死者の差10倍

  中央防災会議・防災対策推進検討会議「南海トラフ巨大地震対策検討ワーキンググループ」は、2012年8月29日、南海トラフ巨大地震の第一次報告で被害予測を公表しました。

 今回の被害予測は、南海トラフに沿った巨大連動地震の発災ケースを東海、近畿、四国、九州の4つのエリアに分け、強震動域を「内陸側にとる」ケースとこれまで同様の「基本」ケースとする被害想定を行いました。被害規模は、発生の季節、時間帯、風、避難のあり方にも大きく影響されることから、これらを条件を加味した精密な予測を行いました。

  4つの被災ケースと条件の違いによる被害規模

(1) 東海地方が大きく被災するケース

 建物全壊 95万4千〜238万2千 死者 8万〜32万3千

(2) 近畿地方が大きく被災するケース

 建物全壊 95万1千〜237万1千 死者 5万〜27万5千

(3) 四国地方が大きく被災するケース

 建物全壊 94万  〜236万4千 死者 3万2千〜22万6千

(4) 九州地方が大きく被災するケース

 建物全壊 96万5千〜238万6千 死者 3万2千〜22万9千

住宅全壊の差

 

 上記の被害規模は、堤防と水門が正常に機能したケースとなっています。東北地方太平洋沖地震では、○「津波」に対する意識が高い地域で、比較的避難活動が早期に行われ ○冬場の昼間に発災する という条件でしたが、堤防決壊、水門の不動作が相次ぐことになりました。

 東北地方太平洋沖地震での建物全壊は12万9千棟、死者・行方不明者は1万8千500名余りでしたが、南海トラフ巨大地震の被害想定では、建物全壊数を見ると、最も小さくなる条件の組み合わせでも7倍、最大では10倍近い被害規模とされています。この差は、震度7の市が1市にとどまった東北地方太平洋沖地震に比べ、南海トラフ巨大地震では震度7の市町村が153と強震動地域の広がりの差によります。

 住宅耐震化が最優先課題

 下のグラフは、平成20年度の建物耐震化率79%を90%、95%、100%と地震対策の進展が、人命、建物共に被害を五分の一までに軽減するとしています。

 東北地方太平洋沖地震では、最大時避難者が47万人にのぼりましたが、建物全壊棟数が200万となれば、避難者は400万人を超え、物理的にも対応出来ない水準になることは明らかです。住宅の耐震化が何ものにもかえて最優先で推進される必要があります。住宅だけでなく、土木建築も重要で、国土交通省東北整備局が2011年3月11日発災後に取り組んだ内陸部から太平洋沿岸への救援ルート確保の「クシの歯作戦」では完了していた橋梁の耐震化が大きく貢献しました。

 

耐震化が被害軽減
釜石の奇跡を全国に

  直ちによびかけあって避難

 南海トラフ巨大地震対策検討ワーキンググループは、避難の取り組みの違いが人命の被害減少に大きな力になることも明らかにしています。

 「釜石の奇跡」を生み出した小中学校における防災の取り組みが、児童生徒のいのちを救ったばかりか地域、家族のいのちを救ったことを、超巨大津波の襲来を想定する南海トラフ巨大地震の沿岸部での防災の取り組みに生かさなければなりません。発災後、直ちに呼び掛け合い避難することです。

 下のグラフでは、昼夜に拘わらず地震発災後、直ちに呼び掛け合って避難することが人命被害を大きく減らすことを示しています。

  訓練による周知と対策徹底

 南海トラフのマグニチュード9.0超巨大地震では、東北地方太平洋沖地震を上回る激しい揺れの後に、超巨大津波が来ることを想定していますが、安全な避難場所と避難ルートを設定し、地域住民のすべてが訓練によってそれを周知する事が重要です。

 高い津波が想定されながら平地の広がる地域では、津波避難ビルの指定・確保が有効です。学校などの公共施設整備にあたり、津波避難施設を改善し、一定時間孤立しても人命維持が可能となる設備を備えることなどが有効となります。

 死者数を減らす対策を100%実施する効果は…

地震動・陸側、津波1ケース、冬、深夜、風8m、避難率低

建物被害     82,000人 → 15,000人 耐震化

津波       230,000人 → 46,000人 早期、ビル

急傾斜地崩壊     600人 →    0 人 対策工事

火災       10,000人 →   300人 初期消火など

ブロック塀      30人 →   0 人

 合計      322,630人 → 61,300人

 
    4エリア被害軽減
 
1000棟の仙台市学校耐震化100%被害効果

  有効だった耐震化

 東北地方太平洋沖地震の本震の震度6強以上の揺れは、5分間以上続きました。最も強震動の揺れを受けた宮城県は、学校耐震化率が高く2,439棟の公立小中学校の耐震化済みは、2,280棟に達していました。

 仙台市に限ってみると、震災後仮設校舎での授業が必要になった小学校は6校、中学校4校の合計10校。自校以外での授業再開となった小学校3校でした。この中には、2010年度に耐震補強工事を終えた学校が、震災後に倒壊の恐れありと判定されたケースを含み、耐震工事が終了していなければ学校での人命に関わる被害があったと考えられます。

 補強工事が被害を小さくした事例といえます。

 仙台市の震災被害額集計は、以下のようになります。(2012年1月末) ○ 市有施設              3,270億円

     水道・ガス・下水道  1,680億円

     地下鉄・道路・橋梁  1,270億円

     学校・市営住宅・庁舎   300億円

 ○ その他公共施設           1,452億円

     文教施設        875億円

     公共土木        267億円

     交通          259億円

   保健・医療・その他      51億円

仙台市の学校棟数は、1,000棟あり耐震化は100%を達成していました。事前の対策が人命を救い、復旧費用も少なくすることを証明したといえます。事前対策費に比べ未対策での復旧費用は、5倍〜10倍と言われ、学校教育と日常生活に与える影響も比較になりません。

 

 
地域支える防災対策

  地域防災拠点に足る震災対策

 学校耐震化は、学校建物の崩壊による児童・生徒のいのちを守る「構造の耐震補強」を緊急課題として進められてきました。今回の震災の事例では、耐震化の取り組みの有効性が証明されました。

 しかし、一部の学校施設が体育館の天井が落下するなど、避難所として使えない事例もありました。阪神・淡路大震災直後から学校耐震化に取り組んだ自治体では、大規模改修工事と耐震化工事がセットとして行われなければならなかったために、外壁・内装・照明器具・建具の更新などが行われました。

 建物耐震改修促進の法令施行とともに公共建築物の耐震化が促され、耐診断の実施とその結果公表が義務づけられた以降に慌ただしく学校耐震化に取り組んだ自治体の多くは、構造補強工事だけが行われました。

 文部科学省は、次の課題として外壁・内装・照明器具・建具などの落下による負傷事故を防ぎ、発災後も学校教育と地域の防災拠点としての機能が果たせるための改修を求めています。

 太陽光発電と充電による避難所指定体育館、多目的ホール、職員室等の管理諸室とポンプ用災害時電源確保、緊急遮断弁付きタンクによる飲料水・消火用水の供給、雨水貯留によるトイレ二次用水確保など地域の防災拠点としての機能を高める整備は、実際の災害の経験から優先されるべき震災対策となります。 

神戸市立本荘小学校太陽光発電

神戸の震災復興の中で改築された市立本荘小学校は防災機能の柱に太陽光発電を12年前に実現しています

建て替えられた芦屋市立宮川小学校災害時飲料水、消防用水看板
 
 
第11回調査までの歩み
 南海トラフ地震 地震動と津波規模
第11回耐震調査都道府県結果

吹田市の耐震化の遅れの原因は

10年で急速整備された日本の地震観測システム

 

東日本大震災

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