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〈東北5日間激走ツーリング〉

「1日目」  今回のツーリングは会社のBMW乗りの小野君と2人で行く事になった。彼の実家が山形県新庄市の近くにあるので、1日目と4日目の宿は彼の兄夫婦の家にお世話になることにした。小野君は一足先に帰省しているので1日目は1人で山形まで行く。天気は夏だというのにどんより曇っている。まあ、暑いよりはマシだが。とりあえずR4で北上するが、ちょうど帰省なのか行楽なのか道は混んでいる。バイクの特権の"すり抜け"を使って車をガンガン抜いていく。しかし、このままR4で行っても郊外を走る真っ直ぐな道で、何も面白くない。そこで宇都宮から今市を通って、会津西街道(R121)を走る事にした。しかし、今市に向かう道も日光行きの観光客の車で大渋滞。ここは道も狭くすり抜けも出来ずにイライラする。ようやく渋滞を抜けると今度は雨が降ってきてしまった。カッパを着て走り始めたが、雨はすぐに止み青空が見えてきた。雨上がりの路面でタイヤが滑るのもお構いなしで走っていくと雨もすぐ止んだ。 米沢を過ぎてR13に入ると道は単調になり、殺風景なコンクリートだらけの風景になってしまった。気を紛らわすように飛ばしに飛ばしたので小野君との待ち合わせの場所についたのは意外と早かった。あー、しんどかった。 (1日目の走行距離:440km)

「2日目」  今日の宿泊地は十和田湖なので直行すれば200km程度であるが、それでは面白くない。距離を稼ぐ為にわざわざ日本海周りで行く事にする。天気予報は曇りのち雨であったが薄日も差してきて何とか持ちそうだ。最初の目的地は鳥海山。天気がよければ峠の頂上から日本海が一望できるのだが、この時期は霧がかかりやすいせいか何も見えない。駐車場に入ったところで、トラブル(その1)発生!急に止まった僕の後ろで小野君は止まりきれずにバランスを崩して立ちゴケした上に、ステップを折ってしまった。しかし、さすが(?)BMW。2人乗り用のステップがそのまま使えるので、駐車場の片隅で交換することにした。数分で修理は完了、2人ともホッとする。鳥海山を下りて海岸が見え隠れする単調な国道を走る。今年は冷夏の影響で海水浴客がとても少ないように見える。昼食に入った食堂から見える海岸は人も少なく寂しい風景だった。 食事を済ませて再び走り出す。男鹿半島にさしかかり「そろそろ、給油だな」と思ったその時、トラブル(その2)発生!なんと、僕のバイクの後ろのタイヤから大きな振動が...。パンクか、と思ったが様子がおかしい。すぐにスタンドに入ってそこで確認すると、何とホイールを固定しているネジ4本全部ゆるんでいる。一歩間違えばホイールが外れて大事故になるところだった。あ〜、危なかった。

八郎潟の隣にある寒風山の頂上に着いた時は午後2時に近かった。天気がよくないのでほとんど何も見えない。2人の表情の曇りがちなのは天気のせいだけではなかった。あと5時間で日本海沿いに鯵ヶ沢まで行って岩木山の麓を通って弘前市街を抜けて十和田湖まで行けるだろうか?距離は200kmはありそうだ。 少々焦り気味の2人は信号で止まっても会話もなく黙々と走った。長い直線では車を5、6台一気に抜いていく。そのお陰で、十和田湖へ向かう渓谷沿いの道に入った時は6時半位だった。国道なのに街灯もない森の中の真っ暗な道を、右に左にバイクを倒して進んでいく。ヘッドライトが時折、渓流を照らす。その時、道がよく見えないのにとても気持ちよく走っている自分に気がついた。暗くて道が見えない分、無理をしないようにしているせいだろうか。(実際に走る方向は川を遡っているのに)まるで渓流の流れに身を任せているような不思議な感覚だった。(2日目の走行距離:500km)

「3日目」 昨晩から降り始めた雨は出発する頃には止んではいたが、雲行きは怪しい。今日の目的地は本州最北端がある下北半島。青森の天気予報は曇り時々雨で大雨注意報が出ている。覚悟を決めて出発。とても奇麗な風景の奥入瀬渓谷が終わりに近づいた時、雨が降り始めてしまった。カッパを着て走り始める。でも何故か雨の中を走る事が辛くない、それどころか結構楽しんでいる。初めて走る所だからというだけではない。雨対策が完璧であったせいもある。 鼻歌まじりで、北へひた走る。下北半島に入ると、左に海岸線が見えてきた。「不法入国を見逃すな」という調子の立て看板がやたら目に付く。確かに、人家はほとんどなく林が多いので密入国がしやすい場所なのだろう。「物騒な場所だな」なんて思って橋の上にさしかかった時、いきなりバイクが横に大きく流されそうになる。林の中を走っている時はほとんど気がつかなかったが物凄く強い風が吹いていたのだ。天気予報で強風注意報が出ていた事を思い出した。風が1年を通じて強い場所なのだろう、風速を表示する電光掲示板が道沿いに立っている。僕は意地でも行きたかったのだが、小野君が訴えるように「行くのは止めようよ」と言う。昼に近かったのでドライブインに入った。風は停めたバイクを倒してしまいそうなくらい強い。ほっとしている小野君を横目に、本州最北端に行けなかった僕は悔しくてしょうがなかった。そこで食べたイクラ丼が美味しかったのがせめてもの救いだった(ちなみにイクラの下には鮭がしいてあったが、これって親子丼??)。

 最北端に行けなかったのがとても悔しかったが、代わりに八甲田山に行く事にした。約90年前にロシアとの戦闘を想定した日本陸軍が真冬に演習を行い部隊の大半が全滅してしまった悲劇を生んだあの八甲田山である。八甲田山につくと青空が広がり、爽やかな夏の高原の雰囲気だった。軍隊が遭難するくらいだからとても大きな山を想像していたら、八甲田山は高原の中の少し高い山といった感じの小さい山だった。3時だったので休憩をかねて、道沿いの売店に入った。そこで食べた焼き饅頭がとても美味しかった。饅頭を食べながらボーッと景色を見ていると、ふと自分がマン島(※)にいるような感じがした。再び走り始めた時、気分はすっかりマン島を疾走するレーサーになりきっていたのは言うまでもない。 1日中目一杯走ったので、宿泊地の八幡平の民宿に着いた時は7時半になっていた。「着くのが遅いから心配したよ」という宿のおばさんの声に恐縮しながら早速夕食にする。その時に出た「行者にんにく」というネギが特に美味しかった。ネギなのにニンニクと同じ成分で、修行者が山で修行している時に食べていたという。温泉に入った後部屋でのんびりしようとしたら「スイカがあるから」と言われ(!)ご馳走になる。泊っているのが自分達だけとはいえとてもうれしかった。すぐ近くにある岩手山が噴火するという報道が、4月頃から全国版で流れてしまったので山登りに行く人の宿泊が今年は激減してしまっているという。それと暖冬の影響でスキー客も減っているとの事。近くの安比高原スキー場ではリフトの運行を止めて閉鎖しているコースもあるという。このまま温暖化が進むと本州でスキーが出来なくなってしまうのではないかと心配になった。(3日目の走行距離:400km)

(※)マン島はイギリスの小さな島。毎年6月に公道を使ってレースが行われる。ちなみにマンクスと呼ばれる尻尾の縮れた猫はマン島が原産地。

「4日目」 今日の最大の目的地は小岩井農場である。霧に霞んでせっかくの景色が全然見えない八幡平を抜けて、小岩井農場に着いたのは昼少し前。平日(月曜日)とはいえ、夏休みのせいか子供連れの観光客で混んでいる。山の中の高原に広がる農場を想像していたのに、観光地化されていてガッカリした。小野君は入場料を払ってまで入る事に抵抗があるようであまり楽しくなさそう。でも僕は「アイスクリームだ。食べようぜ。」と列に並んでアイスを買って食べ、「羊、見に行こうぜ。」とおおはしゃぎ。間近でみた羊は草を食べているばかりで観光客を全く無視している。中には前足を曲げて座り込んだまま草を食べているのもいる。でも「シープドッグショー」にでる羊は多少営業が出来るらしく、客に愛想をふりまいていた。僕は試しに1頭の羊の耳の後ろをゴリゴリかいてやった。そこは犬や猫が喜ぶ場所なのだ。すると、羊もそこは気持ちいいらしくて頭をすりよせてくる。その様子を見ていた人が「あら、気持ちよさそうにしてる」と笑っていた。う〜ん、羊相手になにやってんだろう。 食事をここでしていきたかったが何処も満員。外で食べる事にする。しかし、走っても走ってもなにもなくて(コンビニすら無いのだ!!)、やっと見つけたドライブインで食事をしたのは3時ごろだった。でも何にも考えずに注文したラーメン(山菜がたくさん入っていた)がやたら美味しかったのがうれしかった。今回のツーリングは僕にとっては珍しく「走る」だけでなく、「食べる」ことにおいて充実しているようだ。
食事の後はひたすら小野君の実家を目指して走り始める。途中通った栗駒山は曇っていて景色も何にも見えずにガッカリ。でもその後、見た夕焼けがとても奇麗だった。僕のツーリングの楽しみの一つは夕焼けを見ることなので、天気の悪い今回のツーリングで見た景色の中で一番印象に残るものとなった。(4日目の走行距離:400km)

「5日目」 天気が悪くても、結構楽しかった今回のツーリングも後は自宅に戻るだけになった。さすがに「明日から仕事かぁ」と考えると、帰り道はあまり楽しめなかった。おまけに途中から雨が降り出して、それも大雨だったりしたので不快指数とともに、不機嫌指数も上昇したのであった。その鬱憤を晴らすように、雨の止んだ鹿沼から東北道で制限速度を××キロオーバーで突っ走ったのであった。(5日目の走行距離:460km) この5日間で約2200km走った。今回走った道は4年前の夏に走った道とほとんど同じだった。だから、峠を走っていても次のコーナを覚えているくらいだった。違っていたのは、今回は天気が悪かったこと。そのせいで本州最北端に行けなかったのはとても残念だった。でも、今となってはいい思い出になっている。また行きたいなぁ。

(最近思うこと) 先日、警察庁がチャイルドシートを義務づけを法制化しようとしていることをTVで見た。同時に脇見運転の原因となるカーナビ、携帯電話の使用に関する罰則も検討しているという。それを聞いた時、以前にシートベルトの義務付けることが決まった時のことを思い出した。「法律で決まっているから」、「反則金を取られるから」シートベルトをするのだろうか? あるオーディオメーカが車の中でインターネットができる装置を開発しているという。車を運転するということがどんどんゲームと同じに感覚になっていくような気がしてしょうがない。行き先くらい自分の意志で走りたいと僕は思う。「次の信号を左折です」なんて機械にいちいち指図されたくない。地図を見ながら自分の意志で道を選んで目的地を目指す。旅ってそういうものだと思う。



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