとして、美並村(4-1)、けいはんな(4-2)、ディズニーパジャラ、など、様々な日時計がその大きさを主張しています。ある意味では、地球が最も大きい日時計かも知れません。そのことを実感できるような日時計もあります。Wengerさんの日時計です。私はまだ実物を拝見していませんが、京都の方のお宅にあります。

      
4-1 美並村日本まん真ん中センター、建物が日時計        4-2 けいはんなプラザの日時計
           岐阜県郡上郡美並村                     京都府相楽郡精華町

5.日時計は方位計
 携帯型日時計を水平に保ち、腕時計の時刻から当日の均時差・経度差を加減して視太陽時を計算し、日時計のノモンの影が視太陽時を示すような方向に置くと、日時計の中央の12時の線が子午線(真南北線)上にあります。このような日時計による方位測定は、天文航法として船上などで六分儀を用いてする方位測定と原理的には全く同じものです。移動する船では刻々と地磁気偏差の値が変わりますし、それぞれの船固有の磁気の影響もあって、磁石コンパスによって船の進行方位を維持するには、天測によって真北をもとめ磁気偏差の値をときどき知る必要があったということです。現在ではGPSを用いて地球の球面座標上の位置を、ジャイロコンパスを用いて方位を、それぞれ知ることができます。
 5-1 は明石での「日本日時計の会」総会の際に、日時計工作教室で用いたペーパークラフトです。明石の緯度34度39分を基準としています。30分毎の時刻線の他に、春秋分線と夏至・冬至線が入っています。
 5-2 は アメリカ製のアリダード付簡易経緯儀 Astro Compass です。経緯儀として用いることもできますが、説明書によるともともと航空機の天測方位測定に用いられた器械のようです。説明書どおりに、当地の緯度・当日の太陽赤緯・視太陽の時角にあわせ、アリダードを太陽の方向に向けると、下の方位盤から方位を読み取ることができます。器械の方位と当地の緯度・当日の太陽赤緯を固定し、時角の目盛りを回転させてアリダードを太陽に向けると、視太陽時を読み取ることができます。かって、零戦などの戦闘機にも天測方位盤が載せられていたということを聞いたことがありますが、どのようなものであったかは分かりません。

             
5-1 水平型日時計(ペーパークラフト)、中央の直線は春秋分線   5-2 Astro Compass、2002年7日29日14時頃
   左上方の曲線は冬至線、右下方の曲線は夏至線。          アリダードは太陽に向いている

6.ローマ数字と日時計
 文字盤がローマ数字の時計を見てください。ほとんどの場合 I II III IIII V VI VII VIII IX X XI XII となっているはずです。I(1) V(5) X(10) を用いて、同じ数字が並んだときは加算を、大きい数字に対して小さい数字が右側に着いたときは加算を、左側に着いたときは減算をするルールになっています。現在では 4 9 14 19 ・・・ の場合は減算ルールを用いて IV IX XIV XIX ・・・ とするのが一般的です。しかし、時計の場合は伝統的に 4 の場合に IIII を用います。これについては、14世紀の頃フランスのシャルル5世が宮殿の塔に作った時計の文字盤を見て、時計師に 「自分は5世である。文字盤の IV の字は V から I を引くので不吉であるから、IV の字は IIII にするように。」 と命じたという逸話が残っています。確かに、IX(9)は減算ルールを用いていますので、IIII(4)を用いるのは表記のルールの統一がとれていません。しかし、減算ルールが一般に用いられるようになったのは中世以降で、それまでは 4 9 14 19 ・・・ は加算ルールを用いて IIII VIIII XIIII XVIIII ・・・ の方が一般的でした。もともと表記に統一したルールがあった訳ではなく、 IIII はローマ数字として表記の誤りであるとはいえません。さらに、ローマ数字には L(50) C(100) D(500) M(1000) などがあり、時計の文字盤以外に年号の表示などに、現在でも用いられることがあります。1999 は MCMXCIX ですが、古典的な加算ルールを用いて MDCCCCLXXXXVIIII でも差し支えありません。加算ルールのみを用いた表記を、今でも見かけることがあります。
 上野秀恒氏の写真集 「時の表情」 に出てくる野外時計で、ローマ数字表記が明らかな 59 の時計の内、IIII を用いているのは 53、IV を用いているのは 6 となっており、伝統派が優勢です。ヨーロッパの塔時計などの野外時計はどうなっているのか残念ながら資料はありません。一方、手元にあるイタリアとフランスの日時計の解説書や写真集をそれぞれ5冊ほど眺めてみましたが、ローマ数字を用いる場合 IIII より IV が圧倒的に優勢でした。日時計は機械時計にあらずと言うことでしょうか。(→ ローマ数字と時計数字)

              
       6-1 教会の大時計と日時計                  6-2 シンプルで美しい
            Fossano、イタリア                        Bellino、イタリア


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