地震が来たら危険な学校

優先度調査と危険箇所

  文部科学省が学校耐震化事業を推進するにあたり、大きな役割を果たしたのが優先度調査でした。優先度調査のあり方とその中から見えてくる学校施設の危険な箇所を具体的に見てみましょう。

文部科学省
耐震化推進計画と
検討委員会設置求める

 平成15年3月議会で、吹田市の学校施設の耐震性があるとされるのは、「約21%」であることが当局により明らかにされました。平成24年文部科学省調査では、市町村別データも公表され、吹田市の学校施設耐震化率は、57,97%となっています。9年間の耐震化の成果は、37%にとどまりました。
 文部科学省は、各自治体が学校施設の耐震化推進計画を策定することを求め、教育委員会、財政部局、防災部局の行政関係者に加え、建築計画に関わる学識経験者、設計実務者、教職員等で構成する検討委員会の設置等を実施して危険性の高い対象からの着手を提案していましたが、現在に至もそのような検討委員会は設置されていません。

成果あげた
耐震化優先度調査

 全国的な学校施設の耐震化と耐震診断が自治体の姿勢により大きな格差が生じている中で、文部科学省は多くの学校施設を抱える自治体が今後取り組みを強化する上で、人的被害の回避と建物等の被害を最小限にするために危険度の大きな学校施設から耐震化に取り組むために耐震化優先度調査に取り組むことを提起し、耐震診断実施率引き上げに大きな成果をあげました。
 優先度調査の内容を見れば、危険な学校施設がどのようなものか、具体的に私たちにも分かります。  

 二次診断等の実施が
 次の課題に

 耐震化優先度調査は、1件あたり数10万円程度で済むものでしたが、本格的な耐震工事を行う前提になる二次診断等の費用は数百万円単位の支出となります。
 また、急速な耐震診断件数の増加は、耐震診断を行う構造診断士不足と耐震診断の判定機関の繁忙となり、地方により深刻な問題となっています。

耐震化優先度調査の進め方

 優先度調査の流れを見ることで、建物耐震の内容を理解することが出来ます。

その1 旧さと階数で5分類

 優先度調査では、基本分類としてその対象建物を建築年と階数を組み合わせて、(I)〜(V)の5段階に分けます。(I)が最優先度です。下の分類表によると、吹田市の千里ニュータウン以外の学校の多くは、4階建て校舎ですから、基本分類ですでに(II)になってしまいます。

 

その2コンクリート強度調査

 専門協力者会議が諮問した方法で、コンクリートのサンプルを抜き取り調査機関で圧縮強度を測定します。こればかりは、費用をかけて調査する必要があります。基本分類にAであれば優先度を1段階下げ、Cであれば1段階上げます。

 コンクリート強度試験と評価基準

コンクリート強度試験は、各階、各工期別にそれぞれ3本のコアを抜き取り、圧縮強度を調べグループ平均値が一番低い数値と設計基準強度を比較します。
 A 1.25以上 B A,B以外 C 1.0以下 と3段階に評価しますが、圧縮強度が1平方センチ当たり125Kg以下か、基準強度の4分の3以下の場合は、それ以外の評価にかかわりなく最優先度とします。

強度調査のために校舎から抜き取られた
 コンクリート・コア
コンクリート・コアの抜き取りは、鉄筋を切断しないように超音波探深機を使って慎重に行われます。
 写真左は、ジャンカと呼ばれるコンクリートからセメント分が抜けてしまった部分で、本来の強度が無いため、強度調査には向きません。
 コンクリート打設時の施工管理が悪く、ジャンカが多くなると建物の耐震性ばかりか耐久性にとっても深刻な影響があります。

 
ジャンカ

その3 老朽化調査

 鉄筋が錆びて露出していたり、錆び汁、コンクリートの浮き、剥離はないかと、コンクリートのひび割れの幅と発生している箇所の重要性等を目視で確認記録し総合的にABCの三段階に評価します。ひび割れ(クラック)の幅は、1ミリ以上は、C評価となります。建物を少し離れて眺め、発見できるものは、1ミリ以上あると考えられます。その2の評価を同様にABCで再評価します。

 

幅1ミリ以上のクラックが一目で確認出来ます

その4 構造架構調査

 片廊下以外の建物は、B評価。一番多く見られる片廊下形式の校舎について柱と梁のあり方を調査評価します。はり間方向で、1スパン架構が無く、かつ、桁行き方向で、スパン長がすべて4.5m以下のものは、A評価。はり間方向で半数以上が1スパン架構で、かつ、桁行き方向のスパン長が半数以上6m以上をC評価。AC以外をB評価とします。その3の評価にさらに評価を加えます。

 
 

柱A.Bと梁Dで1架構となります。Bが無く、柱A.Cと梁DEと構成されるなら、1スパン架構となります。桁行き方向で、柱C、Fと梁Gで構成する架構で、C、F間に柱1本が有ればスパン長4mとなります。

その5 耐震壁の配置を調査

 下階壁抜け架構の有無とはり間壁の間隔、妻壁の有無を調査します。上階に耐震壁が有りながらその真下の階に耐震壁が無いものを下階壁抜け架構といいます。下階壁抜け架構が無く、かつ、はり間壁の間隔が9m以下で、両妻壁があるものをA評価。下階壁抜け架構が有り、かつ、はり間壁の間隔が12m以上、又は、妻壁なしの場合C評価。A、C以外をB評価。

 上の架構図で、教室と教室の間の壁をはり間壁、柱A、Bの間の壁を妻壁と言います。吹田で見られる開放廊下の校舎では、教室と教室の間の壁は、ブロック壁で、耐震壁でありません。

その6 想定震度はどうか

 建物が立地している想定震度により、評価。震度5以下は、A。震度6弱は、B、震度6強以上をC。吹田の場合、東南海・南海地震では、震度6弱、宝塚ー高槻構造線系地震と上町台地断層地震では、震度7,震度6強となっています。
 阪神・淡路大震災の発生まで、西日本の多くの自治体は、地震発生への危機感が薄く、地域防災計画においても震度5までしか想定していなかったため、急いで想定震度を改訂しました。

   優先度調査について詳しく知りたい方は
文部科学省のページへ
 

 阪神・淡路大震災の教訓は、学校施設が決して安全でないことを知らせてくれました。
 昭和56年改訂の新耐震基準に合っているか、適合しながらも被害を受けた建築物の共通点が、明らかになっています。

長方向の揺れに弱い校舎

 阪神・淡路大震災では、同じ敷地内でありながら校舎の向きにより被害に大きな違いがありました。
 窓が連なり耐震壁が少ないため、一般的に校舎は長方向の揺れに弱いと言われています。
 耐震化優先度調査の評価基準に照らして見ると問題点が浮かび上がってきます。
  吹田の校舎の特徴である開放廊下校舎は、柱の数が少なく1教室の全面がサッシのみであるため、 耐震構造壁が長方向にありませんし、柱と柱の間隔が8m近くあります。一般的な校舎よりも、より長方向の揺れに弱いという指摘があります。

 
   

 

柱と柱の間隔は8m近くあります。対象の建物の教室等の半数以上がこういう状態ならばC評価になります。

 

ピロティは挫屈しやすい



東佐井寺小学校

 耐震壁のないピロティは、地震に対して弱い。
水平方向に60〜80、上下方向に30と言われる阪神・淡路大震災の揺れで、ひとたまりもなかったのがピロティを持つ建物です。1階柱が突き上げと揺れにより座屈し、上階が崩れ落ちる被害が多く見られました。 優先度調査では、下階壁抜け架構としてC評価になります。

   

ベランダにコンクリートの梁がない
鉄の支柱で落下を支える?

 運動場側のベランダを支えるコンクリートの梁がないためにベランダが下がり始め、鉄製の支柱で支えています。すでにこの状態になって10年以上が経過しています。
 1秒間に50を超える振動の破壊エネルギーが観測された阪神・淡路大震災級の地震なら、一気に落下する可能性が大です



岸部第二小学校(古江台中管理棟も)

建物をつなぐ渡り廊下

 建物同士をつなぐ渡り廊下は、個々の建物の揺れる周期が異なるため、建物に挟まれる形で破壊されるケースが多くありました。(神戸の震災被害資料のページ参照

 

 

捻れに弱い吹田の校舎
ピロティあるのはなお危険

 1階を駐車場にするために柱だけにしたマンションが、1階の柱が破壊され1階が押し潰される事例が大震災では見られました。吹田の学校建築の特徴は、教室の四隅にしか柱がないものが多い点です。教室の隔壁は、ブロック積みのところが多くマンションに比べて捻れに対してより弱いと言えます。
 校舎の一階部分がピロティになっている場合は、さらに危険であることは明らかです。




山田中学校

プレキャストコンクリートの屋根の体育館も最優先

 阪神・淡路大震災でも大きな被害を受けたのが、軽量プレキャストコンクリートの屋根を持った体育館でした。耐震化の優先度は最優先とされています。
 内部の天井を支える鉄骨があり、屋根の外観が一見して写真のような場合、該当すると考えられます。

ずさんな工事
増築階の柱のズレ

 三階部分から上の増築部分の柱は、10近くも右にズレているのがわかります。外壁全体にクラックが入り、この校舎は、雨になると廊下にどこからともなく雨水が浸透してきますが、コンクリートの高齢化が強度不足を招いていないか心配です。


   豊津第二小学校

阪神・淡路大震災で
170枚のガラスが割れた学校

 吹田市の防災マップで強震地帯と表示された地域に建つ山田第一小学校は、全体のガラス被害の10%にあたる170枚のガラスが割れました。現在、管理棟校舎の建替え工事が進行中です。

知られていない大震災での
学校施設の被害

 阪神・淡路大震災で、学校は地域住民のなくてはならない存在でした。自治体が大震災への準備がほとんど出来ていない条件の中、あまり知られていないことですが、震災直後から学校職員は、不眠不休の活動で大きな役割をはたしました。しかし、学校施設が被ったダメージは、予想外に大きく深刻なもので、災害発生時間がずれていれば児童・生徒の被災はもっと多かったと推定されます。

 

阪神・淡路大震災での神戸市の学校被害報告へ

   

 東海地震や関東大震災の再発に備える関東地方、東海地方では、公共施設の耐震改修工事は、終了していますが、大阪では阪神・淡路大震災以降に初めて公共施設の耐震改修工事が始まりました。
 国は、公共施設の耐震化に関して右のような基準を明らかにしています。

耐震安全性の分類/

「官庁施設の総合耐震計画基準」


 東京圏、名古屋圏、大阪圏及び地震防災対策強化地域にある指定地方行政機関入居施設       I 類 A 類 甲 類
 指定地方行政機関のうち上記以外のもの及びこれに準ずる機能を有する機関入居施設        II 類
被災者の救助、緊急医療活動、消火活動等のための施設  病院、消防関係機関のうち、災害時に拠点として機能すべき施設

                 I 類 A 類 甲 類
 上記以外の病院、消防関係施設  II 類
避難所として位置づけられた施設  学校、研究施設等のうち、地域防災計画で、避難所として指定された施設

                  II 類 A 類 乙 類
危険物を貯蔵又は使用する施設  放射性物質又は病原菌を取り扱う施設、これらに関する試験研究施設   I 類 A 類 甲 類
 石油類、高圧ガス、毒物等を取り扱う施設、これらに関する試験研究施設               II 類
多数のものが利用する施設  文化施設、学校施設、社会教育施設、社会福祉施設等            II 類 B 類 乙 類
その他  一般官庁施設(上記以外のすべての官庁施設)

                   III 類 B 類 乙 類

構造体の大地震に対する耐震安全性の目標

I 類  大地震動後、構造体の補修をすることなく建築物を使用できることを目標とし、人命の安全確保に加えて十分な機能確保が図られている。


II 類  大地震動後、構造体の大きな補修をすることなく建築物を使用できることを目標とし、人命の安全確保に加えて機能確保が図られている。


III 類  大地震動により構造体の部分的な損傷は生じるが、建築物全体の耐力の低下は著しくないことを目標とし、人命の安全確保が図られている。

建築非構造部材の大地震に対する耐震安全性の目標

A 類  大地震動後、災害応急対策活動や被災者の受け入れの円滑な実施、又は危険物の管理のうえで、支障となる建築非構造部材の損傷、移動等が発生しないことを目標とし、人命の安全確保と二次災害の防止が図られている。

B 類  大地震動により建築非構造部材の損傷、移動等が発生する場合でも、人命の安全確保と二次災害の防止が図られている。

建築設備の大地震に対する耐震安全性の目標

甲 類  大地震動後の人命の安全確保及び二次災害の防止が図られていると共に、大きな補修をすることなく、必要な設備機能を相当期間継続できる。


乙 類  大地震動後の人命の安全確保及び二次災害の防止が図られている。
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総合耐震等に関する調査研究(平成8年度技術研究会)
「官庁施設の総合耐震計画基準」関連資料
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国土交通省官庁営繕部 平成13年施策資料(ネットで紹介中)

 
 
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