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あのこ

おはなし;
−わたし、馬と話ができるのよ.........。
はじめまして、どうぞよろしく、というかわりに、あのこはそういった。

戦争中、疎開してきた子どもたちの中にいた、雪のいろをした馬と暮らした記憶を持つあのこ。みんなは、太郎のうちの、気の荒い、びっこの馬とあの子を話させることにした。ただ一人、あのこの味方になれたはずの太郎は、なぜかあのこをかばうことができなかった。ようやく太郎がほんとうのことを、みんなに告げることのできた時、あのこは遠くに行ってしまっていた。

す;宇野亜喜良さんの絵と、今江祥智さんの静かなお話がぴったりと合った、少し切なくて、とてもきれいなお話。

絵本などにもなっているようだが、宇野亜喜良さんの絵はイメージを送る力が強すぎるので、どうだろうか。2、3枚の絵で、自分なりのイメージを拡げた方が、ずっと楽しめるお話である。

自分に勇気があれば、守れたはずのものを、勇気がなかったために守れず、永遠に後悔をし続けなければならなくなってしまった人間の話。そこここに、性的なものを感じさせるモチーフがあり、色恋を感じてしまうかもしれないが、断じて初恋のお話などではない。性的なモチーフは、太郎の喪失感を強めるための巧妙な仕掛けである。満たされることのない分、永遠の劫火となって、ちくちくと太郎の心を苛み続ける、ひょっとしたらあり得たかもしれない未来の断片である。

好きなフレーズ;
 あのこは、ひとこともいいわけせずに、くるんとふりむいて、太郎を見上げた。
 (しってる。おまえはちゃんと馬と話したよ.........)
 そういおうと思いながら、打たれた手のいたさにひるんでか、太郎はなぜか口をつぐんだままだった。
あのこ/今江祥智;作 宇野亜喜良;絵/童話カーニバル3・少年少女の宝石箱/理論社

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