コンクリートの高齢化と安全環境

 深刻化するコンクリートの高齢化

 東京都の緊急調査で700校の安全性について調査した結果、2000年8月時点で50校近い学校校舎の使用停止を決め、耐震補強工事や建て替え工事を年次的に進めています。
 文部科学省でも2003年4月15日学校施設の耐震化推進に関する調査研究報告書(報告書)を発表しました。
 西日本では、JR山陽新幹線のトンネル・コンクリート落下事故でも明らかにされたように、工事仕様書に定められたコンクリート打ち継ぎ工法が多くの現場で守られていなかったことなどが当時の工事関係者の間から証言され、緊急対策工事が行われたにもかかわらずいまだに危険性が完全に解消されていません。JR山陽新幹線では、高架部分でのコンクリートへの樹脂注入工事が早期の段階から取り組まれてきましたが、それにもかかわらず高架部分でのコンクリート落下事故のニュースがたびたび報道されてきました。
 コンクリートの強度不足と高齢化の進行が、思いの外深刻であることが判明しました。
 既存建物の老朽化を考えるとき、コンクリートの高齢化は重大な事態を生み出しつつあることが明らかになっていますが、正しい知識と認識がまず必要と言えます。

 コンクリートの高齢化の原因

  1. コンクリートのがん 
    アルカリ骨材反応
  2. 中性化による表面からの劣化 
    酸性雨による促進
  3. 塩害 海砂の無防備な使用
  4. 施工不良と水セメント比
 一般には、海砂の利用が良くないという認識が持たれていますが、コンクリートの高齢化の原因は上記の要因が複合して発生していると考えるのが正解です。
   

アルカリ骨材反応

 セメントのアルカリ性と骨材として使われる特定の砂利に含まれる鉱物が、水分の介在により反応し膨張する。その内部からの力によりコンクリートが破壊される現象。1950年代にアメリカで発生が報告されたが、建築専門家の間では、日本では発生しないものとしてあつかわれていた。1984年にNHKが、建築後10数年のマンションの老朽化を「雨漏りマンション」と報道し、名前が一般 に知られるようになった。1982年、大阪の阪神高速道路公団堺線の橋脚において発見され、行政レベルでも発生していることが確認された。2003年3月、国土交通省はコンクリート脚縦軸方向の鉄筋破断がアルカリ骨材反応によって発生していることを明らかにした。
  次項の中性化も合わせ、詳しいことを知りたい人は、リンクページから「補修物語」へ。

 

   

中性化と酸性雨

 

コンクリートの微細な空隙やクラックから、空気中の二酸化炭素(CO2)が雨にとけ込んだり、酸素が内部に入る。雨水に溶けることでいわゆる炭酸水を形成しセメントのアルカリと中和反応して中性化させる。セメントが中性化すると表面 からボロボロになるだけでなく、鉄筋を錆びさせない強アルカリの作用も失われるため、鉄筋の発錆→鉄筋の膨張→コンクリート表面 の爆裂→露筋(錆びた鉄筋が見える)と進行する。厳密な施工が行われていた第二次世界大戦以前のコンクリート構造物では、問題にならない緩やかな劣化とされていた。

塩害 海砂の無防備の使用

 大きな川を持たない西日本を中心に特に問題になっている。1970年代からの建設ブームのため川砂が採り尽くされ、瀬戸内海を中心とした海砂がコンクリートに使用された。塩抜きと呼ばれる撒水による除塩が現在では義務づけられているが、100%は難しく、海砂中の塩化物が作り出すアルカリが、アルカリ骨材反応の劣化を増幅させる。

水セメント比と施工不良

 コンクリート中のセメントと水の比率は、セメントと水の化学反応に必要以上の水を入れることで、ドライアウトと呼ばれる早期硬化不良や異常収縮により0.3mm以下とされる許容を超えたクラック(いわゆるひび割れ)、コンクリート中に微細な空洞が発生するなどし、強度不足と耐久性不足を起こす。1960年頃から広く使われるコンクリート打設時のポンプ施工は、パイプの目詰まりを防いだりする目的でコンクリートの流動性を持たせるために余分な水を加えることが多く見られる。
  鉄筋にどれだけのコンクリートが覆っているか、鉄筋の接合不良、鉄筋の量 的な不足(手抜き)と併せて、現場施工管理の問題もあります。
  作業性をよくするためコンクリートに水を追加したときは、セメントも追加する必要がありますが、厳密にやられていないのが現状です。アメリカでは、コンクリートを打設する現場に、第三者の鑑理官が立ち会うことが制度化されるほど重視されています。

コンクリート高齢化調査行われず

 上記の4つの複合原因によるコンクリートの高齢化の進行は、安全が第一に求められる学校施設においても例外ではありません。建築物の耐久性向上に関しての研究は、建設省の手によって長期総合プロジェクトとして1980年まとめられました。
  国土交通省大臣官房・官庁営繕課は、その成果 を生かす施策を進めていますが、残念ながら郵便局舎の耐震補強工事など一部を除いて、建築業界も行政も新築建物には大きな関心を払いますが、既設建物の維持管理への関心も予算配分もおざなりになっているのが現状と言わねばなりません。
  学校施設の維持管理についても、行政全体の姿勢が反映し、人員配置、予算配分の面で見るとまだまだ問題を抱えています。
  吹田では、コンクリートの高齢化に関する調査は、耐震診断の対象になった17校と大規模改修工事の対象になった3校において完了していますが、残りの学校ではまだ未実施で、予定も公表されていません。

千里ニュータウンの学校のページに、コンクリートの高齢化を示す写真が掲載されています。


 小林一輔東京大学名誉教授は、コンクリート構造物の一斉崩壊という深刻な事態が迫りつつあることを警告しています。鉄筋コンクリートの構造物が、本来の物理的耐用期間よりもはるかに短い年月において老朽化するという由々しき事態が、私たちの耳目を集めるようになったのがこの10年程のことでしたが、専門家の間では多様な原因が指摘されてきました。
 とりわけ高度経済成長期以降に建設された鉄筋コンクリート構造物が建造過程において問題を内包しながら造られ、それが現在においても根本的には問題点を解消しないまま続いていること、つまり深刻な事態が拡大再生産され続けていることに警鐘を鳴らしています。
   小林一輔著「コンクリートが危ない」岩波新書・刊

被害校舎は特定年代に集中

 多くの専門家が危惧した問題は、1975年1月の阪神・淡路大震災の被害調査によって明らかになりました。震災直後からのマスコミ報道などで学校が多くの被災者の避難場所・災害センターとして機能したことから、学校施設の被災状況はほとんど報道されることはありませんでした。
 しかし、被害調査の結果は危惧が現実のものであることを証明していました。被災学校は、建設された時期が特定の時期に集中していたのです。

震度7地域に167棟

1960年から1975年の建物に被害多く

 大震災の時、震度7といわれた幅数長さ20数の細長い地域には、167棟の学校建物がありましたが、その内、倒壊した建物は5棟、中・大破した建物は30数棟に上りました。
  倒壊建物の内4棟は、1960年から1975年にかけて建築されたものでした。中・大破した建物でも、同じ期間に建築されたものは20棟を上回りました。

築後55年以上の建物で

中・大破はゼロ

 建築後55年以上経過していた建物は、8棟ありましたが、中・大破したり倒壊したものはなく、全く無傷の建物も1棟ありました。同じ学校敷地内でも、大正期に建てられた校舎が中破程度でありながら、昭和40年前後に建てられた校舎が倒壊・大破するケースもありました。
 1982年の新耐震基準制定後に建築された建物でも、中・大破以上の被害を受けたものはありませんでした。第二次世界大戦以前の公共建築物の施工レベルの高さを証明する事例だといえます。
  昨年後半に、文化財としての保存・活用が話題になった滋賀県豊郷町の豊郷小学校は、現在の予算規模で40億円をかけて当時の最高の技術と資材を投入し建設されました。60年経過した今も適切な維持管理補修と1億円規模の耐震補強工事で、今後も役立つ学校教育施設として再生出来るものです。

 

傷んだ壁式工法校舎の外壁

 鉄筋の錆の力で表面のコンクリートがはじき飛ばされ、鉄筋が露出しています。この校舎は壁式工法ですから、耐力壁が大きく損傷していると言えます。

 

落ちてきた

ポンピング片

 鉄筋の腐食によりはじき飛ばされたコンクリート。鉄は錆びるときに体積が大きくなり、コンクリートの表面をはじき飛ばすため、「爆裂」(ポンピング)と呼ばれます。
 鉄筋がコンクリート表面から浅すぎると強度の問題があるだけでなく、コンクリートのアルカリ性による防錆性能が低下しますが、このポンピング片を見るとかぶり厚さは1.5pもありません。

 

ひさしの部分も露筋

 体育館の庇部分を見上げると数本の露筋した部分が確認できます。

豆板

 見た目がお菓子の豆板の様なコンクリートの不良個所。別名、ジャンカとか、「す」、「あばた」とも呼ばれます。
 セメント分が不足しているため、強度は低下しています。通常は、コンクリート表面の現象として見られるとされますが、この豆板では、壁の厚さの半分近い深さが10にも達しています。
 原因としては、軟らかいコンクリートを使ったために硬化するまでに比重の重たい骨材とセメントが材料分離をおこしたり、締め固め不良や型枠からのモルタルの流失が考えられます。

 耐震補強対象の体育館の壁

   

 

 1階天井に突き出た鉄筋

鉄筋施工不良には、鉄筋の絶対量の不足や配筋のアンバランス、結合方法の不適、太さの不足、コンクリートかぶり厚不足などがあります。
 右の写真は、改装中のトイレの天井にコンクリート面から突き出た主鉄筋ですが、上記のいずれにも当てはまらないお粗末きわまりない施工だといえます。
 改修作業者は、明らかな鉄筋不足を指摘していました。

   

 

重大な事例発生

 国土交通省は、直轄管理する一般国道26号線堺高架橋(大阪府堺市)と阪神高速道路東大阪線(同・東大阪市)コンクリート橋脚において、アルカリ骨材反応によるコンクリート鉄筋が橋脚縦軸方向で破断する重大な事例が発生していたことを明らかにするとともに、2003年3月18日付けで「道路橋のアルカリ骨材反応に対する維持管理要領(案)」を関係方面に配付しました。

 

写真右

 コンクリート橋脚のアルカリ骨材反応の現場写真。日本道路公団などでも比較的軽微なアルカリ骨材反応が確認されており、継続的な観察と必要に応じた詳細調査と補修工事を行っていますが、具体的な対策としては、樹脂の注入と表面保護工事により水分の浸入を止めるようにします。

 

阪神・淡路大震災の学校被害参考資料 (日本建築学会学校建築委員会耐震性能小委員会・「文教施設の耐震性能に関する調査研究報告書」平成8年3月)

 

大阪市で最大級の崩落事故発生

後日、市議会への報告では崩落壁の重量 は6t

   
 

   
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