高密度観測網が発災のたびに地震メカニズム解明進む

  整備された観測網

 1995年1月17日の阪神・淡路大震災から日本の地震観測体制は、世界的にも類のない密度で整備されてきました。

 1993年にスタートし精度を高めてきた国土の衛星利用による精密観測網(国土地理院)、地殻深くの常微動をとらえる高感度地震観測網(防災科学研究機構)、広い周波数の地震波を捉え大地震の検知から遠く離れた震源からの揺れまで検知する広帯域地震観測網(防災科学研究所)、全国各地のいろんな地盤上での実際の揺れの強さを計り地震動の破壊力を観測する強震度観測網(防災科学研究所と気象庁等)、トラフの動きを海底光ケーブルと複合的観測装置により直接観測する地震・津波観測監視システム(気象庁・大学・防災科学研究所・海洋研究開発機構、海上保安庁)、深海底を数千m掘削し直接地質資料を集めたり観測機材設置作業を行う世界最大級の科学掘削船ちきゅう(海洋研究開発機構)、大都市圏・ひずみ集中帯地殻構造探査(大学)、活断層調査と評価、地下水観測、歴史地震調査(産業技術総合研究所)といずれも、第一級の基盤的調査観測が行われています。

 発災の度に地震メカニズム解明が高い精度で進みます。

海洋調査で活躍する海洋研究開発機構ちきゅう

地球深部探査船 ちきゅう 2005年就航

5万6,752t 全長210m

電子基準局衛星使い国土を監視

 

  国土地理院 地殻変動を観測 

(1) 衛星を利用した地殻変動監視

 1993年から設置が開始された全国 1240ヶ所の電子基準点がGPS衛星(アメリカ)からの信号を受け、その基準点の上下、水平の変動をオンラインでつくばにある国土地理院測地観測センターに送信する連続観測網が、稼働しています。誕生後、測量基準やカーナビ、携帯端末などの民間位置情報サービスへの支援や天気予報に活用されるなど重要性が高まってきました。

 アメリカ軍が運用するGPS衛星に加え、グロナス(ロシア)ガリレオ(EU)準天頂衛星(日本)を利用したGNSS・Global Navigation Satellite System全地球測位航法衛星として飛躍的に精度を高め、その誤差はセンチ単位になるほどに進化しつつあります。

 

 街灯のような外観 電子基準点

 電子基準点は、高さ5mほどで多くは左写真のような姿をしています。内部は、受信機、通信装置、無停電電源、バックアップバッテリー、傾斜計、ヒーター、避雷針などが入っています。公園や学校などの公共施設内に多くがありますが、道路脇などでも見受けられます。全国的には25km間隔をおいて、東海地方などは15km間隔で設置されています。

 左写真の電子基準点は、大阪府箕面市立第二総合運動場グランド北端にあるものです。

電子基準点 箕面市第二総合運動場電子基準点の地図記号

電子基準点No.940067

これは94型です

 

大きく動いた地殻

 

 左の地図は、震災後に国土地理院が発表したものです。

 島根県三隅局を固定局にした各電子基準点の水平動きを示しています。最大の動きは、宮城県石巻市牡鹿半島の牡鹿局で、5.3m水平移動し、1.2m沈下しました。

 海上保安庁の調査では、70km沖合の震央は東南東方向に23m水平移動、5〜7m隆起しました。

 海洋科学技術開発機構の調査では、日本海溝縁で40〜50mの超巨大すべりと7〜10mの隆起があったことが明らかにされています。

GPS電子基準点地殻変動観測網が捉えた東北地方太平洋沖地震による地殻変動

高感度観測網全国に800ヶ所 地底の微震動捉える

 

  地下深い断層の動き捉える

 

 (2) 高感度地震観測網 Hi-net

 地表面の影響を受けない深い観測井戸に高感度観測機器を設置し、これまで観測できなかった地殻の常微動まで捉えることにより、地中深くの断層に沿った動きまで観測できる。 これまでの学説では、数百℃の高温のため30kmより深い部分でのストレスは無いと考えられていましたが、高感度地震観測網が整備されるにつれ、35km近い深さまで微震動が発生していることを捉えました。

 南海トラフ震源域が陸側に拡大されたのは、南海トラフのプレートのストレスが内陸側地中深くまであり、都市部に近い地域まで強震動域となり得るからで、Hi-net観測の成果と言えます。

 微細震動が捉えられることで、深部の断層に沿った地殻変動の姿が判って来ました。

 2000年から2007年にかけて全国800ヶ所に整備されました。既設の大学の観測点は避け、20km間隔に深さ100m以上の観測井を掘りました。

 201m〜300m約350本、日本最深の観測井は3,510mで埼玉県にあります。大阪府下の最深井は、北港舞洲にあり、2,000mに達します。

 日本の地震観測は、現東京大学においてイギリス人ジョン・ミルンが観測機器そのものを開発し、はがきによる地方の地震記録収集や地震被災地の現地調査、鉱山学者ならではの地質調査など現在の科学的手法の元になる形でスタートしました。地殻に達するほどの深い井戸を掘削し、底に観測器を設置した観測網を作ることは、1890年代の地震観測以来の画期的出来事と言えます。

観測点地上部
1
 
広範囲地震動波観測は84ヶ所

   地震メカニズムまで探る

 (3)広帯域地震観測網 F-net

 1995年から2005年にかけ観測を始めました。84ヶ所の観測点からのデータは防災科学技術研究所にリアルタイムで届き、気象庁、大学などと共有されます。

 測定周波数範囲を広くとり、大地震の検知から遠く離れた地球の裏側で発生した震源からのゆっくりした揺れまで検知します。この観測網は全世界的な観測ネットワークの一翼を担ってもいます。

 広帯域地震観測網は、地球深部構造の地殻の研究や震源メカニズムの解析に貢献します。観測器の多くは横抗(トンネル)に設置されています。気象庁松代観測所や東京大学地震研究所、京都大学防災研究所は、古くからトンネルを利用した地震観測や地殻歪みの観測を行ってきました。

   大学も34観測点で参加

 F-netの84の観測点の内、北海道大学、弘前大学、東北大学、東京大学、名古屋大学、京都大学、九州大学、鹿児島大学の地震研究所、防災研究所、理学部が設置した観測点は34を占め、国土地理院の1ヶ所以外の残る49ヶ所は、防災科学技術研究所が直接設置、運用しています。

 

 一般には「地震予知」をもてはやす風潮がある中で、総力をあげて科学的解明の手を尽くそうとするこの10数年の調査・探査活動は、ジョン・ミルンが地震調査を始めた1890年以来の画期となる成果を挙げつつあります。トンネル深くの地道な作業に基づく細心の探査・研究活動や若手研究者による全く新しいアプローチの試みから、新たな日本と世界に貢献する成果が生まれ始めています。

 
地盤による揺れの違いと強さを把握し

  その場所の強い揺れを捉える

 (4)強震動観測網 K-net,KIK-net

 全国の1,000ヶ所の地表に設置された強震動観測点と、Hi-net観測点の観測井底と地表に設置された強震動観測点で観測したデータをつくばの防災科学研究所に集め、気象庁を始めとする大学、各機関と共有します。この観測網に接続された観測点は、1,735ヶ所(2012年2月現在)あります。

 

   

 同じ地震でも地盤の状態により地表面の揺れ方は異なります。一般に、地盤が軟らかい程地震の揺れは増幅されます。

 そのため、その地点がどれだけ揺れるか知ることは重要です。事前にその地点の危険性を把握し、土木・建築工事に当たる事前対策をしたり、運用の配慮を行うことが出来ます。

 実際の地震とその被害状態を詳細に調査することで、建物の壊れ方のメカニズム解明や断層破壊がどのように進むかの詳細な解析まで出来ます。

 強震度計は、自治体、高速道路会社、鉄道事業者、NTT各社、ガス会社、電力会社、建設会社が独自に設置するだけでなく、河川・ダム、精密工場、エレベーターなどにも設置され、事業者向け緊急地震速報を補完し緊急遮断、停止システムを構成しています。

 下の図面と3つのグラフは、東北地方太平洋沖地震の本震の揺れを捉えた大阪府下にある強震度計の三成分(南北、東西、上下)がその観測点の地殻構造により、大きく異なることを示します。

 上町台地に比べ、此花区舞洲は、揺れる速度(○○cm/sec)は最大5倍となっています。近くにある大阪府咲洲庁舎は震源から700km離れながら、長周期の揺れが10分間続き、350ヶ所もの破損箇所がありました。

 
地下構造の違いによる地震動の違い
南海トラフを直接観測

  観測基、トラフ直近に配置

 

(5)地震・津波観測監視システム DONET1

 海洋研究開発機構は、8,000mの水圧に耐える容器に、強震計、広帯域地震計、水晶水圧計、微差圧計、ハイドロフォン(超音波水中マイクロフォン)、精密温度計を組み込んだ観測装置20基を海底ケーブルで 結んで、地上局から気象庁、防災科学技術研究所にリアルタイムで送信します。

 2011年8月から熊野灘沖合125kmに総延長250kmケーブルを使って観測網を配置しました。地上局は、尾鷲市三好にあります。地震の発生を震源近くで捉えることは、これまでと比較にならない精度で地震メカニズムを知るデータが得られるだけでなく、より正確な地震速報を10秒以上早く出すことが出来ます。

 電車の運行や精密工場の操業などを緊急停止するための貴重な時間的余裕が生まれます。

 この観測監視システムは、ケーブルをループとして万一の断線事故でのダメージに全損しないようにしたり、個別の観測機器の故障時にも容易に交換出来るようにするなど冗長性確保に様々な工夫が行われています。

 

  2015年DONET2稼働開始

 

 海洋研究開発機構は、南海地震想定震源域の潮岬、室戸岬間の南海トラフに至る紀伊水道・四国沖に、同様な地震・津波観測監視システム(DONET2)を2015年観測開始を目標に事業を進めています。

 海洋研究開発機構・地球深部探査センターが運用する地球深部探査船「ちきゅう」による震源域海底の掘削地質サンプリングやプレート温度連続記録などの調査活動を進め、熊野灘沖では、プレートとつながる巨大分岐断層の存在が新たに直接確認しました。

DOnet1地震津波観測監視システム配置図解

2011年8月稼働 Donet1

南海トラフに直接聴診器をあてる

紀伊水道・四国沖の南海地震海域にも直診
235人最大規模の研究体制

  地質調査のナショナルセンター 

  膨大なフィールド調査と基盤情報 

 

(6)産業技術総合研究所 地質調査総合センター

             

 産業技術研究所の地質関係の研究者は235人を数える陣容を持ち、そこに大学などの教育・研究機関、企業研究所、海外から研修生、共同研究者を加えた研究体制は、世界的にも最大級の組織で名実共に地質調査のナショナルセンターと言えます。同センターが、年次計画でするめるボーリング、反射法地震、音波、重力などの各種探査法を駆使した全国各地で進める調査活動に加え、国、自治体、各種団体からの依頼・協同による調査活動から得られる研究とデーターの蓄積は日本全体の地震研究においても重要視されています。

 1882年(明治15年)に農商務省地質調査所として発足して以来130年にわたる国土の地質調査、研究を元にした膨大なライブラリーを蓄積し、20万分の1全国地質図や活断層地図などのデータベースを提供・公開しています。

 

 内陸活断層に関する精度の高いトレンチ調査と実物標本は専門以外の市民への防災教育にも有用です。

 近年、データーベース整備が進み、広く専門家、防災関係者、国民に公開する態勢が整い、地質図Naviや活断層データーベース、地質標本データーベースなどが公開されています

 わずか数千万年の間にダイナミックな地殻運動により形成された「若い」「複雑な」地殻構造を持つ日本を、弛まず調査、研究してきた成果を最大限生かさねばなりません。 

地図ナビ

地質調査総合センターが提供するシームレス

地質図(地質図Naviより)

 

第11回調査までの歩み

国土交通省ハザードマップ  

ハザードマップを公開している自治体のハザードマップが見ることが出来ます

第11回耐震調査都道府県結果

第12回学校耐震化調査都道府県結果

吹田市の耐震化の遅れの原因は

2013年大阪府下学校耐震化調査

 

 

深刻だった福島第一原発事故 燃料体500トン

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南海トラフ地震被害と減災対策の効果大