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星の王子様

おはなし;砂漠で飛行機が墜落し、必死で直そうとする私の前に現れた、星から来たという王子様。広い砂漠の中で、王子様はいったい何を探していたのか。

す;いかんいかん、読み返したら、いいところがいっぱい出てきて、どこにポイントを絞ればいいのかがわからなくなってしまった。

ふ;すももさんは、これをいつごろ読んだの?

す;いつごろだったかな...あ、蔵書票が貼ってある。へんなハンコまで押してあるよ。たぶん、消しゴムを削ったやつ。蔵書印のつもりなんだろうな。

ふ;うわ、すごい。鉛筆で手書きよ。

す;このきっちりした字は、中学生くらいだな。私はませてたから、小学生かもしれない。

ふ;わたしも中学生くらいの時だったと思うな。はじめて読んだときは、それまでに読んだ本と、まったく違っていると感じたのを覚えている。

す;どのあたりが?

ふ;話がどうなっていくかがわからないの。それまでに読んだ本は推理小説とか冒険小説とか、話がたどりつく先が、それなりに見えてたんだけど、このお話しは、どこに向かっていこうとしているのかがまったくわからなくて、読んでいてとても不安だった。

す;なるほど。それはおもしろいね。行き着く先が予測できない怖さを味わっていたんだ。あなたもかなりませてたんだね。

す;さて、星の王子様といえば?

ふ;やっぱり、ゾウを呑んだうわばみかな...私は初めてこの本を読んだとき、王子様が「ぼく、ウワバミにのまれてるゾウなんか、いやだよ。」っていうところで泣けてきちゃったの。ああ、わかってくれたんだ、と思って。

す;なるほど...

ふ;身構えていたのに、きょうはここで突っ込んでこないの?

す;ここで突っ込んだら敵の思うつぼだからね。

ふ;でも、素敵に真剣な顔をしてたよ。

す;おまえ、熱があるんじゃないのか。

ふ;すももさんこそ、顔が赤いよ。大丈夫?

す;......

ふ;(勝ったわ...珍しく勝ったわ...ジーン)あとは点灯夫のところが好き。街燈の火をつけて、消して。自分のやるべきことに対して、生真面目に一つのことをやり続けている姿勢が好き。他の人から見たら、ばかみたいかもしれないけど。

す;変えていこうとする姿勢はないけどね。

ふ;みんながみんな、そういう姿勢でなくてもいいんじゃない?約束事を守っていこうとする人たちがいて、初めて世の中って動いていくもんなんじゃないの。

す;そ、そうだね(何か、今回は妙に押されるな...)。私はキツネが印象に残ってたな。

ふ;あ、わかる気がする。自意識が高いし。

す;なーんや、それ。そうじゃなくて、自分から友達じゃないっていっておきながら、別れるときに泣きそうになったり、王子様が自分のバラを大事に思う気持ちを、いつの間にかちゃんと理解して、本当に大切なアドバイスをしたり。すぐに人を好きになって、相手のことを一所懸命、理解しようとして、でも相手は自分を振り向いてはくれなくて。損ばかりしているけど、相手が幸せでいてくれれば、世界全体が喜びにさざめいて感じられる、なんて。どんな状態にあっても、人生を最大限に楽しんでいけるなんて、けっこうすごいよね。

ふ;それって、すももさんのキャラクターにそっくりじゃない。

す;え?そうなの?

ふ;そうよ

す;(がーん。知らなかった...今回押される理由がわかったような...)

ふ;バラの花たちはどうなの?

す;垣根に咲いているバラには何の罪もないし、王子様もそれはわかっているのに。自分のバラのために、バラたちにひとこと言わなければならなかった王子様。ここはどうなんでしょうね。自分の好きなものを守るためには、他の同じようなものを貶めなければいけないのか...

ふ;でも、私は逆に、ここのおかげで王子さまが近くになったように感じたよ。

す;ほほう、なるほど。

ふ;空から来た王子様だって、人間的な感情から全く自由なわけじゃないってことが出てたから。ふわふわして足が地に着いていないように見えた、砂糖菓子みたいな王子様は、ここで初めて感情移入できる、実体を備えた王子様になったのよ。ずっときれいなだけのお話しなら、何度も読み返したりしたくならないわ。

す;この少し前には、ぼくの星はちっぽけで、大したものを持ってるわけじゃない、えらい王様にはなれない、なんていうことで泣いたりしてるからねえ。でも、このエゴイスティックところを持っているからこそ、王子様は、大人も子供も、人種も性別も関係なく、世界中の人に支持されているのかもね。

ここで乱入。

い;何をしてるの?

す;星の王子様の感想文を書いてるんだよ。おお、ちょうどいい。君たちの感想も聞かせてくれ。

ふ;星の王子様は二人とも読んだよね。どこがおもしろかった?

な;あのね、ぼくはね、「そいつぁ、帽子だ。」と「違うよ、ぼくが欲しいのはゾウをのんだうわばみじゃない」っていうところ。ぜんぜん違うよねえ。それと「こいつぁ箱だよ。その中にきみの欲しい羊が入ってるよ。」「ありがとう。」っていうところ。

い;ぼくはバオバブかな...

す;3本の?

い;そう。

す;なるほど...

子供のころの素直な感想が聞けました。これで、思春期を迎えたら、もう一度読ませて、感想を聞いてやろうと思うすももでした。

す;この世で一番美しく、悲しい風景という章は、いらないような気がする。

ふ;付け足しみたいに、唐突に読者への語りかけになっているから?

す;くどくど、という感じがしてしまって...もっとうまく言える言葉が見つかったら、また追加します。今回はこれまで。

ふ;はい。私の王子様。

す;...ゴンッ。

ふ;わあ、すももさん、大丈夫...(舞台はにぎやかな音楽とともに回り始め、後ろから得体の知れない歌手が現れる...)

おしまいに。

す;実は私も、ゾウを呑んだうわばみが、すぐにわかる大人になろうと思っていました。その願いは、かなりかなっているようです。でも、純真な心の維持には失敗したので、わかってあげられても、そのまま表には出せません。ひねくって返してしまい、理解している分、かえって鋭い矢になって刺さってしまうことが多いようです。

ふ;わたしなら大丈夫。どーせ、わたしはにぶいから。ちょうどいいわー、なんて。冗談はさておき(冗談?)、突き刺さっても、悪意がある、ないはわかるから。子供はほんとに好きねー。子供の親が心配するくらい、なつかれるし。でも、見てると子供を理解しているっていうより、精神年齢が近いのでは、っていう感じがするのも少し心配。わたし?わたしは大人だから。でも、私も、うわばみだけは、ゾウでもゴリラでもトラでもアリでも、わかる人間でいたいですね。

好きなフレーズ;

「キノコなんだ。」
 王子さまは、もうまっさおになっておこっていました。
(王子様の言葉をいいかげんに聞き流していたぼくに対する、王子様の非難の言葉)

「そう、ぐずぐずなさるなんて、じれったいわ。もうよそへいくことにおきめになったんだから、いっておしまいなさい、さっさと!」(バラの最後の科白)

「...かんじんなことは、目には見えないんだよ」(キツネのことば。定番ですが)

「子どもたちは幸福だな」と、スイッチ・マンがいいました。(子どもたちが何をほしいか)

「砂漠が美しいのは、どこかに井戸をかくしているからだよ......」(あまりにも定番ですが)

星の王子様/サン=テグジュペリ 作・絵 内藤濯 訳/岩波書店・岩波少年文庫

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